アレハンドロが部屋を出て二人きりになる新婚夫婦。
新郎はさっそく新婦に手を出すつもりのようだが、先に手が出たのはこの結婚に納得がいっていない新婦の方だった。
部屋の中にマリアの平手がラードの頬を叩く音が響く。
義務隊で鍛えられた彼女の一撃は並の男ならば悶絶するほど痛いのだが、ラードは頬を赤く腫れさせても意に返した様子はない。
(こ、コイツ──)
マリアの暴力は直感に従った防衛行動であり、これには先に仄めかされていた叔父の話など考慮にない。
この時点でラードは彼女にこれから手を出すとは一言も口に出していないわけだが、先読みした彼女はそれを阻止すべく手を出していた。
だがラードは平手打ちを受けても微動だにしない。
まるでこれから彼女にもっと痛みを与えるので、このくらいは許してやろうという威圧感を漂わせる。
「気が済んだのなら続きはベッドの上で行いましょう」
「ベッド? やはりわたしを無理矢理手籠めにする気だったようね。濡れ絵巻のように」
「貞淑が美徳とされる名家の子女が濡れ絵巻に詳しいとは。それとも名家だからこそ、濡れ絵巻もアホほど買い揃える余裕がお有りなのかな?」
濡れ絵巻とはいわゆるエロ漫画のこと。
この世界では卑猥な描写のある書物全般を含めてそう呼ばれており、1冊あたりの値段は幼子の小遣いでも変える範囲の値段が大半である。
本当にマリアが濡れ絵巻に精通しているかは想像に任せるにしても、兵役があるぶん15歳までは最低限の収入が保証されているイーフーフ王国では新刊を逃さず全て買い揃えようとでもしない限り、好みの濡れ絵巻を揃える為にはラードが煽ったように名家である必要はない。
「無礼な!」
「一回は妻からの叱責として甘んじて受け入れるけれど、二回目は見過ごせないな」
ラードの煽りに対してマリアは追撃を試みたのだが、今度は腕を掴んで容易に防がれてしまった。
これでも体術にも自身のあったマリアは自分の平手を見きったラードの腕っぷしに畏怖を覚える。
彼は何者なのか。
本当に庶民なのか。
お世辞抜きに下手な男の兵士よりも腕が立つマリアだからこそ困惑するのも無理はない。
「これでお互い様だ」
そのままラードは彼女の腕を掴んでいる方とは逆の手で頬を叩いた。
音は大きいが痛みは一瞬だけ。
しかもその一瞬の刺激も痛いといっても蚊に刺された程度で屁でもない。
だがしばらくして腕を離されて間合いを取ったマリアは叫んでしまう。
「きゃあ! ふ、服が⁉」
「自分で脱げないお子様のようなので、僕が脱がせてあげましたよ」
一瞬で裸に剥かれたのに気づけば無理もない。
平手打ちに合わせて発動されたラードの術式は彼女の衣服を脱がしていた。
脱がすと言ってもバラバラに解いて弾け飛ばしているのだから驚きも大きい。
まるで濡れ絵巻でこれから強姦されるヒロインのような状況にマリアはついかがんで身体を隠した。
下から見上げるラードの股間は膨らんでいる。
彼女もそれが自分の身体に対して向けられた彼の劣情の証拠であると一目で見抜く。
この状況で真っ先に確認するあたりラードの煽りは正しいのかもしれない。
「何がお互い様よ」
「おっと……これは失敬」
マリアの言葉の意味を歪曲して捉えたラードは自分も服を脱ぐ。
乱雑に積まれた兵士服の隣に立つラードの肉体は筋張っており彼の童顔に反してガッチリとしていた。
だが注目は彼の股間であろう。
そそり勃って天を向くそれは、生身の男のモノを見るのが初めてのマリアも本能的に呟くほどである。
「お、大きい──」
「この日のために鍛えていますから」
「し、知りませんわよ、そんなこと」
「そう意地を張らずに。これは今日からキミだけのモノなのですよマリア。キミが僕だけのモノであるのと同じく、僕もまたキミだけのモノ。それがシヴァの加護によって結ばれた純藍の夫婦なのですから」
(だから勝手に夫婦になったと決めつけないでよ。だけどなんだろう。彼のモノを見ていると妙に胸がドキドキしてしまう。こんな庶民に辱められるのなんて嫌なのに)
(フフフ……既に彼女の経絡は僕の手の内だ。視線が僕のペニスに釘付けになっているし効いてきたようだね)
初めて見る男の素顔が契機となってラードのことを拒絶していたマリアの思考が次第に色欲に引っ張られ始める。
これもラードが平手打ちの際に仕掛けた術法の効果であり、頬を叩いた彼の左手には彼女の身体を簡略化した紋様が浮かんでいる。
その中でも頭に当たる位置が赤く染まっており、これは頭の中が卑猥な考えに支配されてきたことを示していた。
元々アモルデル城の各部屋には夫婦が夜の営みするのを促すための術法が仕掛けられているのはマックの視点で説明した通り。
ラードの術法はそれに干渉して効力を強制的に誘導することで相手の色欲を暴走させるものだった。
「先程から僕のコレが気になっているようですね。欲しいのならばおねだりしてください。言ってくれないと僕もわかりませんので」
彼女に向けられた肉槍の穂先からは透明な汁が溢れて竿の裏筋を伝っていた。
漂う匂いは雄のフェロモンがムンムンと漂っていてさながらムスク。
マリアの理性はもちろんこれを拒絶するわけだが、術法に堕ちた彼女の本能はそれに抗えない。
「ふざけるな」と言おうとして開いた口はそれを求める。
「ふざっ……ださい」
「ださい?」
「だから……それをください」
「フフフ。それとはどれのことでしょう」
(わたしそんなつもりは……だけどもう頭が霞がかって考えが上手くまとまらない。嫌なのにアレに目が釘付けになって仕方がない。欲しいわけがないのに……欲しいと言ってしまいそう)
「まさかコレですか?」
「ひょうれしゅ!」
コレと言ってラードが見せつけたのは彼のイチモツ。
マリアはそうだと言って飛びつくと、彼の亀頭を一息にくわえこんでいた。