次回は100本目なので多分頑張ります。
それと告白前だったりいろいろ時系列はあれですが、大喜くんは可愛いです。です!
#1 二人の道はアオく輝いて
始めないと、始まらない。そんなことは分かっているけど、でも。分かってはいるけど、動けない。
千夏先輩に、俺の気持ちを伝えられない。
告白して俺が傷つくのは、まだいい。千夏先輩がうちに居づらくなるのは嫌だし、好きでもないのに生活のために俺の告白を受け入れるなんて事になったら、目も当てられない。
インターハイには出られなかったから。
相応しい男にはなれそうもないから。
あの日の約束を果たせなかったから。
だから、だから、だから、だから――俺は先輩に、好きだと言えない。言ってはいけない。伝わっては、ならない。
そう、思っていた。
でも、今。俺の前で、先輩は微笑んで。
「私も」
――そう、言ったのだ。
千夏先輩と並んで歩く、帰り道。普段は同居がバレないようになるべく別々に帰るけど、今日はたまたま一緒になっていて。体育館の補修で部活もない、ちょっと早めの帰宅中。
まあ、たまにはこういうのも有って良いかな、とね。
いつもの帰り道も、なんだか特別な感じがする。
季節はもうじき、夏を向かえる。夕陽はまだ高く、街を茜色に染める中。俺たちは、二人並んで。
「ねえ、大喜くん」
先輩が俺のバッグを掴んで、道端に立ち止まる。……何でこの人は毎回掴むんだろう。
「大喜くん、さ。私に言うこと、有るよね」
一瞬、心臓が止まりそうになる。
言うことは、ある。
言いたいことが、ある。
伝えたいことが、ある。
でも、でも。それは、違うはずだ。先輩は、そんなこと聞こうとしない。
鎌を掛けられているのか、それともからかわれているのか。
なんにせよ、その事ではないんだろう。
「いや、俺は……」
と、言いかけて。
言葉が、止まってしまう。
日暮れの風にゆれる髪と、真剣な眼差し。
固く結ばれた唇は、無言のまま。それでも。
――逃げることは、許さない。
先輩は言葉でなくその全てで、俺にそう迫っている。
雄弁すぎる沈黙に、息を呑む。
退路は塞がれ、打つ手も上げる手も無い。
俺の無い頭では、ここを切り抜ける事は出来ない。
そう思ったせいか胸の奥に仕舞い込んでいた筈の一言が、上がってくる。
遮る事もできず喉を通り抜け、舌をカタパルトにして。俺の意思に反して口を抉じ開け。
「――先輩、好きです」
僅かばかりの安堵と、凄まじい後悔を残して。俺の口から告白が、飛び出していった。
それは、絶対に言ってはいけない筈の言葉。
俺に、そんな資格はない。思いを伝える資格も、先輩に選ばれる資格もない。
だから、だから、だから、だから、――。
「やっと、言ってくれたね」
でも、でも、でも、でも。先輩は、微笑んでくれている。
まるで、俺の言葉を――受け入れてくれたかのように。
「私も、大喜くんが好きです」
まるで祝福しているかのような夕焼けの中、そう言って。
俺の手を、握り締めた。
その手は熱く、そして強く。
涙が溢れて止まらないのは、夕日のせいじゃない。
目の前が歪んで、何も見えなくなって、それでも。
先輩と手を握りあったまま、立ち尽くして泣き続けた。
二人で玄関に入るその感覚は、どこか浮わついた感じもする。
ほんの一言、それが全てを変えてしまったような。
隣にいるのは、憧れの先輩。同居している、尊敬できる先輩。そして、――恋人。
心臓が張り裂けそうになったまま、形だけでも平生を装って。なんとか、お互い部屋へと上がった。
着替えもしないまま、ベッドに倒れ込むと――一気に体温が急上昇していく。
「なんだぁらぁぁ!!」
枕に顔を埋め、隣に聞こえないように声を上げる俺。
冷静になってみたら、何やってるんだ俺は。いや嬉しいけれども。
道端で告白して大泣きして、なんだこれ。と言うか千夏先輩をどんだけ振り回すんだ俺は。
……いや、先輩こそ俺を振り回しすぎだろ。先輩がああ言うように仕向けたんじゃないか。
でも、あの言い方は。先輩はずっと俺が好きで、告白を待っていたという事で。
もしそれが全部その通りの意味なら、それこそ俺は何やってるんだ。気付けよ俺、もっと早く。
いつから、だろうか。先輩は、いつから待っていたんだろうか。先輩を待たせて、俺は本当に何をやっているんだ。
とは言え、だ。俺たちは、両思いで。告白して。交際が、始まったわけだ。
「――どうしよう、かな……」
恋人、という関係。それは特別なものであって、特別な――事が起こる関係であって。
千夏先輩をそういう目で見ることを、俺はずっと恐れている。
千夏先輩は、眩しくて。美しくて。気高くて。穢してはならない、そういう存在だから。
でも恋人というのはつまり、つまりは。
許される関係になる、ということ。
正直言って、分からない。こんな経験は勿論まだ無いし、相談できる相手もいない。匡でも無理だろうし、雛相手にそんな話はしたくない。雛も額面上は一応女子なんだし。
そうなると、どうすれば良いのか。
ついさっき恋人になって、どう接すれば良いのか。
俺には見当も付かないまま、時間だけが過ぎていった。
単なる同居人から、友達すっ飛ばして恋人となって数週間。
俺たちは――特に変わらないまま過ごしている。
いやだってそんなすぐに変われないし。家には家族がいるし、外ではバレないように基本別々だし。進展のしようが無いし、それに。
それに、……そういう感情を先輩に向けることには躊躇ってしまう。
千夏先輩が尊敬できる立派な人であることは変わらないし、そんな先輩の邪魔になりたくない。先輩を好きでいられるだけでも幸せなのに、俺がそれ以上を望んではいけない気もする。
でもじゃあ、あの告白はなんだったんだという気持ちもある。
俺の頭じゃ、今日も堂々巡り。
何も起きないまま、一日はもう終わろうとしている。明日明後日は土日で学校も休み、どうしようか。
「ん、あ……?」
振動音にふと目を落とすと、スマホがブーブーと通知を鳴らしていた。音切ってたんだっけ、と何気無く持ち上げて――絶句する。
千夏先輩からのLINE。そこに言葉はなく、ただ。ただ、ケープくんのスタンプだけが、あった。
俺が画面を見た数瞬の後、次のケープくんが。そしてその次のケープくんが、矢継ぎ早に飛んでくる。
あの水族館で、俺は先輩に言ったのだ。何かがあったなら、無言で良いからケープくんのスタンプを送ってほしいって。そうしたら、何があっても駆け付けると。
「先、輩……っ!?」
ゾクリと背筋が粟立ち、意識が塗り潰される。先輩は、部屋にいるはずだ。部屋にいるのに、先輩は。先輩は、――!
考える余裕はない、立ち上がれ。
走れ、行け。
それ以外に、なにがある。
「先輩!! 千夏先輩、どうし――」
部屋に駆け込んだ俺の目に写ったのは、いつもと変わり無い姿。スマホを片手に、少しだけ頬を膨らませた千夏先輩が、俺を見据えている。
「遅い」
千夏先輩の声には、どこか怒りが混ざっている気がする。
「あ、……すいま、せん……。スマホ、音切ってて……」
「違う」
怒りの色が、少し強まったような。今遅れた事じゃないとしたら、一体……?
「ねえ、大喜くん。私、そんなに女子らしくない? 可愛い方じゃないとは思ってるけど、そこまでなの?」
「え、いやあの……」
ずい、と先輩が顔を寄せてくる。見据える視線に居すくむのは勿論、漂ってくる良い匂いやチラチラ見える肌色のせいで動くことさえ出来ない。
「私じゃ、嫌なの? 大喜くんはやっぱり、蝶野さんが好きなの? だから――何もしようとしないの?」
「違いま、す! 俺は、千夏先輩が、好きです!!」
好きだから。
好きだから、先輩に触れられない。
先輩を、傷付けてしまうから。
先輩を、大切にしたいから。
それが、先輩の為だから。
俺は我慢するし、それが一番先輩を尊重することになる。
そう、言いたい。でも、口から言葉が出ていかない。
あの夕焼けの中と同じように、先輩の沈黙が俺に突き刺さって。じっと俺に、問いかけ続ける。
――本当に? 本当に大喜くんは、そう思っているの?
嘘も誤魔化しも許さない、氷温の威圧。心の底まで突き通し俺を解体するような、鋭い視線。
先輩が、本気で怒っている。俺の煮え切らない態度に、心の底から怒っている。
俺は、言わなければならない。本当の、気持ちを。
「俺は先輩に、嫌われたく、ないんです……!」
どこまでいっても俺は、男だから。先輩にそういう気持ちを持ってしまうし、期待もしてしまう。
でも、そんな事が許されると思えない。
「俺、先輩とその、色々、したい……ですっ。でも、そんなこと言ったら……きっと先輩、先輩……!」
きっと、いや絶対に退く。
酷く幻滅する。
俺を嫌いになる。
それが確信できてしまうから、俺は怖くて何も出来ない。
先輩のためだとかそんなのは、言い訳だ。
俺は自分が傷つきたくないだけだ。告白出来なかったのも、関係を進められないのも、傷付きたくないからだ。
その為に必死で自分を押さえ込んで、そして先輩を怒らせてしまったんだ。
「ごめん、なさい……。俺を、嫌いにならないで……ください……! 俺、先輩が好きで……先輩に俺を、好きで居てほしいです……」
「大丈夫だよ。そんな程度で、嫌いになったりしないからね」
泣きながら謝る俺を、先輩は。先輩は、そっと抱き締めてくれた。
強く、でも優しく。暖かく、柔らかい。俺が好きな、俺を好きな、千夏先輩。
その胸に抱かれて俺は、また泣き続けた。まるで、小さな子供のように。
明くる日俺たちは、いつぞやの水族館に来ていた。
あのあと先輩は言ったのだ。「したいことは、言おう。ワガママを言い合って、お互い叶えていこう」と。
一方的になにかするわけでも、受けとめ続けるわけでもなく。相手のしたい事を受け入れて、その代わり相手にワガママを言おう、と。
「大喜くんは、考えすぎるから。一つしてもらったら、一つしてあげる。それで良いんだよ」
そう言って笑ってくれた先輩に、まず何を願うか考えて。水族館で「次は付き合った状態で来たいな」と思ったことを思い出したのだ。
それは先輩の「期待」とは少し違うかもしれないけど、それでも。俺は、あの日のやり直しをしたい。いや不満がある訳じゃないけど、やっぱり「デート」がしたい。
そう言ったら先輩も「今度はちゃんとエポーレットシャークの写真も撮ろうね」と喜んでくれた。……なんでエポーレットシャークなんだろう、とは思ったけど。先輩ってああいうの好きなんだろうか。
そして先輩からの「ワガママ」は、「あとのお楽しみだよ」と言われてしまった。良いけどね。
二度目の……いやデートとしては初回かもしれない水族館は、さほど間は空いていないけどスゴく楽しい。隣にいるのは同じ人なのに、これがデートの魔力なんだろうか。そりゃ世の中カップルで溢れるわ。
で、帰り際。先輩は駅への途中、やっぱり俺のバッグを掴んで立ち止まった。……ほんと毎回掴むなこの人。前それで膝打ったし。可愛いから良いけどさ。
「大喜くん、私は一つワガママを言います。ユーコピー?」
「あ、アイコピー」
何で無線用語なんだろう、トップガンでも観たんだろうか。この人はやっぱり読めないな。
「ちょっと寄り道したいんだけど、良いかな」
「はい、まあそれは」
英語でいうとユーハブコントロール、お任せします。今度は先輩のターンだから。
そして俺たちは。駅通りから入った路地裏の、……妖しい建物の前に居た。
ハッピーホテル。ファッションホテル。ブティックホテル。色んな言い方がある、そういう場所の前に。
「よし、入ります。異論は聞かないからね」
フンっと気合いを一つ入れて、先輩は俺を引き摺っていく。何の説明もしないままに。
いやまあ、説明ったって。ここは、そういう場所なわけで。
俺たちは恋人同士なわけで、入っても構わないんだろうけど。先輩の「寄り道」がこれで、良いんだろうか。
「シャワー……は後が良いのかな、汗かくと思うし」
前後に浴びれば良いんじゃないでしょうか先輩、と言いたいが言葉が出ない。
間接照明の、いわゆるムーディな部屋のなか。所在なさげに立ち尽くしている俺と、あちこち手探りしている先輩。
なんだこれ。
「この自動精算機っていうの、スマホじゃ払えないんだね。クレカがあればなー……」
先輩は明らかに浮き足立っていて、テンションがやたら高い。それは良いんだけどさ。
これは、本当に「先輩のしたい事」だろうか。俺があんなこと言ったから、そのせいでこんなことをしてるんじゃないだろうか。
「あの、先輩……」
「私もね、大喜くんと色々したいよ。それは嘘じゃない」
俺の疑問を遮るように、先輩が笑う。
それは、つまり。
「私も、大喜くんと同じだよ。嫌われたくないから、言えなかっただけ。だからホントはね、大喜くんを怒れないんだよ」
スッと、肩が軽くなる。先輩は美しくて完璧で、でも。でも、俺と一つしか違わない普通の高校生だ。同じようなことで悩んでいる、当たり前の存在なんだ。
なら。やっぱり俺たちは、一緒にワガママを言い合うべきなんだ。
「ここに来るまでが、私のワガママ。大喜くんは、何をしたい?」
……まったく、この人は。選択肢を減らしてから選ばせるなんて、フェアじゃないけど。でも、良いや。俺は千夏先輩が好きだから、俺の事を好きな千夏先輩が、大好きだから。
「先輩、キスして良いですか」
「勿論だよ」
嬉しそうに笑う先輩と、しばし見つめあう。
こんな間近で顔を見る機会なんて、今まで無かった。先輩は、やっぱり綺麗だ。
目を閉じた先輩の頬に、手を触れて。バチが当たるんじゃないか、と少しだけ恐れながら。
そして俺も、目を閉じ――
「いだっ」
「つっ!?」
……俺たちは見事に、鼻をぶつけあってしまった。
そうか、キスって正面からしちゃダメなのか。鼻が当たらないように、顔を傾けるべきだったかもしれない。
「すいません先輩、もう一回挑ませてください」
「うん、今度は気を付けようねお互い」
照れ隠しにちょっと笑いながら、もう一度。
今度は、鼻を打たないよう慎重に。
先輩と、唇を重ねあう。
先輩の唇は、温かくそして柔らかい。微かに感じる吐息の熱と、先輩の甘い匂い。
キスしたい、と言って良かった。そう、心から思う。
と。先輩は俺を抱き締め、さらに強く唇を合わせてくる。まるで、貪るように。それに応えて、俺も先輩の唇を貪っていく。
長い長い、濃厚なキス。酸欠で頭が痺れ始めてようやく、俺たちは身体を離した。それでも唇と唇は唾液の糸が渡り、俺たちが繋がっている事を示してくれる。
繋がる。ここは、そういう場所なんだ。
ややあって惚けた顔から正気を取り戻した先輩が、俺に微笑む。
「じゃあ、今度は私の版。……したいことって言うか、ルール追加だけどね」
「良いですけど、なんですか?」
「えーと、ね……。出来ないことは断っても良い、って事にしようよ。あの、……私こういう経験無いから、その……」
珍しくモジモジと、言葉を濁す先輩はそれさえ可愛い。
そういう事か、と心の中で思う。これから何をするか、ここがどういう場所か、という事を考えたら分かった。
それは、当然だ。先輩が嫌がることなんか、絶対にさせたくない。我慢して俺に奉仕する先輩なんて、見たくない。そもそも対等なのが恋人ってものだろうし。
「はい。俺は、先輩が好きですから。先輩がしたくないとか、怖いとか思ったら、いつでもそう言ってください。俺もそうしますから」
まあ、色々と俺も知識はあるけど。
世の中の好事家は色んな個性的極まる「行為」をするらしいし、興味もある。それでも、だ。
こういう事は、出来る範囲で良いんだ。そもそも俺だって、先輩に色々要求されても実現できるとは限らない。ちゃんと約束事を作っておこう。
部屋を暗くして、背を向けあって。お互い服を脱ぎあって。……覚悟を決めて、向き直る。
二人とも、一糸纏わぬ姿。全てを脱ぎ捨てた、完全な無防備。お互いに、なにもかも晒しあう姿。
先輩は薄暗がりの中でさえ、眩しく思えるほど美しい。艶かしい肌と曲線を帯びたしなやかな肢体、そして。
――そして。
心臓は早鐘を打ち続け、破裂しそうになっている。視線は先輩の、……そこへと、引き寄せられていく。
凝視してはいけない、と思いながらも。思いながらも、やはり。俺も、男だから。
勿論暗い中だし、外側からそこまで見えるものじゃないのも知っている。でも薄く繁った陰毛の影を見ているだけで、その「奥」を想像してしまう。男だから。
「大喜くん、構わないけどさ……。ちょっとその、落ち着こうか?」
先輩に言われてふと我に返るけれども、興奮自体がおさまるわけじゃない。先輩にも、きっとそれは伝わっている。視覚的に、それはもう分かりやすい形で。
恥ずかしい、でもそれもお互い様の筈だ。
我慢が効かなくなりそうで、でも必死で食い止める。約束は、守りたいから。
「先輩、その……先輩の、そこ……さわったりして良い、ですか」
「あ、う……ん」
ちょっとだけ、恐れるような顔をしたけれど。先輩は、受け入れてくれた。
先輩と抱き合うように身体を合わせて、左手で支えるようにして。肌の上をなぞりながら、右手を先輩の、……脚の間へと這わせていく。
指先が、陰毛に触れて。そこを過ぎると、熱く湿った肉の感触が伝わってくる。今まで触れたことがない、初めての感覚。これが先輩の、大切な場所。ゆっくりと、そこを指先で……
「あ、のっ、ちょっと待って、くれる、かなっ」
先輩の身体がビクンと跳ね、拒絶の言葉が漏れた。反射的に右手を引っ込めると、先輩はバツが悪そうに笑う。
「ごめん、私やっぱり……ちょっと怖い、かも……」
先輩が嫌だと言うなら、俺はここで止めても良い。むしろ、先輩に我慢なんかしてほしくない。
俺は、自分が気持ちよくなりたいわけじゃない。大好きな先輩を、幸せにしたいんだ。
だから、ここで終わりにしても構わない。先輩が、好きだから。
でも先輩は、止めようとは言わなかった。言わないで、くれた。
「大喜くん。私は、大丈夫だから。でもちょっとだけ、準備させてくれるかな」
先輩は恐れを振りきるように笑ってベッドに腰かけて。
自分の、そこを――ゆっくりと触り始めた。右手の中指で円を描くように、そして優しく労るように。やがて左手の人差し指が参加し、肉を掻き分けるようにして内側へ潜り込み卑猥な音を奏で出す。
大好きな人が、目の前でしている。その様が、興奮を呼ばないわけがない。でも、俺は動かない。先輩は、言ったから。だから、俺は待っていないと。
先輩の痴態を、かぶり付くように見続けるという異様な光景。
当の本人は蕩けた顔で弄り続け、シーツに染みを広げていく。俺の事なんか、忘れたように。一人で、気持ちよくなっている。
それは、別に悪いことではないけど。でもちょっとだけ、寂しさを感じ始めたその頃。
先輩が手を止め、荒い息を吐きながら俺に笑いかけてくれた。
「大喜くん、良いよ……。触って……」
その優しい笑顔に、少しだけ泣きそうになるけれども。
促されるまま触れたそこは、さっきよりもずっと熱くなっている。
どこがどうなのか分からないけど慎重に触れていくと、ある場所で指先が埋まる感覚がした。
抵抗なく入り込めるけど、折れそうな強さで締め上げて来る。入り込むモノを歓迎するような拒絶するような、そんな不可思議な感触。
ゆっくりゆっくり、おっかなびっくり、その奥へと指を進めていく。
「ん、その辺……指で擦って……ね……」
言われるままに、中で指を動かしていくと。
先輩の口からは次第に切れ切れの喘ぎが漏れ始め、指への締め付けはどんどんと強まっていく。ここが、先輩の感じる所。そう、確信する。
さっきの先輩を真似して外側も触っていくと、すぐに先輩は悲鳴のような声と共に頤を跳ね上げた。直感する、これが先輩の絶頂だと。その姿は、信じられない位に美しくて。
ギチギチと締め上げる先輩から引き抜いた、粘液まみれの指を迷わず口に運んでしまう。
舌の上に広がるのは酸味の強い、先輩の味。
先輩の、快感の味。
これ以上無いほど、俺を発情させる味。
我慢がもう、限界に近い。でも、次は先輩の番だから。俺は、ちゃんと約束を守るから。
先輩はそっと目を閉じ、数秒考えるように沈黙して。そして、微笑んだ。
「大喜くん、……して。私を、愛して」
どうすれば良いのかは、よくわからない。それでも、愛したい。愛されたい。お互いにきっと、そう思っている。
横たわる先輩に覆い被さるように、身体を近付けて。顔と顔、胸と胸、腰と腰が接触していく。
さっきの千夏先輩の姿を脳裏に描き、イメージを構築する。先輩へと、入る為の。
「ん、そのまま……進ん、で……」
瞳を潤ませる先輩の声に導かれて、俺は――
「あ、あ……れ?」
……粘ついた感触と共に、空を切ってしまった。
「す、すいません、もう一回……」
今度はずるりと滑り、先輩の太ももを擦ってしまう。
分からない。どこをどう進んだら良いのか見当も付かない。こんなに難しいのか。
怖くて先輩の顔が見れない。きっと、白けている。冷たい目をしている。俺に期待する方が悪かった、と思っている。
こんなに俺が沈んでいるのに、下半身だけ元気なままなのが恥ずかしくて仕方がない。
やっぱり、無理なんだろうか。
「――大喜くん、大丈夫だよ」
まるで、俺の心を読んだように。先輩は、そう言ってくれた。俺が欲しくて仕方なかった一言を、くれた。
そして。
「こうすれば、場所が分かりやすい、かな?」
クチュリと音を立てながら、左手で自分のそこを押し開いて。俺に右手を添えて。俺を、導こうとしてくれている。
ああ、俺はやっぱり。この人が、好きだ。俺の弱さを受け止めてくれる、俺が強くなる切っ掛けをくれる、大切な人。千夏先輩は、俺の全てだ。
迷いが晴れて、真っ直ぐに。ゆっくりとでも確かに、先輩へと進んでいく。
指一本さえ折れそうなほどに狭い道に、先が食い込んで。――そのまま、呑み込まれていく。
ほんの一瞬、先輩の眉根に皺が寄ったように見えた。でも、それ以外に大きな抵抗は無いままに。
先輩の奥へと続く、その回廊に俺は。全て、埋まりきった。
「ぅあ、あ……っ」
動くことさえ、出来ない。熱く、強く、締め上げられて。
それに先輩の中は、さっきは気づかなかったけど蠢いている。一瞬の間も無く、形を変え続けている。
女の人って、こうなのか。こんなに、スゴいのか。
ゾクゾクが治まらない。お預けを食った時間の分、快感が膨れ上がっていく。
でも、俺はまだ、先輩に何も出来ていない。一人で勝手に気持ちよくなるのは、嫌だ。先輩と一緒が良い。
歯を食い縛り、爆発しそうな快感を強引に押し込めて腰をなんとか動かしていく。万力のように締め上げられながらも、少しずつでも根性でどうにか。そういうのは、得意だから。俺だって、伊達や酔狂でスポーツ男子な訳じゃない。
さっき先輩が感じた辺りをどうにかイメージし、そこを擦り上げられるようになんとか頑張ってみる。
ぶつかり合う腰の音とねばつく水音、荒い吐息とお互いの名前を呼ぶ声。何もかもが、遠くなっていく。抗いがたい何かが、意識を押し流そうとしてくる。
もうじき、決壊する。理屈じゃなくて、身体の芯がそう告げている。千夏先輩も、きっとそうだ。先輩はもう視点さえ定まらないまま、汗と涙と涎で顔は濡れきっていて。でも、それでも天使のように美しい。
夢中で先輩を掻き抱き、その唇にキスをした刹那。とうとう、それはやって来た。
「ぁ、あ、あぁ……っ」
身体が崩れるような、強烈な蠢動と共に。暴力的な快感の波が、意識を叩き潰していく。
痛みに近い快感を伴い、精液がドクドクと先輩の奥目掛けて噴出しているのが分かる。止められない。止まらない。命そのものを打ち出しているかのようで、目の前が暗くなっていく。
意識が消え失せる、僅かの間に見えたのは。幸せそうな、先輩の微笑みだった。
「いやー、死ぬかと思ったよ」
「俺は死んだと思いました」
ベッドに二人並んで、見覚えの無い天井を見上げて。俺たちは、笑いあっている。
いやまあ気がついたら先輩に抱き締められてたから、てっきり天国に行ってしまったんだと思った。だって先輩、天使だし。
しかし、凄く疲れた。こんなに疲れる事を一晩中する人たちもいるらしいけど、どういう体力しているんだろう。
もう一回したいけど、そうするとたぶん家に帰れなくなる。
しばらく横になって、時間が来たらシャワー浴びて帰ろう。そう言いはしたけど、果たして大丈夫だろうか。寝ちゃわないように、おきてた方が良いんじゃないだろうか。
でもま、寝ないようにこうして喋っているのも楽しいから良いか。
「大喜くん、今度は何したい?」
「そうですねー……今はこうして、隣にいてください」
「欲がないねぇ」
ケラケラ笑う先輩は、やっぱり可愛い。
そのまま、手を握りあって。二人並んだまま、とりとめの無い話をして過ごした。
ま、これで平和に過ごせれば良かったのだけれど。
俺は先輩を背負ったまま、家路を歩くことになってしまった。
「大喜くん、おんぶを要求します」
ホテルから出て少しした辺りで、先輩がそう言い出したのだ。歩けない、と。……そうだろうな、とは思う。俺は男だから詳しくは分からないけど――まあ、それは。身体のそういう場所を何度も何度もああいうもので突き続ければ、それは。健康には、良くないよな。俺のせいなんだし。
で、先輩を背負ったのは別に構わないんだけど。途中で「漏れて来たからコンビニでサニタリーショーツ買って」とか言われたのはちょっと困った。そもそもサニタリーショーツって何なのか俺は知らなかったし、先輩を背負ったままじゃコンビニ入れないし。そして悪いことに店員さんは若い女の人で、かかなくていい恥をかいてしまった。……これも俺のせいなんだけどさ、俺のが垂れてきてるわけだから。
それよりも問題だったのは。
「……何やってんの大喜、と千夏先輩。なんか生臭いし」
どういうわけか、雛とバッタリ会ってしまった事だ。なんてタイミングだろうか。
まさか本当の事なんか話せないし、でも先輩を背負って歩く理由なんかあるわけ無いし。
ただでさえ無い頭が更に弱っているこんな時に、面倒くさい奴め。
「……ウェイトトレーニング、です」
「いや系統が亀仙流の修行なんだけどさ、なんなのよあんた達」
雛は訝しげな目で俺を睨んでくる。が。
「まぁ、良いわ。今度ゆっくり聞くから。これからちょっと匡の所行かないといけないからさ、んじゃね」
割合あっさりと、雛は去っていった。ナイスだ、匡。
しかし明後日、月曜になれば嫌でも学校で会うことになる。その時までにうまい良いわけを考えないと。ああ、なんでこんな。
なんとか家へ帰りつき、一息吐いた頃には俺も足腰が限界になっていた。
いや先輩が特別重いわけじゃなくて、自分と変わらない大きさの相手をおんぶして長距離を歩く事自体が相当に疲れるからだ。役得はあったけどね。背中に先輩の、……胸が当たってたし。
「大喜くん、さ。次はどうする?」
次。それは今から二回戦しましょう、とかそういう意味ではないだろう多分。次は俺のターン、って話のはず。
でも弛緩した頭じゃ、上手く思いを描けない。
出てくるのは、飾りの無い本心だけだ。
「ずっと、一緒にいたいです。来年も再来年も、ずっと。ずっとずっと、俺と一緒にいてください」
これは俺の、一番の願い。
一番大きな、ワガママ。
先輩が、聞いてくれるかは分からないけど。それでも、俺の気持ちは変わらないから。
千夏先輩は、ニッコリと笑って。俺を、抱き締めて。
「私も。私も、そう言いたかったよ」
涙を浮かべて言いながら――キスしてくれた。
そのキスは、温かくて。柔らかくて。心地良い。
この先に、何があろうとも。
交わした約束が、あるかぎり。
俺たちは、決して離れることはない。
#2 アオいフタリの行く先は
千夏先輩は、あまりにも無防備だと思う。
意外と自己評価が低いせいか、それとも誰にでもフランクな性格のせいか。
とにかく、女子としての自覚が無さすぎる。
一応居候として大人相手には気を遣って過ごしているけれど、後輩である俺の前ではそこまで警戒しない。
だから、あちこち透けたり見えたりが結構あるのだ。
油断できるくらい親しく思ってくれているのは光栄だけど、俺だって健康な高一男子な訳で。
目の毒です、先輩。そんな事を言うわけにも、いかないんだけどさ。
俺は、男扱いされていない。それはそれで、寂しい。と言うか哀しい。
「大喜くん、お風呂空いたよー」
今日も先輩は、部屋に戻りがてら俺に声をかける。同居初日から、先輩は風呂上がりにこうやって来てくれている。
湯上がりのホコホコした先輩は色っぽくて、それになんだか恋人同士のような距離感。毎日の事なのに、まったく慣れない。慣れる気がしない。
ジャンプを読む振りして背中を向けていなければ、卒倒しているかもしれない。あまりにも刺激的過ぎる。
こんなドキドキなんか、先輩は気付いていないだろう。気付かれたくもないし。
「あ、分かりましたー」
できる限り平生を装ってはみるけれど、なかなか難しい。
いずれは平気になるんだろうか、そんな日が来るんだろうか。来なさそうだけど。
――と。
いつもなら去っていく足音が、今日に限っては向きが違うのに気が付く。
近づいてくる。先輩が、こっちに来る。
なんで、と思う暇も無かった。
「えい」
先輩の手が、肩越しに伸びてきて。俺は、気が付けば、先輩に後ろから――ハグされていたのだ。
「な、なにすっ、せんぱっ」
ちょっと湿り気を帯びた温かさ。良い匂い。背中に当たる柔らかいものは、きっと。きっと、先輩の。
……どうしよう。これは、不味すぎる。
この有り得ない状況に、身体が敏感に反応してしまう。
正確には、一部位が反応する。硬直していく。
でも当の本人は。
「いつも思うけどさ、背中向けて返事するのは良くないと思うよ。なるべくでいいから、ちゃんとこっち見なさいね」
まるで子供をたしなめる親のように、優しくそう言って。立ち去って、しまった。
残されたのは、混乱した俺と先輩の残り香だけ。
なんなんだ、一体。
背中を向けっぱなしなのが気に障ったというのは、俺が悪い事だけど。だからって、あんな。風呂上がりの状態で、あんな。
血が下半身に行っているせいか、いつにもまして頭が働かない。
男扱いされていないどころか、同世代とすら思われていないのか。先輩は俺を、小さい子だと思ってるんだろうか。
むしろ、本当にそうだったらいいのに。今の俺は高校生だから、欲望が猛ってきて堪ったもんじゃない。
「腹筋、しようかな……」
雑念どころか煩悩まみれ、果たして腹筋で振り払えるんだろうか。
それでも、しよう。少しでも気を紛らせないと、このまま風呂に行ったら先輩の妄想で動けなくなる。
堪えろ、俺。頑張れ、俺。
とりあえず風呂に入ってはいるけど、落ち着く筈がない。
うっかり溢したのか、先輩のボディーソープの匂いが今日に限って強く立ち込めている。
そのせいであの柔らかさを思い出してしまい、あちこちが硬直していく。ああ、男って面倒すぎる。
背中に感じた、あれはどう考えても。明らかに、先輩の。胸、バスト、――おっぱい。
うう、響きがもう恥ずかしい。ふにょんとした柔らかさと確かな重さ、あれは破壊力が高すぎる。あんなもん押し付けられたら、正気でいられる方がおかしい。
先輩をそんな対象にしちゃいけない、と分かってはいるんだ。でも、我慢にも限界はある。
先輩の部屋は、俺の部屋の隣。どちらもドアに鍵はない。
風呂上がりにやろうと思えば、色々出来てしまう距離。
「ああっ、もう……」
お湯のなかでも元気に自己主張する愚息を鎮めるべく、意識を集中させていく。
千夏先輩は、尊敬できる立派な人だ。俺の前で無防備なのは、それだけ信頼してくれているからだと思う。それを、裏切るわけにはいかない。
そうさ、先輩はリラックスしているからああなんだ。それはとても、良いことじゃないか。俺は先輩に伸び伸び生活して欲しいし、その方が部活にもいい影響を与えるに決まっている。
俺が変なことさえ考えなければ、何の問題もないんだ。
湯槽に沈みながら、ぼんやりと思う。
上がったら、とっとと寝よう。煩悩は明日の朝練で汗にしてしまおう、気合いいれてバドに取り組もう。
そう、思っているのに。現実は、いつだって予想外だ。
「あ、お帰り大喜くん」
……部屋に戻ると、先輩がジャンプを読みながら転がっていた。いや、あんた何やってんだ。
そう言えば今週はまだジャンプを貸していなかった気がするけど、だからって。だからって、人の部屋でこんな。
どうしよう、勝手に入ってきたことをたしなめるべきか。それとも、せめて座らせるべきか。
あちこちチラチラ見えているし、すごく目の毒だ。わざとやってんじゃないか、この人。
「あー……先輩、貸しますから自分の部屋で読んでくださいよ……」
もし俺にお姉ちゃんがいたら、きっとこんな感じなんだろうな。
まあ、気にするまい。平常心、平常心。
心の億に煩悩を押し込んで、平静を装おうとする俺。なのに先輩は。
「うりゃさー」
無邪気な顔で、抱きついてきた。今度は真正面から。
寝転がった所から飛び付いてきたから、当然ハグの位置も低い。と言うより、レスリングのタックルに近い。
よろけたところをなんとか踏みとどまるも、それは倒れるよりも危険だった。
そうなってみて、ようやく分かったのだ。
先輩の身体が、俺の腰辺りに突撃してきている。つまり、それは。
――とても良くない位置に、先輩の顔が来てしまう、という事。
「う、ぉあっ」
先輩の身体が、再び跳ねる。飛び退いたその顔は、困惑混じりというかなんというか。
「大喜くん、あの、……ごめん……」
「あ、いえ……えーと……」
ごめんはごめんだろうけど、こっちもごめんだ。
さっきまで悶々としていたのもあって、再び欲望が猛り出してしまう。
このまま寝るつもりだから薄着だし、下手をすると気付かれかねない。そうなったら、地獄絵図だ。
腰を引いてなんとか抑えようとするも、それが却ってよく無かった。
「あ、大丈夫? 私けっこう頭固いから、どっか怪我した?」
口より手が速い先輩は、そう言いながら。さっきぶつかった、俺の股間へと手を伸ばしてきたのだ。
頭が沸きそうな俺が、咄嗟に動ける筈もない。そのしなやかな指先は、阻まれることなく、俺に――触れてしまった。
「ん、……あ。あー……っ」
僅かな間を置いて、先輩の顔が真っ赤に染まる。
気まずそうにモゴモゴと言いながら手を引っ込める先輩を、俺は俯きながら呆然と見送るしかなかった。
最悪だ。最悪だ、最悪の中でも最悪だ。
先輩に、こんな。こんな、とんでもない事を、させてしまった。
全部俺が悪い、悪くなくても悪い。
恥ずかしい。消えてしまいたい。
「あ、あはは……。まあ、大喜くん男の子だもんねー……」
年上としての矜持なのか、場を取り繕おうとする先輩。でも、それがあまりにも辛い。
先輩を、こういう事に触れさせたくないのに。ひたすらに、夢を追って欲しいのに。
俺は最低すぎる。
千夏先輩だって、そう思っているだろう。
侮蔑と嘲笑を覚悟しながら、気分は御白州に上がった罪人のように沈んでいく。
でも。
やって来たのは、それではなかった。
先輩は、俺の頭をポフポフしながら、こう言ったのだ。
「大丈夫だよ。私はその程度で、大喜くんを嫌いになったりしないからね」
ハッと顔を上げた瞬間、視界が影に染まった。そして唇に感じた、柔らかく熱い何か。
瞳に入る光量が回復してようやく、何が起きたか把握できた。
視界が陰ったのは、先輩が目の前に来たから。あの熱さは、唇にキスされたから。
……なにもかも、有り得ない事。でも、これは現実だ。
「ちょっと、やりすぎたね。大喜くん可愛いからさ、ついついからかっちゃうんだよ」
悪戯っぽく笑うその顔は、どこか妖艶な空気を湛えている。
からかう。俺は、からかわれていたのか。
「もしかして大喜くん、私が素でああだと思ってたの?」
幾らなんでもあんなバカじゃないよ、とほっぺを膨らませて言う千夏先輩。
じゃあ、全部。俺をからかう為に、わざとやっていたのか。
そんなの、……そんなの。
「先輩、やっぱバカですよ……」
身体中に張り詰めていた何かが、急激に蕩けていく。
俺もバカだ、底無しのバカだ。
一個上の先輩だぞ、英明のスターだぞ。子供みたいに、無防備なわけがないじゃないか。子供みたいに、理由もなく人をからかうわけがないじゃないか。
そこにあるのは、無邪気な悪戯心なんかじゃない。
つまりは、もしかしたら――。
息を呑む音が、やけに大きい。それは、俺にとって夢のような話。でも、先輩はそういう人ではないとも思う。
思うけど、でも。
「大喜くんが、好きです。好きだから、からかいたくて仕方無かった。毎日、大喜くんで遊びたかった」
千夏先輩はアッサリと、言ってしまった。
そして、その手が俺へと向かう。
でも、それは、それは、本当に良いのだろうか。
「先輩は、だって……バスケ一筋で……」
「大喜くん、私をバスケする機械とでも思ってない? 私はバスケもするし大喜くんでも遊ぶし、由紀子さんにお料理も習うし学校の勉強もします。全部が全部、私です。何もかも、大事だからね」
ふと思い出したのは、針生先輩の言葉。バドも彼女もモンハンも全部大事、比べるものじゃない、と。
ああ、そうか。全部大事にして、全部残さず手にしようとする。それを為し遂げられるのが、こういう人たちなんだ。
そうだ、俺は先輩が好きだ。一面だけじゃなく、全てが好きだ。それと同じ、簡単なことなんだ。
俺は何処までも、大バカなんだな。いや先輩も大バカだけどさ。
大バカ二人、向かい合って。
「千夏先輩、好きです」
「うん、私も」
不格好な告白をしながら、抱き締めあう。何もかもがメチャクチャだけど、良いや。
だって、バカなんだから。
固く抱き合いながら、キスをする。こうやっていると、ついさっきまでの自分達が、はるか遠くなったように思ってしまう。
まるで将来を近いあった恋人同士のように。まるで仲の良い夫婦のように。一心不乱に、貪りあう。
箍が外れたように、どちらも止まらない。息をするのも忘れるほど、胸の鼓動が激しい。
酸欠で目の前が暗くなってようやく、唇同士が名残惜しげに離れていく。それでも、心は止まらない。
ベッドに倒れ込んだ所に、先輩がのし掛かってくる。受け止めるようにして、しっかりとそれを抱き締めた。
愛しい。欲しい。先輩を、愛したい。その感情は、決して止まらない。
先輩も、きっとそう思っているだろう。そう確信せずにいられない、好きだから。愛しているから。
そして、再び俺たちはキスをする。今度は軽く、囁くように。何度も、何度も。
しばらくそうしてから、どちらともなく自分の服に手を掛けだした。
そういうことを、する為に。なのに下着を脱ごうとしたときは、示し会わせたようにお互い動きが一瞬止まったのが、なんだか可笑しい。バカ同士だから、かな。やけに恥ずかしいけど、お互い様だ。
「あー……恥ずかしいね、これは」
「死ぬほど恥ずいです、先輩」
全裸のバカ二人、笑いあう。ああ、良いなぁ。スゴく好きだ。
「あのさ、大喜くん。ちょっと、ワガママ言って良いかな」
先輩は基本ワガママ放題だと思うけど、まあ良いや。「勿論ですよ」と笑って返すと先輩は、やっぱり笑ってキスしてくれた。
唇を離した先輩は、ベッドの上で四つん這いになりお尻を掲げる。あまりにも淫らで、でも美しいその姿。
これから、するんだ。先輩と、俺は。
「ね、お尻に……欲しいな」
「えあ、はいっ」
それはワガママでもなんでも無いような、とは言え本人が御望みなんだし喜んでしますとも。
そう思って、先輩のお尻にそっと触れていく。吸い付くような肌目の細かさと柔らかさ、心地良い以外の言葉が出てこない。
「ん、そうじゃなくて。……もっと、中の方」
でも先輩はそう言って自分の手で尻たぶを割拡げ、そこを俺に見せてきた。
「えとね、……こっちで、大喜くんにその……して欲しいなーって」
こっち。それはつまり。……そういう世界があるのは知っているけど、それは大分上級者向けではないでしょうか。
「大丈夫、ちゃんとお風呂で綺麗にしたから。ローションもあるし」
ああ、それでボディーソープ撒いたんですね先輩。完全に確信犯的な行動ですよね先輩。
でも凄く慣れてるんだな、この人は。
構わないけど、さ。先輩には先輩の歴史があるんだし。ちょっとだけ、悔しいけど。
でも、良いや。今の先輩は、俺を好きだと言ってくれたから。
先輩が過去にどんなプレイを経験していようとも、俺は――。
「たーいーきーくーん、今スゴく失礼な想像したでしょー」
明らかに、怒った声で。お尻をつき出したまま、呻くように先輩が不満げな声を投げ掛けてきた。
「私は誰ともなんの経験もないよ、ただ……怖いだけ」
格好は間抜けだけど、先輩の声音は真剣味を漂わせている。
「お尻だったら、慣らしておけば痛くないらしいから。それに赤ちゃんも出来ないし……さ」
そこまで聞いて、ようやく。ようやく俺は、自分のバカさ加減を思い知らされた。
先輩は、女子だから。受け入れる、側だから。怖くないわけがない。警戒しないわけがない。それでも先輩は、俺を愛そうとしてくれている。
そんなの、真っ先に考えるべき事じゃないか。俺は何処までも、バカ過ぎる。
「引退したら、その時はちゃんと……大喜くんにあげるから。だからそれまでは、こっちで……ね」
でも鈴の音みたいなその声が、へこみかけた俺を掬い上げてくれる。
先輩を、愛したい。心の底から、そう思う。
自分はもちろん他人のだって、目にする事はあり得ない場所。
そこを、言われるままに解していく。
先輩曰く普段から弄ってて、「お尻でするのけっこう好き」だとか。……壁一枚向こうでそんなことになっていたなんて、考えもしなかった。
「詳しいやり方はね、渚が教えてくれたんだよ。あの子こういう事やたら詳しいから」
「先輩、友達は選んでください」
うん、選んでください先輩。この間籠原の選手相手に怒ってた人だろうけど、何者だ渚さん。俺の先輩に変なことを吹き込まないで欲しいです、ええ。
ローションを塗り込むように弄っていくと、その下……先輩のその、「オンナノコ」からもトロトロと何かがこぼれ落ちていく。感じている、ということ。先輩は、気持ちよくなっている。
ついついそっちにも指を向かわせたくなるけど、じっと我慢。
先輩は、言ったから。引退したら、と。先輩との、約束だ。
だから今は、こっちに集中するんだ。
「あ、あー……っ、……ぁっ」
指が動く度に、先輩の口からは低めの喘ぎが溢れてくる。耳が犯されていく、そんな感覚。
俺の興奮も、天井を知らないほどに高まっている。このままだと、触れなくても出てしまうかもしれないくらいに。
それを察したように、先輩が囁いた。
「良いよ。……来て、大喜くん」
おっかなびっくり、慎重に。先輩へと、向かっていく。
弄り過ぎたのか僅かに開いたすぼまりに、ゆっくりと先をあてがい。
「ん、あ……」
輪を押し拡げるような感触と共に、少しずつ少しずつ先輩の中へと入っていく。
入り口がギチギチと締め上げるのとは逆に、内側は柔らかく俺を包み込んでくる。今まで感じたことの無い、不思議な快感。
程なく、俺の腰は先輩のお尻に密着した。根本まで、埋まりきったということ。全てを、先輩に捧げたということ。背筋がゾワゾワと粟立ち、身体が燃えるように熱い。繋がっている事実そのものが、狂いそうなほどに気持ちいい。
それでも、もっと先に進みたくて。先輩を傷つけないようにしながらも、俺は腰を動かしていく。
「お"、あぁっ、ぃう……っ」
先輩の喘ぎは低く太くなり、俺の動きに合わせて漏れ出てくる。先輩も感じてくれている、それが嬉しくて仕方ない。
もっと、もっと、もっと。先輩を、深く深く愛したい。
しかし身体が、その思いより先に限界へと達してしまう。
「先、輩……っ、もう……出ま……すっ」
「い…い"よ、来て、大喜く、ん!」
その一言が、すべての枷を吹き飛ばした。
強烈な締め付けさえ跳ね除ける、凄まじい脈動。尿道を精液が駆け抜けていく、魂まで放出してしまうような射精感。先輩の中に、自分の意思を撃ち込むという背徳感。何もかもが混ざりあい、意識がマーブル模様に蕩けていくのが分かる。
二人繋がったまま、ガクガクと痙攣しながら。俺たちは、静かに崩れ落ちていった。
先輩と同居が始まって、二度目の夏が過ぎた。
三年になり部長としてバスケ部をインターハイに導いた千夏先輩は、全国制覇を成し遂げ誇り高くコートを出たのだ。
母娘二代の夢を果たし、そして新しい夢を見出だした。
「大喜、結婚しようよ」
ベッドに向かうその直前、そう言って先輩は微笑んだ。
「大喜の赤ちゃん欲しい、大喜と一生一緒にいたい。大喜の全部が、欲しい」
真剣な眼差しで、でも言ってることはワガママ全開。
そんなワガママ放題な先輩に、俺も微笑みを返す。
「勿論です、愛してます」
この先に何があろうとも、それは絶対に変わらない。
死が二人を別とうとも、絶対に。
その思いだけを胸に、先輩と抱き合いながらベッドに倒れ込んだ。
何度交わそうと飽きることの無い、キス。キス。キス。
あれから何度、夜を重ねただろう。
ずっとずっと、愛が止まらない。
加速し続けて、収まる事を知らない。
もっと、愛したい。それはきっと、先輩も同じ。
僅かに不安げな顔はしたけれど、それでも。笑って、脚を拡げてくれた。
匂い立つ、その場所。先輩の、オンナノコ。
「大喜、良いよ。ここに、来て」
濡れた肉の裂け目は、誘うように蠢いて見える。
先輩と俺の、約束。それが、今日ここで。果たされる。
「先輩、好きです。愛してます。一生、俺と一緒にいてください」
胸の奥から溢れた思いを、力一杯ぶつけながら。俺は先輩と、繋がった。
感触は勿論お尻とは違うけれど、でも狂おしいほどに気持ちいいのは同じだ。いや、先輩は全身すべて気持ちいい。
先輩も先輩で入ったその瞬間は顔を強張らせたけれど、すぐにいつものように声を漏らし出した。
先輩の癖も仕草も、分かっている。本気で感じるとどうなるか、知っている。今の先輩は、俺と同じくらい高まっているんだ。
一心不乱に、お互い腰が止まらない。快感に勝てない、勝つ気がしない。ただ、お互いに溺れあうだけ。
先輩を突き上げながら、ふと悪戯心が芽生えてきた。この状態で、こっちも弄ったらどうなるんだろう、と。
好奇心は猫を殺すというけど、構うもんか。俺は物欲しげにしている先輩のお尻を、不意打ちでまさぐってしまった。
「あ"、ダメ、一緒ダメ、いぎ……っ!!」
瞬間、先輩の身体が大きく跳ね上がる。そしてその締め付けも千切れんばかりに強まり、全力で俺を押し潰しに来た。
不味い、これは不味い。耐えきれるわけが、ない。
ドクンと拍動が全身を貫いて、衝動が放出される。先輩のお願い事に、答えようと。先輩を、妊娠させようと。精液が、迸っていく。
「ああ、あ、あー……」
腰が砕けそうになりながらの射精は、死ぬほど気持ちいい。
快感の余韻が込み上げて、止まらない。
繋がったまま、二人揃ってしばらく惚けて。
もう一回したいな、と思い始めた頃だった。
ぺちん。そんな音を立てて、先輩の手が俺の頭を叩いたのだ。
「……大喜、ひどい。不意打ちとか、ひどい」
ぷーっとほっぺを膨らませて、拗ねたように。先輩は、俺をぺちぺちと叩き続ける。
「あ、はい……。すいません……」
まあ、確かに。あれは俺が悪いか。
「私は機嫌を損ねました、キスしてくれなきゃ治りませんー」
ぷっくり膨れっ面の先輩は、可愛いけど。でもまあご機嫌ななめなままじゃ、困ってしまうかな。
まあるいほっぺに手を添えて、先輩と唇を重ねあう。
きっと俺たちは、この先もこうなんだろう。
ケンカしたりすれ違ったりして、でもお互いを大好きだからすぐ元通りになって。
ずっとずっと、こうやって行くんだろう。
ああ、幸せだな。俺たちは、幸せだ。
#3 アオは理を越えて
何を考えているか、と言うか考えているのかどうかさえ分からない。千夏先輩は、難しい。まあ俺よりずっと付き合いが長い花恋さんでさえ「ちーの考えなんて、そう分かんないし」というくらいだ、俺の頭で理解できるわけがない。
俺に出来るのは、ただ愚直に行くことだけだ。
そう思って動いていけば、きっといつか上手くいく。でもまあそんなすぐ都合良くいくもんじゃないし、時間をかけてゆっくり解決していこう。そう考えていたのに。
事実はいつだって、予想外だ。
夕陽も落ちてそろそろ夜の帳も降り始めた体育館の陰で、俺は千夏先輩に組倒されている。混ざりあう部活後の汗の匂い、伝わりあう肌の熱。そして千夏先輩の舌は、俺の顔をなめ回して。
「あの、先輩……、帰ってからにしましょうよ……」
遠慮しいしい言ってみると、先輩は舌こそ離してくれたものの。
「やだ。ここでするの!」
とワガママは引っ込めてくれず、ニヘリと笑うばかり。その顔は本当に、妖しく美しい。この人のこんな一面を知るのは、きっと俺だけだ。それは誇らしく思えなくもないけど、でも。これはなかなか、大変だ。
再び当てられた舌は汗を舐めとるように顔から首へと降りていき、そして服を剥ぐように胸元へまで入ってくる。
チロチロと小さく動きながら乳首を突いてくるその動きは、俺の勘所を全て知り尽くしてる仕草。だからこそ、ほんの数ミリずつそれを外してくる。更に俺を追い込もうと言うのか、その手は腰へと伸びてくる。触れるか触れないかの緩やかな力加減で、布越しに俺を翻弄する指技は余りにも巧み過ぎる。血が下半身に集中し、痛いほどに隆起していくのがありありと分かってしまう。
ホントにズルいな、この人は。俺が焦れて我慢できなくなるのを、楽しげに待っているんだ。
「ねえ大喜くん、どうする? こんなになったまま、帰れるのかな?」
耳元で囁き唆す、悪魔的な声。逆らえないと分かっていて弄ぶ、そんな意地の悪い問い掛け。
身体はもう、熱に侵されている。家までなんて、持つ訳がない。
それに先輩は返事を待つこともなく俺から離れ、体育館の外壁に手を突いてお尻を突き出している。早く来なさい、と言わんばかりに。
そんな事をされて、どうして逃げられようか。
薄闇に揺れるお尻に顔を寄せると、漂ってくるのは淫靡な先輩の匂い。既に役割を果たせていないショーツをずらすとそれが更に強まると共に、ひくひくと誘うように蠢く先輩の――オンナノコが露になる。
俺だけが、知っている場所。俺だけが、許される場所。
物欲しげに薄く口を開けたそこを指でかき回しながら、舌を這わせていく。
酸味の強い先輩の味は美味しくて、淫らで、余りにも尊い。
「もー、そうじゃな、い……でしょっ。早く早くー」
促されるまま、そこへと俺自身を向けていく。この瞬間は、毎回少しだけ緊張してしまう。先輩と迎えた初めての夜以来、俺はずっと翻弄され続けているんだ。
インターハイが通りすぎ、夏休みも終わりかけたあの日。俺は千夏先輩に、告白してしまった。
あの日の約束を果たせもせず、ただ悶々とするばかりの俺。こんなのが先輩にそんな事をするなんて、と思いはしたけれど。したけれど、でも俺は決意を固めたのだ。退くに決まっている、俺を嫌いになる、なんてのはあくまで「俺の考える千夏先輩の考え」だから。本当の千夏先輩がどう思うかなんて、事前に分かるわけがない。
言わないことは、伝わらない。それだけが確かなんだ。
だから俺は、言ってしまった。お風呂空いたよと告げに来た、湯上がりの千夏先輩へと。
「好きです」
たった一言、それだけ。どう解釈されようと、なんなら殴られようと構わない。
どういう反応が来ようと受け入れる、その覚悟は既に出来ている。気まずくなるからなんだ、このまま何も言わず気持ちを隠したまま一緒にいるより、遥かにマシだ。
「んー、ふー……む。なるほどねぇ……なるほどなるほど。こんなワンパクでたくましい子に挑戦状を出すとは、相当にマニアックだねえ大喜くん」
千夏先輩は普段見せないようなニヤニヤした顔で、俺をためつすがめつ見ている。うう、これはこれで気まずい。否定も肯定もされない、となるとどうして良いか分からない。
そして流れる短い沈黙を打ち破ったのは、千夏先輩の一言だった。
「好きになってくれて嬉しいよ、大喜くん」
え、と思う暇もなく俺は、――千夏先輩に抱き締められていた。
洗い髪から漂う先輩の香り、伝わる肌の熱さ。心どころか魂まで揺さぶられるような、女の子そのものな先輩の身体が、密着している。
告白して、抱き締められて。これ以上に幸福な事なんか、有り得ない。望んでもいけない、そう思うのに身体の芯が勝手に熱くなっていく。あまりのことにおかしくなってしまったのか、その熱は下半身に雪崩れ込んでそして。危険なほどに、一点に集まっていくのが分かる。
ダメだ、それだけは。こんな時に、
「ん、んー……? あ、そっか。そういうことか。男の子って、
何が起きているのか察したんだろう、先輩の頬が赤くなる。いくらなんでもこんな場面でなるべきじゃない、軽蔑されても文句は言えない。いやさっきの言葉を撤回されてしまうかもしれない。
でも先輩は、そうしなかった。逆に俺を、強く強く抱き締めて。
「そうだね。折角だし、しちゃおうか」
とんでもないことを、囁いた。
千夏先輩は完璧で、清廉で、そして高貴でさえあると思っていた。でもそれも、俺の勝手な思い込みでしかなかったんだ。
まだ風呂上がりの熱も落ち着いていない先輩の肌は、遮るものの無い産まれたままの姿。妄想することさえ畏れ多かったその肢体が、すぐ目の前に……手を伸ばせば触れられる所に迫っている。その非現実感は、俺を昂らせて余りあるくらいだ。それはきっと、先輩にも伝わっている。視覚的に、非常に分かりやすく。
「ふー……ん、本物って初めて見たよ。ねえ大喜くん、これってどれくらいなのかな。普通なの、それとも大きい方?」
「いや……えー……比べたこと無いんで分かりませ、……んっ」
言い終えるよりも早く先輩の手に触れられ、思わず声が上ずってしまう。
物怖じしないというか異常に積極性が高いというか、距離感がおかしいのはこういう面が隠れていたせいだったんだ。そう確信しながらも、驚きが隠せない。千夏先輩に、こういう行為への欲求があるなんて。
さっき服を脱ぎながら、先輩は言っていた。男の子との経験はまだ無いけど、一人では結構するよ、と。壁越しに俺がしている音を聞きながら、オカズにしてしまったこともあると。
女子はそういうのしないと思っていたし、ましてや千夏先輩がそういう話をするなんて、信じられなかった。でもきっとそれは、俺がそう思い込んでいただけだ。
だって千夏先輩は楽しそうに、俺をしごいて笑っているんだから。
「どうかなー大喜くん、これで良い? ちゃんと気持ちいいかな?」
無邪気ささえ感じるその声は、でも堪らなく興奮する。こんなの、耐えられるものか。
「あ、はっ……い、出ま……すっ」
許可をとる暇もない程に呆気なく、俺は射精していた。先輩の手を汚し、飛沫を飛び散らせながら。
それでも先輩の手は止まらない、残りを扱き出すように動いていく。誰かにしてもらうなんて、考えた事も無かった。こんなにも、凄いなんて思わなかった。
「ごめ……なさ……っいぃ……」
「? 謝る事じゃないでしょ、大喜くんは気にしすぎだよ。……そりゃスマッシュもこれくらい速かったら良いのにね、とは思ったけど」
う。この人どこまで本気なんだろう。
全部なのかもしれないけど。
「それに、まだ大丈夫だよね? 続き、しないとさ」
続き。それは、つまり。
この先にある行為は、一つしかない。
それを示すように床へ腰を下ろした先輩は脚を拡げ、そして――そのオンナノコをも、指で開いて見せた。
小さく聞こえた粘りけの有る水音は、溢れてくる何かは、明らかに風呂上がりの汗なんかじゃない。
話で聞いた、「濡れる」というヤツではないか。恐らくは。
「んふふー、分かるかなー? ここに入るんだよー?」
まあ私も良く分かんないけどさ、と笑顔の先輩。
頭の奥は甘い熱に痺れ、これが現実かどうかさえ分からなくなっていく。ただ色濃く残っているのは、たった一つの衝動。ここに入りたい、という本能だけだ。
覆い被さるように身体を寄せて、拡げられた肉の谷間へ先端を押しあて。そのまま、――力を込めていく。
柔らかく湿った肉に挟まれ、絡み付かれるようにして内側へと呑まれていくのが見える。まるで千夏先輩に、喰われていくようでさえある。
進む毎に内面が少しずつ変わっていく、吸い付くような快感に意識まで蕩けていく。
そして二人の腰と腰が、完全に密着した。
俺はもう根本まで先輩の内側に包まれ、完全に見えない。突き上げた肉の感触はきっと、一番奥。千夏先輩の最深部に、触れている。この先は、何よりも神聖な場所。先輩の――。
そこまで考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。このまま射精したら、どうなるか。この奥を、先輩の子宮を、汚す。取り返しがつかないことになる、その予感に一瞬腰を引きそうになった俺を、先輩の中は強く締め上げた。逃げないで、と言わんばかりに。
「あ、やめ、出ちゃ……」
「良いよ、このまま。私は平気だから、ね?」
その一言は、余りにも予想外すぎた。呆気ない許可に身体は勝手に反応し、頭を無視して一気に本懐を遂げていく。
「あー……、なんか出てるね……。スゴいなぁ、これ……」
うっとりした顔の先輩にしがみついたまま、俺の意識は暗がりへと溶けていった。
あの後先輩が話してくれたのは、部活に影響を出したくないからずっとピルを続けていると言うこと。それが良いことなのかどうなのかは俺には分からないけれど、引退するか何かでピルを止めない限りは妊娠する事はまず無いんだとか。そう言ってくれると多少は気が楽になったけど、でもそうなると逆の事も考えてしまう。この人に、俺の子供を身ごもってほしい。そんな罰当たりな事を。
まあ、そんなことになったら俺たちは揃ってお仕舞いなのだけれど。
それからは毎日のように先輩は俺を求めるようになり、嬉しいけど結構その、困る。下手をすると母さんたちにバレそうなのに、声を潜めるとかそういうのに無頓着過ぎるんだこの人は。
その極みが、今みたいに学校でしたがる事。
とは言え目の前で揺れるお尻を前にして我慢が効く程、俺は冷静ではない。
「っふぁ……来た来たぁ……」
今まで何度したか分からない、でも何度しても気持ち良い。先輩の声を聞きながら入っていく、この瞬間は頭が壊れそうになる程に気持ちいい。
後ろから入ると顔が見えないけど、でもその分腰を掴んで強く突き上げることが出来る。どっちが良いか、とかは分からない。どう入ろうと、先輩の中が気持ち良い事は変わらないから。
「ぅあっ、あぃぁ、~!! い"、もっどぉ、激し……!!」
激しく喘ぐ先輩の声は、我慢とかそういう配慮を完全に忘れている。バレたら停学どころじゃ済まないのに、この人は本当に勝手でワガママだ。まぁ、千夏先輩だから仕方ないけど。
俺はまだ、この人を理解しきれていない。この先もきっと、驚くことばかりなんだろう。
それで良い。それが良い。
先輩だって、俺を全部知っている訳じゃないんだから。
これからわかりあっていこう、きっと俺たちはずっと一緒だから。
そんな思いにかられながら、背骨を貫く衝動に身を任せ、先輩の奥へと精液を注いでいく。今は意味がないかもしれないけど、いつかは――
「っうー……。お腹いっぱいぃ……」
幸せそうな声を味わいつつも、俺は再び腰を動かしていく。どうせこの人は一回じゃ満足しないんだ、動ける限り動き続けよう。大好きな先輩のために。
「やー……怒られたねえ」
「ですねえ」
二人揃って帰りが思いっきり遅くなった事を母さんにお説教され、俺たちは部屋で項垂れている。まああんな生臭いじゃ帰れないけどまさか学校のシャワー室も使えないし、水で一旦形だけ身体を洗ってから近所の銭湯に駆け込んだ時には既に20時を回っていたのだ。
まあ、それは怒るだろう。秋になって部活も一段落したこの時期にこんな遅くなって、しかも服は洗濯の暇がなくてドロドロ。俺が親なら殴ってるな。
「ねね、大喜くん。ご飯も食べたし、一汗流しませんか」
……懲りもせず可愛い顔で俺を脱がせようとする先輩に、思わず苦笑してしまう。
この人には、敵いそうも無いな。
どんなに考えたって、通じるはずがない。器が大きいのか底が抜けているのか、俺では理解しようもないんだな。
なるように、なるしかない。それはきっと、幸福だから。
先輩にキスしながら、考えることは一つ。この日々が、続きますように。
#4 アオい想いと秋の夜
きっとこれは、夢なんだ。都合の良い夢を見ているんだ。
俺に組み敷かれた千夏先輩の潤んだ目は、まるで催促するようで。それに導かれるまま、でも焦らすようにゆっくりと腰を進めていく。
蕩けきったオンナノコは僅かな抵抗と共に俺を受け入れて、それと同時に千夏先輩が甘い声を漏らす。俺だけが知っている、その声。僅かに腰をくねらせただけで、それは悲鳴にも似た喘ぎに変わっていく。
動けば動くほどに千夏先輩はどんどん上り詰めていく、何度も何度も白目を剥いて絶叫して。その度に膣内は痛いほどに締め付け、それでも俺は止まらない。
「大……喜く、んっ、もう……ダメぇ……。壊れ……ちゃう、から……っ」
懇願する声はでも、甘く絡み付いてきて。それに誘われて、射精感がようやくやって来た。
このまま、射精する。今日も千夏先輩の中を、俺で染め上げる。
愛してるから、この人を独占したいから。
そう思った、まさにその瞬間。
目の前が、ガクンと崩れ落ちた。
気が付くと俺は、天井を見上げていた。カーテン越しに射す、晩秋の爽やかな朝陽が感じられる。
俺は一人、ベッドの上。あれは全て、夢だった。それだけの事、それだけなんだ。あんなにも燃え立つようだった身体は寝起きのローギア、すっかり冷めきって。いや、でも一点だけは熱を保ち続けていた。
夢の名残か単なる生理現象か、
――と。
カチャリ、と小さな音を立ててドアが開いてそして。
「あ。起きてたんだね、大喜くん」
いつものように、千夏先輩が入ってきた。少し前までは考えられない事だけど、今の俺たちにとっては日常のことだから。
千夏先輩の手は無遠慮に布団を持ち上げ、自己主張していた
「じゃ、今朝も頂くねー」
蠢く舌が俺に絡み付くその感触に、起き抜けの身体が敏感に反応していく。ぞわりと込み上げてくる衝動は堪えきれるものじゃない、俺の意思なんて薄紙一枚の役割にも満たない。
じゅぷじゅぷと激しく音を立てながら、千夏先輩の頭が俺をくわえたまま上下に揺れ動く。早く早く、と目で訴えながら。
それに抗える程の気力が、俺なんかに有るわけがない。
ほんの数分、いやもっと短いかもしれない。呆気なく俺は、千夏先輩の口の中で射精してしまった。
「ん、んー、……っ」
嬉しそうに目を閉じ、喉を鳴らして精液を呑み下す先輩。
そして中に残った分まで吸い上げて、やっとその顔が俺から離れた。
「ふう……、ごちそうさま。じゃあ私、先に下りてるからね。二度寝しちゃダメだよ?」
口元を拭いもせずぱたぱたと出ていく背中を見送って。俺は一人、ぽけっと閉められたドアを見つめる。
どうしてこうなってしまったんだろう、と思いながら。
切っ掛けは、俺の勇み足なんだろう。約一ヶ月の同居中断を経て、千夏先輩が猪股家に戻ってきてくれたあの日。俺は後先考えず千夏先輩に、告白してしまった。
この先気まずくなる、負担になる、そんなのは言い終えるまで頭から完全に消えていたくらいだ。
とにかく、言ってしまいたかった。この気持ちを胸に仕舞って置けなかった。
例え跳ね退けられてもいい、雛だって俺にそうしたんだ。
勇気を振り絞った俺の言葉を、千夏先輩は黙ったまま聞いてくれて。最後まで聞き終えてようやく、口を開いた。
「そ……っか。そうなのか。大喜くんが、私を。そっか……」
その口振りからは否定も肯定も感じ取れなかったけど、でも。その後先輩は、行動で示してくれた。
俺を抱き締め、力一杯のキス。これが肯定の意思でなくて、なんだというのか。
ただ、でも。
俺の身体は勢いに負けて後ろに倒れていき、それでも尚千夏先輩は力を緩めない。
背中がベッドに着地し、身体が完全に倒されても。千夏先輩と俺の唇は密着したまま、離れない。
俺の視界に光が戻ったのはそこから十数分の後、千夏先輩がやっと顔を上げた時だった。
唇どころか口内全てを千夏先輩の舌に犯され、酸欠も手伝って身体が全く動かない俺。そこに千夏先輩は、少しずつ服を緩めながら迫ってくる。
なにかがおかしい、と気付いたときには遅かった。
俺はその日、そのまま先輩に――抱かれてしまったのだ。
そりゃ、気持ちはいい。千夏先輩と過ごす夜は、狂おしいほど幸福だ。今ここで死にたい、とさえ思うほどに。
身体の隅々まで千夏先輩の所有物になっていくのが、何よりも心地いい。
でも、だ。時々思ってしまう。俺はこれでいいのか、男としてどうなんだろう、とか。
俺は翻弄されるだけで、何も出来ないままだ。千夏先輩に愛されて、それで幸せになっているだけ。最初は
……千夏先輩は「経験者」で、だから俺をリード出来るんだろうか。もしそうだとしたら、そうなら――
先輩を好きな気持ちは、何一つ変わらない。変わらないけど、なんだか納得はし難い。
俺は、どうすれば良いんだろう。
「……バカップルだ。正真正銘のバカップルの片割れがノロケ話、聞かせやがる」
人の真面目な相談を一蹴し、匡はいつものように冷ややかな目で俺を見ている。
こんな話が出来るのはコイツだけなのに、毎回こうだもんな。まさか雛のアホには言えないし、て言うか言ったら殴られる。俺がセクハラ野郎みたいになっちゃうじゃないか。
まったくメガネの癖に薄情過ぎる、お前のメガネは飾り物かよ。
「要するに現状、自分がリードされっぱなしなのが納得いかないんだろ。でも安心しろ、お前は生まれながらの受けだ。受けて受けて受けまくる総受けにゃんこ、千夏先輩には絶対勝てないんだから諦めろ」
人聞きの悪いことを滔々と言いやがるメガネ相手に、溜め息一つ。纏めないでほしいけど、確かにそうなんだよ。
でもそれを自覚した所で、どうすればいい。
そもそも俺に、あの魔人を御せるわけがない。
考えは堂々巡り、ただ回るばかり。ああ、バカって辛い。
悩んでも迷っても、夜は来る。モヤモヤした部分もあるけど、それ以上に期待してしまう時間が。
風呂から上がって暫し、ソワソワしながら俺はベッドに腰かけている。いつものように千夏先輩が来てくれるのを、待っている。昼間あれだけグチグチ言っておいてこれだ、俺もやっぱり相当だな。
俺は千夏先輩が好きで、紆余曲折を経て結ばれて。幸せで幸せで仕方ないけど、なんだか不安になってしまっている。このままただ流されるだけでいたら、いつか千夏先輩は俺を――
でもまあ現時点でそんな徴候はない、と言うか先輩からはスゴい勢いで伝わってきている。好き好き大好き愛してる、の圧倒的なラブパワーが。そうでもなけりゃ、朝っぱらからあんなことしないよな。
毎朝のようにああやって目覚めの一口をねだりに来るし、学校帰りに路地裏へ引きずり込まれた事もある。風呂上がりに突然跨がられたりもした。それこそ女の子の日でもない限り、千夏先輩は毎日毎日俺を求めてくれる。
それはとても嬉しくて、幸福で。だからこそ、何も返せていない自分に腹が立ってしまうんだ。俺の中にある不安の芽は、きっとそこにある。
――と。
「大喜くん、来たよー」
俺の悩みを知ってか知らずか、朗らかな笑顔でやって来たのは大好きな人。いつものように、シャツ一枚の千夏先輩。さすがにもう風邪ひくんじゃないかな、いくらなんでも。最近冷えてきたし。まあでも、どうせ脱ぐんだし身体動かすんだし、なあ。
……いや、そうじゃない。そうじゃないんだけど、でも。
「んー……っ」
千夏先輩の唇が迫ってくると、その考えは頭の隅へと追いやられてしまった。
こういう所なんだろうな、俺の悪い所は。
結局俺は、流されている。悩んでも愚痴っても、自分から動いていない。
気持ちいいキスをしながら、心が粘ついていくのが分かる。ああ、良くないな。本当に。
ベッドの上で二人、逆さに重なりあって。何処かささくれだった気持ちは抱えたまま、でも目の前の光景がそれを押し潰す。顔の目の前まで迫っているのは、先輩の全て。そして同じように先輩の顔の前には、俺が突きつけられているわけで。
こんな状態で、余計なことなんか考えられるものか。そう、考えるべきじゃない。
「あー……むっ」
小さな声と共に、熱くしなやかなものが俺に絡み付く。そして包み込まれ、舐め上げられ。千夏先輩が俺を愛してくれている、それが何より嬉しい。それ以外、考えたくない。
激しいストロークで俺を攻め立てる先輩、その動きに合わせて白いお尻が上下に揺れる。このままむしゃぶりつきたい、そう思いながらも俺は動き出せない。
ちょっとだけ、いつもと違う事をしてみたい。そうしたら、もしかしたら、――この人を驚かせるくらいは出来るかもしれない。ほんの少しだけ、千夏先輩を上回ってみたいから。
じっとりと湿ったオンナノコの、その上。薄く色付いたすぼまりを目指し、そっと指を這わせていく。怒るかな、怒るだろうな。でも千夏先輩は集中してくれているし、気付かないかも。或いはこっちも「経験済み」だったり……?
怯えつつ指は進み、あと僅かな所までにじりよったその時。
押し潰されるような痛みが、俺の下半身を貫いた。
「大喜くーん、ナニしてるのかなー……?」
表情は見えないけれど怒りが混ざった声の先輩が、俺を握り締めている。それがハッキリと分かる、それほど強く。
高まっていた性感が痛みに変換され、なかなかに辛いけど。でも、でも。
先輩の言葉の方が、ずっと痛い。
「あのさ、不意打ちしないでね。私にだって準備があるんだから」
準備、か。つまり手順さえ踏めば、先輩は
いや、別に俺が気に病むことじゃない。
先輩がどんな人だろうと、過去に何があろうとも。
俺は千夏先輩が好きだから、
俺のそんな決意はでも、先輩の次の言葉に当たって空回りしてしまった。
「そういうの、まだ
俺を握ったまま言うその口調は明るくて、朗らか。内容はともかく。
今言っているのが真実なら、千夏先輩は。それは……。
「あ、……の。千夏先輩って、こういうの経験済みなんじゃ……?」
思わず疑問を口に出してしまった俺の下半身に、再び鋭い痛みが走る。感触からいって、握り潰さんばかりの力で玉を掴んでいるようだ。痛い痛い、猪股家が絶えてしまう。
「あー、私が遊んでるみたいに言ったー。私は大喜くんしか知らないし、えっちのやり方は動画とかで覚えたんだよ」
検索すれば幾らでも出てくるからね、という先輩。
言われてみれば、確かにそうだ。今時ちょっと調べれば、大抵の事はすぐ分かる。つまり千夏先輩は経験があったわけじゃなく単に
でも、じゃあ。
俺が口を開くより早く、千夏先輩が言葉を紡ぎだした。
「私もね、ずっと大喜くんが好きだったよ。だから、大喜くんを喜ばせたいの。もっと気持ちよくなってほしいし、可愛い顔をもっともっと見たい。その為なら、恥ずかしくても頑張れるんだよ」
――俺は本当に、何処までバカだったんだろう。
勝手に思い詰めて、わけが分からない事ばかり考えて。
もっとシンプルでよかったんだ、それで十分なんだ。
言いたいことは言おう、そうするべきだから。
「あの、千夏先輩。……少しだけ、お願いがあるんですが」
今までとは違う、向かい合う姿勢。いつもは俺に跨がってくる千夏先輩を、逆に組み敷くような。夢で見たのは、こんな感じだっただろうか。
上手くいくとは思えないし、白けてしまうかもしれない。
それでも俺は、自分から千夏先輩を愛したい。そう言った俺の顔を、千夏先輩は優しく撫でてこう言ってくれた。
「うん。大喜くんがしたいように、していいよ」
そして。
仰向けになって開かれた脚の間、トロトロと涎を垂らすオンナノコ。真っ赤に充血したそこは、今か今かと俺を待ってくれている。
これまで何度となく、入った場所。でもこうやって自分から分け行っていくのは初めてだし、先端を押し当てると思った以上に狭く感じる。ここに、毎晩のように入っているのか。これが俺を、呑み込んでいるのか。
ゆっくりと腰を進めていくと、段々と分かってくる。ああ、そうだ。この絡み付く、そして押し潰す感じ。いつもと同じ、大好きな人の中。
「ん、……あー……ぅ」
千夏先輩が漏らす甘い吐息を受けながら、その唇へキスをする。キスしながら、進んでいく。
背筋のぞわめきは収まらない、気を抜けばすぐにでも射精しそうだ。普段なら、それでいい。普段ならそれで千夏先輩は「お疲れさま」と俺にキスをして、そして後始末して部屋へ戻る。でも今夜は、そうなりたくない。
気合いで輸精管を固く閉じて、先輩の中を激しく掻き回す。突き上げる度に、そして腰を引く度に先輩の口からは嬌声が溢れ、その腕は俺を抱き締めるように背中へ爪を立ててくる。
しばらくするとその声からも表情からも、余裕は消えていった。
「あ"、……ぁう"、ぎ……いぃひっ!」
そして声は声で無くなり、低く唸る獣の呻きへ変わっていく。
顔は涙と汗でドロドロになり、膣内は万力のような凄まじさで俺を締め上げる。
きっとこれが、千夏先輩の本気。今まで見せてくれなかった、快感を貪る顔。
俺だけが見られる、俺しか知らない姿。それを見て尚、俺は止まれない。もっと、もっと。もっとこの人を深く知りたい、もっと愛したい。
その思いを込めながら突き上げた、その時だった。
ガチガチに張り詰めて先輩の奥を叩いていた俺の先端が、何かにめり込んだのだ。
僅かに腰を引いて再度突き込むと、更に少しだけ深くめり込むのが感じられた。まるで固い輪の中に自分を捩じ込んでるような、不思議だけど気持ちいい感覚。
「――!! っ、ダ……、そ、……こ、入っちゃ……!!」
ビクンと硬直した先輩が声を上げるのと、ほぼ同時に。俺は何かを貫いたような感じと共に、更なる深みへと入り込んだ。
先輩部分、雁首より先が袋のような部分に包まれている。そう感じながら腰を引いた、……つもりだった。
「あれ、……え? 抜けな……い?」
何かが雁首にがっしりと食い込み、俺を離さないのだ。完全に固められている訳ではないから小刻みなピストンは出来るけど、思うように動けない。
何がどうなっているんだろう、そう思ったその時。千夏先輩が囈のように、呟いた。
「そ、こ……ぉ、赤ちゃんの……お部屋ぁ……」
それが耳に届いたその時、背筋を快感の稲妻が走り抜けた。そして理解する、今自分が何をしているのか。千夏先輩の一番奥、最も神聖な場所。そこを、征服した。俺は今、千夏先輩の子宮に包まれている。
それが、楔になった。
ドクンと拍動が脈打ち、一気に爆発する。
雁首への締め付けさえ力尽くで振りほどく暴力的な圧力が尿道を駆け抜け、勢いよく精液が放たれる。逃げ場のない、子宮の中で。
「あ"ーっ、おぐ、当た……ってぇ! こ"われ、破裂す……!!」
こらえ続けて濃度も量も凄まじくなった精液の奔流が、先輩の中で渦巻いている。それは目には見えないけれど、感じられるもの。止まらない射精の勢いで、先輩のお腹が膨れていく気さえする。
その思いが更に興奮を呼び、後から後から造精が活性化してしまう。
終わりの来ない射精の中、千夏先輩が白目を剥いて動かなくなってようやく俺は。
「あー……う、あぁ……」
千夏先輩の中から自分を引き抜き、それでもまだ出続ける精液でその腹を、胸を、そして顔を汚していく。
幸せすぎて、死にそうだ。最後にそう思いながら、俺の視界はブラックアウトした。
二人して気を失ったまま、何時間か経っていたらしい。
意識を取り戻して最初に見たのは、ほっぺを膨らませた千夏先輩。
「……大喜くんのばか、死ぬかと思った。あんなに奥まで入れるなんて」
形だけむくれながらぺちぺちと俺を叩くその姿は、とても可愛い。こんな顔もするんだな、この人。
と言うか普段は上からのし掛かってるのに、あそこまでは入んなかったんだよな。なんでだろう。
まあ、良いか。これから時間をかけて、知っていこう。
お互いまだまだ、知らないことだらけなんだから。
笑いあいながらそんな事をぼんやりと考えていると、千夏先輩がイタズラな笑顔を浮かべてきた。
「ね、大喜くん。……卒業したあとも一緒にいたいって言ったら、どうする?」
それはとても魅力的な話だ、是非そうあって欲しい。
俺はこれからも、千夏先輩を好きになり続けるから。
「こっちからお願いしたいですよ。俺とずっと、一緒にいてください」
俺はこの先も多分、この人には勝てないんだろう。でも、それでいい。それがいい。
きっとそれは、何よりも幸福な結末だから。
「さすがにあれがクセになると困るかな」
「……それについては申し訳無いです」
「早めに赤ちゃん欲しいし」
「それについては全力で頑張ります」