――それは、ある日のことでした。祭壇で座禅を組んでいたお屋形様から〝奉納物〟を受け取り、私は配達の用意を整えました。
皆から供物を捧げられる立場の神様が、さらに誰かへ物を捧げるとは。最初は凄まじい違和感を覚えたものですが、お屋形様から聞かされていた長話――いえ、ありがたぁいお話から、その重要性は知らされていました。
彼の地にはかつて〝八武〟と呼ばれていた、お屋形様のような存在が全部で八つもあられたそうで。その時には失われてしまっていたものを忘れないために、イサリビ内の六カ所に祭壇が設けられていたのです。
私が御神体を帯刀しているヤシャ様のための祭壇は、イサリビの宮大工によって畳まれています。残る一カ所は、このお社自体なのだとか。
「イサリビに据えた祭壇は国の跡地に座すような〝本殿〟ではないが、他の〝七衆〟を思い返してやれる貴重な場だ。信仰される者にとってはかけがえのないものだ――頼んだぞ、風真」
「お任せあれ!」
「事ある時には――」
「――『おれを呼べ』、ですね! 委細承知でござる!」
「……ふふ。先の〝成人の儀〟から、いっそう頼もしくなったものだ」
私は成人として扱われるようになったこの頃から、〝武士らしさ〟を自覚することに努めるようになりました。特に何かが変わったわけではなかったのですが、何事もカタチから入るタイプなので、まずは口調や佇まいから〝武家の者〟らしく変えてみようとしたのです。
それが正しい言葉遣いだったのかはわかりませんが、たしか、こう……家の者や父上は「ござる」「ござらん」的な話し方をしていたと記憶しておりましたし……お屋形様も、特に何も言わずに見守ってくださっておりました。
――いや、『お屋形様あったけぇ』とか『ガチの中二病やん……』とか言わんでいいから! わかってるよ、そんなの……イタくない!年相応だったんだよ! 皆殿だって子供の頃はオトナぶったでしょ!?
……ごほん! そんな風に慎ましい胸を張ったおなごに対し、お屋形様はくつくつと笑って、私の背負い籠に六つの包みを入れてくれました。そして、残る二つのゆるい封を開けてお団子を取り出し……一つはご自身の口に入れ、最後の一つを私の口に咥えさせました。
「ヤシャへの供物だ。故郷を想いながら、今日という日を――守られてきた安寧への感謝を噛み締めるのだぞ」
「むぐ、むぐ……ふぁあい……! いっふぇひまぁふ……!」
もっちもっちと賜りものを食べつつ、私は籠を揺らしながら配達へ向かいました。空の雲に父上と母上、そしておばあ様の顔を思い浮かべた時――背後で大いなる風が巻き起こり、お屋形様が何処かへ飛んで行かれたことを察します。おそらく、国ではない何処かへ――はざまか国の跡地、海上へ向かわれたのでしょう。
祭壇への配達はイサリビ中を駆け巡る重労働で、とても時間がかかります。その途中でいくつもの村に顔を出し、民の暮らしの様子を確かめることも私の役目でした。
「おおい、ヘビっ子よお! 西瓜でも切ってやろうか!」
「かたじけないでござる!でも、今日は急がないとだから! また今度ごちそうしてね!」
「おうよお! お勤め、ご苦労さんだなあ!転ぶんでねえよお!」
「わ、わかってるよぉ! コロ爺も腰をお大事にね!」
『お屋形様のように空を飛べたら楽なのかなあ』と思いながらも、地に足を着けて往くこの〝地道〟の大切さを心から感じて――畑仕事に精を出していたコロ爺に手を振りながら、私は先を急ぎました。今日も今日とて、イサリビは平和です。
燦燦と地を照らすお日様に見守られながら、うっすらと潮を薫らせる風の中を走り抜けていきます。これも足腰を鍛え、心を磨く鍛錬なのだと信じ――あぜ道の土を巻き上げるように力強く、疲労や気怠さを滲ませないように凛々しく駆けていきました。
「ふう、ふう……! ハマのおばちゃん、こんにちは! これ、ミヤ様のおだんご!」
「あらまあ、ヘビちゃん! 精が出るねえ。いつもありがとねえ」
竜皇の祭壇――それぞれに正式な名前があったのですが、この頃の私は深く知りませんでした――に捧げる包みを手渡してから、私はハマのおばちゃんと一緒に祭壇に手を合わせました。
「……アスラ様。ミヤ様の正義に……我らの安寧に、力添えを……なにとぞ……」
真摯に祈りを捧げるおばちゃんの呟きに耳を傾けながら、私も真剣に祈りました。お屋形様に教わったとおり――『祈るべき内容を知らずとも、その対象を信じ、心の底から向き合うこと』を意識して。
祈りを捧げ終えた後、おばちゃんは私をおうちに招いて、水出しのお茶を振る舞ってくれました。ひんやりと冷たい、気持ちよさを覚えるほどのもてなしを受けていると、おばちゃんは笑いながら口を開きました。
「今日も平和だねえ」
「そうだねぇ。でも、突然どうしたの?」
「いんや。ありがたいことだからねえ、まあ、いつまでも続いてほしいって、思っただけさね」
「……続くよ。だって、イサリビにはお屋形様が居るからね!」
……彼の地には、お屋形様への根拠のない信頼ばかりがありました。無責任で、身勝手で……押しつけがましい想いだったかもしれません。
しかし、〝それ〟こそが長らくの安寧を実現させていましたし、何よりも、お屋形様が切に望まれていたことでした。その不安定で目に見えないけれど、確かに存在している〝繋がり〟こそが――此処に望まれた今日の礎だったのです。
交流を通じて、お屋形様への信奉を保つこと。それも、私に与えられた大事な役目の一つでした。
……あの頃の私は、本当に神の〝使い〟だったのです。だからこそ……私は…………。
「うっふっふ。それもそうだねえ。ヘビちゃんも居てくれるもんねえ」
「わ、私にそこまで期待されても困るけど……何分、修行中の身なもので……!」
「おや、おや。イサリビに来てから随分大きくなったけんども、まだまだわっぱのままだねえ」
「うぐぐ……! しょ、精進するでござる……!」
「うふふ。口だけは武士らしいねえ。その調子でねえ、ミヤ様の教えをたあんと受けて育っていきなあ」
「……うん!」
おばちゃんとの和やかな時を過ごして、私は再び祭壇巡りの行に出ました。その晴れ晴れとした爽やかな道中では、『お屋形様は何をしてるのかなぁ』だとか、『どうせ今日もお土産は忘れるんだろうなぁ』だとか、他愛のないことばかりを考えていました。
それぐらいに、イサリビでは私たちの〝今日〟が保たれていたのですが……四つ目の祭壇を訪れたとき、まだ明るいお日様の下で胸に翳りを感じました。
そこは、一年前に管理者だった老人が亡くなり、その家族もイサリビを離れてしまった祭壇でした。かつてはぴかぴかに磨かれていた石造りには枝葉や蜘蛛の巣がこびりつき、すっかり荒れ果てていました。
「……少し前に、お掃除したばかりなのに……」
事前に聞いていた話では、竜皇であるお屋形様が他の信仰に直接関わることは許されないのだそうで。祭壇のお手入れは、イサリビに住む人間や私のような使いに任せることしかできなかったようです。
私は祭壇の汚れを掃いながら、そのちっぽけでまるで神々しさを醸し出さない〝物〟を見下ろすと……言いようもない虚しさと、胸を搔き乱すようなざわめきを感じました。
この祭壇だけが特別ということはなく、他にも管理されていないものはいくつもありました。けれど、私にとっては……信心の栄枯を知るこの祭壇は、特別なものでした。
信じる人間が居なくなれば、神は奉られなくなり、忘れられていく――それこそ、あっという間に信仰が廃れてしまうことはよくわかりました。
あまり言いたくはありませんが……『信仰を失くした神の末路』を想起させるには、十分すぎる虚しさがそこに満ちていたのです。
――民に焼かれた、自分の故郷のように――いつか、竜禪やイサリビの暮らしも、このように失われてしまうのではないか、と……。
「…………何を、世迷言を……! これでは武士の名折れ……もっと心を鍛えねば……! 強く……強く、なるでござるよ……!」
私はそんな風に強がって、いつもの倍以上の時間をかけて祭壇を掃除し、過去以上に綺麗になるように磨き上げました。もう、ぴっかぴかになるまで――刻まれていた日輪の花の模様が艶めくまで磨きました。
その行為に意味があったのかは、正直に言ってわかりませんでしたが……『意味がある』と自分が納得できるぐらいに、とにかく全力を尽くしたかったのです。
……………………。
それから、私は残っていた祭壇全てにお団子を捧げました。任務を終えた時には日が少しずつ山側へと降り始めており、そろそろお社に帰らなければ夕餉の支度に遅れが出てしまうような頃合いでした。
最後に訪れた無人の祭壇の近くの日陰で、冷たい井戸の水を飲んで一服をしていると……何処かから、ぱん、ぱん、と柏手を繰り返すような音が聞こえてきました。
いつぞやのように、お屋形様が海上を守っておられるのかと思いましたが、どうにも調子が違いました。さらに、ここいらでは人の通りも少なかったはずなのに……その音には男衆の呻き声や、女子の悲鳴のように切れた声が混ざっていたのです。
「……もしや……おなごに、狼藉を働いているのでは……!?」
私は緊張を呑み、刀に手を掛けながら慎重に……それでいて、できるだけ早く歩を進めました。男の人はまだ怖いままでしたが、武士として、その所業を無視することはできなかったのです。
歩を進めていくと、次第に声が大きく聞こえるようになりました。導かれるように辿り着いた場所――はざまの地とイサリビの境界線となる〝ミヤ様の護符陣〟のすぐ近くでは、ぱつぱつと汁気に満ちた肉を打つような音すら耳まで届きました。
私は木陰に隠れて息を殺し、様子を探りました。数人の男が女を取り囲み、弄ぶようにその花を散らしているのかと思い込んでいたのですが――。
「あ、あああっ!ウェニキスちゃん、ダメだあっ!こんなの、すぐに果てちまうよお!」
「あっ、あ、ぁんっ……♡ すごぉいっ……♡くっさい蛮人ペニスが、ウェニのナカで暴れてぇっ……こんなに、深くっ……ぅうんっ……♡」
「……なっ……!?」
――まったくの〝逆〟でした。甘い声を漏らす一人の女が男に跨り、性器を露出している男たちを侍らせ、快楽で手籠めにしていたのです。
白を基調にし、赤い差し色と金糸の装飾を加えてある、つるんとした印象の洋服――今で言う〝ドスケベ魔改造シスター服〟っぽい感じだったと思います――に身をまとった若い女性が、雪のような白髪を揺らして、男の腹上で踊っていました。
その衣服の背面はバッサリと布地が切り取られており、たわんだ布地からは鞠のように跳ねる乳房が、ぷるん、とこぼれていました。下半身を覆う短い布地には深々と裂け目が入っており、汗が伝う脚や腸骨の陰影すらも覗いていたのです。
「ウェニちゃん、俺のマラも助けてくれよお。俺、もう我慢できねえよお!」
「あ、はぁっ♡んぅ~っ……♡ もぉ~、堪え性のないおばかち×ぽですねぇっ……でもぉ、それでいいんですよっ♡ 男の子は、女の子のおっぱいとおま×こに欲情してっ……あっ♡……きったねえスペルマを吐き散らかすのが、あっ♡あんっ……正しい、んですからぁっ……♡」
女は幾本もの勃起に囲まれているのに、嫌な顔一つ見せずに腰を振っていました。手で屹立した陰茎をしごき、濡れた舌で赤黒い肉果を舐め回し……淫らに開いた蜜花で、深々と肉槍をしゃぶり続けました。
毛先だけが黒い二つ縛りの髪の毛や、はみ出ていた大きな乳房を踊らせ、官能的な花蜜の香りを撒き散らすように男を魅了していました。
「はぁっ、ぁ、ふゅうっ……♡ こんなに、エグいぐらいに勃起させて……っ……♡ん、ぐぽっ……♡ れぉ……るろろっ……♡ぐじゅるぅっ……♡」
「ああー!ウェニちゃん、お、おお、た、たまらないよお!やわっこい舌でハセが融けるよお!」
「あ、出る、漏れる、もう果てる……! ウェニちゃん……ホトに出すよお!」
「んぐっ……ううっ……!?♡ んっ♡んっ♡いいれふよ……ウェニのおま×こに、だひへっ――はぅうんっ……!!♡」
ぶる、ぶる、と熟れた果実のように震えた陰茎たちから、大量の白濁液が溢れ出しました。その黄ばんだ体液は、少女のきめ細かな白肌の顔や髪の毛、瑞々しく震えている乳房をどろどろに穢していきます。
ひく、ひくん、と切なそうに上下している腰には、跳ねるように痙攣する肉棒が今も突き刺さっており……どくん、と脈を打ちながら女の体温を味わっているようでした。
「あ……う、う……き、貴様らぁ……! そ、そこで、いったい何をしているっ……!?」
女が、タレを塗ったきりたんぽを味わうように陰茎へと舌を這わせ、子種を搾るように腰を振り始めたところで……呆気にとられていた私は、正義感にせっつかれるように飛び出しました。
イサリビで私の顔を知らない者はおりません――そして、イサリビに住む人間の中に私が知らない顔などありませんでした。異教の女を取り囲み、醜い性欲をぶつけていた男たちも――残念ながら、見覚えがあるものでした。
「あ、ああ……!嫁以外のおなごに子種を出しちまったあ……! ヘビ様にも見られたんだあ……もう、おしめえだあ!」
「あ、貴方たちは……竜禪が軽率な不貞を許さぬことを知っていたはずでしょう……!? も、問答無用で打ち首にされても、おかしくないのですよ……!?」
「ちげえんだよお! つ、ついヤッちまっただけなんだあ……! こんなに淫靡で若ぇおなごに『イイコトをしよう』だなんて甘ぁい声で誘われてよお……此処なら誰にも気づかれねえって言われてよお……!」
「ああ、きもちええ……もちもちの乳房が、とろけるようにやわっこいのう……。罰される前に、禁忌の果実の味をたあんと堪能しておかんとのう……」
「ん、やぁん……♡ ジジイの汚い手で、勝手におっぱい触んじゃねえよぉ……♡ ん!でも、でも!そんな恥知らずすぎる愚行すら認めるのが、我らの教えなのですよ~♡ ぜひ信徒になりませんかぁ?」
「…………っ……!!」
この女こそが――私の故郷でも目撃されていたという、各地に蔓延る〝宣教師〟の一人なのだとすぐに理解できました。
宣教師が手段を選ばないことはそれとなく聞いていましたけれど……まさか、敬虔なイサリビの民がその毒牙に唆されるとは思ってもおらず……私は、お屋形様のまっすぐな顔を思い浮かべて、下唇を潰れるぐらいに噛み締めて刀を引き抜きました。
「き、貴様ら……そこへなおれ! その罪……命ごと断って禊としてやる!」
「ひえええ! か、勘弁してくれえ! 儂はまだ、ウェニちゃんのホトを味わわずには死ねんのだあ!」
「に、逃げろお! ヘビ様は男が怖いんだ!はざまの宿場までは追って来れねえぞお!」
女を取り囲んでいたイサリビの男たちは、醜いモノをぶらぶらと揺らしながら逃げていきました。
全てが不快だった時間が過ぎても、私の心は休まりませんでした。目の前には、まだ性器同士で繋がっている不埒な男女が居たのです。
「ああ、粗チンに逃げられちゃった。後で追っかけて、しっかり改宗させないと……うーわ、めんどくせぇなぁ……」
「ウェニちゃんよ、これどうすっぺや? 俺らも逃げねえと、斬られちまうんでねえか?」
「くすっ……大丈夫ですよぉ。あんなの、おこちゃまがオモチャを持っているだけですから」
女は私よりも下に位置する目で、明らかに私を見下していました。それどころか、私を尻目に男との乳繰り合いを再開し、濡れて光っていたふぐりを揉み始めたのです。
「っ……き、貴様ぁ……!私を――武士を愚弄したな!?」
「ぷくくっ……♪ 『愚弄』とか言って、時代劇かよ……ふふっ……いいえぇ? ウェニはただ、事実を述べただけですよぉ♪」
「ぬうううっ……! こ、の……異教徒が、好き勝手に……! 即刻、淫行を止めないか! 貴様は裁けずとも、その者はイサリビの民だ……取り締まる権利は我らにあるのだぞ!」
私は、自分でも顔が真っ赤になっているのがわかるほどの熱を吐き散らし、地団太を踏んで激高しました。
今すぐにでもお屋形様の加護を抜け、竜禪に白濁の汚れを塗りたくる狼藉者二人を叩き切ってやろうと思いました――が、それは叶いません。境界線の向こうでは『無法こそが法』であり、私の短絡的な感情の結果が世を乱すことも考えられたのです。
「あらまあ、それは確かにそうですねぇ。チ×ポ――じゃないや、お兄さん、改宗しないとリュウゼンに殺されちゃうかもですよ?」
「う、うう……で、でもよお……! 世話になってるミヤ様に背くなんて罪深いことは……」
「だいじょーぶ。ウェニのおま×こはですねぇ、そういう背任も、既にやらかしちゃったことも含めて……全ての罪を赦してあげられますからね……♡」
「ほ、本当け? そいじゃあ、この不貞も……ウェニちゃんの膣内に注いじまった子種も、全部赦されるんけ?」
「ンなわけねえ――ええ、もちろん赦せます! そ、れ、にぃ……♡ 信徒になってくれるなら……ふふっ……♡ ご褒美にぃ、『最高に気持ちいい射精』をさせてあげてもいいかなぁって思っちゃうんですけどぉ……♡」
「そんなこ――うほお! あ、あ、それたまらん、また、起こされちまう……! あ、あ、ああ……!」
白き淫女が腰を淫靡にくねらせると、徐々に唆されていく男が、気持ちよさそうに顔を歪めて唸りました。
「は、ぁっ……はぁっ……♡ 貴方、さっきも『働きたくねえ』って、『毎日がつまんねえ』ってぼやいてたじゃないですかぁ……♡ 竜禪では許されない、このヌルヌルの〝刺激〟っ……♡ もっと、深みにハマっていきませんかっ……?♡」
「お、おおお、おおおおおっ! いいんかっ……本当に、イイっ……のかあっ!」
「んっ……ん、んっ……♡ はい……もちろん、イイっ……イイんですよっ……♡ この、硬いの……っ……♡二回目でも、奥に、届いてっ……♡ はぁ~っ……♡」
女が男の腹に手を置き、杭を打つように尻肉をぶつけて陰茎を貪っていました。どちらのものかわからない大量の体液が弾け、夏の日差しに罪の輝きを光らせました。
私には、〝それ〟が同じ人間の所業とは思えませんでした。その悪魔のように激しい淫行を、加護の線を挟んだ安全地帯から眺めて……口惜しい悔しさに打ち震えることしかできませんでした。
「うふふふっ……♡ 改宗すればぁ、リュウゼンのクソッタレ共に裁かれることもないのですよ~♡ あふ、んっ……♡仕事もしなくていいし、我慢もしなくていいんです……っ……♡ もう、良いこと尽くしではありませんかぁ?♡」
「な、何を言っている……!? そのような破滅思考では世が回りません……この世には、守るべき竜禪の教えがあるからこそ皆の暮らしが守られているのです! 貴様のような異教徒が、そのような無責任で人の信心を唆していいはずが……!」
「ん……っ……は、ぁっ……♡ それは、そちらの独善的なルールで雁字搦めにされた世界のお話でしょう……? は、ふぅ……♡法が敷かれた国でもなく、リュウゼンに守られた場所でもない〝ここ〟ならば……『法に背いてはいない』と思うけどなぁ?」
「ぐ、うっ……! し、しかし……!」
「くすくすっ……♡ 布教の基本は『現地の〝忌避〟と〝不満〟を知ること』。ウェニたちはリュウゼンのことを、乳臭いテメエよりもたぁくさん勉強しております――その振り上げた陳腐なカタナでぇ、ウェニをどんな罪名で裁くつもりなのですかぁ? ねえ、教えてくださいよぉ♪」
「………………く、ぅうう……!」
……たしかに、その女の言うとおりではありました。『はざまの地に道徳や法を持ち込まないこと』は、国やイサリビを〝外〟から守るためにも必要として定められた不文律だったのです。
女は、ぐちゃぐちゃと音を立てる接合部を敢えて日の目に晒して腰を揺らし、男の心身を馬のように「おうおう」と揺すりました。子種が飛び散った乳房を瑞々しい果実のようにたわませ、腕に乗せながら指を組み合わせ……喘ぎながら祈りを捧げ始めました。
「ん、ん……っ……♡ 我らは〝命〟を尊び、生の全てを崇める教え――〝太陽の意思〟の下に生きております……♡ こんな不埒なカス男にも、自由に生きる価値を与えてあげられるのですっ……♡」
「あ、あああ、すげえ、すんげえ! きもちええ……きもちええ……! 退屈の中で生きててよかったよお!肉が絡まって、し、搾り取られるう!」
「ふふ、ふっ……♡ いいんですよ……♡ もっと、素直に……自分の気持ちを、貴方の全部を……っ……正直に、さらけ出してっ……♡」
「お、おうう……も、もう、窮屈で退屈な毎日なんてこりごりだあ! 俺は毎日ウェニちゃんとまぐわって、気持ちいいことだけして生きるんだあ!」
「はぁっ……はぁっ……♡ 下品で、短絡的でっ……♡あ、んっ……♡救いようがないですねっ……♡ でも、ウェニはそんなダッセエ貴方の命も讃えます……『生きててえらい』ですよっ……♡」
「う、うううう……ああ、もうダメだ、出るう! 全部が……あ、あ、あ――」
「あ、んんっ……♡ ウェニも、キちゃってるからっ……♡ 一緒に、イこうねぇっ♡ あっ♡はぁっ♡イ、くっ……くふっ♡んっ――あぅうううんっ……!♡」
堕落した男が欲望の全てをぶちまけた瞬間――その女は唇を奪い、体液まみれで絶頂する男の陰部に、棒状の何かを突き刺しました。
快楽に震える肉棒から、透明な中に黄白色の〝光液〟が溢れてその中に満たされ……何故か、その幸せそうに果てていた男の身体が、ぱらぱらと花火の残滓のような光になって消えてしまったのです。
「ん、ふぅ……♡ はぁ、はぁっ……♡ 一本だけですが、お勤め完了っと……♡」
女は震える脚で立ち上がり、その透明な棒を自らの秘部にずぶずぶと差し込んでいきました。淫らな口で〝全て〟を呑み込んだ後……再び「生きててえらい、えらいですね~♪」と囁き、赤子を宿した妊婦のように下腹部を撫でていました。
「な、なに……なにを、したの……? 貴様は……貴女はいったい、何なの……!?」
「ん~、ウェニのことですかぁ? ダルいなぁ……せっかくクソザコペニスの余韻に浸ってたのに、これだから堅苦しいサムライは……」
唇に付いていた子種の残滓をいやらしく舐め取り、衣服からはみ出ていた乳房の先端を覆いながら、白髪の女がこちらを見据えました。
「名はウェニキス、命は〝戒済〟。この世に巣食う悪しきドラゴンの魔の手から、人々の自由を取り戻せし者――ですっ♪」
女はあどけない少女のように、可憐で無垢な笑顔を浮かべていました――が、突然身体を震わせたかと思えば、股からぼとぼとと白濁液を垂らして、悩ましげに腰をくねらせて絶頂の余韻を咀嚼し始めました。
「は、ぁんっ……♡ あの人、濃いの出しすぎですって……♡ やっぱり、リュウゼンの信者はセックスの手間こそあれど、〝当たり〟が多くて効率が良さそうですねぇ……♡」
その相反する仕草と雰囲気が私をさらに困惑させ、理解不可能な化け物を見ているかのような……言葉にできない嫌悪感を抱かせました。
正式名称は忘れましたが……この女が所属する『生きててえらい教』は、先ほどのような布教活動でこの世を侵食していったのだと思われます。
「……ど、どらごん……?」
「あ? 今の流れで気にするところがソコかよ、マジでお花畑だな……竜だよ、竜! オマエの主であるあの男な!」
「……お屋形様が――ミヤ様が、悪しき者……? 呆れて物も言えないような勘違いですけど……そんなこと、あるはずがないです。ばかばかしくて、怒りすら湧かないよ」
「……ハッ……でしょうねぇ。リュウゼンに侵された貴女は、そう言うしかないでしょうねぇ……うーん!人生って残酷ですねぇ♪」
ウェニキスと名乗った女は目を細めながら冷笑して、耳に付けていた輪っかの飾りをつんつんと弄っていました。その仕草からは苛立ちというよりも、〝諦念〟に似た平行線の気配を感じました。
彼女は会話の流れで手癖のように股へと手を突っ込み、秘部を濡らしていた子種を指に掬って舐めていました。その下品な女は、すぐにでも立ち去ってしまいそうな雰囲気を醸し出していたため、私は聞かなければいけないことを尋ねました。
「貴女は……いったい、何者なのですか……?」
「ちゅぴ、ぺろ……んぁ? 何って言われても……まあ、強いていうなら〝ニセモノ〟じゃね? ふふ、この世界にはホンモノがいませんけども……カラダだけは、教王様の〝私物〟ですから♪」
小汚い精液を美味しそうに味わっているその姿は、人ならざる〝魔性〟の気配を感じさせました。彼女の言うことを半分も理解できなかった私は、静かに、相手を刺激しないように問いを続けます。
「ん、と……じゃあ、さっき……イサリビの住人だった男はどうしたの? もしかして……『赦す』と騙っていたのに、殺したのですか……?」
「ああ、さっきのチンカスね……もちろん生きてますとも! 我らは命自身の価値を尊ぶ者ですから、テメエら蛮人みてぇに殺しなんてしないっての――彼は私のお腹の中で、今も幸せな〝夢〟を見ているはずですよっ♪」
「生きて……? でも、さっき……身体が失われて……」
「あー、あー。ションベンくせぇことをグダグダ言ってんじゃねえよ、イモ×××がよぉ。アイツは『私たちの目から見て生きてる』の!これだけわかりゃ十分じゃん?」
「いもま……なんですか、それ……?」
「ぶっ――あ、あらあら~っ♪ 未開人の芋娘さんには皮肉も通じないだなんて……ぷひっ……ひ、悲惨すぎるだろっ……! あ!ううん、ダメよウェニ! このコミュニケーションの失敗は、健全な教育が行き届かないリュウゼンによって腐った社会が悪いのですから!うん!」
当時の私にはまっっったくわかりませんでしたが……ころころと表情を変えていたあの女は、口にすることを憚られるような言葉で私を侮辱していたようでした。ウェニクスとの腐れ縁のようなものは長くなったのですが、彼女とのやり取りは最高に疲れるものばかりだったと思います。
乳房の先端を尖らせたまま、汗で湿った布地を押し上げていた女は、その事後の姿での往来を恥ずかしがりもせず、舌なめずりをしながら踵を返しました。
「さて、と。私はあの逃げた臆病ペニスたちを追わなきゃですので。じゃあね、イモ×××!」
「あ、待て……! 貴様には、聞かねばならない話が……!」
「ふふっ……寛容な私です、話ぐらいならいいですよ。オスの性欲にビビッてるオマエが、そのタリスマンの一線を踏み越えられるならな!」
何もかもがちぐはぐな女は、この世全てを馬鹿にするようにからからと笑って、はためく布地から脚や尻肉を覗かせながらその場を立ち去りました。
私は刀を手にしたまま、その背を追おうとして……情けなく、二の足を踏んでしまいました。イサリビの外に出て、お屋形様の加護を受けられなくなることに……確かな恐怖を覚えていたのです。
「……こんな情けない姿の、どこが武士なの……? 私は…………私は……!」
無力に打ち震えることしかできない私は、はざまの地へと消えていくウェニキスの背を見送ることしかできませんでした。
昼下がりを過ぎていく空では、残酷なまでに明るく輝いているお天道様が……私の無様な姿を、憐れむように見届けているようでした。