※この作品はR-18です。

TENZIマジカル珍宝帖 ~私の嫁はラスボスでした~   作:ポチ&タマ

40 / 45

 近日中と言ったな。
 皆さんの感想パワーのおかげで翌日投稿ができたよ!



1ページ裏 その2(カグヤ)

 

「――っ! ついに来たか……!」

 

 途方もないチャクラが猛スピードで接近しているのを感じる。

 ワラワやテンジをも優に超えたこの感じ、間違いなく大筒木の追っ手だろう。

 

「とうとう来たようですね」

 

 ワラワと同じくチャクラを感じ取ったのか、テンジがやって来る。

 すでに戦装束に身を包んでおり、その顔はいつになく真剣なものだ。

 

「テンジ様、カグヤ様!」

 

「ものすごいチャクラを感じます! もしや、以前仰っていた追っ手が!?」

 

 異変を感じ取ったアイノとアイナがやって来た。

 見ればハゴロモたちも何事かと騒いでいる。

 

「うむ。間違いなく大筒木の追っ手だ。これよりワラワたちは奴らを迎え撃つ! ハゴロモとハムラはアヤメたちと協力し合い、民を避難させよ!」

 

「避難が終わり次第、七段以上は私たちの元へ来てください。主にサポートをお願いします。六段以下は避難所で待機し、民たちの安全を確保に努めるように」

 

「わかった!」

 

「はい、父上!」

 

 ワラワとテンジの言葉にハゴロモとハムラが駆け出す。七段というのはテンジが作った段位を指す言葉である。テンジ流戦闘術と言ったか。

 一段から十段まで位が存在し、数字が上るほど強者として認められる。体術・武器術・チャクラ術・心法からテンジが総合的に判断し、段位を言い渡されるのだ。

 ハゴロモとハムラはともに七段。七段以上となると、ワラワが知る限りでは五人にも満たないはず。

 

「どうするつもり? 七段以上だと少すぎる」

 

「わかっています。あくまで主戦力として働くのは私たち。彼らであればサポートとして十分に通用するでしょう。それに、こちらには我が軍もいますので」

 

「……準備の方は?」

 

「すでに各部隊に召集をかけています。追っ手が到着する頃には迎撃準備が整うでしょう」

 

 さすがテンジ。戦働きにかけてそなたの右に出るものはいませんね。

 

「そういうカグヤこそどうなのです。この時のために色々と準備してきたのでしょう?」

 

「うむ、まあ万全とはいかぬが、必要最低限の数を揃えることは出来た。個々の力はそれほど高くないが、囮や罠として使えるであろう」

 

「そうですか……。あぁ、来たようですね」

 

 テンジの言葉を受け空を見上げると、太陽を背にした男が二人。

 巨漢に細身の男……こやつらは……!

 

「モモシキとキンシキか……!」

 

「お知合いですか?」

 

「顔見知り程度ではあるが。心せよ、あの細身の男にチャクラ術は効かぬ」

 

「ふむ。まあ戦ってみれば分かりますか」

 

 ゆっくりと空から降りてくるキンシキたちは、ワラワたちを――いや、ワラワを見下ろすと表情を歪めた。

 その色は、侮蔑。ワラワたち大筒木が他種族を見下すそれである。

 

「何かトラブルかと思ってきてみれば、まさか裏切っていたとは。イッシキの姿もないようだが、まさか倒したのか? お前ごときが?」

 

「イッシキ殿とカグヤ殿では力の差は歴然。真っ向勝負ではまず敵わないでしょう。となると――」

 

「不意打ちか。フッ、イッシキめ、様がないな。で、こっちはこっちで裏切り者か。それも下等生物に尻尾を振るとは、大筒木の面汚しよな」

 

「如何いたしますかモモシキ様。どうやら、神樹の実はカグヤ殿とあの土着人の三人に分かたれているようですが」

 

「決まっている。手間だが、チャクラを回収する。幸い神樹はまだ健在だ、まだ実をつけることができるだろう――ぐっ!」

 

「ぬぅっ!?」

 

 呑気に構えて話し合っていた二人だが、強制的に口を閉ざされた。

 いつの間にか奴らの背後に回り込んでいたテンジが、二人を蹴り飛ばしたのだ!

 

「お喋り中失礼。あまりにも隙だらけだったもので」

 

 彼奴らを視界に捉えていたワラワでさえ、攻撃する寸前までその姿が見えなかった!

 まるでワラワたちが扱う神術のように突然、空間から躍り出てきたかのように表れたように見える。

 これが以前言っていた、自然と一体となって自らの姿を周囲に溶け込ませる技“圏境”!

 これが武術の真髄か!

 

「くっ、まさか我らが不意を打たれるとは……!」

 

「些か、下等生物と侮りすぎたか……。キンシキ、そやつの相手はお前に任せる」

 

「御意!」

 

「やらせはしない! 出でよゼツたち!」

 

 ワラワの号令にともない、地中からゼツが次々と姿を現し始める。

 当初は無限月読で民たちを依り代に大量生産するつもりであったが、いささか愛着が湧きすぎた。

 そのため犯罪者を中心に作り出したのが、このゼツたちだ。

 百しか用意できなかったが、奴らの足を引っ張る程度は出来るだろう。

 

「行くぞお前たち、テンジ様とカグヤ様をお守りしろ!」

 

「敵は強敵ぞ! 二手に分けて合流を阻め! 術兵隊は用意ができ次第、一斉発動だ!」

 

「弓兵隊! あの巨漢目掛けてありったけの矢を射掛けよ! 案ずるな、テンジ様ならこの程度のらりくらりと躱してくれるわ!」

 

 テンジの兵士たちが部隊を引き連れてやって来た。

 テンジの方が気がかりであるが、ワラワも人の心配をしていられるほどの余裕はない。

 テンジよ、死ぬ出ないぞ……!

 

 

 

1

 

 

 

 カグヤが細身の男――モモシキと対峙している間、テンジはすでに戦闘の真っ只中であった。

 相撲取りのように分厚く、見上げるほどの上背がある男――キンシキ。

 彼の手にはチャクラで構成されたナイフがそれぞれ握られており、素早い動きでそれらを振るっている。

 逆手で握られたナイフは持ち手がナックル状となっているため、指を狙って武器を落とすことは難しい。

 一流のボクサー並みに早いナイフの連続攻撃。その軌道を見切り、最小の動きで躱すテンジの口元はいつの間にか緩んでいた。

 

 ――この世界に転生してから、すでに武人としての自分は捨てたと思っていましたが、どうやら私は、根っからの武人だったようですね……。血が滾って仕方ありません……!

 

 頸動脈を狙った斬撃を頭を下げながら踏み込んで回避すると、前手でキンシキの腕を下から持ち上げ、がら空きとなった胸部に折り畳んだ肘を体ごと叩き付ける。

 

裡門頂肘!(りもんちょうちゅう)

 

「ぬっ」

 

 インパクトの寸前に後方へ飛ぶことで衝撃を逃すキンシキだが、それを見計らったように両腕を相手の腕に絡めると、つま先で喉元を狙った。

 槍のように伸びる上段の前蹴り。体を逸らすことでこれを回避するキンシキだが――。

 

「テンジ流・破城脚!」

 

 つま先を上げると、そのまま踵落としに移行。

 軌道が直角に曲がり、踵がキンシキの喉仏に食い込んだ。

 

「……っ! ぬぅぁっ!」

 

 咄嗟に体を旋回させて強引に腕を振りほどき、喉を狙った踵落としを受け流す。

 旋回した勢いを利用し振り下ろされるナイフ。遠心力がついたその斬撃を飛び退くことで回避したテンジは、惜しみない称賛の言葉を投げかけた。

 

「いやはや、あれを避けるとは。素晴らしい反射神経です。膂力、瞬発力、反射神経。そのどれもが私より上。さらには武器の扱いにも長けているように見受けられます」

 

「貴様も、人間にしては少しは出来るな。だが、貴様もわかっている通り、私と貴様ら人間では、身体能力に大きな差がありすぎる。ましてや、チャクラを身に着けて間もない貴様とでは猶更のことだ!」

 

 体を沈み込ませたキンシキが飛び出す。まるで弾丸のような速度で迫ったキンシキは、逆手に持ったナイフを交差させてテンジの胴体を両断しようと試みるが――。

 

「なっ、残像だと……!?」

 

「気当たりによるフェイントですよ」

 

 切り裂いたのは実体のないテンジであった。

 テンジ本人は後方に数歩下がっており、丁度間合いに入ったキンシキをカウンターの形で迎え撃つ。

 

「テンジ流・飛燕十字蹴り!」

 

 右の中段回し蹴り。腕を畳んで蹴りを防ぐが、下から潜り込むようにして放たれた蹴りがキンシキの顎に直撃した。

 回し蹴りの後に腰を切り、間髪入れず反対の足で下から蹴り上げる二連撃の技だ。

 初ヒットを食らい、少しだけ怯むキンシキ。

 

「ペースを上げますよ」

 

 それを機に、テンジの猛攻が始まる。

 気当たりによる残像を生みながら、キンシキの周りを走るテンジ。

 いくつもの分身が己を取り囲んでいる状況にキンシキの目が細まる。

 

「むんっ!」

 

 ナイフを捨てるキンシキ。その背にチャクラの輪が出現すると、チャクラで構成された戦斧が手に握られていた。

 周囲を取り囲むテンジの残像をまとめて薙ぎ払うキンシキだが、その中に本物がいないと分かると小さく目を見開く。

 

「後ろ、がら空きですよ」

 

 背後から聞こえてきた声に慌てて振り返るが、そこにテンジの姿はない。

 キンシキの動きに合わせて自身もまた移動し、常に背後を取り続けているのだ。

 テンジ流・数え抜き手。囁くような声がキンシキの鼓膜を震わせた。

 

「四ッ! 三ッ!! 二ッ!!!」

 

 四本貫手から始まる両手を使った連続技。咄嗟に斧を背中に回し防御するが、声と共に指の本数が減っていく度、斧を揺るがすほどの衝撃が伝わる。

 そして――。

 

「一イィッ!!!!」

 

「なにっ?」

 

 捻りを加えた一本抜き手がチャクラの戦斧を砕いた。

 己の武器を壊されるとは思っていなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべるキンシキだが、テンジの攻撃はまだ終わっていない。

 

「テンジ流・捻転背側投げ!」

 

 がら空きとなった背中に自身の背をつけたテンジは、キンシキの首に腕を回すと、もう片手の掌を腎臓付近に当てた状態で、投げた。

 いや、地面に叩きつけたといった方が正しいか。衝撃でキンシキの口から呼気が漏れ出る中、素早く腕を取り関節を決めるテンジ。

 強制的にうつ伏せの状態を強いられる形となったキンシキは、無理やりテンジを引き剥がそうとするが、自身の身に起こる不調に思わず動きを止めた。

 

「な、なんだ、これは……っ! 体の、中が……っ」

 

 戸惑いを隠せないキンシキ。まるで体内を直接掻き回されているような不快感がその身を蝕む。

 

「まるで体の中で渦が巻いているような感じがして面白いでしょう?」

 

「貴様、私になにをした……っ」

 

 チャクラを使った術ではない。毒を仕掛けたような形跡もない。

 

「確かに、身体能力はそちらが上。チャクラの扱いも私より余程使いこなせているのでしょう。ですが――」

 

 何をされたのか見当もつかないキンシキを見下ろすテンジは、徐に片足を上げる。

 

「武術の練度は、私のほうが上のようですね!」

 

 テンジ流・大震脚ッ、という裂帛の声とともに振り下ろされる足。足裏全体がキンシキの背中に触れた瞬間、テンジの体が大きく沈み中腰となる。

 それと同時に地面が陥没し、キンシキの体が大地に減り込んだ。

 

「カ、ハ……ッ」

 

 丁度良いタイミングで空から矢が大量に降ってくる。

 キンシキの背中から足を退けたテンジは後退しながら、雨のように降る矢をのらりくらりと躱す。

 

「なん、の!」

 

 起き上がったキンシキも新たな武器を生成し、矢の雨を打ち落とした。

 ダメージはあるのだろう。荒い息を吐くキンシキを見据えながら構えを取るテンジ。

 キンシキもまた、そんな彼を見据えながら、静かに口を開いた。

 

「……お主、名をなんと申す」

 

「テンジです」

 

「……テンジ。お主を、我が敵と認める」

 

 戦斧を豪快に回し、その矛先をテンジに向けるキンシキ。

 先ほどとは比較にならないほどのチャクラを身に纏い、鋭い目でテンジを見据えた。

 

「我が名は大筒木キンシキ! モモシキ様の従者にして彼のお方の親役を務めし者! 大筒木の名の下に、お主を討つッ!」

 

「――見事な名乗り。これは私も応えねば、不作法というもの」

 

 尋常ではないチャクラを纏うキンシキに対抗するように、テンジも気を練り、チャクラを漲らせる。

 

「私はテンジ。ソの国の皇にして、カグヤの夫。そして、如月流――いえ、テンジ流戦闘術の創始者」

 

 両者のただならぬ気配に、機を窺っている兵士たちが呑まれていた。

 どこからか唾を飲み込む音が、水面に広がる波紋のように、戦場を奔る。

 

「いくぞ!」

 

「参ります!」

 

 

 

 2

 

 

 

 一方その頃、カグヤの方では――。

 

「ちっ、これでも駄目か!」

 

「厄介だねあの能力」

 

 ハゴロモとハムラのコンビによる連携での術を難なく吸収したモモシキは、今し方取り込んだ術を倍にして打ち返す。

 飛び退いて回避したハゴロモたちは予想以上に厄介なモモシキの能力に苦戦を強いられていた。

 

「彼の両手にはチャクラを吸収する眼があります! チャクラ術は避けてください!」

 

 モモシキの両手の掌には輪廻眼が埋め込まれている。術を放つと例外なく吸収された上に倍にして返されてしまう。

 何よりも厄介なのは両手に目があることから死角をカバーできる点だ。背後から奇襲を掛けようにも、掌の目で気づかれてしまうのだ。

 アイノの言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるハゴロモたち。

 

「ほらほらどうした。逃げ回っているだけでは勝てんぞ?」

 

 ハゴロモたちが放ったチャクラ術――後に忍宗、忍術と呼ばれるそれを嘲笑いながら返してくる。

 空を飛びながらそれらを回避したカグヤはこれまでの戦いで強い違和感を感じていた。

 

 ――可笑しい、こやつの力はこんなものではないはず。

 

 比較的若い世代の己とは違い、モモシキは大昔から生存する大筒木の者。いくつもの惑星に埋めた神樹から得た実で丹を練成し、食らってきたはず。

 モモシキの実力ならすでに決着がついていても可笑しくはない。ゼツや兵士たちに妨害させながらヒット&ウェイでチマチマと攻撃しているとはいえ、未だ一撃も与えられていないことにカグヤは違和感を感じていた。

 

 ――もしや此奴、手負いか? 消耗した状態でやって来たな!

 

 であるならば、説明もつく。テンジと戦っているキンシキも消耗しているはずだ。

 

「体術で猛攻を掛けるのです!」

 

『はい!』

 

 ハゴロモたちと連携しあらゆる方向から攻撃を仕掛ける。

 小さく舌打ちしたモモシキは冷静にそれらを捌きカウンターを放つも、意外にもハゴロモたちはカウンターに対してカウンターを被せてきた。

 

「なにっ?」

 

 予想外の反撃を食らい、目を見張るモモシキ。ダメージは然程受けていないが、初めた攻撃を受けたことに少なからず衝撃を覚えた。

 

「見え見えなんだよ!」

 

「父上に比べると体術はからっきしですね!」

 

「この程度の攻撃でやられる私たちじゃないわ!」

 

「アイナをあまり舐めないで」

 

 ハゴロモとハムラはそれぞれ七段、アイノとアイナは八段の段位を獲得している。

 七段は妙手の一歩手前止まりで、妙手の域に達すると八段に昇格できるのだ。

 技の起こりを見抜くことは七段のハゴロモたちにでも行える芸当。

 比較的体術が得意でないカグヤでも四段の実力をテンジから保証されており、モモシキの体術はカグヤと同等のレベルである。

 スペックの差でゴリ押ししているだけであり、練度はキンシキにも大きく劣るものだった。

 

「ちぃっ、目障りな! むっ?」

 

 先程まで近くで鳴り響いていた剣戟の音がピタリと止んだ。

 キンシキが先に始末したか、とほくそ笑むモモシキであったが、その光景は寧ろ逆のもの。

 キンシキの得物を手中に収めたテンジが立っており、己の従者は片膝を地につけていたのであった。

 テンジの手からチャクラの戦斧が消えて無くなる。

 キンシキの角が片方、根本から両断されているのが見て取れた。

 

「なんだあの様は……! キンシキ! 貴様、それでも我が従者か!」

 

「も、モモシキ様……」

 

「もうよい。後は私一人で殺る。キンシキ、分かっているな?」

 

「――ハッ! 勿論でございます」

 

「いかん! テンジ、そやつを決して逃がすな!」

 

 モモシキたちが行おうとしている行為に感づいたカグヤが注意を促す。

 即座に動いたテンジはキンシキの背後に回ると、羽交い締めにして両肩の関節を外すが――。

 

「……ぉぉおぉおおおおおおおおおッ!」

 

「なんですと!?」

 

 見上げるほどの巨体を誇るキンシキの体が見る間に縮み、赤黒い果実のような姿に変わる。

 テンジの拘束から逃れたキンシキ果実は一直線にモモシキの元へ向かっていった。

 

「くっ」

 

 嫌な予感がしたテンジは急いで追いかけてキンシキ果実を確保しようとするが、一足遅くモモシキの手に渡ってしまう。

 そして、キンシキ果実をなんの躊躇いもなく食べ始めたのだ。

 

「悪趣味ですね……! テンジ流・捻り貫き手!」

 

 果実を食べているその隙を狙い、貫手を放つテンジだが、モモシキの手から放たれた火炎弾がそれを阻む。

 

「……役割全う、ご苦労」

 

 その変化は激的であった。

 体の至るところに黒いラインのような痣が浮かび上がり、頭部に巨大な二対の角が生える。

 そして、額に浮かぶ金色の輪廻写輪眼。

 まるでカグヤの身に起きた変化に思わず彼女の方に視線を向けると、テンジの妻は小さく頷き返した。

 何を指す頷きであったのか全く分からなかったが、取りあえず頷いておくテンジ。

 そんな彼が次の瞬間蹴り飛ばされた。国内唯一の十段にして、キンシキすら武術のみで圧倒したテンジが、なんの反応を見せることなく。

 

「テンジ……っ!」

 

『テンジ様っ!』

 

『父上!』

 

「下等生物の割には存外にできるらしいからな。先に貴様から潰しておくとしよう」

 

「いやはや、そこまで評価されるとは光栄ですね。ですが、私もただでは殺られませんよ」

 

「ほう、あれを食らってまだ立つか。確かに下等生物にしてはやるな」

 

「生憎、軟な鍛え方はしていないので。それに衝撃を逃す術などいくらでもあります」

 

 とはいえ、無傷とは行きませんでしたが。胸中でそう呟いたテンジは涼し気な顔のまま構えを取る。

 第六、第七の肋骨および右尺骨の骨折。ジッとしているだけだ痛みが走り、構えを取ると余計激痛に襲われるが、テンジはそれらを一切表に出さない。

 どんなに、痛かろうと痩我慢をすること。敵に効いていないと思わせるとが大事であると、身を持って知っているからだ。

 

「億に一つあってはならんからな。貴様は確実に仕留める」

 

そう言うと、掌をカグヤたちに向けるモモシキ。嫌らしい笑みを浮かべた彼は、テンジを見下しながら告げた。

 

「こいつらは貴様の妻と息子たちなのだろう? 守れるものなら守ってみろ」

 

 モモシキの掌から巨大な暗黒の球体が出現した。

 辺り一帯を巻き込むほどの大きさで、直撃すればもちろん余波を食らうだけでも相当のダメージを負うだろう。

 暗黒の太陽とも言うべき巨大な暗黒球をカグヤたち目掛けて落とすモモシキ。

 カグヤの顔を見たテンジは彼女の浮かべている表情を目にすると、徐ろに駆け出した。

 

「おおおおおおおぉぉぉっ!」

 

 カグヤの元に駆け寄ったテンジは彼女たちを力一杯後方に投げると、自身も飛び退りその場を離脱しようとする。

 だが――。

 

「あと一秒、惜しかったな」

 

 暗黒の球体が着弾すると、辺り一帯が眩い光に包まれた。

 次いで轟く爆音と地響き。

 猛烈の突風がすさび、兵士たちを吹き飛ばしていく。

 爆心地は焦土と貸し、一部はガラス化が起こっていることから威力の凄まじさを物語っていた。

 

「テン、ジ……」

 

「ぅ……テンジ、様……」

 

「父、上……」

 

 テンジの咄嗟の判断により、爆心地から離れた場所に投げ飛ばされたカグヤたちであったが、その余波だけでも無視できないほどのダメージを負っていた。

 爆風によって飛来した石の破片が体の至るところを打ち付け、木の枝が腕などに突き刺さっている。

 すぐさま治療したいところだが、それよりテンジの無事が気になる。

 痛む体に鞭打ち起き上がったカグヤは、爆心地に向けて飛んでいく。

 そして彼女が目にしたのは――。

 

「テンジ……?」

 

「はは……ヘマを、こきました……皆さんは無事……ではないようですね……」

 

 血の気の引いた顔で力なく笑う己の夫。

 仰向けに倒れた彼は、腰から下が消滅していた。

 夫の無惨な姿に言葉を失うカグヤ。

 鏡面の如き白い目が、揺らぐ。

 

「この状態でもまだ死なないとは。本当にしぶとい生き物だな。だが、それも時間の問題だ。下等種族である貴様では、もはやどうしようも出来まい」

 

 空から見下ろすモモシキの嘲笑。

 しかし、今はそんなことはどうでもいい。

 一刻も早く、一秒でも速く、テンジを助けなければ――!

 

「死ぬな、死んではならぬ……!」

 

 前腕に突き刺さっていた木の枝を乱雑に引き抜く。

 止めどなく流れ出す血、それをテンジに与える。

 傷口を押し当ててテンジに吸わせようとするが、もはや吸い上げる力すら残っていないのか、彼の喉は一向に動かない。

 決断は一瞬にも満たなかった。

 

「お願いだから死なないで、あなた――」

 

 己の舌を噛み切ると、テンジと唇を重ねる。

 僅かに開いた口の隙間から、血を直接流し込んでいく。

 

 ――これは一種の賭け。大筒木の石碑にも書かれていない、信憑性の欠片もない行為。

 

 テンジの喉がコクリと動き、口内に溜まった血を飲み下す。

 

 ――だけど、この人なら。ワラワでも計り知れない未知を背負ったこの人なら、もしかしたら……!

 

 徐々にだが、力強い動きで喉が動く。注がれるカグヤの血を貪欲に求めるように、その血を飲み干していく。

 

「んん? 血迷ったか。よもや、そこまで墜ちたとは。貴様はもう、大筒木の名を汚すだけの存在だ」

 

 死の間際で接吻をし続けるカグヤを冷めた目で見下ろすモモシキは、再び手を翳した。 先程と同程度の規模の暗黒球が生み出される。

 そして――。

 

「死ね」

 

 冷酷な声で告げると、無慈悲に暗黒球を放った。

 

『テンジ様! カグヤ様!』

 

『父上っ! 母上っ!』

 

 悲痛な叫び声を上げるアイノたち。

 迫り来る死を前にしてもカグヤは見向きもせず、ただ一心に血を分け与えていく。

 だからだろうか。

 その直向きな心が奇跡を呼び起こしたのは。

 

「――なにっ!?」

 

 着弾寸前だった暗黒球が忽然と消えたのだ。

 まるで、瞬間移動したかのように。

 

「上だと?」

 

 直後、遥か上空で響き渡る轟音と閃光。

 それは間違いなく、今し方消え去った暗黒球だ。

 しかし、爆発した地点は遥か上空。

 雲すら超えた場所である。

 

「――ありがとうございます、カグヤ。貴女の声、聞こえましたよ」

 

「あぁ、テンジ……」

 

 目を開くと、そこにはいつもの朗らかな笑みを浮かべたテンジがいた。

 まるで時が戻ったかのように傷が無くなり、消し飛んだはずの下半身も存在している。

 何事もなかったかのような姿のテンジだが、一つだけこれまでと違う点があった。

 

「……あの傷を蘇生しただと? それにその目……!」

 

「そなた、その目は……」

 

「ああ、やはり変わっていますか。意識が戻ってから視界が可笑しいのですが……どうなっていますか?」

 

「……蒼穹のような瞳になっています。瞳全体が輝いていて、中で電気のようなものが走っていますね。ワラワも初めて目にする瞳力です」

 

「ならほど? まあ悪いものではないことだけは確かな様ですね。それに、カグヤが扱っている不思議な術も使えるみたいです」

 

「神術を?」

 

 テンジの言葉に驚きを隠さないカグヤだが、すぐに納得した。恐らく自分の血を分け与えたためだろう。

 未知の瞳力や神術は一時的なものかもしれないが、テンジを蘇生出来ただけでも奇跡だ。

 テンジにはやはり何かある。カグヤの中で確信に変わった瞬間である。

 

「馬鹿な……刻印もなしに瞳力に目覚めるだと? それに神術まで……」

 

 予想外の事態に一番狼狽えているモモシキは、鋭い目でテンジを見下ろすと、唸るような低い声で問う。

 

「貴様、何者だ……」

 

「ただの変わった人間ですよ。神術とやらの使い方もなんとなく分かりました。場所を変えましょうか」

 

 そう言うと、テンジとモモシキはその場から掻き消えた。

 大筒木一族が所有する異空間移動ではない。どちらかと言うと、カグヤの神術である『黄泉平良坂』に近い能力だが、それともどこか違う気がする。

 輪廻眼て視ると、すぐ側にいることが分かった。

 これも神術なのだろう。三人に増えたテンジが体術を駆使し、圧倒的な手数で押している。

 カグヤが注意したようにチャクラ術の使用は控えているようだった。

 

 ――テンジだけに無理をさせる訳には……! ワラワも助太刀する!

 

 テンジの合間を縫うように袖から伸びた棒――『共殺しの灰骨』で突き刺そうとするが、すり抜けてしまう。

 どうやらテンジたちは此処とは違う位相で戦っているようだった。

 

 ――ならばワラワも!

 

 時空間移動でテンジの居る場所へ向かおうとするが、座標が分からないため空間を繋がることが出来ない。

 テンジのチャクラから後を追うにも、何故か距離が近すぎるため返って分からない。恐らく位相が異なっているのだろうが……。

 ただ視ることしか出来ない己の無力さが歯痒い。

 

「カグヤ様! テンジ様は!?」

 

「あの者と一緒にどこかへ消えてしまったけど……テンジ様は無事ですか?」

 

「母上! 父上は一体どこに!?」

 

「落ち着け兄者! 母上なら何か知っているはずだ」

 

 アイノたちが慌てて駆け付けてくる。ハゴロモとハムラはワラワの血を引いているため、いずれ輪廻眼を開眼出来るが、今はまだ。

 ワラワは絞り出すような声で状況を伝えた。今のワラワは苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。

 

「戦っている、一人で。ここではない次元の異なる場所で」

 

「一人で!? そんな無茶です!」

 

「この規模の術です、父上も無傷で済むわけがありません! 父上は大丈夫なのですか!?」

 

 アイノの言葉はもっともだ。ハゴロモの懸念も当然だろう。

 

「テンジなら無事よ。賭けでしたが、一命を取り留め回復しました。今ではワラワを超すほどの力を身に着けて……。ワラワも介入したいのですが、今のワラワではどうすることも出来ません。ただ見守ることしか出来ない……っ!」

 

「母上……」

 

「今、戦況はどうなっているのですか?」

 

 冷静な口調のアイナだが、その声は微かに震えている。 アイナの心境は察するに余りある。

 

「今のところテンジが有利です。ですが、相手は力をつけたモモシキ。いつ戦況が覆るか……」

 

 悔しい思いを抱きながらテンジの行末を見守っていると、ついに状況が一気に動き出した。

 

「あれは……」

 

 空間が大きく歪み、その中央に生まれた小さな穴。

 米粒ほどの大きさにも満たない小さな穴は、この世のすべてを飲み込むような黒点で、辺りの空間諸共穴の中に吸い込んでいく。

 穴より大きなものであろうと問答無用で、まるで宇宙に存在する暗黒点のように。

 

 ――まさか、テンジは……ッ!

 

「ダメてすテンジ! それは――ッ」

 

『カグヤ様!?』

 

『母上!?』

 

 何をしようと察した――察してしまったワラワは、テンジを止めようと抱きつくが、まるで霊体のようにスルリと体がすり抜けてしまう。

 慌てて振り返ると。

 

 ――さよならです。

 

 テンジがワラワに向けてそう、呟いた。

 声は聞こえないが、唇は確かにその言葉を紡いでいた。

 ワラワに向けて小さく微笑みかけたテンジは、疲労しているモモシキを羽交い締めにすると、自分ごと黒点の中に吸い込まれていった……。

 

「ダメですテンジ! 逝かないで!」

 

 ワラワをおいて、一人で逝くなど――!

 

 しかし、手を差し伸べるワラワを嘲笑うかのように、黒点は次第に窄まり、ついには消えてしまった。

 空間が膨張し、とてつもない衝撃が辺り一帯を襲うが、ワラワたちが居る此処は違う位相にある。

 呆然とするワラワの前ですべてを無に帰した黒点は、愛しい人と怨敵を連れて消えたのだった。

 

 

 

 3

 

 

 

 ――そこから先は、あまり覚えていない。

 

 覚えているのは、神樹の力だけを取り込んだことのみで。

 ただ、これまで味わったことない、感情に支配されていたのだけは分かる。

 心にぽっかりと空いた風穴。

 深い喪失感と悲しみで、我が身が張り裂けそうになって。

 テンジが居ないことを、死んでしまったことを受け入れられなくて。

 夢を見ているのだと。夢なら覚めねばならないと、そう思った。

 自分でも何をしているのか分からず、とにかく手当たり次第暴れていたのだと思う。

 

 アイノとアイナたちに、もしかしたら危害を加えたかもしれない。

 ハゴロモとハムラたちにも、迷惑を掛けただろう。

 でも、テンジのいないこの世界など、こんな夢など、もはやどうでもよくて。

 でもやっぱり、夢の中とはいえ愛する子らを手に掛けることは出来なくて。

 気づけばワラワは、ハゴロモとハムラに動きを封じられていた。

 ハゴロモの目にはワラワと同じ輪廻眼が、ハムラの目にはテンジとは異なる転生眼をそれぞれ宿し。

 暴れ回るワラワをアイノたちが食い止めている隙を狙ったのだろう。

 僅かでも隙が見えたなら狙いに行きなさい、テンジの教えをしっかりと守って。

 

「申し訳ございません、母上!」

 

「僕たちには、こうすることしか出来ませんでした」

 

 何故、そなたたちが苦しむのですか――いえ、あなたたちも父を失って悲しくない訳がありませんね……。

 ワラワだけ悲劇のヒロイン気取りとは。これでは母失格です。

 

「――ハゴロモ、ハムラ」

 

 後のことは任せましたよ、ワラワたちの愛しき子供たち。

 

「母上……っ」

 

「お任せ下さい。母上と父上の代わりを立派に努めてみせます……!」

 

【六道・地縛天星】

 

 涙を流すハゴロモたちは、六道の封印術でワラワを縛る。

 ワラワに大地の欠片が次々と吸着してくる。封印が完了する間際に、アイノたちにも言葉を残しましょう。

 

「アイノ、アイナ。今までよく務めてくれました。ワラワの子たちを頼みます」

 

「――はい。若様は私たちが責任を持ってお預かりします」

 

「……テンジ様とカグヤ様にも負けないくらい、偉大な子に育てます。だからどうか、安らかに」

 

 アイノための返事に小さく頷き返したワラワは、最後にもう一度、テンジが消え去った場所に視線を向けた。

 

「テンジ……」

 

 ――ワラワの愛しき人……。

 

 ――もう一度、あなたに逢いたいです……。

 

 ――そして、今度こそ、皆でピクニックに……。

 

 最後の一欠片が視界を遮るその時まで、ワラワは誰も居ない空間を見つめていた。

 

 ――きっと楽しいはず、だから……――。

 

 





 カグヤは悲劇のヒロイン枠が似合うと思うの。

 次はアイノとアイナ視点です。
 投稿まで少々時間が掛かりますので、お待ちください。

本編と勝手に書かれたシリーズ、どっちを優先してほしい?

  • 本編
  • 勝手に書かれたページ裏
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。