ぐじゅぐじゅと、毒色の血汁を滴らせながら膨張する肉塊が、無数の触手を広げて天を覆う。対する光と風を司りし竜神は、手にした〝十束剣〟を振り抜いて、蒼緑の剣閃で押し寄せる肉波を打ち祓う。
くびれを持つ触手がのたうち回るように消え去り、悪意の曇天が聖なる光によって浄化されていく。腐肉によって吸収されていた〝命〟が解放され、正しき理へと導かれていった。
綱を編むように肉紐が縒り合い、極太の聖槍と化した凶器が神性を孕む少女に差し迫る。乳房を大きく晒す柔肌を汁まみれの触手が貫こうとした刹那――十手の鍵を持つ結晶が黄金の輝きを放ち、背後に広げていた神翼が弧を描くように残像を結んだ。
――すらり、と。光が滑る軌跡には、〝斬った〟という事実だけが残っていた。鋼よりも硬く脈打っていた剛直は切断され、断面から苦し紛れに血毒霧を撒き散らすが、その全てが逆巻く風によって弾かれる。
『……お願い、暁』
瞳に映る星を輝かせたいろはが、ゆるやかな手の動きで宙を薙ぐと――しゃらり、と煌びやかな音を響かせ、周囲に創造していた刃が光風をまといながら、縦横無尽に時空を斬り裂いた。雲を散らし、光を乱反射させる蒼刃の檻が陽光を遮り、脈動する肉海を一掃する。
その激痛に震えた巨塊の一部がぼこぼこと盛り上がり、火口のように開いた穴から白濁の光弾が吐き出される。小さな集落を覆い潰すであろう大きさの高密度エネルギーはぶよぶよと不安定に蠢き、破裂する瞬間を図っていた。
『――【二武・重牙】……【四武・夢綴】……!!』
襲い掛かる肉槍の雨を華麗に避けながら空を滑り、いろはが身を翻して創刃を束ね、剣舞を踊らせる。信念で共鳴する夢幻の刀は規則的に動き、いろはの光が結ぶ人影による剣技をその場に結び――エネルギー体の中心に自らのソウリョクを注ぎ込んで、逆手に取ったように、周囲へ浄化の煌風を巻き起こした。
『ぐ、おおお……おおおおおっ……!! 風真……いろはァ……!!』
天を這いずり、心の内側までをも舐め啜るような声。肉塊の中心部が溶岩のように隆起し、醜悪な頭部に異形の顔を形成して、眼窩や口から腐った白濁汁を垂れ流す。
『ああああ……アアアアアアアアア……!! 僕は……夢を、叶える……!俺は……世界に、理想を〝創る〟……!! 人々が、本当の〝強さ〟を誇れる世界を築くために……!!』
『っ……!? 毒島、三段腹……意識が、残っているの……?』
『滅する……滅さねば、ならんのだ……!! 竜禪を――人の世に蔓延る、怠惰を赦さんとする……進化を知らぬが故の〝独善〟を……!! 安寧という名の……〝退屈〟を……滅ぼさねば……人類史は、進まないのだから……!!』
『…………毒島ッ……!!』
竜神は神翼を広げて風を斬り、脇目もふらずに突進する。芽生えた頭部にぶつかるように飛び掛かり、周囲を埋め尽くさんとする肉欲の触手包囲網を一閃で吹き飛ばし、浄化しながら――汚染の〝神核〟に、ソウリョクをまとわせた刃を突き立てる。
『がっ……あああああああああああっ……!! 竜、禪……を……人の進化を、阻むものを……!!』
『人の進化を望みながら……どうして世界を穢そうとするの……!? このままでは、人の住める場所が無くなってしまうのに……!!』
『ぐぶ……ぐぶぶぶゥ……!! この程度で滅びるほど……人という種族は、弱くない……! 弱肉強食の世界で……食われる側だった僕が、今も生きているのだからな……!!』
『……っ……〝貴方〟という一つの物差しで、世界全部を測ろうとするから……人の力を〝信じすぎて〟しまうというのに……!』
いろはは肉塊に足を掛け、神々しいばかりの刃を泥臭い風体で貫かせる。痛みに耐えて、苦痛を取り除こうと這い寄る肉の網を竜尾の一閃で弾き飛ばしながら、〝毒島三段腹〟と向き合い続けた。
『貴方は……人として、違う生き方だってできるはずだよ……!! こんなにも強い意志を……熱い想いを抱いているんだから……!!』
『――黙れッ!! が、ふっ……!! ハーッ……ハーッ……! 僕を〝人〟として扱うような……人徳者の、君には……分かるまい……!! 君が見ているよりも、世界は広い……人間は汚い……!視野を広げれば、その事実に気づくだろうさ……!!』
『そんなの……私だって、知ってるよ……!! 酷いこと、たくさんされたよ……人の怖いところ、たくさん見てきたよ……!! この身体が……忘れたくても、憶えてる……!』
少女は、自分で開けた胸の風穴に手を当てる。その〝力の収束点〟には、〝蛇〟への畏怖やいろはへの情欲などの、目を覆いたくなるほどの穢れも風となって流れ込んできていた。
『……そういう人も、たくさん居るよ……もしかしたら、それが人間の本質なのかもしれないよ……! それでも、私は……私を信じてくれた人の想いを、信じたい……この溢れんばかりの願いに、応えてあげたいと思うから……!!』
自分の心身を傷つけて、終わらぬ痛みに耐えることになってでも――向けられる〝全て〟の想いと向き合う。その覚悟を決めたからこそ、いろはには、洗練された信心の光と――心からの情熱が生む、煌めきの熱風が集まっていく。
いろはのまっすぐな純心が風となり、キョウだけでなく世界中へと吹き抜ける。そのたびに、感銘を受けた者たちの心からソウリョクが溢れて、いろはの力を増していった。
『……ぐ、ううううっ……!綺麗事を、平然と言って退ける……眩しいほどに……!! 君のような努力家が、こんなにも損な役回りを引き受けて……相応の報いを得られない……! こんな世界……おかしいと思わないのか……!?』
『…………おかしくなんかないよ。誰かがこうして【やった】から、そこに結果が付いて回っているだけで。得が欲しくてやってきたわけじゃなくて……私は損なんて、一つもしていないから』
いろはは、涙ながらに自分を止めようとしてくれたぽこべぇとのやり取りを思い出す。だからこそ――毒島が押しつけようとする〝理想〟が、人には理解されない優しさによるものだとわかってしまった。
『ッ――ぬ、ぁあああああああああああッ……!! どうして、君やあいつのような人間ほど【欲しがらない】……!【報われたい】と願わないんだ……!? 努力は等価で報われるべきだろう……そうでなければ、平等じゃないだろう……!? そんな歪み……放っておけるわけがない……!!』
『…………毒島……殿……。貴方は、やはり……』
『……やめろッ!! 僕を――こんな悪人を、そんな優しい目で見るな……!! ああクソ!こんなハズじゃなかったのに……!! 善も悪もない……世界中の凡愚共が、君と同じように努力をできる人間だったら……世界は、もっと良い方向に進めた……! こんなにも、簡単なことなのに……!!』
『ッ――自分の力が及ばない場所まで、視野を広げてしまうから……他人が【できるのにやらない】と思い込んでしまうから……! そう、諦めるしかなくなるのでしょう……!? ちゃんと頑張っている人がいます……毎日を〝生きて〟いる人もいます……!! 目の前にある、大切なものに意識を向ければ――』
『――そんなものッ!!恵まれた人間にしか有りはしない!! 君には【守りたい】と思えるものがある……僕にはもう、【僕の中にしか】それがない……此処にはッ!!その違いが〝在る〟だけだッ!!』
毒島の眼光が鋭く瞬き、腐肉の増殖を急速に早める。土石流のように爆発した奔流が空を塗り潰し、残る二つの光輪のうちの一つを巻き込んで――キイイイ……!と金属を激しく擦り合わせるような音を轟かせ、腐肉全体を明滅させる。
『爆ぜろ……爆ぜろぉおおおおッ!! 人の原罪を冷笑し、鼓動を数えるだけで満足する――退屈な〝命〟共々、吹き飛ばせェッ!!』
『なっ……自爆、する気ッ……!? 暁ッ!力を貸してッ――私と共に、〝竜皇〟の奇跡をッ!!』
呼び掛けに応じた気高き武士の魂が、咆哮の如き空気振動を唸らせる。天花の結晶が激しく回転して金色の光を周囲に漂わせ、神性の黄金糸を編んだ両腕を形成した。
神威を握る手には〝日輪〟と〝月輪〟が収まり、ソウリョクを巻き込みながら刃を振り抜く。その二刀一閃に合わせた威風の太刀筋が、刹那の中に重なった。
『――【三武・連星】ッ!!』
剣圧を収束させた一点に光の渦が集まり、〝力〟を圧縮させていく――バチリ!と限界を越え、弾けるように炸裂した光刃の凝集が小さな銀河を生んでいた。
世界の不安を吹き飛ばす神風とともに舞い上がり――昂っていたエネルギーの一部を天上の世界へと逃がしていく。彗星の如き光が天へ昇り、空間の壁を破りながら〝命〟の輪廻へと繋がる。その、金銀に煌めく虹色の軌跡から目を逸らさず――いろはは、ひたすらに前を向き続けていた。
『お、おおおっ……何故、だ……!! 何故、そこまで……高潔な信念を握りながら……!神の座に就きながら……人に怠惰を赦してしまう……! 人を、正しき進化へ導こうとしないのだ……!!』
身にまとった力を削がれていく毒島が、力を孕む肉を鳴動させながら苦悶する。理屈を口にしながら、全てが思いどおりにならないことに駄々をこねるその姿は正しく〝醜悪〟だった。
しかし――その醜いばかりの肉塊を見ても、人々の願いを背負う竜神は、穏やかな目で、ひとりの〝人〟を見やり続けた。
『……正しき進化とか、導くとか……そういう、大それたことを言うつもりなんてない。行く道を……生き方を決めるのは、私たちを信じる〝人の心〟だから』
――その時、いろはの脳裏にイサリビの住民たちの笑顔と信心が浮かぶ――先代の竜皇が、人を守る〝刃〟であり続けながらも、人の営みには干渉しなかった理由を思い知る。
――神が〝命〟を支配せず、〝在り方〟を定めないからこそ――人々の心や社会に〝自律〟が生まれていく。必要以上に〝何か〟を頼ることなく、〝生きる〟ことに感じる幸せについて――自分の頭で考え、自分の心で決めるようになる。
――竜禪を信じ、守護者を慕う人々は、煌びやかな〝明日〟ではなく等身大の〝今日〟を望んでいた。それは、無知や怠惰が生んだ諦観ではなく――その在り方が『好きだから』、自分で進むと決めた道だった。
(……先細りに、廃れながらも……竜禪信仰が残り続けていたのは……そのように願う人が、いつの時代にも現れるから……。その人たちが、自分らしく生きられる場所――それが、イサリビで……私の家族が集う場所だから……)
【こんなに味気ない生活で満足できるなんて……逆に羨ましいですよ。こんなにも狂っていて、〝人の生き方〟として明らかに間違っているというのに……】
【あのチンケでしょうもないイサリビはですね、民に反旗を翻されてもなおリュウゼンを妄信する武家のような……〝狂っちまって救えねえヤツ〟の駆け込み寺になっているんです。だから、ウェニがわざわざ見回っているんだよ】
【この〝自浄〟は人の営みであって、あのドラゴンにはできませんから、善人を気取る住人たちがやるべきことなんだよ。信仰が棄てられることの本質も見ずに『嘆かわしい』と罵るだけで遠ざけている責務を、ウェニが代わりにヤッてあげているんです】
いろはの心に――憎まれ口ばかりを叩きながらも、〝間引き〟という嫌われ役を引き受けていたウェニキスの言葉が鮮明に蘇る。そして、ウェニキスが居なくなってから――イサリビの人々の中に、いろはが信じられないような欲を抱える人々が生まれ始めた事実を思い起こさせた。
一人ひとりの祈りや想いと向き合い、悪意も欲望も、全てを受け入れるようになった――今のいろはだからこそ、決断できること。
(……そっか……。私には、〝守りたい〟と思う人たちがいる……だから、そう思えない人たちも必ずいる……。なら、私が伝えるべき言葉は――)
――目に見える〝全員〟を救うことはできない。イサリビに居る人々を盲目的に信じ、守るだけではない。そして、目の前で苦悩する男のように、全てを一緒くたにして考えない。
『私は――〝守りたいと思うもの〟を守るために戦います。だから、信じてくれる皆殿も――私に、そう思わせてほしいのです。必ず、期待に応えますから』
――その手に信念を握った時から、心に決めていたことをさらけ出す。胸に開いた風穴から、心がこもった希望の蒼緑が溢れ出して、世界に純真無垢な〝我儘〟を届けていった。
それは、他人に見せることを恥ずかしく思ってしまうような〝弱さ〟だった。完全無欠を気取らず、万能を誇れない有限の力――それでも、イサリビの〝家族〟たちが受け止めてくれた素直な気持ちを、漂わせるように溢れさせていく。
――――――
「……やっぱりよう、お頭ァ……! ありゃあ……いつぞやに、バゴの山で鬼と一緒に歩いてた女や……! 俺らのことも守ってくれてんとちゃいますか……!?」
「せやなぁ。あん時、鬼様に邪魔されんかったら……今頃俺らは……あのバケモノと同じになっとったかもしれんっちゅう話やもんな……。なんかよぉ、フラフラ生きてんのが恥ずくなってきたわ……」
「……おう……こらあ……! あの竜の使い様……ホンモノの神様だったべ……! 婆さんよう……俺ら、ニセモンに騙されてたみたいだっぺ……!」
「……わぁっとるわぁい……!! およよ……!あたしゃが許されんのはわかってっけどな……ずっと、忘れんから……貰った像、作り直しとるから……がんばれぇ……!!」
「ふっふっふ!見えておったぞ、風真殿! 先の剣技――いやはや、彗星の如き見事な閃きであったな! さあ、今一度――この武士街に、素晴らしき剣を見せてみよ!!」
「過去となった〝塔〟を乗り越え、現在を示していた〝星〟に導かれてきたね。未来を示すのは、あの時と変わらず太陽の正位置だよ――ヤッちまいなよ!いろはちゃんッ!!」
「そーれ!祈れ!祈れえ! 俺たちが祈らないで、誰があの御方の力になるってんだあ!!」
「ああ……ミヤ様……! 信じとるよ……!!絶対に、勝って帰ってくるってよお……!!」
「……あたしらの未来……守っておくれ……!! ヘビちゃんッ……!!」
『ああんもう、じれったいなぁっ! もうちょっとこう、スマートにヤれないもんですかねっ……! ほら、ぽこちんっ!あなたの立派なヤツで、そんな祖チンなんかぶっ飛ばしちゃえっ!!』
――――――
――戦う姿を見届けていた人々の心に、胸を締め付けるような、甘酸っぱいような……不思議な感覚が芽生えていく。優れた見た目や圧倒的な力に〝惹かれる〟だけでなく、その健気な心を〝支えたい〟と思わせる――信愛の礎である〝共感〟が、世界に伝播する。
――少女の〝ありのままの姿〟が、錆びついていた多くの〝命〟を動かした。世界中から巻き起こった声援が重なり合い、反響して、空気をごうごうと轟かせる。各所で湧いた感涙が〝旋風〟を生んで、いろはの心にぎゅるぎゅると熱い想いを注いでいく。
人々が見上げる先の壇上で、皆の希望を寄せられて気高き光を反射する、夢に溢れたその姿こそは――。
『……………………本物の……アイドルだ……!!』
――毒島三段腹は、何千年の時を経ても忘れられなかった感動に打ち震えた。その、魂が痛むほどに熱くて狂おしい気持ちにさせる興奮は、〝偽物〟を作って手籠めにするだけでは満たされなかった――〝自分の手では作れなかったもの〟だった。
いろはは、思い出に耽るように閉じていた目を力強く開いた――竜神は陽光色の翼と純白の羽織を翻し、蒼緑の大風を世界へ巡らせながら、肉塊を抉る刃で未来を斬り拓く。
さん、と鈴の音のように澄み渡った衝撃が毒神を両断し、分かたれた肉体を無数の刃で斬り刻みながら、光の祝福を与え続けた。煌めきと共に踊り、温かな音色を〝外〟へ届けるその姿は、海を越えても人々の心を虜にするほどの魅力を放っていた。
『終わりにしよう、毒島殿。貴方も、もう――苦しまなくていいんだよ』
いろはが羽織をはためかせ、胸の風穴から溢れる夥しい光を〝十束剣〟にまとわせ――遥かな水平線と平行に構えた。感覚を共有するぽこべぇの身体から伝わってきた、その構えが――最愛の人の面影を重ねる。
【……なるほど……つまり、今から教わる技は〝武士の在り方〟なのですね?】
【……おれや柱たちは、そう信じているが――】
【――それが正しいのか、間違っているのかは……いつものとおり『わからない』と。だからこそ、武士は『己の進む道を〝信じる〟』のだと】
【くくっ……まあ、そういうことだ。それでは、刀を構えよ――己に注がれる〝信心〟を裏切らぬためにも、武士の信念を刃に誇るのだ】
腰を据えて、信念を強く握り込み――己が信じた〝正しさ〟から目を逸らさない。この手に収めた神域の奇跡を、一度で全て解き放つように力を集中させていく。
その背後では、神格の両腕が〝アメノハジユミ〟を構え、人々の感動と興奮を渦巻かせる螺旋大風の矢を番える。天上から滴った星色の雫が鏃に希望を灯して、周囲に神々しい蒼緑の風を煌めかせる。ギリギリと弦を張る力で世界を軋ませて――人々が託した〝命〟を輝かせた。
――二者が至るは悟りの境地。鎖された神域にて静寂を広げ、白き世に光の花弁を舞わす無音の園に――竜の一声が、一滴の雫を落としゆく。
――吹き渡れ 蒼緑の風よ ささやかに 生きとし生ける 全ての命へ――。
『――【八武・竜禪】』
――時の切れ間に、闇夜を送る〝日輪〟が花開く。無心の一太刀と悟りの一矢は刹那に重なり、大空を貫く一本の〝意志〟と成り――輝く穂先を未来に向け、光の螺旋を刻ませ、大いなる神風を波状に広げていく。
音無き疾風が、質量を持った剣圧となって閃き、波濤の如き光として空間を呑み込んでいく。少女たちが己の在り方を写したような〝風〟は、世界を覆っていた血肉の毒霧を全て巻き込み、怪物化していた人間たちを一人残らず浄化させ、その痕跡を一片も残さずに世界を旅していく。
聖なる力によって編まれた悪欲の塊が、押し潰されながら浄化されていき――ぶつり、とその発端に在った〝ふたつ〟を引き裂いた。
天輪の最後の一つが、揺らめきながら輝くばかりの空に――ひゅう、と一陣の風が吹く。音と色を失ったわびさびの世界に、再び彩りが戻っていく――その空には、きらきらと――硝子の花のような希望の残滓だけが宙を舞い、斬り放された太陽神の神格が、女児の姿となってゆるやかに舞い降りていた。
その横で――身にまとっていた物のほとんどを剥ぎ取られた男が、心地良さすら覚える美しい風に揺れながら――すう、と爽やかな気持ちにされた胸を、感動という刺激で内側から撫でられる。圧倒的なまでの〝敗北〟を感じながら――自分に心からの慈しみを向ける、見紛うことなき〝神〟の姿を認めた。
「……風真、いろは……! 君は、最高の宿敵だよ――だが……まだ、終わってないぞ……! クク……ハハハハッ……!!」
世界中に歓声を湧かせ、ソルドナーレが広めた肉欲の悪意すらも晴れていくなかで――〝重荷〟を手放させられた毒島は、なおも〝命〟を滾らせる。
視線を重ねたいろはも、八武信仰の力によって支えられていた神翼をぼろぼろと花びらのように瓦解させながら……妄執とも言うべき願いを抱く不死の宿敵と、並ぶように地表へ降りていくのだった。