R18百合作品です。
(はじまりはどうであれ)重苦しくなく健全な関係って私にしては珍しいかも知れません。
ああ、いや、という声があまりにも無力な事は自分でも分かっていた。
頬にキス、首にキスしてくるその唇はあまりに柔らかくて。こんな事をされるのはもう何度もあったのに、未だに本当に起こっている事だとは思えなかった。
カノン先輩はきれいですねえ、お人形さんみたい、なんてどこまで本気か分からない誉め言葉を平然と並べるこの子の顔こそ奇妙に愛らしく整いすぎていて、それこそ映画かテレビドラマか何かの脚本を読み、どんな突飛な内容でも平然と演じられる女優か何かのように思えた。
こちらの考え事に気付いたのか、彼女が、私の眼を覗き込んで笑う。
「そんなに熱い目で見ないで下さいよぉ。照れちゃうなあ」
彼女―――まりんは今年の春、うちの高校の演劇部に入ってきた新入生だ。私は二年だから先輩になる、といっても今年でやめるつもりだったのだから、先輩ぶる事なんて出来ないのだけど。演劇部という物に憧れを抱いて入部したのはいいけれども、演技も道具作りも余りに中途半端で。余りに不向きだ、やっていても意味が無いなと気付いてしまったのが一年の冬。そこからずるずると今に至ってしまった。
何故やめるなら今年の春の段階でやめなかったのか―――といえば、まりんが入ってきたからだ。別に変な意味じゃなくて、この子がそれほど人目を引いて演技への楽しさを再度教えてくれるような演技を見せてくれたから。
まりんには華がある。ぱっちりとした大きな瞳はただの飾り物なんかじゃなくて、台本上に描かれたドラマを見て取って、それを自分の中に元からある様な物として映し出すような、そんな才能があった。
才能があって、美人で、みんなの人気者の明るい子。
そんな子が、何の意味があってこんな事をするのか、未だに意味が分からない。
あれは、初夏にやる公演会の前日の話だ。他の地域では知らないけど、ここいらの高校では初夏に演劇部が劇を公演する。小規模な物とはいっても、外から人も観に来るし、部全体の評価にも繋がる。だから誰も気を抜いていなかった。
わたしもそれは同じ―――だったけど、やっぱり他の人とは違ってそれほど熱心ではなかった。舞台裏から完璧にセットされた幕内を見て、みんなのやる気は私とは違うな、なんて思っていたものだ。手を抜いていたわけじゃないけど、自分自身の働きは自分でもよく分かる。
そこには誰も居なかった。今更ながらの悩みでもやついている私と、あの子以外には。
舞台裏の僅かな隙間、纏められたカーテンの合間から突然出てきた両腕が、私の身体に素早く絡みついた。なに、という間もなくしっかりと抱きつかれる。しなやかな腕。大勢の前で身振り手振りを行っても緊張で凍り付いたりはしない、自信を持った腕。
せんぱい、げんきだしてくださいよぉと妙に明るい声が耳元でささやいた。そんなに時間は長くない、一二秒ほど。その後に、まりんは私から手を放し、平然とした顔で裏のドアから出て行った。
それからだ、まりんがやたら私に絡むようになったのは。
それも人が居ない時を特に狙って。そうでなくとも行動を共にしたがるようにはなったけれども、執拗に身体をくっつけ腕を絡ませるのは決まって、誰も居ない時。
どうしてこんなことするの、と聞いても「だってさみしそうだったから」、とこちらに非があるように言ってくる。
私は何もしていないのに。
挙句、ねえ、今度先輩のおうち行っていいですか、とねだってきた。
どうしても真意が分からなくて、落ち付いた場所でゆっくり話しましょう、なんて返したのが間違いだったのかもしれない。
まりんのキスは、やたら深かった。
舌を深く差し込み、こちらの舌を絡めとろうとする。あっという間に絡め取らせて、ずいぶん長く遊ばれていた気がする。ぼおっとした頭で、なんで、と問うと、まりんは可愛らしい舌をちらりと出しながら笑った。
だって、先輩もあたしの事、好きでいてくれるから。
その言葉になにをいうの、と反論する間もなく、キスが別の所に飛ぶ。全身の血が熱い。身体が、両の脚が、重だるくて動けない。
キスは、いつの間にか、服の下まで届いていた。最初は服越しだったのが服をたくし上げて、その後はされるがままに服を脱がされてしまっていた。
下着から胸を押し上げられ、完全に何もかも見える状態になってしまった。ゆだった頭が更に恥ずかしさで煮たてられるような思いがした。
「いやあ……!」
耐えられずに、悲鳴を上げる。
胸はぱつんぱつんに腫れ上がり熱を持ち、乳首は今までにないほど固く立ち上がっているようなそんな状態になっていた。今まで誰にも見せた事が無い所が、他の人、しかも女の子に見られ触られてこんな状態になるなんて。
きれいですよ、カノン先輩、とまりんは平然と言い、固く凝り上がった乳首を口に含んだ。さっきのキスと同じく、柔らかい舌で包み込む。
小さな悲鳴を上げる。痙攣する。何度も、繰り返す。
全身が跳ねあがり、何も出来なかった。
かわいい先輩、ずっと好きですよ、とまりんが下着の中に手を入れてきても、もう抵抗する気も、起きなかった。
指はするりと、何の抵抗も無く入ってきた。
立ち上がった部分も身体の中にも、指はするりと巻き付いてきた。あの時の腕と同じだ。あの時と違うのは、私も腕でしっかりと抱きしめているという事だけ。
まりん、好きよ、と口から洩れた。
こんな事になるずっと前から、ずっと私はこの子を見てきたのだ。ただ、気付かなかっただけで。
まりんが事を起こさなければ、きっと一生気が付かなかった。
まりんが開いている手で私の髪を撫で、一層深く口付けをした。そして、私の身体をいじっていた側の手を放す。え、と意識が一瞬醒める。けれどもそれもほんの一瞬、まりんが身体を動かし、とろけきった私の部分に自分の部分をくっつけてくるまでだった。いつの間に下着を脱いでいたのだろう。そこは私と同じく、完全に濡れそぼってしたたっていた。
今度は素直に意識をとろけさせた。もう自分の気持ちを偽る事も無い。
まりん、まりん、と名前を呼ぶ度に、赤くなった頬をほころばせ、嬉しそうに笑う。
いつもこの子は突飛な事をする。今だって、最初に仕掛けて来た時だって。でもそれにもう悪い感情は持たなかった。だってこの子は、私も知らない私の気持ちを見い出し、刺激を与えただけなんだから。
これからは私も、素直に生きよう。そう思った。
あれからしばらく経ち、私は正式に部活を辞める事にした。
少し名残惜しい気がしなくもないけれども、後に引くような未練は無い。自分の中の整理が付いた気持ちだ。
「あたし、先輩の事見学した時から好きだったんですよねえ」
まりんが言うには、ちょうど一年前にこの学校に見学に来ていたのだという。その時演劇部も開放されており、そこで私を見かけたのだという事だ。何を見て好きになったの、と聞くと美人だけどそれだけじゃなくて、とわざとらしい前置きをしてこう答えた。
「どこがどう好きか、自分ではうまく見つけられなかったから、傍に居たら何かわかるかと思って」
だから演劇部に入ったのだ、と。
よく分からない気持ちの為にそれだけで部に入り、今では花形として活躍しているなんて、世の中には何があるか分からないってこういう事を言うのかもしれない。
そんな不純な目的で部に入ったまりんは今ではすっかり演劇好きになり、熱心に練習をしている。もう部員としては参加しないけど、私も公演は欠かさず見に行く。回を重ねるごとに艶が増しているのが素人の私の眼にも分かった。
まりんは、華やかな場が似合う子なのだ。
まりん、と名前を呼ぶとなんです、と素直に顔を向ける。それが何とも可愛らしくて、思わず意地悪な事を言ってみたくなった。
「女優さんとしての顔はみんなに見てもらっていいけど、一緒に居る時の可愛い顔は私だけに見せてね?」
一瞬何のことやら、といった表情しか無かった顔がどんどん赤くなる。
いやらしいじわるいうのやめて下さいよお、と笑う顔にごめんなさいね、と笑って返した。この子と居ると私はどんどん明るくなる。自分の未来を信じられる。
何が演技なのか本当なのか、それは案外曖昧なのかもしれない。そのあやふやな状態から、私は自分の本当をこの子に見つけてもらった。
見つけてもらった本当を大事にしたい。私の未来、この子との明日を私は今確かに歩んでいる。
―――それはとても幸せな事よね?
声には出さず、その感謝の気持ちを大切にしまい込んだ。