※この作品はR-18です。

朽ちぬ木の葉は色褪せず   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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第五四話 天照の光、地這いの意地

 海外からは〝キョウ〟と呼ばれる、鎖された神域にて。天上から力強い光が貫いてくる曇天を、その地に住まうほぼ全ての人々が見上げていた。

 

 雲に、何かの光景が直接的に映し出されているわけではなかった――だが、たしかに〝感じて〟いた。世界中を震撼させる大いなる純白と、とても小さな黄金色の彩りが……火花を上げて衝突している様子が、脳裏に、鮮明に浮かんでいたのだ。

 

「なんて力の差だ……あんなの、勝負になっちゃいねえよ……!」

 

「……でも、あの武士の女の子と、四本腕の男さ……ずっと、戦ってんな……」

 

「……かーっ……! 武士ってさ、いっつも無駄なことばっかりしてるよな。戦ったって、どうせ負けるのに……なんで、あんなに必死なんだよ……? バカじゃねえの……?」

 

「……なんでかは知らないけどさ……此の地を守ってくれようとしてるのは、伝わってくるよな。少し前に俺たちの村に来て……デカい魔物を退治してくれたときと、同じなんだろ」

 

「……そうなんだろうな。広い目で見たら、ちょっとしたお節介だけど……俺たちみたいに、救われる人もいる……。そういう身近な優しさが、ちょいとばかし大きく見えているだけなんだろ……きっとな……」

 

「…………けっ……!ええかっこしいも大概にしろよな……むかつくぜ……! これだから武士サマってやつは嫌いなんだ……勝利を無事を祈ることしかできない俺たちが、無能みたいに感じるじゃねえか……」

 

 その燃え上がる闘志に、素直に憧れる者も、皮肉な悪態を垂れるものも、等しく見守り続けていた。かつて、風真いろはが人助けを行ってきたその場所には――薄く光る、何かの〝軌跡〟が残っていた。

 

 ……………………。

 

 三つの輪が一カ所に大穴を開けた厚い雲の向こう――陽炎が煌めく天上の世界。そこでは、信仰によって編まれた鎧に身を包む武神が風を切るように飛び回り、焔をもうもうと巻き上げながら宙を翔ていた。

 

『フハハハハハッ!! 勇猛なる小さき命よ、凌いでばかりでは勝てませんよ! もっと私を楽しませてください……!』

 

 光の和装を翻した太陽神が手を翳す――召喚されていた神器が思いおもいに飛び交い、暁の行く手を阻みながら差し迫る。

 

 暁は、背後の天環を輝かせて、三色の焔を光線状に発しながら高速で前進する。守護者の遺骸が憶えていた、〝襲撃〟で対峙し続けた火槍の如き猛進で雲を抉るように散らしつつ、展開した竜尾刃を桜吹雪のように規則的に舞わせて、神器を根元から破壊した。

 

『ほう……神性を以て、神器の外殻を潰すとは……! その矮小な体躯には、見かけ以上の〝命〟が詰まっているようですね……!』

 

 暁の飛来に合わせて女神が両手を広げ、全身から灼熱の光炎を噴き出した。襲い掛かる一撃を阻む大炎の壁に密度を持たせ、完璧な防御態勢を敷いていた。

 

 しかし――暁は〝日輪〟を上空に放り投げて自らの顔を掴み、ソウリョクを込めて変形させていく。臀部から竜人の尾を形成し、身体をひねりながら鞭のようにしならせ――〝蛇尾竜刀〟の一閃で壁を切り裂き、回転しながら降りてきた刃の柄を再び掴んで、女神の胸元に深手を負わせた。

 

『ぐあっ……!? まさか……神の焔を破るだなんて……! 神性を帯びただけではない、神域にも届く信心の一撃……八武の力ぁッ……!!』

 

 暁は下腕の二振り――此の地を守ってきた一対の宝刀で頑丈な炎壁の穴をこじ開け、身を焼きながらも突進する。その隙に女神が呼び寄せた一刀によって斬撃を防がれながらも、鍔迫り合いの中で背後の焔を爆発させ、推進力と膂力の合わせ技で押し切っていく。

 

 女神は自らの立ち位置を強固に守っていたカラダを、強靭な推進力によって防御姿勢ごと運ばれ――風圧と衝撃によって、視界が激しく揺さぶられていた。

 

『ぐううううっ!! この、揺るがぬ意志はっ……!! ただの、信心ではっ……きゃああああああっ!!』

 

 隙を見抜いた武神の下腕が防御を斬り上げ、丸裸になった艶美な肉体に、ソウリョクの二刀が交差する。神格の核心にも届く勢いの力が刹那に結ばれ、地へと降り注いでいた〝太陽神の恩寵〟が一時的に途絶えた。

 

 暁は深い一息をつき、続けざまに洗練された豪刃を放っていく。守護者のように凛々しい態度で、腰を据えた全力の一撃を四つの刃で振り抜き続け――刃の嵐を巻き起こす。縦横無尽に駆る太刀筋は、女神の衣服と鎧殻を剥ぎ取り、柔肌の内側に響くほどの痛手を与えていった。

 

『ぐっ、うっ……あああああああッ……!! 信心だけではない……信愛……使命……悲哀……! ただの理を知る獣とは思えぬ……ヒトとしての〝命〟の鼓動が……私に……!』

 

 ソウリョクを込めた刃の放つ輝きが、ソウリョクに類する〝信仰の力〟によって成り立つ女神の身体に共振する。ぽこべぇが燃やす、熱い心の内を感じたアマテラスは――ふっ、とその目元を緩めた。

 

『……なるほど……。出会い、疑義、信念……そして、別れ……。旅の中で、多くの想いを培って……多くの想いを、託されてきた……だから其方の刃は、一色ではない彩りに満ちている……。ただ〝人〟であるだけの存在よりも、よほど〝人らしく〟生きているのですね……』

 

 深手を負ったはずの女神は、ゆるやかに手を薙がせて神の一刀を放ち、暁の攻撃を差し止める。物打ちにぴたりと合わせた斬撃には一切の澱みがなく、操る者の平常心が見て取れた。

 

『此の地を守り続けた、彼の守護者とも共有している、一つの意思――いいえ、〝想い〟でしょうか。その力強さこそ……私が見惚れた、人が持ち得る〝命〟の輝きです。此の身に刃を届かせるほどに熱い〝己の在り方〟……賞賛に値します、小さき者よ』

 

 女神は剥き出しになった乳房に手を当て、眩い光を注いで肉を抉られた刀傷を癒やしていく。そのエネルギーの出処は、遥か空の彼方に光る日輪だった――決して、生物が届き得ぬ場所にある、絶対的な〝力〟の存在が浮き彫りになる。

 

 暁は静かに戦慄しつつも、構えた四振りの刃を陽光に煌めかせた――その瞬間、遠くに煌めく天円がきらりと鋭い光を放ち――武神の四肢を付け根から断ち切り、傷口を焼き焦がす。

 

 体幹を崩す衝撃――遅れて、意識を焼き切る激痛が走り抜けた。乱れて吹き飛ぶ腕と共に、宝刀が無様に血飛沫の中を舞う。力の差――そして〝格の違い〟を見せつけるような、あまりにも無慈悲な攻撃だった。

 

『ふふ……痛みに呆然としていてよいのですか? 先ほどまでの間髪入れぬ攻め手は最善策だったと思いますが……ああ、これぞ正しく竜頭蛇尾。長くは続きませんでしたか』

 

 太陽神は手の平を広げて暁へと指先を向け――刃のように鋭利な閃光を無数に射出する。鉄をも融かす熱槍の横雨が武神を襲い、白銀の装束や黄金の鎧殻、黒鱗の装甲を突き破って肉を抉り焦がした。

 

 四本の腕を全て失い、身体に幾千の風穴を開けられ――背後の刃翼に分割していた魂すらも傷ついた暁は、途切れる意識を苦悶の煙に巻かせていく。

 

 その時――半濁する世界の中で、忘れられない声が聞こえた。

 

 

 

 

『【生きててほしい】って言われたのも……こんなに愛してもらえるのも……すごく嬉しかった。〝そういう未来〟も、ぽこちんやいろはちゃんと一緒ならアリだと思った……でも、そのためにぽこちんが戦えなくて、一生後悔しちゃうのはナシ。うん、そんな感じ』

 

 

 

『人が地面を歩き続けることを苦しく思ったときに、救いを求めるように見上げたそらに――いつも〝私〟が輝いているように――』

 

 

 

『ぽこべぇ。風真に最も近しい友であり、おれが知る最も勇猛な武士である其方に――おれの力と〝命〟を託したい。去らねばならぬおれの代わりに、この子を守ってくれるか』

 

 

 

 ――たくさんの気持ちと触れ合ってきたこの胸には、紡いでいきたい想いが燃えていた。

 

 そのために、刀を握る必要があるのなら――腕を増やしてでも握り続けるという、固い意志が根づいていた。

 

『……ムッ……!? 武器を振るう腕すら失い、心を焼かれ……なおも立ち上がるつもりですか……!! それが〝命〟の在り方だとしても……そうまでして、無謀を貫くのですか……!?』

 

 暁は――ぽこべぇは声なき咆哮を上げて空震を発し、鎧殻を高々に鳴らせて天を轟かせる。福音を告げる鐘が響く中で、焼き塞がれた腕の付け根から肉芽を生やし――新たな二本の腕を形成して、完全なる人型の存在となって再臨した。

 

 黒布から赤き眼光を貫かせ、筋骨隆々の腕を広げてソウリョクの帯を伸ばす。落下しかけていた四振りの刀を全て回収し、アマネに託された〝日輪〟と〝月輪〟を背に携え、守護者から託された〝アメノムラクモ〟と〝クサナギノツルギ〟を両手に構えた。

 

『……ッ……守護者の役……国守の刃……! 何を、するつもりですか……!?』

 

 神々しい姿の武人は、内なる意識の中で明鏡止水に達する。澄み切った静寂の中に、ゆらり、と一つの焔が芽生えた刹那――背後の天環を激しく回転させながら、足元の焔を噴火させたように滾らせた。

 

 ――守護者の力と命を継いだ、天星竜暁皇命――彼の者は、たった今、武の究極にて〝壁〟に手を触れる。マホラガ、キンナラ、アスラ、ガンダルヴァ、ヤシャ、ガルダ、ディヴァ――ナァガを内包する竜禪、天使たちを崇める天崇、そして夜空の一番星に願いを託す明星。

 

 長き旅路にて、主従が深く関わった十の信仰が光となり――激しい光が炸裂する中で、両手に握った二つの力がぶつかり、輪郭をぼやかす。分かたれていた御神体と形代が互いを削り合い、神性を孕むソウリョクを〝つなぎ〟として補填する。

 

 大いなる輝きの中に映った一つの影は、武人の手に合わせて光球を縦に裂き――絶世の美麗を彩る神代の白刃が〝壁〟を切り裂き、遥かな時を越えて空に再臨した。

 

『――と……〝十束剣〟ッ……!? まさか……この者が……神ならざる者が、届いたというのですか……我らの領域まで……!!』

 

 力強い剛腕が小刻みに震えるほどのエネルギーを持つ、人の領域から一線を超えた神の力。ひいん、と涼やかな音とともに時空を切り裂く神刀を振り抜き、明神は両手で自らの神位にふさわしい武具を構える。

 

 黄金で縁取られた白銀の刀身には紅玉色の樋が巡り、直線的な紋様が描かれている。存在するだけで空気を怯えさせるほどの圧力が周囲に波動を広げており、物々の境界線をじわりと乱していた。

 

『……驚きましたね……人の子であれば、必ず発狂するほどの〝空虚〟に動揺すらしないとは……。神の域に達してもなお邪悪を抱かず、貫く〝命〟に一切の乱れを許さない……これが、〝武士〟の在り方ですか……』

 

 住む次元が異なるヒトには、決して心を向けない女神が……ほう、と思わず感嘆の吐息を漏らす。このような偉業は、過去から未来までの生物史を総覧しても、指折りの奇跡だったのだ。

 

 対する明神は、特別な感情を抱かず――〝いつものこと〟として信念を握り、心に永劫の炎を燃やしていた。

 

 例え相手の力が無尽蔵だったとしても、〝風真いろはの笑顔を守るため〟なら――何を相手取っても〝負けられない〟。主と分かち合った想いは、自分自身の〝命〟の在り方を力強く固めていた。

 

『……その目……。ああ、そういえば、もう一人……信心が怠惰に色褪せた、此の地にて……私の下まで辿り着けた者がいましたね……。旧教の社を全て巡り、人々に神の奇跡と明日への希望を届け続けた、血と慣習に嫌われた最後の天子が……』

 

 心を震わせる立ち振る舞いに興奮していた女神は、たおやかな手指を悩ましげに頬へとしならせ……口惜しさと哀れみを混ぜた色合いの微笑を浮かべた。

 

 その刹那――明神は残像を焦がして姿を消し、太陽神の顔に影を生む。目にも留まらぬ敏捷で敵対者に飛び掛かり、女神の美貌を叩き潰すように刃を振り抜いた。

 

 しかし、太陽神は踊るように和装をなびかせて、神域の一閃を優美にかわす。そして空の上を泳ぐように滑りながら、光の槍を幾本も出現させ、明神に向けて射出する。

 

『大いなる信仰の首長に求められる〝民草を導くための光〟を持ち得なかった、ただの人の子……優しさと使命感だけで大業を果たし、〝ないもの〟を神である私に望んだ……。芯の強さと気概こそ褒めたものですが、肝心の望みが〝復古〟とは……ふふ、神というものへの理解が足りませんでしたね』

 

 暁は、風を圧縮させた透明な足場を蹴り、雲を尾のように引きながら女神に接近して宙を乱れ斬り――幾千の白刃で軌跡を結び、時空を裂く刃の包囲網を展開した。

 

『神が力を与えるのは、己が存在を信仰する者のみ……信じぬ者は救えない。其方も感じたとおり、天崇はあくまで天宮に身を置く高位の人間たち――〝天使〟を崇めるための信仰に成り果てていました。彼女の信心は澄み切っていましたが、あくまで天神・ディヴァを尊ぶものでしかありません……故に、〝私〟は〝彼女だけ〟を救う手を差し伸べた……けれど、この手が握られることはありませんでした』

 

 斬撃の隙間を縫うように風を水平に滑る女神は、わずかに苦笑する。身をくるりと翻しながら、神器の刃で無数の斬撃を撫でていき――甲高い音を宙に響かせ、火花の雨を世に雲下に降らせていく。

 

『人として、立派な〝命〟でした。その一方で、天子としては我欲が足りなかったのでしょう……民草を想う優しさでは、周囲の心を温かく照らせても、時代を導く光には成り得ないのです。あの時、彼女が私の手を取って、甘い心を切り捨てていれば……違う未来もあり得たかもしれませんが……』

 

 あくまで冷徹に人の世を見下ろす女神と意識を交わすなかで――ぽこべぇは、時空天子が神との取引に応じなかった理由を、心のどこかで察していた。

 

 人の未来を守るための力――黄金の輝きを孕む面を強く滾らせ、四肢を軋ませた明神は炎を噴かせて空を疾駆する。空を刻む神の連刃を掻い潜って再接近し、筋肉を隆起させた神代の一閃で光の竜巻を起こして防御を弾き飛ばす――そして、背負っていた二刀を振り抜き、太陽神の装甲を剥ぎ落としながら衝撃を与えた。

 

『がッ……クッ……!! 容赦も礼儀も欠いた踏み込みを、また――なぁッ……!?』

 

 暁は二刀を女神の懐に突き刺してから豪炎を撒き散らす宙返りをし、空に舞わせていた十束剣の柄を握り込む。共振する力を震わせ、両手を高く上げた体勢のまま腰を据え――一刀の下に、太陽神を叩き切った。

 

『が、はっ――ああああああああああああああああッ……!! こんな……馬鹿な……ッ……!! 私が……アマテラスオオミカミが……いやぁあああああああああああッ!!』

 

 太陽神の一側面を両断した明神は、足元を燃やす混色の焔を爆発させ、その体躯を高速回転させる。丸鋸のように浴びせる回転斬撃は幾千度も、幾万度も女神の〝存在〟を傷つけ――痛烈な悲鳴と共に、地へと堕ち行くのだった。

 

 ……………………。

 

 人造聖母たちが快楽に喘ぐネムフリャの街、その最も高い場所にある太陽の祭壇では――液状の火花が幾度も散り咲くほどに、激しい攻撃の応酬が続いていた。

 

 いろはがソウリョクをまとわせた刃で斬りかかり、対する毒島は光る手の平で斬撃を弾く。毒島が握った光の砲弾が、手元から伸びるように射出されると――いろはが刀の棟を手で押さえながら光弾に合わせ、弾道を逸らすようにはじき飛ばす。

 

「ハッハッハァっ!! そら!続けて行くぞ!!」

 

「ッ――また、それでござるかっ……!! 趣味が悪いッ……!!」

 

 いろはの猛撃を身軽にかわした毒島が手指を淫らにひねり、足元から伸ばした光薔薇の蔓に純潔散らしの螺旋を描かせる。

 

 女陰から侵入して子宮を貫こうとする下卑た攻撃を避け、いろはは〝蛇腹舞〟で壇上を跳ねまわり、縦横無尽の斬撃を繰り出した。

 

「ぐっ……ク、クク……!! 表皮を撫でるだけの振り抜き――刀を使った愛撫にしか思えないぞ!」

 

 しかし――毒島は信仰をまとった手と〝太陽神の恩寵〟による堅牢な防御や、肉を波打たせる機敏な動きによって全ての攻撃を回避する。最後の一撃を避けきったところで、毒島は大きく身体を開いて、背後に白濁の鞭を構築し始めた。

 

 その瞬間――雲の上から生々しい轟音が響き渡り、毒島の身体を覆っていた陽光色の輝きが弱っていく。傷の治りが遅くなり、頑強だったエネルギーの鎧が揺らぎを見せ始めた。

 

「なっ――ソルが、押されているのか……!? あの豚女神……何を遊んでいるのだ……!?」

 

「――今だぁッ!!」

 

 長き接戦の中で見抜いた〝クセ〟を逆手に取り、いろはの影が毒島の懐に飛び込む。体勢を低くしたまま足を天へ振り上げ――突き出た三段腹を、氷の力をまとった蹴打で脂肪の壁をめくり、見えた体幹に回し蹴りを直撃させた。

 

「ぐおっ……!? こ、れは……ウェニキスの……!!」

 

「そうですよ――貴方が傷つけた、ひとりの女の子の気持ちです!!」

 

「……ハッ……! あんな、偽物に……たかが性処理道具に、気持ちなどと……!!」

 

「そうやって、〝命〟をモノ扱いするから……貴方はッ……――『二武・重牙』!!」

 

 いろはは精神を研ぎ澄ませ、一振りの刃を以て上下から挟む斬撃を繰り出す。猛獣の爪牙のように噛み合う一撃が毒島の肉体を噛み潰し――無防備になった肩に、鉤状に曲がった弾丸を撃ち込んだ。

 

「『テンプテーション』ッ……『四武・夢綴』……ッ!!」

 

「が、はっ……!! この、程度ッ――ぬううううううっ!!」

 

 弾丸に繋がっていたワイヤーで脂ぎった中年男を引き起こし、隙の無い連携で続けざまに刃を叩き込む。四連撃の終斬で前方に弾き飛ばし――いろはが、握った〝信念〟の刀身を虹色に輝かせた。

 

「『七武・極虹』――『六武・繚花』ぁあッ!!」

 

 極光の如き虹色の七連刃が脂身を切り抜け、焔や氷などによる鮮烈な一撃が体内に蓄積する。締めに男を地面に叩きつけ、刀身から咲かせた無数の花刃を大振りで吹き飛ばし――乱れ散る花嵐によって、中年男の肉体を細切れに斬り刻んだ。

 

「はぁっ……はぁっ……!! これで、少しは…………ッ……!!」

 

『……クク……ハハハ……!ハッハッハ……!! たしかに、少しは痛かったよ。だが……僕の〝命〟は殺せないなァ……!』

 

 焔や電流の余韻が残っていた脂身の細切れはぶよぶよと泡立ち、再び人の身体を形成する。厚く張り巡らされた雲全体が輝き――地表まで届いた光に覆われた毒島の身体が、完全に再生した。

 

「ふう……肉体的に死を迎えるたびに、生まれ変わった気分だよ。一週間も経てばこの感覚を忘れてしまうのが難点でね。温泉みたいなものだ」

 

「かざまの攻撃では……はぁ……ふぅ……温泉で、くつろぐ程度の刺激しか与えられないとでも……?」

 

「クク……十二分のパワーだがな。少なくとも、以前戦ったあや――いや、鬼神の女の子と同等以上か。普通の人間だったら、僕には傷一つ負わせられないよ」

 

「……それは、光栄でござるな……。くそ……けっこう、本気だったんだけどな……」

 

「ふむ……ではもう、諦めるかい? ここで降参してくれるなら、多少の反発もおイタで済ませていい。研究材料にして絶頂漬けにするぐらいで許してあげるよ?」

 

「……はっ……!! もう、勝った気ですか……? かざま、こう見えて負けず嫌いなんですけど……!!」

 

 いろはは大きな一息をつき、身体から余計な力を抜いていく。下腹部に刻まれた〝八武の紋〟に刻まれた文字を、順繰りに蒼く燃やし――いろはの心から始まった想いが、書き写した〝信心〟を繋いで増幅していき、少女の全身から輝かしいソウリョクを湧き上がらせる。

 

「……八武信仰を再興させて得た力か。自分の心から生じるソウリョクを、他者の信心を介して循環させることで、自分で消費できるようにする想いの技法――〝自信〟だったか。紛れもなく、個の〝命〟が辿り着いた人生の境地だ。淀みなき光が清廉に脈打つ様……見ていて、とても麗しいよ」

 

 凛々しい顔でいろはが刀を構え、対峙する毒島が果てなき力を握り締める――その刹那。大きく割れた雲の隙間から何かがこぼれ落ち――金属が連続して風を切るようなけたたましい音とともに、祭壇に肉塊が着弾する。

 

「きゃっ――わああああっ……!?」

 

「なんだっ……!? 何かが、降って――ッ……!?」

 

 爆発のような衝撃が祭壇を大きく陥没させ、全体に亀裂を走らせる。爆心地からは石つぶてを巻き込む大風が吹き荒れており――その土煙の中には、肌身をわずかに焼かれた二臂の明神と、全裸でだらしない開脚を晒していた太陽神の姿があった。

 

「暁ーっ!! あ、あれっ……なんか、腕の数が減ったのに……もっと強くなってる……!? なんか、すごいことになったね……!?」

 

「……は……? お前、まさか……ただの獣畜生に……アマテラスオオミカミの側面を剥がされたのか……!? 何やってんだよ……おい……役立たずの豚女神がァ……ッ……!!」

 

 脂ぎった顔を憤怒で歪めた毒島は、肩をいからせて女神の下に近寄り、開かれていた股を潰すように蹴りつけた。そのまま、ガスガスと女陰を足裏で踏み抜き、骨盤を振動させて子宮を外から震わせる。

 

「あぎゃっ!?♡ぎゃっ♡あっ♡な"ぁあああああああああッ!!♡ なにっ♡なにがおこっ――ほっ♡ぉおおおおっ!?♡ くりっ♡クリっ♡ちゅぶれっ――ひっ♡ぎいぃいんっ……!!♡」

 

「このっ!!このっ……くそっ……!! 人の願いも叶えられないゴミ女がっ! 僕の世界統一すらも手伝えないのかッ!? 神や人間どころか!ただのタヌキに負けやがってッ!!」

 

「ぎゃっ♡ほごっ♡お゛ぉおおんっ……!!♡ ごほっ♡ごっ♡ごめんな、しゃいっ♡弱いマ×コでっ♡ごめんなしゃっ――ふぎゃっ!!♡ひゃっ♡ひゃああああああんっ!!♡」

 

 陰唇を爪先で抉られ、陰核をかかとですり潰され――神格の一つを失ったソルが、ガクガクと腰を振って絶頂潮を撒き散らす。その無様な姿に、さらに激高した毒島は額に大量の青筋を浮かべて――ブチリ!と千切れさせた。

 

「……はぁー……久々にキたよ……だから他人は信用できないんだ……! これ以上豚女神が醜態を晒せば、僕の信仰が揺らぎかねない……ここで、一気に終わらせる……! 風真いろはの心を折ることで……!!」

 

「……かざまの、心を……? 毒島、貴方は何を――あッ!?」

 

 毒島は、絶頂の余韻に浸りながら恥蜜を漏らしていた女神の頭を掴んで持ち上げる。そして、〝道具〟の下腹部に手を当てて、肉をすり抜けるようにずぶずぶと侵入させていき――。

 

「んぁ……♡はぁっ――はぎゃっ!?♡ぎゃ♡がぎっ……ぎぎっ……ふんぎぎぎぎっ……!!♡ わ、割れる……弾けるっ……私の、から、だっ♡あっ♡あっ――あぁあああああああああああああああッ!!??♡」

 

 ――ぶぢゅり、と。毒島は、女神の体内にあった複数の神格を握り潰して、揉み込むように混ぜさせていく。すると、ソルの美麗な顔が白目を剥き、涎と鼻水を垂らして――どろり、と形を崩した。

 

「ぐふふ……! 足を引っ張るぐらいなら、僕と一つになれ……豚女神……! 共に〝向こう側〟を見ようじゃない……がっ……べっ…………ばばばばばっ……!!??」

 

 毒島はとろけた神肉に食らいつき、その存在をぢゅるぢゅると啜る。体内に褐色の血肉が入り込むたびに、ずぐん、ずぐん、と毒島の太い身体がさらに大きく膨張していく。

 

『かはー……ハァ……ハァ……!! もっとだ……ソル……もっと、お前の全てを寄越せ……!! 僕は……お、俺はぁ……!!この世界を、自分の〝夢〟で満たすんだぁアアアアアアアアアアッ!!』

 

 爛れた肉の咆哮が曇天に反響する――その瞬間、毒島のはち切れんばかりの脈動が突然止まり――ぶづり、と厚い皮が弾けるように肉体が爆散した。

 

 〝枠〟を失った肉は紫色に腐り、菌糸のように増殖しながら空を昇り――ふしゅう、ぶしゅう、とどす黒い血飛沫を撒き散らして、生命全てに不快感を与える肉毒霧を漂わせる。

 

「な……に……あれ……? 本当に……世界を、貪り尽くす気なの……!?」

 

 いろがが震えながら見上げる先では――この世の終わりのような腐肉の海が面積を増して空を覆い尽くし、その背面で陽光を独り占めして力を蓄えた。

 

 空に浮かんでいた三つの天輪のうち一つを巻き込み、黄金色に輝いた肉の荒波はさらに増殖スピードを速めて、世界中を毒肉の血霧で汚染していく。

 

 ――絶望は、それだけに留まらなかった。一定の規模までは、網目を張るように全方位へ広がっていた腐肉と血飛沫が……突然、東側の一方向にのみ泡立ちながら膨張して、急速的に汚染の悪夢を伸ばしていく。

 

「…………あっちは……イサリビがある……!! お、追いかけよう……暁ッ……!!」

 

 武者震いをした暁は、その身を竜人の姿に変えていろはを背中に乗せる。ひゅうん、と爆炎を噴かせて飛翔し、音を置き去りにする速度で空を駆け――魔の手の向かう先に追いすがるのだった。 

 

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