あれこれと思い悩むのは、それ自体が喜ばしい事なのだろう。自分の意思で思索を巡らせるのは楽しい、そこから抜け出せないと気付くまでは。
いつ言おう、どう言おう。この胸の中にある気持ちが恋と呼ぶべきものだと知る前から、私はずっとそう思っていた。
名もない、でも無視するには強すぎる感情。背中を押してくれた恩義でも、共に切磋琢磨する仲間意識でもない。だからそう、このままの形でぶつけてしまう気だった。どうなろうが知ったことか、と。
……正直そんな状態で急にこの想いの名前を知ったのは戸惑ったし、それに次の日に突然大喜くんから告白してくるなんて予想できなかったけど。まあうん、一応年賀状にそっちの住所は書いた。とは言えスキー場からは二時間くらいかかるし、その上ワカサギ釣りに小並湖まで出掛けていたんだから逢えるわけがなかったのにな。大喜くんの情熱家っぷりには恐れ入る、本当に。
しかし私もまあ『付き合うってことでいいんだよね?』なんて、どうにも不粋な事を言ってしまったっけ。あそこまで言わせて受け入れて、それでまだ付き合わないとか有り得ないのに。
そんなこんなで冬休みの終わり、私には人生初の彼氏が出来た。そして、そのせいで私は気がついてしまった。
私、変態かもしれない。
大喜くんを見ていると、どうにも目のやり場に困る。何で男子というのは、ああも無防備なのだろうか。そういえば去年の夏ごろの大喜くんは平気で上半身裸になってたな、今は寒いからあんなことは無いけどでも――もしそうなったら困る。物凄く、困ってしまう。下に何か着ているなら私だって人前でも普通に着替えられるけど、肌を見せるようなのはちょっとなあ。
いやまあ、この先どうせ見せあうことになるんだろうけど。……うん、多分なる筈なんだよね。
と言うか早くそうなってくれても良いんだけどな、とか思ってしまう辺り私って何処かおかしいんだろうか。
大喜くんの真っ黒で少し堅そうな髪に触れようとしたり、ふとした拍子に意外と逞しい手へと視線が釘付けになってしまったり。とにかく私は大喜くんを好きでいるのと同じくらい、大喜くん
勿論気を抜けない立場上、一人であれこれしたりはしない。そもそも私は小さい頃お母さんに叱られて以来、よほどムラムラと来ない限りひとりえっちはしない派だ。いや、そのつもりだったんだけど。
最近は疼いて疼いて仕方ない、朝起きると胸がチクッとしたり下着が汚れてたりは日常茶飯事になってしまった。全く情けない、こんなんじゃその内大喜くんに愛想を尽かされてしまう。
何とかしないとなあ、本当に。
「でさ、なんとかなんないかな……」
「いや私に聞かれても」
まあ良いんじゃないちーの人生だし、とコーヒーを一啜りする花恋に溜め息を一つ。人を変態呼ばわりした張本人が、どうしてこうも無責任なんだろうな。いつも相談に乗って貰ってるし助かってはいるけど、その辺はもっと考えてほしい。
しかしまあ、なんとかしろと言われても困るのは事実かもしれない。正解が分からない以上、なにをしても間違っている気がしてしまう。この状況でアドバイスしてもらっても素直には聞けないだろうな、我ながら面倒な女だよ実際。
そんなのに寄り添ってくれる辺り、花恋も花恋だけどさ。それ言ったら大喜くんなんか相当だな、これを好きだと言うんだから。
「なんにせよ、さ。ちーは考えすぎるところあるからね、変に構えない方がいいかな。とりあえず大喜くんは良い子なんだし、正面から素直にいけば良いよ」
まあそれは、……真理かもしれない。私が動けないのは、大喜くんが私を
そう、私はバカな癖に考えて失敗するタイプだ。どうせ無い頭なら使わない方が良い、勘とノリと勢いで行ってしまえ。
――そうだ、それで行こう。
考えるよりも先に動くよう鍛え上げてきた、この身体。その力をフルに発揮して今、私は一世一代の大博打に出ている。負けて破産する準備はできている、一切合財派手に散らしてやるさ。
そんな思いで私はベッドに手を突いた状態で、
「え、あの、……千夏先輩?」
何が起きたかわかっていない困惑顔は、それでも可愛らしいから卑怯だと思う。こんな小動物みたいな子のすぐ側で、私はどれほど悩んできたか。きっと大喜くんは、わかっていない。
わかっていたら私を無防備に部屋へあげない、ベッドに座ったままで話さない。わかっていないから軽く小突いただけで仰向けに倒れ、私に覆い被さられているんだ。
その視線が、震える唇が、私を狂わせる。
意を決して腕の力を緩めて重力に従い、私は大喜くんへと軟着陸を果たしていく。胸と胸が重なりあい、そして顔が密着しあう。
僅かな躊躇はでも、意味をなさない。
気が付けば私の唇は、大喜くんの唇を奪ってしまっていた。
キス、という行為。かつて蝶野さんと大喜くんがキスしかけたあの瞬間、脳が焼ききれる程に私は絶望した。この二人が特別な関係になってしまったかもしれない、と。……あれが本当に未遂だったのか、私は知らない。でもきっと大喜くんにとっては、あれはキスではない。誰かとキスをして、それを引きずったまま他の人を好きになんかなれないだろうから。
それでも、例え想像と違っていたとしても。私が大喜くんの想いを上書きする、私だけとキスしたのだという事にする。大喜くんを独り占めしたい、それは私の本心だ。
併せ合う唇はまるで溶接したかのように離れることなく、私はそこから更に大喜くんの口内を蹂躙していく。軟らかく舌を絡めあい、口内粘膜をなぞり、唾液まで吸い上げて。苦しそうな鼻息さえいとおしい、それは不思議な感覚だ。キスってこんなにも、気持ちいいのか。
身体の芯が蕩け始め、奥からなにかが染み出してくるのが分かる。このショーツはきっともうダメだ、使い物にならないくらいドロドロになってしまうだろう。いっそこのまま弄りたい、大喜くんに浅ましくて醜い部分も含めて私を見てほしい。
そんな事を考え始めた時、ふと私は気付く。モゾモゾと大喜くんの腰が動いている事を、そして――私の下半身に当たる硬い感触に。
私もバカではあるけど一応は現代教育の申し子だ、型通りの性教育くらいは受けている。だから
唇を密着させあったまま指先を滑らせていって感じた感触に、内心驚いてしまう。
想像よりもずっと硬く熱い、それに大きいし長い。うんと小さい頃に男子がふざけて出してたのを見た限りでは、指と変わらないくらいのサイズな筈だけど。そしてその根本、袋のような箇所も不思議だ。中に硬い何かを感じるけれど、どうも固定されている風ではない。……どうなってるんだろう、男子という生き物は。
でも、だけど。これをどういう風に扱えば良いのか、は予習済みだ。
前にティーン誌で読んだのを思い出しながら指を輪にして、大喜くんのオトコノコを握って上下に動かしてみる。男の子はこうやってひとりえっちするらしいんだけど、さすがに手探りでは難しいかな。
――と。
「ぁ、――、……っ」
繋がったままの大喜くんの唇が声を漏らし、それに合わせるようにオトコノコもまたビクビクと激しく打ち震えるのが分かった。手に伝わる粘液質の熱、これがなんなのか本能が理解した。精液を射精した、大喜くんが気持ちよくなった。それはつまり、私のやり方が
そう、私は正しい。考えずに勢いで動いたときの私は、いつだって正しいんだ。
理解が追い付かないのかフリーズしたままの大喜くん、その腰を跨ぐ私。和式トイレで用を足すような姿勢は恥ずかしいけれど、でもまあこれからする事を考えたら今さらだろう。せっかくだしどうせだし、キスよりも先に進んでしまおう。恋人同士でしかしちゃいけない事を、――セックスをしよう。勢いに乗って済ませてしまえば悩むこともない、考えるから悩むんだ。
天井を向いて聳えるオトコノコは、よくよく見れば随分と凶悪な姿。これが入るのか、大丈夫だろうか。とは言え、だ。私はいつだってなんだって果敢に挑んで生きてきた、出来ない事なんて無い。
ゆっくりと身体を沈めていくと、大喜くんの先端が私の入り口に押し当たってクチュリと音を立てた。このまま屈んでいけば、私たちは繋がるんだ。
息を整えながら足に力を込めた、その瞬間。
「お……ぁ?」
ガクンと身体が揺れ、私の身体は意に反してバランスを崩してしまう。靴下を履いたままの足がシーツの上で滑った、と理解した時にはもう遅かった。
一瞬偽物の浮遊感を体験し、そしてそのまま私は、……大喜くんの上に着地していたのだ。
ハッと脚の間を見ると、さっきまで見えていた大喜くんのオトコノコはどこにも見えない。そして私の中には、感じたことの無い異物の感触が生まれている。
これは、まさか。
「あー……入っちゃった、かぁ……」
生まれて始めての事なのに、よろけた拍子にとか間抜け過ぎやしないか。しかし実際私は今、大喜くんを根本まで呑み込んでしまっている。まさかここから再度やり直す、とは行くまい。
まあ、良いか。別に失敗したわけではないんだ、これで良い。世間一般と違っても良いさ、だって私のすることだもの。
お腹の中で震えるオトコノコの姿を思い浮かべながら、私は前に見た動画の要領で腰を動かしていく。あの時にフルスクワットみたいだな、と思ったのは間違っていないようだ。ただ違うのは、動く度にゴリゴリと膣内が抉られていくという事。ここまで深い場所には触れたことも無いけど、結構気持ちいいものなんだな。それに思いきり腰を落とすと、一番奥が突き上げられ頭の芯まで稲妻が駆け抜けていく。
そうか、そうなんだ。私はずっと、こうしたかったんだ。好きになるって、こういう事なんだ。きっと大喜くんも、同じ想いだろう。繋がっているからこそ、それが伝わってくる。
さっき手の中で感じた拍動が、私の中で再び起ころうとしている。大喜くんがまた、射精しようとしている。
まだ意識が追い付かないのか、あうあうと囈のように声を漏らすだけの大喜くんにキスをして。そして私は小さく囁く。
「いいよ。このまま、飲ませて。大喜くんの、全部」
次の瞬間、ドクンと何かが私の奥へと叩き付けられた。液体というよりは塊、砲弾のような勢いで。その衝撃が、私の奥の奥を更に抉じ開けていく。子宮の中まで大喜くんの色に染まっていく、それが映像としてハッキリと見えるのが不思議だけど快感を煽って止まらない。
ドクドクと注がれる精液の熱さに理性を融かされ、私は熱に浮かされたまま再び腰を振り始める。中を引っ掛かれるのも精液を撃ち込まれるのも、等しく気持ちが良いから。どうせ明日は休みだ、練習も無い。このまま動けなくなるまでセックスしたって、何の問題もない。
もっともっと、愛したい。大喜くんの全てを私のモノにしたい、なにもかも知り尽くしたい。
虚ろな目で天井を見つめる大喜くんに跨がったまま、私は獣声を上げて暴れ続ける。力つきて崩れるまではきっと、止まる事はないだろう。
愛するとはこういう事なのだから。
「あんたさぁ……バカなの!? て言うかバカでしょあんた!!」
公衆の面前で声を荒げる親友に冷ややかな視線を向けつつ、私はコーヒーを一啜り。まったく、どうしてこうも賑やかなんだか。渚と言い花恋と言い、私の親友は直情的過ぎる気がする。まあ類友かもしれないけど、どうだろうな。
と言うか花恋が言うから勢いに身を任せたのに、なんで怒るんだろう。こっちとしては感謝してるくらいなんだけどね、うん。だからこそこうして報告したんじゃないか。そりゃまあ私としても、少しばかり強引だったかもしれないけどさ。
あれ以来大喜くんとは
勘付いたらしい蝶野さんとは本気で取っ組み合いの大喧嘩をしたし、由紀子さんにも『そうなったのはもう仕方無いけど、夜中に大騒ぎするのは勘弁して』と叱られた。それでも私たちが揃って当たれば、何の問題もない。だって、私たちだから。
「……まあ、あんたがバカなのは今に始まった事じゃないか」
諦めたように溜め息を吐く花恋の顔は、でも微笑みを湛えていた。きっと花恋ののろけ話を聞いていたときの私も、こんな顔だったんだろう。
そうですよ、バカですよ。まっすぐしか進めない変態だけど、それが私だもの。
それで良い、それが良い。
滑って転んで悩んで、嬉しい楽しいエブリデイ。本当の始まりは、きっとここからだ。
なんて弛緩した空気に浸っていたけれど、花恋がおかしな事を言い出すものだから私は少しだけ首を傾げてしまう。
「そうやって呑気に幸せそうにしてんのが、あんたには一番よ。あーでもハメ外すのは引退してからにしなさい、ちゃんと避妊すんのよ?」
「……ん?」
はて、避妊。避妊ねぇ、それは――
何処かで聞いた気はするけれど、どうにも思い出せない。まったく回りの悪い頭で困ってしまう、本当に。
一応意味を聞いておくべきだろうか、でもまあ流してしまって良いかも。雑談なんて、そんなものなんだから。
私としてはそれで済ませてしまうつもりだったけど、どうも花恋的には違うらしい。声を潜めて、私に語りかけてきたから。
「あのさ、ちー。……あんたまさか、何も着けないでヤッちゃったわけ? そのまま出させちゃったとか?」
この女は何が言いたいんだろう、はてさて。出させた、となるとそれは大喜くん側の事だろうな。うんまあ、私の中へ直接入っている時に射精させてるんだからそりゃ「何も着けないで」「そのまま」だ。
それに何の問題が、と思いながらも小さく頷くと、今度こそ花恋は信じられないアホを見る目で私を見据えた。なにこの失礼な視線、こんな顔見たこと無い。
「あのさー……、それで子供出来たりしたらどうすんのよ」
子供、と聞いて私はようやく思い出した。そう言えば、そう言えば。セックスすると出来る可能性があるんだよね、子供。すっかり忘れてた。
しかし子供か、それはまあ――悪くないかもしれないな。部活はどうせ夏で引退だ、その時点まで今の体調を維持できれば部長としての任は果たした事になるだろう。そこから先は大喜くんと過ごす将来のために、というのも良い進路だ。
帰ったら由紀子さんに「息子さんを私に下さい」とか言ってみようかな、さすがに殴られそうだけど。
真っ直ぐ前だけ見て進もう、そうすれば迷子になったって迷った気はしないから。