※この作品はR-18です。

朽ちぬ木の葉は色褪せず   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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第二九話 ――――――

「――さん……! ござるさんっ……! 起きて……!しっかりしてよぉ……!!」

 

 少しずつ浮上していく意識を揺り起こすかのように、優しい声がかけられて……いえ……がっくんがっくんと強い力が身体を揺さぶり、寝ぼけていた私を叩き起こしました。

 

 悪夢にうなされた夜のように目を見開き、げほげほと呼吸の仕方を思い出すと――私を覗き込んでいた余さんの顔が、安堵の一色に染まります。

 

「よ、よかったぁ……! 鉄砲水に呑まれて、こんな所まで流されてたなんて……心配したんだぞ……!」

 

 ぐしぐしと目元を拭っている余さん。その美しい装束の袖が泥で汚れており、私を必死に探してくれたことが伝わります。

 

「……余さん……ご心配、おかけしました……」

 

 私が身体を起こそうとすると、余さんがするりと手を回して、泥まみれの身体を抱くように助力してくれます。汚れを気にせず、ただ私のことだけを考えてくれる優しさに温められ……冷えていた身体の奥底で、託された使命感が少しずつ燃え上がっていくのを感じました。

 

 洞穴の滝口から地下水脈に流れる水は、私が心の中に潜る前に比べて、濁り具合と量を大幅に悪化させていました。雨がそれだけ長時間、同じ場所に振り続けた証左に心臓を掴まれながら……私は余さんの心配そうな目を見つめます。

 

「……余さん。とても危ないことですが、力を貸してもらえませんか?」

 

「えっ……? いや、えっと……こんな悪天候の中で……? しかも、その着古したボロッきれみたいな身体で……いったい、何をするつもりなんだ……!?」

 

「……〝じゃりゅう様〟を退治します。そのために、余さんには……この大山の〝龍穴〟を巡ってもらいたいのです」

 

「ッ……!? そ、そんなことを……うえっ!? ちょっ、なに急に脱いでるんだっ!? 余、ちょっとね、女の子同士っていうのは――うぉおお~っ!?」

 

 私は装束をはだけて半裸を晒し、戸惑う余さんの手を取って下腹部の紋に手を触れさせます。すると、余さんの魔力に触れた八武様の信心が輝き、光の文字となって余さんの身体に書き写されていきました。

 

「おお……! これが、噂の八武信仰とやらの力なのか……!」

 

「じゃりゅう様――神話上の存在と敵対するなんて無茶は、もちろんかざまが引き受けます。だから、余さんには……」

 

「……っ……この、余の角にビンビン感じるのが……龍穴の場所、なんだな……? 余の頭に流れ込んできた封印の術式と魔力の楔で、龍穴を塞ぎ……じゃりゅう様への力の供給を止める……それで、いいのか……?」

 

「……はい……それしか、道はありません。そうしなければ……じゃりゅう様は止められませんから……」

 

「…………ふう……。一応、聞いておくけど……これから、とんでもなく苦しい戦いに挑もうとしていることは、わかってるんだよね?」

 

 余さんは私の下腹に触れていた柔らかさを噛み締めるように、むにむにと空を揉んで、複雑な表情を浮かべていました。

 

 私はそれに間を置かずに頷き、装束を着直して、重たい身体に鞭を打って立ち上がります。今もなお、流水の勢いが増し続け――地底の滝壺は、蛇が這いずる音のような低い轟音を大きくさせていたのです。

 

「あの都は……雨への対策を取っているつもりだからこそ、雨季をまったく警戒していませんでした。避難をさせようとしても、よそ者の忠告など聞いてもらえないでしょう……このままでは、大勢の人が亡くなってしまいます……!」

 

「…………たしかに、迎え入れてもらったことは嬉しかったけど……ちょっと立ち寄っただけで、繋がりも薄い場所だぞ? 命を懸けるほどの義理があると思ってるの?」

 

「……義理なんてなかったとしても、助けられる命を見過ごすことはできません! それが、武士の――かざまの信念ですから!」

 

 強い力で胸を叩いた無鉄砲な女に対し……余さんは諦めたような微笑みを見せて、鼻を静かに笑わせます。

 

「……ふふふ……そう言うだろうと思ったよ! ござるさんな~、いっつも貧乏くじばっかり引こうとするんだもんな~、しようがねえな~♪」

 

「……すみません、振り回してしまって……」

 

「いいってことよ! それが楽しそうだったから、余はござるさんについていこうと思ったんだから! それに……余の身体をべろべろとねちっこく舐め回した代償、ちゃんと支払わせたいからな!」

 

「……はい! 余さんの瑞々しい身体を安売りさせるわけにはいきませんから! ふんだくってやりましょう!」

 

 私と余さんは、泥まみれの腕をがっしりと打ち合わせて、同じ目標のために異なる道を行きました。

 

 余さんが感知した、大山の中でも一際強い気配を放つ龍穴――それを塞いでいる巨大なものを目指して、私は雨が滑り落ちていく山道を駆け抜けました。

 

 ……………………。

 

 私は、蛇や龍に注がれる憎しみや畏怖を自らの力に変えて、雷雲が唸りを上げる豪雨の中を進みます。視界が悪い中で、大きな気配に導かれるようにしばらく往くと――。

 

【――――――……ッ……!!】

 

 ――どろろろろ、と地面の下を何者かが這い動いたような轟音が下腹に響きます。そして、じゅる、じゅる、と濁った呼吸音が聞こえ始め――山の頂点でとぐろを巻く、都市一つ分はあろうかと思えるほどに巨大な蛇の怪物が現れました。

 

「……っ……これが、じゃりゅう様……! 此の地に渦巻く、蛇や龍への恐怖が集まったものが……こんなにも、大きいなんて……!」

 

 一つの山のように大きな体躯を持つ大蛇を中心にし、無数に枝分かれした蛇頭を蔓のように咲かせる蛇の巨神。其の者は身体から伸びた太い支脈で、此の地全体から無尽蔵に力を吸い上げ、現在進行形で成長し続けていました。弾性の強い巨体からは大量のソウリョクが天に溢れて、空で暴れる龍雲の激しさを増していきます。

 

 ……その怪物は……マホラガ信仰を受け継いだ巫僧であり、竜禪に与する神の使いでもある私が、いつか立ち向かわなければいけなかったものでした。此の地のために、誰かを守るために――〝正しさではない理由〟を握って、竜禪の力を強めてきた私が果たすべき責任でもあったのです。

 

 土着信仰を根絶やしにしようとする毒島が各地に与えた畏怖の念を、武士として切り祓うために刀を構えます。人間にとっての米粒にも満たない大きさの私が、何千年もの歴史を有する神に挑むことになりますが……それでも、退くことはできませんでした。

 

【――――――ッ!!】

 

 睨みを利かせた最も大きな蛇頭が、舌を出してしゅうしゅうと息を漏らし、敵対者に向かって幾本もの支頭を向かわせます。その動きは素早いうえに不規則で、風雨を巻き込む勢いで私に迫りました。

 

「っ……!! よく、見ないと……!!」

 

 私はレオーニオの耳飾りにソウリョクを注いで、鞭のようにしなって縦横無尽に襲いかかる大蛇たちの攻撃をかわしていきます。濡れて滑りやすい地面を蛇腹が打ち付け、粘度の高い泥を激しく巻き上げました。

 

「うっ……!? あんなの、一撃でも喰らったら――うわぁっ……!?」

 

 山の斜面に広がる樹海を掻き分け、死角から忍び寄っていた丸太のように太い鞭撃をどうにか空中で避けます。ぬめぬめの表皮に手を突いて身体を滑らせ、次々に飛来する蛇頭に気を配りながら回避に専念しました。

 

 しばらく猛攻をしのいでいるうちに、大山を覆っていた〝力〟の気配が少しだけ弱まりました。怪物の中枢に注がれるソウリョクも減ったようで、永遠に続いていた成長が若干遅くなりました。

 

「……余さんの封印が進んでいるんだ……! でも、このままだと〝増えない〟だけで止まってしまう……どうにか、削っていかないと……!」

 

 私は再び死角から飛び込んできた蛇の支頭を避けて、その口を閉ざすように刃を貫かせました。白刃を閃かせて兜割りにし、次に向かってきていたさらなる支頭を幾本も切り落とします――が、身体の断面から派手に血を噴かせはするものの、ぞるぞると宙を蝕むような〝蛇の網〟や中核の巨体にはまったく変化がありませんでした。

 

「くっ……!! これじゃあ、海の水を茶碗で汲んでいるようなもの……キリがない……!!」

 

 私は襲い掛かる大蛇たちの頭をどうにか切り落としながら、〝蛇腹舞〟を駆使して木々の隙間を蹴飛ばして駆り――大木の枝に足裏を着けました。そして、襲い掛かった支頭が鎌首をもたげた瞬間に、その枝から飛び退くように離れます。

 

 ――ぐしゃあ、と。たったの一噛みで大木を潰し、瓦解させた鋭い咬撃が繰り出されました。それを避け――羽織を〝神鳥の羽〟に変えて、大木と枝葉の破片、そして水しぶきから己を守り、止まらない攻撃の手から逃れ続けます。

 

(余さんの封印は着々と進んでいるみたい……でも、肝心の私が……まったくじゃりゅう様の力を削れていない……! このままでは、都が……!)

 

 雨脚はさらに強まり、地面から膝上あたりまでが白くしぶいている豪雨の中で、焦りを募らせる私は必死に戦い続けました。

 

 しかし……切り落とした蛇の頭がそこら中に山積し、豪雨にも流されないほどの血で辺りを染め上げたとき――心身の疲労が限界に達し、一瞬の隙を見せてしまいました。

 

「っ――しまっ――うわぁあああああああっ!?」

 

 呼吸を整えようとしていた私の横っ腹を蛇鞭が叩き上げ、浮かせた身体を受け止めるように、大きな蛇頭が丸呑みにしました。

 

『ぐ、がっ……!! い、たぁっ……それなら、内側から――うぎゅううっ……!!』

 

 ぶよぶよとした肉に包まれた私は抵抗しましたが……めりめりと、肉を潰して骨を軋ませる圧力を全身に加えられ、呼吸すらできないほどに押し潰されました。

 

『ぐう……ぁ、あっ……!! なんで……力が、抜けて…………う、ぅ…………!』

 

 食事が進んでいるのか、真っ暗闇の中で、ずる、ずると粘液が滴る肉壁の奥まで引きずり込まれていきます。次第に、粘液に浸かった私の身体から、体力とソウリョクが吸い出されていき……ついに、刀を握ることも叶わなくなりました。

 

『う…………ぅ…………! こんな……へびに、食べられて…………し、ぬ……なんて、嫌…………あ……ぁああっ……!』

 

 常人なら骨を粉々に砕かれるほどの力で圧迫された私の身体から、空気が押し出されていきます。身体をごりごりと潰しながら蠕動する肉壁に力を搾り取られ、搾りかすのようになった私は、ずるずると体内の奥地まで送り込まれました。

 

 どくん、どくん、と全身を震わせる脈動が強まっている空洞の中に辿り着き、私はようやく呼吸を許されました。そして、両手足を生まれたての子鹿のように震わせて、どうにか逃げようとしているうちに……じゅるりと伸びてきた触手に吊られ、四肢を大の字に広げられた状態で、ぶ厚い肉壁に埋め込まれてしまいました。

 

『ふぐ、ぅ……うご、ぉおおっ……!! ぐぉ……おぼ、ぉっ……!!♡』

 

 開かれた股や衣服の内側にはおびただしい数の触手が入り込み、口内には太い触手が突き込まれます。分泌された臭い粘液を塗りたくって身体をさらに脱力させ、生体活動のみを許可した女体を辱めるように、ずり、ずりと肉が蠢き始めました。

 

『んぐぽっ……ふぎゅっ、んぉおっ……!!♡ ぐぽっ……んぉおおおおっ……!!♡』

 

 マルテーサによって快感を教え込まれた陰核の包皮が、ぷりん、と剥かれて触手たちに舐め回されます。花弁から漏れた小水混じりの愛液を啜られ、陰唇をめくるように愛撫され……乳首に噛みついた触手によって乳房の内側まで力を吸引されて……私は、発情した獣のように呻き声を上げるばかりでした。

 

(い、やぁっ……!!い、やだっ……やだ、よぉっ……!! こんなのっ……こんな、のぉっ……!!♡ あっ……あーっ……!!♡ こんな、ひどいこと、されてるのにっ……力、搾り取られてるのにっ……かざ……ま、ぁっ……あぁああ~っ……!♡)

 

 絶頂に近づけられた私が身をよじると、それをおねだりのように受け取った触手たちがさらに私を責め立てます。身体の内側にまで肉棒が粘液を擦り込み、感覚を麻痺させて――びくん、びくん、と痙攣する私の身体を限界まで強張らせ、何度も強制的に絶頂させました。

 

『ふほーっ……ふほーっ……!!♡ ふごぉっ……んほっ♡ぉ゛おおっ……!!♡ ほぉっ……ほぉっ……♡ ほへぇっ……へぇえっ……♡』

 

(やばい、やばい、やばいっ……!!♡ このままじゃ……ホントに、搾り取られて、殺されるっ……♡ だ、誰かっ……助けてっ……!! 力を、貸して――ウェニキスッ……!!)

 

 追い詰められた私の、心の底から湧き出た願いが最後の力を振り絞り――胎内に残っていた、微量のソウリョクを湧き上がらせます。そして、そのわずかな光は、懐に入れていた小さな星型の金属板に注がれ――蛇のはらの内側を明るく照らすほどの輝きと同化しました。

 

 熱い力を持った光が蛇体の粘膜を驚かせ、私の拘束が緩まります。その隙に、喉奥まで突き込まれていた触手を無理矢理に吐き戻します。

 

「うぐっ……ぐえっ……ぶ、はぁっ……!! ぜ、ぇっ……はぁっ……はぁっ……! な、に……この、光……!?」

 

 ……その時はまったく理解していませんでしたが……私が力を吸われていた場所はじゃりゅう様の中枢に当たる臓器で、龍穴の真上に位置していたのでしょう。そして、蛇と龍の力を持っていた私は……大蛇の怪物にとっては格好の餌食であると同時に、逆にその身体へ力を通わせることもできたのです。

 

 夜空からこぼれ落ちた星のような光は小さな塊となって顕現し、私を捕らえていた肉壁を〝刃〟で切ったかのように引き千切ります。その温かくて、力強くて……もう、懐かしさを感じるほどに離れてしまっていたはずの親愛の気配は……脱力してぼろぼろになった私に、確かな勇気を与えてくれました。

 

「…………私、やっぱり……一人じゃ、何もできなかった……。だから……弱い私と、一緒に戦ってほしいな――――ぽこべぇ」

 

 私と向き合った光の塊は、少しずつその輝きを収めて、見慣れた姿に変わっていきます。茶色い毛並み、それに似合う葉色の襟巻、両腕で抱くように持っていた〝日輪〟と〝月輪〟――だけでなく、白い和装や鋼の籠手、動きやすそうな具足を身に着けてより心強い姿になったお供が、私の隣に帰ってきてくれました。

 

 以前よりも凛々しい――ように見えるような、そうでもないような、とにかく安心できるほんわか顔。そんなぽこべぇが、ぽん、とお腹?胸?を叩いて、私に微笑みかけてくれました。

 

 私たちは、どちらからともなく両手を合わせて拝み合い――ソウリョクで心身を繋げ合って、離れていた時間を埋めるように想いを語らせ合い――離れていた信心を、一つに重ねます。

 

 ……そのとき……ぽこべぇからは、『全てを利用してでも主人を守る』という、絶対にぶれない信心の気配を感じました。

 

 ……………………。

 

【――――グギャアアアアアアアアアッ!!!!】

 

 限界量の雨が降りしきり、龍の咆哮に似た雷が響く中で――じゃりゅう様が突然、悲鳴のような大声を発します。そして、中枢を司っていた巨体の腹部には無数の切り傷が浮かび上がって膨れ――ぱあん!と風船が破裂するようにおびただしい量の光を放出しました。

 

 その裂かれた腹の隙間から、体内でじゃりゅう様の力を吸収して回復した私と、その背を守るもう一つの影が姿を現し――雷雲の隙間から差し込んだ、一筋の陽光に照らされます。

 

 光のような純白に染まった装束に身を包み、無貌の頭を二面で覆った四臂の剣客。憤怒を示していたはずの赤い面に星色の祝福が新たに宿り、四本の腕は白銀の甲冑に覆われ――強く握った日輪と月輪の輝きに、二度と折れぬ剛力の意思を示す。

 

 律神には及ばぬ風真いろはに〝足りないもの〟を補ってくれる、信心と忠誠の結晶――ぽこべぇの変身した〝暁〟。そんな彼が、さらなる力を得て再臨してくれました。

 

 宙を浮く身体の背には、光で形成された六翼の刃が携えられており、朝焼けを思わせる東雲色の焔は明星の輝きを孕むように変質していました。

 

 

 

 第二九話 暁の空に明星は輝く

 

 

 

 ――其の名は〝明星・暁〟。暁の空にて儚き月を見送る、明けの明星によって魅せられた奇跡の煌めきでした。

 

【――――ッ!!】

 

 中枢に深手を負い、しゅるしゅると苦痛の呻き声を上げた異形が、無数の蛇鞭を振るいます。その猛打には、これまで見せていた〝餌への遠慮〟を一切なくした敵意が満ちていました。

 

 ――しかし――ずだん!と。暁が振り下ろした断頭台のような日輪の一閃が大量の蛇頭を切り落とし、月輪による薙ぎ払いが私への一切の接近を拒みます。

 

「……暁。これも、使って」

 

 雲の切れ間から降りる光芒の中で――私は自分でも刀を握り直しながら、白銀の腕甲に覆われた暁の剛腕に見合うだけの大太刀をソウリョクで作り上げます。心身で繋がった四臂に剣圧を孕んだ威風を握らせ――計五本の刀を、自分の力として構えました。

 

「行こう、暁ッ――はぁああああああああああッ!!」

 

 溢れるソウリョクを身にまとった私たちは、襲い掛かる丸太のような無数の大蛇をよどみのない剣技で次々に乱れ斬り、中枢に向けて駆け抜けます。私が捌ききれなかった蛇頭の突撃は暁の力強い剣風が遮り、私の死角から飛び込んできた蛇の咬撃は背に浮かぶ光翼の一枚が弾くようにいなし、さらにもう一枚が上顎と下顎を縫い付けるように貫きました。

 

【――クォ――カ、シャアーッ!!】

 

 核となる巨蛇の頭が顎を外し、めりめりと嫌な音を立てて――私と暁どころか、ここら一帯を抉ろうとする大口が開かれました。闇が広がる口腔に膨大なソウリョクが流れて収束し、巻き込んだ石を融かすほどの超高温の力が球体を形成し――猛進する私たちに向けて、光線を一直線に放出しました。

 

「ッ……!? 翼を使って防いでッ!」

 

 私は一度立ち止まり、刀を両手で構えます。その間に、暁が手を前方に翳して六翼を操り――光の薄羽を高速回転させて、極太の光線を分散させて防御しました。

 

「そのまま、一気に――でッ――やぁああああああああッ!!」

 

 暁が時間を稼いでいるあいだに、私は魔祓いの勾玉を装着した宝刀に大量のソウリョクを注ぎ込んで、巨大な光刃を形成します。そして、ぎゃりぎゃりと光の力同士が摩擦を起こしている境界を切っ先で貫き、衝撃波を飛ばして、光線の出処である巨蛇の頭を大きく仰け反らせました。暴れた光線が暗雲を縦に切り裂き、閉ざされていた未来を拓かせます。

 

「――今だっ!! 一緒に、行くでござるよ!!」

 

 あれだけ絶望的で防戦一方だった神の如き相手に対し、その状況を軽々と覆すかのような圧倒的な力。私がよく知っているような、白くも、黒くも見える温かい星の光が――一柱の神が起こした奇跡のような力が、私の跳躍とともに空へと舞い上がりました。

 

 上向いた巨蛇の懐に飛び込み――湧き出るソウリョクの嵐を渦巻かせ、腹部が裂かれた中枢を捉えます。

 

「――かざまの心に応えて――暁ッ!!」

 

 私は刀の柄を強く握り、ソウリョクを刃に込めて――巨体を相手に身体をしならせ、白刃を踊らせるように斬撃を連続で加えます。刃からこぼれたソウリョクの欠片が、地面から舞い上がった粉雪のように周囲を漂い――刃の残光に惹かれるように蛇の身体に流れ込んでいきます。

 

 私の流れるような動きに合わせて、暁の四本の腕が強力に、複雑に剣閃を組み込み――刃の残光で網目を作り、血飛沫を上げながら巨体の肉を切り飛ばしました。同時に、蛇の巨体に突き刺さった無数のソウリョクの破片を繋ぎ合わせて新たな斬撃を生み、内側からも深い傷を負わせていきます。

 

 

 

「――『五武・流雪』ッ!!」

 

 

 

 ――時が止まり、剣風だけが吹き荒れる色彩の反転した世界で――五本の刃が、五芒星を切り刻みます。その一刻で、世界が時を取り戻したように風を巻き起こし、巨体に避けられない破滅の一撃を叩き込みました。

 

【――ぎ、しゃ……あ……ッ!! く、かか……かかかか……カカカカカカカカ……!!】

 

 じゃりゅう様と恐れおののかれていた存在は、腹の内側を抉るように爆散させられ、神性にも影響を及ぼす深手を負っても――己の不滅を信じきっているかのように、人の如き笑声を漏らしていました。龍穴が閉ざされてもなお、まだ大山に残っている大量の力を吸い上げて再起しようとしていたのです。

 

 暁は、じゃりゅう様が山中に張り巡らせている太い支脈に風真家の刀を突き立て――そこから噴き出た畏怖のソウリョクを操り、下腕を広げて周辺に集めました。そして、日輪と月輪を握る腕を合わせて天に掲げ――光を吸い上げて、渦を巻かせる輝きの巨刃を大山全土に翳します。

 

「……この負の感情が滞留した力もまた、間接的に竜禪が生んだもの……! 私たちは、自分の選択の結果から目を背けず……背負い続けていくでござるよ……!」

 

 その覚悟に呼応するように、背後の暁が私と同じように刀を腰で構えます。ちり、ちり、と地面を熱光が焼き焦がす音を聞きながら――抜き身の刀で居合を取るように、心を鎮めて――。

 

 

 

「――『一武・真風』」

 

 

 

 ――ひと息の刹那に、大地を割るほどの大刃を振り抜き――暗転した世界に刃が滑り、残光が一閃を結びます。光が走り、影が追いつく――有り得ない虚像と避け得ない現実が重なり――大山に絡みついていた巨神の身体が、一刀両断されました。

 

【――――――カッ……ッ……――――ッ――――――!!】

 

 二つの大きな力が、光と影のようにこすれて、混ざり合って……対消滅をするように、眩い光の粒子と化して天に昇っていきます。雨粒一つひとつを呑み込むような力の結晶が雷雲に融け込み、降り続いていた雨がようやく止みました。

 

 山の頂点に登り、麓にある都をしばらく見守ってから無事を確認したとき――大山に力を漏出させていた小さな龍穴が全て閉ざされ、神として崇められていた人喰いの怪物に巣食われていた土地が解放されたことを悟りました。

 

 私と暁は、大蛇がとぐろを巻いていた場所にソウリョクで作った刀を突き立て、ガルダ信仰の力で封印を施します。

 

「…………これで……終わり、なんだね…………よかった……」

 

 脱力した私がへたりこみ、変身を解いたぽこべぇが駆け寄ってきてくれたとき――空に立ち込めていたはずの暗雲が、幻だったかのように霧消してしまいました。そして、この土地が本来あるべきだった姿を取り戻します。

 

 お天道様の祝福のような陽光によって大山全体が照らされ、濡れた木々の雫で光が乱反射し――なんと、辺り一帯が黄金色に輝きだしたのです。

 

「おおーい!ござるさーん!! 無事かー!? じゃりゅう様にいかがわしいことされてないかー!?」

 

「は、はは……余さんって、なんでそういうのに鋭いんだろう……? 雨でぐしょ濡れになっていてよかったよ……」

 

 全ての終わりを告げるかのような、温かい黄金の輝きに包まれた私は……こちらに向かって走ってくる、泥だらけの余さんに手を上げて応えます。

 

 そうして、私たちは……第六の信仰であるガルダ信仰を再興させながら、竜禪への不信が生んだ怪物を打ち倒し――そして、〝黄葉の神都〟に住む人たちを守り抜くことができたのでした。

 

 




次回の更新は3月18日です。
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