ほぼ下ネタしかしてこなかったこの作品ですが、ここらでちょっと異世界ファンタジーしようと思います。最後には魔王にも立ち向かうので、主人公の成長だって少しは無いと困るんです。まぁ、本当に今更ではありますが……
ということで、またお暇な時にでもお付き合いください。
最強の力が何かと問われた時、人は何を思い浮かべるだろうか。最高の火力で敵を殲滅する破壊力、他の追随を許さない機動力、それとも決して倒れない防御力……なんて話をしている奴らは、きっとこの光景を見たことがないのだろう。最強の力というのは、それら全てを網羅する汎用性である。
「3番の首が再生開始しました!全快まで目算で20秒!」
「無事な首の処理を優先するわ!そっちは再生を遅らせて!」
「了解です!『ファイアーボール』!」
アルダープの悪事を暴くため、先生と共闘の約束をした翌日。俺達2人はヒュドラとの戦闘に身を置いていた。普通に考えれば無謀としか言えないこの戦いだが、先生の「取り敢えずヒュドラ殺っとく?多分色々と入り用になるでしょ?」との発言でこんなことになってしまった。しまったのだが……
ブンッ!
「し、尻尾の横薙ぎが?!」
「『リフレクション』」
サッ、パァン!
「あ、ありがとうございます……」
普段なら死を覚悟する今の一撃を、先生の防壁魔法はいとも容易く弾き返す。そもそも風魔法で一瞬にして俺の所にくる技術だって、そこら辺にいる冒険者達には恐らくない。そして、何よりあの高速再生する首を次々落とす火力など、殆どの紅魔族でも持ち合わせては居ないだろう。
「首残り1つ!再生速度もかなり落ちてます!」
「このまま押し切るわよ!再生しそうな首は焼いて!常に断面に火があれば、息が吸えなくてブレスもないわ!」
あの集団で挑んでも話にならなかったヒュドラが、今やたった2人に追い詰められている。本当にこの人は何者なのか、ちょっぴり凄い魔法使いというが、これの何処らへんがちょっぴりなのだろう。
「焼け爛れた首は直ぐには再生できないし、私達の防壁魔法に酸は通じない……悪いけどこれで終わりよ。ここから私達が負けるなんて確率、万が一にもありえないわ!!」
「ちょっと先生!それ多分フラグです!そんなこと言うと大抵はピンチが……ってほらぁ!!」
ブンッ!
残った首を大きく振り上げ、あの巨大なヒュドラが跳躍した。あらゆる攻撃を最適解で防ぐのが先生の強みだが、恐らくコレは捨て身の特攻。流石にこれを想定しているとは思えないが……
「ふっ、大丈夫よカズマ…」
「さ、さすが先生!こんな想定外の攻撃にも対策があるんですね!」
そうですよね!あんなに凄い先生が、こんな攻撃にやられるなんてことありませんよね!疑ってすみません!後で脚でも乳でも何でも揉みます!
「ちょっと10秒稼いてくれる?そしたらアイツぶち抜くから……」
「いや何も大丈夫じゃねぇ!あと5秒もあれば俺達は潰れますよ!そんな悠長なこと言ってられませんよね?!」
「じゃ、じゃあ……生まれ変わっても一緒にいてあげるから、次の人生でリトライを……」
「諦めないでくれます?!」
不味い!先生は想定外の事態にポンコツになることがあるが、こりゃマジでポンコツになってやがる!あと1秒で考えろ!何でも良いから10秒稼ぐ方法を……
「『ロックラッシュ』形状、槍!!」
ガコンッ!
中級魔法の岩石生成を地面に発動し、俺と先生を岩の防壁で囲う。魔力コントロールで形状を尖らせたし、あの圧倒的重量も分散すれば受けられる筈だ。そして何より、レゴブ◯ックを踏んでそのまま踏み抜くヤツは居ない!だから、これで何とか止まってくれれば!
ブシャッ!ズズズ……
「おい!刺さってんのに何で止まらねぇんだよ?!これどう考えても痛いだろ?!」
「震えてるから相当痛いのだとは思うけど、こいつ蛇だから痛くても踏ん張る場所が無いんじゃ……」
あっそうか、こいつには手足がないから踏ん張れないのか……なんか可哀想なことしたな……
「と言うかこのままじゃ潰される!あと4秒ないとぶち抜けないわよ?!」
「そ、それなら……3連『ロックラッシュ』!」
ドシュ!
「キシャー!!」
「いや痛そうだけど!確かに効いているみたいだけど!これじゃ止まらないって今試したわよね?!」
更に密度を上げた岩の槍を、更にヒュドラの腹に刺す。当然傷が増えるだけで止まることは無いだろうが、本当の狙いはそっちじゃない。
ズシ……
「あれ……止まっ…た?」
「土魔法の発動材料に俺達の足元の土を使いました。この場所だけが周りの地面より下がっているんで、これ以上ヒュドラは落ちません」
「な、成程……迎撃と見せかけて穴を掘っていたのね……それじゃ、後は私の出番かしら!」
俺の機転が上手くいき、落下してきたヒュドラはその動きを止めた。と言っても、俺の活躍らしい活躍はこれくらいだろう。後はもう、全部この人が持っていく。
「それは始まりの炎、それは終わりの炎、現在・過去・未来、万象を超える禁断の力。炎よ、我は破壊者、無慈悲なる者、我が血、我が肉を以て、古き神々の戒律を今破らん。貫け!『エクスプロージョン』!」
カッ!
…………………………
「か、カズマさんがソロ討伐って……一体どんな手を使ったんですか……」
俺にそう問いかけたルナさんの顔は、まるで凶悪犯を見るかのように怯えきっている。先生はアクセルで冒険者登録をしていない為、そして秘密裏に活動する必要がある為、今回の件は俺単独で行った事にして欲しいそうだ。それで俺を疑うなら分かるのだが、なんでそんな怯える必要があるのだろう……
「そこはほら、日頃の努力の成果をですね?」
「そ、そうですか…深くは聞かないでおきますね……これ賞金です…」
そう言って差し出された10億の小切手は、何故か手汗でじんわりと湿っている。そんなに怯えるくらいなら聞いてくれたほうが有り難いのだが、俺はそんなに信用が無いのだろうか……
「酷い事をしたのね……」「きっと目も当てられない非道な手段を使ったんだわ……」「あぁ、普段のあれの成果だもんな……」「ヒュドラが気の毒になってきた……」「でもほら、一応は街を救ったと言えなくも無いわけだし……」「よし!それじゃ皆でタイミングを合わせて……せ〜の」
「「「「「「流石はカズマさん!」」」」」」
「おいやめろ!その気の使い方は余計に凹むわ!!」
畜生!まさか魔王倒してもこんな扱いじゃないだろうな!
………………………
「さて、取り敢えず先生の取り分をこっちで……ダクネスの奪還に必要なのはあと13億か……」
日本っぽい魔道具の販売で多くの収益を得たが、それでもダクネス奪還には届かない。あの馬鹿は責任感から嫁に行く決意を固め、夜這いの翌日から屋敷に籠もりっきりだ。例外なく俺達まで門前払いにされているので、これでは親父さんの呪いさえ解けない。全くこれだから暴走しがちな馬鹿は困る。
「それにしたってカズマは律儀ね。戦果を上げた温情って話なら、ダスティネスに全額返す必要はないんじゃないの?貴方は自分の分はもう返したんでしょ?」
「借金の理由が戦果の犠牲ってだけならそうなんですけど、古城の破壊はうちの頭のおかしい爆裂娘が魔法の練習で攻撃し続けたんです。流石にそれまで押し付けるのは申し訳なくて……」
「そ、そうなんだ……じゃあ、私からも5億エリス出しておくわね……ちょっと責任を感じなくもないし……」
「先生……」
俺の管理不行届にそこまで責任を感じているなんて、俺はなんて良い先生を持ったんだろう。めぐみんの爆裂の件なんて、先生と出会う前の話だというのに……
「ありがとうございます。これは魔王環状線が完成したら返しますから……」
「いいのよそんな……でも返さなくて良いからその謎のワードの意味を教えてくれない?魔王相手になにかする気なの?!」
そう言えば先生には魔王環状線の件を話していなかった。俺が金欠な理由の一端でもあるし、一応これは報告したほうが良いだろう。色んなところに仕事で行くらしいし、知っていたら活用出来るかも知れない。
「魔王城を中心にグルっと迂回用の交易路を作る国の事業です。石畳を敷く魔道具にトンネルを掘る魔道具、更には橋をかける魔道具まで作って参加してるので、今はちょっと金欠なんですよ。ほら、魔王なら常に魔族の強化魔法を垂れ流しているので、探知魔法で距離を測るとキレイに円が書けるじゃないですか?」
「あぁ、それで土魔法がやたらと上手く……手広くやってるとは聞いていたけど、まさかそこまで大事になってるとは思わなかったわ。流石の魔王も、まさか自分が計測器扱いされているとは夢にも思ってないでしょうね……」
それに関しては俺も思って無かったが、魔王を迂回するならその方法が1番都合が良い。そもそも迂回路を作るのも魔王が戦争なんて始めたからだし、これくらいの扱いは仕方ないと思う。
「にしても、カズマが色々と入り用な時にこんな事になるなんて、あの娘は本当に間が悪いわね。私からカズマを寝盗ろうとするし……」
「間が悪いのはいつもです……今回は先生が来てくれたから、いつもと比べたら相当マシですよ。先生が来なきゃ、俺の貞操も危なかったですしね?」
まぁ、罪悪感なく経験を積むって意味では、逆レ展開はチャンスと言えなくも……
「………惜しかったとか思ってないわよね?」
「いえ全く!」
あっ、思ったより先生って鋭い!良かったロリーサに手を出さなくて!
…………………………
「これまた凄い警備だな……戦争でも始める気かよ……」
ダスティネス家を見下ろせる丘の上、俺と先生は次の作戦に向けて動き出していた。そう、アルダープの権力を抑え込む協力者こと、イグニスさんの確保である。
「そ、そうね……取り敢えず厳重な警備が敷かれている事は気になるのだけど……」
「まぁ、これもきっと俺達との関係を絶って自分だけを犠牲にするつもりなんですよ。変態ですけど、仲間想いの奴なんです」(イケボ)
屋敷の周りに集まった騎士の数は、普段の警備とは比べ物にならない。きっとこれも俺達の関係を断ち切り、アルダープの目が自分にだけ向くように仕向けているに違いない。何せダクネスは仲間想いの良い奴なのだ。他の理由なんて有るはずが………
「いやいやいや!数もそうだけど、それより武器!!持ってる武器がポールアックスとかモーニングスターっておかしいからね?!万が一カズマ達が来たとして、アレで殴られたら捕縛とか気絶じゃ済まないわよ?!本当に思い当たる事はないんでしょうね?!」
「しょ、処女をくれるとか言われてちょっと気不味かったので「いくら俺のが聖剣でも、鋼鉄製の膜は無理かな〜(笑)」ってウェットなジョークで場を和ませようとしたことなら……」
「さ、流石にその状況でそれはないわよ……そりゃ殺意も芽生えるわ……」
「……すみません」
先生の呆れる気持ちも分からなくもないが、俺だってあんな状況でどうして良いかなんて分からない。それでも先生のために操を守ったわけだから、そこはちょっと大目に見て欲しい。
「それで、どうやってあの中に潜り込むつもり?探知魔法の反応もあるし、警備の隙間も殆どないわよ?」
「そういう時は、あえて正面から行きます。『パラライズ』」(小声)
「なっ?!」
ガシャン!
細く鋭くした麻痺の魔法で、甲冑の首元を狙い撃つ。屋敷の警備は確かに厳重だが、それは全ての兵士が正しく運用出来ている状況に限定される。特に正門は見晴らしが良いため、見張りなんてたったの2人だ。これなら無効化したほうが手っ取り早い。
「おい!まさか魔力切れか?!対サトウカズマアーマーは消費魔力が多いんだから、キツくなったら交代しろと言われただろう?!」
「俺対策にマジックアーマーかよ……魔法による小細工を完全に封じに来てるじゃねぇか……」
仲間の元へ駆け寄る衛兵の言葉に、俺は軽く背筋が凍った。確かに「ぶっ殺してやる!」ってのが口癖ではあったが、まさかここまで周到に俺を殺そうとしたことはない。時折乙女っぽい言動もあった気がするし、やはり乙女心を深く傷付けてしまったのだろうか……
「はぁ……本当にカズマは罪な男ね……『スリープ』」
「なっ?!侵入しゃ……」
ガシャン!
視界の狭くなったもう一人の見張りに、今度は先生がスリープをかける。駆け寄ったのに音がしなかったのは、恐らく足元に『サイレンス』でもかけていたのだろう。ここまで自然に色々出来るのは、やはり高い汎用性によるものか……
「罪って言われても、セクハラで死刑にされたらたまったもんじゃないですよ。でも、これで先生も同罪ですから、一緒に説得お願いします」
「そういう罪じゃないのだけど……まぁ良いか、どっちにしろ話をする必要はありそうだし……」
………………………
「さて、何となく予想はしていたけど、これどうしようかしらね?」
何とか裏口から屋敷に入った俺達は、目の前に広がる光景に頭を悩ませていた。と言っても見た目には普通の廊下であり、はたから見れば何を悩んでいるかすら分からないだろう。その問題とは、目に魔力を込めると浮かび上がってくる、これらの魔力の壁である。
「これは千里眼と敵感知ですかね……敵意はないから敵感知は大丈夫だとしても、千里眼で見られたら色々と不味いですよ。屋敷に騎士とメイドしか居ない以上、この格好は流石に目立ちます」
「そうよねぇ……」
千里眼はシルエットしか分からないが、俺達の格好はどう見てもこの屋敷には馴染めない。こんなシルエットが廊下を歩いていたら、即座に通報されて捕まってしまう。しかし、そんなのステルスゲームではお決まりの事、一応準備はしてきている。
「少しサイズが合わないかも知れませんが、ここはやはり変装でいきましょう。ここでバイトをした時に着た燕尾服とメイド服があります。千里眼で見えるのはシルエットだけなので、個人の特定は出来ないはずです」
「あら、意外と準備が良いじゃない。と言うか、それがあるなら早く出しなさいよ。正面切って入れたかも知れないじゃない?」
ウキウキ気分の所申し訳ないのだが、俺がこれを最初から出さなかったのには理由がある。まぁ、駄目ならきっと着替えてる時に気付くだろうし、俺は先に着替えてしまおう。先に断っておくが覗きはしない。それは近日中にベッドで楽しむつもりだからな!
…………
「……胸が入らない」
「流石は先生……あのゆったりメイド服でさえそれですか……」
懸念通りと言うべきか、それとも期待通りと言うべきか……先生の豊かな実りは普通のメイド服などに納まるはずが無く、胸元のボタンが1つ止まらなかった。ちなみにパツパツに伸ばしてこれなので、この人のはマジで規格外だと思う。なお、地味に腰のファスナーもギチギチと音を立てている気がしなくもないが、俺は紳士なのでそれは言わない。
「というかそれ、普通は全部着る前に気付きません?」
「き、基本的に胸は押し込むものだから……ギリギリいけないかなって……」
その圧倒的なボリュームを封じ込めた事で、ボタンの間は肌色の渓谷が覗くひし形の大穴になっている。こんなち◯こ挿れる以外に用途のない穴の開いたメイド服なんて無いと2つの意味で突っ込みたいところだが、流石に今は自重しよう。
「でも、これならシルエットはごまかせないかしら?千里眼だけ欺けるなら、後は何とでもなるじゃない?」
「ちょっと不安要素はありますけど、先生が良いならそれで行きましょう。これだけ広い屋敷なんですから、きっと見たことないメイドさんも居るはずです」
まぁ、俺ならひと目見たら忘れないけどな。こんなAV超えの美人エロメイドなんて、世の中に二人居たら奇跡だろう。にしても、やはり先生の胸は素晴らしいな……
「……えっち」
「そ、それはだって……好きな人の可愛い姿で……」
ガチャッ
「あっ、お前たち何をサボっている!」
「しまっ!これは万事休すか?!」
着替えた直後に現れた衛兵に、俺達は反応が遅れてしまった。何せ相手はマジックアーマーを着た兵士。狙いすませないと決定打には……
チラッ
「なんだ、ララティーナお嬢様ではないですか。なぜメイド服をお召しに?」
「えっと……お父さんを元気付けようと思って?」
なんて俺の警戒をあざ笑うかのように、突如として眼の前で始まった酷い茶番。一瞬視線を下げたと衛兵は、何故かそのまま笑顔でこちらに寄ってきたのである。コイツはいったい何処を見て、そして何を持ってダクネスと判断したのか……
「さ、流石はお嬢様です!私がお水をお持ちする予定でしたが、お嬢様が行ったほうがお喜びになります。どうか左手奥の部屋にお持ちください。私は見回りに戻りますので!」
「あっ、うん。ありがとう……」
良いものを見たと言う顔で去っていく衛兵の顔は、何処か一仕事したような達成感さえ感じる。侵入者を主と間違えた挙げ句、恐らくは重要な機密さえ漏らした事になるのだが、あいつはあれで大丈夫なのだろうか……
「取り敢えず目的地はわかったので、早い所イグニスさんの所へ向かいましょう。他の警備があんなアホだけとは思えませんし、一応目立たないように……先生?」
「ま、まさか私にも諜報員の才能が?!付いてきなさいカズマ!私の華麗な変装スキルを見せてあげるわ!」
あっ、駄目だ同じレベルのアホがここにもいる!多分すぐにバレるだろうし、魔法の詠唱は済ませておこう!
…………
「あらお嬢様!」「お疲れ様ですお嬢様」「旦那様はこちらですララティーナお嬢様」「愛らしい格好ですねララティーナお嬢様」「カズマ様と仲直りされたのですね!」
「………いやおかしいだろ!あいつら全員胸しか見てないのかよ?!」
胸しか共通点のない先生の変装は、何故か何処へ行こうともバレなかった。後ろから「何者だ!」と衛兵が詰め寄ってきたとしても、先生が振り返れば「し、失礼しました!ララティーナお嬢様!」と言うことで見逃してもらえる。以前俺が「お前にはおっぱいしか求めてない」なんて酷いことを言ったが、どうやら実家でもそれに近い扱いらしい。今度からもう少し優しくしよう……
「ふふふ、私の変装スキルはまさに敵なしね。自分の才能がちょっと怖いわ……」
「それは多分幻惑スキルだと思いますが、ことが楽に片付くなら何も言いません……」
にして、まさかこれでイグニスさんまで誤魔化せたりしないだろうな?それはとても楽で良いのだが、そろそろダクネスが可哀相になってきたぞ………
ガチャッ
「「「あっ」」」
なんてフラグを立ててしまったからなのか、眼の前のドアから御本人が現れた。いや流石にこれは絶対に無理だ。本人を前に本人を語るなんて、それこそコントでしか見たことが……
「ら、ララティーナです!」
「はっ?!」
マジか?!いくら何でも本人にそれは無茶ですって!そんな先手必勝みたいな顔しても駄目ですって!こんなのマジギレされて終わりに決まって……
「うぐ……ひぐ……」
「えっ?どうしたダクネス?!」
俺の予想を裏切るように、何故か膝から崩れ落ちたダクネス。その両目からは大粒の涙が溢れ、怒りなどは一切感じない。一体何がどうなってこんな事に?俺への怒りはいったい何処へ?
「どうして私の為にここまで……下手をすれば次こそ処刑されるかも知れないんだぞ……だから、あんなに警備を増やしてお前たちを遠退けようとしたと言うのに……」
「あぁ、そういう解釈なのか……だとしても、武器のチョイスはもっと何とかならなかったのかよ……」
どうやら先生の下手な演技が、ダクネスには自分の身代わりになろうとしているように写ったらしい。都合の良い解釈だから訂正はしないが、ダクネスは自分のアイデンティティを何処に見出しているんだろうか。
「強そうな武器なら、カズマは逃げると思ったんだ……それに、今回ばかりは私達貴族の問題だ。二人の気持ちは受け取るが、これ以上の深入りはしないでくれ……」
「あっうん……それじゃそうしようかしら……」
そして、この空気でそのノリでいられる先生も相当な大物だと思う。いくら察しが悪くても、流石にそんな余裕顔で返事しちゃ駄目でしょ……
「お前の意思は分かったよ。でも、危険を犯してここまで来たんだ。親父さんの見舞いくらいさせてくれ」
「ふっ……どこから聞き付けてきたんだお前は……分かった。それくらいは認めよう。でも、それが終わったらもう来るんじゃないぞ……」
…………………
「これはまた見事にバレバレの呪いね……もはやバレないほうが難しいレベルだけど、アルダープって相当な馬鹿なのかしら……」
お茶を淹れに行ったダクネスの隙をつき、早速先生はイグニスさんの診断を始めた。その姿はまるで老衰間近の老人のようで、以前の威風堂々とした姿は想像も出来ない。ちなみに隠れて調べるのは、ダクネスの暴走防止である。
「まさかここまで弱るなんて……これは解呪できますか?」
「ん〜、今日はヒュドラにエクった後だから、流石にちょっと魔力が足りないわ……今すぐにはちょっと無理かも……」
そう言えば、先生はエクスプロージョンしても倒れることはない。無理して若者っぽく「エクった」とか言ってるのはダサ可愛いので当面放って置くつもりだが、魔力量については一度測定させて貰おう。そして有り余っているのなら、俺の魔道具に注いで欲しい。それならこういう時にも安心だ。
「それなら、やっぱり魔法陣とか結界で対応します?魔力が足りなきゃ、ダクネスからドレインタッチしてきますよ?」
「ん〜。今回は枕の下に魔法陣を隠しておくわ。それでも半日くらいで呪いは解けるし、あの子の事はそっとしておいてあげましょう。下手に刺激して暴走されたら、彼女自ら花嫁奪還計画を潰しかねないもの」
確かにあの馬鹿が暴走したら、雇われの衛兵を連れて戦争でも起こしかねない。それでは悪魔を取り逃す危険もあるし、何よりも契約書によりダクネスが危ない。
「そうか……コレも全てアイツが……すまないねカズマくん……こんな権力争いに巻き込んでしまって……」
「イグニスさん!大丈夫ですか?話せますか?!」
そんな俺達の声を聞き、イグニスさんが薄っすらとその目を開けた。その声は余りにも弱々しく、まるで老衰間近の老体のようだ。
「なんとかね……どうやら、君たちにも相当な苦労をかけてしまったようだ……本当に、なんて謝ったらいいのか……」
「良いんですよこれくらい。でも、アルダープの悪事を暴くにはイグニスさんの力が必要になります。だから、俺達に力を貸して欲しくて……」
「あぁ勿論だ。明日は這いずってでも協力させてもらうよ。君たちの暗躍も私の指示ということにしてくれて構わない。だから、どうか娘を救ってやってくれ。あの子は自分を犠牲にしてでも、この街を守ろうと躍起になっている……」
俺達の作戦にはこの人が重要な為、取り敢えず無事を確認できたことは大きい。不正の証拠は先生が集め、俺が結婚式で時間を稼ぎ、そして最後にイグニスさんが証拠を持ってやってくる。悪魔と権力をどちらも抑え込んでしまえば、いくらアルダープでも言い逃れは出来ないはずだ。
「分かってますよ。俺にとってもアイツは、大切な仲間の1人ですから……」
「あぁ…ありがとうカズマくん……」
おや?ひょっとしてこの状況、実はとても勇者っぽいのでは無かろうか?ちょっと頭のおかしいお姫様ではあるが、一国の危機をヒロインと救うなんてまさに王道的展開だ。強敵のヒュドラも倒したわけだし、これでお姫様を救ったとなれば、待っているのは人々の羨望。そして、メインヒロインとの幸せな結婚なのでは?!いやイケる!先生は何だかんだ雰囲気に飲まれやすいし、大衆の前で本気のプロポーズしたら、きっと流れで持っていける!!
「イグニスさん……出来ればその挙式をぶち壊した後、そのまま式場を……ってイグニスさん?!」
「ふ、ふははへほふっへ……」(つ、妻が手を振って……)
「魔法陣はこの辺かしら……」
ふにふに
死にかけてる!先生のおっぱいに潰されて死にかけてる!魔法陣を枕の下に隠したかったんだろうけど、貴方の胸は肘くらいまであるんだからちょっとその配置は危険ですって!!
「あの、せんせ……」
「お父様……カズマ達と話して、少しは元気が……なっ!」
やはりダクネスは間が悪い。よりによって胸で顔面プレスしているタイミングで戻るとは、まるで狙ったかのようなタイミングだ。そして、こうなったら大抵はなにを言っても無駄になる。取り敢えずテレポートを準備しよう。
「ち、違うの!これはダスティネス卿が辛そうで、枕の位置を調整しようとしただけで……」
「そ、そうだぞララティーナ!私は決していかがわしいサービスを受けていたわけではないんだ!」
その言い訳が聞いてもらえるかは疑問だが、取り敢えず魔法陣は効いてそうだ。そんなにハキハキと喋れるようになったなら、取り敢えず呪いは大丈夫そうだな。
「それはそれは、随分と元気になったようですねお父様?美女の胸を枕にするとは、随分と珍しい治療方法のようですが……」
あっ、本当だ。布団に元気になった証の丘が……
「ち、違うんだララティーナ!これは生存本能の招いた結果で、私は妻を今でも心から愛していてだな……」
「そんなにしておいてですか?」
「………殺してくれカズマ君」キリッ
「無理です」
あっこれもう完全にいつもの流れだ。格好いい勇者には絶対に訪れないパターンだこれ。
「まさか危篤の父親に変態プレイを差し入れに来るとは……やっぱりぶっ殺してやる!!」
「先生、手を!『テレポート』!」
「こら逃げるなぁ!!」
こうして、珍しく勇者っぽい俺の1日は幕を閉じた。残念ながら、明日はまたクズ野郎のカズマに戻ることになるだろう。だが、今はそれでも構わない。去り際に見た仲間の涙を拭えるのなら、俺はクズにでもなってやろう。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
ダクネス助けたら遂に結ばれる予定です。下準備にちょっとかけすぎな気もしますが、魔法使いとして色々出来ることが新しいネタを生む材料ですので、気長にお付き合い下さい。
セックスしたら、サービスカット増やしますので……
また不定期ではありますが、お暇な時にでもお付き合い下さい。