濃紺が青白の光に呑まれゆく空の下にて。天崇の中核――天宮の最奥に当たる天守閣の私室にて、いろはとぽこべぇは不思議な出会いを果たした。
夢だったような感覚をお茶の香りと温かい残光が否定するなかで、いろはがおもむろに装束をはだける。新しく下腹部に刻まれた〝天〟の字と、七つの紋様が埋まって完成に近づきつつある八武信仰を確認していたのだ。
「……とうとう、あと一つ、か……長かったような、あっという間だったような……そんな感じだよね、ぽこべぇ」
きわどいところまで見えてしまっていたいろはから視線を外していた紳士が、恐るおそる振り向いて、こくりと頷いた。
小さき武士にも、この長い旅路では思うところが多くあった。その背に刻まれている五芒星の重みと愛しさに、わずかな痛みを覚えながら、いろはと共に茶室を後にする。
「朝が近い……早くしないと、見つかりやすくなっちゃうよね。さっさとずらかろうか!」
いろははぽこべぇを抱いて、天宮の窓から空に向かって跳び降りる。〝神鳥の羽〟を開いて落下速度を調節しながら、銃とワイヤーを使って滑空の軌道を器用に変えて、見張りの視線を上手く避けながらイワト市街へと降り立った。
人通りが皆無な街道を見ながら路地を駆け抜け、そのまま音もなく朝焼けに消え入る――そう狙い、天崇の庇護下と下賤な外界とを隔てる高い壁をよじ登り始めたときのことだった。
「くぁ……あむ……んぅ……? なんだろ……こんな時間に、騒ぎ……?」
いろはとぽこべぇがそろって大きなあくびを漏らしながら、何かを破壊するような音が聞こえた方を見やる――すると、眠気で湿った視界には、無数の松明の灯りが揺らめいていた。
『し、侵入者だ……! 誰か……! 早く、警鐘を……うぎゃああああああ!!』
『ぬははは!無駄だっての! 見張り台の奴らなんか、夜のうちに制圧しておいたからなあ!』
『思ったより時間がかかっちまったが、内側も楽に制圧できそうだぜ! お高くとまった天使サマの古臭い支配も終わりなんだよ!』
(……あの堅牢な守りに囲われていたはずのイワトが、攻め入られている……!? そんな……こうも易々と……?)
いろはが耳飾りにソウリョクを込めて視力を強化し、周囲を見渡すと――侵入時には天崇の兵士が目を光らせていたはずの見張り台や外壁の砦では、武装を剥がれて上品な服のみになった男たちが、小汚い羽織を着込んだ武士崩れに命を握られていた。
『ぐ、ぐぐ……畜生め……!! 天使様がたから賜った、ありがたい刀剣を打ち破るとは……!』
『ひっひっひ! 鋼鉄の街で配ってた武器の強靭なことよ! こいつらの武器が豆腐みたいに崩れたわ!』
『おおかた、腐った上流階級は私腹を肥やすのに夢中で、配給する武器には粗鋼を使ってんだろうよ』
『おお、可哀そうな愚民どもだ。かつては渡来の技術でブイブイ言わせてた天崇も、頭が腐敗したらこの体たらく。イワトに閉じこもっちまった神格も、もはやただの時代遅れでしかねえのさ!』
『へへへ! せこせこと貯め込んでた富をほじくり出してやるぜえ!』
薄汚い羽織に、〇と×で象られた〝間違った紋様〟を刻んで異教を騙る武士崩れ――太陽志士たちが、既に勝ち誇った声を上げていた。その手には、ウルヴで製造されている西洋の武器が握られており、武士の誇りや気高さといったものが全て失われていた。
(……あいつら……! 野盗紛いのことをやっていたのはこれまでも見てきたけど……徒党を組み、ここまでの武力を持つようになっていたなんて……! これも、毒島のせいなの……!?)
いろはの読みは反対の意味で正しかった。トライプルという〝頭〟を失い、ソルドナーレという組織体の統率が崩れつつあるなかで、自由奔放な教義だけが無責任に伝播しているために混沌が拡散していた。やがて自由に湧き立った各地の小さな悪意が共鳴して連なり、より大きな力を持って略奪を企てるようになっていた。
戦慄したいろはは、外壁の上に立ってから子細な様子を窺おうとするが――その袖をぽこべぇが引っ張った。
その指で外を指し示し『すぐにこの場を離れよう』と――最も合理的で、いろはのためになる道を勧める。
「ぽ、ぽこべぇ……!? で、でも……あいつらを放っておくわけには……!」
人として真っ当な正義感をはたらかせたいろはが抗おうとするが、ぽこべぇは極めて冷静に首を横に振り、いろはに周囲をよく見るように促した。
イワトの外壁と見張り台ではおびただしい数の太陽志士が武器を振りかざしており、市街地の中にも、頭数が千を軽く超える混沌軍勢が侵入を済ませている。
異教の太陽神の加護を受けているせいで、相手が一人でも油断をすると窮地に追い込まれるほどに強力な太陽志士――それが徒党を組み、かつて天下を治めていた信仰である天崇の名残を本気で潰そうとしていた。その危険度は興味本位やいっぱしの正義感で首を突っ込んでよいものではないことは明白だった。
いかに着実と力を付けてきたいろはでも、多勢に無勢はそう易々と覆せない――イサリビや竜禪の守り手として、極めて重要な決戦を一ヶ月後に控えた少女が不用意に介入してはならなかった〝激戦の火種〟だったのだ。
「………………そ、そう……だよね……。もともと、かざまには……竜禪には、全部は救えない……。それに、あの人たちに信じられているわけでも、助けを求められているわけでもない……今までも、そうだったもんね……」
かつてイワトに立ち寄ろうとしただけでも門前払いを食らい、ディヴァ信仰の再興のためにも忍び込んだような場所に肩入れをすることは極めて不合理だった。
真面目なぽこべぇが心を痛めながらも、いろはのためを想って、苦渋の選択を下してくれている。そう理解できたからこそ……竜禪とはまったく関係がなく、天崇の名前と痕跡を使っているだけで成り立っている浮気な都市に背を向ける。
……しかし……いろははその場で歯痒さを握り締めるばかりで、イワトの未来を切り捨てることができなかった。そうしているうちに時がじわじわと流れて、一方的な蹂躙の音とともに兵隊を制圧していく太陽志士たちが、とうとう民家にも手を出し始めた。
『うわああああああっ!! やめろ……やめてくれ……! うちらがいったい、何をしたって言うん――んぎゃあああああっ!!』
『はっはっはっはっ! さすがは都会だ!そこらの民家ですらも貴族みたいに裕福だぜ!』
『いやあああっ! そ、それは三ヶ月分の食費なんです……持っていかんといて……! 飢え死にしてしまいます……!!』
『知ったことかよ! 飢え死にが嫌なら、今すぐ死んどくか?ああん? 俺たちは壁の外で、そういう世界で生きてきたんだぜえ? あー!まるまる太った野菜だ!おいちい!おいちいなあ!』
『た、助けて……誰か、助けてえ……!! この無法者たちに、罰を……誰か……罰を、与えておくれ……!』
『ひひひひひ!助かりたきゃ、罰してほしけりゃ、お前らを守ってくれるっちゅうテンシサマに祈ってみろよ! あんな詐欺師どもは、どうせあの下品な宮から高みの見物しかしねえだろうがなあ!』
下流階級が住まう市街地に大混乱が生じていても、情報が途絶されている天宮には、その声すらも届いていないだろう。枕を高くしたまま眠りこけ、変わらぬ朝が来て、富をじわじわと吸い上げる――そんな繰り返す日々の夢を見続けていた。
『ひいいいっ……!! おたすけぇ……お助けくださいよお、天使様がた……!!』
『なんで天使様は、こんなことになっても何も言ってくれんのよ……!? あたしら、しかつくしとったやろ……!?』
『此処に居て、天使様たちの御言葉を信じてさ……お金を納めとれば、ずうっと平和に暮らせるって……言うとった、はずやのに……なんでやぁ……!』
信じていた天使たちの助けを得られず、逃げ惑うばかりの民衆が……次々と、下卑た笑みをこぼす太陽志士たちに囚われていく。家や財宝、食料だけでなく、衣服や装飾品すらも剥ぎ取られる――つい昨日まで続いていたはずの〝今日〟――その全てが略奪されていた。
『天子様……天子様……! 信じてたら、絶対に守ってくださりますよね……信じてます、信じてますから…………きゃあああっ!?』
『ひゃはははは!まったく、おめでてえ奴らだなあ! 俺たち武士が滅ぼしたんだ、天崇なんてもうありゃしねえによお……くくく……必死すぎて、無様すぎて……ははははは……!!嗤えちゃうなあ!!ひゃひゃひゃひゃ!』
男たちが醜悪に笑って唾を飛ばしながら追い回し、裸にひん剥かれた女性が、祈るようにお守りを握り締める。
そこにはかつての天崇の縁もない、インチキ宗教によるただの〝それっぽい紙〟しか入っていないとも知らずに――姿すら見たことがない存在に祈り、涙を流しながら〝天子〟に助けを乞うていた。
「…………ッ……!!」
空が明るくなり始め、いろはの身体にも影が差し始めた。いよいよ身に危険が及び始める――そう判断したぽこべぇが必死に羽織を引っ張るなかで、いろはが装束の胸元を強く握り締める。
周囲をよく見れば、このような土壇場でも……略奪される民草のほとんどが、偽物のお守りや高そうな神具もどきを握って、必死に、居もしない神に向かって信心を向け続けていた。
「………………天子様のためにできること、見つかったよ」
天崇という、既に途絶えてしまったはずの信仰を抱き続けて。そんなにも敬虔な信徒たちが、何も報われずに、ただ全てを奪われる。
地獄よりも凄惨な光景に染まりつつあるイワトを見て、いろはの胸の中で、荒れ狂う感情が太陽のように燃えて輝いていた。
「…………ぽこべぇ。あの地獄まで……かざまに、付き合ってくれないかな? きっと、私一人だったら負けちゃうから……一緒に戦ってほしいんだ」
いろははしゃがみ、ぽこべぇに顔を近づけて真摯に問う。その瞳には強い意志が宿っており……従者が何を言っても曲がらない、いつもどおりの〝面倒くささ〟が滲んでいた。
そんないろはらしい顔を見て、ぽこべぇは、これまでの旅路を振り返り――呆れたようにため息をついた。そして、ぽこべぇもいつもどおり……ぽん!と胸を叩いて、背中に差していた小刀の柄を力強く握る。
「……ありがとう、ぽこべぇ。『二人なら、絶対に勝てる』――貴方となら、そう、信じられるからッ!」
周囲に風を渦巻かせ、胸から強い光を放ったいろはが宙へ跳ぶ。ちょうど、太陽志士たちが捕らえた裸の女性たちを集めて、尻と股間を見世物にするように並べた天上に位置する場所で〝神鳥の羽〟を広げて静止し――背後に、ソウリョクに巻かれて変身していく武人を侍らせる。
「お願い、〝暁〟ッ……!! 天子様への願いを、聞き届けてあげて……ッ!!」
――御来光。崇高なる天を臨みし都市の空に、眩しき一閃の朝日が差し込んだ。
鋭くも温かい日差しが、闇の翳りを祓うように光を放つ。夜を見送り、朝を迎える――月の入りと日の出を結ぶとき――〝暁〟がその場に訪れた。
手を合わせたいろはの下腹部が光り輝き、絆となったソウリョクの帯が結ばれる――背後で武人の身体を形成していくイマハタヌキの心に、燃え滾る情熱を注ぎ込んでいく。すると、無貌の頭を守る〝憤怒を表す赤き面〟――〝日の出を迎える〟顔に新たな力が宿り、万物を統べる黄金の光輝に包まれた。
陽光の如き激しい金色の輝きが、魂と深く結びついた明星信仰の銀色の煌めきと共鳴する。武人がまとう純白の装束に赤色の焔が走り、白銀の装甲を支えるように黄金の外殻が形成されていく。
「………………お天道、様……?」
その神々しい姿を見上げていた民が目を奪われ、思わずそう呟いて……心を鷲掴みにされたように、自然と手を合わせて拝み始める。すると、祈るべき対象を得た信心がソウリョクを生み、煌めく風の流れが〝暁〟に力を与えていく。
注がれるいくつもの想いに呼応するかのように、〝暁〟の背後に開いた光翼の付け根から漏れ出た一筋の光が、がちり!と噛み合うように円を繋ぎ――その中心から眩い光炎を揺らめかせて、足元から噴き出る東雲色の焔を雅に彩っていた。
第四五話 暁の空に来光は煌めく
「……皆殿、少しだけお待ちを。天子様に捧げたその祈り――この竜禪が、絶対に無駄にはさせませんから!」
凛々しい表情でゆるやかに降臨するいろはが腕を組み、力を込めた双眸で醜き明日を睨む。その背後では、四本の腕で〝日輪〟と〝月輪〟を鞘から抜いて刃を来光に輝かせ、光翼を日輪の花のように咲かせる〝暁〟の姿があった。
「なんだあ? その羽織……竜禪の武士も、このゴミみたいな残党から富を絞り取りに来たのかあ?」
「ひひひ!やっぱり同類ってことだな! ちょうどいいや!お前もこっちに来て――ぬあっ!?」
強力な鋼で鍛えられた大剣を見せつけながら、いろはに近寄ろうとした太陽志士の顔を、流星のような輝きがかすめる。それに遅れて、光を孕んだ風が乱舞して、周囲に居た男たちを巻き込みながら吹き抜けた。
その光風の発生元であるいろはの手には、黄金の弓が握られていた。虚空から光を集めて白銀の矢を紡ぎ、弦に番えて〝天を射る〟ための武器を構える。
「かざまたちを、貴方たちと一緒にしないでください。奪うのではなく、守るために戦っていますので」
「こ、の、野郎……!俺たちだって、自分の身を守るために奪ってるんだよ……! おい!テメエら!このアマぁ、ヤッちまうぞ!!」
「へへへへっ!そこの肉山の頂点を飾るにふさわしい美少女だぜ! 顔と乳とマ×コとケツだけは傷つけんなよ!!」
「ッ……暁ッ! この最低な奴らから、女の人たちを守るでござるよ!」
十数人の太陽志士たちが、統率の取れていない雑多な動きでいろはに襲い掛かった。天焔の力に目覚めた暁が前面に立ち、いろはから二振りの刀を受け取って四刀を構え――黄金の円環から光を散らしながら焔をまとった刃を振り抜き、男たちの波状攻撃の第一波を退ける。
高速かつ強力な剣技は、圧縮した空気を巻き込んで大槌のように武士崩れを〝殴り〟飛ばす。その衝撃から朝焼け色の焔が走り、小汚い衣服を紙のように焼き払っていく。
「ぐ、あああああっ……!!あ、熱ィっ……! こいつ……ちょっと身体がデカくて、眩しく光ってるからって……!!」
「ちょ、調子に乗ってんじゃねえぞ……デカブツがァ……! 太陽の力なら、俺たちだって貰ってるんだからな……!!」
前段の強襲が通用しなかったことや周囲の被害など気にせず、我欲のみで動く太陽志士たちが、構えた武器に光を宿しながら特攻を仕掛ける。
〝暁〟は白銀の面の物見から意志を輝かせて、光翼を操っていくつもの刃撃を弾き、合わせるように迎撃をしながら、襲い掛かる人間たちを刀で振り払った。
続けざまに、力を込めた四臂をメキメキと軋ませ――全力で地面を叩きつけ、集中させた四つの打点から天色の噴焔を炸裂させる。その様子はまるで、光で作った山の噴火だった――志士の武器に宿った異教の力を掻き消しつつ、小汚い羽織を八つ裂きにしながら身体を弾き飛ばした。
「うぎゃああああッ!? こ、こいつ、強ェぞ……!! 同じ力なのに……同じ刀のはずなのに……!!」
「クッソ……!んじゃあ、そっちの女から先にヤってやれ!! どうせこのイキりマ×コ潰したら勝手に消えるだろ!!」
いろはが、標的を変えた太陽志士たちに敵意を向けられる――朝焼けに包まれ、神々しい光を背負う少女は周囲に警戒を張りながら、アメノハジユミを一度消して、刀を構えて応戦した。
降り掛かる刃を払いながら男の腹を蹴り飛ばし、続けざまに飛び込んできた槍の穂先を刃の腹で受け流す。舞い散る火花の中で踊る少女は、屈みながらの足払いで体勢を崩させ、〝祓斬〟で胴体を切り抜ける――すぐさま、〝蛇腹舞〟で距離を取りながら武具を投擲する。
その間も、〝暁〟は二振りの大太刀を振り抜いて、略奪を続けようとする男たちを刃で叩き潰していく。土埃を巻き上げながら、その翳りすらも晴らすほどに煌びやかな光で周囲を照らし、絶望に染まっていた民衆の心に希望の兆しを見出させていた。
「チッ……!すばしっこい女だ……!だがなあ、攻撃が軽すぎて話になんねえぜ!」
いろはの流麗な攻撃を受けてなお、平然と立ち上がった男たちがにやにやと笑んで近寄ろうとする。さらに、いろはの退路を阻むように、外壁の砦からは機械仕掛けの弩で飛ばされた無数の短矢が降り注いだ。
「っ……さすがに、数が多いか……!」
「けけけーっ!こんな無鉄砲で無力なのが〝竜禪の武士サマ〟だってんだからお笑いだよなあ! あの辛気くさくてチンケな宗教、早々に抜けておいて正解だったわあ!」
「がははは! 社会のために禁欲を強いられて、国と法のために働いても大した見返りもありゃしねえんだ――人間の本質が『生きててえらい』だって知れてよかったぜえ!」
ソルドナーレの教義に触れて、その〝良さ〟と〝楽さ〟に気づいてしまった者たちは……もう二度と相容れないであろう生真面目な輝きに敵対心を剥き出しにする。
しかし――いろはは敵対する意志や侮辱には心を揺さぶられず、強かな面持ちで弓を構えて――自分と暁が守らんとする民たちの信心と向き合い続けた。
「天子様……かざまに、力を……! 敵でも、味方でも関係ない……ただ、貴女を信じて、助けを求めている人たちの〝今日〟を守れるだけの力を……ッ……!!」
いろはは刮目し、日が昇る天の色に輝く弓を構えた。いろはと〝暁〟の活躍に心を動かされた天崇の信徒たちが一人、さらに一人と増えていき、敬虔な信心をさらに湧き立たせる――周囲から噴水のように流れ出るソウリョクがいろはの手に集まり、ディヴァ信仰の力によって白銀の大矢を織り成した。
その無防備な背は〝暁〟が守り、降り注ぐ矢の雨を回転する光刃で阻み続ける。遅いかかる勇猛な志士を、天焔をまとう大刃によって力強く払い退け、いろはの鏃が睨む射線の中へと押し込んだ。
「――天を貫き、昏き世を照らし渡れ――『天逆鉾』っ!!」
――いろはの両目が〝尊王〟の意志を燃やしたとき、〝八武の紋〟が光を放つ――その刹那――ぎゃあん!と夏雲のように大きな白い閃光が、一陣の風をまといながら空を裂いた。
ソウリョクを巻き込みながら、彗星のように激しく光波を立たせて猛進する巨大な輝きは、質量を持って熱波を撒き散らす。野蛮な異教どもを宙に巻き上げながら弧を描いて天へ昇り、雲に巨大な風穴を空けてなお、世界に轟音を響かせて闇を照らしていた。
鈍い音を立てて落下した太陽志士たちが、腕を震わせながらも身体を起こしていく。
「ぎ、ぎ……ぐぐう……! なんだ……大層な攻撃かと思いきや、ただのこけおどしじゃねえか……!」
「あんだけ派手にヤっといて、吹っ飛ばすだけで精一杯かよ……! へへ……その可愛い顔で、この服に付いた泥を拭わせてもらわないとなあ……!」
煌めく閃光に薙ぎ払われた男たちが、再び武器を構えて思いおもいに突撃する。それに応じるように、目を閉じたいろはが虚空から刀を構えて……ふう、とひと息をつき――。
「――『七武・極虹』ッ!!」
――開眼とともに、周囲に漂うソウリョクをまとった刃を振り抜いた。そのまま、流れるように刃の残光を引いていき、七色に変わりゆく剣閃で男たちの欲望を切り捨てる。
「ぐっ……ああああああああああッ……!? な、んだ……今の技っ……こ、凍るっ……手が、身体が……ひええええっ……!?」
「た、太陽神様の加護が……なくなってるんだ……! あ、ああ……燃えちまう……!熱ィ、熱ィよぉ……っ……!!」
「し、しびびびっ……び、びれっ……はべべべべ……!!」
霊山の氷、襲撃による爆炎の焔、イズルグモの轟雷――さまざまな色味を孕んだ刃が、男たちの心身を内外から無力化する。その淀みなき虹色の剣技はひたすらに美麗で、大いなる天照の輝きに圧倒されていた民たちに思わず感嘆を漏らさせた。
「……行こう、暁ッ……! このまま、一気に無力化するでござるよ!」
強気に笑んだいろはの顔は、民たちに一切の不安を抱かせず――『信じてもいいんだ』と思わせるほどに、芯の通った輝く気概に満ちていた。
……………………。
いろはは〝暁〟の下腕にアメノハジユミとアメノハハヤを託し、〝天星・暁〟に宿る力の全てを発揮させる。残る敵の〝太陽神の加護〟を引き剥がしながら、剣風を嵐の如く吹き荒れさせ、次々に無力化させていった。
遠距離からの攻撃は〝暁〟の刃翼が全て弾き、アメノハジユミの一矢によって射手ごと制圧する。白銀の矢雨によって加護を剥ぎ、腰の引けた男たちに〝暁〟が飛び込み、四腕によって全力で敵意を叩き潰す。そして、いろはの鮮やかかつ多様な手捌きは数多の武具を完封し、キョウの地でも自由に生きていける力を有していた太陽志士を、ばったばったと薙ぎ倒していく。
――その姿は、正しく〝一騎当千〟だった。太陽が天頂まで昇りきるまえに、徒党を組んだ太陽志士たちの軍勢は完全に制圧され、広場には四肢を縛られた不届き者たちが並んでいた。
鞘に刀を収めて虚空へと収納したいろはが、額に一粒だけかいていた汗を払って宙に煌めかせる。その静かな終戦のあかしは、周囲から轟音のような歓声を湧き上がらせ、天子への深い感謝の言葉を空高くまで響かせた。
その歓喜の渦の中で、家財や衣服を害された者たちが、囚われた太陽志士たちを取り囲む。そして、取り上げた武器を構えて〝因果応報〟の理に沿わせる兆しを見せた。
「へ、へへ……! 俺たちは、異教のヤツらみたいに自由に生きようとしただけだ……!」
「わ、悪いことなんかしてねえ……!国の民でも、天崇の信者でもねえしな……! 裁かれる義理なんてどこにもねえぞ……!」
「正義を気取った宗教……天崇だの竜禪だのが、聞いて笑わせるぜ……! お前らは、法やら決まりやらを無視して私刑を下そうってのか……!?」
太陽志士たちは顔を引き攣らせながらも、勝ち誇ったように勝者を嘲笑う。かつて竜禪の庇護下で暮らしていたからこそ、自分たちの身が〝倫理観〟という曖昧かつ便利なもので守られることに気づいていたのだ。
「誰かから、何かを奪って生きること――それも〝命〟の在り方だと思います。でも……〝略奪から自分の生活を守ろうとする〟……そういう異なる生き方を認めて、初めて対等になる……そう思いませんか?」
「あーん? お前、何言って――ふぎゃんっ!?」
神々しく微笑んだいろはに楯突こうとした男の顔が、怒りに震えた天崇の民によって蹴り飛ばされた。イワトにおけるまつりごとを担う天使たちが、下々の危機にすらも関心を持たないなら、多少の〝おイタ〟も見過ごされる――当然の摂理だった。
いろはは、その私怨に満ちた復讐――太陽志士と同じ〝命〟の在り方をする住民たちの姿を敢えて視界に入れず、自分に近寄ってきた天崇の信徒たちと向き合った。その背後には、陽光と星光を同時に煌めかせる武人を侍らせており……後光を差し込ませるその姿は、図らずとも人々の心を陶酔させていた。
「天崇の意思は――天子様の心意気は、今も竜禪の中で生き続けています。貴方たちが信じて、望んでくれるなら……この私が必ず守りますから……これからも、天子様のことを想い続けてください。最後の天子を務めた方は、とっても立派な人でしたから」
自分のことを必要以上には誇らず――それでも、自分を崇めてくれる人たちの想いは真心で受け止める。いろはは数多くの民と心を通わせ、天崇という古い信仰の〝昨日〟に縛られていた人々を、明日に繋がる〝今日〟へと導いた。
その背後では、どこり、どこり、と肉を叩く生々しい音が響いている。いろははその音と血の臭いから逃げず、イワトの中で繰り広げられる人の〝営み〟を感じながら――血生臭く、綺麗事だけでは片づけられそうにないその現実を、決して無かったことにはしなかった。
「ぎえええええっ!! 助けっ……おごっ……助けへ……!死ぬ……天崇に、信仰に、ころしゃれるぅ……!」
「……ご安心あれ。天子様の信徒を人殺しにはさせられません。貴方がたが殺されそうになったら、ちゃんと止めてあげますから――それまでは、『生きててえらい』って言葉をちゃんと噛み締めてくださいね」
いろはは〝暁〟の変身を解かせて、竜禪の法では裁けぬ者たちの末路をしっかりと見届ける。
(……『その人たちが好きだから』……『守りたいと思った人を守る』……きっと、武士が定める〝法〟では、それが罪になることもある……でも、異教からしたら、それこそが正義だったりするわけで……。生きるのって……難しいなぁ、本当に……)
目に見えず、善悪では決して割り切れない人の感情や行為の正当性、一つの事象に映る〝正義〟と〝悪〟の両面を鑑みながら……いろはは、自分の手にある〝正しさ〟のかたちを、今一度確かめるように握り直すのだった。
……………………。
「……ふむ……天崇の残りカスすらも従えて、竜禪に習合させるとは……。風真いろは……思っていた以上にヤリ手だな……」
ネムフリャの街に戻り、契約者である太陽志士の視界を通じていろはのモニタリングをしていた毒島が、側頭部をもどかしげに掻きむしった。
ぐぽ、ぐぽ、と下品な水音が響く室内で、空中に映した画面を消し、股間の上で揺れていた金髪を鷲掴みにする。
「はほぉっ……♡ ほほっ……ぐぽっ……じゅろろろっ……ぐぽぉっ……♡」
脚を開いて座る毒島の股座には、全裸で汗を滴らせる太陽神ソルが顔を寄せており、いきり立つ神槍を喉奥まで咥え込んでいた。下品に開いて後ろに突き出した膣穴には男根を模した玩具が突き刺さっており、接合部の隙間からは精液が滲んだ雌汁が糸を引いて垂れ落ち、頭を振る動きに合わせてさらに雫を落としていく。
「おお、さすがの舌遣いだな……。しかし、お前のせいで竜禪に一ヶ月もの猶予を与えることになった罪は消えない……このままだと、あの子は各地にしぶとく残った弱小信仰すらも搔き集めるぞ。どうしてくれるんだ?んん?」
「ふほっ……♡ほえんなひゃい……♡ぶひゅっ……むひぃっ……!!♡」
「痛っ……! 僕のチ×ポをしゃぶりながら、生意気に人語を喋ろうとするんじゃないよ……豚のクセにさぁ……なぁ……! おい……聞いているのか!? 返事ぐらいしたらどうなんだ!?」
毒島は、手元にあったグリップを掴んで、たわんでいた金色の鎖を何度も、何度も引き締める。鎖に繋がっていた極太の張り型が、メ゛リメリメリッ!!と膣奥に食い込んで、ゴンッ!ゴンッ!と緩んでいた子宮口をこじ開けようと掘削する。
「ふぎっ♡ぷっ♡うぎいいいんっ!?♡ おぎゅっ♡おぎゅ、わ、割れるっ♡おま×こっ――ごっ♡ぉ゛おおおおっ……!!♡ ぴ、ぴぎっ♡ふひっ……ぶひっ……ぶひぃ~んっ……!!♡ ぶひぶひっ……ぶひぃいっ……ぶぎっ♡ぎっひぃいいいいんっ!!♡」
「はあ。やっとわかったか、豚女神の立場が。それでいいんだよ。神なんて人智を超えた存在だからな。あの子がイワトで魅せた威光と同じだ、見た目と性器の具合さえよければ信仰など――――ん……?」
「ぶひっ――おッ!?♡ぐほぉおおっ!?♡ チ×ポ汁っ♡で、出てっ――おぼっ……♡ ぐぼっ……ぼほっ……♡ ふほぉおっ……ん゛ぉおおおっ……!!♡」
ソルドナーレ教王はわずかに腰を痙攣させ、信仰の対象である女神の喉奥を大量の精液で埋め尽くしながら……その神々しい快感で、頭の中に一筋の光を閃かせた。
「……おお、そうだ。その手があったじゃないか! 幸いにも一ヶ月はあるし、あそこには必要なデータもある……ハハハっ……! こりゃあ、我ながら良い手を思いついたぞ……!」
「ぐぶっ……ごきゅっ……ごくんっ……!♡ げほっ……げほっ……げぷっ……♡ な、何か、良い手が思いついたのですか……?♡」
「……あ……? お前、まだわかってなかったのか?精液臭いゲップまでしやがって。また最初から調教を始めるしかないのか、面倒だな……出来の悪い豚を飼うのが、こんなにも煩わしいとは……」
「ああんっ♡いやぁっ……♡ そんな、酷いこと言わない――ん゛ッ♡えへぇえっ!?♡ だっ♡だめっ♡それ、ホントにだめっ♡入るっ♡入っちゃう――はいっ――お゛ぉおおおおんっ……!!♡」
豚女神を片手間で弄りながら、毒島は携帯電話を手にして必要な材料集めを各地に命じる。ソルのマゾ歓喜に満ちた嬌声が反響するなかで、毒島の悪意は静かに渦巻いていくのだった。