108号室の新婚夫婦が繰り広げる不眠不休の乱痴気二毛作の続きについては後日改めてとしよう。
前もって期限と示唆されていた翌日夕方になると、他人からは呆れられるほどに互いを求めあったマックとマレーネは身体に塗れた体液が乾くほどに長時間裸で横たわっていた。
いかにスティグマを得て加護の真髄が引き出せるようになったとはいえ、初夜の激しさによる消耗のほうが回復のペースを上回ったのだろう。
特にマックはヘトヘトになっており、マレーネのおっぱい枕に身体を埋めていた。
そんなアモルテル城の新入りのお定まりな姿をしていた二人を呼ぶ声が室内に響いた。
伝心術法による純藍隊員として初めての招集である。
「108号室、マクシミリアン、マレーネ夫妻は、約一時間後1755に、正装にて玄関で待機するように。なお遅れるようならば、そのまま連れて行くので心しておくように」
呼び出し命令を聞いてマックは弱々しく起き上がると、彼よりも体力が充分にあるマレーネに引かれて二人はシャワーを浴びる。
体力が続くようならこのまま風呂場でもう一回なのだがマックが干からびているのもありマレーネはそれを断念。
それにこれから夫婦揃って人前に出るに当たって、夫にだらしがない格好をさせられないと、姐さん女房としての気配りを見せた。
「こういうのを馬子にも衣装と言うのかな。そりゃあマレーネは衣装なんて無い方が素敵なくらいだが」
「夫がそんなに自分を卑下すると、妻としてアタシが恥ずかしくなるよ。まるでダメな夫と添い遂げたダメな嫁だって言われているようだし」
「そんなつもりじゃねえよ。邪推するなって」
純愛に所属する夫婦用の隊服に身を包んだマックは愛妻からのコーディネートもあり凛々しい姿である。
マレーネはそんなキッチリとした格好のマックに改めて見惚れるのだが、謙遜する彼の態度にはチョットだけ嫌味を返す。
そんな二人のやり取りは傍目にはデレデレとしている若夫婦であり、純藍の新入隊員の姿としては恒例のパターンであろう。
そのまま初々しく準備を整えた彼らが部屋の外に出たのは規定時刻の5分前。
横を見ればもう一組の若夫婦の姿がそこにあった。
「ラードじゃないか。お前もここに来たってことは……あの子がお前の嫁さんか?」
ラードの姿を見ててマックは義務隊での感覚に声をかけるのだが、ラードはおろか隣りにいるマリアも彼を無視して顔を合わせない。
初対面のマリアはまだしも、義務隊でのラードはどんな相手でも他人を無視#第2回つくってプライズマックは彼の様変わりに驚いた。
マレーネが小声で伝えた通りならば「これからワグナリア卿への挨拶になるはずなので、緊張して雑談をする余裕が無いのだろう」との事だが、マックはそれだけでは説明がつかない変化を感じている。
結局、小首を傾げているうちに時間になって迎えの先輩方が来たので、マックの疑問の真相は解らずじまいとなった。
「69号、ロマニです。新入隊員4人をお連れしました」
20歳前後であろう先輩夫婦の引率で向かった先はマレーネが言う通り城の玉座で、最奥には責任者としてアモルテル城を任されているワグナリア卿がずっしりとした態度で椅子に腰掛けている。
彼は黒に近い色で艶のあるウェーブが掛かった長い髪をした男性で、若々しいがマレーネが知る限りかなりの高齢だという。
そんなお偉いさんの口から改めて説明されたのは純藍とはどのような部隊かという話。
概ねマレーネから聞かされた話のままだったこともありマックは眠気に耐えながら今後の仕事をおさらい。
説明を終えたワグナリア卿はマックたち4人を目で追うのは質問がないか確認するため。
全員が一様に頷くのを了承の合図と受け取ったのワグナリア卿は明日の任務をめいめいに伝えた。
「さて……ラード、マリア、マクシミリアン、マレーネ。お主らはまだシヴァの加護を授かったばかりで、加護の力を上手く制御できなかろう。そこで明日はお主らの今の実力を計る意味合いも含めて模擬戦を行う。開始時刻は1200。場所は地下一階のスザク演舞場。立ち合い人はロマニとファラに頼みたいが、お主らの都合はつくか?」
「問題ありません」
「当然同じく。模擬戦の前に加護の扱いについて手解きをする役目も仰せつかりましょう」
「では107号、108号の両夫婦はそれまで各々好きに時間を使うといい。ロマニら先達にコツを学ぶもよし、義務隊で学んだ基礎を振り返って研鑽するもよし、身体を休めて明日に備えるもよし──無論、初夜の続きに勤しんで、夫婦仲を深めるもよし。それではこの場はお開き。早々に玉座から去ね」
ワグナリア卿からの伝達が終わり、卿の命令で部屋に出た一同はさっそく明日の準備に取り掛かることにした。
新婚夫婦4人の中では最年少のマックが一番コミュニケーションに長けているのだろう。
物怖じせずにロマニに話しかけた。
「早速ですが手解きをお願いします」
「勿論だとも。特にキミは可愛いマレーネ夫だからね。彼女の為に厳しく教えてあげよう」
「知り合いなのか? そういえばマレーネは純藍の元隊員の子供だって言っていたし、知り合いでも不思議じゃないか」
「そういうことだ。ハンスの旦那には俺たち夫婦も世話になったし恩返しさ」
「では早速スザク演舞場に向かいましょうか。だけどその前に、彼らを仲間外れにしてはいけませんよ貴方」
ロマニの嫁、ファラが言う彼らとはラードたちのこと。
ちらりと目線を向けても無視するラードをファラは軽く小突く。
「聞いていなかったようなので突いてごめんなさいね、ラードくん」
「いえ別に。考え事をしていて気づかなかった僕が悪いので遠慮なさらず」
理由は定かではないがファラの行動を見て元々釣り目のマリアの目尻は更に上がっていた。
だがそれを制するように手で壁を作って彼女の前に立ったラードはファラの誘いを断る。
「では改めて。これから彼女たちを連れてシヴァの加護についてレクチャーをするのだけれど、貴方たちも来るわよね?」
「僕らは結構です。自分らで全部用意しますので、先輩方はマクシミリアンたちに注力してあげてください。それに僕らが居るとマレーネさんとの再開に花を咲かせるのにも邪魔でしょうし」
「随分余裕があるじゃない。自身があるようだけど、遠慮せずに断らないほうが得策だとお姉さんは思うんだけどなあ」
「その結果は明日お見せしますよ。僕らには秘策ありということで」
「わたしもラードの意見に従いますので。先輩方こそご遠慮なさらず」
この日、ラードの横で吊り上がった目を崩さずにいたマリアが初めて発した声にマックは驚いた。
あれが高貴な貴族が纏う雰囲気なのだろうと。
義務隊での同期にいた貴族出身者でもああいう気品は感じなかったので、それを同年代の少女が身につけていたことは彼にとって初めて見るものだった。
「あそこまで意固地に断るのなら仕方がない。代わりに二人にはみっちりと手解きをしてあげよう」
まだマックとマレーネはシヴァの加護をまともに扱えていない。
わかっているのはえっちなことをすればするほど力が蓄積することと、蓄積した力の使い道の一つに体力回復があるということ。
特にマックは格闘や武器術には自身があるのだが、術法の類はからきしである。
シヴァの加護の力でそれを補えるかもしれないと思うと、新しく身に着けた力を試す楽しみに彼の胸が期待で膨らむのは自明であった。