風真いろはがレオーニオを打倒してから、一週間ほどが経っていた。
キョウの近海には、ソルドナーレ教国からの刺客が再び襲来しており――守護者はいつもどおり、風を切りながら直線的に飛来する兵器たちと対峙していた。
しかし、その様相は前回の襲撃時とは変わっていた。頭や胴、四肢は光の脈が走り抜ける銀色の機械鎧に覆われており、特に右腕には、白き獅子が携えていた大銃に似た外見の銃器を装着していた。そして、首裏のわずかなくぼみには、竜鱗に覆われた体表に愛しげな様子で抱きつく銀髪の宣教師を侍らせていた。
『しかし……本当に、よいのか?』
「だから、良くはねえんだって。ただ、身も心も見事に懐柔されちゃったから、アンタに全部捧げているだけだよ♡」
『……それも、其方の〝命の在り方〟か。あくまで教義には反していないと申すのだな』
「へへ、そういうこと♪ うちのボスは度量もなくて心も狭いクセに、『恋は盲目』みたいなことには理解があるもんでね。ウェニ先輩みたいに、好きにヤらせてもらうさ」
『…………信徒の暮らしを脅かしている異教の統率者に同情する時が来ようとは、思ってもみなかったな』
「おっ、意外とネガい感想だな。あたしのこと、嫌いになっちゃう?」
『……ううむ……其方の魅力として割り切ろう』
「ハハッ……イイね、そうこなくちゃな! そういうキザなところ、昨日もブチ込んでくれた〝マグナム〟の次に好きだぜ♡」
大きなため息をついた守護者に、レオーニオが深い口づけを捧げる。すると、レオーニオの下腹部に刻まれ、色が以前よりも濃くなっている〝竜隷の印〟が輝き――胎内から湧き出たソウリョクが竜人の身体に注がれた。
『……よもや、性の契約で異教のソウリョクの横流しを受けることになろうとは……盲目的に恋い慕った相手が望んだことだ、悪く思うでないぞ……!』
〝柱〟やイサリビから供給されるものとは異質な力を自らのものとし、内面で一体化させた守護者は――竜禪とソルドナーレの二信仰を習合させたソウリョクを練り上げる。そして、構えた右腕部の銃器を展開して、撃鉄に無形の力を圧縮・充填し――一気に解放した。
――その瞬間――周囲から音が圧殺され、光が歪んだ。高濃度のエネルギーが次元を圧倒するほどの衝撃を生み、銃口を向けられた先にいたはずの鉄鳥の大群が霧消していた。
きいん、と弾け飛んだ薬莢の音だけが凪を制圧し――伝播する衝撃で無数の波が立った海に、爽快な風を吹き込んだ。
「ハッハハっ! なんだよこれ、笑えるぐらいの威力じゃん……これが、ヒトの心が生む力の真骨頂か! まだまだ研究が足りねえや!」
『これは……アメノムラクモにも並ぶほどの強い力だ……。ソルドナーレの助力があれば、離れた鉄鳥にも――』
「おいおい、リュウオウ様。爆撃機を粉微塵にしただけで満足なんて、ずいぶんと〝草食さん〟だな?」
『……む……これよりもまだ〝先〟があると申すか』
「あたしが想像できる範囲だけでも、まだあるぜ? あたしの言うとおりに思う存分ヤッて、あっちの世界までブッ飛んじゃおうよ!」
『やれやれ……おれは戦いを望んでいるわけではないのだがな』
「結局ヤるなら同じっしょ? せっかくなら、楽しまないと損じゃんか!」
『……眩しいほどに前向きだな』
守護者は銀髪の僧侶に促されるままに、極光弾波の射線の外から襲い掛かってきた鉄鳥の頭を殴り潰し、胴体から武装を引きちぎった。すると、体内に蓄えられていたソウリョクが鎧装を流れ、外部の〝同族〟と呼応し――守護者の鎧を形成する部品として同化した。
竜人の意識とも一体化した武装は、宿敵が放っていた弾丸の雨を自分の攻め手として使うことを可能にした。大翼を翻して空を舞う巨躯の肩では機銃が唸り、銃弾を放ちながら鉄鳥の胎に無数の風穴を空け――さらに新たな武装を強奪しながら、敵襲の大波を乗りこなしていく。
『おれには過ぎた力だが……元はと言えば、其方らが持ち込んだ物だ! 閻魔への土産にするがいいッ!』
竜人は鯨のような巨体を浮かばせる空中戦艦に飛びつき、火槍を大量に積んだポッドを強奪して、己の武器として点火する。尻部から火を噴いた鉄杭が暴風のように飛び込み、弾頭をひしゃげさせ――深紅の爆炎を起こし、戦艦の側壁を爆壊させた。
その無様な隙間から、竜皇の腕砲が次々に撃ち込まれ――機関部を損傷した大鯨は、金切り音の悲鳴を上げて撃沈していく。
「〝奪う〟のが命なら、〝奪われる〟のも命だよなァ! 戦場に出てきちまったんだ、泣いて詫びても遅ェぞォ! 『精一杯に生きやがれ』!!」
高揚した様子のレオーニオは、竜皇が身にまとう火器の唸りに発情し、硝煙の臭いに絶頂し――退屈、そして惰性からの〝解放〟に喘いだ。本土における戦闘・侵略作戦を取り仕切っていた部隊長として、ドラゴンの背でエロティックに酔い踊りながらも、一切の甘えや手心を見せなかった。
しかしながら、レオーニオはマテルとしての使命を忘れていなかった。開発基地で待機している団員に蜜声の通信を飛ばし、海上に退避していた生存者たちを回収させていたのだ。
「……はぁっ……ソルドナーレの兵士のほとんどは志願兵だが……自分から危険な戦地に赴くヤツはいろんな目的があるモンだ。闘争心、金、虐殺欲……人の欲なら何でもござれのるつぼだが、〝自分の命は捨ててもいい〟って思い込んでるヤツも紛れてんのよね」
『……その割には、助けを求める声も大きいようだが』
「くすっ……♡ 人ってのはね、死に直面したときに初めて命の尊さに気づくんだ。だからこうして〝今後のための転び方〟を教えたり、〝自分の命が本当に望んでいるもの〟を探してあげたりすることが大事なんだよね」
『……其方は優しいな。身体を焼くようなソウリョクを生むほどに恋い慕われる理由がよくわかる』
「んあぇっ……!? い、いやァ……そういうのは、フトンで抱き締めてるときだけにしてくれって……恥ずいやろがい……♡」
常に勝者であり続ける人間など、数えられるほどにしか存在しない。圧倒的な力に敗れ、心が折れてしまった〝多数派〟の兵士たちを慰め……〝新たな生きる希望〟を与えてやるのもまた、レオーニオの立派な仕事だった。
全ての命に潔癖で冷たい現実を与え、全ての命を夢の中まで濁るほどに熱く愛する。〝白色〟の持つ二面性を背負った女僧は、捕虜となっても、異境で自分らしい〝命〟を張っていた。
次々に襲い掛かる兵器たちを退けながら海上を渡り、空に赤黒い血飛沫の花火を打ち上げ続けていく異教同士の一柱と一人。無鉄砲な突進を仕掛けてきた大鯨を奪った火器で丸裸にし、機関部を三枚におろしたところで――襲撃が、ぱたりと止んだ。
ひいん、と空気の層を撫でながら周囲を哨戒した守護者は、その不気味なほどの静寂の中で、刀を納める音だけを響かせた。
『……これで終いか。まだ日が高いどころか、正午にも至っていないが』
「……おかしいな。『闘争心を持て余している奴ら』は常に出てくるし、兵器が足りなくなるようなこともないはずだけど」
『前回の襲撃時に手を焼かされた、あの蜂のような機械も出しゃばらなかったな』
「ハチ……ああ、新型のフェイスティアか。そういや今日、ブラッドサイトとヴァイシュトローム……えー、鳥みたいなヤツと、クジラみたいなヤツしか見てないっすねぇ」
『…………何らかの思惑があるということか』
「ま、楽天的に考えないなら、それしかないっすね――っと、いろはちゃんの方も仕事が終わったみたいですよ」
レオーニオが竜人の首に抱きつき、勃起したままでツンと上向いたままの乳首を押し付けながら、イサリビの方向を指さした。そこには、各地から光の帯が立ち上っている空があり――架けられた橋は、キョウ本土の上空を抜け、遥か遠い土地へと繋がっていた。
そのうちの一つは、〝龍穴〟――かつてマホラガ信仰の祠が存在していた、現在における異教の秘密基地がある島に繋がっていた。
『早いな……早すぎると言ってもいい。マホラガ信仰の信心を写したことで〝八武の紋〟が目覚め、身体能力が大幅に上がったせいか』
「でしょうね。あたしの武器をバラバラにブッた切ったとき、全身が鉄のバネで出来ているのかと思うぐらいに俊敏だったし」
『……奇跡とは、常に思わぬところで起こるものだな』
「あっははっ!それは現状への皮肉? それとも……錆びついた思い出話かな?」
『……好きに取れ。さあ、陸に戻るぞ。遅くなると、また風真の虫の居所が悪くなってしまうからな』
「あっ、それじゃ……あたしはキャンプで救出者の面倒見て、本国の状況を探っておきますよ。ちょいとばかし、きな臭い動きを感じますし……これ以上の戦闘になると、命が無駄に散っちまう可能性もあるんでね」
『承知した――夕餉はどうする?』
「もちろん、それまでには〝うち〟にかえ…………あ、いや、今晩は団員たちのところで過ごそっかな?」
『珍しいな、風真の作る飯を一番美味そうに食べているというのに』
「……予定どおりに〝橋〟が架かったんだ、明日から忙しくなるんでしょ? 今日ぐらいは、いろはちゃんにアンタを独占させてあげないとね」
『いや、風真はそういうことを望んでいるわけでは……』
「おう? 〝恋を教えずに育てた娘〟に、〝愛の育み方〟が自分でわかるとでも言うんか? そいつはちょっと……神っぽすぎる判断じゃねェかな?」
『…………ッ……!』
「やっぱり図星か……ま、元々がお見合い文化じゃそれも仕方ないかもだけど、もうちょい気遣ってやりなよ。年頃の女の子ってのは、アンタが思ってるよりも繊細で……当人が思ってるよりも貪欲なんだから」
『…………すまないな、気を使わせてしまって』
「ハッ……そこは『ありがとう』だろ? アンタら、ホントに不器用だよな」
悩ましげに顎を撫でた守護者は、レオーニオを無人島――だった離れ島に築かれている、異邦人たちの拠点〝LEONキャンプ〟に送り届けた。
「約束どおり、アンタが撃墜した兵器の残骸を資材に変えて、新武器の開発を進めておきますよ。襲撃の際には必ず此処に――〝レオーニオ・ラボ〟に立ち寄ってくださいね」
『…………恩に着るぞ、レオーニオ』
「かっかっかっ……! そういう素直なトコロがす――いや、嫌いじゃないぜ♡」
団員たちの真摯な敬礼を浴びせながら、レオーニオは激励のウインクを飛ばした。
竜人は小さく頭を下げて礼儀に応え、大風をまといながら空へと舞い上がる。そして、最も優先すべきことを為すために、急ぎ拠点へと戻ったのだった。
――――――。
「……音が止んだ……終わった、のかな……? なんか最近、妙に短いような気もするけど……」
イサリビ内を駆け回り、六つの祭壇にお供え物をした私は……一仕事を終えた後の休憩をしており、〝二柱〟の分として頂いていた団子をもりもりもちもちと食べていました。
敵対者を迎え撃つために出かけたお屋形様に『此の地でもまだできることがある』と言われ、使命を預かった私がそれぞれの祭壇を綺麗にして祈りを捧げたところ……点在していた祭壇から、光の帯が水のように湧き出て、何処かへと流れ始めたのです。
ハマのおばちゃんが言うには、『きっと、これが伝説にある〝橋〟なんだよお……!』とのことでした。それからいつもの拝み攻撃が始まったので、拝まれ慣れていない私は逃げるように立ち去りました……なので、この光の流れにどんな意味があるのかは、正直よくわかっていませんでした。
ただ、団子を食べながら見上げた、この目に見えるほどのソウリョクには――何らかの意味があることは確かでした。その流れを見ていると、私の下腹部が何かを訴えかけるように熱く、もどかしく疼いたのです。
「……あっ……! お屋形様が、お社に戻っていく……!」
雲を裂き、空を駆ける巨影が山の方へと向かっていくのを見て、私は急いで立ち上がりました。そして、風に舞う木の葉のように軽くなった身体をしならせて、宙へと滑らせていきます。〝蛇腹舞〟で覚えた筋肉の使い方を応用したこの移動方法のおかげで、かつては一日かけて巡っていたイサリビを、一刻もかからずに一周できるようになっていました。
あぜ道を抜けて、細い石垣の上を全速力で渡りきり……疾風の如き体捌きで空へ跳び、ぐりぐりと身体をひねって、建物の屋根を壊さないように飛び次いでいきました。その途中でイサリビの人たちにも厳戒態勢の解除を伝えておき、私たちの日常が取り戻されていきます。
「おお、ヘビ様がびょんびょんと飛んでおられるぞ!」
「なんという神々しい御姿……ふんどしが映える、お尻の丸みも雅だ……!」
「ありがたや、ありがたや……!」
なんかよくわからん祈りとソウリョクを一身に受け取ると、着物を押さえてお尻を隠した私の身体に、溢れんばかりの力が湧いてきました。敬虔な信仰も、邪な欲を内包する好意も、突き詰めれば同じ〝想像力〟ということなのでしょう――ウェニキスたちが命をお腹に孕んでソウリョクを湧出させているのは、そういう理屈のようでした。
やりきれない気持ちと活力で満ちた私は、これまでとは比にならないほどの速度で帰り道を跳躍し、日が高いうちにお社へと辿り着きました。屋形で身体を清めていたお屋形様に、お勤めの完了を報告すると……煤が香る裸の上半身に、ふわりと抱き締められました。
「よくやった、風真。神と人を結ぶ御使いであるおまえが架けた〝橋〟は、各地に眠る〝本殿〟の場所へと通じていることだろう――明日から、八武の紋を完成させるための旅に出るぞ!」
「むぐう……それはよいのですが……こ、この抱擁には、いったいどんな意味が……? ふぐぐ……筋肉と汗の臭いで、ちょっと息苦しいれす……」
「昨晩は寂しい思いをさせてしまったからな……その埋め合わせだ」
お屋形様は生傷の絶えない身体で私を包み、大きな吐息を漏らしました。そこには、一仕事を終えた安堵と、張っていた気をようやく休められた安心感がこもっており……不思議と、私の心にも安息を与えてくれました。
下品な性欲を感じない純然な温もりは、私の中にあったもやもやとしたわだかまりを炙り殺すように、じっくりと浸透してきました。
「………………悪いと思っているなら、他の女との夜伽を控えてくださいよ。なんか、自分以外の人がお屋形様と一緒に居ると……心が、じりじりと焼けるんです……」
「ッ……そうか……。しかし、ううむ……おれが真っ当な人であれば、その願いも聞いてやれるのだが……守護者である限り、イサリビ外のソウリョクは必要だ。柱との性交を避けてはやれぬよ」
「…………わかっています、これが我儘だって……でも……さすがに異教であるレオーニオとえっちするのは浮つきすぎなのでは……? 竜禪の神としてどうなんですか……?」
「それを言われると痛いが……神たるもの、求められる想いには応えてやらねばならんのだ」
「ふーん……でっかい胸で男根を挟まれて『うっ、とろける……!』とか呻くのもそうなんですか?」
「ぐぬう……いや、それはだな……」
「……ハァ……っていうか……せめて、私の裸にもちゃんと興奮してほしいのですが……。そりゃあ、レオーニオみたいに胸は大きくないかもしれませんが……これでも女の子ですし、四日前のような冷静さでいられると……さすがに……」
「……無論、猛りは覚えている。ただ、おまえが男の性欲を毛嫌いしていることはわかっておるのだ。こちらで自制し、性行為を先導することに努めているだけよ」
「えっ……? あっ、そういう……? 私、てっきり……もう、こんな乳房では物足りないのだと……」
「ふふ、立派に育っているだろうに。おまえの魅力は、傍で見てきたおれが一番よくわかっているぞ……そう不安がるな。おまえは、星よりも美しく、花よりも可憐に育っているのだ」
「……お屋形様……」
お屋形様は、手癖のように私の乳房を愛そうとしましたが……すんでのところで、その動きを止めました。
そこに確かな愛情と気遣いを感じた私は……背伸びをしながら口づけを交わし、お屋形様の厚い胸板に甘えました。
つい先日にも感じたはずの温もりが、何故か、とても久しぶりに思えて。お屋形様にあからさまな好意を寄せているレオーニオの存在を意識すると、べつに自分のものではないのに『お屋形様の隣を盗られそう』という、焦燥感のようなものを覚えてしまって……冷静ではいられなかったのです。
「……どうしたら、私にも……獣みたいに盛ってくれるんですか……?」
「むう、そうだな……おれがおまえを心配しないぐらいに……夜伽の最中でも平時のように『ござる』と言えるようになれば……ではないか」
「それホントですか……? っていうか、それってなかなか厳しいんですけど……でも、頑張ってみます……」
「……そこまで無理をする必要もあるまい。ソウリョクのやり取りに支障があるわけでもなしに」
「……そういうのとは、違う……と思うんです……。私にも、よくわからないんですけど……お屋形様のことで、誰かに負けるのがイヤっていうか……なんていうか……そのお……」
うじうじジメジメと、湿度が高いくせにはっきりしないという超絶面倒くさいムーブをかましていた私でしたが……お屋形様は小さく笑って、私の額に優しい口づけをしてくれました。
「…………風真。まだ日は高いが、寝所に行くか」
「へっ……? あ、いや……まだ、ソウリョク、溜まってないと思うんですが……」
「おれの都合も、『そういうのとは違う』のだ。いじらしいおまえを見て、おなごとして抱きたいと思った……それだけだ」
「…………お屋形様のすけべ……えっち神だ……!」
「好きに言え――いや、その呼び方は今すぐに止めよ。レオーニオから悪い影響を受けるな」
「くすっ……冗談ですよ。 ところで、お屋形様……急にどんな風の吹き回しですか? レオーニオに何を言われたんですか?」
「……いいや、何も言われてはおらぬ。こうしておなごを抱きながら嘘を言えるほど、おれも器用なものではないのでな」
「あはははっ……! それもそうでしたね――ひきゃあっ!?」
「ちゃんと首に抱きついていろ。落ちるぞ」
お屋形様は私を抱き上げ――今で言う〝お姫様だっこ〟の状態で、私の身体を軽々と寝室へ運びました。そして着物を乱雑に脱ぎ散らし、私が〝乙女の建前〟で恥ずかしがるよりも前に、乳房に吸い付いて、全身への愛撫を始めたのです。
いつもの儀式よりもねっとりとして、義務感や使命を気にせず……男が、女体をしゃぶり尽くすようでした。性感を教え込まれた身体はすぐに甘い蜜を垂らし、いきり立った肉槍で、やわらかい花園を蹂躙されてしまいました。何度も、何度も、何度も……お屋形様の巨根が身を沈めて、えらで蜜液を掻き出して、私の鼻から甘い声を押し出しました。
障子越しに熱光が差し込む蒸し暑い室内で、二人分の汗を肌の壁でぐちゃぐちゃに混ぜ合って……融け合うように身体を重ねるなかで、私は初めて気づきました。私の意識が快感にとろけて、本能で肉を絡ませるように〝男〟を求め始めると……お屋形様はそれに呼応するように激しく昂り、狭い膣内を拡張するように肉槍を突いてきたのです。
――『男の人が怖いから、できるだけ優しくしてほしい』。数ヶ月前に初夜を迎えたときからずっと、お屋形様は〝私の望み〟を叶えてくれていただけなのです。
「あっ、ん、んぅうっ……! お、お屋形様ぁっ……ふ、深い、れすっ……こんなっ……はぁあっ……!!」
「風真……っ……ああ、気持ちいいぞ……風真……!」
「ふぎゅっ、んっ、くひっ……ひ、あああっ……! はぁっ……あつい……なかも、そとも……あついよぉ……! はぁっ……はぁっ……んっ、ああっ……ひゃああんっ……!」
脚を頭側に押さえられ、蜜壺を上向きにされた雌の下半身に、息巻いたお屋形様がのしかかります。そして、ごつん、ごつん、と破ってはいけない壁を上から押し込むように、剛直が私を深々と貫き続けました。硬い肉と柔らかい肉が、ぱん、ぱん、と拍子木のように水音を鳴らし合うような……獣同士の種付けよりも濃厚で、孕ませることに特化した男根の杭打ちが続きました。
「んひぃっ……ひ、あ、ああっ……! おぐっ……ふ、ふかい……よぉ……! だめ、これっ……おかしく――んぐっ……ぁああああああッ……!?」
その激しく貪るような雄の種付けは、歯を食いしばっていないと、すぐにだらしない顔を晒してしまいそうなほどの快感の奔流を生み……抽挿の律動に合わせて脳を揺らし、心を掻き回していました。
汗と汁が湧き止まない、激しくて、昼間にちかちかと星が散り、喉が低く唸るようなまぐわいが……私が引いていた〝予防線〟を、見事に打ち破ってくれたようでした。
「ッ……風真……! このまま、果てるぞ……!」
「は、ひっ……! き、来て、くださいっ……お屋形様の、全部……私にっ……あっ、あっ――ふぐゅうううっ……!!」
どくん、どくん、と内側で広がる〝熱〟が、どろどろと私の中で膨らんでいきました。胎内に蓄えていたわずかなソウリョクをじゅるじゅると啜られ、八武の紋が光っている下腹部を淫らにくねらせ……私は、熱にうなされるような浮遊感に包まれ、激しい絶頂の余韻に浸りました。
熱く濡れた吐息が満ちた部屋の中で――お屋形様の身体がぼんやりと光を放ち始めました。それはイサリビから注がれるソウリョクではなく……光が流動する接合部を通り、二人の体内から溢れ出したもののようでした。
「……これは、八武の力……! 救えなかった蛇神への信仰が、おれに……竜禪に、習合したのか……」
「はぁっ……は、ぁっ……これが、お屋形様の……本気の……はぁっ……はふぅっ……はぁん……!」
……いや……わかってる……『空気読め』は正論パンチすぎるから止めて!? し、仕方ないじゃん……!あんなに激しいの、ホントに慣れてなかったんだって……!もう、マジで、何もかもが無理だったの……!
「ぐっ……! 風真……こんな時でも……おまえは、まだ欲しがるのか……! そんなに強く締め付けて……おれに、再戦を願うなど……!」
「はひぃ……ん、えっ……? いや、そんな、ことは……あっ、ふひゅっ……ふぁああっ……!? ちょっ、待って、まだ、達したばかり――はぁああんっ!?」
「か、ざま……! 仕方ない……このまま、おまえが満足するまで……くうっ……!」
「あっ、あんっ、にゃああんっ……! や、やだやだっ……! もう無理、疲れた……あっ、のにっ、はえっ……あっ、ああっ、キちゃってるっ……はひぃいんっ……!」
………え、えーと、ですね。人の欲求というのはとても恐ろしいもので、理性や理屈なんかを全部押し退けてしまうみたいで……あの、日が暮れるまで続いた限界耐久えっちから、お屋形様は……そのお……布団の上で、遠慮してくれなくなりました。
どうやら、男根で貫かれているときの私が〝それ〟を無意識に望んでしまうらしく……たくさん愛してもらえて嬉しいような、激しすぎてちょっと困るような……という感じでした。正直、その後のことを考えると『ここで慣れておいてよかった』としか思わなくなるのですが。
……まあそれは、体力的にも、乙女心的にも厳しいものでしたが……お屋形様が〝私だけに夢中になってくれている様子〟は、粘膜を擦る以上の快感と充実感を与えてくれるので、どうやっても嫌いになれそうになかったです。これはもう淫乱判定されても仕方ないかもしれませんが……お屋形様も含めて〝性事情が乱れ散らかしていた時代〟だったので、ご愛嬌ということで。
あの運命の日は、夕餉の支度どころか股を閉じることすらできなくなり、びしょ濡れの布団の上で死んだ蛙のようにひからびていた私に……家事を代わってくれたお屋形様が、口移しで水を与えてくれました。
そのときに、間近で見上げたお屋形様の顔は……それまでに見たどんな表情よりもずっと魅力的で、心がぎゅっと締め付けられるような……私が知らなかった甘酸っぱさを感じさせてくれました。