※この作品はR-18です。

澄んだ瞳のあなたへ、   作:甕下 星辰

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※別サイト(ソナーズ/pixiv)にも同作品を投稿しております。

第二話です。
性癖バレちゃった!からの……です。
『いーくん』は「彼女思いで彼女が楽しめてないんじゃないかと色々工夫する」真面目で可愛らしい青年です。しかしその真面目さが爆発して思わぬ方向に行く時があり、その破壊力は凄まじいと言うだけの話です。(そしてその破壊力と相手の傾向が噛み合えば言う事無しになる)
実際にやったら色々滅茶苦茶だぞ!というツッコミはなしで。(フィクション&このふたりだから出来た・深まったお話)


曝すのは寝室の中で

私は今、困っている。

 

誰にも相談した事は無い。話の傾向が傾向だし、内容までじっくり知ると、色々な意味で「何でそんな事が悩みなの」と真剣に話を聞いてくれた相手にすら思われるもしれない。

言い出しにくい話で、そもそも悩み自体が馬鹿馬鹿しく幸せだからこその悩み───『しあわせすぎてこまっちゃう』という物なのかもしれない。

だけど、私は真剣に悩んでいる。

 

いーくんとの───彼との、夜について。

 

経験はほぼ無いのだと、彼は言った。

初めて付き合った彼女と一回だけ、それもあまりいい結果にはならなかったらしく、言い淀んでいたのを覚えている。

相手が悪い訳じゃない、お互いに問題は無かった、後も何か、目に見える『なにか』はありませんでした、けれど何かあったら教えて下さい、おっしゃる前に気付きます、だから安心して下さいね───注意書きを読んで伝える様にはっきりとした口調で、そして少し落ち込んだ、もしくは悲し気な様子で言っていたのも覚えている。本人としてもあまり話したくはない話なのだろう。それでも、伝えてくれた。

ほぼ未経験、しかもそれはあまりいい体験では無かった。そういう事もあって、当初の彼の動きは、指先はぎこちなかった。しかしそれはそれで十分だった。愛されている、一生懸命愛してくれているのだと、私を満たしてくれていたから。───そしてそれが私の『耐えられる』ギリギリだったのかもしれない。

彼はすぐに『上達』していった。

ぎこちない指が滑らかになる。肌に掛かる吐息の熱がこちらを侵食し、身体の内をますます敏感にして、突かれると妙な声を上げ熱く痺れさせる部分を増やす。私の中で増えるだけではなくて彼もまたその個所に気付き、優しく責める。責められる度に思う。もっと激しくして、突き壊すぐらいに突いて、めちゃくちゃにして、と。

 

彼がこういう意味で女慣れしていないのはよかったのかもしれない、とすら最近は思えてきた。もしもっと女を知っていたら。きっと一目で私がどういう女なのか、どういう性質持ちなのか見抜かれてしまっていただろうから。

 

───普通の女はこんなに濡れないのよ。

 

───普通の女なら、こんなに大切に扱ってくれる人に対して『ひどくして』だなんて思わない。

 

そして、それを知られてしまったら。一体彼は私をどんな眼で見てくるのか。

 

よく『自分は嫌がっている・そういう事をあまりやりたいとは思わないのに恋人が夜を強要する』、『行為が好きでは無い、気持ち良いとは思えないが演技をしている』なんて話は聞くけれども、私の悩みはそれとは全く逆だ。

もしいーくんが嫌な事をしてくるなら、嫌な奴から離れて付き合った人、信頼していた筈の人がまた嫌な人だったならば。それなら問題はちゃんと問題の形を取ってくれる。怖いのは、痛いのは嫌だ、嫌な事をしてくる相手は嫌だと思える。離れようなんて考える事も出来る。

けれども、気持ち良くしてくれる、愛してくれる、絶対の信頼を置いて心底離れたくないとしか思えない相手に対しては。気持ち良すぎて知られたくない場合には。

夜の睦み合いをやりたくない理由、『演技』の意味がまるっきり変わってくる。

 

ベッドの中で私は、ずっと演技をしていた。

何処を触れられても声は出ない、それほど良くも無い、軽く触れられただけでも反応するなんてある訳が無く、ただこうやって傍で一緒に居る事だけが幸せだ。───そう感じる事が出来ると願って、少なくとも、いーくんがそう受け取ってくれる事を信じていた。

油断をすると些細な動きでも身体が反応してしまう。下品に腰を振り、獣の様な吠え声で媚び続け、欲望に溶けた顔を晒してしまう。それだけは避けたかった。

幸いにもいーくんは、こんな私の地道な小細工に気付く事なく傍に居てくれた。お互いに欲望など関係無く、お互いを思いやる事を重視したやり取りが出来ていた。

けれども、その『思いやり』は若干妙な方向にも向かってもいて。

 

いーくんは、どうしたら私が気持ちよくなれるかを色々試し始めた。

声を抑えているのを「反応が芳しくない」と判断したらしく、色々な物事をこちらに確認を取った上で試してきた。誤魔化している身としては駄目だと言いたいけれども、そんな事をしたらバレてしまうから───それに彼の思いやりを、やるであろう『そんな事』をどうやってくれるのだろうという思いを打ち消す事は出来ないから。だからいつも私は新たな『そんな事』に身体に火を付けられ、その度にどうやって誤魔化せばいいのか悩み苦しむのだった。

 

ある時、いーくんは「ローションを使って触ってもいいですか」と聞いて来た。

どこでどうするかなんてすぐに分かった。しかしこれなら問題なさそうだ。そうやって造作も無く「いいわ」と承諾した事を、私はすぐさま後悔した。

潤滑剤を付けた指が乳房の先端を走る。なぞり優しく先端をつまんで、駆け抜ける。達筆の筆先にも似た手付きに、握って、先端を指で押し潰して、とは言えない。

 

───それに今のだけでも、はじまりとしては十分よ。

 

彼の右手が私の境目、敏感な器官を露わにしている裂け目に向かう。指も何もかも、中には入らない。彼の指は縁に。肉の境目、だらしない『唇』に。

彼の指は『唇』を丁寧になぞり弾いてゆく。境目をなぞるのと同じ優しい手順で、しかし生えている肉の余りを弄び、選別している。

 

今こうして濡れているのはもう潤滑剤など関係無くなっていた。

不器用な、いえ、大事な部分を触るからとあえて不器用でぎこちない要素が抜けない指に触れられる度、私の内側は粘度を増し、ねとついた液を外に溢し、滴らせた。

 

───こんな事でここまで濡れるだなんて、『普通の女』じゃありえない。

 

漏らす声を堪えて、音量を調節して。思わぬ事を口走らぬようにと、やる事は多い。

 

そうやって頑張っていると次はこっちですね、と声が降ってくる。え、と思う前に衝撃で身体が跳ねた。

濡れに濡れ、屹立した敏感な部分。縁の先端にある陰核が指の腹で撫でられた。いや、撫でられた。そしてそこから既に痛いぐらいに膨らんだそこを摘まもうとした。指と指の腹同士を擦り合わせ、指の中で味わう様に動かした。

くうぅ、と口から悲鳴が漏れる。押し潰された陰核、その下からはとめどなく愛液が溢れた。敏感な部分に思わぬ刺激が走り痺れた。

───もっと乱暴にいじくり回して欲しい。

愛液が泡立つぐらいに掻き回して、勃ってしまっているここも、もっと力を込めて押し潰して。

 

大丈夫ですか、と澄んだ眼が遠慮がちにこちらを見つめてくる。

漏らした声を悲鳴だとでも思ったのだろうか、遠慮がちな顔には心配の色が見える。眼の澄んだ色の青みが濃くなり、遠い涙の予兆すら浮かべている。

 

───いたいわけじゃないから大丈夫、でももっと優しくして。このまま続けてね。

 

そんな風に本当の事は勿論、やめるようにも伝えずに続けさせた私は愚かで卑怯な女で、自分の首を絞める大馬鹿者なのだな、と後で思い知る事になった。

 

いーくんの『技術』は下手ではない。

むしろ器用で飲み込みが良く、こちらの反応を見て色々試してくれる。私の言葉を置き去りにする事も無くちゃんと聞き、『二人で』楽しめるようにやってくる。何の不満もありはしない。

むしろ『技術』が下手ならば、もしくはそっちに興味が薄くあまり行わないのであれば。私はこんな事で悩まなかったのだろうかとすら考えた。

お互いの語り合う事だけ、相手への感謝だけを胸に抱いて、言葉を交わし合う。そんな清らかなやり取りを出来たのだろうか。

いいえ、その場合だと、別に性的でもない動きに、表情のいちいちに興奮するように、身体が仕上がるだけかもしれない。今でもその節があるのだ。日常の節々で興奮し、相手には伝えられないまま自分を鎮めている。───これ以上だなんて、耐えられない。

 

興奮を全て隠しきる事も、自分の内に在るものを正直に明かす事もせず、時だけが少し流れていった。その時の流れは、彼にまたしても変わった選択をさせた。

 

「お願いです。ナツメさんの後ろを───お尻の中を、触らせて下さい」

 

情事が終わり、いつものように耐え抜いた後、彼はこんな事を頼んできた。

思わず顔をまじまじと見た。欲望の色なんて微塵も見えない、真面目な顔である。

しかし語る内容は色の話、それも『アブノーマルプレイ』についてだ。

 

「引かれるかもしれないって分かってます」

 

───『引かれるかも』って、知らないとはいえこんな私に言うなんてね。

 

「俺は色んな意味で未熟です。今のままでも気持ちよくなってはくれるけど、もっと方法や方向が沢山あったら、ナツメさんも違う楽しみが見つけられるんじゃないかと思いました」

 

───これ以上上手くなってどうするの。今のままでも堪えないと大きな声が出て、下手すると意識が飛びそうなのに。

 

「でもどうしても、ナツメさんをもっと気持ちよく出来るかもしれない方法を、試したくって」

 

───『そこ』が気持ちいいなんて、もうずっと前から知っているわ。身体がグズグズになるまで知り尽くしているの。

 

断ってくれても構いません。無理して受け入れないで下さい。もしやるとしても怖くなったり嫌だったりしたら途中でやめますから。

 

───だから、無理だけはしないで下さい。

 

いーくんは、そう言葉を締めくくった。

好奇心や興奮よりも軽蔑されないだろうか、受け入れてもらえるか、もしくは仮に受け入れたとしてあるかもしれない身体の不調やら負傷やら破局、それに対しての不安が表情と顔色に表れていた。ここで断っても、途中で中断しても、寄り添いこちらを心配くれる。それがよく分かる顔だった。

こうやって、口実は沢山あった。だからどう断っても違和感なんか持たれないし、断ったこっちに不満や疑問なんて持たない。むしろ難しいお願いをしたと申し訳なく思い、寄り添ってくれるだろう事は、容易に想像がついた。

 

だから本来ならここで、断るべきだった。

 

しかし実際は。私はそれを受け入れた。いや、自分の欲を優先した。

知りたくなったのだ。彼の美しい指が私の穢い部分にどう入り、入った時どんな感触がするか、どんな感じで中に触れるのか。そしてそれを見て彼は、どんな事を思うのか。

気になって、しまったのだ。

 

───こちらに入り込む感触を、いーくんの指先はどう感じてくれるだろうか。

 

浴槽から上がったばかりの濡れた身体で、そんな事を思い返していた。

OKを出した後、彼は言葉こそ冷静だったものの舞い上がっていたらしく、こちらが妙な事を言っているのにも気付かなかった。

準備は済ませておくから、というこちらの言葉にも、準備って何をするつもりですか、とも聞かなかった。普通だったらそういう事にも気を回す人なのに。

妙な事、他の人に伝えても軽蔑されないかという話を受け入れてもらえるというのは、やっぱり嬉しい事だ。心躍る事なのだ。それをあらためて、実感した。

 

けれども今はそんな事は、どうでもいい。

 

上がったばかりのバスタブに、手を突いて後ろを向く。用意した道具はぽこぽことした突起があって、潤滑剤に覆われていても、温められ開きやすくなった後ろにも、それはここにあると主張していた。

温められた緩くなった皺に潤滑剤の付いた先端が当たり、沁み込む感覚がした。若干意識が痺れる中でゆっくりと進める。つぷっと音がして、どんどん内側に沈んで行く。今更もう声なんか出ない。どんな感覚か、どう気持ちいいかは知っているから。

これは準備だ。宣言通りに、私は準備をしている。いーくんは帰ったばかりで、次会う日までまだまだ時間はあるというのにそうしている。今後ろに嵌め込んでいる道具だけでは終わらない。今日だけでは終わらない。いつもやっているように、もっと色んな物を詰め込んで満足する。そうじゃないと、私は鎮まらない。

ぐちゃぐちゃと、浴室の中に潤滑剤の粘り気が響く。道具を入れ散々に出し入れした肛門はすっかり広がり、管の様になっている。こんな大人しい道具じゃなくても、簡単に入ってくれる。

 

───無理だけはしないで下さい。

 

先程のいーくんの声が、脳裡に響いた。

 

いーくんなら、いーくんの指先なら、どう動いてくれるのだろうか。入口の皺を撫でるだろうか。指先で腸壁をなぞってくれるだろうか。

 

ストロークが短くなってゆく。自分で動かしている道具がまるで自分の意志とは関係無いように動かされ、かくかくと震え降り続ける腰の動きも、こちらの意志から離れようとしていた。

 

いーくんは。いーくんは楽しんでくれるだろうか。うまく誤魔化さなきゃダメ。でも楽しんでもらわなきゃ。あの指も、眼も、心も。私に触れている全部が気持ちよくなってもらわなきゃ意味が無い。

 

脳裡には眼差しも浮かんだ。色素の薄い、澄んだ色の瞳。見つめる物をより良くするかのような、あの瞳。

 

あの澄んだ瞳で楽しいと、感じてもらわなきゃ。

 

身体が即座に震えた。思考は脳裡に移動したまま身体は痙攣し、絶頂の中で果てた。おぉぉ……と口から吐いた、吠え声の名残の様な物が、我ながら耳障りだった。

 

浴槽の縁を掴む手は震えている。けれども手の感覚を失くしてはいけない。立ったままでも次を。やる事考える事は多いのだ。

誤魔化さなきゃいけない事は多い。

反応も、声も、何もかも。

特にこんな事で気持ちよくなれるという思考は、絶対に隠し通さなければならない。

自分から骨が折れる事を選んでしまったわね、と今しがた絶頂を体験し、痙攣の残る脳の中で繰り返し思った。

難しい事であるとの自覚は、あった。

 

その日はすぐに来た。

その日、私達は行為を終え───ちょっと重めの『前戯』ね───、いーくんは使った避妊具の片付けに念を入れていた。さあ後始末に入ったぞという様子から、これで終わり?今日はもうしないのかしら、と思ってしまった。準備はしている。だから問題はない。でもこれはこちらから声を掛けた方がいいのかしら───あの男の場合は一方的に始まる事が、多かったから。それに、『あそこ』を使う経験が無い子の相手をするのは初めてだから。どう声を掛けよう迷ったのだ。

 

それに正直な気持ちで遊ぶんじゃなくて、私は誤魔化して騙そうとしているんだから───

 

そう、ちょっとだけ暗澹とした気持ちになりかけた時だった。

 

「ナツメさん、今日はやりますか?」

 

誘いは向こうから掛って来た。

穏やかな視線。こちらが暗い顔をしていたから誤解させ、変に気を揉ませてしまった。

今日はそのつもりよ、と答えると表情に活気が宿った。

 

『準備はしてあるから』

 

その言葉の意味を、今回もちゃんと疑問に思ったかどうか。

まあ、いいわ。思ってくれない方がこっちとしてもやりやすいもの。

 

ベッドの上で四つん這いになり、彼に全てを見られている───

正直これだけでも、かなり心に来るものがあった。恥ずかしい姿勢を伴なう激しめの行為はなかなかやらない、少なくとも、私の気持ちを考えて、やれと強要してくる事は無い。いーくんはそんな人だった。

だから、『後ろを触りたい』と言われた時は正直かなり驚いた。年上の女に対して『自分は経験不足かもしれない』、『気持ちよさが足りないかもしれない』と考えたにしては変な方向に思い切りが良すぎる。

そういう方向への興味が先走っている、もしくは私が誤解しているだけで、そういう方向の経験はあって私で試そうとしているにしては、欲望が感じられず思いやりが強すぎる。

要するに、何だかよく分からないのだ。そしてその『分からなさ』に私は興奮している。その興奮をどう収め、誤魔化したらいいか困っている。

 

息を抜いて下さい、入れますよ、との言葉に、身体が跳ねた。

跳ねる身体を床の上に落ち付かせるように、彼の指はやって来た。潤滑剤を塗った指でも感触は消えない。指先で入り口の皺をなぞり存分に伸ばした後、ずぶずぶと沈むように彼の指は後ろに入ってくる。

ひゃん!と声を上げまた跳ねそうになる。痛いですか?と穏やかで不安げな声がする。いえ、大丈夫よ、と返す。痛くなんかない。むしろ痛ければこんな風に誤魔化す必要もなく、取りやめにする事が出来た。

 

いーくんが、私の一番穢い所に指を入れている。

 

恐る恐る腸壁を辿る指も、痛かったり具合が悪かったらすぐにやめましょう、言ってください、とこちらを心配する口調も、それとは対照的に指の入った穴を静かに見つめる視線も、何もかもが気持ちいい。私の孔は、孔の周りは既に素人のそれじゃない。ぷっくりと盛り上がり肉厚で、見る人が見れば『そういう女だ』と一目で分かってしまう、そんな状態になっていた。そんな排泄穴をあなたはどんな眼で見ているの、そうやって態勢を変えようとしてもそれは叶わなかった。彼の丁寧な指はまだ後ろに入ったままだし、先程よりも少し激しくなった感覚を味わいたかったからだ。

 

ぐぷっ、ぬちゅっと聞き取りづらい粘性の音が内側から響く。

 

「すみません、もう一本入れていいですか?」

 

後ろから、そう声がした。

 

痛かったら言ってくださいねとの声に、分かっているわと答える。

そんな事を伝えなどしないと、自分でよく分かっていた。

 

二本目が遠慮がちに入ってくる。一本目に沿いながら腸壁をなぞり、潤滑剤と体液の混合液の中でばた足で泳ぎ、はしゃぐ楽しさを伝える。

この頃になるといーくんは長ったらしい口上は殆ど控え、少しの声を漏らすだけになっていた。

 

わっ、すごい、あつい、ぎざぎざしてる。

 

そんな密やかなつぶやきをもっと聞いていたい、ほほえましいわ、だからずっと聞かせて。

そう思う内に、三本目が入って来た。

 

三本目入れます、とこちらに伝える声は妙に割れ、神妙な感覚がこちらにも伝わって来た。

三本目を入れた後、いーくんはほぼ無言だった。

ただ熱い吐息が聞こえていた。若干堪え気味だけれども確かに聞こえた。静かな声とは対照的に中の指は活発だった。腸壁をなぞるでは済まず若干穿つように進み、潤滑剤と体液の混合液の中でのばた足は、全身を使った大暴れに。大暴れが治まったと思いきや指と指を広げ、直径の長さを計るような形を取った。

 

ゆび、広げないで───そうは伝えた覚えがある。

遊ぶ指の他の動きには、声も殺した。

けれどもちゃんと伝えようだなんて、元から思ってなかったんじゃないかしら。

 

粘膜を弄んでいた指がいきなり引き抜かれ、床の上に腹這いになりそうになった。けれども手足に力を入れ尻を掲げ、四つん這いの姿勢を保つ。

───まだ終わっちゃいないもの。

 

熱い吐息が、背後から聞こえた。

聞こえるだけではない。熱い。熱い温度が立ち上り、尻の肉に掛かった。

排泄穴のほんのすぐ側。何センチも離れていない場所から熱が立ち上っている。

散々いじられてきた排泄穴の内から腸液が滴るのを感じた。熱い温度に尻肉が持ち上がり、自然と肛門が開いてゆく。熱気によって、広がってゆく。

 

───何も付けていない、生の『彼』だ。

 

しつれいします、と枯れた声と共に、彼が私の中に入って来た。それの熱気に肛門の襞は沈み、腸壁は熱さに焦がされそうになった。何も付けていない彼の温度を知るのは、これが初めてだった。

 

ゆっくりと彼が動き始める。ストロークはまだまだゆっくりで、少しだけ余裕がある。

 

さて、ここからが問題だ。

 

本気で激しくなくとも内に在る彼の力は強く、また熱かった。初めて直に感じる彼の血管は、彼の熱を直に教えてくれる。

しかもこうして改めてこちらで感じるに、彼はかなり大きい。油断するとこれに全てを引っ張られてしまうかもしれない。

これだけでも、脳が蕩けそうだった。

でも声と態度だけは。それだけは崩しちゃいけない。蕩けそうになりながらもそんな崩れそうな決意だけは保とうとする。

 

ぱちゅっ、ぱちゅっと響くのはお互いの体液か尻の肉がぶつかる音なのか。長きに渡って聞いて来た自分でもどちらか分からない、それぐらい沈みかけていた意識。

 

そこに、声が刺さった。

 

───ナツメさん、これはケツでやったとかイッた事があるとかだけじゃないでしょう。

 

熱で沈んだ頭に思考が回らない。いーくんもそれは同じのようで。口調が変わった声には熱が籠もり、湿っていた。

 

───だってほら。

 

───ほら。

 

やっと思考が追い付いた。と同時に、恥ずかしさで別の熱が湧いた。

今彼に貫かれている秘孔。その下にある本来の用を奪われている最中の秘裂は、何の刺激を受けずとも濡れぼそり、蜜を滴らせ内腿を汚していた。ご丁寧に彼は秘裂の内と内腿を探り『潤滑剤でも別の体液でもありませんよ』とこちらに見せつけ来たのだった。

 

───どうして今まで黙ってたんですか。

 

───どうして。

 

四つん這いの身体の上に覆いかぶさり、彼は更に深く侵入してきた。体重の加わった重い差し込みを激しく、深い所を穿つように叩きつけてくる。激しい動きと広がった孔、責め立てる言葉と肉。これ以上は耐えられそうになかった。

 

「……だって……!……こんな所で気持ちよくなってる情けない姿、いーくんに知られたくなくて……!」

 

知られたくはなかった。私が実際はどんな女であれ、どんなだらしなさを持っていたとしても、せめていーくんの前ではまともな女で、頼れる年上のままで居たかった。

自分の手で全部、駄目にしてしまったけど。

 

ほんの少し間があった。

それから言葉を発したのは、彼の方だった。

 

───オレ、ナツメさんの事格好いい女性だと思ってたのに、お尻で気持ち良くなる人だったなんて……幻滅です。

 

ああ、とこちらの嘆きなんて気にもせず、彼は歌うように言葉を続ける。熱に浮かされて何を言っているのか分かっていないのだろう。それでも身体を離す事は無く、延々と腰を叩きつけてきた。

 

───変態のナツメさん、マゾ牝のナツメさん。

 

熱に浮かされた声に身体が沈む。

卑猥に責め苛んでくる声に心が沈むはずなのに、何故かその卑猥さに声を上げ、あらゆる孔から液を垂らし悦ぶ。

断続的な責めに、あっ、あっ、と切れ切れになる声が重なる。

そして途切れる声に被せるように這った身体が抱きしめられた。

 

───でも構いませんよ。オレはどんなナツメさんも、好きですから。

 

穏やかなその声と反比例して、彼の熱も激しさも今までに無いほどに大きくなった。

迎え入れる私もそれを締め付ける。熱で壁を焦がされながらも包み、持てる力全てで締め付け最高の饗応を提供する。これが私の悦びなのだと、あらめてそう実感した。

そしてやがて痙攣が始まり、内に白濁が注ぎ込まれる。注ぎ込まれた白濁に腸壁が侵食される感覚に打ち震えながらも、勢いを失いそうになった彼を再度締め付ける。

───一回で終わる訳は無いのだ。

 

その後は、それはもう、騒がしいものだった。

何度も後孔を貫かれ、白濁を注ぎこまれた。私は獣の様な声で吼え、這ったまま腰をくねらせて、彼を受け入れ続けた。

限界まで拡張された孔を突かれる度に、おっ、おっ、と、押し出されるように締まらぬ声が漏れる。感度の高い所を押されてはおうっと吠え、絶頂を迎えると濁点にまみれた声で叫ぶ。

その繰り返しで、頭が働かなかった。

ただ単純な牝となり、彼に使われていた。

 

───お願い、私を見て。

 

───私を見て!

 

卑猥にねだり貫かれる度にそう乞う私を、彼は澄んだ眼で見つめていた。

彼の瞳は澄んでいる。例えどんな痴態を見ても、指で開げられた尻肉の先、開き切った後孔を見ていたとしても。

 

散々に使い倒された秘孔は風を感じるまでに開き切り、流し込まれた精を漏らし、泥を吐き出すポンプの様な粘性の音を吐き出している。四つん這いになり掲げた尻には指の跡が沢山付いている。顔は───恐らくは涎まみれの酷いあり様だ。快楽に脳がぼやけ表情を引き締める事も出来ず、笑みを浮かべたまま朦朧としている。

どうしてこんなことになったのかしら、なんて今更考える。

確か最初は、こんなに気持ち良くしてもらうつもりじゃなかった筈だ。

 

───まさかナツメさんがお尻で気持ち良くなる人だったなんて、びっくりです。

 

いーくんの声が響く。

熱が未だに冷め切ってないのだろう、話している内容も口調も高揚している。

 

───でも大丈夫です。これからオレと一緒にもっともっと、気持ちいいコト、たくさんしましょうね♡

 

意識が昂揚しているだけじゃなくて、口調が妙に甘ったるい。

『年相応』とはいかなくても、こちらとの歳の差を考えると十分にあり得る話し方ではある。

 

甘えた声。

全力で相手に寄りかかり遊びつくそうとする、無邪気で残酷な声。

 

そういえば、いーくんは私にこんな話し方をした事は無かったな、朦朧とした意識の中で、そんな事を思い出した。

可愛らしい人ではある。けれどもずっとこちらに気を遣って。楽しくなくはないか、気持ち良くは無いか、と気を回す事が多かった気がする。

真面目で清い人なのはそうだけど、それだけで成り立っている訳じゃなかったのね。

ただ私の前では見せなかった、見せないようにしていただけで。

 

きっかけはこちらの判断ミス、本当なら見せたくなかったんだろうけど。

それでもこうして気楽な姿を出す事が出来たのは、よかったんじゃないかしら。

 

───なんにも心配しなくていいわ。

はしゃぐあなたも、くずれたあなたも、かわいいから。

どんな姿でも、あなたの眼は澄んでいるから。

 

延々続いた乱痴気に疲れた意識が沈みそうになる。

沈む意識の中で、つい先ほどの言葉を思い出す。

 

───これからオレと一緒にもっともっと、気持ちいいコト、たくさんしましょうね。

 

これで終わりじゃないの。

次はどんな事をしてくれるの。

どんな過激な事を、どんな言葉を、用意してくれるの。

 

あなたはこれからもずっと、私で気持ちよくなってくれるの。

 

そんな『次』への約束に頭が痺れ、沈む意識を容易に受け入れる。

───そのいつかも分からぬ『次』は身体を巡り、散々に使い倒された秘裂から、新たな蜜がひとしずく滴り、シーツへと沁み入った。

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