――時は少し遡る――。
いろはがコガヤの町およびコガの山にて、キンナラ信仰を再興させるために尽力していた頃のこと。
イサリビにあるミヤの社では、いろはの刀によってレオーニオの脚に刻まれた、深い傷の治療が毎日のように行われていた。
「あんっ♡あっ♡あはっ……ぁ、んんっ……!!♡ やっばぁっ……♡このチ×ポ、ほんっとにッ……♡ イイところっ、めっちゃ……ガリガリ、キてっ……はぁああ……!!♡」
汗や汁で湿った布団の上で、乳房と下半身を丸出しにしたレオーニオが喉の奥から嬌声を漏らす。彼女は胎内の狂信者たちのソウリョクを使って耳と尻尾を生やし、髪色をくすませて――〝本物〟の姿を借りて性行為に及んでいた。
素体である●●●●●のクローンが持ち主の嗜好に合わせて改造され、はち切れんばかりに誇張された乳房。小ぶりな西瓜のように実ったそれを惜しみなく揺らし、お腹やあごの近くまで勃起した乳首をしならせる。布団を握り締め、尻尾をもどかしげに振り乱しながら唾液を垂らし……雌穴を掘削されるように、激しく巨根を抽挿されていた。
「あっ♡あ゛ッ♡ぉほおおっ……!?♡ あー♡これもうむりっ……!!♡むりっ……これ、イ゛くっ♡イッ――はぁあああああッ……!!♡」
視界にぱちぱちと星を散らし、発情した雌獅子のように突き出した尻を守護者の逸物によって貫かれ……獅子娘は背筋をびんと反らせ、尻肉をぶるりと弾ませながら、捕虜となった敗者らしく絶頂した姿を晒していた。
「はっ♡あっ♡イッてるっ……♡あーっ♡これイッてる……っ……♡ チ×ポで……イかされっ……♡おふっ……ぉおんっ……♡おっ……おぅ……♡」
鍛え抜かれた脚を性感で無様に痙攣させ、秘部から透明な恥汁をぴゅうぴゅうと噴き散らして……酷く間抜けな表情を晒していた顔を枕に突っ伏し、〝尊厳〟や〝羞恥心〟という人間を縛る枷から解放された途方もない快感の余韻に浸っていた。
獅子娘が絶頂してもなお、柏手を打つような縁起の良い音は止まらない。ぬかるんだ蜜壺は執拗にほじくり返され、呻くような嬌声を子宮の裏から押し出され……波打つ肉が弾んで男女の汁を宙に輝かせる。
膣内を前後してひだ壁を震わせる肉棒が、接合部の隙間から、ぼと、ぼと、と既に吐き出されていた大量の白濁塊を落とさせていく。何度射精しても硬さを損なわぬ逸品は、神々しさすら孕むほどに女体が求めるもの全てを有していた。
アイドル少女の身体では、竜隷の紋が刻まれた下腹部を節くれだった手で揉まれるだけでも、子宮頸部が濃厚な雌蜜を漏らすほどの快感が胎内で反響し続けていた。かすれた低音が魅力的な声にはケダモノの臭いが混ざり、唾液が混ざる嬌声は湯気が見えるほどに熱く湿っている。
「おーっ♡ほぉ゛おおっ……!!♡やばいっ♡これやばい♡やばぁいっ……♡ おっ♡ぉ゛おおっ……♡んぉおおっ……♡イきまくって、喉がらがらなのにっ……♡イくの、止まんないっ……♡チ×ポのことしか、考えらんないっ……えひぅうっ……!!♡」
雁首以外にも出っ張りが何段も波打っている極太の瓜のような巨根が出入りするたびに、教王や救済者たちによって開発されきっていた女陰の性感帯が、異次元の快感を享受していた。あまりの快感で頭が破裂しそうなのか、白目を剥きかけた顔は、時折唇を強く噛んで意識を保っていた。
女体を背後から支配していた竜皇が、蜜が滴るような尻肉を力強く掴み……最奥付近で汁を溢れさせる子宮口を、こりゅ、こりゅと小刻みにしつこく突くと……異教の聖職者は、下品な顔を晒して大量の恥汁を漏らしてしまう。
「んぉおおおおっ……!?♡あッ♡あーっ♡そこ、そこぉおおっ……♡そこ、マジでイイっす……♡ チ×ポに惚れそうッ……おっ♡ほっ……うんっ♡うんっ……♡ そこぉっ……もっと、突いてっ……!!♡」
「ぬ、ううっ……ふう……ふう……」
「あっ……はっ……♡はぁっ……はぁっ……♡ なんだよ……急に、優しくすんなよぉ……♡あたし、そういうの……弱いんだって……♡おま×こめっちゃ疼くの、キツイよぉ……♡」
「い、や……おれの方が、限界に近いのだ……! このままでは……くっ……治療が、進まぬ……!」
「んっ……ふふっ……♡なんだよ、またかよ……♡ あたしも何十回かイッてるけど、アンタだってもう七回目だぜ……?♡ すげぇ立派なチ×ポ持ってる超絶倫だけど……意外と我慢弱いよな……♡」
「ッ……其方が、上手すぎるのだ……! 何故、獣のように突かれながら……う、おおっ……蜜壺を、こうも絡ませられる……?」
「たっはっは……♡ んっ……んっ……♡言い方が、チ×ポよりもカタすぎるっての……♡ マル先輩の言ってたとおり……キョウの女は、オスを悦ばせる気がないマグロばっかりみたいだな……♡ それなら……こういうのも、たまんないっしょ……?♡」
獅子娘は膣肉をぎゅうと締め上げ、亀頭にひだを絡ませながら、その敏感な部分をごしごしと洗うように舐め上げ始めた。どろどろとした粘液を塗りたくり、肉の隙間全てに雌汁の遺伝子を擦り込ませるように、ねちっこく悶える柔壁をさらに蠢かせた。
呻きながら粘液を少し漏らした守護者は、少女の引き締まっているのに柔らかい下腹部を包むように手を添えてさすっていく。昂る胎内で〝自分がレオーニオを悦ばせている〟と信じる命たちが溢れ出させたソウリョクを操り、癒やしの力に変えていたのだ。
「ふぅっ……ふ、ぅううっ……♡ また、気持ちいいムラムラがキたっ……♡ じわじわ、膣の中がくすぐられてっ……♡ はぁっ……はぁあんっ……!!♡」
この治療方法は、ソウリョクによって肉体を活性化させて、その治癒能力を後押しするものだった。少女の官能が昂れば昂るほどに、溢れるソウリョクは癒やしの力を得ることになるため、性行為による興奮は欠かせない。
守護者は下腹部越しに子宮を揉んで、熟れたざくろから濃厚な果汁を垂らさせているあいだも、巨根の抽挿は緩やかに続けていた。繋がった女体を悦ばせようとする、生真面目で優しさの溢れる腰遣いが……アイドルである本物が決して抱いてはいけない感情を甘酸っぱく刺激し、〝レオーニオ〟の心身をきゅんと揺さぶった。
「んっ……♡ んくうっ……♡ リュウオウ様っ……♡この、ゆっくりスるのも……イイっすね……♡ あっ……ちょっと……クセに、なってきた……ァ……っ……♡」
「くっ……レオーニオ……! ほとを、締めすぎだ……ッ……子種をねだるな……! 治療が――しまっ……ぬぁっ……う、ぐ……!」
「あくッ♡ぅううんっ……!?♡ キた、ぁっ……♡ 精液っ♡ぶびゅびゅっ、って、たくさんッ……んぁっ♡あッ♡あっ♡イ、くっ……♡くふゅううっ……!!♡」
スローペースで重ねられ、表面張力で保たれていた衝動の限界が……ぷつり、と切れて溢れ出る。断続的だった男女の痙攣が共鳴し、ふたりを快感の頂点まで舞い上がらせ――天井だと思っていた多幸感の限界を突き抜けた。
膣奥で吐き出される大量の神液が、少女の信じる異教の教義をどろどろと白く染め上げ……下腹部の紋を強く輝かせ、その面積を大きくさせていく。
(あ゛-……っ……♡ これ……マジで、ヤバいな……♡ 堕ちれるトコまで、堕とされていく感覚…………めんどくさいこと全部から……解放、される……ような……)
子宮口をびゅぐびゅぐと熱く濡らす性感に、枕を握り締めて耐えていた獅子娘は……脚の内部で完全に断裂していた筋肉と神経が、少しずつ癒やされていくことを実感しながら、幸せすぎる性感の余韻に揺蕩っていた。
……………………。
その後、治療を終えた竜皇はレオーニオと一緒に風呂に入って身体を清め、地方の国に居る柱からソウリョクを受け取りに行ってしまった。
「元気な絶倫チ×ポだなぁ」と感心しながら、レオーニオはかなり調子が良くなった脚を松葉杖で補助しながら歩行に慣らしつつ……管理者であるいろはの言いつけどおりにイサリビを警邏した。
イサリビの民たちは、当初こそレオーニオの性的欲求を刺激する容姿に驚いていたものの……下腹部に刻まれた紋で身分が証明されていたため、敵視することなく受け入れるようになっていた。主に男衆が鼻の下を伸ばしながら近づき、他愛のない話をしながら、野菜をぽんぽんとくれるほどに馴染んでいたのだ。
その後は、守護者によって『イサリビの外』として例外的に認められた離れ島に出向いた。そこに構えたレオーニオ・ラボとキャンプで団員たちと〝交流〟したり、竜禪信仰に協力する指示を出したりしていると……あっという間に日が傾いてしまう。
苦労も重責もなく、ただ単に『充実した時間が過ぎていく』――こんな贅沢は、今まで経験してこなかったものだった。
「やれることも、娯楽も少ないのに……意外と時間が早く進むんだな……」
かつて、ソルドナーレ体制の下で激しい抗争や厳しい訓練にも身を置いていた軍人でもあるレオーニオは、その怒涛のような時の流れを思い返していた。
団員たちと共に世界中で戦いに明け暮れ、わずかな時間を見つけて戦士たちに〝ご褒美〟をあげてきた。今では時間配分が逆転し、〝仕事のためにご褒美を貰う〟のではなく、〝ご褒美のために仕事をしたくなる〟ような……活動の意味すら真反対のものになっている。
時間当たりの密度――詰め込まれた情報量や渦巻く感情には差異があれど、それらも含めて〝同じ一日〟が繰り広げられているとは思えない。
脳裏に焼き付いた記憶と、今目の前に広がっている和気あいあいとしたキャンプの中。両極端にある生活を比べてみて……最も愛している団員たちの充実した表情は、今の方が圧倒的に多いことに気づき……レオーニオは思わず笑みをこぼした。
傍から見れば、西洋よりも貧しい生活の中で、雁字搦めな暮らしを強要する〝鳥かご〟にしか見えない狭い世界だった。
しかし、この窮屈だが人々の意思と道徳性によって守られる、のびのびとした暮らしには代えがたいものがあるようだ。
「……そういや……〝何者にも邪魔されない世界〟が……〝自由〟が欲しくて戦ってきたんだっけか。ちょっと狭すぎて、刺激が少ないかもしれないけど……戦い続けるより、よっぽどいいかもしれんし……何より……解放感があるよなぁ……♪」
心地良い潮風を浴びながら、レオーニオは下腹部で強さを増していく〝束縛〟を愛しげに撫でて……自らの命である〝解放〟の意味を、再度問い直していた。
……………………。
物思いにふけっていたレオーニオは再び本土に戻り、イサリビと外界の境界線を歩いていた。すると突然、見慣れた上司の顔と、はち切れんばかりに自己主張をする豊満な乳房の揺れが目に入る。
「はぁ……!探したわよ、レオたん……! もう……勝手にどっか行っちゃうんだから……!心配したのよ……?」
「……マル先輩……すみません、連絡すらできずに……。ちょっと、リュウゼンの武士との勝負に負けちゃいまして……」
「負けた……?うちでも有数の戦力だったレオたんが、武士なんかに負けたですって……!? あのプライドだけが高い腑抜けばっかりな連中に……どんな卑怯な手を使われたのよ!?」
マテルを統括する立場であるマルテーサは『信じられないものを見た』と言わんばかりにオッドアイを見開き、すっかり縮こまってしまったレオーニオの両肩を揺さぶった。
しかし、レオーニオは小さなため息をついてその手を払い、静かに視線を背ける。
「……そんなんじゃないっす。真っ正面から向き合って、戦って……勝者に甘い情けをかけられて、こうして生き延びました。一応、教義には沿っていると思うんですがね……『生きててえらい』っしょ?」
レオーニオは松葉杖でカツカツと地面を叩き、太ももの後ろに深く刻まれた裂傷の痕を見せつける。癒やしの力を継続的に使われてもなお、『竜皇による治療を止めれば普通に歩くことすらできなくなる』。松葉杖を使っていないときは、何かに寄り掛かっていなければ長時間立っていられない。
戦闘行為や工作活動を行えなくなるほどに、甚大な後遺症を抱えている――それは、レオーニオが守護者に秘匿を強要し、勝者であるいろはに隠し続ける〝負い目〟の一つだった。
大きな筋肉と神経の両断という深手が完治するには……時間として、一年以上の治療が求められる見込みだった。いろはに傷の治りを不審がられないために、その期間を縮めることを目的として、毎日のように治療行為を続けているのが現状だった。
いろはに生かされたことには感謝しかなく、敗者としての不自由などは全て甘んじたうえで、こうして生き恥を晒している。この泥汁をすするような苦痛こそが〝命の重み〟で、〝いろはに許された復讐の正当な権利の表れ〟なのだと――覚悟を決めて真剣勝負に挑んだレオーニオは、本気でそう考えていた。
「そ、そりゃあそうだけど……それにしても、レオたんが負けるなんて……。その相手って、まさか……ウェニちゃんがやたらと気にかけている……リュウオウの傍に居た、ちんちくりんなガキんちょじゃないわよね……?」
「たっはっは……いやー、そのまさかっす。あの子はまだいろいろ未熟だけど、立派な信念があってさァ……〝理想的な武士〟としての素養はしっかり備わってましたよ。他国で聞いた話、あながち嘘じゃなかったみたいっすね」
「……〝日出ずる国〟の伝承……『心の強さで力も増減する』っていうアレね……。オカルトじみた風説だと思っていたけれど……なるほどねぇ……」
マルテーサは顔を不機嫌に歪め、腕を組んで、たっぷりと乳房を持ち上げる。そんな気まずい沈黙の中で……レオーニオの下腹部で薄く輝いている紋に気づいた。
「ん……レオたん、それ何? 淫紋?」
「いや、違――くもないか……うん……。イサリビで暮らすための、捕虜の印みたいなもので……リュウオウ様といろはちゃんのソウリョクで監視下に置かれている感じですね」
「監視下……? もしかして……悪いことすると……え、エッチな気分になっちゃうとか……!? 『ルール違反をしようとする思考』すらも性欲で埋められて、オナニーが止まらなくなるとかッ……!?」
「だっはっは!なんで嬉しそうなんだよ! まあ、両方とも大正解なんだけどさ!その後リュウオウ様にぐちゃぐちゃになるまで『とっちめられる』っていう欲張りセットだよ!」
「ま、マジかよ……!? うっわ、悪魔よりも良い趣味……いや……イイ趣味してるワぁ……!」
「あッはははッ!言い換えた意味ねェじゃん! アンタってホントにスケベだな!下ネタ大好きかよ!」
「……そりゃそうよ。エロ話は……あたしのアイデンティティーみたいなものだからね」
少しだけ憂いを帯びた目で笑ったマルテーサ。レオーニオはそれを見て、やや申し訳ない気分になっていた。
「…………まあいいわ。それじゃあ……その淫紋がある限り、レオたんは竜禪の捕虜になっちゃうのね?」
「そういうことみたいっすねー。悪いんですけど、あたしはちょっとここでリタイ――」
「――わかった。マテルの――貴女の管理者として、ちゃんと戦線復帰できるようにしてあげるからね」
「……え……? いや、マル先輩、あたしは……きゃっ……!?」
「ほら、服をめくって、おま×こも出して……お腹、よく見せてごらんなさい? 屈強な戦士であるレオたんを辱める、卑怯者どもに植えつけられた淫紋を!」
「待って、マル先輩……! ちょっ、往来で……丸出しになっちゃうって……!!」
「大丈夫よ、誰も見ていないし……マテルだったら、他人に見られるのも慣れているでしょ?」
「いやいやいや!あたし、人前で平然とヤったりしないっす……あ、やっ……んんっ……!!♡」
マルテーサはレオーニオの服をめくりあげ、お腹から下を全てさらけ出させる。竜隷の紋が輝く下腹部を見ながら、手袋をした手でやや腫れぼったくなった感触の陰部を触り……愛液が手袋を濡らし、地面まで滴らせるほどに〝軽く〟愛撫をして、官能との関係性を探った。
「……なるほど……快感に応じてトリガーが引かれる感じ……? いや、逆の反応もあるわけよね……と、なると……?」
股間に差し込まれていた麗女の手が引き抜かれる――胎内から溢れた蜜液が、どろり、と最奥に残っていた団員の精液を洗い流すように滴り落ちていく。
下半身を痙攣させたレオーニオは腰を抜かし、肌色が透け始めた前垂れをぎゅっと握って、恥ずかしそうに愛液を絞り出していた。
「ぁっ……あ、くっ……♡ ちょ、ぉっ……あたしっ……♡ 外なのに……っ……軽く、イかされたんですけど……!♡」
「仕方ないでしょ、触診なんだから。ちょっと、現状だと情報が足りないけど……レオたんのためだもの、調べものをしておかないとね」
「はぁっ……はぁっ……♡ 調べもの……?」
「ええ。〝ソウリョクを使った治療方法〟と……〝ソウリョクによって刻まれた紋〟についてね。実は……ちょっとしたアテがあるのよ♪」
マルテーサは邪悪に目を細めて、口元だけを器用に笑わせていた。その不気味さは、同胞だったレオーニオですらも嫌悪感を覚えるほどだったという。
――それからしばらくの時間が経ち――。
いろはがアスラ信仰を再興させた後のこと。マルテーサは日常の仕事の中で『いろいろな手を使って』十分な調査を行った後に、求めている事象の鍵の全部が〝風真いろは〟に集約していることを確信した。
マルテーサの目標は、〝敵対者〟たちが巡っていると思わしき八武信仰の中で――癒やしの力に関する伝説が残っている〝ガンダルヴァ信仰〟だった。
そうして――いろはが生涯忘れられなくなった、あの最悪の一日が訪れることになったのだ。
――――――。
蛇神、楽神、律神と三つの信仰を再興させ、アマネ殿の工房が一時的に完成した後のことです。
お屋形様の要望もあり、私たちはモリの国を訪れていました。門前町には〝罪殺し〟を失った今でも、毎日の暮らしを守り続ける民たちと、鍛錬に明け暮れる武士の姿がありました。
……泥にまみれて模擬戦に勤しむ武士の数は、私たちがこの国を去る以前よりもさらに減っているように思えました。
崇高な理念や綺麗事だけでは、上手くいかないこともあったのでしょう……特に、人の心はそれほど単純なものではないのですから。それもこれも、私に責任があったことは承知していたつもりでした。
とはいえ……モリの国が退廃したり、荒れ果てたりしていなかったことだけは救いでした。私たちは武家の当主に挨拶をしてからモリの国を見て回り、一緒に軽い食事をしたり、珍しい金物を見たりしました。
……まあ、俗に言う〝でーと〟だったかもしれません。当時はまったく意識していませんでしたが……今考えると、そう、なのかな……と……いった感じですが……。
「おまえの話を聞いて少し不安に思っていたが、杞憂だったようだな。竜禪の教えはほとんど根づいておらぬ故に、今すぐ柱を据える必要もないであろうが……武家にはその分、辛抱強く存続してもらわねばな」
活気溢れる町並みを見て、お屋形様はそんなことを呟きました。私はどうしてか、ほっと胸を撫で下ろしていたような記憶があります。
「……残念ではないのですか? エッチできる女の人が増えなくて」
「……風真。おれは、好きで儀式を執り行っているわけではないのだぞ」
「どうだか。レオーニオともたくさんエッチしているくせに」
「ぬう……それは……まあ、否定できないのだが……。多数のおなごを抱きたいという欲望はさらさらなくてだな……」
「……じゃあ……一人だけ選ぶなら、誰にするんですか?」
「…………ッ……それは……」
私が袖をつまんでそう問うと……お屋形様は、とても歯痒そうな顔で私の目を見つめていました。
その深みのある瞳に映る、何かを告げたがっている視線が……何故だか、怖く感じて……私はふいと目を逸らしてしまいました。
……それからは、言葉少なに町を見て回るばかりでしたが……意外にも、それもまた乙なものでした。モリの国でゆっくりとすることは以前にも経験していたはずでしたが……お屋形様が隣に居ると、より心安らぐひと時を過ごせたように思えます。
私が少し肌寒い風に思わず身震いをすると、お屋形様は、ご自身の羽織を私の肩にかけてくれました。
「あ、ありがとうございます……。お屋形様は、寒くないのですか……?」
「おれも生身だ、寒くないことはない。だが、おまえが風邪をひかなければそれでよい」
「は、はあ…………あの、お屋形様……?」
「どうした。何か気がかりでもあるのか」
「いえ……ちょっと……手が寒いかな……って……」
「…………そうか。それは……うむ……ああ、それは良くないな」
私の見せた甘えを握ってくれた手は、稽古をつけてくれているときとそっくりな――けれども、ぜんぜん違うような――そんな、心強い力を感じました。
お屋形様の手指は、まめと節くれのせいでごつごつとしているのですが……私に触れるときの手つきは、とても優しくて。染められる前の絹織物に触れるように、決して傷つかない力で……緊張した心身をほぐしてくれるのです。
それは、竜禪のために必要な儀式から、こうした何気ないまでの全てにおいて、一つも変わらなかったと思います。お屋形様の中には、一貫した〝何か〟があったように思えました。
何日も、何週も、何月も――時間をかけて、ゆっくりと。私が苦手だと思っていたもののうち、本当に嫌なものだけを避けるように……わがままなわらべでしかなかった女に、ひとつずつ、〝男〟というものを教えてくれてきたのです。
最初は父の代わりとして。後には……ええと……そのう……よくわからない立場として……。
……うん。いつだって、私の中の一番大きな場所に居続けていました。神様をそんな風に独占するだなんて、罰当たりもいいところなのですが……当時の私は、まだ視野が狭かったのです。
「風真。もう、寒くはないか」
「あっ……はひ……だいじょうぶ、です……」
そう問うてくれる横顔の凛々しさと温かさは、私の未熟な心を激しく揺さぶりました。顔が熱くなって、すぐに手を離したい衝動に駆られているのに……もっと、近くに居てほしくなってしまって。
深くて濃厚な儀式を何十回も重ねてきたせいで……私にとって、お屋形様との身体のふれあいはとても自然なものになっていました。だというのに、この小さくて浅い繋がりが、こんなにも面映ゆく感じてしまっていたのです。
そんな私の戸惑いを察してくれたのか……お屋形様は門前町の中心地から少し離れ、人けのない竜禪の祠の近くまで導いてくれました。
枯れ葉がちらちらと舞う中で、古びた庭石(だったもの)らしい岩に腰掛け……普通の人ではない私たちは、モリの国の活発な喧噪を見下ろします。
「ほれ。もう少し、こちらに寄らんか」
「きゃっ……!? も、もぉ~……っ……強引なんですよ、いつも……!」
「おまえが『寒い』と言い始めたのだろうに。まったく」
私は肩を抱き寄せられ、窮屈さを感じるほどに密着させられました。いつも以上に強引な態度でしたが……たしかに、肌寒さは薄れたように思えます。
……その代わりに、むしろ熱くなってきました。どきどきと、うるさいくらいに高鳴る早鐘は、きっとすぐ傍に居るお屋形様にも伝わっていたことでしょう。
「……ふふ。相も変わらず、おまえはすぐにこころを顔や身体に出す。そうむくれていないで、素直に可愛らしく振る舞えばよかろうに」
「む、むう……それは悪うございましたね。生憎と、可愛げなど母上の胎に置き忘れてきたもので」
「くくく。小娘が知った口を聞くでない。おなごの可愛げというものは、酸いや甘いの中で磨き上げる……宝玉のようなものだ」
「……そういうものですか。歯が浮くような言葉は、私にはよくわかりませんが……」
「いずれ自分でもわかるとも。おまえは……本当に……よく育ってくれた。美しく、確かな可愛げがある女としてな」
「…………お屋形様……」
つん、と触れ合った小指を絡めて。どちらからともなく、手を握り合って。緊張して、何も考えられなくなった私は……大きく息を吐いて、お屋形様に全体重を預けるようにしなだれかかりました。
さあ、と吹き抜ける風は冷たいものでしたが……火照った身体の熱さとお屋形様の温もりを感じるには、ちょうどよかったかもしれません。
しばらくお屋形様と肩を並べて、初冬の風情を楽しんでいながら……ふと、唇が物欲しくなって……寵愛を欲して、顔を寄せようとしたとき――。
「…………風真」
「……はい。無粋な者も居たようですね」
――私たちに向けられていた、激しく燃えるような敵意に気づいてしまいました。
とんだおあずけを喰らった私でしたが、すぐに気持ちを切り替えて刀を引き抜きます。お屋形様もそれに合わせて太刀をお天道様に拝ませ、ぎらりと戦意を閃かせました。
「チッ……! 『気配を殺す』んじゃなかったのかよ、このポンコツが!」
「けっ。あのデカ乳女、最初から騙すつもりだったんだろうよ。だが、ちゃんと〝成果〟を見せりゃ、態度も変わるだろうさ」
「腹立たしいモン見せつけてくれちゃってさァ……良い気になんのも大概にしろよなァ……!!」
色褪せた雑木林から次々に現れた男たちは、手にしていた装置を地面に放り投げました。
ぼさぼさの髪に、垢がこびりついた着物……そして、そのみすぼらしい姿に似つかわしくない――使われた気配がほとんどなく美しいままの刀。
着物に縫い付けられた『〇印の中に×』というマークはどこかで見たような記憶があり、不思議に思ったのは確かなのですが……そもそも、顔を合わせた面々には見覚えがありました。
「浪人……いや、元はモリの国の武士だな。竜禪どころか国すらも棄て、はざまの地に逃れ……野盗と成り果てたか」
「…………やはり……そう、なってしまうのですね……」
私は自分の責任を強く握り、後悔と震えを押し殺しました。『黎明様を救済したことが間違っていた』とは決して思わぬように。
……けれど……確かに、そう強く思い込んでいたのですが……私の刃に波打つ刃紋は、その迷いを映す水面のように揺れ動いていました。
「おいそこの女ッ!テメエのせいで、俺たちの楽々とした生活がめちゃくちゃだ! どう責任取ってくれんだ!ああん!?」
「俺たちに苦行を強いておきながら、自分は男とねんごろか? そんな都合の良い話が許されんのかァ!?」
「っ……ち、違う……わ、私は、そのような…………っ……」
「黙れ! テメエが何を言ったところで変わらねえ……だが!テメエを生け捕りにすりゃ、俺たちァ武士に――いや!武士なんてハナクソが目じゃない生活に返り咲きさァ!」
「俺らは野盗じゃねえ――誇り高き〝太陽志士〟様よ! この仕事にだって大金が約束されてんだ! ぶ……なんだっけ……なんだか知らねえが、何とかサマに〝命〟の価値を認められてんのさ!」
「はははは!『生きててえらい』だってよ!転がり入った宿場町の娼館で、産まれて初めて言われたぜ! そんな簡単に褒められるなら、糞みてぇにくだらねえ武士なんか、さっさと辞めときゃよかったぜェ!」
男たちが下卑た笑いを上げて、〝武士〟の名を出すたびに……私の中にある大切なものが、ぐちゃぐちゃに踏み潰されていくようでした。
……黎明様を呪縛から解放した後……自分でも、ずっと悩んでいたことでした。〝武士の在り方〟とは……己の中にある〝正しさ〟は、本当に、これでよかったのだろうか、と。
自分の信じる〝正しさ〟が呼び起こした変化と、そこに生まれた〝正しいと思えないもの〟。それが、こうして目の前に現れて……自分に〝罪〟を怒鳴りつけてきて、ようやく責任の重たさを実感しました。
「なんだぁ?あの女、ションベン漏らしてるみたいに震えてるぜ? だっせぇ~!!俺たちみたいなハイカラ太陽志士の地位が勝手に上がっちゃうよ~!!」
「ぎゃはぎゃは!あれが武士だってんだもんな! 武士とか今時ダサすぎるのがよくわかんぜ!」
「テメエみたいな臆病者がさあ!どうせ〝罪殺し〟もそのイモ臭い身体で懐柔したんだろ!?」
「この淫売が!!命が惜しけりゃ俺たちにも服脱いで、尻を振りながら媚びてみろよォ!!」
好き勝手に暴言を吐かれても、戦意を奮い立たせられない私に向かい……男たちは、刀を雑に振り乱しながら飛び掛かってきました。
「……そんな……私は……違う……違うのに…………」
私は、そのおぞましい〝武士〟とは思いたくないもの――自分の行為が生み出してしまったものを見て……息を乱し、視界を狭めて……戦う意思を示すことができませんでした。
気持ちを強く握ろうとすればするほどに、私の心を反映するかのように、宝刀のなかごがみしみしと嫌な音を立てて……これ以上の戦いを拒んでしまいます。
ぽこべぇの刀は何故か鞘から抜けず、懐に忍ばせた武具を取ろうとしても、手が震えて何も掴めなかったのです。
「はぁ……はぁ……はぁ……ッ……! 武士……私は、武士……刀を…………!!」
「…………もう、よい。下がっておれ、風真」
大きなため息をついたお屋形様は……役立たずになった私を背に庇い、太陽志士と名乗った不埒者たちを一瞬で切り捨てました。
目にも止まらぬ早業で太刀筋を閃かせて刀を根元からへし折り、起こした旋風で着物を糸くずの山に変え……瞬時に、ふんどし一丁の男たちを量産しました。
「お…………おおおおおおおお!?俺の……かたなぁ……!?」
「ぎゃああああ!ば、バケモンだ……!お助けぇ!」
「生きててえらい!生きててえらい!殺さないでぇ!」
「うえええん!帰りたいよぉ! マルテーサちゃん!もう一回抱き締めてくれよぉ!!」
太陽志士――ですらなくなった者たちは、切れ目が入ったふんどしすらも脱ぎ落としながら、全裸で逃げ去ってしまいました。
何もできなかった私は……地面に膝を突き、刀を取り落として……彼らと同じように、情けないばかりの姿を晒しました。
「…………私が……黎明様を、救ったから…………竜禪のために、使命を果たしたから……武士も……馬鹿にされて……」
「風真……そう思い詰めるな。あやつらは己の中にある弱さや甘えに打ち勝てなかっただけだ……最初から、武士であったことに誇りを抱いておらぬだろう」
「……じゃあ……武士って、なんですか……? 竜禪と此の地を守る使命で……正しいと思ってやったことなのに……誰かの暮らしを壊して……! 私たちは、今……誰のために、何を為そうとしているのですか……!?」
「……おまえがやったことは、決して間違っておらぬ。その〝正しさ〟を自分で信じねば、おまえは……」
「……ッ……お屋形様は、神様だから……わからないんですよ……! 私が消せない悩みも……後悔も……! 人の思うこと、全部……知った口を聞かないでよ……!!」
「…………………………そうだな。おまえの、言うとおり……おれには、人の所業の是非を語る資格など……なかったな……」
涙をこぼし、嗚咽を漏らして地面を殴り続けた私に……お屋形様は、再び羽織をかけ直そうとしてくれたのですが……感情の堰が切れてしまった私は、それを拒んで、ただ泣き喚き続けました
……この時については……本当に……お屋形様に酷いことを言ってしまったと、強く後悔しています。だから、きっと……そんな不遜で罪深い私にふさわしい、罰が当たることになったのです。
それは忘れもしない、第三の旅――四つ目にあたる、ガンダルヴァ信仰を再興させる旅でのことでした――。