※この作品はR-18です。

TENZIマジカル珍宝帖 ~私の嫁はラスボスでした~   作:ポチ&タマ

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 すみません、予約投稿ミスりました。
 今回も長いです。



2ページ裏 その2(アイノ&アイナ)

 二十歳になりました! カグヤ様がついに御懐妊です!

 テンジ様のお話ですと双子の男児とのことですが、まだ気が早いですよテンジ様!

 ちなみに私も既に五人の子を産んでいます!

 

 さて、話は変わりますが、ここ最近のカグヤ様は何だか調子が芳しくない模様で、難しい顔をして頻繁に空を眺めています。

 いつもならテンジ様がお側にいると、微笑みを浮かべながらお隣に侍り、何をするにしてもついて周りその行動を見守っています。ご本人に自覚はないのでしょうが、まるでカルガモの親子のようで見ていて大変微笑ましい気持ちになるのです。

 ですが、ここ最近のカグヤ様はテンジが側にいても難しい表情を崩さず、時折憂いを帯びた顔をするほどで。きっと何か悩み事を抱えているに違いありません。

 お話を伺った所、理由は分かりませんがカグヤ様は強くならなくてはならず、そのためには神樹に行かなければならないと言っておりました。

 それを聞いて私は不安を感じました。神樹には曰くがあり、あそこに近づくと精魂尽き果てて死に至ると聞きます。

 そんな場所に行って大丈夫なのでしょうか。しかも今のカグヤ様にはお腹に稚児がいらっしゃるのですから。

 しかし、カグヤ様は「それについては心配いりません。ワラワの側に居れば大丈夫です」と自信満々に断言します。

 事情を知ったテンジ様はのほほんとしたお顔で「じゃあ皆さんで行きましょうか」とのんびりと仰ったため、アイナも含めた四人で神樹の元へ行くことになりました。

 

 神樹に辿り着いた私たちですが、カグヤ様が仰った通り、体に異常はありません。

 神樹に実った不思議な実を食べた私たちは異様な力を手に入れました。

 これまで食べた中で一番の不味さでしたが、実を口にした途端、体の奥底から力が溢れ、さらには頭に小さな角のようなものが二つ生えたのです!

 テンジ様とアイナも同様な変化が見られましたが、一番様変わりしたのは、なんとカグヤ様でした。 

 頭には私たちとは比べ物にならない大きな角が生え、額には奇妙な模様が描かれた眼。お召し物も少しだけ変わり、その代り映えにアイナともども開いた口が塞がりませんでした。

 そしてテンジ様に至っては――。

 

「ラスボスぅぅぅ!!?」

 

 目が飛び出しそうなほど驚いた顔をされていました!

 滅多に見ることのない――というより、初めてお目に掛るその表情を前に、返ってこちらが冷静になってしまうほどです。

 テンジ様曰く「思わずエネル顔ですよ……。そもそも、名前からしてマンマじゃないですか……」と頭を抱える始末で。カグヤ様の変貌に驚いたのは分かるのですが、それ以外のことはサッパリですテンジ様。

 まあ、見た目が変わっても中身は私たちの知るカグヤ様に違いありません。それが分かり大きな安堵を覚えました。

 

 それにしても、この体の奥から沸き起こってくる力――カグヤ様は「チャクラ」と言っていましたが、これを得たテンジ様はすごく活き活きしていますね。頭の中が「鍛錬」「修行」「訓練」の文字しかないのが丸分かりです。

 

 

 

1

 

 

 

 最近、アイナたちは料理に挑戦している。

 王宮で食べる数々の料理は料理番の人たちの手によって作られてる。誰もが料理に命を懸けているその道の達人。味はもちろん体にも良い素材を使っているため、彼らの作る料理はテンジ様も認めているほど。

 当然、カグヤ様やアイナたち、そして家臣の皆にも振るわれるのだけれど、ある日を境にカグヤ様が急に料理がしたいと言い出したのが切っ掛け。

 テンジ様がすごい笑顔で「美味しい美味しい」言いながら『カツドーン』を食べてるのを見ての発言だった。カツドーンはテンジ様が考案された料理で、男衆に人気の一品。テンジ様も大好物で、一週間に一度は必ず食べるくらい。

 カグヤ様の思惑はすぐにわかった。自分で作った料理をテンジ様に食べてほしい。そして笑顔で「美味しい」と言われたいというのが。だってそれはアイナたちも同じ気持ちだもの。

 アイナたちはこれまで料理場に立ったことがない。だって料理を作るのは料理番の仕事だから。

 でも、カグヤ様の言葉で目が覚めた。料理番の仕事だからといって、アイナたちが作っちゃいけない理由にはならないって。

 

 アイナもテンジ様に食べて欲しい。テンジ様のだけじゃない。クオンやキョウカたちにも母の手作り料理を食べさせたあげたい。

 だから毎日、料理番長の下で練習。初めは渋ってたけど、テンジ様の後押しがあってちゃんと教えてくれている。

 けど、少し教え方が厳しいと思う。アイナは褒められて伸びる方だから。叱るより誉めるべし。

 そうして、料理番長に駄目出しを受けながらなんとか一人で作れるようになったアイナたち。

 みんな考えているのは一緒で、アイナたち三人が作ったのはテンジ様の好物のカツドーン。全員同じ味付けだと飽きてしまうから、各々独自に工夫を凝らしたけど……。

 カグヤ様、カツの上にはサンマ一尾乗っけるのは、流石に駄目だと思う。

 

 

 

2

 

 

 

 カグヤ様に稚児が産まれました!

 双つ子の男児で兄をハゴロモ様、弟がハムラ様と名付けられました!

 お父様とお母様に似て、聡明かつ優しいお人に育つに違いありません!

 これで私とアイナも肩の荷が少しだけ降りた気分です。ご本人は気にされていませんが、正妻であるカグヤ様を差し置いて、妾の私とアイナだけ子供がいると、他の方からすると心象が悪いですからね。

 しかも私は七人、アイナも六人もの子を産んでいます。カグヤ様はお優しい方ですから私たちの子供も実の子のように可愛がってくださいますが、それでもやはりご自分の稚児が欲しいと思うのは当然のことです。

 そして十年が経ってようやくご懐妊し、ハゴロモ様とハムラ様を無事ご出産することが出来たのです。

 初めてお腹を痛めて産んだ実の子を抱き、涙を浮かべながら笑みを零したカグヤ様は、それはもう幸せそうでした。

 よかったですね、カグヤ様! 私たちも協力いたしますので、一緒に子育て頑張りましょう!

 

 

 

3

 

 

 

 ハゴロモ様とハムラ様は健やかに育ち、アイナの子供たちとも仲良くしてくれる。

 クオンはもう十八歳で一番下の子は八歳。クオン、キョウカ、ミゾレ、ユカ、ヒジリの五人はすでに想い人を見つけ、その人と家庭を築いている。皆、テンジ様の稽古を受けているから毎日顔を合わせているけど、上手くやっている見たい。もちろん夜の性活も。

 テンジ様から仕込まれた技の数々を愛娘たちに伝授してきた。その破壊力はアイナのお墨付きだから、きっと旦那さんは足腰が立たなくなるはず。アイナはその逆だけど。

 子供たちはもちろん、アイナと姉さんも変わらずテンジ様から稽古を受けている。

 

 テンジ様が開発した流派『テンジ流戦闘術』は国民の間にも広く浸透していて、健康目的で始める人もいれば、純粋な武力を身に着けるために鍛錬する人もいる。

 アイナたちはもちろん後者。『テンジ流戦闘術』はただ技術を身に着けて強くなればいいってものじゃなく、心を鍛える必要もある。

 心・技・体。この三つを万遍なく鍛えることで、人としても大きく成長し、武術家としても大成するのだとか。

 この心を鍛えるっていうのが、結構難しい。だって心なんて目に見えないものだもの。

“弱者に振るうは、己が武を貶めると心得よ”“目的の手段として振るうべし”“常に自分を律し、己が信念を貫くべし”などなど殆どが口頭での指導。

 まだ理解できないところが多いけど、これらを身に着けることができれば、もっと強くなれる。そうなれば、テンジ様に守られるのではなく、アイナたちがテンジ様をお守りすることができる。

 千里の道も一歩からってテンジ様も言ってる。一歩ずつ進んでいく。

 

 

 

4

 

 

 

 今日は、テンジ様を愛する私たちにとって――いえ、この国にとって最悪の日となりました……。

 以前、カグヤ様が仰っていた同郷のお仲間がこの地に降り立ち、テンジ様を……この国の兵士たちを、殺したのです……。

 やってきたのはキンシキ、モモシキを名乗る男たち。

 初めはテンジ様が武器の使い手である大柄な男のキンシキを。そしてカグヤ様、私とアイナ、そしてハゴロモ様とハムラ様の五人でモモシキの相手をしました。

 テンジ様は体術のみで終始キンシキを押しており、追随を許さない勢いで。対してモモシキはチャクラを吸収する特殊な目を持っており、チャクラ術が効かないという不利はありましたが、五人による体術の飽和攻撃でなんとか優勢を保っていました。

 ですが、モモシキがキンシキを食らうという悍ましい行為に走った結果、これまでとは雲泥の差があるほどの力を発揮し、テンジ様を含めた私たちを一蹴したのです。

 その時の攻撃で私たちは深手を負ってしまい、悔しいことにまともに戦える状況ではありませんでした。唯一立ち上がることができたのはカグヤ様と、テンジ様のお二人のみ。

 テンジ様も重傷を負ったようですが、カグヤ様のお力により復活を遂げ、さらには今のモモシキのように異様な力を身に着けたのです。

 そんなテンジ様は私たちの目の前でモモシキと一緒に何処へと消えてしまいました。カグヤ様曰く、いそうが異なる世界で戦っているとのことで、こちらからは手出しができない状況。

 カグヤ様はその額の目で見ることが出来るようですが、私たちには視認はおろか気配を感じ取ることもできません。

 テンジ様の無事を祈ることしかできない自分の無力さに歯がゆい思いを抱きながらも、主人の帰還を祈りました。

 そして――。

 

「ダメですテンジ! それは――ッ」

 

 悲痛な声を上げ、崩れ落ちるカグヤ様。

 私はその時をこの目で見ることは叶いませんでしたが、カグヤ様曰く、テンジ様は時空に穴を開け、そこへ彼の敵とともに身を投げ出して相打ちを果たしたとのこと。

 そこは全てが無に帰す場所で、生存はありえない。そう震える声で呟くカグヤ様に私はしばし、何を言われたのか理解できませんでした。

 だって、あのテンジ様ですよ?

 いつも無理難題を平然と熟してきて、神の子とまで言われてきたテンジ様ですよ?

 そんな方が、死んだ? そんなのあり得ないじゃないですか。

 きっといつものように、朗らかな笑みを浮かべながらでひょこっと顔を出すに違いありません。

 

『いやはや、今回は難敵でしたね』

 

 とでも言いながら、なんともないように、きっと姿を見せて。

 

 ですがいくら待とうと、テンジ様はやって来ませんでした。

 その場には、カグヤ様のすすり泣く声が響くだけで。

 誰もが声を失い、重い沈黙が辺りを支配していたのです。

 やがて――。

 

「……そうだ、これは夢だ」

 

 ふらっと立ち上がったカグヤ様は、どこか危ない足取りで歩き始めました。

 

 ――なんだか嫌な予感がする……!

 

 慌てて私は――私とアイナはカグヤ様を止めようとしますが、ふわっと宙に浮かんだ彼女の袖を掴むことは叶いませんでした。

 そしてカグヤ様のお心は、壊れてしまったのです。

 

 テンジ様の居ない世界など(こんな夢の世界)、壊れてしまえばいい(消えて無くなれ)、と。

 

 

 

5

 

 

 

 暴走を起こしたカグヤ様に呼応するように、神樹がその姿を変えた。

 まるで巨大な化け物。

 頭部と思わしき場所にある口からはおぞましい叫び声が響き渡り、周囲に突風が巻き起こるほどで、化け物は辺りを壊して暴れ始めた。まるで駄々を捏ねる赤子のように。

 そんな化け物となった神樹だけど、カグヤ様の養分になる運命だったみたい。

 

「その力を、ワラワに寄越せ……」

 

 化け物に触れると、まるで木々が枯れるように巨大なその体が干乾びていく。

 それに引き換え、カグヤ様から圧倒的な力が感じるようになり、化け物が完全に干物になった時には、カグヤ様はまたもや姿を変えていた。

 

「母上、その姿は……!」

 

 ハゴロモ様が驚いている。いや、ハゴロモ様だけじゃなく、この場にいる誰もがその姿に驚きを隠せない。

 カグヤ様は神樹の実を食べた時のように、また変貌を遂げていた。

 その背中には白く美しい翼と、黒く禍々しい翼がそれぞれ三対生え、頭上には黒と白の球体が六つ、円を描く形で回っている。

 頭の上にある球体も気になるところだけど、やはり一番目を引くのは背中の翼。

 空高く浮いたカグヤ様は調子を確かめるように翼を動かすと、凄まじい突風が辺りを吹き抜けた。

 その風の力に耐え切れず、木々は根元から掘り起こされて吹き飛び、兵士たちもまるで塵のように飛んでいく。

 

「あれだけの動作で、この威力……! 今の母上は、あのモモシキとやらより強いんじゃ……?」

 

 戦慄した様子のハムラ様。アイナもそれに同意する。

 今のカグヤ様は、危険!

 

「若様たち、カグヤ様を鎮めますよ!」

 

「今のカグヤ様は若様の言った通り、あのヒョロヒョロより強い。全力を出さないと負ける」

 

「……やむを得ない、か」

 

「……だね。分かりました、義母上」

 

 こうして暴走するカグヤ様を鎮めるために、戦いを挑んだんだけど。

 正直、力の差が圧倒的で、勝負にもならなかった。

 

「テンジ……テンジ……」

 

 カグヤ様の体術はまだまだ甘い。

 だから体術を主眼に置いてチャクラ術で隙を狙うけど。

 

「またこの球かっ!」

 

「厄介だねこれは! どうやら母上の意志とは無関係で動いてるみたいだ!」

 

 そう。ハムラ様がいう通り、隙を見つけて攻撃しても、すべて黒い球体がそれを阻む。

 球体は形を自在に変えられるみたいで、一瞬で盾の形になるとチャクラ術を受け止め、散らしてしまう。体術も同じで、カグヤ様の死角から攻撃してもそれを見計らったように球体が邪魔をする。

 カグヤ様の意思とは無関係で自動で動き回る盾の黒球体。対して白の球体は、弓矢のように飛んでくる。

 そしてアイナたちに接触する間際に、一気にその大きさが倍以上に膨らむと、こちらを呑み込もうとするの。

 一度、白い球に捕まったことがある。白い球に捕まるとチャクラ術が使えない上に体も動かせない。息が出来るのは唯一の救いだけど、あれに捕まったら一巻の終わり。何もできなくなっちゃう。

 その時は姉さんの『捻じり貫き手』で穴を開けてくれたおかげで、なんとか脱出することができた。白い球は黒いのとは違って外からの攻撃は有効みたい。

 

「あの翼も厄介ね」

 

「うん。特に羽根」

 

 翼が生えたためか、カグヤ様の移動速度がすさまじい。多分、テンジ様の全力移動に匹敵すると思う。

 それだけでも厄介なのに、翼から抜け落ちる羽根が一番面倒。白い羽根に触れると眩い光を放たれ、アイナたちの力が抜けてしまう。体力やチャクラなんかを奪っているのかもしれない。

 黒い羽根に触れると、羽根自体が黒い炎に包まれる。この炎に触れてしまうと中々消えない。チャクラ術で水を出しても中々消えなかった。注意しないと玉のお肌が火傷だらけになっちゃう。

 

 新たな力である翼と黒白球だけでも厄介なのに、これに加えてカグヤ様が使う不思議な術やチャクラ術もある。

 五対一だけど、戦況は厳しい……。

 

 

 

6

 

 

 

 カグヤ様との戦いは三日三晩続き、ようやく決着をつけることが出来ました。

 これもハゴロモ様やハムラ様、途中駆けつけてくれたアヤメやシオンたちの尽力。

 そして何よりも、カグヤ様のお心添えがなければ負けていたのは私たちでした。

 カグヤ様は暴走していました。それは間違いありません。ですが、完全に我を忘れたわけではなかったのです。

 その証拠に、私たちは大きな怪我を追っていません。カグヤ様ほどの強大なお力を持つお方なら、一瞬で私たちを殺すことが出来たはずなのに。

 そして戦いの最中、覚醒を果たし力を得た若様たちによって封じられる間際。

 カグヤ様は、正気を取り戻しました。

 それは、最終局面。カグヤ様から神樹のチャクラを剥ぎ取り、弱体化に成功した時のことです。

 

「アイナ、合わせて!」

 

「うん。姉さんもしくじらないで」

ゆ

『テンジ流・地中投げ!』

 

 私が右肩を、アイナが左肩を押さえカグヤ様を地面に向けて投げ倒す。投げ飛ばした相手を地中深くに埋め込み、身動きを取れなくする超高難易度の大技。

 テンジ様はこれを腕一本で行えますが、未熟な私たちでは両手で、そして二人合わせてでないと実現できない技です。

 本来ならその名の通り、相手を地中深くまで押し付ける技なのですが、カグヤ様は地面が陥没する程度に留まりました。ですが、一瞬でも隙が出来たことには間違いありません!

 

「若様ッ!」

 

「はい! いくぞハムラ!」

 

「うん、兄者!」

 

 私たちがカグヤ様を押さえている間に駆け付けた若様たち。その姿を目にした途端、能面のような顔で破壊の限りを尽くしていたカグヤ様の目に光が戻ったのです。

 

「――ハゴロモ、ハムラ」

 

 カグヤ様の口から紡がれる息子たちの名前。

 それは、愛する我が子を想う優しい母の声でした。

 これまでテンジ様の名前しか呟かなかったカグヤ様が、表情を和らげます。

 その変化に思わず若様たちの動きが止まってしまいますが――。

 

「後のことは任せましたよ、ワラワたちの愛しき子供たち……」

 

 ご自身がこの後どうなるのか、それを知った上で受け入れたそのお言葉に、ハゴロモ様たちの目から涙が溢れます。

 

「母上……っ」

 

「お任せ下さい。母上と父上の代わりを立派に努めてみせます……!」

 

 その言葉に安堵したように微笑みを浮かべるカグヤ様に、私も涙を堪えることが出来ませんでした。

 

『六道・地縛天星!』

 

 カグヤ様のお腹に若様たちが手を押し当てると、大地が隆起し、その破片が次々とカグヤ様へ吸い込まれていきます。

 私たちが飛び退くと、その速度は次第に早まっていき、小さな球体を作り始めました。

 あっという間に体のほとんどが埋もれてしまったカグヤ様は、私たちに視線を向けると。

 

「アイノ、アイナ。今までよく務めてくれました。ワラワの子たちを頼みます」

 

 そう労いの言葉を掛けてくださったのです。朗らかなそのお顔は、いつものお姿そのもので、私は涙を流しながら、敬愛するカグヤ様の目をしかと見つめて頷きました。

 

「――はい。若様は私たちが責任を持ってお預かりします」

 

「……テンジ様とカグヤ様にも負けないくらい、偉大な子に育てます。だからどうか、安らかに」

 

 私たちの返事に満足げに頷き返したカグヤ様。そのお顔の半分が大地の破片で覆われて行く中、とある方向に視線を向けたカグヤ様は、小さくその名を呟きました。

 

「テンジ……」

 

 切なげな声で呟くのを最後に、そのお顔は完全に大地の破片で隠れてしまいます。

 カグヤ様を封じた巨大な大地の塊は、さらに拡大しながら空を昇っていき、やがて雲の彼方へと消えていきました……。

 

「テンジ様……カグヤ様……」

 

「……」

 

「母上、父上……!」

 

「……くそっ!」

 

 皆、やるせない思いを胸に抱えたまま、人生最悪の一日が終わるのでした……。

 

 

 

7

 

 

 

 テンジ様とカグヤ様を失ったアイナは、まるで色の抜け落ちた世界で生きているようだった。

 あの後、近くで黒い泥の塊のような生き物を発見したアイナ。

 黒い生物曰く、カグヤ様が最後の最後で己から切り離した存在であるらしく、彼――ゼツはカグヤ様を復活させるために行動を起こすと言う。

 アイナと姉さんもそれに賛成。封印される間際、カグヤ様は確かに正気を取り戻していた。今度は暴走することなく正気を保っていられるかもしれない。

 けど、それに難色を示したのは若様たちだった。若様たちもカグヤ様を救えるなら救いたいけど、もし再び暴走するようなことがあれば、その被害は尋常ではない。二度も封印できるか分からないという。

 それに、ゼツが本当にカグヤ様に由縁のある存在なのか疑問視している。確かにゼツは若様たちと違って人には見えない。全身真っ黒だし。

 でも、若様たちにはわからないだろうけど、アイナと姉さまは分かる。ゼツから感じるチャクラはカグヤ様のそれと同じであると。

 テンジ様との間に生まれた若様たちとは違い、ゼツはカグヤ様から切り離された存在だから、チャクラも同じなのだろう。

 だけど、若様たちの懸念ももっとも。万に一つカグヤ様が暴走した時、再び鎮められるかと言われたら正直自信ない。

 だから、アイナと姉さんは決めた。再び暴走を起こしても今度こそ、アイナたちだけで抑えられるくらい強くなるって。

 そのためには、カグヤ様を救う方法を探すとともに、今まで以上の研鑽を積まないといけない。

 

 でもまずは、国の復興が最優先。ヒョロヒョロ野郎たちの襲撃やカグヤ様の暴走でソの国は大打撃を受けた。まるで自然災害に見舞われたかのように、あちこちに大きな戦いの痕が見受けられる。

 急遽、テンジ様の跡を継いで皇になったハゴロモ様は、忍衆という組織を作り、チャクラの扱い方を人々に教えて生活を豊かにすることを提案。同時に世界各地を周り、復興の手助けをすると言う。

 アイナたちに異論はない。チャクラ術が民の暮らしを豊かにすることは間違いないし、この戦はアイナたちにも責任がある。

 ハゴロモ様たちが地上で活動を始める一方、ハムラ様は天へと昇ったカグヤ様を独りにしないため、お母様の元へ向かうことに。

 今では、夜空に浮かぶ星々より大きな星となったカグヤ様。そこから地上を見守るという。

 ハムラ様の考えに賛同したヒツ様、フオ様、フワ様、フキ様、ヘウ様はともにカグヤ様の元へ向かうとのこと。ヒツ様たちは下の子たちだから、お母さんが恋しいんだと思う。

 上の子たちであるハサキ様、ヒサメ様、ヒメリ様は地上に残り、ハゴロモ様の手助けをするという。

 

「じゃあ兄者、こっちのことは任せたよ」

 

「ああ。ハムラも、母上のことは任せたぞ。ヒツたちも元気でな。たまにはこっちに帰って来いよ」

 

「うん! 兄さまたちも元気でね!」

 

「アイナ母様とアイノ母様はこないの……?」

 

「申し訳ありません。私たちはテンジ様をお探ししなければなりませんので」

 

 ヘウ様の不安気な声に柔らかく返す姉さん。その言葉を聞いて、若様たちは酷く驚かれていた。

 

「母上は、父上が死んだと言っていたはず……」

 

「義母上は父上が生きていると、お思いなのですか?」

 

 若様たちはテンジ様の生存が絶望的だと思っているみたいだけど、甘い。クワの実より甘い。

 テンジ様のご子息なのに、お父上の生態を理解していないとは、嘆かわしい。

 

「若様、考えてみてほしい。あのテンジ様だよ。殺しても死なないような人がテンジ様」

 

「えぇ、アイナのいう通り。テンジ様が死んだなんて思っていません。だって、あの方が愛する人を残して逝くはずがないじゃないですか」

 

 それに女好きのテンジ様だから、仮に死んだとしても意地でも復活の一つや二つしてみせるはず。あの人の女性に対する執念は凄まじいから。

 私たちの言葉を聞いた若様たちはキョトンとした顔をすると、次の瞬間みんな大笑い。

 

「はっはっはっ! 確かにそうだ! 父上の女好きは類を見ないからな!」

 

「母上がいなければ今頃百人くらい娶っていただろうからね。母上たちを残して素直に死ぬとは、確かに思えないや」

 

 私たちの言葉に意気消沈していた若様たちも、少しは元気が出た模様。

 アイナたちの発言は単に若様たちを慰めるためだけではない。本心からそう思っているもの。

 カグヤ様が仰ってた暗黒点が何か、アイナは分からないけど、テンジ様がどうなったのか、実際にこの目で見た訳でもない。

 だからアイナは信じる。アイナは自分の目で確かめないと信じない性質だから。

 幸にして、アイナと姉さんには時間がたっぷりある。神樹の実を食べてから若々しさが失われないというのは、そういうことだろうから。

 若様たちは、多分アイナたちと違って歳を取ると思う。きっと、若様やその子孫の最期を見送ることになる。それまでにテンジ様を見つけて、カグヤ様をお救いできるようにならないと。

 その後、ハゴロモ様はカグヤ様から剥がした化け物のチャクラ――ハゴロモ様曰く、十尾の魂を九つに分割したとのこと。動物の赤ちゃんみたいな見た目に変化した魂たちは、ハゴロモ様の中に封じられ、これから人のためになる良い子に育てるという。

 子育てならアイナたちの両分。存分に頼るといい。

 そして、ハムラ様たちはどうやったのか分からないけど、御自身の体を光の粒に変えて天へと昇っていった。きっとカグヤさまの元に行ったのだろう。

 ハゴロモ様は宣言通り、忍衆という組織を作って民たちにチャクラの使い方を教えて行った。もちろんアイナたちもそれのお手伝いをしている。

 テンジ様が作った『テンジ流戦闘術』は国中に広まっているけど、チャクラはまだ認知されていない。

 チャクラは全ての生き物が持っている。ただ、その力を感じ取り操る術を知らないだけで。アイナも勘違いしてたけど、

 アイナたちがテンジ様の行方を探す旅に出るまで、まだ時間が掛かりそう。

 

 

 

8

 

 

 

 それから娘が独り立ちし、孫が産まれ、私たちが居なくても大丈夫だと思い至るまで百年。

 ソの国を孫たちに任せた私たちは、テンジ様を探す旅に出かけました。

 旅先では困った人たちの助けをしたり、忍宗と遭遇した時はチャクラ術の指南をしたりと、多くの人と出会いましたが、テンジ様に関する話は聞けませんでした。

 時々、私たちと別行動を取っていたゼツと――本人から様呼びは止めてほしいと懇願されました――情報を交換したりして、なんとかテンジ様の手掛かりを探して世界中を旅して回りました。

 

 そして、数千年の月日が流れ、人々の暮らしも大きく変わる中。カグヤ様を復活させる方法を思いついたというゼツとともに、今は暁という組織に所属しています。

 暁は傭兵家業で生計を立てており、リーダーの弥彦という少年の理念『争いのない平和な世の中を作る』という想いに共感した者が集った組織です。

 その理念は立派なものですが、私たちの目的はカグヤ様の復活とテンジ様を見つけることです。そのためなら非道な手段の一つや二つ手をつけることが出来ます。

 ゼツの策略により「うちはマダラ」と「うちはオビト」を傀儡にして、長門という少年に輪廻眼を開眼させました。

 その際、弥彦には不遇の死を遂げてもらい暁のリーダーは長門に。メンバーの多くがS級の犯罪者で結成された新組織に変わりました。ゼツ曰く、世界中に散った尾獣たちを集めるため、戦闘力が高い面子を揃える必要があったようです。

 私たちは長門の側近という立ち位置を獲得し、世界中に散った暁のメンバーの情報を精査する権利を得ました。

 こうして尾獣を集めて十尾を復活させて、うちはマダラとオビトを生贄にしてカグヤ様を復活させるという作戦を開始したのです。

 そして、私たちはついにテンジ様に関する有力な情報を手に入れたのです!

 

 

 

9

 

 

 

「義母さん義母さん! やったよ! ついに父さんを見つけたよ!」

 

 その報告は突然だった。

 ある日、興奮した様子でゼツがそう言ってきたの。

 その言葉にアイナたちが反応を示さない訳がなく、柄にもなくゼツの肩を掴んで強く揺さぶる程だった。

 

「本当!? テンジ様はどこっ!?」

 

「ご無事なのですか!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて! 無事、無事だから!」

 

 渋々と手を離すとホッと息を吐いたゼツは、ようやく手に入れた情報を教えてくれた。

 その話によると、世界各国にテンジ様と思わしき人物を目撃したとのこと。

 初めは他人の空似かと思ったが、ほとんどの人物が転生眼を有していたらしい。

 その人は【旅団】という組織を作って奉仕活動を中心とした依頼を熟しており、依頼達成率は驚異の百パーセント。

 そして【旅団】のリーダーの名前が――テンジ。

 

【旅団】リーダーの詳しい特徴を細かく聞いた私たちは、その方々がテンジ様ご本人であると悟った。確かカグヤ様の話によると、テンジ様があのヒョロヒョロ野郎と戦っている時、三人に分裂していたみたいだし。

 きっと世界中で見かけたテンジ様たちは、その分裂の術によるものに違いない。

 さらにその男性がテンジ様であると決定づける出来事が起きた。

 突然、空に大きな大地が生まれたの。

 まるで地縛天星を横に真っ二つにしたような半円の大地。

 だけどその大きさは並では無く、小さな島くらいのサイズ。

 このサイズの大地を作り出すなんて、長門の輪廻眼でも不可能。

 こんなことが出来るなんて、ただ一人。

 テンジ様しかいない。

 

 ――テンジ様が生きている! テンジ様があそこにいる!

 

 そう考えると居ても立っても居られず、口寄せした怪鳥で、空に浮かぶ大地に向かったけど強固な結界に阻まれて侵入出来なかった。

 アイナたちでも破れない結界を張れるなんて、テンジ様しかいない。

 やっぱりここにテンジ様が居るんだって、その時確信したの。

 それからアイナたちは世界各地に散らばっているテンジ様の分身と接触を図ろうと、目撃情報を元にそこへ向かうんだけど、何故か毎回すれ違いに。

 まるでアイナたちのことを避けてるんじゃないかって疑っちゃうほどで。

 数年もヤキモキさせられてようやく、テンジ様と再会を果たすことが出来た。

 

 数千年ぶりに目にするテンジ様は見間違えるほど格好よくなってて。長かった髪を短くして、黒地の服に白い羽織り物を着ていて、思わず見惚れちゃった。

 だけど、それも束の間。長年会えなかった分の寂しさ、不安、恐怖。そしてようやく逢えた喜び、安心感など色んな感情がない混ぜになって。

 気がつけばテンジさまの胸の中で泣いてたの。

 久しぶりにお目に掛かったテンジ様は、アイナたちのよく知るテンジ様だった。

 朗らかな微笑みを浮かべながら、抱きつくアイナを包容してくれて。

 

「――貴女たちと再び出逢えたこの奇跡に、感謝します」

 

 と優しく囁いてくれた。

 その言葉とテンジ様の暖かさに、アイナの涙腺は壊れちゃったの。

 

 

 

10

 

 

 

 あの死闘の顛末をテンジ様に伺いました。

 テンジ様は「でしたらノートを見て頂いた方が早いでしょう」と、毎日何かを記載してしていた冊子の一部を見せてくれたのです。

 そこに書かれていたのは、あの大筒木の二人組がやって来た日の記録。

 テンジ様のその後の顛末が、生々しく記載されていて、その想像を絶する出来事に私たちは、しばし言葉を失ってしまいました。

 数千年という時の中、何もなく誰もいない世界の中であてもなく彷徨い、その果てに記憶を失うなんて。

 私なら間違いなく発狂していたでしょう。私だけでなくアイナや他の人でも、きっと耐えられないに違いありません。

 しかも、今の今まで記憶を失っていたのに、私たちの姿を見た途端、失っていた記憶が戻るなんて。

 絶望しかないテンジ様の出来事、そして私たちのお陰で記憶が戻るという奇跡を目の当たりにして、枯れ果てたと思っていた涙も、再び流れてしまいました。

 

 記憶を無くしている間もテンジ様はテンジ様と言うべきでしょうか。すでに二十名近い女性を囲み寵愛を授けていた様子。

 自己紹介の際にはついつい張り合ってしまいましたが、彼女たちが羨ましいです。

 私たちも今すぐテンジ様の傘下に加わり、かつてのように蜜月の日々を過ごしたいのですが、我々は暁に所属してしています。暁のルールで絶対とされているのは“裏切り者には死を”というもの。

 まあ、その点は問題ありません。私たちも齢を重ねていく中で『テンジ流戦闘術』の鍛錬は怠りませんでしたし、チャクラ術――忍術の研鑽も積んできました。

 マダラやオビト、長門たちを相手にしても不覚を取らない自信があります。

 ですが、私たちにはカグヤ様をお救いするという目的もあります。そのためには暁に所属するのが好都合であり、尾獣を集めなければなりません。

 ほとんどの尾獣をテンジ様が確保していたと聞いた時は驚きましたが、その真意を聞き納得しました。

 

 尾獣は十尾の魂が九つに分割した存在ですが、ハゴロモ様の手で育てられたことに変わりありません。その点で言えば確かに私たちにとっても孫のような存在と言えるでしょう。

 テンジ様は尾獣たちを保護して人間に利用されないようにしたいとのこと。

 そして『武力による争いがない世界』を目指して活動してしていると聞き、私たちも強い共感を覚えました。それはまさしくカグヤ様が望んでいた世界ですから。

 ですが、そうなると当初予定していた『尾獣たちを使って十尾を復活させ、マダラたちを生贄にカグヤ様を復活させる』という計画も変更しなければなりません。

 とりあえず代案が見つかるまでの間、私たちはこれまで通り暁で活動することになりました。

 然るべき時が来たら、大手を振ってアイナとともにテンジ様の元へ戻ろうと思います。

 

 テンジ様とようやく再会を果たした私たちは三日間、寵愛を受けました。

 数千年ぶりのセックスは私に女の喜びを思い出させてくれて、はしたなくも獣のような声で喘ぎ、よがり狂ってしまいました。

 テンジ様の絶倫っぷりはよくご存じでので、何度も何度も求めてしまい、三日三晩部屋に篭り身体を重ねたのです。

 食事の時も繋がりながら、口移しで食べさせ合い。おトイレも繋がったまま子供のように抱えられて排尿を促され、テンジ様が催した時は私たちが便器代わりに。

 当然お風呂も一緒で、久しぶりにテンジ様のお体を洗わせて頂き、興奮のあまり私から襲い掛かってしまいました。

 

 この三日間はまさに至福の時で、この後また離れ離れになってしまうと考えると、寂しさのあまりに身が裂けるような思いになりましたが。

 テンジ様は私たちに特殊な鍵を渡すと「いつでも帰ってきてください。貴女たちは私の妻なのですから」と声を掛けて下さったのです。

 いつでもテンジ様と会うことができる。そう思うと先程まで抱いていた寂寥感はどこかへ吹き飛び、気付けばまたテンジ様に抱き付いてしまっていました。

 もう二度とテンジ様を一人になんてさせません。

 死が私たちを別つその時まで――いえ、死んでもテンジ様の手を離したりしませんから!





 最近ね、他の人の小説を読んでて思ったんですけど。
 後書きに定型文のごとく「感想ちょうだい!」っていう発言が、結構目につきまして。
 自分も気持ちはよく分かるので何度か強請ってしまいましたが「あぁ、他の人もこんな気持ちなんだな」と思い知りました。

 まさに、他人のふり見て我がふり直せですね。
 乾燥乞食は良くないと認識を改めました。

 よくよく考えたら私たち書き手側は、ただ良い作品を提供し続ければいいんですよね。私自身が楽しんで書いているのはもちろんですけど、読者の皆さんにも楽しんで貰いたい気持ちは本物ですから。
 お気に入りの数だけファンが居るということですし、この数だけの人が読んでくれていると思うと強い励みになります。
 1200人といえば相当な数ですよ。中学・高校で大体300人くらいですもの。

 色々と思う所があったので、この場を借りて書いてしまいましたが。
 まあ、これからも頑張りますということで! 今後もよろしくお願いします!


【追記】
 次回はお待ちかね、綱手回です!

本編と勝手に書かれたシリーズ、どっちを優先してほしい?

  • 本編
  • 勝手に書かれたページ裏
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