カズマとウォルバクの話ってことで、ちょこちょこ主人公が変わります。ヒロイン目線だけだとボケにくいので、そこら辺はお許しください。
ということで、前回のろくでもない話の続きです。またお暇な時にでもお付き合いください。
「その情報に、間違いはないのね?」
「魔王城の結界の弱体化も確認されておりますので、恐らく間違いないかと……」
ハンスが何者かに討ち取られた。ホーストの持ってきた報告書には、確かにそう書かれている。別に仲が良かった訳でもないし、なんなら性格は合わない方だったと思う。ただそれでも、魔王軍幹部としてハンスを倒した者を放っておく訳にはいかない。その者はいずれ、私にとっても脅威となる可能性がある。だから、まずは情報を集める必要がある。
「ハンスを討ち取った者について調べる必要があるわね。ホースト、討ち取った者のことは把握しているのかしら?」
「なんでもハンスを倒した後に、アクセル行きの馬車に乗り込んで逃げたとの事で、あまり情報が……」
「どういうことなの……倒したのだから、今更逃げる必要はない気がするのだけど……」
「それが、温泉を全部浄化してしまった為に追われていたとの事で……」
あのハンスの毒を?!と言うかあの源泉って途方もない湯量だったわよね?!それをハンスの毒を浄化した上で、更にあの湯量を浄化するってどういうことなの?!
「まぁ、先ずは情報が無いと何も始まらないわね。取り敢えず、私は温泉を台無しにした犯人を追うわ。当面の戦闘指揮はホーストに任せるから、私が戻るまできっちり務めを果たしなさい!」
「はっ!お気をつけて!………ってあれ?目的はハンス様の仇討ちではないので?と言うか、ハンス様の目的も同じ温泉の破壊だったのでは……」
「……こ、細かいこと言わないの!ちょっと間違えただけよ!」
「そ、そこは一番大切な部分では?!あっ!今回お風呂セットは不要ですよね!ちょっとウォルバク様?!」
ごめんねホースト!私には、ハンスより温泉のほうが重要なの!せめて、もう1回アルカンレティアに浸からせて!
…………………………
駆け出しの街、アクセル。基本的に低レベルな冒険者が集まる平和な街で、魔物が少なく、それにより入手可能な素材も少なく、国の外れにあるために産業的にも栄えて居ない田舎町。特産品は国一番の鮮度を持つと言われるキャベツで、名物のエロいウェイトレスの居る喫茶店は男性に大人気の観光地として有名。ちなみに、魔王軍幹部を何名か倒した冒険者がいる。※ご来訪の際には、街道に落ちている破壊したデストロイヤーの破片にご注意ください。(アクセル観光協会誌、最新版より抜粋)
「……………どういうことなの?」
いや、キャベツとか良いから魔王軍幹部討伐とデストロイヤー破壊について書きなさいよ!知らないわよウェイトレスがエロい喫茶店とか!ベルディアとバニルを倒したのよね?!デストロイヤーを破壊したのよね?!自分で栄えてない田舎町って書いちゃってるし、観光PR下手くそなの?!
「はぁ、やっぱりろくな情報が無いわね………ねぇ御者さん。私と同じように、アルカンレティアからアクセルに向かった冒険者を知らないかしら?なんでも魔王軍幹部を倒したって噂なのだけど……」
「アクセルですかい?今まで何組も乗せてますが、最近とても立派な方々を載せたのは覚えてますよ。魔王軍の幹部を倒せるとしたら、きっと彼らみたいな冒険者でしょうな」
「その話、詳しく教えて貰える?」
やった!犯人の足取りを追いつつ、ついでにアルカンレティアで入浴する私の作戦が上手くハマったわ!お風呂はお湯が聖水になっててテンション下がったけど、これならホーストに小言を言われないで済むわね!
「良いですとも。彼らはまだ若いパーティーでしてね?金を払って乗っているのに、ハシリタカトビ討伐に自ら進んで参加したんですよ」
「へぇ……今どきそんな冒険者が居るのね……」
それなら、間違いなくカズマじゃないわね。あの子チンピラの財布をスティールしてたし……
「ハシリタカトビの群れを前に、単騎で壁になったクルセイダー様。上級魔法を自在に操り、魔法の発動に隙のないアークウィザード様、若くして爆裂魔法を習得しているアークウィザード様に、重症者をヒール1回で完治するアークプリースト様が居られました。あのような素晴らしき冒険者を、私は他に知りませんねぇ」
「どういうことなの………それ本当にアクセル所属なの?」
上級職が4人も居て、しかも性能は間違いなく英雄クラス。そんなのがパーティを組んでいたら、確かにベルディアやバニルでも勝てるかどうか……
「でもねお客さん。本当に凄いのは、そのパーティリーダーの青年なんですよ。状況判断、采配、機転、勝負強さと、まるで英雄譚に出てくる勇者のような働きでした。彼は何1つスキルを使って居ないのに、あの場を支配していたのは間違いなく彼でしたからね」
「そ、それはまた、是非お目にかかってみたいものね……」
「そうでしょう?まぁ、見た目は言うほどパッとしないんですけどね」
これは想定以上に不味いわ。この国の指揮官連中なんて、武勲やら騎士道やら自身の利益ばかり気にして、正直そんなに有能なのは見たことがない。もしその青年が指揮能力に長けた転生者だとすれば、単体のチート持ちの数十倍厄介な相手と言うことになるわ。それで仲間が英雄クラスなんて、こんなの私でも危ないじゃない……
「ただ、帰りはまるで逃げるように私の馬車に乗り込んできましてね?きっとアクシズ教徒に因縁でも付けられたんでしょう。汚染された温泉を浄化して恨まれるなんて、本当に悪いのは魔王軍なのに………」
「あぁ……アクシズ教徒に常識や良識なんて通じないものね……ありがとう御者さん。もっとお話が聞けないのは残念だけど、私って馬車酔いするの。それじゃ、お仕事頑張ってね」
私はカバンから転移の魔法陣を取り出して、そこに魔力を軽く込める。そこまで分かれば、間違いなく目星は着くでしょう。アクセルの街にそんなの居たら、間違いなく目立つはずだもの。それに、休憩所に着いたら顔を覚えられそうだしね?
「えっ、お客さん?あれっ!さっきまでそこに居たのに?!まぁ良いか、お代は先に貰ってますしね……」
あっ!テレポートするならアクセルまで払う必要無かったじゃない!満額払って損した!
……………………………………
子供達が親の引率なく自由に駆け回り、城門の見張りもたった二人。平和ボケしているとは予想していたけど、ここまで来るとむしろ不安になるレベル。でも、それ故に私達は見落としてきた。こんな駆出しの街に英雄クラスがいるなんて、確かに誰も思わな……
「あ〜〜!そこの人避けてください!」
「へっ?」
「危ない!」
ガバッ!
「ふぇっ?!」
パァン!!
誰かに身体を押し倒され、私は床に尻餅をついた。ただ、流石にこれに文句なんて言えない。さっきの球体が落ちた時、私はとんでもない突風に襲われた。あれが直撃なんてしていたら、間違いなく壁に叩きつけられていたわ。
「ど、どういうことなの?!これは何かの襲撃?!まさか街中で戦闘行為?!」
ただ、少なくともこれは私を狙った攻撃じゃない。さっきの攻撃は間違いなく魔法で、私を誰か知ってて狙うなら、アークウィザードには毒か物理攻撃の方が有効なのは明白。私の不意を行えるプロが、そんな判断ミスはしないはず………
「こ、これは魔法の暴走による事故で……あれ、先生?!」
「えっ、カズマ?」
アクセルに居るとは聞いてたけど、まさかこんな早く会えるなんて思わなかったわ。地元住民に確認すれば、その英雄とやらは間違いなく分かる筈よね。渡りに船とはこのことで………
ぷにぷに……ぷにぷに……
「た、助けてくれたことに感謝はしてるけど、このお腹の手は何かしら?」
「はっ?!最高の触り心地に手が勝手に!」
シュバッ!
いやなんでそこでお腹を揉むのよ?!そりゃ胸を触られたら即魔法を撃ってたと思うけど、別にお腹だってセクハラになるからね?!本当にこの子はしょうがないわね!英雄が同じ街に居るのに、同じ冒険者として恥ずかしいとは思わないのかしら?!
「で、この状況はどういうことなの?あの風魔法の砲弾は何?」
「あ、あれは中に紅魔族の頭のおかしい魔法使いが入ってまして……全身に風による加速のエンチャントをまとってあんなことに……」
「どういうことなの?!あの量は纏うってレベルじゃないでしょ?!殆ど飲み込まれて、あんなのコントロール出来るはずないじゃない!」
「まぁ、それで暴走してピンボールになってる訳でして、ついでに魔法陣も巻き込んで止まらなくなり……」
何それ頭悪っ!頭おかしいにも程があるでしょ?!
「状況は理解したけど、まずは子供達の避難が先よ!いくら平和ボケしてる街だからって、流石にこの中で外遊びは……」
「あっ、それならもう二列にならんで衛兵詰所に向かってますよ?ほら」
「列を乱さないで!慣れてるからって油断は禁物よ!」
「ねぇねぇ、また頭のおかしい娘だって」
「懲りないっていうか、本当に学ばないよね?」
「避難にもなれちゃったよね……」
えっ?何この統率された動き?!冷静すぎない?この状況に子供が慣れてるっておかしくない?!
「おい!あんな所に逃げ遅れた人が居るぞ!」
「あっ、あれは御歳82のサチヨさん!勇者候補なのに特典に料理スキルを選んだアクセル冒険者のお母ちゃん的存在!」
なにその勇者候補の特典?!確かにご飯は大切だけど、異世界来てそれやる普通?!
「こっちだサチヨさん!頭のおかしな魔法使いが来てるぞ!」
「えぇ……12の時に始めたお店も、今年で70周年です。本当に有り難いことで……」
「くそっ!もうボケと難聴が……ばあさん!良いからこっちに走ってこい!死ぬぞ!」
「誰が婆さんだい!あたしゃまだピチピチの79歳だよ!それに、死ぬのは7合店がオープンして100周年を迎えてからって決めてんだよ!こんな馬鹿な事で死ねるかい!」
「聞こえてんじゃねぇか!良いから逃げろよ!」
それより、なんで地味にサバ読んでるの?あの人12歳から初めて70周年って言ってたわよね?と言うかその年になったらもう誤差でしょ?!あと野心家過ぎるから!自分の年齢考えて!
「あぁ〜!サチヨお婆ちゃん!そこから逃げてください!」
「あぁ?!誰がお婆ちゃんで……ひぃ?!なんだいあれは?!あんた達、か弱い老人を早く助けないか!」
いや、貴女普通に走れそうじゃない?そんな元気があったら……
「まぁ、だからって見捨てるわけにもいかないわよね……カズマ!私が攻撃を逸らすから、あなたは彼女を保護して!」
「しょうがねぇな!頼みますよ先生!」
ダッ!
私の指示を聞いたカズマは、そのまま振り返らず走り出す。信頼されるって言うのは嬉しいけれど、その迷いの無さはちょっとプレッシャーね。まぁ、当然応えてあげるけど!
「『クリエイト・ゴーレム』!さぁ、カズマのことを守りなさい!!」
通常のスキルで作られるのは3メートルのゴーレムだけど、今回私が作るのは5m。あの風圧からして、恐らく数百キロでは押し返される。それなら、少し無茶してもこれくらいしなきゃ!
「で、でけぇ…」
「あぁ、あんなデカいの見たことねぇよ……」
「すげぇ……」
ただ、こんな事出来る人は滅多に居ないから、嫌でも目立つのが問題なのだけど………
「「「あんな巨乳初めて見た!」」」
「いやそっち?!魔力量で目立つよりはまだマシだけど、それはそれで普通に嫌なのだけど?!もう、早くしてよカズマ!」
「わかってるって!ほら婆さん!早く逃げるぞ!」
「えっ?なんでカズマ……イケメンが良いからチェンジで……」
どういうことなの?!あなた本当は余裕なの?!
「このババァ!人が命がけで来てんのになんだその態度!良いから行くぞ!」
ガシッ!
「や、やめんか!この熟れた身体に欲情しおってケダモノ!どこを触っとるんじゃ?!」
「知るかババァ!腐り始めた身体に価値なんてねぇよ!良いから早く……危ない!」
「ゴーレム!!」
ダァン!
馬鹿な喜劇を繰り広げるカズマとお婆ちゃんの元へ、乱反射した風の砲弾が再び襲う。その威力は割り込んだゴーレムを数メートル押し返し、通常のゴーレムなら瞬時に粉砕されて居たであろう破壊力が見て取れる。私のゴーレムは耐えられたけれど、それでも何度も食らったら……
「馬鹿なことしてないで逃げて!次は受け止められるか分からないからね!」
「聞いたなババァ!次余計なこと言ったら置いて逃げるからな!」
「カズマ君素敵!私、実はずっとカズマくんのファンでした!」
「よし分かった!ならもう喋んな!」
跳ね回る風の砲弾を弾き返し、なんとかカズマの逃走経路を用意する。取り敢えずお婆ちゃんは助けたけど、これじゃなんの解決にも繋がらない。この状況を打破するには、根本原因のあの子を止めなきゃ……
「助かったよ先生。あとはアイツだけですね?」
「そうね。まぁ言うのは簡単なんだけど、そう簡単な相手じゃないわよ」
目の前で破壊の限りを尽くす球体を見据え、私は考えを巡らせる。風の中に巻き込んだ魔法陣を破壊したいけど、高速で動く標的の中、身体に這い回る魔法陣をピンポイントで狙うなんて無理。風の影響を受けにくい電撃と光魔法は、特性から考えて従者を巻き込む。それなら……
「カズマ。危険だけど、貴方が接近してスティールするのが一番成功率が高いわ。私が魔法で抑え込むから、その先は任せても良いかしら?」
「お、俺は大丈夫なんですけど………めぐみん!魔法陣の無効化方法だけど、やっぱりスティールが一番成功率が高いらしいんだ!やっていいか?」
「嫌ですよ!!絶対に一番にパンツ取るじゃないですか!効果切れまでノーパンで街中を跳ね回れと言うのですか?!」
「……ほらね?」
「いやどういうことなの?スティールってランダムよね?どうしてパンツが最初に取られる前提なのよ?!」
あと、なんか彼女の名前には聞き覚えがあるような気がするのだけど……
「カズマのスティールは断固拒否します!強行するなら、全魔力で台風を起こしてやりますからね!」
「この街の被害を見てその発言が出来るって、彼女中々の大物なのかしら?」
「いえ、頭がおかしいだけです」
うん、やっぱりなんか身に覚えがあるような気がする。ただ、スティール以外の方法なんて私達だけじゃ……
「カズマ!ウィズを連れてきたぞ!めぐみんはまだ無事か?!」
「おぉダクネス!むしろアイツが元気だから困ってるくらいだ!」
「カズマさん、大変なことになってるみたいで………あれ、ウォルバクさん?!」
「ウィズ?!あっ!そう言えばアクセルで店を開くって言ってたわね……」
ろくなもの置いてないだろうから、まったく気にしてなかったわ。
「えっ……忘れてたんですか……必ず行くって言ってくれたのに……」
「………そ、それに関しては……ごめん」
でも、これはかなり好都合だわ。アークウィザード2人にクルセイダーっぽい女性が1人。この手札なら……
「このメンバー………いや、でも流石に……」
そうよカズマ!貴方のその状況判断、采配、機転、勝負強さは、こういう時にこそ真価を発揮するわ!あれ?なんかこれ聞き覚えがあるわね?まさか、カズマが例の英雄なんじゃ?!
「…………ダクネスとウィズも豊かだけど、やっぱり先生が一番巨乳ですよね?」
「……ちょっと見直した私に謝罪してくれる?」
違ったわ。これ絶対に英雄じゃないわ。間違いなく違うわ。
「お前はこの状況で何を言っているんだ?!」
「そうですよ!めぐみんさんが大変なときに!」
「流石にそのサイズに並ばれたら気になるだろ?!いや、どれも大変素晴らしいと思いますけど!」
一瞬でもこんなのを英雄と勘違いした自分が恥ずかしい!空気読みなさいよ!このスケベ!
「でも、めぐみんの止め方なら思い付いたぞ!皆、もう少しだけ俺に力を貸してくれ!」
えっ、この流れで思い付いた作戦って大丈夫なの……
………………………………
「これまた、良くこんな方法を思い付くわね……」
「カズマさんは、色々と非常識な方なので…」
「ちょっとウィズさん、常識に捕らわれないって言ってくれます?あの玉の動き、俺の国では良くある娯楽にソックリなんだよ。こんな危なくは無いけど……」
カズマの立案した作戦に従い、私とウィズは街の中心にある湖にいる。あの激しく跳ね回る風の砲弾を止めるには、どうやら水を使うらしい。
「水面を叩いて、津波が出来るだけだと思うのよね……」
「私は、どちらかというと水の刃で街中が切り刻まれる事になる気が……」
「おい嫌なフラグ立てんな。それを防ぐために2人に頑張って貰うんだよ。ほら、主役のご登場だぞ!」
パァン!
「か、カズマ!何度も吹き飛ばされはしたが、遂にこっちまでめぐみんを……きゃうん!」
パァン!
「あぁ!なんで何も持たずに体当たりなんてするのですかダクネス?!剣とか盾とか使えば良いじゃないですか!」
「断る!」
「えっ、何あれどういうことなの?!この街って馬鹿しかいないの?」
ガッチガチの強度を持つクルセイダーの体当たりにより、頭のおかしい風の砲弾は私達の方へゆっくりと飛んできている。そりゃ何かに当たれば跳ね返るのだから、運びたいならぶつかれば良いのよね。えぇ、反動で死ぬ可能性さえ気にしなきゃだけど……
「着水する!頼むぞ二人共!」
「任せなさい!『ウォータープリズン』!」
風の砲弾が着水する寸前。私は湖の水で水牢を作る。カズマの読みが正しければ、あの魔法は球体が潰された部分だけ風圧が増して対象を吹き飛ばす。それなら、球体を球体で閉じ込めれば、その力はどこにも向かないはず!
ちゃぽん
「捉えた!」
よし!カズマの読み通りだわ!確かに水中なら弾まない!
「やったか?!」
「これで明日の結婚式が出来るな……」
「おい!お前ら変なフラグ立てんな!ウィズ、早く仕上げを頼む!」
「はい!『フリーズガスト』!」
風の砲弾を包み込む水の牢獄を、そのままウィズの氷魔法で凍らせる。この状況を怪我人も出さないで収めるなんて、やはりカズマの采配は侮れない。と言っても、まだ1人、何なら一番大変そうな娘が残っているのだけど……
…………………
「よっ!めぐみんはまだ平気そうだな?」
「えぇ、氷の金魚鉢に入れられた金魚の気分ですが、幸運なことにまだ無事です。それで、私の救助方法は考えているんですよね?」
氷の金魚鉢に入れられた彼女は、動かないものの危険なことに変わりはない。風の防壁はまさに鉄壁で、結局は魔法ごと閉じ込めただけに過ぎない。まぁ、正直魔力切れを起こせば収まるわけだし、器ごと人目のない所に移動するほうが安全だろうけど……
「考えていない事もないが……いや、やっぱり辞めておこう。1日で魔力が無くなるって言うなら、その後で助けた方が安全だ。それに……」
「それに?」
「紅魔族って、トイレしないんだろ?」
「…………はっ?!」
えっ?何それ知らないのだけど!まさか食べ物全てを魔力に出来るとでも言うの?!そんな凄い種族なの?!
「た、確かに紅魔族はトイレなんて行きませんが!だとしても仲間をここに置いていくのは薄情だと思うのです!いくら風の膜で守られているとは言え、か弱い乙女を野外に放置だなんて……」
「安心しろよ。寂しくないように俺もここにキャンプして、四六時中めぐみんの話し相手になってやる。窒息してないって事は、空気の循環もしてるみたいだし、探せば飯とか温かい飲み物も差し入れられると思うんだ……」
紳士!なんて紳士なのカズマ!こんなクソ迷惑な頭おかしい娘の為にそこまでするなんて!なんか下卑た笑い方してる気がするけれど、やっぱり根は紳士だったのね!
「あっ…いやえっと……ずっと見られているのもそれはそれで……」
「遠慮するなよ。大切な仲間になにかあったら大変だろ?ずっと目を離さないで居てやるから、安心して身体を休めてくれていいぞ」
あれ?なんか二人の表情がおかしいわ。カズマの方はずっと下卑た笑い方だし、女の子は泣きそうになってるような……
「あ、謝ります!謝りますから辞めてください!紅魔族はトイレ行きませんが辞めてください!ダクネスもなにか言ってください!」
えっ、それトイレ行くんじゃないの?!どうなのクルセイダーの子!
「あ、安心しろめぐみん。クルセイダーもトイレ行かな……んっ」ビクンッ!
ド変態プレイだったわ!!女の子にトイレ行かせないで目の前で漏らさせる気ね?!どれだけ業が深いのよカズマは!
「カズマ、流石にそれ以上は私も引くわ……と言うか通報案件よ……」
「むぅ、本当なら言葉の責任を取らせるが、先生がそう言うなら許してやるか…」
あら、予想外に素直ね?ただ意地悪してただけなのかしら?
「まったく、カズマの冗談は笑えませんよ……それで、私の救出方法は?」
「あぁ、それなら……多分漏らせば出られるぞ?」
「「「…………えっ」」」
いや、どういうことなの?!やっぱり変態なの?!
「こ、このド変態!見損ないましたよ!そんな特殊性癖持ちなんて!」
「最低だぞカズマ!そんな変態プレイにめぐみんを……この鬼畜!どうして私じゃないんだ?!」
「変な勘違いするな!あの魔法陣の紙は水で滲むんだよ!外から水はかけられないけど、内側からならかけられるだろ?それで魔法陣が壊れれば、後は効果切れを待つだけだ!俺はちゃんと向こうを見てるって!」
確かにそれなら危険もないし合理的だけど、いくらなんでも女の子にそれはないでしょ……
「仕方ないわね。それと同じ魔法陣を書いてみて」
「えっ?えっと、確かこんなので……」サラサラ
風、纏う、加速……なるほど、これは術者が風をまとって加速するってパターンと、纏った風が更に加速するってパターンがランダムで発動したのね。この子の魔力コントロールが優れてなければ、もっと大規模な破壊に繋がった可能性もあったわよ。まぁ、そもそもこんなレベルになるのはこの子の魔力量が理由だけど……
「分かった。風の減速の魔法陣を書くから、発動してる間に彼女から魔法陣を回収しなさい。それと、今後は人で試す前に私に相談すること。いいわね?」
「……はい」
うん、こういう所は素直なのよね。そして、やっぱりこの子は私の恩人だわ。面影があるし、名前も聞き覚え有るし……
「あの!先程までは余裕が無くて気付かなかったのですが、もしや貴女は紅魔の里で私に出会って居ませんか?!」
「あら、それは新手のナンパかしら?今は手が離せないから、無事に解除できたらお茶くらいしてあげるわよ?」
あぁ、やっぱりこの子は私の封印を解いた子だわ。本当なら感動の再開だけど、直ぐに気付いてくれなかったし、ちょっとくらい意地悪してもいいでしょ?
「よし、解除できた。初めましてお嬢さん。貴女のお名前は?」
「めぐみんです!貴女はこの名を知っているはずです!貴女は……貴女は私の!」
「あ、すみません。もう危険が無いのなら、この器物損壊罪の頭のおかしいと話題の彼女を引き渡してくれますか?」
「「……えっ?」」
誰、この人?
「えぇっと……貴女は……」
「検察官のセナです。この度は街の破壊活動を止めてくださり感謝いたします。ただ一応確認なのですが、まさか貴女もサトウカズマ、並びにめぐみん容疑者の関係者では……」
「すみません知りません。誰ですかこの子。本当に初めましてです」
「えっ!ちょっとお姉さん?!」
ごめん!私魔王軍の幹部だから、国家権力はマジで無理だから!!
「そうですか。ご協力に感謝します!ではカズマさん、抵抗しても無駄なのはご存知ですよね?」
「わ、わかってるけど……ちょっと待ってくれって!せめてコレが事故だったって証言だけでも!」
「いや事故ではないでしょ?!そもそもカズマが………」
「……指導責任と監督責任」ボソッ
何この子マジでクズね!でも、確かに指導者として責任0なんて言えない気がするし……もう、仕方ないわね!
「あ〜、魔法の専門家として進言すると、この魔法陣はダンジョンなどに仕掛けられている物に類似しています。恐らく魔王軍の手の物か、魔法を使用するモンスターが用意した物と思われます」
「そ、そうなのですか?!では、カズマさんは悪くないって事じゃ……」
悪いけどね!悪いけど私が咎められるよりは見逃してあげてほしいかな!
「魔王軍の手の物って……私やウォル……ムグッ!」
「ということで!私はアークウィザードの店主さんと一緒に近隣にも同じような罠が無いか探してきます!くれぐれも見つけてもお手を触れないようにお願いしますね!」
私はウィズを引きずりながら、検察と衛兵から距離を置く。きっと英雄はもう移住したのだろう。もしそんな連中がいるのなら、この街はこんな頭がおかしい筈が無い。
「帰りたい……温泉入ってもう帰りたい……」
駆け出し冒険者の街、アクセル。そこには鮮度の良いキャベツと、頭のおかしい魔法使いと、ドMで無駄に硬いクルセイダーと、スケベでクズの一番弟子と、口の軽い同僚が居ます。ありがとうキャベツ。胃に優しいあなたが居なければ、私は胃に穴が空いていたことでしょう。※キャベツが旬でない時にお尋ねの方は、常に胃薬を持参してください。
(魔王軍機関紙。るるぶウォルバクより抜粋)
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
何となく話の方向性を分かって頂けたかと思います。相変わらず酷い話です。こんな流れでずっと続くので、苦手な方はご注意ください。
また不定期ですが、お暇な時にでもお付き合いください。