――さて、どうしたものか。
顔は火照り、胸の鼓動はもう張り裂けそう。ただでさえ薄い胸を突き破り、心臓が飛び出していきかねない。
風邪をひかない事が取り柄の私がこんな事になるなんて、全く以てやれやれだ。
バスケ以外なにもしてこなかったツケなんだろうな、これは。世の中の「普通の子」がとっくの昔に済ませている事を、ずーっとしてこなかったから。
借り物の部屋、借り物のベッドに横たわったまま私は動けない。明日も学校なのに、朝練もしないといけないのに。
身体を焼き続ける熱は、全く治まってはくれない。
ああ、これは不味い。不味すぎる。これが世に言う、――恋の病なるモノなんだろう。
何をしても、何処にいても、大喜くんの事が頭から離れない。一秒も休まず、「好き」が溢れて止まらない。もしそれをそのまま、直接大喜くんに注げたらどんなにか良いだろう。でもそんなの、許されないのはわかっている。蝶野さんにも由紀子さんにも、顔向け出来なくなってしまう。
この気持ちに気が付いたのは、ついこの間。いや、本当はずっと前から知ってたけど見ないフリをしてきたのかもしれない。
大喜くんと蝶野さんはお似合いだし、私は只の居候。変に首を突っ込んで引っ掻き回したりしたら、立場的に不味いから。そう思ってきたのに、思い続けるべきなのに。
私は知ってしまったのだ、自分の気持ちを。あの日大喜くんと蝶野さんがキスしたかのような姿を見て、そして二人が付き合ってるかもしれないと聞かされて。後輩二人の門出を素直に祝福できない、そんな想いの正体を。
私は大喜くんが、好き。ずっとずっと前から、好き。
うっかり開けてしまった心の扉は、自分の意思ではもうどうにもならない。制御できない激しい感情に振り回され、平生を装うだけで一苦労。
その上私が好きな人は、すぐ隣にいる。一跨ぎで会いに行けてしまう、あまりも近すぎる。嬉しいけど、ちょっとだけ困る。過ちを犯すには、十分すぎる。
どうしよう、本当に。
さっきまで僅かに聞こえていた物音は既に止んでいるけれど、でも大喜くんの気配は感じられる。壁越しに二人、向かい合っている形だ。目を閉じて思い浮かべるのは、その壁を取り払った姿。同じベッドで並ぶ、そんな光景。
大喜くんの寝顔はとても可愛くて、思わず触れてしまいたくなる。可愛くてそして可愛い、あれは天使かなにかだ。前に体育館で見た可愛すぎる寝顔は、今も心のアルバムとスマホの隠しフォルダに閉まってあるけど、でも。
でも私はもう、それだけじゃ満足できない。
瞼の裏に大喜くんを思い浮かべながら私は、そっと自分の胸へと手を滑り込ませてしまう。指先をつーっと這わせてゆっくりとまさぐり、イメージを少しずつ具現化させていく。これは、大喜くんの手。大喜くんが私に触れている。私を愛そうとしてくれている、そんな都合の良い事を考えていると指は知らない間に加速していった。そして胸だけでは飽きたらず、その手はどんどん身勝手に進みだす。
そして、そして。
「……、ぅぁ……っ」
ショーツの上から
直接指を当てて弄ったら、どれほど気持ちいいだろう。でもそうなれば、私はもう止まらない。声を堪える事も、隠す事さえ出来なくなってしまう。
大喜くんは酷い声で喘ぎ醜く股をほじくる私を見て、きっと愛想を尽かすだろう。いやそうならなかったら逆に怖いわ、顔だけじゃなく中身まで天使なのかって。
……でも、もしかしたら。大喜くんは引く処か性欲を爆発させて、私に襲い掛かって来たりするかも。そうなったら私は抵抗なんか出来ず、そのまま大喜くんと――結ばれてしまうだろう。
そんな事を考えたのが、トドメとなった。
「ぁっ、……! ぃ……ぁっ」
妄想のせいで一気にギアを上げた快感が、お腹の奥で激しい火花を放つ。すっかりドロドロになっていたショーツは遮蔽の役割を果たせないまま、シーツに汚液が染みを拡げていく。ああ、もう。そろそろ
一回達したせいか頭の芯からは熱が抜けていき、急速に四肢が重くなっていく。せめて後始末してから寝ないと、朝スゴい生臭いんだよなぁ……。でも、眠くなってきてもう仕方がない。
最後の力で壁の向こうにいる大喜くんへと「おやすみなさい」を呟いて、私は睡魔に身を委ねた。
「気になる男子がいるなら、押し倒して跨がっちゃえば良いじゃないですかぁ。菖蒲はぁ、片っ端からそうしてますよぉ?」
甘ったるい声で簡単に言ってくれる後輩のデコにコツンと拳を落としつつ、私は溜め息を一つ。そんな簡単じゃないし、私に昆虫採集感覚でオトコ漁りする趣味はない。最近やたらなついてくるこの子はどうも情緒が足りないと言うか、人の心が足りない。と言うか、無い。股も頭もユルユル過ぎる、少しは引き締めろ。
色気のある事を相談できる友達がいない私にとって、そういう話が出来る相手は貴重ではあるけれど。あるけれど、もうちょっとオブラートに包んでほしい。
これで実は同居してます、とか言ったら大変だろうな。言わないけどさ、絶対。
「そういうんじゃなくて、ね。好きだけど……向こうにも色々あってさ」
大喜くんには蝶野さんがいる、それがやっぱり一番の障害だ。だからって二人を仲違いさせるとか、そんな事は許されない。大喜くんを泣かせるなんて、それこそ有り得ない。でもそうすると、私は結局蚊帳の外。堂々巡りでどうにもならない、打つ手も上げる手もありゃしない。
悩んで迷って、先行き不明。高校生にもなって、恋の仕方も分からないなんて。
やっぱり私には、向いてないのかな。
「考えすぎですよぉ、人間思ったより簡単に出来てるんですってばぁ。一発ヤれば向こうだって千夏先輩を好きになりますって、オトコなんてそんなもんそんなもん。ぶっちゃけ悩む暇あったら押し倒す方が楽ですよーぉ」
……なんでこう簡単に出来てるんだ、こいつ。こうもシンプルだと、生きてて楽しいだろうな。私には無理な話だけど、さ。
でも本当に――どうしよう。
悶々としながら今日も夜は更けて、私は何時ものようにベッドの中。流石に二日連続でオナニーすると罪悪感が沸き上がってしまうから、早めに寝ようと決意した。……したのだけれど、眠れそうにない。原因は勿論、大喜くんだ。
耳を澄ませば僅かに聞こえてくる、隣室の音。微かに聞こえる荒い息遣い、粘りけを感じる摩擦音が私の耳をとらえて離さない。今までは聞き取れなかった、いや聞こうとしなかったから気付かなかった。でもこれが何を意味するのか、それは今の私には分かってしまう。
大喜くんがオナニーをしている、昨日の私と同じように。
背筋がゾクゾクと粟立ち、身体の芯が焼けるように熱い。このままオナニーしたい、でもそんな事出来るわけがない。今したら、聞かれてしまう。せめて大喜くんが寝てから、いや今さっき「今日はしないで寝よう」と決意したじゃないか。もう布団を被って寝てしまえ、それしか無い。
しかしその思いは、呻くようなくぐもった声によって砕かれてしまう。
『千……夏、先輩ぃ……っ』
壁の向こうで大喜くんが切なげに漏らしたのは、私の名前。大喜くんがオナニーしながら、私を呼んだ。それはつまり――、
大喜くんには蝶野さんがいて、ずっとお互いを好きであり続けている。まだ付き合ってはないようだけど、もう秒読み段階に入っている筈だ。だから愛を囁くのも求めるのも、蝶野さんでなければならない。そうでないなら浮気になるんじゃないか、そうならなくとも不誠実な話だ。
だけどもし、その前提が間違っているとしたら。大喜くんが好きなのは、蝶野さんではなく――私なのだとしたら。
そうだとするならば、すべてが裏返る。
菖蒲が言った通り私が考えすぎて躊躇っていただけで、本当はもう何もかもゴールへと辿り着いていた。
ならば必要なのは、ほんの一歩を踏み越える勇気だ。
ドアを開けたその瞬間、大喜くんは呆然としていた。ベッドに身を投げ出し壁に背を向け、右手に男の子のその……オトコノコを掴んだまま。
逆に私はどこか冷静で、ああそんな風に弄るのかーと思いながら歩み寄る。
一拍遅れて意識が戻ったのか大喜くんはアワアワと取り乱すけれど、私は動じない。だって、好きだから。
そのまま大喜くんへ覆い被さるようにして私は、私たちはキスをする。こんな事はしたこと無いけど、でも身体が求めるままに。
合わさった唇の奥で舌を絡ませ、大喜くんの口中を私の味で染めていく。
たっぷりと粘膜で触れ合うこと何分か、息が苦しくなってきてようやく私は顔を放した。
大喜くんは恍惚とした様子で、その手足は力を失っている。弛緩した身体の中でオトコノコだけが、右手の支えを無くして尚張り詰めたように天井を向いたまま緊張を示していた。
オナニーの残滓なのかまとわりついたままの白濁液を指で掬ってみると、接触に反応したのかビクンと震えるオトコノコ。……なんか可愛いな、これ。
そのまま口に含むと広がる生臭さは、どこか覚えがある。オナニーしたまま寝てしまった朝、寝惚けてその指を嗅いでしまった時の生臭さだ。こういうのは性別関係無いんだな、と思うと何だか変な感じ。
でも決定的に違うのは、これは不快な生臭さではないという事。むしろ興奮を煽るような、頭の奥をゆさぶる――
いや揺さぶられるのは頭の奥だけじゃない、お腹の奥もだ。疼きはどんどん加速し、弄って欲しいと脚の間が燃えるような熱さを放っている。
このまま、してしまえ。菖蒲が言うように、考えず本能に身を任せてしまえ。
私を唆す甘い誘惑は、堪え難いほどに魅力的だ。
――でも。それでも。
私は大喜くんの気持ちを、踏みにじりたくない。
彼が誰を好きで、どうしたいか、それを尊重したい。
だからこそ、伝えなければ。私の想いを。
そこから先は、大喜くん次第。
「大喜、く……ん。私は、大喜くん……が、好き、です」
震える声で告げたその言葉は、大喜くんにどう聞こえたのか。まるで永遠のような一瞬の後、私はその答えを知ることになる。
「俺も、……です。先輩、好きです」
小さな、でも確かなその声。それは私を蕩かして尚、余り有るものだった。
仰向けになった大喜くんを跨いで見つめあう、それだけで胸が張り裂けそうな程に鼓動が高まっていく。溢れ落ちる粘液は陰毛を伝って大喜くんの下腹部に降り注ぎ、屹立したオトコノコを濡らしていくのが分かる。
あと少し、あと少し腰を落としたら私と大喜くんは結ばれる。少しだけ怖いし、罪悪感もある。でも、それでも。
私は大喜くんを、愛している。だからこそ、平気なんだ。
くちゅりと音を立てて、
もし今こうしているのが大喜くんで無かったら、入ってきているのが大喜くんのオトコノコで無かったら、きっと私は卒倒している事だろう。
大喜くんだから許せる、受け入れられる。一瞬感じた肉が避けるような痛みさえ、すぐに溶けてしまう。
少しずつお腹の中が大喜くんで埋まっていき、その輪郭が膣内に刻まれていく。もう全部入ったのかな、と視線を落としてみるけれど。
「んー……、もうちょっと、入る……かな……?」
大喜くんのオトコノコはまだ三割くらい見えている、これでまだ七割しか私の中に呑み込めていないのか。何だか悔しい気持ちになって、叩きつけるように腰を落としてしまう私。そして奥の奥、子宮が押し上げられる感覚と共に身体が着陸を果たした。
私は大喜くんの全てを呑み込んだ、私の一番奥を大喜くんが知ってくれた。その事実に、頭がどうにかなりそうだ。
意識が白濁し、バランスを崩しかけてしまう。
――と。
「う"、ぁ……っ!?」
身体が揺れたことで大喜くんのオトコノコが私の中を引っ掻かれ、全体が強く痺れる程の快感が襲ってきた。
大喜くんもそうなのだろう、半開きの口からは甘い喘ぎが放たれているから。
ちょっと動いただけでこうなるなんて、もし。もしも全力で腰を動かしたなら、どうなってしまうんだろう。
確かめたい、何処まで行けるのか。
好奇心と欲望に身を任せ、私はスクワットするように腰を上下させていく。
腰を上げればゴリゴリと中を抉られ、下げれば頭の芯まで突き抜けるような垂直の一撃がやって来て快感が全く引こうとしない。
凄まじいに程がある、暴風のように性感が荒れ狂う。
ぱちゅんぱちゅんと粘っこい水音を立てながら、狂ったように暴れ続ける私の下で大喜くんが切れ切れに呻いた。
「先、ぱ……い、ダメ……出ちゃ……いま、す……っ」
その言葉の意味が分からないほど、私は子供ではない。
さっき口にした大喜くんの精液、その味が口腔に甦る。これから大喜くんは、あれを私の中に放つんだ。それがどういう結果に繋がるかなんて、考えるまでもないじゃないか。
「良い……よ、大喜く……んっ。このまま……呑ませてぇ……」
受け入れたい、愛したい。猪股家への義理も蝶野さんとの関係も何もかも頭から消え失せ、ただその想いだけで膣内射精を懇願する。傍から見れば狂気の沙汰だろうけど、私はこれで良い。これが良い。
濁っていく視界で上体を倒し、かろうじてまだ見える大喜くんの顔に激しいキス。お腹の最奥で巻き起こる爆発に意識を押し流され、それでも最後の最後に残った理性を総動員して、どうにか言葉を紡ぎだしていく。
「好き、大好き、愛してる……っ」
それは全て同じ事、目の前の大切な人へ送る為の短い言葉。
最初から、これで良かったんだ。あれこれ考えず、伝えていれば良かったんだ。貴方が好きです、と。思えば遠回りをしたものだ、半年以上何をしていたんだ私は。
無駄にした時間は、取り戻さなければ。どうせ明日は日曜、練習もない。
「ね、大喜くん。……もっとしようよ、このまま朝まで、さ」
そう微笑みかけると、お腹の中で大喜くんのオトコノコがビクンと跳ねるように動くのが感じられた。どうやら
とりあえず腰が持つ限りは続けたいけど、どうなるかな。まあ、動けなくなったらそれはそれで。
楽しもう、この夜を。
「――でぇ、結局
ニヤニヤしながらイジってくる菖蒲にビンのキャップを投げつけて、私は二本目のユンケルを煽る。お陰さまで月曜になっても体力が戻らず、こうやってドリンク剤でブーストかけないと辛いのだ。
先輩としての矜持があるから朝練も休まずやったけど、昼休みの段階でもう倒れそう。ここから午後の授業受けて、そして部活か……。
一応朝のコンビニで纏め買いしたからユンケルの数は足りそうだけど、こういうのって効き目が切れてからが大変なんだよなぁ。元気を前借りするわけだから、後で疲労が来る。今夜はさすがにグッスリ眠れそうだけど、ね。
「にしても先輩の彼氏かぁ、今度味見させて痛っ!?」
バカな事を言い終えるより早く、飲み終えたビンをスコーンと脳天に一撃落としてやる。なんて事を言うんだ、この尻軽女。
誰にも渡さないし触れさせない、大喜くんは私の大事な人だから。
そうか、こういう気持ちなんだな。恋するっていうのは。私はなにせ不勉強で良くないや。
これからは大喜くんと二人、そういうお勉強もしていこう。この先家族になるかも知れないし、というかなるんだし。
「あーねぇねぇ先輩、せめてその男子って誰だか教えてくださいよぉ。先輩の彼氏だって知らずに手ぇ付けて修羅場、なんての御免ですからぁ」
まあ菖蒲は修羅場で遅れを取った事なんか無いですけどぉー、なんてほざく後輩に今度はチョップ一閃。そもそも手当たり次第に手をつけて回るな、この蛸足配線ビッチめ。
……まさかこんなのに靡くとは思わないけど、一応気を付けるよう大喜くんに言っておくかな。このバカ行動力だけはあるから。
それより蝶野さんをどうしたものか、それこそ修羅場になりかねない。あとあの子は同居の事とか色々知ってるし、揉めると面倒なんだけど。
さぁ、どうしようかな。
「菖蒲最近男の子飽きてきちゃったんでぇ、誰か可愛い女子紹介してくれません? 出来れば先輩くらいの」
「……女子新体操部のエース張ってる子なら、まあ知ってるけど。私より多分可愛い」
「良いですねぇエース、有名人大好物ー。新体操部やってる子って身体柔らかいだろうから、いろんな事出来そうだしぃ」
「まあ……うん、加減はしてあげてね。一応は」