青白い輝きが蛍のように舞う、真っ白な空間を歩き続けます。自分が進むべき――いえ、自分が〝進むと決めた〟道の先に続く光を目指して。
やがて、私の視線が捉える光が大きさを増していき、幻と現実の境目をさまよっていた私を包み込んで……光が晴れたときに、私の身体は……〝命〟の重みと血の生臭さを思い出しました。
――事切れる命。溢れんばかりの願いを乗せて注がれたソウリョク。刹那の中で、夢想の如き長い旅をしてきた私でしたが……今、やらなければいけないことは全てわかっていました。
「……私に――かざまに、力を貸してください……!! レオーニオを……大切な友を助けられるだけの力を……ッ……!!」
ぱん!と音を置き去りにする速さで合掌し、本当の力を取り戻した〝信心〟に――レオーニオの信徒たちから託された大量のソウリョクを通わせます。
下腹部で〝薬〟の字が鋭い光線を放ち、空を切り裂く音を立てながら――空に向かって逆巻く光の渦を形成していきました。
「あんっ♡そこっ、イイっ……あ、あん……? なんだ、あの光……?」
囮となってくれていた男性たちを捕食し、大きなお尻を振り乱していたマルテーサが目を向けた先には……荒々しくうねりながら奇跡の輝きを反射させる流体が幾本も連なり、大いなる光の柱を打ち立てていました。
その光柱の鋭く尖った根元の切っ先から……きらり、とこの世に眠る宝石を全て押し固めて磨いたような、神々しくて、甘美で、激しい輝きを孕む雫が垂れ落ちました。
煌めきの雫は、巻き起こる風とこすれて、しゅらしゅらと楽器のような音色を立てながら……周囲の光をまとうようにゆっくりと舞い降りて――身体に風穴が空いたレオーニオと、密着していた私を包み込みました。
「う、ぁっ……! こ、れはっ……!! 温かくて……心地良い……癒やしの、力……!」
きらきらと、黄金の水滴が鎖となって周囲を漂っている煌めきの中で……レオーニオの身体に温もりの結晶が流れ込み、ぞぶぞぶと傷口を塞いでいきます。そして、その治癒の波動に巻き込まれるように……私の全身を蝕んでいた呪いが解け、刻まれた恥辱の傷痕さえも光の波によって洗い流されました。
おまけで奇跡をあやかった私の穢れは、すぐに祓われましたが……念入りに臓物や組織を潰されたレオーニオの傷は、なかなか治っていきません。すると、その光の渦が生む奇跡は……レオーニオの下腹部から溢れた〝命〟の流体を吸引するように煌風で巻き込みながら、深すぎた傷に活力を通わせていきます。
「あ……レオーニオの、お腹の中にいた……皆殿が……!」
光液となり、胎内で永遠に幸せな夢を見続けていた人たちの命が――硝子の檻から解放され、レオーニオを蘇生するために使われていきました。
『……ありがとう、神様……! レオーニオちゃんを救う機会をくれて……本当に、ありがとう……!』
『レオンちゃん……君と出会えて、身体と心を重ねて……いい夢、見させてもらったよ……! ああ……僕は、すごく幸せだった……!』
『今度は、君が幸せになってくれ……! 誰かのためにイヤイヤ身体を使って、陰で泣かなくてもいいように……!』
『〝幸せ〟に甘んじず、レオンちゃんを支える道を選んだ団員たち……同じ愛を持つ同志よ……! 後は、頼んだぞ……!』
……その純な願いを、心でつぶさに感じていた私にはわかりました……目覚めた彼らは、自らの意思で〝今日〟を諦め――レオーニオの未来だけでも繋ぐために、自分の命を使っていたのです。
――神に願うだけでは、命を救うためには足りなかった――だからこそ、迷わずに〝命〟を使い潰した。彼らの信じる教えは、命を粗末に扱っているように見えて、何よりも〝命の真価〟を全うしており――その犠牲的な献身を経て、『レオーニオの傷を完全に癒やす』という奇跡を果たしました。
(……レオーニオの、大切な人たち……貴方たちの想いは、間違いなく存在していました……! どうか、安らかに……また、どこかで……!)
未練から解放され、幸せの温もりを脱ぎ捨てて……愛する者のために全てをなげうった信徒たちが、輝く風に乗って天上の世界へと去っていきます。
私は〝輪廻転生〟に倣って、意識を失ったままのレオーニオの代わりに、彼らの旅立ちを見送ります。
――去りゆく命が、必ず生まれ変わることを信じて……循環の中で、次の命も幸せに出会えますように、と。精一杯に、祈りを込めながら。
「…………八武信仰の奇跡……? 呪いで腐ってたはずの薬神が……どうして力を取り戻してんだよ……?」
奇跡の光渦とガンダルヴァ様の〝神酒〟が、さらさらと、光の粒子を小さくしながら消えていくなかで。ぐず、ぬぽ……と名残惜しそうに男根を吐き出したマルテーサが、股座から垂れる精液を拭い、衣服を整えながらこちらを見やりました。
「あーあ……せっかくの〝燃料棒〟を無駄遣いしちゃって……。どうせ死ぬんだから、そんなちっぽけな奇跡を起こして、何も変わらないでしょうに……」
マルテーサは、邪悪な呪気の侵食が広がっている腕を振り抜き、傷が癒えたばかりのレオーニオへと近づこうとしました。
しかし、呪いを祓った私が、その奇跡の恩義を返すためにもマルテーサの前に立ち塞がります。両手を広げて、その背に友を守るように――覚悟を決めた眼差しで、〝敵〟を見据えました。
「……あんだよ? 心が弱すぎて、大事な刀を折っちゃった武家の恥さらしが何の用? あたしのテクで、またお潮をびゅーびゅー噴きたいの?」
「ぐっ……す、好きに言え……!! だけど……レオーニオだけは殺させない……!! かざまが相手でござる……!!」
「ぷっ……アハッ……アハハハハハハハハッ!! 武器も持たず、力も持たず……カザマって……! そんなゴリ押しであたしたちに立ち向かおうっての!? とんだお笑い種だワ……クックック……お花畑でも育てたいのかしらねぇ……!」
マルテーサは顔を歪めて、意地の悪い笑みを浮かべました。
「うふふ……ウフフフフ……♡ ま、いっか……わたくし、コツコツと地味な作業をするのは嫌いではなくってよ。まずは、貴女をもう一回ブチ犯すところから始めましょう――そのドスケベマ×コに〝快落〟を思い出させてあげるワ!」
マルテーサが腕を振りかぶった瞬間――私は目を閉じて、意識の中に常夜の庭園を呼び起こし――故郷に吹き巡る風が生んだ時の隙間に、己の心を見つめ直しました。
――信じるものなら、此処に〝在る〟。
そのことを確かめて、虚空で両手を構え――〝信心〟を強く握ります。しゅるりと風を慣らし、想像の鞘を滑らせて――閃く刃で、迫り来る黒腕を斬り払いました。
「…………なっ……!? え……今……どこ、から……?」
目を開けると……私の手には、幻の中で気づいた〝力〟が――ソウリョクで象られた、風真家の宝刀が握られていました。元の形とは、少し変わってしまったけれど……おばあ様も認めてくれた、立派な〝力〟です。
しゅわしゅわと泡立つ煌めきの粒子が、刀身を激しく煌めかせて、邪悪な〝欲〟を祓う光の刃を形成します。実際には初めて握るのに……ずっとそばにあったような、どこか懐かしい感触の柄が手になじみました。
「ふ、ふふっ……どんな手品を使ったのかしら……!? でも……そんな刀一本で、いったい何ができるってのよ……!!」
ギリギリと拳を軋ませたマルテーサが、目に見えない速度で腕を振り抜いて、私の手から刀を弾きました。
からからと、実体を持っている刃が地べたに転がり……再び、私は丸腰になってしまいます。
「はい終わり!おしまい!また負けた!! 邪魔だから、さっさと退け――ッ……!!」
地面を強く踏み込んで横薙ぎに振り払い、私を殴り飛ばそうとした腕が――再び、鋭い金属音とともに弾かれました。私の手には吹き飛ばされたはずの刀が握られており、迷いのない一太刀によって攻撃を潰されていたのです。
「……か、刀……? さっき、飛ばした……のに……なんで……なんでよォ……ッ……!!」
マルテーサが見やった先には、確かに、質量を持った宝刀が転がっていました――が、その不要な刃はすぐにソウリョクとなって霧消してしまいます。
その代わりに、私の身体から離れることがない〝信心〟が実体を持って姿を現し、この手にしかと収まっているのです。
「……ソウリョクの刀……剣神……ヤシャ信仰が、再興したっての……? 待って……じゃあ、また……あたしの立場が悪くなって……責任取らないといけなくなるの……? 嘘よ……こんなの、幻ッ……そうよ!あの呪いが見せた悪足掻きなんだろ……!?」
マルテーサが、ビキビキと膨らませた腕を振りかぶり、顔面を潰すように叩き下ろします。私は、お屋形様の教えを守って息を吐き、腰を据えて刃をひらめかせ――ギャリン!と眩い光華を散らせて、その猛撃を払いました。
黎明様との戦闘でも、その力強さだけは感じていたものでしたが……お屋形様が教えてくださった剣の型は、この〝力〟を振るうのに最も適した体勢だったようです。つまり、これこそが――お屋形様や父上が思い描く〝武の道に生きる志士〟――〝武士〟の真なる立ち振る舞いだったのです。
「おい……おいッ……!! やめろよ……やめろぉっ……!! そういうのいいから……!! 要らない……要らないことしないでよォっ……!!」
懐から血みどろの刃物を取り出し、マルテーサが乱雑に空を裂きます。刃は小さくとも、麗女の額に浮く青筋の量に比例して邪悪さが増していく腕がまとう拳風は、とてつもないものでした。
私は、レオーニオとの繋がりである耳飾りにソウリョクを宿して、頭の中で歯車を噛み合わせます。襲い掛かる飛刃と見えない拳圧のわずかな時差を見極めて、最も近いものから、一つずつ叩きのめしました。
「う、そ……? い、今……なんか、おかしくなかった……?」
「……マルテーサ! 其方が言っていた『武闘派ではない』という言葉は、嘘ではなかったようでござるな……!」
私が、にやり、と不敵に笑ってみせると――マルテーサは悔しさを噛み潰して、拳をギチギチと震わせました。
「……ざっけんな……なにが武士だよ……なにがござるだよォ……!! あたしを舐めていいのは、一味のみんなだけなのよ……!! どけッ……どけぇええッ……!! あたしにッ……レオたんを、殺させろ……!!」
「ッ……させて、なるものか……!!」
マルテーサが突進をしながら、直線的な動きで拳を繰り出します。私は身体を翻して、髪の毛を数本千切られるほどの至近距離で攻撃をかわし――逃げた先で私を貫こうとした刃物の切っ先を刀の腹で受け止めて、回転を加えて弾きました。
「ん、がぁあああああああああああッ!! ちょこまか!うろちょろ!逃げんな、バカタレがァッ!!」
両腕を振り上げて、私の双肩を叩き割るように二つの鉄槌が下されます。私は、もう一本の宝刀を象って両手に〝力〟を握り――ギャリギャリギャリ!と物打ちで槌を滑らせて受け流し、両脇の地面を深々と抉らせました。
そのまま悔しそうに私を睨んで、動きを止めたマルテーサが――にやり、と不気味に笑います。
しかし、既に一手先を読んでいた私は、刀に多くのソウリョクを込めて刃を伸ばして地面に突き刺し――地中を進んでいた影の手を両断しました。
「うっ……ぁ、ぁ……!! な、なんで……見えてないものまで、見えんのよ……!! アンタ……どんな目をして…………ッ……そ、その、ピアスって……もしかして……!!」
「……ぴあす……? 耳飾りなら、レオーニオがくれたものでござるよ」
「ッ――きぃいいいいっ……!!どいつもこいつもッ……余計な、こと……ばっかりして……!! なんで……なんでアンタたちは、あたしの思いどおりに動いてくれないのっ!? あたし……真面目に仕事してたじゃない……!! なんで……なんでよぉおおおおっ……!!」
マルテーサは癇癪を起こして甲高い悲鳴を上げ、捨て身でレオーニオに飛び掛かりました。その無謀な突撃をソウリョクの刃で払い除け、マルテーサに深手を負わせます。
「う、ぐぶっ……!! ま、魔祓いの力……いってぇえええっ……!! お、お前ッ……あたしが死んでもいいのかよ!? このままじゃ、死ぬしかない……死にたくないのにっ……あぁあああっ……!!仕事と責務に殺される……!!」
「ッ……いいわけ、ないだろ……!! 良くなくても……この道が、正しくなくても……マルテーサ……其方を、止めるしかないのだ……!! レオーニオを……大切な皆を、守るために……!!」
私は揺るがぬ想いを口にして、もう二度と、後には退けない状況を作ります。その背水の陣が、弱い自分の心を強くしてくれると信じて。
深く息を吸い、据えた腰をぶれさせずに足を突っ張り――父上のように、力強い背で〝守りたいもの〟のために戦うのです。
「なんだよ……!! なんだよ、なんだよぉおおおッ……!! やっぱりお前も一緒じゃねえか……!太陽志士とかいう信心の欠片もねえ、あたしたちの教徒を騙るカス共と同じだろうがよ!!」
「……同じだと思われてもいい……どんな言葉で蔑まれてもいい……!! かざまは――友を、愛する人々の生活を――何としてでも守るでござる……!!」
私は刀を握る手に、絶対に譲ってはいけない〝意志〟を握りました。いたずらに武力は振るわない――それでも、〝守る〟ためには躊躇わない。
どのような影響を生もうとも、大好きな人たちを守るために、この手でできることを実行する――ちっぽけな私にできるのは、たったそれだけのことしかありません……それでも……〝できること〟に違いはないのです。
(……やろうと思えば、できること……でも……楽はできないし、つらいことばかりで、逃げたく思う気持ちもある……。そういう〝人らしい弱さ〟に負けない者こそ――私が思い描く〝武士〟なんだ……!!)
憧れ続けた父上が背負っていたものの重さや苦しさを、私は、ようやくその身で知ることができました。そして、だからこそ……この手に宿る〝力〟の存在を信じられたのです。
「ああああああ!!うざってぇ!!邪魔くせぇ!!ありえねぇッ!! そんな子供の我儘でッ……あたしの積み重ねてきた努力が……こんなっ……無残にッ……なくなるなんて……!!」
私は、マルテーサが両腕を振り乱し、乱雑に繰り出す暴虐の悉くを跳ね除けます。けたたましい金属音を火花とともに滑らせ、逃がした衝撃で暴風を巻き起こし……舞い上がる土煙の中で、風真の意志を貫き続けました。
「あああっ……いや……イヤよ……!! 嫌だ、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……ヤダヤダヤダヤダ……!!!! ひーっ……ひーっ……死にたくない……死にたくない、死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくないっ……ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
私に使命を阻まれるマルテーサは、どうしても越えられない壁を前にして……髪の毛をガシガシと掻き毟り、この世の全てを恨むが如く地団駄を踏み荒らしました。
「れ、レオたんは殺せない……? この肉便器の心も折れない……? あ、あた、あたし……わたくし……何してるのかしら……? あ、え……エヘッ……♡ 死んだ……これ死ぬわ……エヘヘヘヘッ……!!♡ ギャハハハハハッ――もう、しーらないッ!!♡ かってにやってろ!ばーか!ばぁああああああかッ!!」
マルテーサは、ぷつり、と何かが切れたように表情を壊して、舌をでろりと出したまま……じょろじょろと、真っ白な衣服が黄ばむほどに小水を撒き散らしました。そして、肩まで黒く染まった両腕で自分の頭を鷲掴みにして……背中から噴き出たどす黒い煙に乗って、何処かへと逃げてしまいました。
「…………と、とりあえず……どうにか、できた……かな……?」
大きな安堵の息を漏らして、私は刀を鞘に納めます。かん、と確かに音を鳴らしたその一本は、私の示した〝心〟として、この背に残ってくれるようでした。
「…………その生き様が……いろはちゃんの言っていた〝武士〟ってことなんだな」
「…………えっ……?」
突然聞こえた声に振り向くと――そこには、傷を完全に癒やしたレオーニオの姿がありました。そして……私が不随にしてしまったはずの両脚で……しかと、地面を踏み締めて立っていたのです。
「れ……レオーニオ……! 傷と……あ、脚が……治って……あ、あぁああっ……!! よかった……よかったよぉ……!!」
「おっと……泣くのは、もうひと仕事終えてからじゃねえかな?」
「っ……もう、ひと仕事……?」
「さっさとイサリビに戻ってさ――自分を責めて苦しんでるリュウオウ様に、無事を伝えてやらないとな!」
私と刃を重ねたあの時のように、笑顔を煌めかせたレオーニオが、ぱちり、と指を鳴らします。すると、バラバラと空を裂く音が聞こえてきて、辺りに風が凄まじい風が巻き起こり――ずんぐりとしたトンボのような鉄の乗り物が姿を現しました。
「〝そいつ〟が来たってことは、向こうの戦いも一段落したはずだ! いろはちゃんは、そいつで先に戻っててくれ!」
「あ、えっ……レオーニオは……?」
「……実は、また生かしてもらえるとは思ってなかったからさ……『持って帰らないといけないもの』が、いっぱい出来ちまってね……! その片づけをしてから、〝家〟に帰るよ!!」
「…………あいわかった、でござる!! 今日は、ごちそうを作るから……遅くならないでね……!!」
「おうよ!! 内臓潰されて腹ペコになっちまったから、たくさん作っておいてな!!」
「そ、それ笑えないよ!?」
「笑えよ! せっかくの臨死ギャグなんだから!!」
そんな、いつもどおりの明るい会話をしながら――私はレオーニオと別れ、下りてきた梯子を上って鉄トンボに乗り込みます。
中の座席で待っていた女性団員や、〝日輪〟と〝月輪〟を抱いたまま深い眠りに就いていたぽこべぇと共に……疾風の如き速度で、イサリビへと舞い戻ったのでした。
……………………。
【 ―――――――――― !!!!】
黒鉄の亡骸と鈍色の汚油が浮かぶ海面に、絶えぬ怒号が鳴り響く。飛来していた外敵たちが一匹も残らず殲滅され、注がれる信心が微弱なものとなっても、災厄の炎夜は明けないままだった。
其れは、抱え続けた理不尽への憤怒と、無力な己への戒めを孕み――黒煙が立ち込める空を脅かしていた。
「あ、ああ……もう止めてくれ……!! もう、敵なんていねえべさ……!! なんで暴れたままなんだあ……!!」
「あんなの、神なんかじゃねえ……!! ただの〝ながきもの〟じゃねえか……!! 俺たち、ずっと……騙されてたんじゃねえか……!?」
「ふ、不義なことを言うでねえ!! あたしらをずっと守ってきてくれた御人に、なんてことを言うか!!」
「は、ハマコ……でも、でもよぉ……! どんなに祈っても、ミヤ様は牙を収めてくれねえじゃねえか……!!」
「神は祈ったら応えてくれんだろ……!? そんなら、あれは『神じゃねえ』ってことだあ……!!」
「それは、おめえらが心の底から安寧を祈ってねえからだ!! 心のどっかで、ミヤ様を化け物だと思っとんだろが!!」
「うっ……そ、そんなこと言われても……この世に、信じられる神さんなんて、もう……」
敬虔な竜禪の信徒が集まっているイサリビですらも、信心が揺らいでしまう絶望の灼け空に――きらり、と光の一滴が舞い降りた。
「……なんだ、アレは……!? 大粒の雨……いや、光……か……?」
「……なんか……その上に、鉄のトンボみたいな機械が飛んでねえか……? まさか……襲撃の新手じゃねえんか……!?」
「………………いや……! あれは…………ああッ……!! ヘビ様だよお……!あたしらが信じられる、神様のお帰りだあ……!!」
暗雲が立ち込めていた空を、まっすぐに切り裂きながら――浅葱色の羽織をはためかせる〝神の使い〟が、龍の怪物と化した守護者に向かって落ちていく。
身にまとったソウリョクが空気で擦れて、眩い輝きを放ちながら空を滑るその様は、まるで星のようだった。
「ヘビ様……ヘビちゃん……ッ……!! お願いだ……ミヤ様を救って……あたしらの〝今日〟を……守ってくれぇッ……!!」
自分も限界を迎えていたハマコの、振り絞るような祈りが宙に向かって放たれ、天から舞い降りる雫型の光に合流する。
その願いを受け取った流星は、暴れ狂う邪龍に突進し――一際強い光を放ち、爆発を引き起こした。
呪いと願いが衝突して起こった超新星爆発の如き閃光は、〝大いなる風〟の片鱗を見せながら光の嵐を巻き起こし、戦臭と黒煙が立ち込める悪しき空気を清めていく。
海水を虹色に汚染した油は鮮やかな光熱で蒸発し、空気を穢していた煤は、龍が天へと昇るような激しい旋風によって、濃紺の宙の彼方まで吹き飛ばされていった。
小一時間ほど続いた光の暴風が収まったとき――災厄が祓われ、陽光が差し込んだ宙には――人神の姿を取り戻した守護者の姿と、その身体に寄り添いながら眠る〝使い〟が、後光を受けながら漂い続けていた。
一週分のおやすみをいただきますので、次回は1月8日の更新予定です。