※この作品はR-18です。

純情初心ギャルに染まってもエロ小説が書きたい!   作:サソリザ

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第1話

 人もまばらな放課後の教室。学級日誌を書き終えた僕は、待ちきれずそっと影でスマホを起動する。

 高まる期待に反して、何の通知もない寂しいホーム画面。

 しかしそれは想定通り。万に一つでも僕の正体が知られることがあってはならないため、主要なアプリの通知は全てオフにしている。

 

 はやる気持ちを抑えつつアプリを立ち上げる。通知アイコンをタップすると、待ってましたといわんばかりに大量の「いいね」とメッセージ。

 その瞬間、脳内が達成感で満たされていく。あぁ、何度味わってもたまらない。

 「今回も最高でした!」「先生がまた進化してる……!」「いやいやエロすぎでしょ……」「先生のおかげで今夜もオカズには困りません!」「ご馳走様でした……(合掌)」押し寄せる喜びの声を噛みしめ、小さくガッツポーズを何度も作る。

 

 僕の名は神田和斗(かんだ かずと)……どこにでもいる目立たない男子高校生。

 だが、もう一つの名である「ノロネコ」はそれなりに知られた存在だと自負している。

 フリー投稿創作サイトにエロ小説を書いて早3年。純愛ラブコメをなぞりつつも特殊性癖も織り交ぜた作風を持ち味に投稿し続けていったところ、徐々にヒット作と呼べる作品が書けるようになり、1年前の作品を機に本格的にブレイク。今ではフォロワー数は10万を超え、僭越ながら「倒錯系純愛エロ小説の匠」として取り上げられたりもしている。

 先月の誕生日で晴れて18歳となり、満を持して18禁作品も投稿するようになったのだが、おかげさまで今まで以上の好評を博している。

 

 夜になったらじっくり感想への返事を返しつつ、次回作へのアイデアを練るとしよう。

 心の中で小躍りしつつ帰路につこうとしたところで、教室の入り口付近で談笑する女子数名のグループとふと目が合う。着崩した制服、校則ギリギリアウトなメイク、派手なアクセサリー。いわゆるギャルグループ。

 正直苦手なタイプだ。ただでさえ人付き合いは苦手な方なのに、向こうも僕のような陰気な男を毛嫌いしているであろう上にその嫌悪感を露骨に出すような女子。僕の趣味が知られるようなことがあれば、すぐさま学校中に拡散され、全員からゴミを見るような目で罵倒されるに違いない。それをご褒美と思えるような性癖は僕にはなく、ただの公開処刑でしかない。

 その癖本人たちは、彼氏らしき男との生々しい猥談で黄色い声を上げながら恥じらいもなくはしゃいでいる。

 僕も趣味が趣味だけに性的な話に理解はあるつもりだが、それだけに、そういった話はTPOを弁えて欲しいものだと思う。公共の場でそういう話を見聞きするのも苦手な人は普通に居るものだろう。かくいう僕もその一人だ。

 つくづく僕と相容れない存在である。僕もこういうディープな話をおおっぴろげにできる胆力があれば、そういう友達がリアルにいれば……という一抹の羨望もあるが、やはり僕には縁のない話だ。

 僕は彼女らの視界に入らないように、こちらも視界に入れないようにそそくさと教室を出るのだった。

 

 

 階段を下って帰路につくところで、ふと足を止める。

 しまった。職員室に提出する学級日誌を忘れた。

 

 またあの節操のない女子たちのいる教室に戻るのか。気が引けるなぁ。

 そう思いつつ回れ右し、重い足を教室に向けようとすると、頭上から甲高い声が聞こえてきた。

「神田ちゃーん! 日誌忘れてるよー!」

 上を向くと、階段を駆け下りてくる女子生徒がいた。それは例のギャルグループの一人、黄川弦音(きかわ つるね)だった。

 毛先にパーマをかけライトブラウンに染めた髪をショッキングピンクのシュシュでポニーテールにまとめ、ダボダボのセーターにルーズソックスを着込み、ネクタイを緩めブラウスの胸元を開いた、わかりやすくギャルなファッションの女子。

 僕のような目立たない男子ですらちゃん付けで呼ぶなど、ハイテンションで誰にでも馴れ馴れしく接してくる。しかし、その距離感で勘違いして告白したした男子が取り付く島もなく振られたという噂が後を絶たない。

 やはり現実の女子などそんなものなのだろう。下手な気は起こさず、日陰者は日陰者らしく火傷しないように離れていた方が吉だ。

「あぁ、ありが――っ!?」

 とはいえ社交辞令としてお礼は言っておこう。そう思って階段を見上げた時、見えてしまった。短く折り込んだスカートの隙間から覗く、純白の布が。

 まずい。

 ここで見たとなれば、不可抗力だという言い訳も聞き入れられず、僕が悪者にされて社会的に抹殺される。そんな未来が待っているに違いない。

 慌てて視線を外す僕。

「どしたの――へっ? あっ! きゃっ!?」

 僕の顔の動きで察してしまったのか、反射的にスカートの裾を抑える黄川さん。しかし、その動きによってバランスを崩し、階段を踏み外す。

 そのまま頭から落下していく。

 僕はとっさに受け止める体勢――らしきものを取るが、運動センスなど皆無な僕が落下する人間を抱きかかえるなどという芸当ができるはずもなく、無様にも頭と頭をしたたかにぶつける形になる。

 痛い。頭が割れそうだ。

 などと思っているうちに、勢いのまま抱き合った状態で二、三回転。視界が激しく揺さぶられる。

 なんだか身体の芯から激しくシェイクされ、そのまま遠心力に任せて遠くへ飛ばされるようだ。吐き気がこみ上げてくるが、吐くものが無い。そもそも、内臓すら消失したような感覚。

 やがて身体全体が消失感に包まれ、そのまま意識を手放した。

 

 

「――て! 起きて、神田ちゃん!」

「んん……っ…………」

 ゆさゆさと身体を前後に揺られる感覚。少しずつ意識を覚醒させられ、目を擦りつつ起き上がる。

 なんだか声に違和感がある。聞こえる声はよく知っているようで微妙に違うような男の声。自分の喉から漏れる声は聞き慣れた声とは違った高く甘い吐息。

 上半身を起こすと、視界に垂れ下がってくる明るい色の髪。髪は首筋にもかかっているようだ。

 さらさらした感触も自分の髪とは全然違う。

「あっ。起きた。よかった~。アタシだけ目を覚ましたままとかどうしたらいいかわかんないじゃ~ん」

 男は上ずった声でにへらっと笑いかける。その顔は普段自分がしない表情をしているとはいえ間違えるはずもない、僕じゃないか。

 状況が読み込めないが、なんだか嫌な予感がする。

 どことなく胸や脚にも違和感があり、頭を搔きつつ見下ろすと、そこに広がっていたのはボタン一つ分開いたシャツから見える胸――というかおっぱいの谷間。

「へ……?」

 視界を塞がれているが、手探りで下半身を確認する。どこか自分のものよりむちっとした太腿が床に触れている。床の微かな冷気が直接股を通り抜けるような感覚に恐る恐る履いているものを確認すると、女子制服のスカート。

「あ~。やっぱりそうなるよね~。はい」

 踊り場に据え付けられた鏡の方を向かされる。

 そこにいたのは、呆気にとられた表情の黄川さんと、もはや笑うしかないと言った表情の僕。

 僕が右手を上げれば、鏡の中で手を上げるのは黄川さん。それに連動して胸がたゆんと揺れる感覚。

「あはははは……。アタシたち……入れ替わったっぽいね~……」

 

「どうする! どうするよコレ! ねぇねぇ、もっかい頭ぶつける!? さっきみたいに階段から落ちて頭ぶつけりゃいいの!?」

「お、落ち着いてよ! 下手したらケガじゃ済まないよ。ひとまず、二人きりになれる場所でじっくり考えよう」

 話し相手ができたことでいつものテンションを取り戻した上で取り乱した僕……の姿をした黄川さん。それをなだめる黄川さんの身体に入った僕。

 鏡の中では普段絡まない二人がちぐはぐな仕草でやりとりしており、猛烈な違和感に襲われる。

 

 その後、教室に残っていた黄川さんの友達に急用ができたので先に帰ることを、僕が気恥ずかしさに悶えつつ黄川さんになりきって伝える一幕を経て、高校の最寄り駅に向かう道から外れた場所の小さな公園へと向かった。

 歩くたびに揺れる大きな胸と、それに合わせて弾むミニサイズのネックレス。瑞々しい張りのある生足をアピールする短いスカート。口を開くたびに色付きリップの粘り気によってぷるんとした感触が強調される唇。

 身体の変化もさることながら、服装もまた「派手なイケイケの女子高生」を強調するもので、公衆の面前で女装させられているような羞恥心を増幅させている。

 そんなわけで、公園に着くころにはすっかり視線への過剰反応で僕の身体は茹で上がっていた。

 

「いたた……やっぱりダメだね〜……」

 今日何度目かの頭突きの後、目の前に見えるのは身体をぺたぺたと触って確かめる僕の姿をした黄川さん。やはり元に戻っていない。僕も黄川さんの色々と目のやり場に困る身体のままだ。

 そろそろお互いに頭が痛くなってきたので一休みすることにした。このまま元に戻らなければどうなるのだろうか。僕が黄川さんとして生活することになるのか。今まで目立たない男子高校生として生きてきた僕が、黄川さんのような奔放な女子高生になる。既にいっぱいいっぱいなのにどうすれば……

「あ、あの〜。神田ちゃん? ちょっち相談なんだけど〜……」

 そんな思案は、黄川さんがおずおずと手を挙げながら声を掛けたことで中断された。正座のままもじもじと脚を擦り合わせようとして躊躇し、頬を赤く染めながら上目遣いで尋ねる。不覚にも可愛いと一瞬思ってしまったが、これは僕の身体だ。

「どうしたの?」

 努めて冷静に返す。すると黄川さんは少しずつ正座の脚を広げていく。それに比例してますます真っ赤になっていく顔。

 何が起こっているのか察してしまった僕は、男にとっては慣れ親しんだ生理現象を他人視点で見せられ少々げんなりする。

「こ、コレ……ど、どうすれば……いい、のカナ~……」

 蚊の鳴くような声。それに反して元気にズボンを押し上げる僕の相棒。哀れにも、慣れないリアルの女体との接触の連続でこんな状況にも関わらず興奮してしまったらしい。お前が狙ってるこの身体の中身は僕だぞ。

「し、しばらく待ってれば治るよ……」

 少々ぶっきらぼうになってしまったが、そうとしか言いようがない。アドバイスにもならないアドバイスを送り、しばし沈黙が流れる。

「ダメみたい……っていうかどんどんおっきくなってくるんだけど……! ヤバいヤバい! 助けて~!」

 半泣きになりつつ股間を見せつけてくる。さすがに色々と見ていられない。

 というか君、こういう方面の話に慣れてるんじゃなかったのか。

 

 仕方がない。

 意を決して僕は黄川さんの手を取ると、誰にも見られていないことを確認しつつ二人で多目的トイレに入った。

 

 

「そ、それじゃあいくよ……」

「う、うん……」

 便座に正対して立ち、内股になりながら上ずった声で返事をする黄川さん。その後ろから手を回し、いきり立った一物にそっと近づける僕。

 一体何なんだこの状況は。そう頭の中で何度反芻したかわからない。しかし、ここまでギンギンに勃ってしまえば治まるのはいつになるかわからない。その間黄川さんが僕の顔できゃーきゃー言いながら悶絶する姿を見続けることを思うと、一度ヌいてすっきりした方がいい。

 その判断は間違っていないと自分に言い聞かせつつ、事に臨む。

「ひゃぅっ!?」

 僕の手がソレに触れた途端、黄川さんは甲高い悲鳴を上げる。こちらにもすべすべした手の平ごしにビクビクとした脈動と熱が伝わってきて、つい手を離しそうになる。

 だが、ここまで来た以上最後までやると決めてしまった。自分の相棒に初めて異性の手が触れる機会がこんな形なのはなんとも複雑だが、やるしかない。

「うひっ! あふっ……! やだ、なに……コレ……っ!」

 未知の感覚に悶える黄川さん。こちらまでこそばゆくなるような声を聞きながら、細くしなやかな指を絡ませ、力加減に不規則なリズムをつけてピストン運動する。

 その動きに合わせて、腰砕けになりながら脚を快感でガクガク震わせる黄川さん。

「ハァ……ハァ……っ……ああああっ……! ヤバっ! あひっ!」

 悲鳴を上げるたびに肉棒はどんどん怒張していく。それを感じていると、下腹部の奥からトクトクと何かが溢れてくる感覚。その正体がつかめないことをもどかしく感じつつ、黄川さんが快感に夢中になりすぎて転ばないように両脚をしっかり支える。

 同時に、気づけば膝裏に大きな胸を押し当てていた。柔らかい脂肪の塊がむにゅむにゅと形を変える感触を楽しみつつ、ブラジャーの下でぷっくり膨らんだ乳首を擦りつけ、ピリピリとした微弱な刺激を引き出しながら。

 まさかのサービスに、かつて僕についていた相棒は呆れるほど愚直に反応する。ドクンドクンと大きく脈打ち、ほとばしるエネルギーを今にも発射せんという体勢になる。

「ああっ! ヤダっ! なんか出る! 怖い怖い! 何か出るよぉっ!」

「んっ……はぁ……はぁっ……イけっ! イっちゃえ!」

「あああああああああっっっ~~~~~~!」

 肉棒がひときわ大きく膨らんだかと思うと、熱い粘液を勢いよく一発、二発と撃ち出す。べとっとした感触が手にも精液が少し掛かったことを伝える。

 後ろによろめき、お尻から倒れこむ黄川さん。ぼーっとした頭で胸を押し当てていた僕はろくに受身を取れず、そのまま一緒に後ろに倒れこむ。

「あはっ。あはははははは…………」

 下半身を露出した男子高校生に、胸元を大きく開いた女子高生。多目的トイレの中で二人して仰向けに倒れているというどう見てもマズい絵面だなぁ。

 そんな風にどこかぼんやり考えつつも、靄がかかった頭ではすぐに立ち上がることができず。

 隣で半ば放心状態になりながら半開きの口から乾いた笑いを漏らす黄川さんの姿を見て、僕もどこか満足げな笑みを浮かべるのだった。

 

 

「た、ただいま~……」

 他人の、それも女子の家に我が物顔で侵入する後ろめたさを感じつつ、震え声の挨拶とともに玄関で靴を脱ぐ僕。

 ローファーを脱ごうと前かがみになると、二の腕に当たる胸の柔らかさにドキっとするし、後ろからスカートの中が見えないかと不安になってしまう。

 他人の目がなくてもやっぱりこの身体の無防備さはつい意識してしまう。

 

 結局、トイレでの一件の後も解決法は見つからず、かといって入れ替わりなどという荒唐無稽な話を他人に伝えたところで信じてもらえず混乱を招くだけだろうという判断のもと、今日はお互いの身体に合わせた家に帰ることになった。

 家族に怪しまれることが気がかりだったが、何故か帰る頃には 弦音――「アタシの声でアタシをそんな他人行儀で呼ぶとかありえないし!」ということで強制された呼び名だ――として家の場所や家族への振る舞いなどもぼんやりと思い出せるようになっていた。

 そのおかげで夕食中の会話もどうにかやり過ごし、風呂も弦音の身体を必要以上に触らないよう理性と戦いつつ済ませたところで、宿題をするからという理由で一旦部屋に籠ることにした。

 

「ふぅ……」

 風呂上がりの女の子の香りに包まれドキドキしながら記憶に従い髪のケアを終え、ベッドに倒れこむ。今日の疲れがどっと押し寄せてきた。

 視界に入るのは、コスメグッズや女友達との写真や派手なファッション雑誌などで彩られた、弦音のイメージ通りの賑やかな部屋。

 女子の部屋に入っていることを自覚させられそわそわする。しかもそれがこの身体だと当たり前のことだという事実がなんとも落ち着かない。

 緊張を紛らわすために、普段の癖でスマホでも触っておこう。銀とピンクのビーズでデコレーションされたスマホを立ち上げると指が自然と知らないパスワードを入力し、友達とテーマパークに行った時の写真らしいホーム画面が開かれる。

 普段と違う配置に戸惑いつつインターネットを立ち上げたところで、大事なことを思い出した。

 

 そうだ。作品への感想への返事をしなければ。

 というか弦音に僕のスマホから「ノロネコ」のアカウントを開かれるとマズい! 今すぐパスワードを変えておかないと。

 そもそも、女の子の身体になるとかエロ小説家としてはこれ以上ないネタ探求の機会じゃないか! まさに今まで想像でしか書けなかった様々なエロシチュを試す千載一遇のチャンスじゃないか! 何故今まで気づかなかったんだ!

 

 自分のの本懐を思い出したことで、やるべきことが山のように押し寄せてきた。

 リアルの女性、それも自分とは対極の存在になって振り回されるばかりだったが、これはまたとない貴重な経験じゃないか。弦音に迷惑をかけない範囲で生かさない手はない。

 

 まずは急いで小説関係のログインパスワードを変更。既に手遅れの可能性もあるかもしれないが、なんとか白を切り通そう。最悪、弦音には悪いがこちらも相手の秘密の一つや二つを握っておいて、お互い不干渉ということで手打ちに持ち込もう。

 弦音ちゃんの身体に入っているせいか、エロ小説家としての好奇心に駆られているせいか、思考が楽観的な方向に進んでいく。

 

 さて、まずは返事だ。

 改めて感想を確かめるべく作品ページを開く。すると、夕方よりもさらに多くの感想が寄せられていることを告げる通知。

 早速ウキウキしながら感想をチェックするべく、メッセージボックスをタップ。すると先頭には、特に熱心なファンでいつも長文感想をくれる人からの感想が寄せられていた。

 メッセージを開くと、今回もまたシチュエーション一つ一つの良さの語り。今回もそのありがたみを噛み締めながら読んでいこうと、頭から読んでいく。

 

 だが、僕の頭は瞬く間に混乱と羞恥で塗りつぶされていった。

 

 「表向きは仲睦まじく清らかな交際をする男女、しかし直近に読んだエロ漫画にすぐ影響されて実践したくなる悪癖があり……」というコンセプトの作品。その最初のエロシーンについての感想を見て、そのまま自分が書いた該当箇所の描写を思い出した時、顔からぼんっと音を立てて火が出たかの如く熱くなっていった。

 頬に両手を当てるとすさまじい熱を放っており、全身から汗が噴き出てくる。思わず枕に顔を埋めて脚をバタバタさせ、声にならない悲鳴を上げる。

 男と女が裸になる。

 そんな単純な情景の描写を思い出しただけで、瞬時に頭の中が羞恥心で支配される。特に男の裸を想像するのが恥ずかしくて仕方がない。

 結局、感想も作品も満足に読むことができなかった。

 

 ならば今日の体験をもとに女性視点の描写についてネタ出しだ。思い返せば新鮮な感覚ばかりだった。これを元により煽情的な描写を生み出していけるのではないか。

 そうだ、今日の背後から胸を押し当てながらの手コキ。自分でも書いたことがあるシチュエーションだが、自分が女側になるというまたとない経験ができた。今日の感覚を字に起こすことで相当リアルな描写になるだろう。

「~~~~~~~~~~っ!?」

 またも瞬時に顔面から火を噴き、湯気が出る。

 

 ――なんでアタシあんなことしたの!? チョー変態さんじゃん! っていうかお、お、おちん……ちん……さ、触っちゃった……お父さんのも触ったことないのに……クラスの男子の触っちゃった……あ~~~~~ダメダメダメダメ!

 

 自分の意思とは関係なく、性的なことへの忌避感が思考を乗っ取る勢いで湧いてくる。

 どうやら弦音は貞操観念の薄いギャルのイメージに反して、本能レベルで純情な乙女らしい。

 

 このままではエロ小説どころではない。

 ひとまず頭を切り替えるべく、洗面台に行き水を一杯飲み。ついでに歯を磨いておくことにする。

 

 ――歯磨きってことは……弦音と間接キス!? え、でも今はアタシが弦音だからこれが普通で……でもでも待って待って! 僕は元々神田ちゃんなんだから間接キスじゃん!? うっそ! どうしよどうしよ~!

 

 先程の余韻からか再び初心な思考が頭を埋め尽くしかけたところで、それを振り払うべく、目をぎゅっとつむり頭をぶんぶん振る。

 落ち着いてきたところで、ゆっくり目を開く。

 

 鏡には、僕の知らない一人の女の子が写っていた。

 否。それは、快活な印象のポニーテールを下ろし、メイクを落としたことで思いのほか童顔な素顔が露になった弦音だった。頬は赤く染まり、目は涙で潤み、眉は困り果てたように垂れ下がっている。

 思わず抱きしめたくなるような、純真無垢で儚い少女。胸がドキドキと高鳴り、甘い疼きとなって身体の中に溜まっていく。

 熱に浮かされながら歯磨きを済ませ部屋に戻ると、電気を消してふらふらとベッドの中に潜り込む。

 

 ベッドの中にふんわりと染み付いた甘い匂いに包まれ、疼きを加速させる。

 だが、それを発散させる方法はすぐに霧散していき、もどかしさだけが降り積もっていく。

「んっ……ふぁ……っ。あっ……」

 気づけば、公園のトイレでの出来事を思い返しつつ、うつぶせでベッドに乳首を擦りつけていた。

 摩擦による刺激など微々たるもの。だが、それ以上先に踏み込む勇気は出せず、ただただ乳首への甘い責めを享受する。

 性については純真無垢な性格にも関わらず同年代の女子より大きく育ってしまった胸を、割れ物を扱うようにそっと揉んでみる。手の平から溢れんばかりのボリュームによる弾力の心地よさのみを、自らへのマッサージとして堪能する。そのまま胸を抱えるように持ち、ベッドに乳首を擦りつける支えとする。ほんの少しだけ強い快感に、ビクンと背筋が伸びる。

 

 これ以上先の快感を知りたい。味わいたいという好奇心がむくむくと湧き上がる。むしろ男として、エロ小説家として知らなければいけないだろうという使命感すら燃え上がってくる。

 だが、これ以上はイケナイコトだという禁忌の意識がそれを覆い被さる。えっちなことは大人になってからでしょという戒めが、自らを縛る真綿の縄となって身体を縛り付ける。

 

「ふぁ……あっ……んっ……」

 結局、そこから先に進むことなく、ぬるま湯の快楽に浸り続けることを選ぶ。

 絶頂を迎えることなく、もどかしい快感に全身を甘い疼きに浸らせる。

 あえてゴールを迎えない、ゆるやかな甘イキの連続。時間の流れがゆったりと感じられ、その分だけ気持ちよさが全身に回っていく。

 まどろみと快感が入り混じった夢見心地の快楽に身を委ね、意識が桃色に染まりとろとろに溶けていく。

 

 ――なんでみんなそんなにえっちなこと考えられるの? これ以上先とか絶対怖いじゃん。アタシはこれで十分だもん。

 

 ふと湧き上がった弦音の思考に同調しつつ、意識が完全に溶けきるまで一人遊びに浸るのだった。

 

 

 入れ替わりから数日経った。

 しかし未だ元に戻る兆候は見えず、お互い身体に合わせた生活をしている。

 他人への振る舞いについてはある程度記憶が読めるお陰で問題なくやり過ごせているが、記憶があるからといってその通りに振る舞うことに心理的抵抗が一切が無いわけではない。

 僕はこの数日、地味で目立たない男子としてのマインドのまま明るく社交的な女子としての生活に大いに振り回されているのだった。

 しかも、この黄川弦音の身体の場合――

 

「でさ~。その時見ちゃったんだよね。あいつのチン――」

「ストーーーップ! ゴメン! そ、それ以上は無理~~~!」

 体育館への移動中。

 弦音の友達、乾沙織(いぬい さおり)が週末彼氏とデートに行った時の話になり、やがてちょっとえっちな方向に進んでいく。中断するのは悪いと思っていたが、これ以上はこの身体には耐えられない。身体が火照るのを誤魔化すように腕をぶんぶん振りつつタイムをかける。

「わかってるって~。この辺にしとくね。まったく、ホント弦音は乙女だよね~」

 沙織は僕の頬をぷにぷにと突いてくるが、身を固くしてされるがままになる。女子の急なボディタッチには未だ慣れない。

「それだけエロい身体でオープンな性格してるんだからもっとドスケベでもいいもんなのに~。ホントはただギャルコーデが好きなだけのピュア女子なんてね~。男子からの告白も全部門前払いなんでしょ~? ギャップ萌えですな~」

 もう一人の友達、前原巽(まえはら たつみ)も反対サイドから僕の胸元に手を差し入れ、猫をじゃらすようにあごの下をくすぐる。両サイドからの女子の密着に頭がくらくらしてくる。

「なんか最近乙女っぷりに磨きがかかってない? さっきの着替えもなんかめっちゃ隅っこでこそこそやってたし……」

「処女通り越してむしろ童貞ボーイみたいな~?」

「ご、ゴメン! 先行ってるね!」

 話題が後ろめたい方向に流れていったので、二人を振り払い逃げるように体育館へと向かう。

 その途中、違うクラスの男子とすれ違う。体操服の下で大きく揺れる胸への視線を感じる。またも顔がかあっと赤くなり、慌てて腕で胸を隠すように押さえる。

 

 この身体になってから、えっちなことへの耐性が日に日に落ちているように思える。かつてあらゆる性的な妄想を小説という形にして不特定多数に公開していた僕はどこに行ってしまったんだ。

 今朝なんて、ふと目に入ったドラマの男性俳優の上半身裸のシーンに思わず目を覆ってしまった。男の裸など散々見てきたどころか、元々自分も男だったはずなのに。

 体育館前の柱を背もたれにし、溜息をつく。このままではマズい。身も心も弦音に染まってしまう。

 

 そこで、クラスの男子数名の声が聞こえてきた。

 僕はつい陰に隠れ、様子をうかがう。

 

「えっ。もしかしてお前もノロネコ先生のファンだったの!?」

 慣れ親しんだ僕のペンネームがリアルで聞くことになり、心拍数が急激に上がっていく。リアルの知り合いに僕の正体を明かしたことはなく、大っぴらにネットのエロ小説家の話をする知り合いにもあったこともない。

 ただでさえどう反応すればいいかわからない状況。しかもそれが、今やこの身体には刺激の強い存在の名前。緊張で呼吸が荒くなるのを感じ、両手で口を押さえる。

 

「うん。実は僕も最近ノロネコ先生を知って作品読んだんだけど……どれも最高だよ!」

 

 その生き生きとした声の主は、他でもない。僕の姿をした弦音その人だった。

 あのエロ耐性皆無の弦音が僕のエロ小説を読んだ? 学校に友達らしい友達のいなかった僕の身体でクラスメイトと談笑している? その妙にフレンドリーなキャラはなんだ? どうして僕の身体なのにそんなにキラキラして見えるんだ?

 頭の中を疑問符が埋め尽くす。

 

 そこから話は人目を憚りつつもノロネコ作品の話題で盛り上がり、やがて友達になった証にメッセージアプリのアカウント交換に至った。

 自分の作品をきっかけにぼっちを貫いてきた僕――神田和斗に友達ができた。弦音も僕の身体で上手くやっているみたいだ。あの口ぶりから弦音が僕がノロネコの正体だと気付いていない、あるいは気づいているが受け入れられている。

 いいことずくめじゃないか。

 

 ――なのに、心の中にはどこかざらついた感情が広がっていた。

 

 結局その日は一日中晴れない気分のまま過ごした。

 授業にも身が入らず、沙織や巽にボディタッチされても何も感じず、ただ心にぽっかりと穴が開いたような感覚。

 

 ふらふらした足取りのまま帰宅して部屋に入ると、そのままベッドに倒れこむ。

 大きな胸が押しつぶされ、むにゅりと形を変える。長い髪は乱れ何本かは口に咥えた状態になる。後ろからはスカートの中が覗いているだろう。

 男なら垂涎物の美少女のセクシーショット。

 他にもこの身体を使えば作品の資料となるあられもないポーズはいくらでも取れる。その気になれば元に戻った時のために一生困らないだけのオカズを手作りすることもできるだろう。

 

 だが、エロ小説家・ノロネコはもう死んだ。

 

 入れ替わって初日以降もノロネコとしての活動をしようとした。だが、普通の男子高校生としてはよくある妄想程度の軽いエロですら頭がパンクしそうになり、目を回しながら逃げてしまう。

 作品のテーマにしたことはなかったが、もし一日女になれたらどんなエロいことをするかという妄想も何度かはしたことがある。しかし実践できたのは、欲求不満が高まるばかりの甘イキオナニーだけ。

 そうして生殺しにされている間に、弦音は逆に僕の身体になったことでエロへの抵抗はなくなったのだろうか、男としてエロを楽しんでいるようだ。しかも、それをきっかけに持ち前の社交性で友達まで作ってしまった。これから人目を忍びつつエロ談議で盛り上がるような、青臭い友情を築いたりするのだろうか。

 そしてあのいつかは彼女を作り、妄想を現実に――

 そこまで考えてまた頭が茹で上がり、脳内がギブアップを宣言。枕に顔を埋め、溜息をつく。

 

 弦音の方がよっぽどリアルの神田和斗を充実させることができる。彼女の魅力的な人柄ならエロへの好奇心旺盛な男子高校生という立場も最大限生かすことができるはずだ。

 一方僕は、黄川弦音の立場に流されるばかりで何もできていない。今でこそ記憶を読んでそれっぽく振る舞うことができているが、やがて僕自身のつまらない人柄によってボロを出していくのだろう。

 そして、ノロネコとしての作品を書ける者は誰もいなくなり、このまま消滅していく。

 

 いっそ全てを忘れて、身も心も弦音に染まってしまえれば。ギャル活動に精を出しつつもエロ耐性のない花も恥じらう乙女として友達から可愛がられる女子高校生になりきることができれば――

 

 そんな仄暗い思考は、スマホの空気を読まずパリピ全開なハイテンションの着信音によって中断された。

 ブレザーのポケットに手を入れて、相手を確認すると「神田ちゃん」の文字が。つまり僕の身体の弦音からだ。

 ある意味今一番話したくない相手だが、出なければ全文語尾に!?や絵文字のついたメッセージの嵐に晒されることは経験済みだ。今日何度目かの溜息とともに電話に出る。

 

「もしもし神田ちゃ~ん? 今何してる?」

 音声がクリアに聞こえる。まだ学校なのか、あるいはもう家に着いているのか。

「あ~。家でちょっと休んでるとこ。今日はなんだか体調が悪かったから」

「そっか。だから今日はなんだか元気がなかったんだね。アタシの身体は強い方だけど、具合悪いならしっかり休んでね」

 誰のせいで――と言いかけて口をつぐむ。これは完全に八つ当たりだ。

「あの……もし今日のアタシを見て気を悪くしたのなら謝らなきゃって思って。神田ちゃんのスマホに入ってたノロネコっていうその……え、えっちな小説書く人のページ、なんか知らないけどめっちゃ読みたくて仕方なくなって勝手に見ちゃったし、ノロネコさんの隠れファンだっていう男子がいたから友達になっちゃったりして。ごめんね、神田ちゃんには神田ちゃんの人間関係があるのについ勝手なことしちゃって……」

 意外な展開にこちらが驚いている間に、弦音はさらに話を続ける。

「アタシ、こんな風にギャルやってるけど昔からえっちなことは全然ダメでさ。もうちょっと想像するだけで怖さとか恥ずかしさで倒れそうになっちゃうの。でも、ノロネコ先生の書く話はすっごいえっちなんだけど、男の人と女の人が幸せになる話もいっぱいあって。それでえっちなことも怖いばっかりじゃないんだって思えたんだ。そう思ったらつい全部読んじゃって……男の子のお、オナニーってやつ。いっぱいしちゃいました☆」

 ぺろりと舌を出しておどけつつもバツの悪そうな顔をする自分の顔が浮かぶ。自分が絶対にしない表情。だが不思議と嫌悪感はない。

「そんな感じでノロネコ先生の大ファンになっちゃったわけだからさ~、クラスにもノロネコ先生の話をこっそりしてる子を見つけた時にはホント嬉しくってつい声掛けちゃった。あ、佐藤ちゃんも井上ちゃんもビックリしてたよ~。ま、そりゃ急にリアルでネットのエロ小説の話してるとこ見つかったらそうなるよね~。でもすぐお友達になっちゃった♪」

 心の中にふつふつと湧き上がってくる熱。それは、エロへの羞恥心などではない。エロ小説家としての栄誉。創作者としての誇り。

「ってことでノロネコ先生の小説はマジでオススメだよ。あ、でも女の子の気持ちの書き方はちょっとだけ雑な気がするから、今は女の子になってる神田ちゃんにはすこ~し引っかかるかも……じゃ、今日はゆっくり休んでね~。ばいば~い」

 最後に少々ぐさりと刺さる辛口コメントを残しつつ、最高のファンは一方的に掛けてきた電話をこれまた一方的に切っていった。

 

 通話の切れたスマホをそのまま操作し、数日ぶりにノロネコのSNSアカウントを起動する。

 そこには、以前より多くの感想が押し寄せていた。

 エロ描写を絶賛する声。ストーリーに胸を打たれたという声。妄想を形にしてくれたことを感謝する声。次回作を待ち望む声。

 

 訂正しよう。エロ小説家・ノロネコはまだ死んでいない。

 僕も創作者だ。失ったものはまた創ればいい。

 

 差し込む夕日に照らされたスマホを、弦音の綺麗な指に力を込めて握りしめた。

 

 

「ちーっす! ささ、上がって! って……うぇ~い。これまた可愛いカッコで来たね~。百点満点! まさにアタシ一番のお気に入りのギャルかわコーデじゃん♪」

「あ、あんまりジロジロ見るなよ……」

 胸元のゆるい肩出しTシャツにホットパンツ、アメコミ調のキツネが描かれた黒のパーカー。今日の目的のために弦音の記憶から「一番好きなコーディネート」を引き出したところ、気づけば鏡の前で小躍りでしながらこの露出過多な装いに身を包んでいた。

 さらに「今日はお休みじゃん? いつもよりバッチリ決めちゃえ☆」という内なる声に導かれるまま、普段以上にキラキラ感多めのメイクも施されている。その結果、学校で見るより一層眩しい、日陰者の男子が演じるには荷が重すぎるギャルの姿が完成していた。

 弦音の上から下まで撫でまわすような視線から逃げるように、そそくさと家に――神田和斗の家に入る。およそ一週間ぶりの帰宅だ。

 

「さてさて。おうちデートってやつだね~。どうするどうする? 何して遊ぶ?」

 ウキウキ顔でゲームソフトのケースから二人プレイ用ゲームのカセットを並べる弦音。ひとまず、エロ小説の思考に完全に支配されて「若い男女が親が外出中の家に二人っきり。ヤることはただ一つ……」などと言い出さないことにほっとしつつ、男子高校生を通り越して男子小学生のような振る舞いに少し頬が緩む。

 デート……僕にとっては当然初めてだし、もしや弦音にとっても初めてなのだろうか。

 今ならわかる。告白を全て断ってきたのも、男女の交際と聞いていずれえっちなことをする関係になることを想像し、キャパシティが追い付かずパニックになってのことだろう。そこへの恐怖心が取り払われた今、デートなるものを純粋に楽しんでいるということか。

 

 そんな弦音の姿に、僕も少し背中を押された気がした。

 

「弦音。僕に……え、えっちなことを教えてください!」

 

 勢いに任せて言ったと同時に顔から火を噴く僕。僕の爆弾発言に思わず本来の自分に戻ったのか同じく顔を真っ赤にして吹き出す弦音。

 しばし流れる沈黙。

 僕は咳払いとともに、事情を一から説明することにする。

 スマホを起動し、ノロネコのアカウントのホーム画面を起動し、弦音に見せる。

 

「僕がノロネコだ」

「え――――。またまた~! 神田ちゃんみたいなマジメな子にこんなエロエロな話書けないでしょ~!」

「神田和斗。“神”と“和”の字を一部消して残るのが……」

「ネコとノロ……え、待って待って」

 あわあわと目を泳がせ口をパクパクと開ける弦音。

「ちょ――嘘でしょ!? ヤバいヤバい! 推しが目の前にいる! っていうかクラスの男子だった! あ、でも今は女子だった! ってそれアタシじゃん! どゆことどゆこと! とりあえず握手して! サインちょーだい!」」

「ちょっ!? 話はこれから――うわっ!」

 語彙が怪しくなりつつ握手やサインどころかハグの体勢に入る弦音。とりあえず弦音を落ち着けるため熱い抱擁に応えた後、事情を説明する。

 

 弦音の身体に入ったことで性知識が失われ性への抵抗感が強まってしまったこと。今のままではノロネコとしてエロ小説が書けないこと。ノロネコとして復活するためにもう一度エロへの積極性や想像力を取り戻したいこと。

 

「ゴメンね。アタシがえっちなことにダメダメだったせいで……神田ちゃんが――ノロネコ先生が小説書けないようになっちゃって……」

 しゅんとした表情で項垂れる弦音。

 

 やっぱり最高のファンが悲しんでいる姿を見るのはこちらも辛い。だからこそ、なんとしても復活しなければ。

 

「弦音は悪くないよ。女の子の身体になるなんて夢のような経験を生かせないなんて、僕が力不足だったからだ。でも、どうやらこの状況は僕だけでは乗り越えられないらしい。だからお願い、弦音の力を貸してほしいんだ」

 まっすぐな眼差しを弦音に向ける。軽そうな見た目に反して真剣な表情をした黄川弦音の姿が、弦音が入った僕の身体の目に映る。

 弦音の目が意気揚々としたものになる。

「よ~し! わかった! ノロネコ先生がまたエロエロな小説を書けるように、えっちなことをたっぷり教えちゃうよ!」

 

 

「じゃあ早速だけど……えっちなことをお誘いするなら、それなりの言い方があるよねぇ……男の人がえっちなことしたくなるように、ちゃんとお願いしてごらん? そんな見た目して実はえっち初心者な弦音ちゃん?」

 突如、やけにねっとりとした口調で語りかけつつ肩に手を置く弦音。淫魔が支配する空間に迷い込んだようで、思わずごくりと生唾を飲み込む。こちらも覚悟をもって教えを乞う姿勢を見せろということらしい。

 恥を捨て……きることはできないが、弦音にしなだれかかり、上目遣いで媚びるような口調で懇願する。

「あ、アタシに……えっちなことの気持ちよさを教えて? 神田ちゃん……?」

「ふふっ、いいよ。じゃあ……それっ!」

「きゃあっ!?」

 元自分の身体からこんな甘い声が出るのかと驚いたのも束の間、両肩に手を当てられたかと思うと、そのままカーペットに押し倒された。

 突然のことに頭が真っ白になる。

 一体自分はこれからナニをされるんだろう。実体験こそなかったものの常日頃から思い描いてきたシチュエーション。しかし今は、何が起こるのか一切イメージできなくなっている。

「んんっ――――ちゅっ……ぷっ…………ぷはっ……!?」

 突然視界に弦音の顔が覆い被さってきたかと思うと、抵抗する間もなく唇を奪われた。

「れろっ…………あむっ……………ちゅ……っ」

 舌を絡め、唾液を押し込み、口内全てを舐め尽くさんとする濃厚なキス。粘っこい舌が侵略してくるたびに甘い痺れが身体全体を駆け巡る。

 同時に、男にキスされているという事実を自覚し、身体が猛烈に熱くなってくる。

 

 ――キスってこんな感じでしちゃっていいの!? えっ? 男の人と女の人がちゅーしたら赤ちゃんできちゃうんじゃなかったっけ!? えっでもそれは違うんだっけ……?

 

 弦音の乏しい性知識に流されそうになり、混乱が頭を埋め尽くしていく。しかし身体はどんどん昂っていく。

「――ぷはっ。弦音ちゃんのファーストキス。ごちそうさまでした♪ これで僕と弦音ちゃんの赤ちゃんができちゃうね」

「え――」

「っていうのはさすがに冗談――って噓でしょ? その顔、信じちゃったの?」

 長いキスで蕩けた顔が、羞恥でさらに赤く染まっていく。

「う、うっさい! 一瞬そう思っただけだし! ホントは違うことくらいわかってるし!」

 ついムキになってしまい、横に添い寝する体勢になっている弦音をぽかぽかと叩く。

「あはは。可愛いなぁ、もう。じゃあ弦音ちゃん。どうやったら赤ちゃんができるか……わかる?」

「えっ……それは……その…………お、男の人の……アレを……」

 そこから先は女子だけの保健の時間に習ったから一応知っている。しかし、自分の口から言うことなど絶対にできない。

「うんうん。弦音ちゃんは初心で可愛いなぁ。大丈夫。いきなりはシないから。ちゃんとじっくり準備してからね」

「あふ……ふぁぁぁっ……っ!?」

 突然耳に感じた、生暖かく湿った感触。先程僕の口の中を舐めていた舌を、今度は耳に入れてきた。ゾクゾクとしたくすぐったさが耳を通じて背筋を伝っていく。

「あ~。やっぱりその身体、大事なところを直接触るのが怖くて色んなところマッサージしながら甘イキしてきたから、色んな所が開発されてるっぽいね」

「ふぇ……?」

 なんで耳でこんなえっちな声上げちゃうの? そう思っていると、次は首筋を甘噛みしてくる弦音。

「ぁあっ!?」

 痛くはない程度の刺激だが、全身から力が抜けていくような絶妙なくすぐったさ。

「つまり弦音ちゃんは……全身性感帯の、とってもえっちな女の子になっちゃってるワケ♪」

「ふぁああ……。――あぁっ! んにゃああっ!?」 

 耳元に温かい吐息が吹き込まれ、くすぐったさによる強制的な脱力。

 からの、いつの間にかシャツの下に入れられていた大きな手で乳首を捏ねられた。

「よいしょ――っと。うわぁ。改めて見たらアタシ――弦音ちゃん巨乳すぎでしょ! これは男の子が放っておかないわけだよ」

 なすがままにシャツもブラジャーも剝ぎ取られ、手の平では覆いきれない胸が外気に晒された。男の性欲の虜になった目でじっとり見つめられ、思わず両腕で胸を隠す。

「いいねいいね。わかってるじゃん。とってもえっちなポーズだよ、弦音ちゃん。そういう仕草されたら、ますます触りたくなっちゃうなぁ」

「ううう……」

 さっきからどこを触られても気持ちよくなっちゃう。アタシも――僕もこの身体になってからおっぱいを刺激するオナニーは一応してきた。でも、大事なアソコには触れていないにも関わらず今までやったどんなえっちよりも気持ちいい。

 弦音の手つきや言葉は気持ち悪いはずなのに、不思議と嫌悪感はなくて身体はますますえっちな気分になってしまう。

「じゃ、おっぱいは弦音ちゃんと僕、一緒に触ってみよっか?」

 そういうや否や、弦音は背後から身体を重ね、僕の右手を取る。するとそのまま、僕の右胸を揉ませた。

「ああっ! んんっ……!」

「あはっ。やっぱり男の子になって揉んだら柔らかくて気持ちいい! ほら、もっともっと! 乳首の方を触ると弦音ちゃんも気持ちよくなれるよっ!」

「ふぁああっ! ちょっ! やめ――んああっ!」

 右胸は弦音が上から重ねた手で揉まされ、左胸は弦音が直接揉み。おっぱいを使ったオナニーはこうするのだと身体で教え込むかのようなプレイ。

 実は僕も入れ替わった初日に風呂に入る際に好奇心には抗えず胸は揉んだし、毎晩乳首を擦りつけるオナニーはしてきた。しかし、それは本当の意味でエロを知らない乙女の一人遊びに過ぎなかったと思い知らされる。

「はぁ……はぁ…………」

 乳揉みから解放された時にはすっかり息も絶え絶えになっていた。しかし、絶妙な力加減によって快感によって意識が飛ぶようなことはない。絶妙なところで快感をセーブされているようだ。

 おかげで身体はすっかり出来上がり、あと一歩の刺激を欲した状態になっている。

「さてと……これ、な~んだ?」

「きゃっ! な、なななな…………」

 霞んできた視界に突如映り込んだのは、大きく勃起した男の象徴。それを見て、本能的な嫌悪感とその奥にある好奇心に頭が埋め尽くされる。

 

 ――これが男の人のおちんちん? うわぁ、生で見ちゃった……っていうか大きすぎ……男の人ってこんなのぶら下げて生活してるの?

 

 もはやそれが自分についていたものだということも忘れて、未知の部位をまじまじと見つめていた。ソレが上下左右に揺れるたび、無意識のうちに目で追ってしまっている。

「すっかり夢中みたいだね。さて、弦音ちゃん。さっきの質問だけど、男の人がこれを女の人に入れるえっちをすれば赤ちゃんができるかもしれないんだよね。今日はさすがにゴムを使うけど……どう? ここまで来たら挿れてほしいよね?」

「…………」

 最初はあれだけ怖かったえっち。しかし弦音が僕の、弦音の身体もえっちなことも知り尽くしたテクニックによってこの快楽に夢中になっていた。

 ここまでくれば、最後までヤらないという選択肢はありえない。

「ふふっ。顔に書いてるじゃん。じゃあ……どうしてほしいか言ってごらん?」

 自分を縛っていた縄がするするとほどけ、自分を覆っていた壁が崩れていく。

「そのおちんちんを……アタシの膣内に挿れてください……っ!」

 焦点の定まらない目で、それでも弦音を見つめながら笑みを浮かべつつ懇願する。

 言えた。アタシにも――僕にもえっちなことができた。

「ふふっ。よくできました」

 慈愛のこもった眼差しを向けつつ準備する弦音。僕もホットパンツを脱ぎ、パンティーを脱ぎ、股を開いた体勢で備える。

 膣内はとっくにびっしょりと濡れ、いつでも男根を受け入れられる状態だった。

「じゃあ、行くよ!」

 互いの股間を宛がい、凹凸が重なる感触。やがて異物が侵入し、上下に暴れながら進行してくる何とも形容しがたい感覚。だが、入ってくるたびに電流のような快感が全身を駆け巡る。

「ああああっ! んあああっ~~~~!」

「ああっ! 神田ちゃん――弦音ちゃんの膣内、とっても締まってくる! 処女まんこで童貞卒業、とっても気持ちいいよぉ……!」

 処女、という言葉に少し引っかかるものを覚える。やがてその意味はすぐわかる。

 突然、身を割かれるような激痛。痛い。どうやら血も出ているようだ。

「ふぐぅぅっ! ああっ!」

「ゴメン! 大丈夫!?」

「あぐっ! う……うんっ! 挿れて……!」

 繋いでいた手をさらに強く握る。そしてそのまま弦音の身体を引き寄せる。

 さらに痛みは強くなる。しかし、この先を知りたい――

「あああああああああっ! ああ~~~~~っ!」

 ぷちっ。と身体の中で何かが切れる感覚。それと同時に、堰を切ったように押し寄せる波のような快感。

「あはああああっっっ! イイっ!」

「神田ちゃん! 僕も――アタシも出すよ!」

「いいよ! 僕もイく! イっちゃう!」

「じゃあ、一緒に――――ああああああああっっっ!」

「ふぁあああああぅっっっ!」

 身体の中に温かくドロッとしたものが注ぎ込まれる感触。それは薄いゴムに阻まれ、膣内に流れ落ちることはない。

 しかし、それを自分の中に溜めておく状態がどこか心地よかった。

 

 精液を出し切り、勢いが萎えたことで抜け落ちるかつての相棒。

 それをどこか名残惜しく思いつつも、僕は多幸感と達成感に包まれていた。

 

 えっちって怖くないじゃん。

 これがリアルのえっちなんだ。

 

 僕と弦音。どっちがどっちの思考なのかわからない。

 しかし、どちらも同時に、二人とも考えていた気がする。

 僕は弦音と手を重ね合わせ、微笑みあいながら気怠い快楽の余韻を楽しんだ。

[newpage]

 新作投稿の翌日。

 この瞬間はいつも心が高鳴る。どんな感想が寄せられているのか。どんな評価を獲得したのか。

 

 特に今回は、ノロネコ改め「ノロネコきつね」名義の新作、それも「男女の入れ替わり」という新たに挑戦する題材。果たしてどうなるか。

「ねぇねぇ。新作の評価、一緒に見ない?」

「わっ! 急に声掛けないでよ……」

「えへへ~。一緒にコンビ組んでる仲じゃん。固いこと言わないでよ♪」

 人懐っこい笑みを浮かべる、かつて僕のものだった顔。今はギャルコーデ好きのオシャレ女子がその身体を使っていることで、どこか垢抜けたオシャレ男子へと変貌している。

 エロ談議仲間とは相変わらず仲良くやっているようだが、いつ口が滑って僕たちの正体をバラさないか内心冷や冷やしているのだが。

 まぁ僕の方も、メイクを落とした清楚女子モードの弦音の姿もこっそり楽しんでいるのだが。この状態で登校しようとした際は弦音に全力拒否されたが、沙織や巽には好評だったことは内緒である。

 とはいえ、このギャル姿の弦音が一番弦音らしいと僕も思う。だから内心恥ずかしさを堪えつつこのスタイル抜群の身体を見せつける派手な格好で生活するのだが、最近はそういう格好も少し楽しくなってきたのも内緒である。

「そのことはリアルでは内緒って約束だろ? あと、つ、付き合ってることも……」

「あ、照れてる~! エロが書けるようになってもすぐ恥ずかしがっちゃうのは変わらないんだよね~。可愛い♡」

「こら~! そうやってすぐからかうな~!」

 

 あれから僕は――弦音の身体はエロへの恐怖感を克服し、エロ小説を読んだり書いたりすることができるようになった。

 そこから自然と入れ替わりという秘密に加え、僕の正体がノロネコだという秘密まで共有した弦音とは、恋人件エロ小説家コンビとして活動するように。

 女性視点の描写について監修をお願いするようになった。といっても最近では男女の視点の感覚も徐々に入れ替わってきている気があり、単なる二人体制小説家になりつつあるのだが。

 

 そんなこんなで生まれた新作、どういったコメントで僕たちの背中を押してくれるのか。

 僕たちは頬を寄せ合い、期待に胸を躍らせながらページを更新した。

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