気を許すと言うのは、意外と難しい。いやまあ私がそう言う苦手なだけかも知れないけど。ナツみたいにはいかないな、実際。あれは最近ノロケ話しかしないからな、二言目には大喜くん大喜くんだ。あそこまで吹っ切れれば、と思わなくもないが柄じゃねぇし。
宗介相手でも距離を縮めるのは怖い、私は重い女だから。下手に油断して愛想を尽かされるのは御免だ、せっかくの恋人なんだから。
しかし、だ。ナツに『昔から大事な事は話してくれない』と言われたりもした、もうちょっと心を開くべきなんだろう。
どうすりゃいいんだろうな、私はさ。考えすぎるのか考えなさすぎるのか、分からんよ。
「まあそんな訳なんだけどさ」
「いきなり俺をファミレスに呼びつけてする話ですかそれ」
呆れた顔のチキンタツタ野郎の額へ丸めたストロー袋を投げ付け、私は小さく息を吐く。仕方がないだろう、私は友達いないんだ。男子となればホントに宗介以外いない。どうやったら男子に退かれず距離を詰められるか、そんな話をする相手はいないんだ。
「……まあその、俺の場合千夏先輩が相手ですんで。あの人は基本、押してダメならもっと押せってタイプでしょう。夢佳さんとは根っ子から違うと思うんです」
ええい、それは分かってるよ。ベシっと伝票立てで叩いてやるけれど、コイツは笑顔で堪えるばかり。あのバカに付き合えるだけあってバカなんだな、参考にしても仕方ないか。とは言えこのままでは良くないのも確かなんだ、私にとっても宗介にとっても。
「得意じゃないんだよな、こういうの。バスケみたく一直線に進める方が楽だ」
「そりゃまあ気持ちは分かりますけど、そうやって逃げてるから悪いんじゃないですか。夢佳さんって言い訳ばっかりしてるじゃないですか」
てめぇ少しはオブラートに包めナツに言い付けるぞ、と今度は卓上にあるペッパーミルで一撃。全くコイツと来たら、人を正論で殴りやがる。
確かにそれは、そうなんだ。どのみち付き合ってる以上、距離が縮まるのは普通の事。私はただ、怖いだけだ。人と深く関わるのが、そして自分の手札を晒すのが。
栄明時代のナツにだって、言うべき事をなにも言えなかった。親の離婚を理由にして、背中を向けて逃げ出した。それがどれほどナツを傷付けるか、分かっていた癖に。
考えなしに突っ走る事でしか見えない景色もあるだろう、飾るよりぶつかって行けばどうにかなるかもしれない。
「……まあ宗介さんでしたっけ、あの人夢佳さん大好きですからね。変に構えないで自然体で良いんじゃないでしょうか」
自然体、ねえ。しかしそうなると果てしなくガサツになってしまうのが私だ、それはあんまり良くないだろ。……まあ宗介と付き合いだすまでは制服以外でスカート履く事無かったし、デート用に買った女子女子した服をうちで着てみたら母さんに『あんた女装する趣味あったの?』って真顔で言われたっけ。股を痛めて産んだ最愛の娘をなんだと思ってんだ、グレるぞコラ。いや今だって似たようなもんだけど。
とは言え、だ。そこも含めて私を好きになってほしいとは思う、どうせならこの重い女を受け止めてみやがれってんだ。
――などと決心して会計を押し付け帰ってから数日。
私たちは宗介の部屋で、気まずい沈黙に包まれている。
なるべく考えず進んだ結果トントン拍子にうまくいって、こないだ初めてのキスをして。そして今日は、お泊まりだ。どうせ母さんにはバレてるだろうけどもう良いや、あんなもん。
お互いに恋人関係にある以上する事する気はあるけど、あるんだろうけど……うん。
こういうのは男から来るもんじゃないんか、いや平時は私が宗介を振り回してるからなぁ。こっちからじゃないと進まない気もしてしまう。
しかしその、ぶっちゃけ恥ずい。ナツくらい真っ直ぐなバカだったら押し倒して終わりなんだろうけど、色々意識してしまう。
「なあ、……なあおい。私はさ、その……宗介と、したいと思ってるんですけど。宗介としてはその、どうなんでしょうかね」
なんだその言い方は、と心の中で突っ込みつつ尋ねた先。宗介の顔はもう真っ赤で、でも何処か躊躇いが見える。
それでも私は止まらない、止まりたくない。意を決して服を緩めていくと、明らかに宗介が狼狽し出してなんか可愛い。……ナツもこんな感じで彼氏を見てるんだろうか、違うかな。
私としても恥ずかしいし見きり発車も良いところだけど、とりあえず突き抜けよう。あとの事はあとになってから考えよう。
「あー……お前も脱げっての。私一人で裸になってたらバカみたいだろ」
実際バカだけどそれは置いておく、話が進まん。ここからまだまだ、長いんだから。
普通に生きてて他人に胸を触られる、なんてのはブラのフィッティングでアドバイザーにやって貰う時くらいか。それは勿論お仕事であって相手は興奮なんかしない、だからこんなハァハァ言ってる奴に触られるとかは考えた事もない。
宗介はおっかなびっくりながらも嬉しそうだ、なんでそこまで喜ぶんだろう。そもそも私の身体なんてそこまで綺麗でもないのに、何が楽しいんだか。……ブランクある身体を部活のために無理矢理立て直したから、見た目は良くないんだけど。中途半端なんだよな、今の私は。もっと自分磨きしないと。
「えぁ……のっ、下も触って良いか……な……」
興奮が止まらない宗介の言葉に、一瞬だけ私は硬直する。下、下ね。……まあ、そりゃあ……うん。
でも聞くなよ、かえって恥ずかしいだろ。
「言わなくて良いから……勝手にしろっての……」
顔を背けながら了承の意を示すと、震える指先は私自身へと向けられていく。そして私も、宗介へと手を伸ばす。
そこは今にも破裂しそうな程パンパンに張り詰め、粘液に濡れている。……こんな大きいの入るかな……壊れないか私。しゅにしゅにと擦りながら考えるのは、そんな場違いな冷静さだった。
宗介のベッドに背中を預け、脚を抱き抱えるようにしている私。宗介から見たら、潰された蛙みたいになってるんじゃないだろうか。その宗介はぎこちない手付きでゴムを付けたそれを私に向け、荒い息を吐いている。
「……ホントに良いのか、な……」
「良いからこんな格好してんだろバカ野郎、とっととしろスパーキングバカ」
こんな事を言っても宗介は怒らないし愛想も尽かさない、それが分かっているからさらけ出して甘えられる。シンプルで良かったんだな、私は。
ずにゅりと押し当てられ入ってくる宗介の感覚は、痛みよりも異物感が大きい。て言うか聞くほどの事でもない、こんなものかってくらい。話だと裂けるとか痛みが長引くとかそんな感じだったのに。
まあ、良いか。痛いのも苦しいのも好きじゃない、頑張るのや戦うのは好きだけどさ。
しかし内臓を掻き回されてくのは不思議な感じがするけれど、オナニーより気持ちいいかと聞かれれば微妙だな。そこまで執着する事じゃないかもしれない、なんて思いかけてふと正面を向くと宗介の顔が大写しになった。随分と必死じゃねぇか、となんだか笑えてくる。考えてみれば同じ人間だ、自分でする方が気持ちいいのは男も同じかもしれない。それでも情けない顔して腰を振るのは何故か、決まっている。私のためだ。
コイツのこの顔は、私しか知らない。きっとこの先も、ずっと。そう思うだけで、背筋がゾワゾワと粟立っていくのが分かる。
――って。待て、待て待て待て。それはつまり、私も同じように情けない顔晒してるんじゃないか。
「ぁ……んま、見んな……っ、顔……あっ」
突き上げられる動きに合わせて声が制御を失い、切れ切れの喘ぎが漏れ出てしまう。普段喘いだ事なんか無いのに、肺が押し潰されて発声を強要されるかのように止まってくれない。動画とかでは演技で出してるんだと思ってたけど、自然に出てくるんだな。
宗介も宗介で呻きに近い声を上げながら、でも私の名前を呼ぼうとしている。愛してるとも、言おうとしている。
まったく、不器用でバカな癖に頑張ってんじゃねぇよ。
叶わぬ身体をどうにか動かし、上半身を持ち上げて宗介を抱き締める。言わなくても分かってるよ、お前が今なに考えるのかくらいは。
この気持ちもまた、肌から伝わったのだろう。宗介の腰はガクガクと震えそして、お腹の奥でぶわりと何かが膨れ上がった。イメージとしては、膣内にお湯の入った風船が現れたかのように。
「おー……出てる、んだな……?」
ゆっくりと伝わってくる熱は心地好く、頭の芯が蕩けていく。正直腹のなかを掻き回されるより、体温を感じる方がずっと心に効く。ああそうか、セックスってこれなんだな。深く深く抱き締めあう、みたいな。
これは、好きだな。宗介とだったら、何度でもしたいかも。
ああ、――幸せだな。
「……で、倒れるまで搾り取ったと」
「端的に言うとそうだけど言葉を選べコラ」
チキンタツタ野郎の額を指でグリグリしながら言っては見たが、まあそういう事ではある。しかし背中を押してもらった礼を言う気だったのに、コイツ空気読めないな。
――って良く見ればコイツ、妙に窶れてるな。表情に生彩を欠いてるし、心なしか縮んでる。
「まさかと思うけど、ナツに大分ヤられてのかお前」
「…………もう…………お婿に行けないかもしれません…………」
諦感漂う表情で俯く姿は、宗介より大分弱々しい。あのバカ何やってんだか、どうして加減を知らないんだ。
でもま、私は分かっている。それもまた、当人にとっては幸福なのだろう多分。
それが一番良いんだ、どうせ幸せなんか他所からじゃ分からない。こうやってノロケられるんだから、それで良いだろう。
「まったく幸せ者め、お前らみたいなバカが羨ましいよ」
「でも少しは加減してやれナツ、あいつ結構参ってたぞ。お婿に行けなくなるって」
「どうせ私がお婿に貰うんだから良いじゃない、私たちは大丈夫だよ」
「……せっかく入った大学、お産で休学とかすんなよお前」
「えー……と、善処します」