平和は来ないが日常系を自負するこの作品。数少ない平和な日常回です。
ということでまさかの2回目、ホースト視点のウォルバクの日常です。
またお暇な時にでもお付き合いください。
ウォルバク様が部下に謀反を起こされた時、俺様はウォルバク様の為に反旗を翻した魔王軍を監視していた。もし万が一爆裂魔法にウォルバク様が狙われる事があれば、俺様が術者を迎撃をするつもりだったのだ。しかし………
「『エクスプロージョン』!!」
「いや待て待て待っ……」
ジュッ!
あの頭のおかしいロリっ娘の無詠唱爆裂に巻き込まれ、またも残機を失ってしまった。
「おいホースト、ウォルバク様の信者がまた増えたぞ。ここに入信書を置いておくから、ちゃんと纏めとけよ。これくらいなら妖精族でもできるだろ?」
「誰が妖精族だ!そりゃ最近までのお前だろうが!これでもまだゴブリンよりはデカいわ!!」
そして弱体化により俺様の身長は1mにまで縮み、今はアーネスの補佐をさせられている。いや本当にどうしてこうなったのか。あのロリっ娘強くなり過ぎじゃねぇか?一年そこらでこんなに強くなるとか、爆裂魔法にだけスキルポイント振ってなきゃチートだろ。そんな馬鹿なことする訳ねぇし、ありゃ一体どうなってんだ?
「つうか、お前はなんの準備をしてんだ?小僧との訓練が減って寂しくなったからって、花嫁修行して構って貰うつもりか?」
「そ、そそそんな訳あるか!これは魔法の訓練用だ。信者に魔法を教えるとかで、ウォルバク様と色々準備してんだ!」
そうは言うが、アーネスが手に持ってるのは茶器に食材に調理器具。更にはエプロンまで着けて、何処をどう見ても花嫁修業にしか見えない。呼ばれなくても小僧の事を覗いているし、入れ込んでいるのは事実の筈だ。
「と言うことで、あたしはウォルバク様に仕えて数日不在にする。流石にその姿のお前は連れていけないからな。悪いが留守番は頼んだぞ」
「分かったよ。お前がそれで良いなら好きにしろ」
「ふっ、言われなくとも、好きでやっている!」
そう言って隠れ家を後にするアーネスを見送った俺様は、ペンとノートを持って急いで後を追った。アーネスにだけ活躍の場を奪われたくなかったのもあるのだろうが、有り体に言えばそう……ぶっちゃけ暇だったのだ。
……………………………
「魔法とはイメージを具現化する力。先ずは手でやれる事を魔法でも出来るようになりなさい。イメージと出力が一致すれば、自ずと結果は着いてくるわ!」
このアクセルの外れに建てられた立派な教会は、恐らくカズマが用意したのだろう。そこにはウォルバク様を慕う信者たちが集い、皆が真剣に魔法の鍛錬に明け暮れて……
「いや、これはどっちかと言うと料理教室か……」
魔法の鍛錬ではあるのだろうが、信者は全員エプロン着用。そして、イメージトレーニングでやってることが料理では、ちょっと鍛錬には見えない。まぁ、ウォルバク様が楽しそうなので、俺様は特に文句はない。
「えっと……ウォルバクさん?これって調理工程の何もかもを魔法でやるんですか?」
「当然でしょ?調理器具には魔石を仕込んでいるから操りやすいし、日々の生活ほどイメージしやすいものは無いわ。最終的には全ての日常生活を魔法で、更にはゴーレムに全部やらせられるようになるのよ!」
ただ、魔法の鍛練としてやりたい事は分かるが、ちょっと内容についてはもう少し精査して欲しかった。二日酔いのウォルバク様とかそんな感じだが、あれは完全にゴーレムに介護されてるようにしか見えなかった。あれが日常風景になったら、俺様でもちょっと忠誠が揺らぐ。
「成程ね。混ぜると言う工程は単純作業の繰り返し、そして成形は立体的に魔力を操り、焼成は一定出力の維持を目的としているんだわ。完成形から術者の実力を測る為に、あえてクッキー作りを鍛錬に選んだと言う訳ね……」
「ま、マジかよリーン……やっぱりマジの魔法使いには分かるんだな……」
「ふふんっ!これでもちゃんと魔法学園を卒業してるもの!」
一際真面目に挑んでいるあのリーンと言う女。確か、真っ先に入信書を書いたと聞いているが、その熱量で入信したなら相手を間違えている。怠惰と暴虐の女神相手に、そんな真面目な話を期待すべきではない。
「ふっ!リーンも中々に鋭いですね。しかし!分かったところで魔力の取り扱いにおいて、紅魔族の私が遅れを取る筈がありません!どうですかこの店でも売れそうな最高の出来栄え!さぁ、師匠!先ずは手本となる1枚をご賞味くださ……」
「味が薄いから50点」
サク
「………へっ?」
自信満々にクッキーを差し出した頭のおかしいのが、何を言われたのか分からないって顔をしている。そりゃ普通に考えたらそうだろう。魔法でクッキーを焼くとなったら、そこには深い意味があると思うのが自然だ。ただ残念ながら、この人はそこまで思慮深くない。何なら味見をするとも言ってなかったし、今日の鍛錬は本来なら作らせて終わりだと思う。
「えっと……すみません師匠。今更ですが、なんで鍛錬でクッキーを……」
「それは勿論。後でお茶会をする為よ。お茶菓子買うより安上がりだし、魔法の鍛錬にもなってお得でしょ?やっぱり親交を深めるなら、そういうイベントが必須で………えっ、なにその微妙な反応?!理に適ってると思うでしょ?!」
そりゃお茶会が前提なら理にかなってるだろうが、それをドヤ顔で言い切っちゃうのはどうだろう。信者は魔法の習得の為に来ている訳だし、味が薄いのもウォルバク様の買った砂糖が安物だからだし、これでは真面目な信者が気の毒だ。さっきまでドヤ顔だったリーンって奴は、今は顔を真っ赤にして震えている。
「……成程ね?」
「『ライトニング』!」
「ひぎゃー!」
「ちょっと!人は焼かないでよ?!」
そして、赤くなったリーンをからかったチンピラは、その容赦ない魔法にこんがりと焼かれた。この魔法の発動速度はなかなかのもので、少なくとも俺様には伸び代が見えるが、そんなフォローは今は無駄だ。いつかウォルバク様にフォローしてもらおう。
「やれやれ。お前たちはこれが鍛錬だと忘れているようだな?あえて詳細を語らないのは、それに気付くことも訓練だと言うことだ!さぁ、どうぞウォルバク様!」
そう言ってアーネスの差し出したクッキーは、表面に砂糖を振り掛けてある。違いは本当にそれくらいだが、コイツのこの自信はどこから来るんだ?と言うか採点があるとも言ってないぞ。お前はまずそこに気付けよ。
「クッキーを焼いて魔力のコントロール精度を見る……そこまでは良く気付いたと褒めてやろう。しかし、それにばかり気を取られて味見を忘れるとは、所詮は小娘の浅知恵だな!!」
「くっ!私とした事が基本を見逃すなんて……」
お前も何でマウントを取っているんだ?その基本は料理の基本だろ。ウォルバク様に一番影響を受けているとは言え、流石にこれは甘やかし過ぎだ。その人はそこまで考えてないし、今お前がやるべき事は、ウォルバク様の美食家顔を辞めさせることだぞ。
「これは美味しいわね…90点あげるわ…」
「ウォルバク様に仕えるものとして、当然の結果です」
ウォルバク様も雑に味の話しかしてねぇし、それで喜ぶのは新米の菓子職人くらいだろ。出来栄えも工程も確認してねぇし、これ本当に魔法の鍛錬になってるのか?もはやただのオヤツタイムだろ?
「おいおいアーネス。お前も何か見逃しているんじゃないか?」
「な、なんだカズマその自信は?!あたしが何を見逃しているって?!」
ここにいる全員が根本的な何かを見落としている気がするが、何故か小僧の自信はアーネスさえ上回っている。お前の自信も何処からくるのか分からないが、どうせろくな話じゃないんだろうな。
「分からないなら、先ずは見るが良いさ。これが俺の本気だ!!」
「なっ!ジャムを使ったクッキーだと?!」
だからそこ驚愕するポイントじゃねぇんだよ!なんで謎のオリジナリティ出してんだ!いい加減、料理教室のノリを辞めろ!
「おいおい?俺は別にジャムを持ち込んだ訳じゃないぜ?これはそう、紅茶に入れるために買ってあったものだ!」
「な、なら紅茶に使う分がなくなるじゃないか!それをクッキーに使うのは反則で………はっ?!明らかにジャムの量が多いだと?!」
「ふっ、今更気付いたかアーネス!」
それはウォルバク様が甘党で馬鹿みたいにジャムを入れるからだ。そして、それが普通だと思ってるから購入量がおかしくなってるだけだぞ。なんて、俺様は一体誰に説明してんだろうな……
「ま、まだだ!まだウォルバク様の判定は……んくっ?!」
「この味を前に、言葉は不要じゃないかしら?」
サクッ…ガクン……
「くっ!これが敗北感……そしてウォルバク様のあーん……私は喜べば良いのか、悲しめば良いのか……」
クッキーを一口食べたアーネスが、勢い良く膝から崩れ落ちる。言葉を尽くして説明すべきことは多々ある気がするが、何故かそこにツッコミはない。本当にお前らなんのためにクッキー焼いてんだ?マジで茶会をする為だけなら、今すぐ喫茶店に行け。あと、アーネスは拗らせすぎだから病院にも行け。
「ま、まだだ!クッキーの味では敵わなくても、まだお茶が残っている!カズマはシュワシュワばかり飲んでいるから、きっとお茶を淹れるなんてことは……」
「ふっ!その言葉を待っていたぜ!」
パチンッ……カタカタカタ…
「な、なんだその茶器は?!」
カズマが指を鳴らすと同時に、突然宙に浮く茶器の数々。それらは見るからに魔力を持ち、複雑な命令を読み込んで動いているのが分かる。早い話が、あれらは全て高度に自動化された魔道具と言うことだ。茶器を魔道具にするなんて、正直聞いたこともないが……
「お湯の理想的温度とか、茶葉の適正な量だとか、蒸らし時間に注ぎ方まで、紅茶って言うのは奥が深い。だが!こうして魔道具として動きを覚えさせれば、誰でも最高の紅茶が淹れられるって訳だ!!」
「そ、そんな馬鹿な!そんな複雑で多岐にわたる命令を組むなんて、一体どれだけの魔力を使うつもりだ?!」
馬鹿なって言葉を言うべきところ、他にも沢山あっただろ。お前らちょっと落ち着け。
「あぁ、確かに魔力は多く消費する。1時間の起動に俺の1日分の魔力を使うが、そこはこのマナタイトがあれば解決だ!」
「くっ!まさかそこまで周到に!」
お前は茶会一回で戦えなくなるのかよ。あと、そのマナタイトの金額払えば高級店で茶が飲めるぞ。割れ物だから持ち歩きにも向かねぇし、いつ使うんだよその魔道具。
コポコポコポ
「さぁ先生。最高の紅茶が最高の手順で入りました。是非ご賞味ください!」
すっ
「ありがとうカズマ……」
ボチャ
カズマの紅茶を優雅に受け取り、そして馬鹿みたいにジャムをぶっこむウォルバク様。どんなに優雅さを演出したとしても、紅茶飲む時にそんな音させたら色々とぶち壊しだ。少しは空気を読んでください。
「成程、この程良い苦みと心地のいい香り……茶葉の良さを極限まで引き出した良いお茶だわ。腕を上げたわねカズマ」
「ありがとうございます。俺にはいちごジャムの匂いしかしませんが、気に入ってくれたなら何よりです」
お前の1日分の魔力が砂糖漬けになってるのは良いのかよ。お前もウォルバク様を甘やかし過ぎだろ……
「あらあら、随分と背伸びをしているじゃない?そんな無理しないで、素直にリンゴジュースでも持ってきたほうが良いんじゃないかしら?」
「あ、アクア?!あんたがなんでここに居るのよ?!」
馬鹿騒ぎのせいで気付かれてなかったが、実は最初の方から凶悪女神はそこに居た。どうして気付かれなかったのかと問われれば、ここには真面目な魔法使いと、ウォルバク様の胸目当てのスケベしか存在しないからだろう。
「先輩として正しい教えを説いているか確認に来たのだけど、やっぱりまだまだ二流女神のようね。紅茶なら、私の方が上手く淹れられるわよ。セシリー、茶器を」
「はい、アクア様!もぐもぐ……」
頭のおかしい娘のクッキーを頬張るシスターについては、俺様としてもいつ来たのか分からない。なんとなく床を這っている光景を目にした様な気がするが、流石にそれは気の所為だろう。何せ相手は聖職者だ。クッキーの盗み食いだけでも目を疑う所なのに、女のスカートの下を潜りながら地面を這っていたなんて、そんなことあって良い筈がない。
「さぁ、刮目して見るが良いわ!これが女神の給仕テクニックよ!!」
チョロチョロチョロ
「よっ!流石はアクア様!!」
そして、凶悪女神がドヤ顔で無駄に高い位置からお茶を注いでいる光景も、正直見たくはなかった。こんなのが俺達の天敵とか、流石に馬鹿にし過ぎだろう。と言うか御付きの女もそれで良いのか?もっと女神に求めることあるだろ?
「さぁ、飲んでみなさいウォルバク。私の力を思い知るのね!」
「良いでしょう!受けて立つわ!」
なんか美食家の戦いみたいなこと始めているが、ウォルバク様に紅茶の味が分かる筈がない。そして、本職の奴なら舌に嘘は付けないとかやりそうだが、この人は普通に不味いって言うだろう。こんなの茶番としか思えない。
「こ、これは?!…………水なのだけど?」
「ふっ、どうやら溢れ出る女神パワーのせいで浄化したようね。今回は引き分けにしといてあげるわ!」
いやなんだよこの予想を上回る茶番!あとそれで引き分け宣言出来るメンタル凄いな!どう見ても不戦敗だろ?!
「待ちなさいアクア!こういう勝負はこちらも出さねば不公平よ。ほら、私からの給仕も受け取りなさい!」
パスッ
「か、カズマの茶器が?!これ、アンタも扱えるって言うの?!」
ウォルバク様が指を鳴らせば、再び動き出すカズマの茶器。指が鳴っていたのかは怪しい所だが、そこはカズマの甘やかし仕様だ。多分ウォルバク様のへなちょこ指パッチンも想定して設定しているんだろう。本当に、とことんウォルバク様に甘い奴だな。
「少し手先は不器用だけど、魔法なら私は超一流なの。さぁ、その実力を味わいなさい!」
コポコポ
「さ、差し出したカップを完全に捉えてる……中々やるわね……」
凶悪女神は狼狽えているが、そもそもその茶器は全自動で動く魔道具だ。細かな設定が自動化されているとカズマも言っていたし、ウォルバク様の意志は一切入っていない筈だが、どうしてこんなドヤ顔が出来るのだろうか……
「くっ!この味は本物だわ!」
「あら、それくらいはアクアにも分かるみたいね?」
すげーマウント取ってますけど、ウォルバク様のジャム紅茶がマウント取れる要素は無いです。それと、凄いのは魔道具作った小僧ですから、貴女が得意げになるのも話が違います。
「あっ、アクア様!この茶器は指を鳴らせば近くのカップに勝手に注ぐみたいです!ポットの持ち手にそう書いてあります!ほらっ!」
パチンッ……カタカタ……
「ちっ!勘の良い……」
トリックに気付いたシスターの手で、再び動き出すカズマの魔道具。女神二人の勘の悪さは置いておくとして、流石に一般人にはバレてしまったようだ。しかし、近くにあるカップは凶悪女神が使用中。そうなると、この魔道具は一体どんな動きを……
「って熱っ!!熱い熱い熱いってばぁ!!」
ジョボボボ……
「な、何故アクア様の頭にお茶を?!」
最も近くのカップにお茶を淹れる魔道具は、どうやらカップの状態は気にしないらしい。障害物となる凶悪女神の頭に勢い良く注がれたお茶は、凶悪女神が居なきゃカップに向かっていた事だろう。何時でも何処でも美味しいお茶を淹れる魔道具とは良く言ったものだ。使用者が飲んでる最中でもお茶を淹れるなんて、流石に何時でもの解釈が広すぎる。
「こ、これがアンタと私の差よ!理解の浅いお馬鹿さんに、高度な魔道具が使える筈がないでしょ!!」
「くぅ……まさかこんな罠を仕込むなんてぇ……」
「申し訳ありませんアクア様!私が愛されドジっ娘プリーストだったばかりに!」
表情に安堵が見えるウォルバク様と、割と本気で悔しそうな凶悪女神。多分アイツが事故って無きゃ、お茶を頭から被ったのはウォルバク様だっただろう。この前格好つけて新聞読みながらお茶を飲んで、それで舌を火傷していたし……
「大変今更なのですが、どうしてアクアとセシリーさんはここへ?ここは師匠の教会ですから、アクシズ教の2人に用はないと思いますが……」
「あらあら、めぐみんさん。貴女は大切なことを見落としているわ…………お姉ちゃんでしょ?」
「今それはどうでも良いです」
今それはどうでも良いだろ。
「つれないのね……でも、そんな所も可愛くて……」
「摘み出しますか?」
「違うのめぐみんさん!お姉ちゃんちょっと勧誘に失敗して寂しかったの!新規加入が望めないなら、騙されてる憐れな子羊を引き込もうと思っただけなの!」
結局そのプリーストの口から出てきたのは、確実に摘み出されるアホな理由だった。自分達の教えが信じられないからって、他宗教から引き込もうとはならないだろう。普通はそっちの方が難易度高いぞ。
「残念ですがそれは無駄です。師匠の元に集った我々は、いつか爆裂魔法を極めんとする同士!その鋼より強い結束は、石鹸や洗剤では揺らぎませんよ!!」
「違うから!私は別に爆裂魔法求めてないから!変な風評被害出さないでくれる?!そっちの方が信者が離れそうだから!」
確かにアクシズ教の勧誘より、コイツのイメージダウンの方がヤバそうだ。ウォルバク様が珍しく真面目にやっているとしても、信者があれではイメージが悪い。まぁ、言うほどウォルバク様も真面目には見えないが……
「目を覚ましてめぐみんさん!貴女は間違いなく騙されているわ!確かにその邪神の胸は大きいけれど、それは男をたぶらかす為のもの!信じたからって貴女の胸は大きくはならないわよ!」
「どういうことなの?!別にたぶらかした覚えはないわよ!」
「そんな動機で入信してませんよ?!」
プリーストの狂った発言を前に、明らかに取り乱す主と弟子。相手の悩みを聞くのがプリーストだと思っていたが、デリカシーが無いとただの的確な嫌がらせをする嫌なヤツだ。ある意味じゃ俺様達に近い存在だが、一緒にされるのは腹立つから言わないでおこう。
「良いのですよめぐみんさん。お風呂上がりに一生懸命揉んでいたこと、お姉ちゃんは知ってます。同じ悩みを持つ同士は沢山いますし、女の子のおっぱいを揉むのが得意な人も沢山居ます。ですので、是非アクシズ教に……」
「入信理由が1つもないのに、通報理由がドンドン出てくるじゃないですか?!絶対に入りませんからね!」
「くっ!邪神の洗脳は深いようですね……」
「その流れで私のせいに出来ると思ってる?!」
アクシズ教の話は通じないと聞いていたが、ここまで来るともはや故意だ。こんな輩に絡まれては、信仰を深めている場合じゃない。さてどうしますウォルバク様?これからの貴女の身の振り方で、この街での立場が変わりますよ。
「……面倒だし、いっそ焼き殺そうかしら」ボソッ
「駄目ですよ師匠。私も爆裂したいですけど」
駄目ですよウォルバク様。いや気持ちは痛いほどわかりますがね?あと小娘、爆裂は全員死ぬから辞めろ。
「おっと!鍛錬し過ぎてところてんスライムまで作れるようになってしまった!せっかくなので、これにも採点を……」
「おっと!それは私が採点してあげましょう!素人同然の邪神とは異なり、私はところてんスライムには煩いですからね!」
ガッ、ズルズルズル
そんな馬鹿なやり取りを見かねて、カズマの奴が何か差し出した。さっきからフォローがないとは思っていたが、きっとこれを用意して居たのだろう。あの悪知恵の働くカズマのことだ。何かの罠には違いない。
「あら?お手前は大変結構なのですが、ちょっとお手洗いを貸していただけますでしょうか?少々催してしまいまして……」
「それは大変だ。教会のトイレはあちらになります。入信していれば快尿快便が約束され、入信していないと排泄時の感度が50倍になるトイレです。気持ち良く用が足せますよ」
「気持ち良さの方向性が間違ってませんか?!」
あのアクシズ教のプリーストがツッコミに回るとは、流石はサトウカズマだ。容赦がない。そもそも催したのだってところてんスライムのせいだろうし、アイツ俺より悪魔に向いてるな。
「お気に召さないなら、外に出て真っすぐ行けばエリス教会です。そこから更に走れば公衆トイレもありますよ?」
「そ、そこまで保たないから借ります!もし変なクセが付きそうになっても、アクア様の加護があれば恐るるに……」
「ら、らめぇ!!おトイレするだけで頭が変になりゅうぅ!!」
「…………へっ?」
意を決したプリーストの手を止めたのは、トイレから響く汚い嬌声。いくら胡散臭い加護とは言え、面と向かっていわれたら躊躇はする。それが目の前で実証されれば、それはもう恐怖でしかない。
ジャーー
「ふぅ……入信書の提出を忘れたまま入っちまったぜ……けど安心しなプリーストのお嬢さん。尻をイジって逝くだけなら、ちゃんと貞操は守れるからな!」
グッ!
「……やっぱりトイレは結構です!!」
「あっ!ちょっとセシリー!」
頭のおかしいプリーストにも、やはり女として譲れないものがあるらしい。少し内股で逃げ帰る様は、珍しく普通の女に見える。中々やるじゃないかサトウカズマ、やっぱりアイツは悪魔に向いている。ただ、この方法が今の最適解だったかと問われると、決してそんな事はない。
「ふっ、やはり頭がおかしくても女の子だな。こんな見え透いた下剤と嘘に騙されるなんて……なぁダスト?」
「言ってやるなよカズマ。俺達の迫真の演技を前にしたら、いくらアクシズ教でもこうなるのは当然で……あれ、なんか信者の数減ってる様な……」
アクシズ教を追い払ったのは良いとして、さっきまでの行動を快く思う者は多くない。そりゃアクシズ教でもドン引きの鬼畜と変態の組み合わせだ。そんなのと同類とは思われたく無いだろう。結果、信者を減らすと言うアクシズ教の試みは、この馬鹿二人により達成された事になる。
「この……大馬鹿共がぁ!!」
「「すみませんでしたぁ!!」」
「あっ、このクッキーは中々やるわね……」
とは言えウォルバク様が楽しそうなので、俺様からは何も言うまい。アホ2人はアーネスに任せて、俺様は楽しそうなウォルバク様を記録するとしよう。いつまで続くか分からないが、こうして笑っていた事は、ちゃんと覚えていて欲しいからな……
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
ホーストの存在は、このストーリーにおいて割と重要だったりします。そろそろ最終局面間近なので、ほんの少しだけ真面目な終わり方です。
このサブストーリーも終了間近、引き続き不定期更新ではありますが、またお暇な時にでもお付き合いください。