皆さん何となくご理解のことと思いますが、前回のあれは助走です。つまりここから私の本編。クソな展開が嫌なら直ぐに引き返しましょう。多分そっちのほうが健全です。
では、覚悟を決めたらお付き合いください。クソみたいなクライマックスです。
最初にアクアに出会ったのも、確かこんな感じだった。気付いたら椅子に座らされていて、目の前に無人の椅子が置いてある。ただ、当時と明らかに違うのは……
「なにそれアクア、髪切った?」
アクアがショートヘアなことである。
「切ったのカズマさんじゃない!私の聖剣作るとか言って素材にするわ!私の残り湯まで持ち出すわ!しかもそれを悪魔に持たせるわ!何処まで非常識な背教者なの?!」
「いや悪かったって!謝るから首をガクガクすんなって!ちゃんと覚えてるし反省してるから!」
あのアクアの聖剣の材料には、実は結構な量の髪が必要になった。少しと言いつつばっさりいったので、恨まれるのも仕方ない。だが………
「ほんと……私に黙って死ぬなんて……何処までも馬鹿な背教者よ……」
「本当にごめん……ちゃんと帰ってやれなくて……」
こんな普段通りのリアクションも、今日だけはただの強がりだ。俺の肩に縋り付いて泣くアクアを撫でながら、俺も溢れ出すもの堪えるのに必死だった。何せこれは本当の意味での死。普段の気軽なものではない。
「感動の再会の所をすみませんが、あまりゆっくりする暇はないようです。魔王軍の中心に残されたウォルバクさんが、このままではカズマさんの後を追うことになってしまいます」
「そうだ!あいつらはまだ無事なんですか?!」
ポイッ
「ふぎゅっ!」
俺はアクアの事を放り出し、エリス様の前へ詰め寄った。あんな危機的状況に放置では、下手をすると数分で感動の再会をしてしまう。いやそれで感動するかは分からないが、いくら何でもそれは望んでいない。
「魔王が討たれた事で混乱はありますが、それでも逃げだす者は殆ど居ません。魔力切れのウォルバクさんでは、この状況を打破するのは無理だと思います」
「えっと……あと2人仲間が居るのは……」
「あら、他に何かいましたっけ?」
あ、そう言えば悪魔とアンデッドの事が大嫌いなんだっけ……せっかく魔王を倒した直後なのに、そこは全くブレないんだな……
「とは言え、魔王を倒したカズマさんには、神々の褒賞が約束されています。万全の身体で蘇生してテレポートで逃げてしまえば、ウォルバクさんの残りの人生を隣で過ごせると思いますが……」
「な、なら直ぐにでも蘇生を……いや待ってくれ!残りの人生を一緒に過ごすにしたって、なんで俺の人生じゃないんだ?ウォルバクの方が長生きのはずだろ?!」
エリス様の告げた言葉の違和感に、俺は願いを告げるのを取り止めた。女神の寿命なんて知らないが、それでも人より短いはずがない。となればあり得る可能性は……
「あの門番と呼ばれていたのは、私達と同じ神族です。地獄の力まで得ていた彼を倒すには、相応に無理をする必要がありました。それこそ、神格を失う程の無茶をです」
「なんで……なんでそんな馬鹿な無茶を?!それじゃ封印されるのと変わらないだろ!あいつを倒すより、残った魔力で逃げていれば……」
「貴方との平穏を望んだからですよ。神として幾千年を生きるより、愛する人と添い遂げたい。だから、愛する人が幸福である為に、彼女はあの場で戦うことを選んだんです。カズマさんの望む生活が、平穏な日々であると知っていたから……」
わがままで身勝手で、それなのに何故か憎めない。最後までそんな性格で居てくれたなら、きっとこんな苦悩はなかっただろう。でも、ウォルバクがそこまで俺を愛してくれたのなら、俺も本気で応えなければならない。死んだ俺が出来る、この最後の決断をもって……
「エリス様。何でも1つ叶えてくれるなら、ウォルバクの力を戻してください。あいつが元の力を使えれば、あの場から逃げることも容易い筈です」
「……自身の蘇生は望まないのですか?」
「俺が側に居てやれる時間なんて、ウォルバクの人生からしたら一瞬です。別れがほんの少し延びるだけより、俺はあいつに生きていて欲しい……」
「カズマさん……」
そう、きっとこれが最適解だ。俺の蘇生で大きな変化は何もない。魔王軍から逃げた所で、弱ったウォルバクは辛い時間を過ごすだろう。何でも1つというのなら、俺はウォルバクに願いを使いたい。
「なんでよ!ウォルバクはカズマさんの為にここまでやったのよ!それなのになんで側に居てあげないのよ!カズマさんの居ない数千年より、カズマさんとの数年を選んだのに!」
「愛する人に生きてて欲しい。それが俺の愛し方なんだ。ウォルバクが俺の為に時間を失ったんだったら、俺はその時間を取り返したい。そして、この選択の意味を受け取って、俺の分まで生きて欲しい」
「そんなの……残された人が悲しすぎるじゃない……」
ボロボロと泣くアクアを横目に、エリス様は何かの書面にサインをした。そして、小さな水晶玉をこちらに差し出し、少し寂しそうな顔で俺へ手渡した。
「カズマさんの願いは聞き入れられました。ですが、このままお別れでは、残された方があまりにも辛すぎます。ですから最後に、貴方の言葉を送ってください」
「ありがとうございます」
受け取った水晶に光が灯り、そこに泣いているウォルバクが映し出された。俺はなんて残酷なことをしようとしているのか……胸が張り裂けそうな思いで、俺は水晶へと話しかけた。
「ウォルバク、聞こえるか?」
「か、カズマ?!これ天界から話してるの?!何とか戻ってこれないの?!魔王倒した報酬があるでしょ!」
慌てふためくウォルバクの様子を見て、なぜだか俺は心が落ち着いた。これでもし壊れてしまっていたら、俺の頑張りは全部無駄になる所だった。
「ごめん。俺の魔王討伐の報酬は、ウォルバクの力を戻すことに使っちまった。だから、俺はもうそっちに戻れそうにない」
「なんでよ!私のことより自分を優先しなさいよ!私を幸せにしてくれるって、約束したじゃない!どうしてよ……なんでそんなカッコつけるのよ……」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるウォルバクを見て、エリス様とアクアもボロボロと涙を流し始めた。魔王を倒した後でこんな事になるなんて、きっと2人も思っていなかったのだろう。でも、きっとこの結末が俺らしい。
「思えば色んなところに行ったよな。初めての彼女にはしゃいだ俺に、いつも付き合ってくれてありがとう。お前が隣にいてくれた時間は、俺の人生で1番幸福だったよ」
「辞めてよ……これが最後みたいな言い方しないでよ……私まだ、他にも行きたいところが沢山あるのに……」
別れを悟ったウォルバクの声が、徐々にか弱くなっていく。本当に俺は残酷だと思う。残された人間の思いを知って、こんな決断をしたのだから……
「悪いな。俺の一生じゃ一瞬過ぎて、ウォルバクを満足させらそうにない。でも、俺が勇者としてウォルバクを護れた最後の瞬間だけは、中々忘れられそうにないだろ?」
「馬鹿……かっこつけすぎよ……でも、絶対に忘れない……」
「「うぅ……」」
俺達の話を聞いているエリス様とアクアからも、大粒の涙が溢れ始める。やはり根は優しい女神なのだろう。人の死なんて馴れていそうなのに、俺のために泣いてくれるなんて……
「ウォルバク、もう泣くのを止めてくれないかな?最後にどうしても頼みたいことがあってさ。泣いてたらそれは叶わないんだ……」
「うん……カズマが望んでくれるなら、私はもう泣かない……カズマが最後に見た私が、泣き顔の私じゃ悲しいものね……」
気丈に涙を払ったウォルバクは、真っ赤に腫れた目で空を見た。それは俺のことを思ってだろう。こっちが見える筈なんて無いのに、何故か水晶を見つめている。なら、最後の言葉を送るとしようか……
「じゃあウォルバク…………………………
リザレクションって言ってくれる?」
「『リザレクション』って……あっ!」
「「あぁ〜!!」」
「よっしゃ!うまくいったぁ!」
泣き腫らした目を擦りながら、浮かんでいく俺を見上げる女神二人。ウォルバクが全盛期に戻ったのなら、そりゃ蘇生魔法くらい余裕だろう。なんでこんな感動的な空気を作ったかって?そりゃこの2人を出し抜くためさ!
「ちょっと!流石にこれは最低です!なんですかこのひどい騙し討ち!感動の別れが茶番じゃないですか!」
「そうよ!私の涙を返してよ!それかお酒で償って!!」
浮かんでいく俺に文句を言いつつも、アクアとエリス様の目は笑っている。きっと2人も望んでいたのだ。例えズルばかりする勇者であろうと、意外とポンコツなヒロインだろうと、その物語の結末は、やっぱりハッピーエンドであるべきだと。
「ごめんな二人とも!ギルドでちゃんと埋め合わせするから、先に行って待っててくれ!」
「約束だからね!飲み放題だからね!」
「私も高いお酒飲みますからね!」
そんな2人の声を遠くに聞きながら、俺はまばゆい光へ包まれた。ここでそんな台詞が出るって事は、きっと2人も予想していたのだ。こんな小狡い男が、素直に感動の別れなんてするはずが無い。
………………翌日…………………
「サトウカズマ殿。貴殿は我が国の悲願であった魔王討伐を成し得た。その多大な貢献に報いる為、ここに貴族の地位と領土、そして報奨金8億エリスを進呈する!諸君、この英雄を讃えようではないか!!」
「「「「「「「おぉー!!」」」」」」」
魔王討伐の英雄カズマ。その名前が世界に轟くのに、あまり時間はかからないだろう。そりゃこの世界の脅威を倒したのだ。それくらいの評価はあっていい。なんて、この世界がそんなに甘いはずもなく……
「そして!次期魔王を討伐し、更には駆け出しの街を指揮して死傷者0で魔王の侵攻軍を撃退した!その偉大な功績を讃え、ダスティネス・フォード・ララティーナに剣聖の二つ名を、めぐみんには……えっこれあってる?……あっそう………本人希望で厄災の二つ名を与え、両名に三億エリスの報奨金を進呈する!」
「「「「「「「「「「「おぉーーー!!!!」」」」」」」」」」」
「いや俺より盛り上がってるじゃん?!」
冴えない男の偉大な功績は、可愛い女子の功績の前に容易く掻き消えてしまった。そりゃ気持ちは分かるけども、そこまで露骨なのはどうかと思う。
………………
「さて、それじゃ改めて……」
「「「乾杯!」」」
華やかな宴会場を見下ろすバルコニーの上、俺はアーネスとウォルバクの3人でテーブルを囲む。アイリスは使い魔として歓迎すると言ってくれたが、世間一般では悪魔は脅威。流石に馴染めないだろうとの本人の意志を尊重し、こうして別の場所を用意して貰った。
「でも、カズマはこっちで良かったのか?お前は祝宴の主役だろ?」
「気にすんな。貴族たちのゴマすりに付き合うより、アーネスを労うほうが大切だと思っただけさ」(イケボ)
「そうね。挨拶回りも2分で終わったものね。人気無くて」
「おい辞めろウォルバク。俺も人並みに傷付く」
だが、実際アーネスの存在は大きかった。いくら俺の立てた作戦が良かったとは言え、アーネスだって勲章くらい出ても良い筈だ。まぁ、それを本人が欲しがるかは別問題だが……
「最初の大技で魔法と一緒にカズマを発射して、鎧の内側に描いた魔法陣でアーネスと交代するでしょ?後は宴会芸スキルでカズマに成りすましながら魔王と戦闘してて、その間にカズマは空き巣………あれ?これよく考えたら殆どアーネスが働いてるような……」
「…………ごめん。それについては、実は俺もちょっと悪いと思ってた」
とは言え相手は魔王じゃん?真っ向勝負で俺が挑んだら、間違いなく瞬殺だったと思うもん。なんなら、チート状態でも一度も真っ向勝負してないし。
「それで全員無事だった訳ですから、私に文句はありません。スケベでクズな男ですが、良い主だと思ってます」
「あら、意外と高評価ね?私が居ない間にエッチな事とかされなかった?」
「………それは黙秘で」
おい、ちょっと待てアーネス。その言い方は俺が疑われるんだが?実は根に持ってるとかじゃないよね?!
「ってことは、またパンツでも取られたのかしら?カズマは直ぐスティールするものね?」
「なんだよそれ、そんな頻繁には取って無いだろ?」
「普通は1回盗るだけでアウトなの!」
「………すみません」
危ない危ない。取り敢えずアーネスとの関係は疑われてないな。こんな所で爆裂魔法なんて放たれたら、魔王討伐の直後に、王都で新たな魔王が誕生してしまう。流石に、この魔王には挑みたくないぞ。
「分かってるアーネス?嫌なことされたらちゃんと言うのよ?」
「わ、分かりました。その時には相談します……」
悪魔の嘘がつけない性質は、こうしてみると案外不便だ。魔王の問いかけにも嘘が付けないから、下手すると即時バレる可能性もあった。我ながら、今回は危険な賭けをしたと思う。
「ところでカズマ?」
「はいカズマです」
「アーネスに何したの?」
「い、一体何のことか……」
待ておかしい!今の会話に疑われるポイントは無かった筈だ。俺とアーネスは普段通りで、決して怪しい受け答えはしていない。それなのに疑われるなんてことは………
「バレないとでも思ってたのかしら?アーネスの尻尾、カズマを見てる時はハート型になってるの。何かしなきゃ、流石にこうはならないわよね?」
「さ、流石はウォルバク様、見事な観察眼で……」
「いやアーネスが素直過ぎるだけだろ?!うわ本当だ!尻尾の形ハートになってる!」
これで良く魔王を騙し通したな!と言うか尻尾出てたら終わりだったじゃん!いやまぁ、可愛いとは思うけども!
「…………抱いたわね?」
「そ、そんな馬鹿な……俺にはウォルバクが居るし…」
「……………抱かれたわね?」
「………………………………………申し訳ございませんでした!!」
「ちょっ、アーネスさん?!そこはもう少し粘ってくれても……いや何でも無いです!すみません!」
嘘が付けないと言う悪魔の誓約は、例え生命がかかっていても破る事は出来ないらしい。そこで迅速に土下座するなんて、本当にどこまでも素直な種族である。
「ふふふ…………それじゃあカズマ。覚悟はいい?」
「…………はい」
「『エクスプロージョン』!」
カッ!
即座に霞んでしまったサトウカズマ英雄伝説であったが、その名前は史上最大のやらかしとして長く教科書に残る事になる。壊れた城の修繕費で賞金を失い、全有力貴族の集まった場で王に説教された英雄など、恐らくは2度と現れないだろう。と言うかこれで死者が出てないって、そっちの方が奇跡じゃなかろうか。
………………数年後………………
「こうして魔王を倒した英雄は、伝説のやらかし男として歴史に名を残しましたとさ。めでたしめでたし………皆は二股しちゃ駄目よ?」
「「「「はーい!」」」」
子供達に絵本を読み聞かせるウォルバクの姿も、今では見慣れた光景になった。挙式までには色々と揉めたりもしたが、具体的には3度花婿が攫われたりもしたが、今は与えられた領地で幸せな日々を過ごせている。その絵本のチョイスは辞めて欲しいが、子供達のお気に入りでは仕方ない。
「カズマ、パスタは茹で上がったぞ。ソースの方は出来上がったか?」
「当然だろアーネス?俺は料理スキルをカンストしてるんだ。お前こそ塩入れ過ぎてないだろうな?」
「味覚もほぼ人間になったからな。もう昔のようなミスはしないさ」
結局アーネスとの関係も容認され、4人中2人はアーネスとの子供だ。人として育てていたからなのか、ちゃんと人の飯で育っている。まぁ、時折浮いたりしているが、それ以外は普通の子供だ。
「皆ちゃんと手を洗うのよ!それと、残さずいい子で食べること!」
「「「「はーい!」」」」
いや、むしろ普通の子より出来が良い気がする。俺が親バカなだけだろうか?
「ねぇカズマ、この子達はどっちに似るかしらね?」
「どうだろうな。半神と半魔なんて前例がないし、どんな成長をするか予想も付かないよ。でも、2人が寂しくないように、2人と同じくらい長く生きて欲しいな」
俺が2人より早く死ぬのは、間違いなく避けられないだろう。俺は長く側に居られないが、愛の結晶には長生きして欲しい。俺が死んでも、2人が寂しくないように。
「長生きなんてその若さで言うことじゃないだろ?それに、この数年だけでも、あたしはカズマを選んで良かったって思ってるぞ」
「そうね。例えあと何千年生きようとも、この時間はきっとかけがえのないものになるわ」
「アーネス、ウォルバク……」
俺の両脇に座る2人の笑顔には、欠片も後悔など見えない。これほどの深い愛を受け取ったからには、俺も出来る限りの愛を返そう。2人が数千年生きても霞まないような、心から幸せだったと誇れる時間を……
ピンポーン
「おっと、誰か来たみたいだな。俺が対応してくるから、2人は子供達を見ててくれ」
「うん、お願い」
「新聞は要らないっていってくれよ?」
危うく感傷に浸ってしまう所だったが、それは今考えることじゃない。まだまだ幸せな日々は続くのだろうし、今は毎日を精一杯生きればそれで良い。最強の魔王を倒すことも、時折来る迷惑なセールスを追い払うことも、平穏を守るには必要なことなのだ。
「はい、どちら様で………」
「こんにちは旦那様!私アクシズ教のプリーストなのですが、なんと今!麗しくも気高いアクア様が、側近の天使を募集してまして!それに相応しいものがこの場所にいるとお告げを……」
「間に合ってます」
バタンッ、ガチャッ
「えっ!ちょっと天使になるとか全プリーストの憧れなんですけど!ねぇ聞いてるのカズマさん!ちょっとぉ〜!」
俺はドアを勢い良く閉め、そのまま鍵とチェーンをかけた。俺は人として精一杯生きると誓ったと言うのに、それをそんな馬鹿な理由で延命されては、いくら何でも格好が付かない。と言うか天使って就職できるもんなのかよ。この世界の天界って色々と適当過ぎじゃないか?
「なんだったの?」
「青い髪の悪徳セールスだった」
「いや、その色は間違いなく知人だろ……」
それはもう間違いなく見知った顔だったが、アクアとして来られたら即時拒否は流石に申し訳ない。とは言えアイツの部下は無い。それだけは絶対に譲れな……
ピンポーン
「…………行ってくる」
「あっうん……お願い……」
何となく嫌な予感がしなくもないが、とは言え無視すれば何するか分からない。平穏無事な生活の為には、セールスへの対応は必要不可欠なのだ。
「はい、どちら様で……」
「カズマさん、お久しぶりです」
「おっ、ウィズが尋ねてくるのは珍しいな。上がってくれ、お茶でも出すよ」
変な勧誘やセールスはごめんだが、友人が来たのなら無下にするつもりはない。折角なのでお茶でも淹れて……
「あっ、今日は玄関で大丈夫ですよ。今回はこの、マジックアイテムを紹介に来まして……」
「あっ、そういう……」
どうしよう。友人として来られたら、セールスだろうと無下には出来ない。だがウィズの商品なんてろくなもんじゃないだろし、でも絵本はウィズ経由で買ってるし、バニルの選んだ品かもしれないし……
「カズマさんはきっと、時間の流れが違う家族に戸惑っていると思います。それを理解した上で一緒になったとしても、きっと割り切る事は出来ない筈です。私がそうだったので、きっとカズマさんもそうだと思って……」
「あぁ、それについてはいつも考えてるよ」
となれば、カメラ等の思い出を残すアイテムだろうか?それなら丁度欲しかったし、ウィズの話に乗っかるのも……
「そこで、誰でも簡単リッチーになる儀式セットを!」
「すみません結構です」
パタン
アクアの天使になる提案もそうだったが、こいつら人の尊厳とかないのだろうか?そりゃウィズのようなリッチーならまだ良いが、キースのような半死人で側にいるのは流石に……
バタン!
「だ、大丈夫です!そんなリッチーにはなりたくないカズマさんの為に、バニルさんの新書、『邪神になるには?大量虐殺編』もご用意が……」
「いや余計にいらんわ!タイトルが既にクソ厄介じゃねぇか!」
バタン!
きっと、あいつらなりに気を遣ってくれて居るのだろうが、いくら何でも力技が過ぎる。実は自分なりにも考えたんだが、天使になればアーネスと触れ合えず、リッチーになっても魔力が少ないと消えてしまう。後は悪魔とかも選択肢にはあるのだが……
「何を悩むことがある?吾輩の元で学べば良いであろう?」
「……お前もインターホン越しに勧誘すんなよ!感傷に浸るタイミング狙ってやがったな?!」
「ははは!流石は吾輩の認めた男!素晴らしい悪感情であるぞ!」
バニルに頼むと色々と怖い。2人を置いて死ぬのも嫌だが、嘘が付けないと色々と、そう、嫁が2人いると色々と気遣うのだ。主に身体の相性の事とか、全部本音で話すと修羅場になる。
「人気者はお辛いようですね?」
「エリス様。貴方にも家にダイレクト降臨するの辞めてくださいって言いましたよね?」
「しかし、カズマさんが選んだ運命です。その命の使い方は私達が決める事ではありません」
「びっくりするくらい華麗な無視ですね……もう慣れたけどさ……」
最初こそ勧誘側に居たエリス様だが、今では俺の意志を尊重してくれるようになった。まぁ勧誘理由が、俺が笑いの神に抜擢されたなんてアホな理由では、エリス様も頑張らないのだろう。2人っきりで色々教えてくれるって言われた時には、危うく一線超えそうだったが、今は良い友人である。
「ですから、どうか後悔のない一生を過ごしてください。この世界に人生を捧げると誓った選択を、私の世界に残った決断を、決して後悔しないように……」
「えぇ、俺もそのつもりです」
最初は不条理で不満しか無かったこの世界が、今では素晴らしく思えて仕方ない。愛する人と出会えた世界。愛する人と結ばれた世界。そして、愛する家族がいる世界。そんな世界で人としてやり直せた事を、俺は心から幸福に感じている。
「本当に、ここは素晴らしい世界ですから……」
「はい、ありがとうございます」
この人生がいつまで続くか、それは誰にも分からない。でも、数十年先に俺が死ぬ時、きっと後悔はないだろう。何の根拠もないけれど、何故かそれだけは断言でき……
「と言うことなので、カズマさんの魂は死んでからドラフトにかけたいと思います!皆さんそれまでスカウトは禁止ですよ〜!」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
「いや死んだ後なら自由とかじゃねぇから!お前ら本当にいい加減にしろよ?!」
すみません。やっぱり断言は出来そうにないです!
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
手短に済ませるはずが小ネタで脱線しまくり、ダラダラ続いてこんな感じです。
残ったネタは本編(全部酷い方)でやるので、引き続きそっちでお付き合いください。