※この作品はR-18です。

TENZIマジカル珍宝帖 ~私の嫁はラスボスでした~   作:ポチ&タマ

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 葬儀関係で投稿まで一カ月ほど掛かる予定ですが、その前に完成しているストック分を吐き出すことにしました。今回は6話分です。

 R-18タグが付いたので、もう少し直接的な性描写にしてみました。とはいえ、エロい描写は裏ページのみにする予定です。
 本編ではこれまで通りの感じで行きますので、よろしくお願いいたします。



3ページ裏 その2(綱手)

 その後、倒れている綱手を発見した警邏中の忍びにより病院へ搬送。

 翌日、無事に目を覚ました彼女の前には、安堵した表情で彼女の帰還を喜ぶ自来也と、話を聞きたそうな雰囲気を醸し出しながら涼し気な微笑みを浮かべる大蛇丸がいた。

 当然、拐われてからの顛末を聞かれた綱手は、テンジに関する情報を打ち明けようとするが、口は虚しく動くだけで一向に言葉が出ない。筆談をしようにも手が動かない現状に、大蛇丸は何らかの暗示が掛けられていると看破した。

 その後、木の葉の尋問・拷問特殊部隊の隊長を務める森野イビキがやって来る。

 彼女の無事に表情を和らげたイビキだが、すぐに真剣な面持ちになると、一つ一つ丁寧に質問を投げかけていった。

 が、イビキの尋問が始まるや否や、綱手の頭からテンジに纏わる記憶がすっぽりと抜け落ちていく。

 どこへ連れて行かれたのか、どんな人物だったのか、何をされたのか。そのすべてが答えられない。

 

「何で……なんで何も思い出せないの……?」

 

 困惑した様子で首を振るう綱手を前に黙考するイビキ。数々の人を見てきた彼には綱手が欠片も嘘をついていないことがすぐに分かった。

 恐らく強力な暗示が掛けられているのだろうと推測したイビキは、これは山中いのいちにバトンを渡すべきだとすぐに判断。

 同じく見舞いにやって来た、いのいちは綱手の頭に手を置き、脳にある海馬へアクセス。直接その記憶を読み取ろうと試みるが――。

 

「――ぬぉあっ!?」

 

「山中さん!?」

 

 突然、悲鳴を上げて手を離したいのいちにイビキが駆け寄った。

 何が見えたのかと問うと。

 

「く、屈強な男同士が絡み合う、その、アレを見せられた……。恐らくブービートラップだろうが、なんて恐ろしいものを……」

 

「それはまた……」

 

 記憶を読み取る術に対するトラップは多く存在するが、ここまで偏った内容のものは初めてだった。顔色を真っ青にしたいのいちに同情の視線を向けたイビキだが、肝心の記憶は読み取れたのか尋ねると。

 

「いや、無理だった。恐ろしいほどの強固なプロテクトが掛けられている。それも何重にもだ。これほど強固で複雑なものは初めて見たよ……」

 

「では……」

 

「あぁ。無理に解こうとすると返って綱手くんが危険だろう。最悪すべての記憶を失い人格が崩壊しかねん」

 

 イビキくんの尋問対策を見てもそうだが、どうやら用心深い敵のようだ。そう言い難しそうな顔をするいのいち。

 その後、病室に訪れてきた火影たちに報告した結果、現状どうしようもないため今回の件は保留扱いとなる。

 そして、旅団のテンジという名は指名手配され、木の葉のビンゴブックにS級犯罪者として名が載るのであった。

 

 軽度の脱水症状のみと診断され当日の退院を言い渡された綱手は、その日の夕方に木の葉病院を後にした。

 運が悪いことに恋人のダンは任務中で見舞いには来れなかったが、明日には逢えるだろう。そう思うと気が弾むが、病院の敷地から出た途端、脳の奥の方でパキンっと何かが砕ける感覚があった。

 同時に、今まで思い出せなかった出来事が湯水のように湧き出ては脳裏を駆け巡る。

 思わず頭を押さえた綱手は「そうだ、思い出した……」と呟いた。

 

「私はアイツに……テンジに……」

 

 今からでも火影に報告するべきだろう。そう考える綱手だが、彼女自身知らない間に掛けられた暗示の存在を思い出す。

 テンジほどの実力者が掛けた暗示である。そう簡単に解けるとは思わない。

 恐らく記憶が蘇るのも想定していることだろう。

 暗示の解除が出来ない以上、自然消滅するまで待つしかない。そう判断した綱手は数日ぶりの我が家へ帰宅するのであった。

 

 

 

1

 

 

 

 それから三日後。

 綱手は木の葉の市街地の中にいた。隣には恋人のダンの姿もあり、仲良く腕を組んでデートを満喫している。

 立ち寄った本屋の新刊コーナーで目当てのものを見つけた綱手は上機嫌そうに笑顔を見せていた。

 

「見つかってよかったな綱手」

 

「えぇ! 流石、ホクサイ先生の新刊ね。まさか二軒とも売り切れなんて。三軒目でようやく買えて、嬉しい気持ちより安堵感の方が強いくらいよ」

 

「確か、今人気の小説家だっけ」

 

「うん。主に少女向けのものを書いてるんだけど、凄く心理描写が上手くてね。特に主人公とヒロインが絡んだ心の動きは読んでいてこっちもドキドキするくらい。ダンも読んで見る?」

 

「いや、流石に女性向けのものはちょっと」

 

「女性向けだけど、男でも読みやすいような文体だから、多分楽しんで読めると思うわ。もし気が向いたら言ってね。先生の本は全巻揃えてあるから!」

 

「あ、はは……。まあ、その時はお願いしようかな」

 

 仲睦まじい様子でデートに興じる二人。それは誰かどう見てもラブラブなカップルのそれであるが、当人たちの間には微かなぎこちなさがあった。

 先日の綱手誘拐事件は箝口令が敷かれ、これを知っているのは上忍や暗部など極一部の忍びのみ。

 当然ダンも知っており、綱手に掛けられた暗示のことも聞かされていた。

 そのため、綱手の快活な笑みに何処か翳りが見えるのは事件の尾を引いているからだろうと推察し、あえて話題に触れないでいたのだが、当の本人はというとーー。

 

(はぁ……なんでこんな気持ちになるの……?)

 

 心待ちにしていた恋人との再会。

 心の底から心配してくれるダンに嬉しいと思う反面、後ろめたい感情が拭えない。

 原因は分かっている。抗えない状況であったとはいえ、ダン以外の男と体を重ねねてしまったのだ。その罪悪感が心の奥底でヘドロのようにへばりつき、申し訳ない感情で一杯になる。

 だからと言って馬鹿正直に話すわけにもいかない。きっとショックを受けるだろうし、そもそも暗示が働いているため、空中都市での出来事は何一つ話すことが出来ないのだ。

 大好きな人に後ろめたい隠し事をしているという事実と、待ちに待ったデートの最中だというのに時折脳裏にチラつくテンジの影に、綱手は純粋に逢瀬を楽しむことが出来ないでいた。

 

 それから当人たちしか感じ取ることが出来ない僅かな違和感を抱きながらデートは続き、夜も耽ってきた頃。

 彼女を家まで送り届けたダンは、綱手のお願いもありそのまま敷居を跨いだ。

 綱手の家は一人暮らしをするには大き過ぎるほどの一軒家で、昼は家政婦が働いているが夜になると彼女のみとなる。

 恋人しかいない家に上がり込めば自然とそういう雰囲気になるのは当然のことで、綱手の部屋では数度目になるエッチが行われていた。

 

「綱手っ、気持ちいいかい……っ!!?」

 

「う、うん。もちろんよダン……!」

 

 仰向けになった綱手の上に伸し掛かる形で、ダンは必死に腰を振っている。

 奇しくもテンジに凌辱された体位と同じもので、当初はダンとのセックスにときめいていた綱手であったが――。

 

(ダンとのエッチって、こんな味気ないものだったかしら……?)

 

 前戯もほどほどにすぐさま挿入してきたダン。単調に腰を振るその行為に綱手は言いしれぬ違和感を覚えていた。

 感じていないかと言われれば横に首を振るうだろう。

 しかし、満足しているかと問われれば口を噤みざるを得ない。

 快感に耐えるので精一杯なのか、綱手に気に掛ける素振りすらなく、目を瞑り必死に腰を振る姿は、まるで自分の欲望を叩きつけるかのよう。

 それでいてどこか物足りなさを感じていた綱手は、思わずテンジとのセックスを思い出す。

 

(アイツはこっちがイクくらい執拗に愛撫とかしてきたし、セックスも私の反応を確かめながらしてたけど……。ダンはそうじゃないのね……)

 

 無意識のうちに恋人とテンジを比較しながら冷静に分析する綱手。

 そんな彼女のどこか冷めた目に気づかないダンは、我慢しきれずに果ててしまった。

 

「あん……」

 

(えっ、もうイッたの? 始めてまだ十分しか経ってないのに……)

 

 ゴム越しに脈動するおち○ちんを感じながら思わずそんな感想を抱く。

 そして、当の本人は満足げに微笑みを向けてきた。

 

「ふぅ……。すごく良かったよ綱手」

 

「え、ええ。私もよ」

 

 まだ一度も絶頂を迎えていない綱手の体は物足りなさをハッキリと主張していた。

 思わずこのまま続けて、と大胆な誘いを掛けるがーー。

 

「すまない、明日は任務だからもう時間が」

 

「そ、そう。それなら、仕方ないね」

 

 申し訳なさそうな顔で断りを入れるダンに綱手は微笑み返した。

 よく観察すればどこかぎこちない笑みであることが分かっただろうが、ダンは綱手の顔を見ることなくテキパキと後処理を済ませていく。

 まだ一度もイッていない綱手は、モヤモヤしたものを内に溜めながら、乱れた服を整えた。

 

(ダンとのエッチってこんな感じだったっけ? テンジなら、このまま抜かないで……って、何を考えてるの綱手! 恋人とレイプ魔を一緒にするなんて……!)

 

 そこまで考え掛けた時、ようやくダンとテンジを比較していることに気づいた。

 確かにセックスはテンジの方が断然気持ちよかったし何度もイかされてしまったが、中身は断然ダンの方が上である。

 付き合い始めてまだ一ヶ月ほどだが、ダンは紳士的で優しく思いやりのある男性だ。それに比べてテンジはただ自身の欲望を満たすだけに、見ず知らずの綱手を誘拐してレイプしたのだから。

 レイプ魔と恋人を比較するなど、ダンに対して失礼だ。

 自分を戒めた綱手はダンを玄関まで見送ると、疼きを治めるために部屋へと戻る。

 そして、クローゼットの隅に隠していたダンボールを久方ぶりに引っ張り出した。

 その夜、綱手の部屋では獣のような喘ぎ声が一晩中続いたという。

 

 

 

2

 

 

 

 それから数日。テンジに拐われてからちょうど一週間後のことだ。

 綱手はかつてないほどの焦燥間に駆られながら救助地点に向かっていた。

 場所は木ノ葉の里から数キロほど離れた山林地帯。他里の忍びから奇襲を受け負傷者が出たと知らせを受け、医療班として出動した。

 綱手が焦りを見せているのは、その忍びが恋人のダンであるとのことだ。

 軽度であってくれと願いながら現場に到着すると、すでに戦闘が終わり敵の忍びが倒れ伏している。

 そこから放れた場所では仲間に囲まれながら恋人のダンご木にもたれる形で座り込んでいた。

 

「ダンっ!」

 

「綱手、か……すまない、ヘタをした……」

 

「いい、喋らないで! 今治すから!」

 

 ダンを地面に寝かせて忍装束を解く。

 腹と胸部の出血が酷く、既にダンの顔色は真っ青になっていた。

 とりわけ胸部に空いた穴は心臓の一部を抉っており、生存の見込みは恐ろしく低い。

 医療忍者として培った知識が恋人の状況を冷静に分析する中、胸部に手を当てた綱手は必死に治療を施す。

 

「くそっ、血が止まらない! 止まれ、止まれっ!」

 

「綱手……」

 

「喋らないでっ! 絶対に治してみせるから!」

 

 生気のない顔で恋人の名を呟くダンに悲鳴のような声で返事を返しながら、綱手は懸命にチャクラを流し込み出血を抑え込もうとするがーー。

 

「なんで、なんで止まらないのよ……! 止まれっ、止まれっ、止まれぇッ!」

 

「綱手、もう、いい……」

 

「黙って……! 全然良くなんてないっ! あなたたち何突っ立ってんの! さっさと手伝いなさいっ!」

 

「綱手さん……。もう、彼は……」

 

 ダンの現状から助かる術はない。諦めるように綱手に告げる医療忍者に、綱手は駄々を捏ねるように首を振った。

 

「そんなことない! ダンはこんなところで死ぬような男じゃない! ……くそ、くそっ! 止まって……止まってよお願いだから……っ」

 

 いくら治療の手を施しても治る気配を見せない。

 命の灯火が消えていくのを直に感じながら、チャクラを流し続ける綱手の脳裏に、ふと過るものがあった。

 

『――そう遠くない未来、貴女は二度目の絶望を前にするでしょう』

 

 二度目の絶望。まさに今、この状況そのものを示唆している。

 

(また私は、失うの……? また私から大切な人を奪っていくの……?)

 

 綱手の視界に映るダンの首飾り。それは綱手が彼に渡したもので、初代火影が身につけていた世界に一つしかないネックレス。

 しかし、その首飾りを見て頭に過ぎるのは、嘗て味わった一度目の絶望。

 首飾りをプレゼントされて喜んでいた可愛い弟が、酷い亡骸となって帰ってきたあの日の記憶。

 あの絶望をもう一度味わうというのか。そう思うと震えが止まりなかった。

 

「綱手……。残念だが、彼はもう……」

 

「――けて……」

 

 俯いた綱手の頬を涙が伝い、恋人の胸の上で弾けて消える。

 ポロポロと大粒の涙を流しながら、綱手は囁くような声で呟いた。

 

「――お願い、だから……ダンを、助けて……」

 

『どうしようもなくなったその時は、私の名を叫びなさい』

 

「助けてよ、テンジ――ッ!」

 

「えぇ、もちろん。助けましょう。貴女がそれを望むのであれば」

 

 いつからそこに居たのか。気がつけば綱手の背後にテンジが立っていた。

 白の生地に青のラインが入った外套。六芒星の印が描かれたコートを羽織ったテンジに、周囲の医療忍者やダンと同じチームの忍びたちが驚きのあまり固まった。

 一切の気配を感じさせずここまで接近を許すなど、忍びとしてあり得ない。

 遥か上の力量を目の当たりにし、固まってしまっている忍びたちを尻目に綱手の手をそっと取り、遠ざけたテンジは神術を行使した。

 

「時よ、巻き戻れ」

 

 神術・時間逆行。時が巻き戻ることでダンの怪我がみるみると塞がり、付着していた血や忍び装束の傷まで消えていく。

 まさに神の御技と言ってたら過言ではないこの現象に、綱手は涙を流したまま呆然と眺めていた。

 やがて怪我を負う前の時間まで巻き戻されたダン。顔色はすっかり良くなり安定した呼吸を繰り返す恋人の姿に、綱手はその場でへたり込んだ。

 

「これで彼は大丈夫です」

 

「あ、ありがとう……」

 

 現実離れした出来事にまだ脳の処理が追いついていないが、テンジが居なければダンは助からなかった。

 それだけは分かっていたため感謝の言葉を述べた綱手だが、ふと疑問に思うことが浮かぶ。

 

「でも、何で助けてくれたの? アンタからしたらダンは恋敵じゃ……」

 

 なにせレイプするほど好意を寄せているのだ、普通であれば恋敵であるダンを見捨てるだろう。

 

「好きな女性の悲しむ顔など見たくありません。貴女が悲しまないで済むのなら、それに越したことはないですよ」

 

 そう言い微笑んだテンジは踵を返すと、所在なさげに佇む医療忍者の元へ歩み寄る。

 そして、困惑しているところを問答無用で襲った。

 

「テンジ流・忘心波衝撃(小)!」

 

「がっ――」

 

 頭を挟むように両手で掌底を打ち込むと、医療忍者の一人が崩れ落ちる。

 間髪入れずもう一人の医療忍者にも同じ技を食らわせたところで、ようやく綱手が正気に戻った。

 

「な、なにをするの!」

 

「少々不都合なところを見られてしまいましたので、忘れて頂きました。ここ数時間の記憶のみですので、後遺症の心配はありません」

 

 通常の威力で放てばすべての記憶を失ってしまうが、最大限まで手加減したため数時間程度の記憶喪失に留めることが可能となる。

 これでテンジの存在を知られることなく、ダンを救うことが出来たのだから結果としては上々と言えるだろう。

 軽やかな手捌きで瞬く間に綱手以外の忍びたちの記憶と意識を消し去ったテンジは、用が済んだためその場を後にしようとするが、不意に服を引っ張られる感覚がした。

 振り返ると、綱手が手を伸ばしてテンジの裾を掴んでいるではないか。

 視線を反らし何処かソワソワした様子の綱手は、口籠りながら小さく呟く。

 

「その……ダンを助けてくれたんだからさ……。何かお礼、させてよ……」

 

「お礼ですか」

 

 意外な申し出であった。綱手にとって自分はレイプ魔であり今でも憎んでいるはず。それなのに恋人を救ってくれた礼をしたいとは。

 律儀な娘ですね、と内心感心しながらもありがたくその申し出を受けることにする。

 

「では、一日デートというのは如何でしょうか。私も貴女のことをもっと知りたいですし、貴女にも私のことを知って頂きたい」

 

「一日デート……」

 

 綱手にとっても意外な内容である。

 てっきり体を差し出すように言われると思っていたが、まさかのデートだ。

 自分のことを知ってもらいたい。相手のことを知りたい。どちらも恋愛をする上で欠かせない興味関心であり、当然綱手にも覚えのある感覚だ。

 

(コイツ、本気で私のことを……)

 

 恋敵であるダンを救ったのも、単に綱手に悲しんでほしくないという理由。

 テンジは本気で自分に惚れ込んでいるのだと理解した綱手は、強烈な心臓の高鳴りを覚えた。

 擬音で表すなら、“キュンキュンッ”などという生易しいものではなく、さながら“ズキュウゥゥゥゥンッ!”。

 まるで雷遁を直に受けたかのような甘美な痺れと衝撃が全身を突き抜けるかのような、そんな高鳴りだ。

 ダンを相手にしてもここまで高鳴ったことがない心の異常に顔を真っ赤にした綱手は、小さな声で「わ、分かったわ……」とだけ呟いた。

 急に挙動不審に陥った綱手を不審に思いながらも、怪我や病気の類ではなさそうだと看破したテンジは嬉しそうに笑った。

 その純粋無垢な笑みに綱手の心臓が再び暴走を起こすが、そうと知らないテンジは「では後日、お伺いに参ります」とだけ言い残し、今度こそ去ったのだった。

 

「……うそ」

 

 残された綱手は異様に煩い鼓動を抑えるように胸に手を当てながら、呆然と呟く。

 

「私……本気でテンジに惹かれてるかも……」

 

 呆然とした恋人の呟きは、深い眠りについているダンの耳に届くことはなかった。

 

 

 

3

 

 

 

 あれから数日後。何事もなく目を覚ましたダンだが、数時間分の時を戻されたため任務中の記憶を失っていた。

 任務を受けて里を出たところまでは覚えているが、気が付けば依頼を遂行して里に戻っていたのである。同じ班の仲間たちも同様らしく何があったのかさっぱり分からず終始首を傾げる羽目になった。

 すべてを知る綱手はダンに申し訳なさを覚えつつ、下ろし立ての服に着替える。

 今日は約束のデートの日なのだ。仮にもデートなのだから相応の服装で挑まないと、程度の認識でチョイスした綱手だが、その気合の入り様はダンとのデート以上であることに気づいていない。

 お洒落な服装は勿論だが、あまり着飾らない綱手にしては珍しくブレスレットやネックレスなどを身につけ、薄く化粧を施した上に香水まで掛けているのだ。

 無意識に気合いを入れていることに気づいていない綱手は、鼻歌を奏でるほど上機嫌な様子で待ち合わせ場所に向かった。

 

「こんにちは綱手さん。いつも美しいですが、今日は一段と輝いておりますね。それほど私とのデートを楽しみにしていてくれたのですか?」

 

「そ、そんなんじゃないわよ。仮にもデートなんだから、これくらいは当然でしょ」

 

 やった褒められた!

 喜びに湧く心の内を知られないように腕を組んでそっぽを向く綱手。

 前腕で持ち上げられた巨乳がたぷんと波打ち、テンジの視線が釘付けとなる。

 遠慮というものを知らないテンジのガン見に「見過ぎよバカ!」と内心罵りながらも、女としての自尊心が満たされていく感じは悪くない。

 

「こほんっ! ……今日のデートプランは任せて欲しいって話だけど、どういうプランなの?」

 

 咳払いしてテンジの視線を上げさせた綱手が本日のデートプランを尋ねると、「あ、そうだった」とでも言いたげな顔で手を叩いた。

 

「前回はまともに紹介出来なかったので、今回は我ら旅団の説明も兼ねて、改めて空中都市にご招待します」

 

 そう言うと、懐から一つの鍵を取り出すテンジ。

 どこにでもある銅製の小さな鍵だ。

 そこに鍵穴があるかのように、空間に突き刺して回すと、ガチャッという小気味よい音とともに蝶番状に空間が開いた。

 まるで扉の形をした空間だ。空中都市に繋がっているのだろう、その向こうに広がる景色は明らかに現在いる場所とはかけ離れている。

 

「……えっと、特殊忍具か何かなのそれ?」

 

 見たことのない忍術っぽいなにか。

 印を組むどころかチャクラすら練らずに時空間忍術を発動させるとなると、術式が描かれた巻物を始めとした忍具を連想するが、鍵型は聞いたこともない。

 そんなものです、とだけ答えるテンジに促された綱手は、二度目となる地に足を踏み入れた。

 

「改めて、ようこそ空中都市へ。我々旅団以外でこの地に足を踏み入れたのは、綱手さん貴女だけですよ」

 

「それは光栄ね。ところで、ここってテンジの……」

 

 空間の扉を潜ると、蒼天の空の下に踊り出た。

 眼前には、大きな神殿が待ち構えており、天使を模した彫像が入り口を挟んで来訪者に微笑みかけている。

 外壁のデザインや模様も、厳かでありながらどこか神秘的な雰囲気を醸し出しており、ここが人の家だとは到底思わないだろう。

 

「はい、私の家です。綱手さんも以前来たことがありますよね」

 

「え、えぇ、そうね……」

 

 その言葉に、あの激しい情事を自然と思い出してしまい頬を赤くする綱手。

 首を降って頬に集まった熱を散らすと、前々から気になっていたことを尋ねてみた。

 

「それはそうと、何で神殿なの?」

 

 神殿を家にするなど、神以外いないだろう。

 そのもっともな疑問に「……あぁ!」と遅ればせながら質問の意味を理解するテンジ。長いこと神様扱いを受けていたため感覚が鈍っていたが、彼女の反応が普通なのだ。

 

「実は旅団の皆さんの約半数が私を神と崇める信者でして。その影響でこのように見事な神殿や祭壇まで作って頂いたのです。唯一神などと呼ばれていますが、まあ余り気になさらないで下さい」

 

「本当に怪しい宗教そのものじゃない……」

 

「怪しいのは認めますが、信者の勧誘などは行っていませんよ。そもそも旅団内で完結しているので、ただのファンクラブのようなものですね」

 

 まさか、本当に神様と同列に扱われていたとは。予想の斜め上の回答に、思わず頭に手を当てる綱手。

 胡散臭い宗教は数あるが、それらと違うのは信仰対象であるテンジに邪な考えがない点か。

 そして不安な点は、テンジ自身が楽観視しているため、信者の暴走に気づけない可能性があること。

 

「こんな私を慕ってくれているだけありがたい話です」

 

 のほほんとした顔でそう呟く神様を見て、「この先、絶対やらかすんだろうな」と信者の暴走を確信する綱手であった。

 神殿は市民街を一望できる斜面の上に建てられている。守護神であるテンジが民の皆を見守っているような構図になっており、これは狙って行われたのかは定かではない。

 市民としては目印として分かりやすいため、ありがたいことであるが。

 神殿から見渡す限り、家は木造建築の平屋建てが多い。瓦屋根が規則正しく並ぶ光景を目にしながら二度目の質問を投げかけた。

 

「今、ここには何人くらい居るの?」

 

 綱手をエスコートしながら、なだらかな下り坂を降りていくテンジは、何でもない口調で応える。

 

「五四一名ですね。もちろん、全員旅団の団員ですよ」

 

「五四一!? ちょっとした町じゃない!」

 

 木の葉は大国である火の国の中でも大きな里であり、人口は十万人規模であるため論外であるが、この世界の基準からすれば五百人といえば町程度の大きさに匹敵する。

 組織で五百人を超えるとなると、大規模組織と言えるだろう。

 自分が思っていた以上に【旅団】という組織の危険性を目の当たりにした綱手は、しばし衝撃で言葉を失っていたが、そんな彼女に追い打ちを掛ける場面が展開されていく。

 

「テンジ様、見てくださいよこのキュウリ! どう思います!?」

 

「すごく太とくて、大きいですね。ゲンさんの野菜は美味しいですから、いつも助かってますよ」

 

「あっ、テンジ様! また稽古つけて下さい!」

 

「えぇ、もちろん良いですとも。ユウもあと少しで三段に昇格ですね。これからも頑張るのですよ」

 

「おぉ、テンジ様。貴方様のおかげで、今日も健やかに過ごすことが出来ております。ありがたやありがたや……」

 

「チエコさん、そんなに拝んでいると腰を悪くしてしまいますよ。チエコさんも長生きしてくださいね」

 

『キャー、テンジ様ぁ〜!』

 

「皆さん、今日も元気ですね。良いことです」

 

 畑仕事に勤しむ農家の中年男性。

 商いをする青年男性。

 散歩をする腰の低いお婆さん。

 アカデミーに通っていても可笑しくない年齢の少女たち。

 

 テンジを見かける度に親しみの笑顔とともに声を掛ける人々だが、そのすべての人たちが中忍以上の実力者であることを綱手は見抜いていた。

 朗らかな笑顔を浮かべてテンジに挨拶をするが、常に綱手を視界に入れており、それとなく警戒しているのが分かる。

 何気ない仕草に隠された、すぐさま反撃に移せる隙の無さ。有事の際に素早く動けるよう、安定した重心移動。

 自分たち忍びとはどこか違う独特の気配を醸し出す人々に、人知れず綱手は気圧されていた。

 それを察したのかは分からないが、人々の気配はテンジの放った言葉でガラッと変わる。

 

「あぁ、皆さんにも紹介します。こちらは木ノ葉の里からいらした綱手さん。近々、私の家族になる予定ですので、皆さんも見知りおいて下さいね」

 

「ちょっ、家族って――!」

 

(こ、ここ、こんなところでプロポーズ!? きゅ、急すぎるわよ! プロポーズするならもっとロマンチックな場所で、っていうのがお約束でしょ! なのに、なにサラッと世間話の延長線で話してるのよっ! このバカっ! バカテンジっ!)

 

 恋人にすらまだプロポーズをされていないのに、さらりと先を越される形で受けてしまった綱手は、自身でも分かるほど顔を真っ赤に染めて俯いた。

 普段の彼女を知る人が、こんなにしおらしい姿を目にすれば、変化の術で化けた偽物だと疑うことだろう。

 強気な性格の彼女なら、「なにバカなこと言ってるのよ!」と口より先に手が出るに違いない。

 

「あぁ! なんだ、そうだったのですか!」

 

 テンジの言葉を聞き、人々が一斉に警戒を解く。むしろ親しみすら向けて来た。

 

「テンジ様に見染められるなんて、幸せ者だねアンタ!」

 

「これでまた、姫様が一人増えたわけね! いや、目出度い目出度い!」

 

「お勤め、しっかりと果たすのよ!」

 

「えっ、えっ?」

 

 綱手に群がる女性たち。とりわけ中年の女性たちがバシバシと背中を叩いてエールを送ってくる。

 何が何だか分からず目を瞬かせる綱手は視線で助けを求めるが、そんな彼女の裾を小さな手が引っ張った。

 そこには三歳ほどの女の子の姿。

 ワンピースを来た女の子は可愛らしい笑顔とともに、手に持った花飾りを渡してくる。

 

「おねーちゃん、これあげるー」

 

「えっ? これを、私に?」

 

 ガーベラで出来た花冠だ。商品として売られていても可笑しくないほどのクオリティの高さに驚く綱手。

 少女タエは花屋の娘であり、この手の細工はお手の物。よく花畑に赴いては色々な花を摘んで花飾りを作っているのだ。

 

「ありがとうございます、タエ。すごく綺麗な花飾りですね」

 

「うん! おねーちゃんなら、きっとおにあいだと思うの!」

 

「そ、そう? ありがとうね」

 

 思わぬプレゼントを受け取り目を白黒させる綱手だが、このような可憐なプレゼントを貰って悪い気はしない。

 少女の頭を優しく撫でた綱手に「付けてあげますよ」と断りを入れて、花冠を受け取る。

 サラサラな金髪を指で軽く梳いて整えると、ガーベラの花冠を優しく被せた。

 今回のデートのために下した清楚な服装と相まって、可憐な乙女へと変身する綱手。

 金髪に白のガーベラは予想以上に映えており、一瞬見惚れるテンジである。

 

「あら~! お似合いの若妻ね!」

 

「わ、若妻……」

 

 はやし立てる外野の声に顔を真っ赤にする綱手。そんな彼女にテンジは心からの言葉を投げかけた。

 

「とても、よく似合ってますよ。今すぐお嫁さんにしたいほどです」

 

「~~っ! へ、変なこと言うんじゃないの……!」

 

 反射的に拳を繰り出してしまう綱手。

 自来也が相手なら向こう岸まで吹き飛ばすであろう腰の入ったボディブロー。片手で受け止めるテンジだが、あまりの威力に両足が地面から浮いた。

 

「おっと」

 

 体を反転させて力の流れを逸らしたテンジは、ふわっと綱手の上空を舞い綺麗に着地を決める。その身体操作に拍手をする一方、綱手のボディブローを評価する声もあった。

 

「流石テンジ様が見染められた方だ。あの拳は中々打てんぞ」

 

「んだんだ。脱力・脱骨が出来てねぇとあの威力は出ねぇべ」

 

「でも思いっきり力んでたよな。ていうことはチャクラによるものかね」

 

「なんにせよ奥方が強いのは良いことだ。小南様を始めとしたお妃様も、皆お強いからなぁ」

 

 こりゃ、将来が楽しみだべ。そう言い頷き合う男衆を余所に、つい殴ってしまった綱手は焦った顔を見せるが。

 

「うん、良い拳です。後はスムーズな重心移動と、踏み込みの力を余すことなく拳に伝えることが出来れば、尚いいですね」

 

 笑顔でそう評価するテンジに拍子抜けしてしまった。

 

「あ、うん……。えっ、大丈夫なの?」

 

「何がです?」

 

「……いえ、何でもないわ」

 

“木の葉一の怪力女”とまで称される綱手の拳を、何でもないように受け止めて見せたテンジに喉元まで出かけていた言葉を引っ込める。

 印を必要としない血継限界に、オオノキの爺さんの塵遁すら上回る威力で再現が可能。もしかしたら他の血継限界の忍術も扱えるかもしれない。

 その上、見たことのない時空間忍術や未知の能力まで備えていて、さらに体術も超一流ときたものだ。

 正直、テンジの実力は火影すら上回っているように感じる。さらには、五百人を超える旅団のメンバー全員が中忍以上の実力者となると――。

 

(テンジたちと戦うことになったら、果たして勝てるのかしら……)

 

 綱手は、彼とは絶対に敵対してはいけないことを強く実感した。

 戦力面は当然のこと、心理的な面でも彼とは敵対したくない。不思議と今ではそう思う綱手の手を引き、テンジはのんびりと案内を続ける。

 市民街を抜けた先には森があり、小鳥やリス、ウサギなどの小動物が暮らしている。

 奥の方には猪や鹿、熊なども生息しており、木の実や果物も豊富に実っていることから、ここで暮らす民たちにとってありがたい恵みの地だ。

 牧歌的な景色を見ていると、穏やかな気分になる。

 

「長閑なところね」

 

 リラックスした表情で景色を楽しむ綱手に、テンジも穏やかな口調で旅団のことを語り始めた。

 

「旅団は元々、戦災孤児や行き場のない人々の居場所として発足しました。最初は十人も居ませんでしたが、当時は戦争中でしたので瞬く間に仲間が増えまして。食い扶持を稼ぐために色々な仕事を受け持ちました」

 

 今からもう八年前になりますね。最初の頃は“何でも屋”という名前で仕事をしながら戦災孤児や行き場のない方々を引き取っていました。

 懐かしみながら当時を振り返るテンジ。その横顔を見つめながら彼の過去に耳を傾ける。

 テンジが切り株に腰を下ろすと、彼の元に小鳥たちが降り立ち、羽を休め始めた。

 

「五十人を超えますと流石に組織化したほうが良いと思い、立ち上げたのがこの旅団です。ほとんどの方々が一般人で、戦争の被害者でもあります。そんな、彼らの安息地として作ったのが、ここ空中都市なのです」

 

「それじゃあ、彼らは全員忍びでも何でもなく……」

 

「えぇ、ただの一般市民です」

 

 毛繕いをする小鳥たちに優しい視線を向けながら話を続けるテンジ。

 一般人の彼らが中忍レペルの実力をつけるまで並ならぬ努力を重ねてきたのは、容易に想像できた。

 綱手も戦争を経験したことがある。忍びとして駆り出され、多くの敵を葬って来たのだから。

 一般人に手を出すような真似こそしなかったが、木の葉との戦争に巻き込まれた無辜の民が大勢いると改めて知り、遣る瀬ない気持ちになる。

 分かっていたことだ。戦争だから仕方ないなど、被害者の前では口が裂けても言えない。

 

「皆さん、戦争の悲惨さを知っています。力無きものは全て奪われる。それを身を以て知っているからこそ、私たちの元で貪欲に鍛え続け、力を付けてきました。奪われないための力を。その結果、今の彼らに繋がるのです」

 

「もしかして、旅団にいる人全員が……?」

 

 中忍レペルの実力者なのか。その言葉にテンジは苦笑を返す。

 

「流石に全員ではありませんが、八割方と言っていいでしょう」

 

「それは、凄まじいわね……。でも、これほどの戦力がいながらなんで尾獣を集めるの? 戦争でもする気?」

 

「まさか。尾獣は集めているのではなく保護しているだけです。彼らを戦争の道具として利用されないために。私にとって彼らは孫のような存在てすから」

 

「孫……」

 

「私たち旅団の最終目標は、武力に依らない平和な世の中の実現です。武力の塊である彼らは人間たちにとって恰好な的でしょう。そして力をつけた里がさらなる力を求め、戦争を起す。この連鎖を断ち切る意味でも、尾獣の皆さんを保護しなければいけません」

 

 もちろん尾獣の皆さんの同意を得た上で。そう言い、服を捲って腹を見せるテンジ。

 そこには魔法陣のような文様が刻まれており、これが尾獣たちを封じている封印式だと分かる。

 

(テンジは、本気で世界を変えようと……)

 

 武力に依らない平和な世界。普段であれば夢物語と一蹴するであろうが、万に一つあり得るかもしれない。

 そう思わせるだけの力が、今のテンジには――【旅団】にはある。

 

「テンジはいずれ木の葉の人柱力も……?」

 

「もちろん、保護しますとも。まだ先の話ではありますが」

 

 木の葉の人柱力を狙うとなると、必然とテンジと敵対することになる。

 テンジに苦無を向けている自分を想像するだけで、胸に小さな痛みが走った。

 





 若い頃なので、綱手の口調はやや女性寄りにしてます。
 原作口調は火影としての口調だと思うので。

 綱手編は次で終わりです。

本編と勝手に書かれたシリーズ、どっちを優先してほしい?

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