なんか全然ラブコメディしてないと思っている皆様!ラブラブする前に甘々両想いフラグをお忘れでは無いですか?!ってギリギリで思い立って1話割り込ませました。ホースト視点のウォルバクの日常です。
またお暇な時にでもお付き合いください。
アーネスの復活には、恐らくあと1年はかかる。地獄に状況を見に行ったところ、今のアイツは身長10センチ位しかなく、経口採取する栄養も花の蜜や樹液のみだった。あんな妖精族みたいな身体では、戻って来てもなんの役にも立ちそうにない。まぁ、別に早めに戻ってもウォルバク様は可愛がってくれるだろうが、役に立てないとアーネスの方が自害しかねない。アイツはウォルバク様の狂信者だからな……
「これも同じ主に仕えるよしみだ。感謝しろよアーネス」
そんなアイツに気を遣い、俺様はウォルバク様にまつわることをレポートとしてまとめている。元々は側付きのあいつがスムーズに仕事に復帰出来るように始めたことなのだが、最近ではむしろこのレポートが波乱を呼ぶような内容になってきた。いや、もはやレポートなのかも怪しくなって来ている。
「それじゃホースト、私はカズマとの勉強会に行ってくるわ。今日も食事に誘われてるから、夕飯は要らないからね〜」
「えぇ、いってらっしゃいませ……さて、今日も記録を付けるとするかな」
もしこの報告書にタイトルを付けるなら、『愛され邪神の乙女奔走記』って所だろう。まぁ、本人には絶対に秘密だが……
………………………
「起きてくださいウォルバク様。朝食が冷めてしまいますよ」
魔王軍幹部、ウォルバク様の朝は遅い……と言うのは割りと最近、サトウカズマに出会ってからの話だ。以前は温泉以外の娯楽もなく、やることも無くて早寝をしていたので、夜明けと共に起床しては、瞑想と称してボーっとしていた。まぁ、この幸せそうな寝顔を見られるのだから、起床が遅いくらい大目に見るとしよう。以前の仕事しか生き甲斐のない中間管理職のような顔より、こちらの方が圧倒的に幸せそうだ。
「んんっ…あと5年……」
「再封印でもされるおつもりですか?朝食にはカズマに貰ったミソシルをご用意してますから、早く身支度をしてください」
「……むぅ……なら起きるぅ」
「お願いします。食べてもらわなきゃ片付かないですからね」
一応勘違いの無いように説明しておくと、ウォルバク様は本来こういう感じの人物である。最近はアクシズ教への復讐に燃え、暴虐の部分ばかりが色濃く出ていたようだが、寝起きや休暇は怠惰の女神としての一面が色濃く出るようになった。これもサトウカズマに出会い、自然体の自分を取り戻した結果と言える。
「あっ!今日なんだけど……」
「サトウカズマの授業ですよね?夕飯は用意しないでおきます」
「うん、よろしくね♪あれ、今日の授業の件って伝えたっけ?」
本人も疑問に思っているようだが、俺様はウォルバク様から授業の予定日など聞いていない。しかしカレンダーに刻まれた花丸と、鼻歌交じりに丁寧な身支度をしている姿を見れば、嫌でも今日が授業の日だと分かると言うものだ。戦場や幹部会議には、寝癖で出ることもあるというのに……
「ねぇねぇホースト!今日の髪すごく良い感じじゃない?!凄くまとまっていて良い感じじゃない?!」
「そ、そうですね!とても良い感じだと思います!」
まぁ、理由はともかく身嗜みに気を使うようになったのは良いことなのだろう。毎朝これに付き合わされる俺としては、いち早いアーネスの復活を願うばかりだ。
…………………………
「まさかこうも上手くいくとは、サトウカズマは戦略家の方が向いているのでは?」
サトウカズマに影響を受けているのは、何もウォルバク様だけではない。アイツの柔軟かつ性格最悪な発想は、俺達魔王軍にも恩恵をもたらしている。そう、例えばこんな風に……
「し、茂みから突然火が?!」「こ、後退!後退しろ!!」「伏兵作戦は中止だ!」「くそっ!後ろがつかえて下がれねぇ!あっつぅ!」「誰かクリエイトウォーターを使えるやつは居ないのか?!」「居るわけねぇだろそんな雑魚魔法!」「くそっ!早くしないと炎がそこまで……あつぅ!」
「拠点近くに高い茂みが生い茂っていたら、不意打ちや夜襲のリスクがある。だから、普通は拠点を作る時にそんな場所は選ばないのだけど……その茂みそのものが罠だったら、大量のバカがまとめて狩れて、ついでに見晴らしまで良くなると……正しい防衛拠点の張り方を教えたつもりが、まさか罠の張り方を教わることになるなんてね……」
クルクル
そう言って戦地を見下ろすウォルバク様の手には、カザグルマという小道具が握られている。火責めは風向きにより効果が大きく左右する為、こうして簡易的に風向きが観測できるアイテムが重要になってくるわけだ。流石はウォルバク様、作戦の遂行に余念がない。
「しかし、風を読む道具にしては随分と可愛らしいデザインですね?このカザグルマと言うやつは……」
「わかる?!これは風魔法の練習用にカズマが用意したんだけどね?キカガクモヨウ?って言うのが回った時に綺麗に見えて、回った時はまた別の良さが見えるのよ!」
しまった……コレもカズマ案件だったのか……ウォルバク様が楽しそうなのは良い事なのだが、如何せんカズマの事になると周りが見えなくなるのが面倒だ。一応ここも戦場であることにかわりはないのだから、こんな無防備に大声を出すのは流石に不味い。
「本来これは農薬を蒔く時に使うのだけど、風を読むのにも重宝するし、風を魔力に変換する魔法陣を合わせれば、鳥除けや魔物よけにも流用できるのよ!子供にも楽しんでもらえるように低価格帯でも販売してて、まさに誰もが笑顔になる魔道具なの!ちなみにデザインは15種類あって……」
「み、魅力は十分伝わりましたから!先ずは落ち着いてください!と言うか、そんな平和的なアイテムを戦争に使って良いんですか?」
と言うかどれだけ商品事情把握してるんですか?師匠から従業員にジョブチェンジしてません?
「……使ってないわよ?可愛いから持ってるだけだもん」
「はっ?それは火責めの際に風を読むために用意したんじゃ……」
「自然の風なんて勝手に代わるもんを宛にする訳ないじゃない?この一帯は、私の魔法で風向きをコントロールしてるだけよ?」
「そ、そうですよね……自然風なんて変わりますもんね……」
ここら辺一帯の風向きを変えるって、我が主ながら本当に規格外な人だ。たまに馬鹿っぽく見えることもあるが、やっぱり根底はデキる人なんだろうな。えぇ、勿論信じてました。本当ですよ?
「風向きは私が変えた訳だけど、それでもこの戦略はカズマの成果!やっぱり私の弟子はデキる子なの!いずれは魔王軍の幹部か私の側近に……」
「はっ?!危ない!!」
バスッ!
「きゃっ!」
高台に陣取っている我々の所へ、放たれたのは一本の矢。やはり俺様達は目立ち過ぎてしまっていたようだ。ウォルバク様には当たらなかったが、カズマの作ったカザグルマが破壊されてしまった。王国軍の弓兵め、中々良い腕をしている。
「ウォルバク様、ここは一旦下がりましょう。煙と火で向こうの弓兵も位置が分かりません。狙い撃ちにされ……えっ、ウォルバク様?なんでそんな魔力を高めて……えっ、ちょっと嘘ですよね?!」
「『それは始まりの炎……それは終わりの炎……』」
畜生!!やっぱり信じるんじゃなかったこの馬鹿主!それは軍隊の殲滅には最高の手段だが、アンタの破壊力じゃ自軍の拠点まで爆発範囲に入るだろうが!いつもの高い知能はどこ行った?!
「魔王軍全部隊に告ぐ!総員今すぐに防御態勢を取れ!やぐらの上に居る者は飛び降りろ!消し炭になりたく無きゃ、急いで地面に伏せるんだ!!」
「ま、まさかウォルバク様のアレが?!」「今日は罠だけで勝てるって話だったろ?!」「良いから全員塹壕に降りろ!死にたいのか?!」
それにしてもうちの部隊は、避難の手際がとても良い。通達して数秒で伝達し、既に9割が塹壕に降りている。まぁ、原因は間違いなく……
「……カズグルマの仇!『エクスプロージョン』!」
カッ!
この方のせいなんだろうけどな……
………………………
「はぁ……魔王にメッチャ怒られたわ……今月の給料は半分ですって……」
「味方の拠点ごと吹き飛ばしてますから、むしろそれで済んで良かったですよ……」
以前は金銭にも無頓着だったウォルバク様だが、カズマに出会ってからは手取りを気にするようになった。弟子に奢られ続けるのは恥ずかしいだとか、カズマの作った便利な商品が欲しいだとか、直接サトウカズマに関わることは勿論だが……
「むぅ……あの春の新作ルージュ、結構するのよね……」
「あぁ、化粧品は高いですからね……」
女磨きにも金はかかるそうだ。
「しかし、女神のウォルバク様に化粧など必要なのですか?隠したいシワも肌荒れも存在しないのに……」
「何を言っているのホースト?女に生まれたからには、美に妥協など有り得ないの。常識だから覚えておきなさい?」
最近まで常時すっぴんだった人の台詞ですかそれ?と言うか今もすっぴんですよね?先日カズマのモニターして、この年で遂に化粧に目覚めたんですか?
「ええっと……さっきまで魔王様に謁見してましたよね?1番身嗜みに気を使うべき相手なのでは……」
「あっ、アレはそういうのじゃないの。全自動給料支払機だと思っとけば良いからね?」
「えぇ……悪魔でもそんなエグい発想はしませんよ……」
まさかの尊敬要素0じゃないですか。あの人一応魔族の王なんですけど……
「しかし、それではもうカズマに見せたいだけじゃないですか。アイツ、そんなの気にするタイプなんですか?」
「べ、別にカズマにって訳じゃないわよ!でもまぁ?カズマは美容用品も作ってる訳じゃない?つまりその意見は参考になるから見せても良いとは思うのよ!別にカズマに見せたいわけじゃ無いけど!」
なぜここまで頑なに認めないのだろう。あれだけカズマの事ばかり話すのに、まさか自覚が無いとでも?よし、ちょっと試してみるか……
「あっ、サトウカズマが……」
「『ライト・オブ・リフレクション』!」
えっ、まさか消えるほど?!
「…………し、失礼しました。どうやら見間違えたようです」
「そ、そう……見間違いは誰にでもあるわよね……」
ス〜
そして何事もなかったかのように出てきた。いやそれ無かった事にはならないですって!流石に俺様でも気になりますよ?ちょっと顔赤くなってますし!
「あの、今間違いなく消えて……」
「め、女神の私がお手入れまですると、やっぱり透き通るような透明肌になるの!これも温泉水の効果ね!」
「それがマジなら血管と筋肉が露出して、美とは縁遠い存在になりますからね?」
「………むぅ」
いやそんな頬を膨らまされましても……
「良いじゃない!私の身の回りでまともな男はカズマだけだもん!そりゃ男の子に褒められたら嬉しいに決まってるじゃない!女の喜びってそういうものでしょ!化粧してあんなに褒められたら、二度とすっぴんとか見せられないわよ!」
「それなら最初からそう言えば良いじゃないですか!変な意地張らないで話してくれれば、俺様はちゃんと納得しますって!!」
「嘘よ!ホーストは私がカズマの事が好きだと思っているもの!話したら変な勘違いをするにきまっているわ!」
「はっ?カズマの事は、好き……ですよね?」
もしこれで嫌い判定だったら、俺様の好感度が不安になるんだが……
「た、確かに嫌いじゃないわ!でも、それはあくまでも弟子としてよ!男として好きになるには、まだまだ未熟だと言わざるを得ないの!だから、これを恋愛感情と勘違いされたら迷惑なの!!」
「別に師弟愛は疑いませんよ。我々の関係も似たようなモノですし、そんな過敏に反応しなくて大丈夫ですから」
「そ、そう?それならまぁ、良いんだけど……」
確かにウォルバク様の周りには、魔王様と変態デュラハン位しか人型の男は居なかった。あの二人を男として見ないのであれば、サトウカズマに出会って女の自覚を取り戻したと言うのも、無理もない話なのだろう。性別のない俺様にはわからない話なので、取り敢えずそれで納得しておこうと思う。
「誤解も解けたみたいだし、私は買い物にでも行ってくるわ。そろそろアイシャドウとかも入れたいしね?」
「承知しました。無駄遣いはしないでくださいよ?今月は給料半分なんですからね?」
「わかってるわよ!それじゃ、行ってきます」
サトウカズマに出会った事で、ウォルバク様はなんとなくポンコツになった気がする。しかし、こうして日々の生活に笑顔が増えるのなら、家臣としては喜ばしいことだ。例えソレが魔王軍に不利益でも、俺様の仕えるのはウォルバク様だけなのだから………
「まっ、これをアーネスが素直に喜ぶかは解らねぇけど……」
これを読んで嫉妬に狂ったら、止めるのはやっぱり俺様なんだろう。まぁ、そんな賑やかな日々も悪くないかもな……
…………………
「お金貸してホーストぉ〜!このままじゃカズマに奢られっぱなしになっちゃうからぁ!」
何がそんな日々も悪くないのか……俺様は1時間前の自分に嫌気が差している。どうやら俺様の想定するポンコツ具合と、ウォルバク様の実際のポンコツ具合には乖離があったらしい。まさか有り金全部を化粧品に注ぎ込むとは、一体何をしているのか……
「なんでこんなに化粧品を買い込んだのですか……こんなにあっても使わないでしょうに……いくつか返品してきては?」
「つ、使うもん!これは普段使いのナチュラルなやつで、これは濡れても落ちないの、こっちはアダルトな色気を出す為のセットで、これは10歳若く見せるセット。全部用途が違うの!」
えぇ、なにそれ女って面倒くせぇ……と言うか、ウォルバク様にはどれも必要ないのでは……
「濡れても落ちないって、お湯はNGみたいですよ。風呂に使えないのでは不要では?」
「使うわよ!海水浴とかするには必要なの!」
「えっ、ウォルバク様って泳げなかった気が……」
「か、カズマが泳ぎを教えてくれるから大丈夫だもん……」
それは多分、ただ貴方の水着が見たいだけだと思います。そしてどうせカズマは胸ばっかり見るでしょうから、やっぱりこれは不要だと思います。まぁ、流石にそれは言いませんが……
「では、アダルトな色気は何時使うので?」
「か、カズマとおしゃれなバーに行った時に、大人なドレスと一緒に……」
アイツがドレスコードのある店に行くとでも?と言うかその後どうするつもりなんですか?そのままテイクアウトされる気ですか?やっぱり異性として見てますよね?なんなら結構ガチですよね?
「はぁ……それでは最後のこの10歳若く見えるモノは……」
「そりゃ若く見えた方が良いに決まってるじゃない!!」
「即答?!いや、流石にこれは不要ですって!」
シワもくすみもシミも出来ない女神の身体の、どこをどう加工したらマイナス10歳されると言うのか……と言うか実年齢からしたらとんでもない若作りでしょ?!
「酷い!ホーストまで「需要のない数百歳のババァに、たった10年なんてほんの誤差だろ?」って言うのね!そりゃ人から見れば長生きだけど、私そんなに老けてないからね!」
「いやそんなこと言ってま……あれ、数百で収まるんでしたっけ?」
「ふ、封印されてた時期はノーカンだもん……」
「えぇ……それが良いなら、ほんとにもう10歳なんてただの誤差なのでは……」
と言うか、まだカズマのババァ発言引きずってたんですね……
「誤差じゃないわよ!見た目年齢の若さは本当に重要なの!見た目変わらないホーストにはそれが分からないの!」
「俺様だって若い頃はありましたよ!出合った当時はまだ1メートル少しだったでしょ!」
「縮尺変わっただけじゃない!それは老化とか言わないの!私の胸が少しだけ重力に負け始めた所とか、そういうのが老化なの!」
「いやそれも縮尺の問題ですから!」
局所的ですけど!
バァン!!
「うるせぇ!魔王軍幹部とその側近が、馬鹿な喧嘩してんじゃねぇぞ!」
徐々にヒートアップしていった俺様達を止めたのは、魔王軍幹部のセレスディナ様。いつもは諜報活動で不在だが、今日は珍しく非番らしい。
「ったく……不老のてめぇ等が何を馬鹿な言い合いしてやがる。最近100m走で息切れするようになったあたしから見りゃ、どんだけお前らが恵まれてるか……あっ、ウォルバク火ぃくれ」
「駄目よ!その若さで100メートル走れないとか、間違いなく煙草の吸い過ぎよ!いい加減禁煙して!」
「それ、タバコ吸ってないのに100メートル走れないお前が言うのかよ……運動しろよ……」
「……それはイヤ!」
ウォルバク様は、運動に対しては常に怠惰の女神ですからね。しかし、このタイミングで出会えたのは好都合。セレスディナ様にも参戦してもらうとしよう。
「セレスディナ様。せっかくなので女性視点から忠告してください。ウォルバク様が無駄に化粧品を買い漁って困ってるんですよ!」
「無駄じゃないから!今後はちゃんと使うから無駄じゃないから!」
そんなモテたくて弾けないギター買ったやつみたいなこと言われましても……せめて1セットにしてくださいよ……
「なぁ、根本的な問題なんだけどよ?底抜けに不器用なお前がメイクとか出来んの?」
「………あっ」
いや、そこで「あっ」はおかしいでしょ?!無計画が過ぎますよ?!
…………………………
「それで、結局残ったのはこの口紅だけです」
「そりゃあんな顔になるんじゃ、自分で化粧しようとは思わねぇだろ。どんだけ不器用だよアイツは……」
結局ウォルバク様の選んだ化粧品は、口紅一本を残して返品されていった。セレスディナ様の化粧品で試したところ、追求されるはずの美はむしろ減点される一方で、自分に化粧は無理だと悟ったそうだ。セレスディナ様の爆笑に涙目になったウォルバク様の顔は、正直ゾンビかグールにしか見えなかったので、それが賢明なのだろう。
「で、その問題の女神様はどこ言ったんだ?流石に笑いすぎちまったし、詫びに酒を持ってきたんだが……」
「今日は弟子に教鞭を揮っていますから、多分そろそろ帰ってくるかと……」
プリーストのセレスディナ様が詫びに酒を持ってくるのはどうかと思うが、やはり彼女もウォルバク様の数少ない友人の一人だ。喧嘩をしてもこうしてフォローに来てくれるのは、彼女なりの優しさで……
「………恨まれると怖いから高めの酒を用意したんだけどよ?ヤバそうだったらあたし逃げるから、メッチャ反省して心配してたって伝えてくれよ?」
いや、これ保身だな……このプリースト思ったよりクズだな……
「そんな心配しなくて大丈夫ですよ。何せ、今会っている相手はサトウカズマですから……」
「へぇ、ウォルバクの弟子はそんな名前か……あいつの機嫌が治るくらいには、サトウカズマは優秀ってことか……」
サトウカズマが優秀か……そう言えば、俺様もそれは聞いたことがない。柔軟な思考と高度な戦略、そして悪魔級にエグい思考回路をしているのは知っているが、魔法の弟子としてはどうなのか…
「サトウカズマが優秀なのか、それは俺様も知りません。ステータスは平均以下で潜在魔力も平均値、異様に器用な事を除けば、そこら辺の冒険者ですよ」
「そんな奴を弟子にしたのかよ……でも、それならなんで大丈夫なんて言ったんだよ?ウォルバクの奴がマジで不機嫌になったら、こんな隠れ家の1つや2つ、即座に消し炭になんぞ?」
「カズマのステータスは平凡でも、ウォルバク様の扱いは間違いなく超一流です。そこだけは安心して良いでしょう。きっと浮かれて帰ってきます」
まぁ、万が一年齢の話とかしたら、状況は少し変わってくるのだが……
「浮かれるって……ウォルバクはそんなキャラじゃ……」
「ただいまぁ♪」
ルンルン
うわっスキップしてる!!いやこれは流石に俺様でも想定してない!なんかセレスディナ様も表情が凍っていると言うか、本当に何があったらこんな事に?!と言うかスキップ下手だなウォルバク様!
「聞いてよホースト!カズマが口紅似合ってるって褒めてくれてね?日頃からちゃんと化粧したほうが良いか聞いたら、「先生は凄く若くてキレイだから、そんなの必要ないでしょ?」ですって!真っ赤になっていやらしい目で唇ばっかり見てた癖に!本当にカズマってば仕方ない弟子よね!私達はあくまでも師弟関係なのにね!」
バシバシ!
「そ、そうですか……まぁ、俺様には恋愛感情なんて分からないので、カズマの気持ちは分かりませんけど……」
でもこの甘ったるい喜びの感情が溢れ出ているところを見るに、ウォルバク様がとてもご機嫌なのは分かります。えぇ、もうツガイになれば良いと思います。
「いや〜困った困った!これじゃ本気でドレスなんて着ちゃったら、間違いなくカズマの若さが暴走を…………へっ?」
「よ、よう……楽しそうだなウォルバク……」
あっ、今度は凄い羞恥の悪感情が………
「せ、セレスディナ?貴女、なんでここに……」
「こ、この前は言い過ぎたかなと思って酒を持ってきたんだが……いや、もうすっかり元気なようで安心したわ……じゃ、あたしはこれで帰るから、彼氏とお幸せに……[ガッ]おい手を離せ!って、なんかバチバチいってんだけど?!」
「『それは始まりの炎。それは終わりの炎……』」
「「いや流石にそれは駄目だろ!!」」
こうして度々暴走するウォルバク様を止めるうち、俺様はとある考えに辿り着いた。頼むアーネス、早く復活して俺様と変わってくれ。俺様もう、この人と肩を並べるのは戦地だけにしたいから!
「記憶よ消えろ!『エクスプロージョン』!」
カッ!
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
ウォルバクの前でデキる弟子感を出すカズマに対し、カズマの前では理想の師匠感を必死に出しているウォルバク。
嫌われたくないので手が出せないカズマと、プライドのせいで手が出せないウォルバクの関係はそう簡単には進まない。と見せかけて、ここから進展が始まります。
引き続き不定期更新ですが、またお暇な時にでもお付き合いください。