――『鎖された神域に魔が迫りし時 民の安寧を守らんとする 大いなる〝科戸の風〟が吹く』――。
雲一つなかったはずの空を、黒々とした比翼が〝自由〟を主張するように飛び回り――醜い煤と煙を撒き散らしながら、異なる〝自由〟を穢していく。
統率の取れた動きがガタゴトとうるさい音を鳴らして海上を高速で渡り、目的地である陸地に向けて弾頭を覗かせる。その時――ごう、と嵐の夜の如き強風が吹き荒んだ。
『力無き民、そして暮らしの根幹のみを狙うとは――地すら越えて堕ち行くのか!』
黒鱗の巨躯が大空を巡り、陽光を乗せた白刃で鋼鉄の鳥を両断する。大きながらくたとなった鉄のかけらを蹴り、犠牲を払いながら進軍する別個体に接近――硝子張りの操縦席を大太刀の切っ先で潰し、編隊を組んでいた鳥たちの翼を風の刃で次々に斬り落とす。翻した大翼が乱気流を生み、海面に無数の漣を立てながら、舞い揺れる鈍色の破片を叩き落とした。
尾部から火を噴きながら襲う幾本もの鉄槍を刀の峰で払い、その発射元である〝空を飛ぶ大鯨〟の如き豪鉄船に刃を突き立てる。天を震わせるほどの大咆哮を上げた黒鱗の竜人は、かいなを振るって巨体を真っ二つに〝割り〟――無力化した機械のかけらを足蹴にしながら、頭上の羽を回転させて空を漂う新型機に飛びかかるが――鋭い爪牙が届く直前で躱される。
これまで応戦した旧型機よりも素早い反応で空を舞い、暴風のように接近する竜人を避けながら拳大の弾丸を浴びせ続ける。破裂する火薬が立てる閃光は〝キョウの刃〟の視界を奪いながら、灰と煤まみれの鱗を肉ごと剥いで鮮血の飛沫を上げさせた。
『ぬぅううううッ――たった数年で、ここまで性能を上げてくるか!』
弾丸の嵐に合わせて飛来していた小型の火槍が、竜人の肉を抉るように突き刺さり――内部で爆発する。強靭な体躯を皮下組織から破壊し、毒物で内臓を汚染する最新兵器が守護者に血反吐を吐かせた。
火器を大量に積んだ蜂のような新型機は、旧型機のような直線的な動きではなく、空を揺らめくように柔軟な動きを見せている。銃口を向ける竜人と距離を取りつつ、いくつもの穴が空いた銃の先端から順番に炸裂する弾丸を放ち、腹に抱えていた高性能な火槍を断続的に発射する。
『――――ッ!!』
ここまでに撃ち落としてきた約三〇〇の機体によって、体力とソウリョクを削られていた竜人には荷が重い相手だった。視界を覆い尽くすほどの煙臭い猛攻が、濃厚な死の気配を漂わせる。
その時――守護者の傷ついた身体を、輝きの旋風が包み込む。木の葉のように舞う光の破片に、〝守るべき場所〟――イサリビの〝今日〟が映し出されている。
【ミヤ様……お願いします……お願いします……! どうか、私たちの暮らしを……!】
【魚を待ってる奴らも居るんだ……俺たちの漁場、守ってくだせえ……!】
全身全霊での祈りを神に捧げ、守護者を信じている民の姿が竜皇の鋭い眼に光を宿す。そして、その中には――。
【皆殿の祈りを東の空に! 心から『ミヤ様に助けてほしい』と願い――キョウの存続を『ミヤ様が守る』と信じるのです!! その想いの力が強ければ強いほど、そのままあの御方の力になるのです!】
――滅びた風真家の紋が入った羽織に袖を通し、民の信心を導くように集めている――〝立派な武士〟の姿もあった。神の使いとして命を与えられている少女は、大声を張り上げてイサリビを駆け巡り、民たちに〝信心の本懐〟を今一度説いて回っているようだった。
日々の慣習――当たり前のことを忘れがちな人間だからこそ、〝声〟で言って聞かせることで強く思い出させる。迷ってしまいやすい民の心を〝神〟に集めさせ、イサリビ中から流れるソウリョクの純度を限界まで高めていた。
数ヶ月前にキョウの国土に据えられたばかりの〝主柱〟は立ち止まり、手指を組み合わせて、空に向かって祈りを捧げ始める。
【……こちらはお任せください、お屋形様。どうか……我らの願いを……!】
自分を守るように、元気づけるように漂っていた光に一枚の花びらが合流する――神に仕える勇士が魅せし、浅葱の木の葉が煌めいた。
『…………〝風真〟。おまえの願いは……確かに、叶ったな』
人の数だけ生まれた願い。その輝きが巨躯に注ぎ込まれ、疲弊していたはずの両腕が活力を握り締める。
大太刀を水平線と平行に構え、竜鱗の身体から溢れんばかりのソウリョクを滾らせると――大いなる風によって魔煙が祓われた快晴の空に、もう一つの〝日輪〟が花開く。
『最後の天子より預かった〝神剣〟の力――その身を以て味わうがいいッ!』
竜皇が咆哮を上げるとともに、大空を〝横〟に切り裂いた――音無き疾風が閃いたその瞬間――警報を鳴らしてありったけの武装を吐き尽くそうとした新型機を、波濤の如き光が呑み込んだ。
発せられた質量を持った光は、新型機の洗練された素材を容赦なくひしゃげさせ、先端から圧壊させていく。搾り出した黒い油を瞬時に灰と化し、空を濁していた羽音すらも消え去らせた。
(……流石の威力ではあるが……天崇の全盛期に見た〝全てを己から跪かせる威光〟には程遠い。ディヴァの信仰が失われているとはいえ〝御神体〟を以てしてもこの程度とは……おれは、何かを見落としているのやもしれぬな……)
瞬く間だけ脱力した竜人は、宙へと還り行く残光に――神性を宿した太刀を受け取り、〝民〟と〝想い〟を託された過去の思い出を重ねていた。
失われた信仰〝天崇〟の最上位に在った〝天子〟が、栗色の髪を桜吹雪になびかせる美しい姿を――守護者は、一時も忘れたことがなかった。
哀愁に耽ろうとした神だったが、そのような人臭い甘えなど許されるはずもない。無粋を気にせず飛び込んできた〝虫〟たちが、黒鉄の羽をうるさく鳴らしながら、敵対者の様子を窺うように空で停滞していた。
『さあ――日和るにはまだ陽が高いぞ!異教の太陽神よ! 統治を願わんとするならば、是なる信心の刃――叩き折ってみせるがいいッ!』
民から信心を納められた神は、柄を握った〝攘夷〟の意思を唸らせる。海水を巻き込む大いなる風を巻き上がらせ、外敵の侵略を阻むように〝空の壁〟を創り――立て続けに襲いかかる旧型機の大群を一身で掃っていく。
その危険な風が吹き荒れる空の下――海上には、何故か一隻の大型船が航行しており――竜人の守護に阻まれることなく、キョウの近海にある島へ向かっていた。
――――――。
「おい皆ぁ! 〝ヘビ様〟の言うとおりにきちんと祈らねえか! そんな浅ッせぇ祈り方じゃ、ミヤ様に儂らの想いが届かねえぞ!」
「ちゃんと祈っとるわいさ!こんのすっとこどっこいが! おめえこそ正座が崩れてんでねえか!」
「う、うっさいんじゃ! こいはあいだ!ちいとばかし脚が攣ってよお――」
「ああもう、こんなときに喧嘩しないのー! めっ!でござるよ! ほら、ちゃんと祈る!」
「へえーい。わかりましたよぉ、ヘビ様ァ……」
「へっへへ、怒られてやんの!」
「貴方も!祈る!!」
「……へい……すいやせん……」
「……まったく……さあ、皆殿! 今はミヤ様の勝利だけを信じて、他のことは考えないでください! 祈りの中に、自分の名前や居所を入れるのを忘れずに!」
私がイサリビの中心地にある集会所に立ち寄ると、そこではぴりぴりとした空気の中で言い争いが起こっていました。襲撃のたびに轟音が近づいてくる不安により、心の乱れが生まれて感情の制御が難しくなっているのです。
私は、感情をぶつけ合いがちな人たちにも、敵の存在とミヤ様への信心〝だけ〟を意識させて争いを鎮めます。些末な言い争いなら、たっぷりの夕ご飯でも食べればきっと忘れることでしょう――恨み言でもなければ、この世の争いが宵越しの根を張ることなどないのです。
「ヘビちゃ――ヘビ様、ありがとうねえ。あの馬鹿共、いっつもああなんさ。あたしの言うことなんざ聞きゃしねえ」
「あはは。あの人たちの気難しさは知ってるし……ホントは良い人だってことも、お屋形様のことをちゃんと信じてるってことも、全部わかってるよ……ハマコ殿」
「……ああ、ヘビ様……ここ最近で、ほんに立派になられましたねえ。ええ、ええ……」
「ありがたや……主柱様や……」とハマのおばちゃんに深々と拝まれた私は、その居たたまれなさから逃げるように集会所を後にしました。いくら私が〝主柱〟に据えていただいた身だとしても、いろいろと気まずいったらありゃしません。
……ほら、あれだよ。皆殿で言うとさ、んー、あれだ、『上司だった人が突然部下になっちゃった』みたいな。『関係も仕事も変わってないのに役職の上下だけが逆転しちゃった』みたいな。あの感じ。考えるだけでも気まずくない?
……こほん。元からイサリビで〝浮いていた〟存在の私は今、人の理からころりと外れながらも、そこに住む人たちには自然に受け入れてもらえていました。
ソウリョクが直接お屋形様に流れ込むイサリビでは、特に〝柱〟としての仕事は必要ありませんでした。私の生活が大きく変わることもなかったので、主柱になったことを隠そうとしていたのですが……ハマのおばちゃんに会った時に、もう〝秒〟でバレました。「とうとう女になったなあ!」と。そこからはもう、おばちゃんの井戸端ネットワークで拡散されまくりでした。今のSNS並みの拡散力でしたよ。
そうして私は、この時には名実ともに〝神の使い〟である『イサリビを守るヘビ様』として民から認められるようになっていました。その役目の一つとして思いついたのが、お屋形様が敵襲の迎撃に向かわれたときに、民の信心を空へ束ねる〝求心代行〟だったのです。
『お屋形様を支える勤めを果たせているか』を確認するために、イサリビを一望できる畑地の高台に走った私は、淡い光の帯の数々――イサリビから発されるソウリョクの〝流れ〟を視認しました。主柱になってから、私の目はソウリョクを捉えやすくなっていたのです。
その輝く無形の小川が向かう先では、豆粒よりも小さく見える機械の鳥から、血飛沫のような爆炎と黒煙が上がりました。そこには必ずお屋形様が――我らの信ずる〝竜禪信仰〟の神であられるミヤ様がいらっしゃるのです。
「――名は風真いろは。竜禪を信じ、イサリビにて民の暮らしを守る者。お屋形様……貴方様の勝利を信じます」
お屋形様の戦場に〝信心〟が届くように、私も手を組み合わせて、深い祈りを捧げました。それが今日何度目の祈りだったのかは覚えていませんが、そこに込めた想いが惰性に色褪せることはありませんでした。
頭を上げて目を開けたとき――見渡す景色の中で、霞のような光を放っている場所があることに気づきました。
「……ん……なんだろう、あの光……? それに、あの場所って……たしか……」
お屋形様の使いとして何年もイサリビを巡り続けてきた私は、その光の発生源――海岸線から程近い森には〝気にかけておくべきもの〟があることをわかっていました。
血涙のような火花が次々に咲いては消える儚い晴天を見ながら、私は急いで光の下へ参じました。森の中にある無人のあばら家、そのすぐ近くに据えられているもの――〝蛇神〟の紋章が刻まれた祭壇から、空へと舞うような光の川が発していたのです。
「……いったい、この光は……? この祭壇からは、もう信仰が失われているはずなのに……」
私は、何故か心が強く惹かれる光を追って森を抜け、海岸線まで出ました。幼少期に初めて海を見たときの記憶と重ねるように、水平線を細めた目で眺めます。
青々とした空と海の間に、きらりと輝く光の筋が見えたかと思えば……その先にある離れの無人島に、大きな鉄の船が停泊していました。
漁業に長けたイサリビですらも、あれほど大きな船は持っておりません。帆は無地でしたが、彼の地よりも明らかに進歩した技術で作られた、人工島のようにいかつい船舶が異教の物であることは明らかでした。
「……あんな所で……いったい、何を……?」
胸をぎゅうと絞られるような思いでお屋形様の様子を見ましたが……鋼鉄の鳥がわらわらと空を飛び交い、火槍を噴かせて白煙を撒き散らせているせいか、その視界には船の姿が入っていないようでした。
ウェニキスが仕切っている〝申告済みの食料輸送船〟が到着する予定の日でもない――明らかに〝異質〟の来訪者。焦燥感を覚えた私は、祈りに報告を交えてお屋形様へ届けようとしましたが――。
「……ダメだ……! お屋形様の負担をこれ以上増やすわけにはいかないよ……!」
――襲撃の頻度も、お屋形様の癒えない傷も深刻なものになっていたことを知る私には、その〝人間らしい合理的な判断〟が下せませんでした。
「…………しっかりしろ、風真家の武士……! 主柱に据えてもらって、まだ神頼みしかできないなんて……そんなわけ、ないだろう……!」
私は背負っていた刀――風真家が守ってきた宝刀の柄を強く握り、もののふの意思を奮い立たせて、イサリビの港へ向かいました。
事情を話した漁師に小舟を貸してもらい、私は波立つ海を越えて、岩場の陰から島へ上陸します。イサリビで漁業のお手伝いをしてきたことが功を奏しました。
こっそりと物陰に隠れて様子を窺うと……灰色でもやもやした模様の洋服を着た男たちが、がちゃがちゃと音を立てながら、鉄製のからくりの数々を動かして資材を運び込んでいました。
大量の物資を使って、海に面した拠点を構える異教の者たち。その中心で段取りをしていたのは、銀色の長髪を伸ばして大銃を背負うムチムチな宣教師――私の家族の仇である、レオーニオでした。
(……レオーニオ……! 父上、母上……おばあ様の……ッ……!)
「レオン様~。このでっけぇ装置は何処へ配備するんですか?」
「あ、そいつはヴィータの維持装置だから……〝研究所〟だね。山の上まで運ぶのは大変だろうけど、頑張れっか?」
「もちろん!レオン様のためなら俺、何でもやりますよ!」
「へへ、相変わらずいい子だね、よしよし~♡ たくさん頑張ってくれたらァ……〝ごほうび〟ちゃんとあげんで♡」
「おっ……ほほ……! そしたら、今晩はしっぽりとおっぱいで……ぐへへ……! 行ってきまァす!」
「しっかり働けよ~い。おっぱいで上の空になってねえで、ちゃんと足元も見ろ――――って、案の定転んでるし……仕方ねえなあ、もう……!」
……憎らしい、討つべき相手であるはずのレオーニオは、自分を取り囲んで従う男たちに明るい笑顔を見せており……やはり、『国一つを滅ぼす』という大罪を犯した〝悪人〟には見えませんでした。
私は何処にもぶつけようがないわだかまりを持て余しながら、人目に触れないようにその場を離れて、ふらふらとした足取りの男の後を追いました。彼女が口にした〝研究所〟なるものが気になったのです。
しかし、その途中で、木々の間に落ちていた枯れ枝を踏んでしまいました。
「ムッ……誰か居るのか!?」
「みひゃっ……にゃっ、あっ……ぽっ、ぽんぽ~ん!」
「……なんだ、タヌキか? ったく、キョウの動物は変な鳴き方をするんだなぁ」
(そんなわけないだろ! 今のは上手く行っちゃダメなヤツじゃんか! 自分でやっといて何だけどさぁ!)
まあ、いろいろと問題は起こりましたが……木々の合間に隠れながら無事に山道を抜けると、開けた平地の山頂に辿り着きました。
大昔に人工的に作られたような洞窟を、異教の頑丈な鋼材で補強したような、大きくてごつい建造物が目に入ります。男が運ぶ荷物に紛れて中へと侵入すると……小さな太陽のように眩い光源が照らす、機械だらけの室内に迷い込んでしまいました。
(……ウェニキスに見せてもらった、あの鉄の都市みたいに明るい……夜だけじゃなく、暗闇全てを克服しているのか……)
『なんかすごそう』という感想ぐらいしか出てこない無機質で科学的な光景に、技術と進歩の差を見せつけられながら……私は荷物から抜け出て、視覚的にも冷たい、ひんやりとした空気が漂う通路を渡っていきます。
鉄の壁をぴゅんぴゅんと光が走る、この施設はいったい何なのか――レオーニオたちは、ここで何をしようとしているのか。重要なことを解明してお屋形様に伝えるために、私はカンカンと足音が無駄に響く床を歩いていきました。
しばらくさ迷っていると……大きな鋼鉄の扉に守られた部屋に辿り着きました。光っているぽっちを適当に押すと、その頑丈そうな厚い壁が、がらんごろんと割り開いていき……男が運んできた大きな機械が、壁一面に設置されている光景を露わにしました。
「……これは、さっきの……?」
「そう、さっきの機械だねぇ。その名も『インキュナブラ』。〝ヴィータ〟――幸せな夢を見続ける〝命〟を守り、ソウリョクを保持するための揺りかごさ」
「――ッ――!?」
何の気配も感じていなかった背後から、突然――本当に、何の前触れもなく〝声〟が聞こえました。
私は転がるように前に出て、羽織を翻しながら刀の柄に手を掛けます。私の背後に居たのは――銀髪を揺らめかせ、白い服をぱつんぱつんに張らせる乳房や艶めく太ももを布地の横から惜しげもなく露出しているレオーニオでした。
「まったく、可愛いネズミちゃんをここまで侵入させちゃうなんてな……こりゃあ、あいつのご褒美はお預けかな?」
「れ、レオーニオ……いつの間に……!?」
「アンタが荷物と一緒に侵入した時から〝ずっと〟だよ。背後にぴったり付いてたんだけど……もしかして、マジで気づいてなかったの? 意外と〝鈍感さん〟か?」
「くっ……! 足音も、気配もなかったのに……!」
私が睨みつけて鍔ををちゃきりと鳴らしても、レオーニオは平然と微笑んでいました。
その冷静な態度には自信と存在感が満ちており、確かな実力を裏づけていました。圧力のように発される静かな気配が、私の背中を冷や汗で濡らしますが……私は信念を揺らさずに、圧倒的な強者と対峙します。
「……レオーニオ……!この場所について、洗いざらい吐いてもらうぞ……! お屋形様が来航の許可を出しているのは、ウェニキスが申告している船だけのはずだ――ここで何をしている!?」
「ん~……まあ、そう来るよね~。アンタらに黙って進めている時点で、何となく『都合の悪いこと』だってわかるだろうけど……ブスジマ様の〝世界統一〟に合わせた拠点作り……ってトコロかな?」
「ブスジマ……その名には聞き覚えがあるが……拠点づくりだと……?」
「そ、そ。〝教王〟の命令で作ったこの場所で、研究とか機械の製造を行って、各地のウルヴに送ることで生活の質を向上させる……っていう使い方〝も〟できるんだな。あたしは〝そういう系〟の担当も兼任してるんよ」
「……お屋形様を殺すための武器や兵器を、ここで用意するつもりか?」
「…………ストレートな子だね~……ま、『そこら辺は想像にお任せします』ってことで。あたしはほら、そっちのリュウオウ様みたいにさ、何でもかんでも『話し合って理解する』ってタイプではないんだよね」
レオーニオは、かりかりと側頭部を掻いて視線を逸らしました。そのあからさまな仕草は、どこか私を小馬鹿にしているようでした。
「しっかしまあ……海から人が居なくなる〝襲撃〟のたびに、ちょいちょいと作ってきた極秘の基地だったんだが……とうとうバレちまうとは。どうやって気づいたんだ?」
「……我らの目を盗んで侵略を行った其方に――いや!貴様に語る義理などない! 無断で侵略行為を進めた報い、ここで受けてもらうぞ!」
(お屋形様を……イサリビを――キョウを、守る……! この生き方が〝人〟という生物として、間違っている道だとしても……私は、信じる……!)
私は恐怖の震えを握り締めて、武者震いへと昇華します。風真家の武士である〝あかし〟をすらりと引き抜き、風を鳴らして――お屋形様に教わった型を守るように構えました。
「やれやれ、血の気が多いな……ま、故郷を滅ぼされたことへの〝敵討ち〟だもんな、それぐらい熱くて当然か……あたしも、そういうのは嫌いじゃないよ」
「ッ…………それも、なくはない……けど……! 今の私は……〝信念〟に基づいて刀を振るうのみだ……! 復讐のために……自分だけのために、刃を振りかざすことはない……!」
――『心の内で荒れ狂う激情に身を任せず、律して己の力に変えていき――お屋形様に教わった〝武士の在り方〟を守り抜く』。私は大きく息を吐いて、そのことだけを意識しながら、初めての実戦に臨みました。
刻まれる時が、少しずつ間隔を広げる戦場の空気に――レオーニオが、フッと、生々しい感情を揺らめかせる。
「憎しみや恨みではないのに、確かに燃えている――強くて良いスピリットだ。あの獣みたいに剥き出しだった慟哭が、たった数ヶ月で……ここまで美しい気高さに化けるとは。あたしも、全力で応えないとな」
まぶたはやや気怠そうに開かれていながらも、その奥には芯をしかと据えている灰色の瞳が覗いており――そこに貫かれる〝正しさ〟が映えていました。私が抱く信念とまっすぐに向き合うそれが、ぎらりと強く閃きます。
レオーニオは布地の裏で、股座に手を突っ込んでまさぐり……ずるずると、連なった棒状の装置を引き抜いていきます。光る液体が入ったそれらは、次々と横向きに接着していき、帯状になってレオーニオの肩に掛かりました。
「それは……人の命……!」
「ああ、そうさ。今も生きている、立派な命で――あたしみたいな〝生粋の偽物〟の言うことを信じ、愛してくれている信者たちだよ。いわゆるファンってヤツさ」
「ふぁん……偽物……? いったい、何のこと……?」
「――『わかる人だけわかってくれればそれでいい』。そして偽物ってのは、どうしようもなく〝本物〟に強い感情を抱くもんでさ。あたしの場合は……そうだな、〝憧れ〟が近いかもな」
身体に巻いた弾帯のようなヴィータたちが強い光を放ち、命が生む〝信じる力〟を発してレオーニオの身体を包み込みました。
すると、頭巾を脱いだレオーニオの髪が戦地で色褪せたような灰白色にくすんで、毛を逆立てた獣のような荒々しいうねりを孕み始めました。その気高さを魅せる髪が二つに結われると、頭から丸っこい獣の耳が生えていき――彼女が覗かせた八重歯も獣らしく尖り、妖しい輝きを放っていました。
それこそ、〝今〟の私が見ていたら――どれだけ強い信念を抱えていても、戦うことを躊躇ってしまうほどに〝本物〟と同じ容姿になっていたのです。
「名はレオーニオ、命は〝解放〟。そして、カザマの仇敵でもあるわけだ――それでは悔いなく、『命をお大事に』」
――『白き獅子』。そう呼称すべき麗しい獣娘は、背負っていた大銃に手を掛け、槍のように振り抜きました。