遂にお互いの存在を知ってしまった二人の女神。世界観的にはアクアが正義ですが、内情が分かるとウォルバクのが正義っぽいこの戦い。なんて、そんな真面目に決着が着く訳が無いのがこの作品。今回も相変わらず酷い感じです。
またお暇な時にでもお付き合いください。
あの時の私は、自分の存在する理由を探していた。
「む、村にドラゴンが!」
「良いから早く逃げろ!逃げ遅れた奴はもう諦めるんだ!」
「お母さんは?!お母さんはどこに居るの?!」
龍の吐く大火は里を焼き、その爪は家屋を軽々と破壊する。なんて言えば仰々しいけれど、私にはネズミを捕る猫と大差ない。だから、きっとあれは気紛れによる行動だった。私が狩られるネズミに手を貸すなんて、それ以外にはありえない。
「下がりなさい人間。私の行く道を煙で遮ろうなんて、随分と不躾なトカゲじゃない。この場の支配者がいったいどちらか、この場で躾をしてあげるわ!」
…………
「どうぞウォルバク様!畑で取れた野菜です!」
「狩りをした獲物です!」
「なんか悪いわね。里を救ったのは随分と前なのに……」
「いえいえ!怠惰と暴虐を司ろうとも、我らにはまさに守り神。これくらいはさせてください」
龍を倒した事をきっかけに、私はこの村の守り神になった。邪神に堕ちる程に悪には染まれず、だからって世界を導くほどのやる気が無かった私には、あの小さな村が丁度良かったのかも知れない。気が付けばその村が、私の居場所になっていた。
…………
「わ、私を弟子にしてください!今はまだ小さいですけど、いつか上級悪魔になります!」
「ふ〜ん。取り敢えず私の部屋へ来なさい。中級魔法くらいまでなら使えるようにしてあげる」
「あ、ありがとうございます!」
神に信者が集まるように、人がいれば悪魔も集まる。この時代の人々は冒険者カードを持たず魔法が使えなかったから、私は悪魔を弟子にして育てた。外の脅威からこの村を守らせるなら、魔法が使える悪魔が好都合だった。なんて日々を過ごしていたら、小さな村は街になっていた。
……………
「また近くの村がやられたらしい……」
「人が人を支配する為に争うだなんて、恐ろしい時代になったもんだな……」
人が集まれば組織となり、いつかは争いが産まれるものだ。それは人類が何度も辿った歴史であり、私としても予想はしていた。そして、それがいつかは他人事では無くなることも、私は何となく勘付いていた。
……………
「まさか、神に仕えるプリーストが侵攻してくるとは想定外だったわ。これじゃ悪魔の護衛が意味を成さないのも無理はないわね……」
「我らはアクア様に導かれし者。悪しき悪魔に遅れは取りません。邪神と悪魔に支配されたこの土地は、我らが浄化して差し上げましょう。安心して討たれてください」
多勢に無勢とはこの事で、街を襲ったアクシズ教徒は1000にも及ぶ大軍勢だった。そして、その時の私は人に情を感じていて、敵とは言え命を奪うことを躊躇った。ただ、この躊躇いこそが最初の間違いだった。
「なら取引をしない?この悪魔は私の配下で、そしてこの街は私の支配下にあるわ。つまり、私を捉えればこの街は貴方達の敵ではなくなる。無駄な血は流さないほうが良いでしょう?」
「ふむ、確かにそれなら人々に罪はない。良いでしょう。貴女の身柄と引き換えに、村人の命は保証しましょう。捕らえなさい」
「「「はいっ!」」」
この街の人々を守る為、私は自らを差し出した。相手がプリーストであるならば、きっと人々の安全は保証されると信じていた。だが、この取引がそもそもの間違いだったと気付いた時には、もう全てが遅かった。
……………………………
「そして私はアクシズ教の捕虜となり、酷い辱めを受けた挙げ句に、ろくな抵抗も出来ず封印されたわ。アクシズ教は私の敵。決して許す訳にはいかないのよ」
カズマに中立で居てもらう為、そして歴史の真実を知ってもらう為、私は自らが封印に至る経緯を話した。あまり重い話をするタイプでは無いのだけれど、今回ばかりは仕方がない。
「くっ!まさかそんな経緯があったなんて……」
「流石にこれは、師匠を悪と断じるのは無理ですよ……」
「良しアクア自害しろ」
「なんでよぉ?!」
大抵の騎士や貴族は自己都合で聞かなかったことにするけれど、やはりカズマのパーティーは話が分かる。こんな事実を知ってしまえば、私を悪とは出来ないようだ。だからって仲間に自害しろは、流石に冷た過ぎる気もするけれど……
「ちょっと待ってよ!私の知る限り、辱めって武器を持ってないか確認するのに下着にしたって話よね?!あと、ろくな抵抗もって言うけど、その1000人規模の軍隊を消し飛ばしたのアンタよね?!」
「下着にしただけじゃないわ!ドスケベなプリーストに「これは恐ろしい武器ですな?」とか言いながら胸を揉まれたもの!そうやって自らの罪を矮小化するなんて、これだからアクシズ教徒は害悪なのよ!身体検査なのに列が出来ていたし、あれは正当防衛だったわ!」
あれで抵抗していなかったら、私は間違いなく穢されていたもの!これはもう間違いなく正当防衛よ!
「いやおかしいから!胸を触って殺されるなんて、いくらなんでもやり過ぎで……[ぽにゅっ]…ああぁーー!!」
ズダン!
「ゴフッ!」
「ちょっとカズマ?!」
突然何をトチ狂ったのか、熱弁するアクアの胸をカズマが掴む。そして、アクアは間髪入れずにカズマを殴り飛ばすと、私を無視してカズマの元へ向かった。
「な、何してくれてんのよカズマ!分かってるんでしょうね?!清き女神の身体を弄んだ罪、その生命をもって償わせて……」
「なら、これでハッキリしたな。そいつ等は生命で罪を償っただけだ。少なくとも、俺はアクシズ教徒に同情は出来ない。先生は勿論、アクアやめぐみん、ダクネスが同じように穢されたりしたら、俺はきっとそいつ等を殺してでも止めに入るぞ?」
「「「カズマ……」」」
「いや待って?その気持ちは凄く嬉しいけど、私今凄い雑に穢されたんですけど?これは本気で許したくないんですけど?!」
「おいアクア煩いぞ。今大事な話をしてるだろ?」
「私は大切なものが軽いんですけど?!」
流石と褒めて良いのか微妙だけど、カズマの言い分はアクアを黙らせるには十分だ。カズマがパンツ取ったりしているクズでなければ、きっとアクアも言い返せなくなっていただろう。そこで実際に胸を触る所が駄目なんだけど、なんでかカズマはそういう所だけは学習しない。
「そりゃ、カズマの言いたいことは分かるけど……でも、やっぱり巻き添えで死んだ人は……」
「そこは大丈夫だ。先生のおっぱいに抗える男なんて居る筈がないからな。アクシズ教徒なら、漏れ無く全員揉みに来ていたはずだ。つまり巻き込み数は0!全員漏れ無く当事者だ!」
「いや何言ってるの?!流石にそれは何言ってるの?!いくら大きいからって、それだけでうちの子が群がるなんてある筈が……」
「いやある!一緒にアルカンレティアの街を歩いていると、男女問わす先生に寄ってきては、この胸ばかり見ていやがったからな!全く、誰のもんだと思ってるんだか!」
「えっと、別にカズマの物ではないのだけど……」
と言うか、大量殺戮の話を聞いてもこれなんだ。流石に引かれるかと思ったけど、カズマって知らない人の命にはとことん興味がないのね。
「待てカズマ!確かにウォルバク殿の言い分は理解出来るが、だとしてもそれほどの力を持つ存在が魔王軍に居ては、冒険者として対処しない訳にはいかないぞ!」
「そうですよカズマ!その話が本当なら、師匠はふらっと王都を訪れて皆殺しに出来る程の存在です!魔王軍に在籍を続けるなら、流石に放置は不味いです!」
「そ、そうよそうよ!そんな危ない奴!やっぱりそのままにしちゃ駄目だと思うわ!」
「どういうことなの……私、そんなに凶暴に見えるのかしら……」
そんな血生臭い戦いは好みじゃないし、そもそも殺戮は私の望むところではない。なんて私が言った所で、きっとこの子達は納得しないだろう。冒険者として譲れない所がある以上、それはカズマに委ねる他ない。
「ほ〜ん?つまりアレか、お前達は世に広めたい訳か?ダスティネス家は悪魔に良いようにされた挙げ句、魔王軍幹部に救われて勲章を授与した人を見る目のない貴族だって……」
「そ、それはえっと……」
「紅魔の若き精鋭が魔王軍幹部を倒してると思っていたら、実は魔王軍幹部の弟子だったと……」
「い、いやそれはその……」
「アクシズ教徒が性犯罪に走り、その結果大虐殺を起こせる女神を人類の敵に回したと……」
「えっと、それはちょっと困るっていうか……」
「そうだよな。やっちまったことの責任は取らなきゃならないからな。それじゃ、この事は唯一疑われる余地のない俺が、直接アイリスに伝えて……」
「「「やっぱり知らなかった事にしませんか?!」」」
あっ、やっぱりこの子達もカズマのパーティーだったわ。全員が普通に自分本位だもの。
…………………
「さて、そうなるとこれが一番の懸念なんですが……先生は魔王軍を辞めてください」
「まぁ、そうよね。普通はそういう結論に至るわよね」
お互いに武器は収めたけれど、それでも1番の懸念は残る。カズマを中立に立たせたとして、私がまだ魔王軍であることだ。私が捕まって情報が漏れたりしたら、結局どちらも破滅することになる。そうなると、辞めてしまうのが1番なのだけど……
「ごめんなさいカズマ。今はまだ魔王軍を辞める訳にはいかないの。少なくとも、今はまだね……」
「そう……ですよね。これだけの部下に慕われて、しかもあのテロリスト共はのうのうと生きているんです。直ぐには難しいですよね……」
「えっ、ちょっと待って?まだうちの子達はテロリスト扱いなの?流石に今の子は関係ないでしょ?!あと、なんで私は縛られているの?!」
「お前はうるさい。静かにしないと早めに着火するぞ?」
「これ火炙りの準備なの?!」
やはり出来る女の私としては、こんな無責任に部下を見捨てるなんて有り得ない。せめてこの作戦を遂行し、ついでに貰うものを貰ってからじゃないと、立ち去るわけにはいかない。
「良いんですよウォルバク様?貴女はもう十分過ぎる程に頑張ってくれました。後は我々に任せて、ご自身の幸せを優先してください」
「そうですよ!我々は貴女が育ててくれた精鋭部隊!貴女が不在でも、十分に戦える力を有しています!」
「女神アクアも火炙りにできますし、貴女が残る理由は無い筈です。人を殺める事に抵抗があるのですから、もう楽になってくれてよろしいかと……」
「皆……」
ど、どうしよう!なんか凄く良い感じに送り出そうとしてくれてる!と言うかそんなに教育熱心だったかしら?魔法だけなら教えたけど、私前衛部隊に何かしたかしら?!
「で、でもほら!流石にまだ指揮系統とかあるから、そこら辺の引き継ぎとか色々と………」
「あっ、それは大丈夫です!ウォルバク様は普段から結構居ないので、我々の方で勝手に構築しておきました!」
「あっ、そうなんだ。ごめんね不在が多くて……」
「ぷぷっ!何この人いらない子じゃない!カリスマみたいに言われてたけど、実質居なくても変わらな……[シュボッ]あっつい!ちょっと本当に着火したんですけど?!この女絶対にヤバイわ!と言うか助けてカズマさん!」
あっ、どうしようこれ残れない。来週ボーナスの支給なのに、こんな空気じゃ残れないわよ!
「…………お世話になりました」
「「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」」
いやなにこれ納得いかない!
………………………
「ねぇ、流石に送り出す会をその場でやるのは違わない?ここって一応前線よね?」
「その宴会のメインディッシュみたいになってる私に愚痴らないでくれる?と言うか、そろそろ降ろして……「『ティンダー』」…熱いってばー!」
アクアを程々に火炙りにしながら、私は出されたお酒をチビチビと飲んでいた。これだけ盛大に送り出してくれるって事は、きっと嫌われては居なかったのだろう。そういう意味では救われた気がするけど、やっぱり止めて欲しかったな……
「それで、先生はこれからどうします?もし良かったら、俺の所へ来ませんか?」
「カズマの所へ………お嫁に?」
「い、今のところパーティーで……そっちはその、いずれ……」
「ふふふ、分かった期待しとくわ。パーティーでも大切にしてね?」
「はい!」
「「むぅ……」」
こっちを不機嫌そうに見る2人の反応は、やっぱりカズマの事が好きだからでしょう。まぁ、だからってカズマは譲らないけど。もう身体まで許した関係だし!
「と言うことだから、お前らも異論は無いよな?」
「そうですね。二人の関係については色々と聞きたいところですが、味方になればこれ程心強い相手も居ません。カズマが良いと言うなら、私はそれに従います。まぁ、おっぱい枠を奪われるダクネスとしては、猛反対かも知れませんが?」
「ば、馬鹿なことを言うな!私は別にそんな枠じゃない!それに、恩人が辛い境遇にあると言うのなら、手を差し伸べない訳にはいかないだろう……」
「ありがとう二人共。後悔させないように頑張るわ」
きっと本音は複雑でしょうに、本当に良く出来た子たちね。ちょっと変り者ではあるけど、カズマは仲間に恵まれてるわ。
「ちょっと、私は断固反対よ!こんなヤバい女を近くに置いたら、間違いなく事件が起こるもの!疫病神は追い出すべきよ!」
まぁ、1人何とも言えないのが混ざっている訳だけど……
「さて、そろそろ夜も更けてまいりましたし、酔いも回った事でしょう。ではウォルバク様、最期の挨拶をお願いします」
「あぁ、そう言えば随分と暗くなって来てるものね。それじゃ、最後くらいは……」
ガクッ
あれ?なんか足に力が………と言うか魔力も練られない気が……
「あら?どうやら効いてきたようですね?お酒に仕込んだ麻痺毒が!」
「あ、貴女達まさか!」
「お、俺達の門出にそんな素敵プレイを?!」
「いやそんな訳ないからカズマは黙ってて!」
やられた!まさかここに来て罠が用意されているなんて、流石に私も想定外だわ!私が軍を去るこの状況で、一体何が目的だと言うの……
「すみませんウォルバク様。実はもうこの前線は限界なのです。チート持ちの連中が来る日も来る日も突っ込んで来て、かと思えば貴女はサトウカズマとデート三昧……えぇ、私だって限界ですよ……」
「えっ、先生それは流石に……」
「ごめん……それに関しては本当にごめん!」
それは私が10割悪かったです!
「ごめんで済めば……ごめんで済めばインキュバスサービスは要らないんですよ!!」
「本当にごめ……インキュバス?」
えっ、なにそれ知らない。うちにインキュバスなんて居なかった気がするし……
「貴女がいつも男の匂い付けて帰ってくるから!こっちはもう限界なんですよ!なのに周りは男ばかりで、威厳保つ為に男を買う気持ちが解りますか?!オークの本能に抗ってカリスマを演じるのが、どれだけ苦痛か分かるかこの野郎!!」
「ごめん!それは本当に分からない!私別に性欲強くないから分からない!」
「えっ、あんなに積極的なのに?」
「そ、それはだって……性欲って言うか、好きだからもっと触れ合いたいだけで……それに、求められたらやっぱり嬉しいから…」
「先生……」
トゥンク〜
あ、どうしよう顔が熱い!麻痺毒とは別で熱い!今はそれどころじゃないのに、変なこと言うんじゃなかった!
「クソが!こんな時までイチャイチャしやがって!なんなら今ここで爆裂してやろうか?!リア充をマジで爆ぜさせてやろうか!!」
「落ち着いてくださいボス!」「ここで撃てば全滅ですよ!」「気持ちは分かるけど落ち着いてください!」「前線部隊を消し飛ばすんでしょう?!」
見覚えのある光景が繰り広げられる中、不意に聞こえたのは不穏な作戦。どうやら私達を殺さないのは、前線部隊と一緒に消し飛ばす為らしい。確かに麻痺毒で動けない状態なら、治癒する為に人が集まる。それをまとめて吹き飛ばそうなんて、中々エグいことを考えるものね。
「そろそろ前線部隊が引き返してくるわ。そいつ等を追って王国軍がここまで来れば、皆まとめて消し飛ぶの。悪いわねサトウカズマ、私は自分より美人を活かしておくつもりは無いのよ!」
「くそっ!やっぱり狙いは人類の滅亡か!話がわかると思ってたのに!」
「おい待て!それでは私が全人類より不細工みたいではないか!そんなこと無いだろう?!私結構レベル高いだろう?!」
人にはオークの基準は分からないし、カズマはオークにトラウマがある。その前提が分かっていれば、カズマの反応は至極当然でしょう。でも、流石に今は空気を読んで欲しかった。これでいきなり殺されるとか、つまらないにも程がある。
「なに言ってるのよカズマ!ここはおだてて油断を誘うの!あんなの褒められたことも無いだろうし、適当に褒めたら気分良くなるから!」
「それを大声で言うのはもはや挑発だろ?!火炙りから本格的な調理に切り替えてやろうか?!」
「えっと……私じゃ貴女より美味しいチャーシューにはなれないと思うの!だから、そこは貴女に譲りたいなって!」
「やっぱり喧嘩売ってるだろお前?!」
あっ、やっぱりこれ駄目かも知れない。この女神本当に役に立たない!
「おっと、どうやら前線部隊が戻ってきたようだ。危うくその場で殺してしまう所だったが、これで目的通り殲滅が出来る。さぁ、止められるものなら止めてみるが良い!まともに動けないお前達に、出来ることがあるのならな!」
「待ちなさ……くっ!もう立つことさえ叶わないなんて!」
私達の横を抜けていく前線部隊は、機動力を重視した編成の部隊。と言うことは、最初から私を裏切るつもりだったって事でしょう。全く見事にしてやられたわね。知将のつもりで居たけれど、最後はこんなオチだなんて……
「ごめんねカズマ……本当は戦いから自由にしてあげたかったのだけど、私のせいでこんな事になって……」
「あの……」
「先生が悪いんじゃ無いですよ。俺も麻痺毒に媚薬成分側があったからって飲んでしまった責任がありますから……」
「えっ、分かってたのに飲んだの?!流石にそれは無謀もいいところじゃない?!」
「ちょっと?」
「それ先生にも言えますからね?前に飲まれて禁酒するって言ってたじゃないですか!」
それはそうだけど!なによその新情報!なんなら聞きたくなかったのだけど?!
「ねぇ嫌なんですけど?!私こんな最期嫌なんですけど!せめて縄を解いてくれたら解毒できるのに!」
「そんなこと言われても動けねぇんだよ!まさか魔力にも効く毒なんて、鑑定眼のレベルを上げるべきだったか……」
「遅効性だが強い薬だ……私でも動けないとなると、カズマでは流石に……」
「イジメですか?!さっきから私を無視するのはイジメなのですか?!」
あれ?なんかめぐみんったら凄く元気ね。これは一体……
「めぐみん!お前何で動けるんだ?!」
「ダクネスとカズマがお酒を飲ませてくれなかったからですよ!仕方なくカズマの水筒を貰ってましたが、今回はそれに助けられたようで……」
「おい待て!あの中身はエリクサーだぞ?!敵に感づかれて奪われたと思っていたら、なんて高級なもんを飲み干してくれたんだお前は?!」
「今はそんな話してる場合?!」
あれ、でもあの量だと数千万エリスするかしら?流石にそれは気になるかも……
「よし!それならアクアの拘束を解いてくれ!エリクサーが少しでも残っていれば、それをダクネスにでも……ってめぐみん?!」
「零したら困るので、これは緊急の処置って事にしてください……んっ」
ちゅっ
「「「んなっ?!」」」
めぐみんは水筒の中身を口へ含むと、そのままカズマの唇を奪った。そして何度かカズマが喉を鳴らした事を確かめると、余韻を残すかのようにゆっくりと唇を離した。その視線がこちらを見ているって事は……
「えっ、めぐみんこれは……」
「すみません。ここから逆転すると考えたら、もう一人逆転しなきゃならない相手が居ると気付きました。この場を乗り切った後、貴女にも勝負を挑みますよ師匠!」
ま、まさかこの状況でそんな事を?!でもめぐみんは本気みたいだし、ここで逃げるのもなんか違うような……
「いや、俺もう先生と一線超えてるし?ちょっとキスしたくらいで宣戦布告とか………めぐみんは可愛いヤツだな!」
「………ふんっ!」
ゴスッ!
「痛ってぇ!何すんだこのロリっ子!」
いや流石に今のはカズマが悪いわよ?!
………………………
「それで、これから一体どうするつもり?派手に動けば即爆裂、動かなきゃ前線の兵士が来てまとめて爆裂、逃げたら前衛の兵士が爆裂。正直、犠牲者0はほぼ不可能よ?」
カズマの調子が戻った事で、私達は再び戦える状況になった。と言っても状況は芳しく無く、私達は何処からか爆裂魔法で狙われている。つまり、逃げるにも戦うにも圧倒的に不利。更には前線部隊が来たら時間切れと、正直負ける理由しか残っていない。
「カズマの千里眼で敵を探して、そこに向かって爆裂魔法ではどうですか?それならこちらから先手が取れますし、早撃ちなら私は負けませんよ?」
「いたるところに兵士が居るんだよ……こんなペースで探してたら、前線部隊が来て一緒にドカンだぞ……」
「ならば仕方ない。私が前に出て囮になろう!そして相手が魔法を撃ったところで、めぐみんがカウンターで!」
「ダクネスがここを離れる前に撃つに決まってるだろ。こっちは女神が2人も居るんだ。逃がしてくれる筈がない」
「ならテレポートで逃げましょう!そうすれば間違いなく私達は無事だし、最悪めぐみんが空に爆裂魔法を撃てば、前線部隊も警戒して来ないと思うの!」
「そうなりゃ二人の話が世に広まって、今度は人から追い回される事になるぞ。テロリストのボスと魔王軍幹部なんて、さぞ高い賞金が付くだろうしな?」
「うぅ……それは困るけどぉ……」
これだけ追い詰められた状況でも、カズマは冷静さを欠くことがない。いえ、多分1人なら逃げ出していただろうけど、仲間が居れば逃げ出さない。私の愛したこの男は、時折こうして格好いい姿を見せて私を惚れ直させる。全く、本当に罪な男よね。
「なら、早く作戦を教えて頂戴。あるんでしょう?この逆境を覆す作戦が?」
「作戦って程のもんじゃ無いですけど……勝つための手段は考えてますよ」
うん、それでこそカズマだわ!
……………………………
「前衛部隊、未だ到達せず!サトウカズマの一団にも目立った動きはありません!」
「そのまま警戒を続けろ!麻痺毒は朝まで抜けない筈だが、それでもサトウカズマは想定外をぶつけてくる!前線部隊も巻き込めれば理想だが、優先目標はサトウカズマと女神の2人だ!怪しいと思ったら直ぐに知らせろ!」
爆裂魔法に弱点があるとしたら、それは効果範囲が広すぎて接近戦で使えないことだろう。それ故に監視は遠巻きになり、スキルなしでは状況が読めない。故に、ちょっとした小細工は気付かれる事はない。
「敵陣に煙幕!どうやら本陣を見つけて警戒している模様です!」
「良いぞ読み通りだ!警戒すれば足は遅くなり、そして怪我人を見つければ部隊は止まる!あとは人が集まった所を爆裂して終わりだ!チート持ちの奴らをまとめて消し飛ばすぞ!」
そして、人はチャンスを見付けた時にこそ視野を狭めてしまうものだ。警戒してここで撃たれていたら、きっと私達は負けていただろう。しかし、作戦が上手く行ったと思っているからこそ、私達はそこへ付け入る事が出来る。
「『エクスプロージョン』!!」
カッ!ドォーン!
「ば、爆裂魔法だと?!馬鹿な!薬が抜けるにはまだ早いぞ?!」
「分散した兵に被害甚大!信じられません!直径5キロが消し飛びました!急いで反撃せねば、爆裂魔法使いは二人いますよ!」
「ちっ!煙幕の中に何人居るか解らないが、この場は女神と英雄の首で満足してやる!それは始まりの炎、それは終わりの……」
空に広がる敵軍の魔法陣に、本来ならこちらは絶望するのだろう。爆裂魔法は詠唱が長く、先に展開されたら勝ち目はない。先程の私の爆裂魔法を外したことで、間違いなく私達は敗北する。と、きっと魔法学の授業では教えている筈だ。だが、一つ覚えておくと良い。私の弟子は優秀で、教科書に収まる程度の器ではないと………
「見えたぞめぐみん!あの魔法陣の下だ!」
「見ていてください師匠!これが、今の私の到達点です!『エクスプロージョン』!!」
「馬鹿な?!エクスプロージョンを無詠……」
カッ!
夜空に轟く爆音が、戦場の地形を大きく変えた。まさか、相手に爆裂魔法を撃たせようとして場所を割り出すとは、本当にとんでもない作戦を考えたものだ。そして、そのとんでもない作戦を成功させた私の弟子も、本当に大したものだと思う。
「うん、今のは120点!」
「はい!」
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
最後だけ見たらイイ話に見えませんか?内容8割クソですけど!と言うことでウォルバク冒険者編が始まります。そして修羅場も始まります。
また不定期ではありますが、お暇な時にでもお付き合いください。