※この作品はR-18です。

この怠惰な女神に信奉を   作:熱心なエリス教

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いつも私の妄想にお付き合い頂きありがとうございます。

よくよく考えたら、変なのしか居ないのがこのすば世界。それを割とまともなウォルバク視点で見ると、当然ながら魔王軍サイドも酷いことになるわけです。

ということで、交互に展開されるウォルバク編です。またお暇な時にでもお付き合いください。



この厄介な同僚に再会を

緊急連絡、コードWよりHQ。幹部3名を打ち倒したと思わしき者の情報を掴むべく、その英雄の拠点と言われているアクセルに潜入、情報収集を開始した。事態は急を要する為に先んじて動くこととなったが、急ぎ下記の通り支援を求む。

 

温泉宿宿泊代、二食付き二泊で36000エリス

昼食代金(デザート付き)、2日分6000エリス

交通費(往復)10000エリス

 

なお、繰り返しになるが乙女に温泉と甘いものは必須栄養素であり、本要求を却下されると情報収集が万全に行えない懸念があることを考慮されたし。そして、飲み会での「そんな甘いもんばっかり食ってるから無駄にデカくなるんだろ……」との発言に関しては、いつでも娘にバラせると言うことも考慮されたし。されたし!

 

………

 

「って念を押して申請しといたから、今日は私が奢ってあげるわ。さぁウィズ、楽しい女子会を始めましょう?」

 

「えぇっと……流石にこれは魔王さんに悪い気が……」

 

検察官の前からウィズを連れ去り、私は町外れの喫茶店にやってきた。取り調べでボロを出しそうなウィズを連れ出すのは勿論のこと、この街の英雄について聞かせて貰うため、そしてあわよくば、カズマとめぐみんの日常についても聞いてみたいからだ。

 

「大丈夫よ。この街の英雄について聞かせてくれれば、魔王だって文句なんて言えないわ。ほら、まず名前から教えて?」

 

「そ、それにそれで困ります!私は一応中立の立場な訳ですし……ウォルバクさんが狙っている方の情報を漏らすのは、流石に魔王軍への肩入れになると言いますか……」

 

普段なら馬鹿みたいに口を滑らせる癖に、人命が関わるとガードが硬いわね。まぁ、心は人間のままと言うのは以前から感じていたし、それも仕方ないのでしょう。でも、これは別に血生臭い話ってわけでもない。私達の戦いとは、決して武力による解決だけではないのだから。

 

「安心してウィズ。その英雄は確かに脅威だけど、何も殺すために情報を集めている訳じゃないわ。私達が戦っている相手はこの国であり、打倒したいのは腐りきった階級社会と人間至上主義社会なの。その勇者候補だって、私達の話を聞けば分かってくれるかも知れないでしょ?だから、話し合うためにその人の事が知りたいの」

 

まぁ、説得に応じなきゃ殺すと思うけど……

 

「ウォルバクさん……そうですよね!言葉を交わせる相手なのですから、きっと分かりあえますよね!」

 

「えぇ、私はそう信じてるわ」

 

勘違いしている人も多いと思うけど、魔王軍は目標のために戦争をしているのであって、憎くて人を殺しているのではない。その英雄の戦う理由が何かは知らないけれど、こちらの言い分を聴けば剣を収める可能性は十分にあるはずだ。人の為に行動できる者が、この国の悪政を快く思っている筈などないのだから。

 

「分かりました。平和的解決の為なら、私も力になります!」

 

「ありがとうウィズ。それじゃ、早速英雄の名前と戦ってる理由を教えて貰えるかしら?平和な世界を望む勇者なら、魔物との共存だって望めるはずだわ」

 

「はい!魔剣の勇者様はミツルギキョウヤさんってお名前で、確かアクア様の為に剣を握っていると……」

 

「へぇ………そのミツルギはどうしたら殺せそう?」

 

「ころっ?!ちょっと待ってください!平和的解決の話は何処に言ったんですか?!」

 

いやだってアクシズ教徒なんでしょ?人間から見ても魔王から見ても殺すべき存在じゃない。そこに情け容赦なんて居るかしら?

 

「良く考えてウィズ。アクシズ教徒って、ゴキ○リかイナゴ……よくてシロアリみたいな存在でしょ?身勝手な理由で女神を邪神扱いして封印するし、悪事を働いても全然懲りないし、法律より信仰を優先するし、存在そのものが害悪じゃない。そこから出てきた勇者なんて、間違いなく「目障りだから」とか「斬れ味を試したかった」とか「星占いで魔物殺せって出た」とか「今日のラッキーカラーが魔物の血液の色だった」とかの理由で罪のない魔物を殺してるに違いないわ!」

 

「偏見が酷いです!確かにアクシズ教徒の方々は色々とおかしい方が多いですが、ミツルギさんは本当に真面目で誠実なんです!」

 

いやそんな訳無いでしょ!なによその清潔なゴ○ブリみたいな存在は!

 

……………………

 

「えっ……本当にゴブリンの討伐報酬は要らないの?!」

 

「あぁ、君たちの教えてくれた場所で沢山の薬草が取れたからね。僕はその副収入で十分さ。さぁ、早くお母さんに薬草を持っていくといい」

 

「あ、ありがとうカブラギ兄ちゃん!」

 

「うん、僕はミツルギだけどね?」

 

その爽やかな笑顔で子供を見送る男は、確かに自らをミツルギと名乗った。確かにアレは普通のアクシズ教徒ではないらしい。現段階で評価するなら、まさに好青年と言ったところだろう。

 

「でも、あの男は子供の2m以内に接近したわ。国の迷惑防止条例違反だから通報しましょう。アクシズ教徒が子供に接近したって……」

 

「辞めてください。ウォルバクさんはアクシズ教徒に過剰反応し過ぎです。本当にミツルギさんは真面目な人なんです!」

 

そんな常識的なアクシズ教徒など居ないと言い張る私を、ウィズは冒険者ギルドまで引っ張って来た。本当は評判を聴くだけのつもりだったのだけど、本人が居るなら話は早い。確かにあの男はパッと見ではまともに見えるし、やってることも勇者っぽい。しかし、それで信じると痛い目を見るのがアクシズ教徒。親切な顔して接近し、異教徒を食い物にする害虫なのだ。

 

「どうせその薬草の群生地の薬草を根こそぎ摘んで金にしたんじゃないの?子供たちの思い出の場所を荒野に変える位するわよ。あのクソ迷惑な連中は……」

 

「嫌なこと言わないでくださいよ……ウォルバクさんはアクシズ教徒にどれだけ深い恨みがあるんですか……」

 

身勝手な理由で封印された私としては、信者を1人残らず焼き払ってやりたい位の恨みはある。でも、流石に大量殺戮は女神的にNGなので、今は代表の女神アクアをスルメ程度に炙ってやるのを目標としている。それが私の魔王軍に入った理由だったりするけれど、魔王以外はそんなの知らない。まぁ、知られたら知られたで困るけど……

 

「ねぇねぇキョウヤ。手に入れた薬草も全部あげちゃって、しかも報酬も受け取らないなんて良かったの?これじゃ完全にタダ働きだけど……」

 

「良いんだよ。彼らが希望を持って未来を生きてくれることが、僕には何よりの報酬だからね……」

 

「キョウヤ……」

 

「ほら聞きましたかウォルバクさん!こういう方なんです!間違いなく他のアクシズ教徒とは違うんです!だから、彼とは話し合いで何とかなると思うんです!」

 

流石にここまでのものを見せられてしまうと、ウィズの言い分も無視できない。彼がこの国の未来を見据えているのなら、私達と同じ未来を描けるかも知れない。それにもし分かり会えなかったとしても、彼は敬意を持って接するべき人間なんだと思う。大変不本意ではあるけれど……

 

「分かったわ……こんなものを見せられたら、彼は違うって認めるしか無いわね。やっぱり、一度腹を割って話を………」

 

「見ていましたよミツルギさん!流石はアクア様の御使いの勇者様!このセシリー、心より感服いたしました!」

 

と、直接話を聞こうと立ち上がった私だけど、アクシズ教のプリーストが居たら流石に無理だ。あいつら妄信的に悪魔族を殺そうとするし、頭のおかしい勧誘するし、話しかけるのはアレが消えてからにしよう。

 

「いえ、僕は自分の価値観に従って行動しただけです。それに、こうした方がアクア様も喜んでくださると思いまして……」

 

「えぇ、そうでしょうとも!あの少年は、間違いなく将来女受けの良い幼顔の美少年に育ちます!今はまだ犯罪ですが、今のうちに唾を付けるのは犯罪ではありませんからね!!」

 

「………………へっ?」

 

えっ?まさかそんな……

 

「う、嘘だよねキョウヤ……私達に手を出さないのって、まさかショタコンだったからなんじゃ……」

 

「ち、違う!僕はショタコンなんかじゃない!そもそも少年に邪な目は向けていないよ!」

 

「隠さなくて良いんですよミツルギさん!私の身を挺した勧誘になびかなかったのも、可愛い男の子が好きだからですよね?それに………アクア様はそれさえも優しく受け止めますから!むしろそれが嫌いな女子とか居ませんから!!」

 

「話を聞いてくれません?!」

 

「で、でもキョウヤって、小さい男の子のクエスト断らないし……アクシズ教徒のロリっ子からは逃げたのに……」

 

「それ別の要素が大き過ぎるよね?!」

 

な、何よアイツ!紳士かと思ったらとんでもない特殊性癖持ちじゃない!あんな良い笑顔で心の中じゃ少年をいやらしく汚していたなんて、嫌いじゃないけど許せないわ!

 

「そ、そんなの……嫌いじゃないけど……キョウヤの裏切り者ぉ!!」

 

「本当に違うんだぁ!!」

 

少しだけ信じてみようと眺めていた私の心は、泣きながら走り去る彼女を見て急激に冷めていった。やっぱりアクシズ教徒なんてこんなものよ。もう二度と期待なんてしないわ。美少年同士の絡み以外は……

 

「えぇっと……私も嫌いじゃないですけど、そういう趣味の方と直接分かり会えるかと言われたら………」

 

「いいのよウィズ……一応悪人ではないみたいだから、後は専門家に任せましょ?シルビアなら、きっと彼ともわかり合える筈だから……」

 

後はもう、変態同士で勝手にやってもらいましょ……

 

…………………………………

 

「ベルディアにバニル、更にはハンスまで?!そんな実力者がアクセルに居たって言うの?!」

 

「えぇ。最前線で戦っている以上、次に狙われる可能性が高いのは貴方だと思うわ。シルビア、ミツルギという男には気をつけなさい」

 

ミツルギキョウヤは一応敬意を払うに値する。ということで、本来なら私が話を付けるべき所なのだろう。しかし、アクシズ教徒で特殊性癖の人を相手に交渉するなんて、一般人の私には到底無理。ということで、今回は専門家を頼ると言う選択肢を選んだ。そう、早い話が丸投げってやつね。

 

「忠告には感謝するけど、どうしてあんたが手を打たないのよ?あんたが話せば、年頃の男は大抵聞いてくれるでしょ?なんか話せない理由でも有るわけ?」

 

「本当ならそうしたいけど、彼は私のような女には興味がないの。それこそ、可愛い男に夢中らしいから、貴方向けの相手だと思ってね?」

 

「えっ、なにそれ詳しく!」

 

このシルビアと言う黒髪褐色のグラマー美人は、見た目に反して中身は男、そして性的嗜好は男好きと、早い話がオカマの男色家である。最初は女の心で生まれて女になったのかと思っていたが、可愛い男子に下半身のモノをぶち込みたいらしいので、根底は間違いなく男なのだろう。まぁ、女の私には無害だし、そこら辺は追求していない。と言うか、仲間の性癖なんて詳しく知りたいとも思わない。

 

「何でも斬れる魔剣グラムを持つソードマスターで、その魔剣は切断の対象を選ばず、魔法も装甲も雪精のように簡単に切断するそうよ。高い指揮力もあり仲間も優秀だから、このまま敵対関係であり続けるなら、直ぐにでも殺すべき脅威ってところかしら……」

 

「いやそう言うの良いから!可愛いの?イケメンなの?!初めてはまだなの?!!」

 

私を急かすシルビアの目は、完全に獲物を狩る獣のそれだ。飲み会で度々恋愛に餓えていると語っていたが、もう色々と限界らしい。ミツルギには悪いけど、彼には生贄になってもらいましょう。命は間違いなく取られないから、これもある意味平和的解決だし。

 

「中々可愛らしい顔付きをした男の子よ。周りに美女が集まってるのに、まだ誰にも手を出してないんですって。初めての相手がシルビアだなんて、きっと戻れなくなっちゃうわね……」

 

「俄然ヤル気出てきたぁ!!今の私なら行けるわ!紅魔族の魔法を正面から受け止められるわ!!」

 

うん、それは普通に死ぬから辞めてね?でも、これでミツルギの対処はシルビアが何とかしてくれる。もし本当にノンケだったとしても、シルビアなら間違いなく堕としてくれるでしょう!そこにだけは期待しておくわね!

 

「あっ、それと私の教え子が紅魔の里に来てるらしいから、カズマって男の子には手を出しちゃ駄目よ?あの子は至ってノーマルだから」

 

「あんた、なんで戦地だって分かっててここに送り出したのよ……弟子の身が心配じゃないわけ?」

 

「ふふふ、あの子はそんな間抜けじゃないわ。逃げ足も早いし危機察知能力も高いから、貴方に出会うことは無いと思ってるもの。貴方はミツルギに集中しておきなさい?」

 

あれ?でもこういう事言うと出会うんだっけ?確かカズマがフラグとか言ってたような気がするわね………

 

「まぁ良いわ。ミツルギの事は私に任せなさい!私はこれから紅魔の里を攻めるけど、あんたはどうするの?」

 

「そうね。折角だから見せてもらうわ。貴方の戦争って奴を……」

 

まぁ、ぶっちゃけ暇だしね!

 

…………………………………

 

「す、凄い……こんなの、余りに一方的過ぎるわ………」

 

眼の前で繰り広げられるこの戦いを、恐らく戦争とは呼ばない。自信満々に出陣したシルビアの数千の軍隊は、紅魔の里入り口で余りにも一方的な戦いを繰り広げていた。強いて言うなら蹂躙と殺戮、まるで地獄のような光景がそこにはあった。まぁ、何が一番地獄って、こっちが蹂躙される側ってところなのだけど………

 

「し、シルビア様!貴方だけでもお逃げください!」

 

「畜生!西側ルートも結局同じじゃねぇか!これじゃ魔術師殺しが探せねぇ!」

 

「諦めるんじゃないよ!私達の誘導で別働隊が動きやすくなる!魔術師殺しは別働隊に任せて、私達は少しでも相手の目を惹きつけな!!」

 

実は以前から気になっていたのだけど、シルビアの紅魔の里殲滅作戦はあまりにも時間がかかり過ぎている。魔術師殺しと言う切り札があり、大規模な軍隊を動かせる指揮能力があるのに、戦況が好転したと言う報告が一向に挙がってこない。良い機会なので原因を突き止めるべく戦地を視察させて貰ったけど、まさかここまで酷いとは………

 

「シルビア。貴方まさかこんな消耗しかしない方法で戦いながら魔術師殺しを探してるって言うの?流石に非効率的過ぎない?」

 

「仕方ないでしょ!あいつら頭おかしい癖に、何気に高度な結界とか使うんだもの!電撃戦にも魔法で対応してくるし、目を盗んで魔術師殺しを探すには、もうこれしかないのよ!」

 

そりゃ魔法使いなら結界くらい張るでしょうし、マトモな神経してたらそんな兵器は間違いなく隠すでしょう。でも、私が時間がかかり過ぎていると評価したのには理由がある。それは魔王軍さえも上回るほどの、紅魔族の非常識さに起因する理由で……

 

「紅魔の里の観光マップに、魔術師殺しの眠る謎の研究施設ってあるんだけど、貴方これを知らなかったの?」

 

「…………えっ、嘘なにこれ?!」

 

私の渡した観光マップを見たシルビアの顔は、驚愕と絶望が入り混じった顔をしている。まぁそれも無理はないでしょう。私だって最初は目を疑ったもの。私の爆裂した穴は温泉にされてるし、魔王軍なら最高機密事項みたいなのが全部観光マップに書かれているし、訪ねてみたら実物見せながら観光案内されるし、正面から里に入ったら普通に身元確認もせずに歓迎されるし、少なくとも戦時下の連中がやることじゃない。やっぱり頭おかしいわよね、紅魔族って……

 

「………今日の夜中から波状攻撃を仕掛ける!騒音で疲弊させた所で夜中に潜入し、魔術師殺しをもって内側から里を焼き尽くすわ!!着いてきなさいあんた達!!」

 

「「「「「おぉ〜!!」」」」」

 

「あっ、うん。それ貴方達も辛そうだけど、気持ちは察するから止めないわね……」

 

まぁ、これで戦況が動けば何よりだわ。カズマの話はしておいたし、後はシルビアの活躍に期待しましょう。

 

「行くぞオラァ!」

 

「「「「「おぉ〜!!」」」」」

 

えっと……コレまさか明日の夜中まで続くのかしら?

 

…………………………

 

「はぁ……自分の封印されてた場所の温泉って、なんか他より染みる気がするわ。お湯から力が戻ってるのかしら?まぁ、そんな訳は無いんだけど……」

 

翌日、シルビアの夜襲で里が滅びる予定なら、紅魔の里の温泉には今日しか入れない。そんな限られた機会を楽しむべく、ついでに狂ったように騒がしいシルビアの前線基地から離れるべく、私は自分の封印跡地にある邪神温泉へやってきた。この里にあんまり良い思い出は無いけれど、この温泉だけは名残惜しく思う。効能も良く魔力もたっぷり含んだ温泉は、程よくぬるめで私好みだ。名前はちょっと不満だけど、それくらいは大目に見ても良い。

 

「おや、先客が居るなんて珍しいね。隣に座っても良いかな?」

 

「えぇどうぞ。丁度1人で退屈してたから」

 

1人温泉に浸かる私の前に現れたのは、若く発育の良い紅魔の娘。顔付き的にはめぐみんと同じくらいに見えるけど、まさかこの子を見て巨乳にしろって言ったのかしら?以前見かけためぐみんは、パッと見あの頃のままって感じだったし……

 

「それにしても、お姉さんはよくこんな僻地にある宿を知っていたね。紅魔の里は初めてじゃないのかな?」

 

「えぇ、随分前に一度来たことがあるのよ。その時はこんな宿は無かったけれど、近くに思い出の場所があってね?立ち寄ったらこの宿を見付けたの」

 

ちなみに、思い出の場所は脱衣所の牛乳売り場になっていたけれど、めぐみんには言わないでおきましょう。なんか嫌味に聞こえるから……

 

「それで、貴女は何処のお嬢様なのかしら?その若さでこんな高級宿に泊まるなんて、並大抵の家柄では無いんじゃない?」

 

「ふふふ、中々悪くない着眼点だね。でも残念、私はお嬢様でも、なんならお客さんでも無いよ。余りにお客が来なくて、暇を持て余したただのバイトさ!」ビシッ!

 

「いや働きなさいよ!何ドヤ顔でポーズとってんの?!サボって入浴してるだけじゃない!」

 

なんか最近お風呂で変なのにしか会わないのだけど!カズマの次はこんなアホの子なの?!これなら1人の方がマシなんだけど?!

 

「いやいや、決してサボりじゃないんだよ?私は趣味でこの里の観光マップを書いていてね。今日の活きた経験が、この宿の記事をより良いものにするのさ」

 

「観光マップって……あれ貴女が書いてたの?!と言うか趣味ならサボりだからね!」

 

まさかのあの非常識マップの作者が眼の前に?!私達としては助かったんだけど、今日貴女のせいで里が滅ぶかも知れないって分かってる?!いや、分かってるはずは無いんだけども!

 

「あ、貴女達って魔王軍と戦争中なのよね?あのマップには結構重要な事が書いてあった気がするのだけど、あんなのばら撒いて大丈夫なの?」

 

「あぁ、封印されし古代兵器のことかい?私達でも解けなかった封印が、魔王軍に解けるはずもないからね。あの封印が解けるとしたら、それは異世界より召喚された勇者くらいって言われているんだ。と言っても、紅魔の里は負け知らず!ここにわざわざ勇者が来ることなんてないんだけどね!」

 

どういうことなの?これがカズマの言ってたフラグって奴なの?!古代兵器を取り込めるシルビアに、カズマという封印を解く鍵まで揃ってるじゃない!あの2人を上手く誘導すれば、私達の勝利は確実なんじゃないの?!

 

「そ、そうなんだ……私、ちょっと急用を思い出したから、やっぱりお夕飯はキャンセルしようかしら……」

 

それならやるべき事は1つだわ!何とかしてカズマをこの古代遺跡まで誘導、封印を解かせたら一緒に逃げましょう!後はシルビアに任せておけば、私達の勝利は確実だもの!

 

「おっとお姉さん。それは考え直した方が良いと思うな?」

 

「な、何よいきなり、いったい何が言いたいのかしら……」

 

さ、流石に今のは露骨過ぎたかしら?今の会話を聞いて急用なんて、まるで封印を解く宛があるって言ってるようなもの。でも、それをこの娘にバラされれば、遺跡を見張られて作戦は破綻してしまう。それなら、先ずはこの子を………

 

「この宿の夕飯には霜降り赤蟹が出るんだ。もうキャンセルの出来る時間じゃないし、それならその用事はカニを食べてからでも遅くないんじゃないかな?」

 

「し、霜降り赤蟹ですって?!」

 

なんて魅力的な夕飯なの!どうやら私の思惑はバレていないようだし、確かに蟹を食べる位の時間はある!でも、不測の事態を避ける為にも、事前準備は早いほうが………

 

「お姉さんの予約したプランだと、刺盛りと天ぷらも付くし、この時期は甲羅酒も楽しめるんだ。どんな急用かは知らないけど、それはこの食事を楽しんだ後じゃ間に合わないのかい?」

 

聞けば聞くほど魅力的なメニューの数々!そんなの食べたいに決まってるじゃない!でも、私は魔王軍幹部ウォルバク!魔王軍への忠誠は、そんな誘惑に負けたり……負けたり…

 

………………………

 

「そんな……まさかこんな事になるなんて……」

 

紅魔の里を見下ろす高台の上、私は目に映る景色に動揺を隠せないでいた。里の中に残る戦いの爪痕と、それを復興する紅魔の里の住人達………もし里の内側で戦闘が起こるとしたら、それはきっとシルビアの潜入によるものだ。それが無警戒な住人に片付けられていると言う事は、脅威は排除されたと言うことになる。つまり、シルビアはもう……

 

「シルビア様は、日本から来た勇者ミツルギに討ち取られました……本人が名乗りを挙げていたとゴブリン共が言ってましたので、恐らく間違いないと思います……」

 

「そう……どうやら彼とは分かり会えなかったのね……私がもっと上手くやっていれば、こんな結末は避けられたかも知れないのに!」

 

この戦いの勝利条件は、シルビアが魔術師殺しを手にすること……カズマに古代遺跡の封印を解かせ、シルビアを誘導する私の作戦が、この戦いの明暗を分ける筈だった。それなのに私は、ガッツリ霜降り赤蟹を完食し、更には甲羅酒で一升飲み干し、ホーストの魔力に気付くまで布団で爆睡してしまっていたわ!なにこれヤバい!下手したら首?いや最悪処刑もありえるじゃない!

 

「ち、ちなみにだけど、シルビアの最後の戦いってどんな感じだったか聞いてるの?私が参戦したら、戦況は変わったと思う?」

 

とりあえず、今は情報を集めましょう!何も知らないとか話にもならないし、何より言い訳も出来ないし!!

 

「シルビア様の手にした魔術師殺しは、特定範囲内で魔法を使えなくするマジックアイテム。となれば、ウォルバク様の戦線参加は無謀と言うものです。サトウカズマと言う男をシルビア様に引き合わせ、魔術師殺しまで導いただけで、ウォルバク様は十分過ぎる活躍かと思います。ただ、今回は相手が悪かったかと……」

 

「そう……ホーストがそう言うなら、私も少しは胸が張れるわね……」

 

セーフ!何もしてないけど結果的にセーフだわ!!良くやったわカズマ!あなたのお陰で私は有能な幹部のままよ!今度会ったらほっぺにチューくらいしてあげる!

 

「さぁ帰るわよホースト!ミツルギへの対策も練らなきゃならないし、これから忙しくなるからね!」

 

「えっ?なんで突然楽しそうにしてるんですかウォルバク様?!流石にそれは不謹慎では?!ちょっとウォルバク様?!」

 

 

頭のおかしい紅魔族の里。そこには温めで私好みの温泉と、高レベルな冒険者でなきゃ入手出来ない美食の数々が待っています。頭のおかしい観光案内と、良くわからない観光マップがありますが、真面目に読むと疲れるだけなので、観光は諦めて温泉とご飯だけ楽しみましょう。それだけなら最高の時間が過ごせます!※本観光地を楽しむには、魔力遮断と人型への変身能力が必須です。

 

(魔王軍非公式機関紙。るるぶウォルバクより抜粋)




最後までお付き合い頂きありがとうございます。

あえて詳しく書いてませんが、ミツルギを名乗っているのは本編通りカズマです。そして、封印を解いたのもカズマですが、これは紅魔族から広まったので本人名義です。

今後も不定期更新となりますが、お暇な時にでもお付き合いください
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