高校3年になった。
そして喜多ちゃんが大変な感じになってしまった。
有名になっていく「結束バンド」の代償として、下がり続ける高校の成績。
大学に行く気がなく、行ける成績でもない私と違って、喜多ちゃんは進路で家族と揉めていた。
喜多ちゃんは私やリョウさんみたいに、高卒バンドマンになるつもりだったところを親が反対。
喜多ちゃんが受験するなら、低下した成績の回復からになるから虹夏ちゃん以上の長丁場になる。
バンド活動は当然おやすみ。
虹夏ちゃんのときはサポートメンバーでしのいだけど、フロントマンの代わりは現実的じゃない。
結束バンドのボーカルは、喜多ちゃん以外考えられない。
・・・受験して合格するならまだ良い。
不合格になって浪人しようものなら、休止期間長すぎて、そのまま結束バンドは解散しちゃうかもしれない。
喜多ちゃんのおうちの空気が悪いのか、いつも思い詰めたような顔をしているのが気にかかる。
私は早々に進学諦めているし、陰キャなわけで、喜多ちゃんにかける言葉が見つからない。
ため息を零しながら、バイトからの帰り道。
「あの・・・結束バンドのぼっちさんですよね?」
声をかけられた。
知らない人の声に、反射的に身構える。
話しかけてきたのは、今どきの女の子。
中学生くらいかな?
元気なときの喜多ちゃんみたいなテンション。
「そ、そうですけど・・・」
「私、ぼっちさんのファンで、思わず声かけちゃいましたぁ! 応援してます!」
ファン?!
見るからに陽キャな子が応援してくれるって!
「そう言ってもらえると嬉しいな、へへ。ジュース飲む?」
いそいそと自動販売機でジュースを適当に買って渡す。
「いいんですか? ありがとうございます!」
あ。
しまった。
何となく虹夏ちゃんにジュース奢ってもらったことを思い出して真似したみたけど、これをやったらお話しなきゃじゃん!
あわわわわ・・・
このままだとつまらないヤツって失望されちゃう。
女子中学生と何を話せば?!
ファンなんだから、見放されないようにしないと!
そばに公園があるので、気持ちを落ち着かせながら歩く。
こういうとき大事なことは、『余計なことを言わない、やらない』。
喜多ちゃんに口を酸っぱくしていわれたっけ。
うっ、自己紹介や全校集会でガチ滑りして怒られたことを思い出しちゃった。
へへ・・・。
「私、ぼっちさんのこと、尊敬しています!
もう・・・ギターの演奏がカッコよくて・・・キャーって感じで!
友達に誘われて、最初は他のバンド目当てでSTARRYに来たんです。ギターのことは良くわかってないんですけど、ぼっちさんの演奏から目が離せなくて・・・!」
めっちゃ褒めてくれる!
この子!いい子!
目がキラキラしてて、リョウさんに憧れる喜多ちゃんみたい。
つまり対応として理想とするべきは、リョウさん!
「そう? まぁ、練習したからね」
リョウさんならこんな風に、スカした感じに答えるはず!
「へー、すごいなぁ。私も・・・」
コミュニケーションに手応えあり!
女の子は目をキラキラさせている。
ふと、この子の姿勢が気になった。
喜多ちゃんみたいなキラキラした雰囲気なのに、妙に姿勢が悪い。
猫背気味。
そしてダボついた、体のシルエットを隠す服。
親近感を覚える。
この子・・・おっぱい大きい!
あ、視線に気づかれてちゃった。
女の子の頬が染まる。
「えっと・・・ぼっちさんも・・・ですよね?」
「うん・・・そうだね・・・。へへ、Tシャツとかさ、変な柄になるし、似合わないよね」
「わかります・・・みんなジロジロ見てくるし」
コンプレックスの共鳴。
着こなせないTシャツ。
寄ってくる視線の居心地の悪さ。
へへっと、鏡写しのように笑い合う。
陰キャの気配を感じる。
喜多ちゃんみたいな生粋の陽キャとは違う。
薄いメッキを剥がせば見えるテンションの低さ。
人の視線に対するオドオド具合。
「・・・私、元々暗いんですけど、中学デビューして明るいフリしてて・・・。でも胸が大きくなっちゃって、集まる視線がどうしても恥ずかしくて落ち着かなくて・・・」
おおぅ。
疑惑を抱いたそばから打ち明けられた。
中学デビューかー。
この子は成功したんだ。
陽キャのメッキが剥がれそうというお悩み。
私は失敗したけど、成功したらしたでそんな悩みもあるんだなぁ。
陽キャは陽キャで大変って喜多ちゃんも言ってたっけ。
「どうしたら私もぼっちさんみたいになれますか」
んん???
「えっと、私は陽キャじゃないけど・・・もしかしてそう見えたの?」
喜多ちゃんとよく一緒にいるから、陽キャのオーラが移ったとか!
ついに私も陽キャに!
「ぼっちさんが陽キャじゃないことはわかりますよ。
私、中学デビューしたこと、後悔し始めてて・・・
そんなときに、ぼっちさんが猫背で、暗そうな顔で、正面を向けないまま・・・
陰キャのままステージでカッコよく演奏してるのを見て・・・
そうなりたいって思ったんです」
えっとぉ・・・貶されてる?
憧れてるだから褒められてるんだよね・・・
うあ〜〜
なんて言えばいいんだろ。
あ、リョウさん!
そう、リョウさんならなんて言うか。
「私にはギターがあったから。自分の中に芯があればいいんじゃないかな」
私の中にあった欠片を、リョウさんが言うみたいに伝えた。
「ぼっちさんにとってのギター・・・! それがあれば私もあんな風に・・・」
女の子が息を飲む。
ずいっと身を乗り出してきた。
パーソナルスペースが侵略される。
「あの、女同士なのに変かもしれませんけど・・・っ!
私、ぼっちさんのことが好きです!」
こ、告白?!
いきなり!
はじめて会ったのに?!
また女の子だし。
「返事はいいです。私も無茶苦茶言ってるし・・・。
けど、私、これからがんばるので踏ん張れるように思い出をくれませんか?」
思い出って?
私のはてなマークを置き去りにして、女の子は目を閉じて唇を突き出した。
これっていわゆるキス待ち顔?!
大変だ。
ギャルのお姉さんも言ってたけど、年下はまずい。
高校生が中学生に手を出すなんて!
ファンに手を出すバンドマンになっちゃうし。
本当に唇にチューしたら捕まっちゃう!
よ、よ、よし! あの手で誤魔化そう。
大丈夫、ちゅ、チューのやり方ならわかってる。
唇から遠ざかって、前髪を払って。
おでこに口付けを。
シャンプーの素敵な匂いがした。
女の子はびっくりした顔で、おでこに手を当てていた。
ちょっぴり残念そう。
「ありがとうございました!
これからちゃんとがんばりますから・・・!
いつかは唇にお願いします!!!」
女の子は背を向けた。
最後に見えた横顔は真っ赤。
・・・あれで良かったのかなぁ。