※この作品はR-18です。

朽ちぬ木の葉は色褪せず   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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第四六話 かたちなき〝光〟

 イワトにてディヴァ信仰を再興させた私は、偽りの信仰によって搾取されていた民たちに、天子様のご意思を正しく伝えました。そして、本当の天崇が習合した竜禪は、天子様への信心を改宗せずとも守ることを固く誓いました。

 

 新たな力を得て、二つの面の両方に異なる色味――けれども、同じく人々の心と未来を照らす〝光〟を宿した暁の神々しい姿もあって、偽りの天崇の信徒たちは、私とぽこべぇを拝み倒しました。

 

 本来崇められるべきは天子様であって、私たちはその代理というか、ただのお節介焼きでしかなかったのですが、その想いは無下にできません。時間をかけて、彼らの想いの一つひとつと触れ合って……たくさんのソウリョクを託してもらってから、イサリビへと帰投しました。その留守の間にナニがあったのかは知る由もありませんが……レオーニオはとても機嫌が良さそうだったので、まあいいでしょう。

 

 ……『リュウオウ様ってマジでおっぱいとお尻が好きだよな』じゃないんだわ、まったくもう……揉まれまくった手痕まで残してさぁ……。えっちなことばっかりなんだよな~、あの頃の思い出って……。

 

 ……こほん。それから私は不満と苛立ちをぶつけるように――ではなく、お屋形様に『ディヴァ信仰の力を渡すために』しっぽりと儀式を執り行いました。他の女に浮気した分……じゃなくて、ソウリョクのやり取りに必要なだけのことをするのに、日の入りから日の出までかかってしまいました。

 

「ぐっ……はあ……はあ……。風真……さすがに、もういいだろう……! 腰の痛みが引かなくなってきた……!」

 

「はふっ……♡あ、んん~っ……♡ ほ、他の女に、余分に腰を振っていたから……でしょうにっ……♡ はぁっ……はぁっ……♡お屋形様の、甲斐性なしっ……♡」

 

「ぐぐぐ、それは否定できんが……! 寂しい想いをさせてすまなかった、風真……どうか、もう機嫌を直してはくれぬか……。おまえ以上に、愛しているおなごはおらぬ……もう、おれの全てを精に込めて捧げたのだ……!」

 

 腰に絡ませた足で、くい、くい、と深めの抽挿をおねだりしましたが、お屋形様の腰も逸物も痙攣していました。気づけば〝八武の紋〟が淡く輝く下腹部はなだらかに膨らんでおり、ぶみゅぶみゅと濁った水音が胎内まで響きます……男根も硬さを失い始めていましたし、たしかにお屋形様は限界を迎えるまで尽力してくれたようでした。

 

「……むぅ……ふ、ふーん、だ……! いっつもそういう、調子のいいことばっかり言って……口だけなら、何とでもっ――ふみゅっ……♡ んっ……♡んっ……♡ ふむぅ……ちゅ、ぅっ……んふふっ……♡ ちゅる、ちゅる……ふむぅ……っ……♡」

 

 汗やら汁やらで、乾いている部分がなくなった布団の上で……覆い被さるがっちりとした胸板に乳房を押し潰され、ぬるぬるの裸体を擦り合わせながら、融けるような接吻を重ねます。

 

 お屋形様は言葉に詰まると、すぐに私の唇を奪って……中の中、奥の奥までめちゃくちゃに気持ちよくさせて……乙女の心と頭をぽわわんとさせる、とてもずるい人でした。

 

 片方の手は指を絡めるように握り合っているのに……横から伸ばされたもう片方の手で乳房を揉み、先端までをも刺激してくるように愛撫をしてきます。私は鼻の奥からくぐもった嬌声を漏らし、体内で脈打ちながら汁を吐き続ける男根の鼓動を感じていました。

 

 ゆるゆると上下に動く腰遣いで弱いところをくすぐられて、きゅうっ、となったお股から、じゅんわりと恥ずかしいおつゆが溢れてしまう脱力感に襲われて……お屋形様の愛を溢れるほどに注がれた胸の中が、じんわりと温かくなる……そんな、幸せの絶頂を噛み締めていました。

 

 しばらくのあいだ、性臭が漂うぬかるみの中で一つに繋がったまま、白んでゆく朝焼けの中で情事の余韻に浸っていました。唇を放し、心を繋いでいた銀色の糸を来光に輝かせながら……お屋形様は、此の地に再び昇ってきたお天道様を見やります。

 

「此の地を明るく照らし、〝明日〟を示す太陽……ディヴァ信仰の最期の信徒は、やはりあの者であったか……」

 

「ん……そういえば、天子様とはお知り合いだったのですね……? また、ねえ……ずいぶんとまあ、可愛らしい美人さんを手籠めにしていたようですねぇ……!」

 

「ぐぬぬぬっ……!風真、股間を締めるのを止めよ……! おうっ……そ、そうではない……!天子とは、そのような関係ではなかったのだ……!」

 

「ふ~~~ん?どうですかねぇ~? この〝やりちん〟でひいひい言わせてきた女の子の数が、それを嘘だと裏づけているのですが……!?」

 

「う、嘘ではない……! おまえが幼かった頃からずっと言っているであろう……『神は嘘をつけぬ』と……!」

 

「そう言いながら嘘ばっかりついていたじゃないですか!? 日頃の行いが悪すぎるんです!!」

 

「む、むううっ……! 嘘などついておらぬが……では、おれのことは信じずともよい……! だが……天子の生き様だけは、信じてやってくれまいか……」

 

「…………それは、まあ……あの高貴でお花のように香るお方なら、お屋形様みたいな悪くておじさん臭いひとには見向きもしないと思いますけど……」

 

「そうであろう、そうであ――いや、まあ、それはそれで少し傷つくな……。ほんの、ほんの少しぐらいは好意を寄せられていたやもしれぬ……」

 

「あはははっ! 釈明したいのか誇示したいのか、どっちなんですか、まったく……! よくもまあ、そんなしどろもどろな会話術で他の〝柱〟の人たちを口説けますね……!」

 

「……む、むぐぐ……すまない……。おれは、おまえの前では……どうしても、いい男になりきれんようだ……」

 

「……ふふっ……知っていますよ、そんなの。そういうとこも、『お屋形様らしい』って思っていますから……♪」

 

「…………おまえには敵わぬよ、風真……。おまえが愛しくて、会話の良し悪しなど……どうでもよくなってしまうのだ……」

 

 お屋形様はとても苦い顔で――けれども、何よりも楽しそうに口を緩めた顔で、私の顔を愛しげに見つめました。それから吸い込まれるように、額同士を擦り合わせて……触れ合うような接吻を、二つ、三つ……八つ、九つ……たくさん……と、溺れるように重ねてきます。

 

「んむっ……ぷ、ぁっ……♡ はぁ……ふぅ……♡ それで……天子様、とは……どのような関係、だったのですか……?」

 

「…………あの天子は……おれの、茶道の師だったのだ。茶を振る舞うことで、言葉を交わすきっかけや……『言葉を交わさなくともよい〝間〟』……多くのことを学ばせてもらってな……」

 

「……ん……それとなく、聞いています。とても、立派な方でしたから……会話をするだけでも楽しかったでしょう?」

 

「……ああ。あやつは聡明で、博識で……何よりも、人当たりが良かった。海の外を常に見据えつつ、旧教の教えも守りながら、歌と舞で〝天使を崇める民たち〟を導く……その身を以て、進むべき道の先を照らす〝光〟を示していたのだから、それも不思議ではないがな」

 

「……でも、大変なことも多かったみたいですね……あまり、べらべらと語りたくはありませんが……」

 

「うむ。天子という重責に応えようとしつつも、その気苦労を表に出さない見事な君子であった。天崇についておれに尋ねてきたウェニキスは、彼の者を〝偶像〟――たしか……本物の〝あいどる〟だと絶賛していたな……」

 

「……あいどる、ですか……? 言葉の意味はわかりませんが……とても、立派な役目なのでしょうね」

 

「ふふ。おまえも向いているのやもしれぬな、あいどるとやらに。おれが、歌やら舞やらをおまえに教えてやれればよかったのだがな」

 

「や、やめてくださいよ……! かざまには似合いませんから、そういうの……あんなに強い心も持っていませんし……」

 

「そのようなことはない。おまえは本当に強く、大きくなったよ」

 

 お屋形様は私の頭を慈愛たっぷりに撫でながら、どこか切なさが滲んだ瞳で私を見下ろしていました。その顔が、なぜだか遠くに居るように感じて……思わず、お屋形様の背を抱き締めてしまいました。

 

「……竜人の姿で此の地を守るだけの象徴なんぞより、よほど立派に使命を果たしている。各地を巡り、苦難を乗り越え……民を助け、信心を集めてきた。もはや、竜禪を象徴する偶像になりつつあるのだ。もっと、己を誇ってもよいのだぞ」

 

「……むぐ……そんなこと、ないもん……。私は、お屋形様の〝使い〟でしかないし……天子様の方が、もっとすごいし……それに……それに……」

 

「他者のことなど関係なかろう。おまえを敬愛し、おまえを信じる者がいる……そして、おまえはその想いに応えてきた……それだけなのだ」

 

『………………お屋形様ぁ……』

 

「くくく。おれも、おまえのことを信じているよ、風真……必ずや、此の地に続く〝今日〟を守ってくれるだろう、とな」

 

 たくましい……けれど、肉を抉られるほどに深く刻まれた傷が治りきらず、へこんでしまったまま塞がってしまった、いくつもの傷痕に手が触れます。

 

 それでも、お屋形様はまだ生きていましたし、どくん、どくん、と力強い鼓動も聞こえていました……その温もりには、むぎゅりとめり込めるほどにしっかりと触れていたのです。

 

 私は涙ぐみながら、お屋形様の胸の中で、信徒の皆に見せてはいけない弱い部分をさらけ出しました。お屋形様は何も言わずに頭を撫でて、私の言葉が外に漏れないように、すっぽりと覆い隠してくれました。

 

 ……涙を流して、泣き言を漏らして……それから……すっきりした頭を上げた頃には、お日様が完全に顔を出して、私たちを見守ってくれていました。

 

「…………眩しくて、温かい……天子様みたいな……〝光〟……」

 

「……ああ。あやつに〝攘夷〟の意志を託されたおれが憧れ、目指したものだ……とうとう、辿り着くことはなかったがな……」

 

「……え……?」

 

 お屋形様は、枕元に立て掛けていた二振りの大太刀をちらりと見やって……ごろん、と私と立場を逆転して布団に寝転がり、私の大きくない身体を胸の上で抱いて、手慰みのように肩や首筋を撫でました。

 

 そのくすぐったいばかりで、なんとなく愛撫に近い気持ちよさがあるじゃれつきに身をよじりながら、私はお屋形様の物憂げな顔を見つめます。

 

「風真よ。何故おれが、竜皇の宮がある此の場所――竜禪特区の名を〝イサリビ〟と定めたか、わかるか」

 

「イサリビの由来……? いさりび、っていうのは……夜漁をするときに焚く篝火のことですよね……? 漁のお手伝いをしているときに、そう聞きましたけど……漁ができる場所だから、ではないのですか?」

 

「間違いではない。だが、そもそもの話として……漁火は、魚が光に群がる習性を逆手に取ったものだ。『そこには魚が求めるものなど何もない』にもかかわらず、光に惹かれて集まってしまったが故に、魚は喰われてしまう……そういった、忌むべき名として付けたのだ」

 

 朝日を見つめ、私の肩を抱く力を強めながら……お屋形様は、ひた隠しにしようとする心情を滲ませながら呟きます。

 

「おれは奇跡を体現した〝龍神の神子〟として曖昧に祀られ、いつしか『龍神自体の神格すらも背負ってしまっていた男』に過ぎぬ。武家に見初められて仏教と習合し、同胞を源流とする天崇と張り合うまでになり……やがて、此の地を守る〝刃〟と相成った」

 

「……残された記憶に触れたゆえ、存じております……でも、お屋形様は、ここに実在している御人ではありませんか……! 『何もない』だなんて、そんなことはありません……! ここに、ちゃんと貴方の命が在るじゃないですか……!」

 

「…………だから、だめなんだよ。それは、ウェニキスにも見抜かれた……竜禪の最も秘すべき〝弱さ〟なんだ」

 

「………………え……?」

 

「おれは現人神に成れておらず、ただの〝神性を帯びただけの人間〟でしかない。『此の地を守る』という大役を担うには、本当は、人としての心を捨て去る必要があった……だが、何千年経とうとも、それを為せずにいたんだよ」

 

 お屋形様は私の耳元に顔を寄せ、くだけた物言いで――〝神様らしくない言葉遣い〟で想いを紡ぎました。

 

「そして、おまえと……風真と出会ってから……『民を守れるなら、神もどきの立場を半永久的に受け入れる』という〝妥協〟すらも揺らいでしまった。今のおれは……『愛する者の〝今日〟を守る』ために、利己的に生きているだけだ」

 

「……お屋形様……? いったい、何を……言って……?」

 

「……風真。おまえが強くなるたびに、おれは弱くなっていった。お前を深く愛するほどに、おれは神もどきの立場を疎むようになった……『おまえを、人として愛せたらどれだけ幸せだったか』を夢見るようになった……いつしか、おまえと別れるのが……おまえとの〝今日〟を失うことが、何よりも怖くなった……」

 

「………………お屋形様……」

 

「……情けないだろう、風真……こんな軟弱者が神だとは思えないだろう。だからおれは――」

 

「――関係ないですよ、そんなの」

 

 私はお屋形様の言葉を遮って首元に手を置き、ぽんぽん、と震えていた肩を叩きました。そして、上げさせた顔に唇を寄せて、接吻を重ねて――ふう、と――淡色に煌めくソウリョクを――お屋形様への揺るぎない信心を注ぎ込みます。

 

「ん……ぷ、ふぅ……ふはぁ……♡ お屋形様の心が、強くはないことは知っていますし……『それでも決して折れなかったこと』も知っています。これまで、ずっと、ずうっと、人々の願いに応えて――私たちの営みを守ってくれた事実も知っていますよ」

 

「……風真……しかし、おれは……」

 

「いいじゃないですか、べつに。もともと神様ではないのですから、〝神らしくない〟としても。私やイサリビのみんな……いえ、竜禪信仰を大事にしてくれる人は、『ミヤ様が神様だから』ではなくて、『ミヤ様が〝今日〟を守ってくれるから』、今も信じてくれているはずですよ」

 

 此の地を余すところなく巡り渡り、人々の信仰や想いに触れてきた私が胸を張って、芯を通した声で断言します。

 

 此の地の信心はとても曖昧で、願いも利己的なものばかりで……だからこそ『〝ミヤ様〟という便利なものに、都合よく祈りを捧げている人がほとんどだ』ということは、身を以て理解していたのです。

 

 そうなれば、お屋形様の献身的な態度が守ってきたもののかたちが、おのずと見えてきます。進化を望まず、『此の地で過ごす〝今日〟を守ってほしい』と願い続ける人々が、今もミヤ様の存在と力を信じていることこそが、お屋形様の所業の裏付けになっていました。

 

「貴方がこんなにぼろぼろになってまで、『神として信徒や此の地を守ろうとしてきた』……そのご意思と、果たしてきた大任は、紛れもない本物です。それこそ、信心が薄かった私でも気づいているほどですからね♪」

 

「…………っ……」

 

「漁火……お屋形様の言う『かたちなき〝光〟』に魅せられた人々には、本当に、いろいろな人がいました。でも、敗北した私を受け入れてくれて、弱体化した貴方を〝ミヤ様〟と慕い続けてくれる――〝竜禪の現状〟すらも信じてくれる人たちが居ます。その方たちにとって、貴方は……いえ、私たちは、ある程度の〝光〟に成れているのではありませんか?」

 

 私は、マルテーサに言われた言葉と頬の痛みを何度も、何度も反芻して、自分に言い聞かせるように語りました。もしかしたら、こうして諭す立場が逆になっていた未来も、十分にあり得たことだと思ったのです。

 

 私も強くはありませんし、弱いところを失くすことはできないでしょう。けれど、信じてくれる人たちの気持ちを裏切らないように、頑張ることだけはできる――そう、自分を信じる気持ちが生まれ始めるぐらいには強くなれました。

 

〝神〟とその〝使い〟として。お互いに、足りないものを補い合って、弱い部分を支え合って、ここまで進んでくることができました。一番の理解者であって、一番の大切な存在であるお屋形様が居たからこそ、私も頑張ってこれました……そのまっすぐな気持ちを、お屋形様と分かち合いました。

 

「…………………………そうだな……誰かの敬虔な信心を疑うのは……神であろうと、人であろうと……きっと、よくないことだな……」

 

 お屋形様は、ほんのひと時だけ、私の胸に顔を埋めて……やわらかな母性を求めた場所を、静かに濡らしました。そしてすぐに顔を上げて、凛々しくて格好良さを取り戻した表情で……もう一度だけ、お天道様の眩しい光を見据えます。

 

「風真。おまえの願いは、今も変わっておらぬか」

 

「……はい。『此の地を守りたい』と――『好きな人たちの〝今日〟を守りたい』という気持ちは、絶対に変わりません!」

 

「その決意が、どのような結末を迎えることになっても……己の〝道〟を信じて進む覚悟はあるか」

 

「はい! ここまで来れたんです……きっと、何でもできると信じています!」

 

「……ああ。おれも、おまえのことを心の底から信じているよ」

 

 一糸まとわぬ姿のまま、誰にも、何にも気取る必要がない場所で――お屋形様と私は縁側に座って肩を寄せ合い、お互いの心身を支えながら、力を込めた目で明るい空を見上げました。

 

「おれたちが、人々にとって、どれだけ大きな輝きに成れているのかはわからぬ。だが、向けられた信心には精一杯に応えよう」

 

「……はい……! やってやりましょう、お屋形様!」

 

 こちらを向いて穏やかな微笑みを浮かべたお屋形様に、私は満面の笑みで応えました。

 

 すると、彼はそれに釣られるように……顔に浮かべた嬉々の色味を、さらに鮮やかに映えさせていました。

 

 

 

 

 

 ……それが、〝終わり〟です。

 

 お屋形様の温もりに触れて、その笑顔の輝きを間近に感じられたときこそが……彼とまともに愛し合うことができた、最後の思い出になりました。

 

 

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