※この作品はR-18です。

朽ちぬ木の葉は色褪せず   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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第三四話 いろはの〝命〟

「クク……アハハハハハッ!!♡ イキがイイ反り具合じゃない!!こういうガチガチの硬い棒ほど、ぐっちゃぐちゃに握り潰したくなるんだワぁ!!」

 

「ッ……!! そう易々と、潰されるかっ……!!」

 

 鍔迫り合いに震えていた東西の刀剣が、鐘を鳴らしたように鋭い音を立てながらお互いを退ける。それと同時に、黒い靄に浸かる海の死霊と明星の光を孕む暁が、互いに刃を弾いて雨のような火花を散らした。

 

 光の華が咲き乱れる隙間を掻い潜り、いろはが隙を見せずに踏み込んで斬撃を浴びせていく。床板を踏み鳴らす前進には、もう未熟な遠慮は存在しない――だが、マルテーサの曲刀がその太刀筋に合わせて衝撃を受け流し、金物同士が擦れてけたたましい音を鳴り響かせる。

 

「あんまり、ズケズケとッ……!! 女の懐に、入り込むんじゃ……ない、わよ……ッ……!!」

 

 髪束と外套を翻したマルテーサが、刀を振り上げたいろはの鳩尾に鋭い蹴りを叩き込む。硬いブーツが柔肌に食い込み、ミシリ、と鈍い音を立てていろはの顔を苦痛に歪めた。

 

「くっ――がっ……!? ぐぶっ……うっ……!」

 

 蹴り飛ばされた武士は、自ら後ろに飛び退いて衝撃を和らげる。それでも勢いは殺しきれず、〝蛇腹舞〟を使って何度も後方に跳ねて体勢を保ち、甲板に伏せる未来を回避した。

 

 死霊が大きく曲刀を振り抜き、交差させた四本の刃で攻撃を受け止めた暁を轟音とともに弾き飛ばす。

 

 星色の焔をまとう暁は、いろはの背後に戻って刀を構え直し――六つの翼刃を展開して光の加護をまとわせ、主の防御に助力する。

 

「あ? タチ持ってるクセにネコとか!シャバい真似してんじゃねーよ!!」

 

『前戯でダラダラと長引かせるだけなんて、ヘタクソの証左ですわねェ!』

 

 マルテーサと死霊が動きを合わせて銃を構え、銃口から火を噴かせて弾丸を連続で射出する。大径の砲弾は風を巻き込んで暁の防御を剥がし、小径の穿孔が鋭く潜り込んでいろはの刀に悲鳴を上げさせる。

 

「ぐっ……うっ……! 向こうには、あの銃がある……! 距離を詰めないと――暁ッ!!」

 

 いろはの掛け声に合わせて暁の光翼が輝きを増して揺らめき――宙へ跳び出した少女を守るように六花が円を描く。なおも苛烈に放たれる弾丸の雨風を阻みながら刃翼が展開し、直線的な光の軌跡を刻みながら黒い靄に突撃する――曲刀を構えていた死霊の骨体を割るように、骨を砕きながら斬り裂いていった。

 

『おほーっ!♡蝿のような羽が鬱陶しいですわねぇっ……!〝五月蝿い〟とはよく言ったものだワ!』

 

「うぐっ……!?」

 

 いろはの子宮にどんよりと響く不快な声が周囲に轟き、骨身を斬り裂く光刃が小蝿のように振り払われる。その隙に暁が〝日輪〟と〝月輪〟を振り下ろして死霊の両腕を叩き割り――下腕の二刀を腐った肉に突き立て、開くように引き裂き、大量の黒血を噴出させた。

 

『イギャあああああああッ!? お、オオ……!乙女のカラダを、何だと思ってるんですのぉっ……!? この痛みィ……高くつきますわよ……!!』

 

「いっ……たぁ……!! あたしの、ココロにっ……!ヘンなモン……ブッ刺すんじゃないわよ……!! 魔力……無駄遣い、できないんだから……!」

 

 マルテーサは胸元を黒い手で押さえて、乳房を鷲掴みにして自らの生命力を絞り出す。自分の身体と直結している精神体に魔力を注ぎ、傷を修復し始めた。

 

「余力がないのは――こっちも、同じでござるッ!!」

 

「っ……!!また、性懲りもなくっ……!わざわざ〝痛いの〟貰いに来たっての?ドМ、かよぉッ!!」

 

 巨大な死霊の守護が剥がれた隙に、いろはが風を蹴って懐に潜り込む。刀を連続で振り抜き、マルテーサの曲刀を弾きながら攻勢を強め――一瞬の隙に空いた胴を、ソウリョクの刃で斬り抜けた。

 

「がっ……ああああッ……!? クッソぉっ……!いっ――てぇえなァ……ッ……!!」

 

 武闘派ではないことを自称していたマルテーサが、負わされた深手によろめきながら宿敵を睨みつける。向けられる浅葱色の瞳に宿っていた憐れみを嫌い、脳を巡っていた血を沸騰させて、力任せに刀剣を振り回した。

 

「う、わっ……!? マルテーサっ……其方はっ……!! もう、こんなこと……続けなくても……!!」

 

「うるさい、うるさいうるさいッ!黙れ黙れ黙れェええええッ!! あたしは負けらんないのよ……死ねないのよ……こんなとこで、死にたくないのよ……!!」

 

「だから、かざまは其方の命を――きゃあっ!?」

 

 マルテーサの不格好な反撃を、刀の腹で受けたいろはが薙ぎ飛ばされる。体勢が崩れたところに弾丸が何発も撃ち込まれ、いろはのしなやかな肉を抉り、血肉を飛ばしながら貫通する。

 

「ぎっ……あっ……ぁああああああああっ……!! まる……てーさ……ッ……!!」

 

「ひ、ヒヒっ……ヒヒハハハッ……!!♡ 硬いのにブチ抜かれるのって痛いでしょ?あたしのことが憎いでしょ……!?♡ お前をレ×プしてさぁ、ドMが気持ちよくなれるヤツまでぶっ込んだ、このあたしがァ……!殺したいほどに、ギンギンにさァ!!」

 

「ッ……!! 其方たちは〝命〟を重んじる教義を守ってきたのでしょう……!? どうして、そんなことが言えるのですか……!?」

 

「……ハッ……!この期に及んで、まだなんもわかってねェ馬鹿がよぉッ!!」

 

『ゲラゲラゲラゲラッ! 生きとし生ける者は、〝目的〟のために惜しみなく〝命〟を使うときにこそ、存在価値を最も輝かせるものですわ――こんな、風にぃいいァああああああっ!!』

 

 死霊は腐った黒血を噴き散らしながら暁に抱き締め、明星色の着物を穢して――血染めの咆哮を轟かせ、武力の化身を圧力で強制的に怯ませる。

 

 調子よく骨を斬り砕いていた刃翼を、吸着した骨同士で圧殺し――分割されていたぽこべぇの意識をゴリゴリとすり潰していく。さらに、刀を握る筋骨隆々の腕に骸骨の牙で噛みついて――ブヂリ……!と肉を大きく千切りながら喰らい、咀嚼し……その腕を構成していた純度の高いソウリョクを吸収した。

 

「キャハッ……アハハハハハッ!♡ お前らを殺そうとしている今!あたしはァ!!最高にッ――『生きている』のよォっ!!」

 

 マルテーサは全身と船体を激しく震わせ、悪魔による侵食をぞぶぞぶと肩や腿まで進めさせ、溢れ出た覇気を渦巻かせる。そして、死霊と自分の右腕をボロボロと瓦解させて魔力に還元し、船の銃火器の稼働率を最大限まで引き上げて、念動力で浮かせた曲刀を振り抜いた。

 

「う、がっ……ぁああああああっ……!!」

 

 二の腕と脚に空けられた弾痕から大量の血を流し、甲板を血みどろに汚しながら、痛めつけられたいろはの身体が転がっていく。拘束されながら腕を何度も喰い千切られ、四腕のあちこちから骨が大きく露出した状態で投げ飛ばされた暁と共に這いつくばり……苦痛に呻くことしかできなかった。

 

「はぁ……はぁっ……い、たいっ……! でも……ここで、負けるわけには……!」

 

「おらおらおらァっ!!イけッ!!イけぇッ!!♡ さっさと、派手にっ……赤い潮を噴きながら、イッちゃえよぉ!!バーカ!!バーカっ!バァアアアアアアアカっ!!」

 

 マルテーサと死霊が、激情に乱れる手で銃を構えて射撃の波状攻撃を仕掛ける。止まない横殴りの雨がいろはと暁の肉体を続けざまに抉り、抉られた肉の断面から血液を華のように咲かせ続けた。

 

「ぎっ……いっ……! ぜ、ぇっ……ぜ、ぇっ……! ど、うにか……し……ない、とっ……あっ……が、あああっ……!!」

 

 硬い金属の塊に柔肉を焼き潰され、鋭い痛みに呼吸を乱され……失血によって体温を奪われながらも踏ん張ろうとするいろは。その隣では……剥き出しの骨を砕かれ、臓物に弾丸を詰め込まれた激痛でぽこべぇの精神力が大きく削られ、暁を形成していた力が途切れて霧消を始めてしまった。

 

「あ、ぁあ…………う、うっ……! 暁……ぽこ、べぇ……! だめ……まだ、終わってない……!マルテーサを……助けないと……!!」

 

「そうそう、助けを――助ける……あたしを、助けるゥ?ハァ~ッ!? そんなダッセェ負け犬姿を晒しといて、まだそんなこと言うわけぇ!? ここまできたら、呆れを通り越して驚きまで行くワぁ! アハハハハッ――っ……ん、ぐぅううっ……おえええッ……!!」

 

 勝ち誇っていたはずの余裕が崩れ、突然苦痛に顔を歪めたマルテーサ。口から大量の血反吐が溢れ、黒く固まっていた腕の付け根が朽ちていき……剥き出しになった肉から、噴水のように血が溢れ始めた。

 

『……もう、永くは保ちそうにありませんわねェ……。リュウオウを潰すために、左腕ぐらいは残しておかないとですしィ……ゲラ……ゲラゲラ……!』

 

「げ、ほっ……! わかってる、わよ……!あの、臭そうな死に体を、貪って……ソウリョクを、啜るしかないでしょ……」

 

 マルテーサは苦悶に鼻息を荒げながら、覚束ない足取りで血まみれのいろはに近づいていく。

 

 迫る明確な危険に脈拍を強めるいろはだったが……もう、全身に送り届ける血すらも足りなかった。激しかった痛みすらも次第に薄れていき、視界が霞んでいく……遠のく意識のなかで、光の粒子に変わっていく暁に手を伸ばす。

 

「……ぽこべぇ……! ま、だ…………かざま、たちは…………まけ、られない……!」

 

 その時――いろはの懐に収まっていた小さな星型の金属板がわずかに光を散らし、消えゆこうとする暁の身体と同化する。

 

 

 

【……ふぅ……ねえ、ぽこちん……。ウェニの命なら、こうして、いくらでも分けてあげるから……マルちゃんを、助けてあげてほしいな】

 

 

 

【ふふ……これは、優しさなんかじゃなくってさ……。頑張ってきた子にご褒美をあげるのも、ちゃんとしたマテルのお仕事だから】

 

 

 

【あんなに真面目な子だし、たくさん苦労もしたはずだから……少しだけでも、報わせてあげたいんだ。だから、お願いね……ウェニを支えてくれた、立派な武士さん】

 

 

 

 心身で深く、何度も繋がった少女の祈りが――千切られたぽこべぇの意識を引き合わせ、朽ちかけた暁の全身を駆け巡る。限界まで擦り切れた心を強く持ち直し、面に宿った明星の輝きで周囲を照らし――霧消していた身体を再構成させていく。

 

『……オイオイ……冗談、ですわよね……? この、懐かしくて……春に触れる雪のように、温かい光は……!』

 

「おい、やめろよ、あたし……!そんなの、気づかなくてよかっただろ……!! 違う、違うちがう……!!これは、あの方の力なんかじゃ――ッ……!?」

 

 困惑する上級悪魔と思い出の残滓が動けずにいるなかで、傷を修復させていく暁の腕がいろはの懐をまさぐる。そして、瓢箪に入っていた神酒を主人に浴びせ掛けて、致命傷に近かった無数の弾痕を奇跡の光で埋め尽くした。

 

「……ん……うっ……! い、てて……ありがとう、暁ッ……!」

 

 まだ起き抜けのいろはが、重たい身体を起こしながら胎内のソウリョクを再燃させる。守護者との愛密な儀式で分け合った奇跡の力を暁に供給し、砕かれた刃翼を再生させ――消えかけていた宝刀を全ての手に握り直して、ふわり、と神々しい光翼を全て開花させて……空気を激震させる煌めきの波動を、世界に向けて走らせた。

 

『……ヒューっ……。こいつァ、もう……目を背けること、できませんわよ……!』

 

「……ろ、六対……十二枚の、翼……? る……ルスフルア……様……なんで……?」

 

 かつて、魔の異界を力だけで統べた権力者の威光が――何故か眼前で輝いている。驚愕、嫉妬、苛立ち、孤独、憤怒……マルテーサの名を与えられた悪魔は、目の前の事実に全ての感情を持て余して破裂させた。

 

「なによ……なんなのよぉ……!!レオたんも、ウェニちゃんも……なんであたしを裏切って、なんでお前の味方になるんだよォ……!?」

 

 マルテーサは、銃を握った手と無い腕で頭を抱えて振り乱す。怒りや嫉妬心が織り交ざって、ぐちゃぐちゃになった心が涙を押し出して、顔を悲哀に歪めていた。

 

「あたしだって……たくさん、気を使ってあげたじゃない……!お仕事もたくさん手伝ってあげたじゃない……!! なんで……なんでお前ばっかり……!なんでッ……なんでぇええええッ!?」

 

 マルテーサと死霊の腕が駄々をこねるように銃を振り回し、快癒したいろはの身体を銃身で叩き潰そうとする――が、暁は乱雑で軌道が読めない攻撃を見てから、束ねた光翼の剣盾で打撃を防ぎ、合わせた刃で銃弾を受け流して、襲い掛かる悉くを防ぎきる。

 

「ずるい!ずるい、ずるい……! あたしは怪我も治せないのに……力も使いきるしかないのに……! あたしは、ずっと、ひとりなのにっ――お前ばっかり……!ふざけんな……ふざけんなぁアアアアアアアアアアアアっ!!」

 

「くッ……!! まだ、こんな力がッ……!」 

 

 残った三つの手足すらも砂のように瓦解し始めた身体が、死力を尽くして暴れまわる。のたうつような死霊の振り払いが、武士たちの防御ごと弾き飛ばして身体を宙に浮かせた。

 

『ゲラゲラゲラゲラッ! 賢い神は、愚かな人に翼を与えなかったワ――天命ですわよ!回復する前に殺してあげるゥ!!』

 

「あたしは、何をしてでも死にたくない……!あの子たちが生きるために……あの子たちに、あたしが生かしてもらうためにっ――死にたくないのよぉッ!!」

 

 ぎらりと輝いた銃口が、空中に放り出されたいろはたちを捉える。さらに、船外へ向いていた銃器の全てが照準を重ねて、視界を埋め尽くす攻撃を予告した。

 

〝命〟を全うするために向けられた、〝命〟を奪う意思――その殺意を鏡にして、自分の胸に灯った想いがいろはの目を見開かせた。

 

「……それが、マルテーサの〝命〟なら……! かざまの〝命〟は――『〝救いたい〟と思った人を救う』んだッ!!」

 

 いろはが両手で握った〝力〟を支える根底から、勇気と希望が使命感と共に湧き上がった。強い想いは奔流となって輝きを生み、神の如き光を孕んで熱意を伝播させていく。

 

『わたくし「あたしが生きるために――ここで死ねェッ!!」』

 

 向けられた銃口の全てから大小さまざまな弾丸が射出され、いろはと暁を包囲する――その時、広がっていた大空を竜鱗の黒翼が覆い、血の雨を降らせながら――いくつもの真空刃が断頭台のように斬り落とされて弾丸が阻まれ、這い寄る死の気配を断ち切った。

 

「お屋形様ッ……!?」

 

『が、はっ……! おれのことは、いい……!今こそ……皆に、託された〝命〟を果たせ――風真ぁ!!』

 

「…………はいッ!!」

 

 いろはが弾丸の包囲網を切り抜け、ウェニキスの祝福で宙に雪華を咲かせる。氷の壁で受け身を取って風に乗り、レオーニオの授けた力でマルテーサの銃撃の軌道を見極め――アマネが鍛えた武具を投擲し、けたたましい金属音を鳴らして弾丸を散らした。

 

 襲い掛かった死霊の砲弾は暁が弾き、繋いだ信心に守られた武士の少女が両手に二刀を構える。そして、妖艶で可憐な鬼神との思い出からソウリョクを変質させ――接近せず、刹那に交差させた刃で空を斬る。

 

「ギャハッ――あははははッ!!苦し紛れにカッコつけたって、ただの見せかけ――うっ!痛っ……!? え……なに……!?」

 

 刮目したいろはと、驚愕したマルテーサを繋ぐ剣撃の道に――きらきらと、大粒の光が無数に舞っていた。それらは散った日輪の花びらのように瞬き、水面の月を斬る刃のように閃く。

 

「――『六武・繚花』」

 

 ソウリョクを全身に宿らせたいろはが空中で羽織を翻し、乱れ舞うように何度も剣風の嵐を巻き起こす。勾玉を輝かせる大振りの太刀筋から強風が逆巻き、輝きの花弁を桜のように吹雪かせて、マルテーサと死霊の身体から魔力を削ぎ落としていく。

 

「がっ……あっ……!ギャああああああああっ……!! やめ、ろっ……!こんなっ、あ、あっ……!!眩しいっ……鬱陶しいッ……いぎゃあああああッ!!」

 

 まばゆい花嵐を構成する煌めきの一つひとつが鋭い刃を持っており、片腕で身体を庇う悪魔を苦しげに呻かせた。

 

 ようやく生まれた隙の中で着地したいろはが、吹き抜ける一陣の風のように足音も少なく接近し、マルテーサの懐で腰を据えて刀を構える。

 

「ぎっ……イッ……!? 来るなッ……!あたしに、近寄るな――」

 

「――『二武・重牙』ッ!」

 

 マルテーサが振り抜こうとした腕を、白獅子の牙の如き剣撃が上下から同時に喰らう。付け根を挟むように断ち切った黒腕から銃がこぼれ落ち、反撃する手段が潰された。

 

「が、ああああああっ……!? ま、まだっ……まだよッ……!! あたしはァ……ッ……!!」

 

『そうですわ……!この程度で、諦められるほど……わたくしはッ……!!』

 

「――『五武・流雪』ィっ!!」

 

 いろはを銃床で殴り潰そうとした死霊の右目に、投げられた宝刀が突き刺さり――釘付けになった骨体を、暁といろはの刀が互い違いに乱れ斬る。

 

 剣閃によって舞い散った光の粒子が死霊の身体に注ぎ込まれていき――五太刀で結んだ五芒星から白き光が爆散して腐肉を刻み、骨を内側から破壊する――戒済の輝きが、悩める黒き靄を浄化してゆく。

 

『かッ――は……ァ……! わたくし、を……悪魔を……〝そっち〟に、導こう、だ……なんて……! やっぱり……あの、お方は……趣味が、悪い……ワ……――――』

 

 マルテーサの身体の大半を構成し、力の源となっていた悪魔の一面が――全てのしがらみから解放されて天上の世界へ招かれていった。

 

「………………ごめんね……キミたち……。あたし……本物みたいに……強く、なれなかった…………!」

 

 戦う力を喪失した麗女の黒脚も同じように霧消し、マルテーサの頭部と胴体だけが力なく甲板に倒れ込む――その生々しい肉の音により、船上の死闘は儚い終わりを告げたのであった。

 

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