――駆ける。駆ける、駆ける。ただひたすらに、無心で、がむしゃらに駆けてゆく。
最後に注がれた〝信じる気持ち〟を一身に背負いながら――希望を繋ぐための膂力として燃やし、自分の全てと共に使い倒す。
馬上から見た景色の時を反転し、巻き戻していくように。見覚えのある道筋を、全速力で走り抜ける。その土色の弾丸は山道につむじ風を起こし、木々を騒がせ、がちゃがちゃと小刀を鳴らしていた。
息を乱す。全身に鞭を打つ。馬に速度で劣る分は、休憩を挟まない根性だけで補った。豪雨に見舞われ、泥に足を取られ、暴風に吹き飛ばされながらも……小さき勇姿は〝敗走〟に徹した。
『頑張って、頑張って……生きるから…………ぽこべぇも……生きて……ッ……!!』
――〝生きる〟とは。それが何かなど、一介の獣でしかない彼は考えたこともなかった――だが――その無力な身体に湧き出る、泥水のように濁って、溶岩のように燃える想いを無視することだけはできなかった。
出会ってから、何度も一緒に旅をしてきたのに――信心の助力を得られない自分には、大切な友を見捨てることしかできなかった。『生きろ』と自分で言ったくせに、心を引き裂かれたように弱気な顔を見せた――年端もいかない生真面目な少女を、握った刀で守ることができなかった。
――だが。『勝てない』と身体の髄で理解してからも、諦めが頭をよぎったことはなかった。一度その場から離れたように見せかけ、憎い赤毛の年増女とその部下たちが乗り込んだ鉄塊に忍び込み――広い湖面に浮かぶ大船へ移動する隙を突いて逃れ、主人が運び込まれた場所を正確に把握することまではできたのだ。
それから、遥か六〇里――早馬を使っても半日はかかる距離を、自分の脚だけで駆け抜けた。両手足が疲労で攣り、顔面を強く打ち付けても。足裏の皮と肉が小石でズタズタに引き裂かれても――溢れる涙を止める暇もなく、己の無力に対する苛立ちを跳躍力に変え――弱き武士は、〝前に〟向かって逃げ続けた。
懐かしさすら感じる磯の香りがほのかにし始め、小さき武士の身体から四肢の感覚がなくなった頃――燃える夜空に、二度目の朝日が昇り始めた。主人が敵に拘束されてから、既に丸一日以上が経っていた。
意識が朦朧としており、夢の中を走っているような浮遊感に見舞われる――どれだけ走ったのか、ここがどこなのか、考えることすらできなかった。だが、今も主人は、酷い目に遭わされ続けているのかもしれない。不安だけが、敗者の心を蝕み続ける。
焦りが胸を締め付け、煤の舞う熱波と硝煙が肺を焼き……呼吸を忘れた身体が痙攣を起こして、その場に為す術もなく倒れ込む。目的地まで、それなりに近づいていたはずだというのに――臨死の限界を何回も越えていた身体が白目を剥き、口から泡を噴いて……がくがくと、命の灯が尽きようとしていた。
その深い死の海に絡みつかれ、溺れながらも……小さな身体はもがいて、足掻いて、地面に爪を立てて前に進み続けた。だが……どれだけ強い意志を持っていても、魂が離れかけた身体は……とうとう、ぴくりとも動かなくなってしまった。
白んでいく視界――今際のきわに見えたのは――やはり、あの少女の悲しげな顔だった。その小さな背には重すぎたものを背負い、苦しい使命から逃げださずに耐えていた……主人の儚い笑顔だけを、消えゆく夢の中に見た。
「…………まったく、救えないほどに愚かですねぇ、オマエも。悪いトコまで、主人に似ちゃったのかな?」
体力、ソウリョクが枯渇し、水分すらも抜けきったボロ雑巾のような身体を……ふんわり、と天使の羽のように柔らかな温もりが包み込んだ。ほのかな光が傷ついた身体に流れ込み、ゆっくりと、時間をかけて癒やしていく。
「眠っちゃだめだよ。気持ちを、もっと強く持って。『生きる』って、絶えずに思い続けて――〝命を懸けてでも助けたい人〟がいるんじゃないのかい?」
命を全うし、身体を縛っていた苦痛からようやく解放されかけたところで――一匹の獣が、みっともなく、苦痛を自ら受け入れるように〝生〟にしがみつく。力が入らない前足で雪面のようになめらかな肌を踏み、甘い香りが漂っている薄桃色の蕾に、かぷりと吸い付いた。
「んっ……は、ぁ……っ……♡ そう……それで、いいんです……。〝死〟という無限の快楽に負けないで――末長く『命をお大事に』」
吸い付いた突起の先端からみゅうみゅうと溢れる慈愛の温もりが、ずきん、ずきん、と自分の身体に耐えがたい苦痛を呼び起こさせていく――だが、その劇毒のような癒やしの力を受け入れ続けた。
身体がどれだけ苦しくても、心がどれだけ諦めたくても――『主人だったら絶対に諦めない』と、強く……強く、信じていたのだ。
「……こんなにボロボロだったら、呼吸をするだけでもすっごく痛いよね……でも……『生きててえらい』。生きようと思えて、すごくえらいんだよ」
武士が意志の力を強めていくたびに、それに呼応するように、癒やしの光が――治癒の効能が強さを増していく。
寒い夜が明けて差し込んだ、ほのかな朝日の光のように――清らかで、温かく抱き締めてくれる輝きが、枯渇したはずの生命力を湧き上がらせていった。
「ふふっ……♪ オマエは――きみは……今も未来も、あの子の……立派なおともなんだね」
……その柔らかくて可憐な、初雪のように澄んだ声を……彼は、どこかで……聞いたことがあるような気がした。
……………………。
それから、一時間弱の授力を受け……弱っていた心の臓が鼓動を取り戻し、乱れていた呼吸が落ち着いたところで……ぽこべぇは、ようやく視界を取り戻した。
そこで、慈母のような微笑みを自分に向けて……剥き出しの乳房で温かく抱擁をし、授乳をするように乳首を食ませていた白き聖女と目を合わせる。
「おやおや、起きたのかい? わた――ウェニのおっぱいまくら、そんなに寝心地がよくなかった?」
敵との邂逅に戦慄したぽこべぇは、毛を逆立てて温もりの牢獄から逃れようとした……が、身体はまったく動かなかった。一瞬とはいえ、心臓が止まるほどに肉体を摩耗させた全力疾走の代償は、自分が想像していたよりも大きかったのだ。
「しかし、オマエもなかなかに運がイイ奴だな。ウェニの治療はちょっとアレなので、〝魔〟に属する者には効かないんですけど……こうして、命を拾い直せた。これも運命ってヤツなのかもね?」
ウェニキスは上機嫌に目を細めて、むにむに、と谷間にケダモノの顔を挟ませ……ぱふ、ぱふ、とオスに幸福を与えていく。抵抗する力を取り戻せていない小さき武士は、いけない感情を刺激する肉圧に翻弄されるしかなかった。
「ん、なんか硬いのが……あっ!?おいこらっ! なにウェニの義務ぱふぱふで勃起してんだ――って、そういやチ×ポって死にかけだとすっごい勃起するんですよねぇ。こんなときに仕方ないなぁ……ぽこちん野郎めっ♡」
ウェニキスは幸せと希望が詰まった美巨乳で、ぽこべぇの顔をむぎゅりと包み込んでから……魅惑の果実をにゅっぷりと衣服にしまって、小さな身体を胸に抱き直した。
ぽこべぇの疲れ魔羅と生存本能ドクドクの陰嚢をにぎにぎと弄びながら、ウェニキスが歩き始める。全ての護符が黒く焼け落ちていたイサリビの境界線を悠々と踏み越え、夜だというのに喧噪と警鐘が止まないあぜ道を歩いて居住区へ向かい――赤々と燃える海上の空を見渡した。
――『この世の終わり』。ぽこべぇには、そう思えるような……あまりにも凄惨な光景が海上に広がっていた。
【 ―――――――――― !!!!】
どずん、とはらわたを殴るような鈍い音――それが〝咆哮〟だと気づくのに時間がかかったほど、おぞましく濁った怒声が空に轟いていた。
焼け焦げた空に広がる機械の大群が、おびただしい数の兵器を射出して、硝煙が満ちた昏い夜空を赤く光らせる――蛇のような長き身体を爆炎に包んで、濁った腐肉を剥ぎ落す。怪物の身体をのたうち回らせ、毒色の血飛沫で空を穢し……黒焔で爛れていた龍鱗を海に落として汚染を拡げていった。
「〝ミヤ〟の姿が、どんどん怪物に変貌している……いろはちゃ――イモマ×コのために勝負を急いで、乱雑に兵器を叩き潰して自然を壊し、怒りに身を任せた成れの果てが〝アレ〟だよ」
傷ついた黒龍は苦しげに呻きながら、小蠅の大群のように群がる鳥型の機械たちを払い除け――全身を鞭のようにしならせて打ちのめし、血のような黒雨を辺りに降らせる。背から大木のように尖った剛腕を生やし、蜂のように制止と移動を繰り返す大型兵器を握り潰して、辺りに爆炎を散らした。その火種は周囲に伝播し、赤々と燃える空の痛ましさをぶちまけた絵の具のようにのばしていく。
――イサリビの美しい空が、豊かな海が――比喩ではなく『燃えている』。気化する燃料が常に火気を帯び、黒煙を撒き散らしながら燃え広がり――両者の止まぬ攻撃によって、惨い戦火は広がり続けていた。
「今回の襲撃……珍しく、狙いが『イサリビではなかった』みたいなんだよね。こんなエグいこと考えるの、マルちゃん以外考えられないし……それだけ、結果を求められたってことですけど……。あのデブは、ホントにもう……余計なことばっかりするんだよなぁ……」
両腕にぽこべぇを抱いたウェニキスは、少しバツが悪そうに舌打ちをして……ぎゅっ、とぬいぐるみを抱くように、抱擁の力をわずかに強めていた。
暗雲に赤黒い雷鳴が点滅している毒々しい夜空の下では、恐怖と爆音で睡眠すらもとれないイサリビの住人たちが、憔悴しきった顔で荒々しい戦闘を見上げていた。
「み、ミヤ様……どうなすったんだいな……!? あれでは……まんま〝ながきもの〟でねえか……!!」
「あ、あれが神さんの戦いなんか……? バケモン同士が争ってるようにしか見えんど……」
「おめえら!世迷言いってねえで真摯に祈らんか!! ミヤ様が……ミヤ様が、あないに苦しんでんでねえか!! ここで祈らず、いつ祈るんだよお!!」
「は、ハマコよぉ……でも、あんなのよぉ……! あれが、イサリビを……此の地を守ってくれるだなんて、おらぁ信じられねえんだ……!」
「俺たちによ、いったい……何を信じろってんだ……? もう、わからねえよ……ああもう、誰か……誰でもいいから、あのうるさくて汚い戦いを終わらせてくれえ……!」
「ぐうっ……信心が、ぶれとるんだ……! ああ、ヘビちゃん……こんなとき、あんたが居てくれたら……! 今、どこで何をしとるんだい……無事なんだろうね……!?」
集約された武力による波状攻撃。それに生活を壊された民たちは身体から弱り果て、信心に大きな迷いを生じさせていた。
近地での戦闘などによる極度の緊張感は、一時的に信心を強める――その反面『長時間は続かない』。信心とイサリビの長所・短所を深く理解した、敵国による戦略の一手だったのだ。
「あれが〝神〟ですって……くすくすっ……笑わせてくれますよねぇ……♪ あんなおぞましい乱心、どう見たって『高尚なもの』には映らないはずなのに……キョウの人間は本当に盲目的だな。ねー、ぽこちん♪」
頭を抱えて〝見えない何か〟にすがろうとするだけの民たちの姿を見て……複雑な気持ちを抱えたぽこべぇは、いろはの顔を思い浮かべていた。
――あの子が背負ってきた使命と苦労は……本当に、彼女のためになっているのだろうか。人間ではない彼には、それが、どうしてもわからなかった。
「……よく考えておきなよ、ぽこちん。自分が味方するのは、『あの子の使命』か……それとも、『あの子自身』なのかをね」
イサリビの混乱をわざとぽこべぇに見せつけたウェニキスは、脱力したまま悩み始めた彼を抱いて、その者が元々向かっていた場所――イサリビにある竜皇のお社まで運んだ。
「おーい、レオちゃーん。お客さんだよー」
「ッ――ウェニ先輩!? どうしてここに――――ぽこべぇ!! お前……無事だったのかぁ……!!」
縁側で座ったままのレオーニオが、ずいずいと尻と手だけで動き、身を乗り出して満身創痍の身体を抱き締める。泥と血だらけの体毛を厭わずに頬ずりをして、大きな安堵を漏らした。
「リュウオウ様から『いろはちゃんが捕まった』って聞いたけど、あのヒトすぐに出陣しちゃってさ……。こっちでも徹夜で調べたけど、全然情報がなくて詰んでたんだよ……!」
「まあ、マルちゃんが全国で絶賛♡情報工作中ですからね。一味の拠点もあちこちに移しているみたいだし……たぶん、レオちゃんのトコロには何も漏れないと思うぜ。もちろん、イモマ×コの居場所もね♪」
「……でしょうね…………ぽこべぇだけが逃げてこられたってことは……やっぱり……まだ……」
「たぶんだけど、マルちゃんのところで〝改宗〟でもされてるんじゃない? んで、さ……監禁場所なら、『逃げてきたその子が知ってるんじゃないかな』?」
「ッ…………ウェニ先輩……アンタ、いったい何を……?」
「いいから聞いてみなって。ケモ耳があれば、意思の疎通はできるだろ?」
「…………ッ……!」
レオーニオは迷うことなく、ウェニキスの言うとおりにする――変身で獅子耳を生やしてぽこべぇと額を重ね、ソウリョクを通じてぽこべぇの記憶と熱い想いを受け取った。
「……ガンダルヴァ信仰を再興した、ラカの国跡地……そこに向かう途中に見た大きな湖――〝龍神の湖〟……?」
道中で冷たい雨に降られていたこともあり、いろはが意識せずに迂回して通った場所――霊水の村落への往路にあった、自然ばかりが豊富な湖。そこは、今ではぽこべぇのような獣だけが存在を知る……旧くに失われた、名もない信仰の跡地だったのだ。
思いがけない情報を得た――おそらく、シャイな竜皇が絶対に隠したがるだろう事実を知ったレオーニオは、息を呑んで……途方もない距離の逃走を経て、希望を繋いだぽこべぇを「よく頑張ったな……」と深く愛しげに抱き締めた。
「……あの、レオンちゃん……この人は……?」
レオーニオの隣で気配を殺していたアマネが、袖下で武具を構えながら問う。
その宇宙のように深みのある両目は、ウェニキスの改造された豊満な肢体の〝向こう側〟を見ているようだった。
「ん、あ、ああ……あたしの元上司で……いろいろとヤバいヒトだよ」
「どんな紹介だよっ!? えー、ヤバいひとらしいんですけどね……『ウェニキス』って呼んでね、アマネちゃん♪」
「…………ぽこちゃんを連れてきてくれたってことは……味方……と考えて、いいんですか……?」
「……ウェニはウェニだけの味方だよ。そこのボロ雑巾が、もっとボロ雑巾みたいな状態で死にかけていたから……救えないほどにバカな〝命〟を、ちょっと助けてやっただけだっての」
ウェニキスはつまらなそうに鼻を鳴らして踵を返し、垂れ布から丸っとした尻肉を覗かせながら言葉を続ける。
「ああそうだ、レオちゃん。リュウオウがあんな風になったせいで、イサリビのタリスマンがぶっ壊れてるから……『今なら、何をしても、何処に逃げてもバレなさそうだよ』?」
「………………! そりゃあアレですね……『捕虜として、味方からのありがたい情報』ですよね。ありがとうございます、ウェニ先輩」
「……ふんっ……。ウェニはこれから、あの襲撃に乗じてキョウに乗り込もうとするブタ野郎――いえ、ブスジマ様をお迎えにあがらなくてはなりませんので、これで失礼しますね」
「……あんまり無茶すんなよ」と小さく言い残したウェニキスが、肩越しに手を振ってその場を後にした。
きょとん、としていたアマネが、レオーニオから預かったぽこべぇの身体を抱いて……その体内に宿っていた〝聖なる力〟の気配に首を傾げる。
「……あのひと……なんで…………それに……何が目的なんだろ……?」
「……さてね。それは一生かかってもわからんだろうが――あたしが今やるべきことならわかったよ」
懐から携帯端末を取り出し、キャンプとラボで竜皇を支援している団員たちと連絡を取ったレオーニオ。動ける団員たちに作戦の準備をさせつつ、自分も松葉杖を突いて境内を歩きだす。
「……レオンちゃん……いいの……? もし裏切りがバレたら……キミは、もう……帰る場所を失うんだよ?」
「……ふふ……。元々、あの子に拾ってもらった命だからな――あの子のために使うのがスジってモンだろ?」
竜皇の治療を丸一日以上受けていない身体は、松葉杖を突いて歩くことすらままならなかった。それでもレオーニオは、清々しい顔で微笑みをこぼし、よたよたと体勢を崩しながら……自分の脚で、前に進み続けていく。
「アマネちゃん。今日は面倒を見てくれてありがとう……漏らしかけたあたしに肩を貸してくれたとき、アンタが天使に見えたよ」
「むぐ……たまたま竜皇様に用事があっただけだし……っていうか、今はそんなこと言ってる場合じゃないと思うけど……。じゃあ……その恩返しだと思って、ボクのお願いを聞いてくれる?」
「もちろんだ。あたしは何をすればいい?」
「…………いろはちゃんを……ボクの友達を、助けてあげて……! イサリビには……此の地には、きっと……あの子が必要なんだよ……!」
「…………ああ。今のあたしは、神に祈りを届けるだけの女じゃない――その願い、叶えてみせるさ。この命に代えてもな」
レオーニオは、身体を通じて心に擦り込まれた〝本物〟を夢見るように――強気でクールな笑みを浮かべてみせていた。
斯くして、〝竜隷の印〟の監視者二人が竜禪信仰の神通力を失っているあいだに、レオーニオと部下数名は機材を積んだトラックに乗り込み――護符が穢れてしまった境界線をタイヤで踏み越え、イサリビから脱した。
『移動したばかりの拠点の場所を知っている』という〝味方らしい事実〟と話術を使って、陸送トラックでマルテーサの海賊船に臨時の支援物資を運び込み、その隙に、レオーニオは囚われの身だったいろはを奪還したのだった。
……………………。
マルテーサに多くの大切なものを折られたいろはは、丸一日以上もの時間を捕縛され、辱められていた。それは、ガンダルヴァ信仰が元々有していた、守り手たる薬神が俗世に運ぶ奇跡の液体――〝神酒〟をいろはの胎内から搾り取るためだった。
囚われの身であるレオーニオの深い傷を癒やすために、大量の蜜液を醸造・搾取したマルテーサは、一仕事を終えて満足した後に熟睡をしてしまう。その油断を突き、いろはの奪還作戦自体は完了したが――いろはの心身には、敗北による深い傷が刻まれたままだった。