大学生の夏休みは長い、約二ヶ月もある。もう競技としてのバスケは辞めて楽しむだけにしている私は合宿も行かないし、大喜くんの応援をして八月は終わろうとしている。それでもまだ半分近くある、どうしたものか。
等と考えていた時、ふと思い出した。高二の夏休み、二人で過ごした誕生日を。去年の夏休み、一緒に海に浮かんだ夜を。
今年は何をしようか、考えてもいなかったな。毎日が目まぐるしくて、楽しくて。
でもそうか、19になるのか。実感無いな、そんなオトナになった気がしない。
――オトナ、か。そうか、オトナ。オトナになったのだから、もうちょっとアクセルを踏んでみるべきだ。
お互いやるべき事は数多い、しかし物事は始めなければ始まらない。幸い仕送りとバイトのお陰で多少は金銭的な余裕もある、せっかくの夏休みを有意義に使うべきではないか。
インターハイの余韻も冷めやらぬ大喜くんを捕まえて、私は一気呵成に捲し立てる。思い出を作りにいこう、と。
「来たねぇ……」
「来ましたねぇ……」
二人示し合わせて、由紀子さんに嘘を吐いて。私たちは一路、晩夏の南紀白浜を歩いている。まさかここまで遠くに来れば、知り合いにも会うまい。旅好きの針生くんは花恋と海外旅行中、今年こそイルカと泳ぐんだと楽しそうにしてた。他もざっと聞いた限り、誰もこっち方面には来ていないはず。渚は西田くんのところに入り浸ってるし蝶野さんも菖蒲ちゃんも彼氏さんとイチャイチャの夏を過ごしているから、余計な口出しはまず無い。
つまりは大喜くんの夏休みが終わるまで、誰にも気兼ねなく一緒に過ごせるというものなのだ。
事実上の後見人である由紀子さんが知ったらさすがに怒る、というか心配するだろう。だから私は長い夏休みを使って旅行に行った事にし、大喜くんも大喜くんでバド友達グループと遠征に出た事にしてある。……多分バレはしないと思うけど、どうだろうな私の浅知恵だと。まあバレたらバレたで謝ろう、うん。お父さんたちに話が行くと厄介だけど、泣いてすがって歯茎を剥いて小一時間も粘ればなんとかなる……かなあ……うーん。なってほしいなぁ……。
果てしなく不安はあれど、既にこうして来てるわけで。怒られるなら怒られるで、どうにかしよう。
夏も終わろうという時期だからか観光客もまばらな街を、手を繋いで歩く。何をするでもなく、ただただ寄り添って。チェックインにはまだまだ余裕がある、こうして呑気に歩き回るのも良いものだろう。付き合いだしてオープンにするまで半年以上は隠しながらだったし、その後だって色々あって一緒に行動したのは数えるほど。私はもっともっと、近くにいたいのに。とは言え大喜くんの邪魔をするわけにはいかないから、最後のインターハイが終わるまではちゃんと我慢したのだ。
だから今は、新婚夫婦みたいに人目も憚らずイチャイチャしていたい。
「あ、ここあれだよね。温泉ポン引女中で出てきた浜だ」
「なんでそんな古い映画で例えるんですか千夏先輩は」
それがわかる時点で大喜くんも相当だよ、と笑いながら。私は大喜くんの手を握り、しみじみと思う。
ああ、良かった。幸せだね、良かったね。これからもずっと、こうやっていたいね。
きっとそれは肌を通して伝わったのだろう、お肌の触れ合い回線はいつだって最高速。
だって察しの良い恋人は、すぐに最高のキスをくれたから。
遊び続けて日が暮れて、二人並んで過ごすのは一夜の宿。同じ所に連泊するよりあちこち行こう、ということで明日も明後日も別の宿を取ってある。
ご飯も食べたお風呂も入った、そしてあとは……寝るだけ、だ。
胸の奥が爆音を奏で、頭は茹立って理性が削れていくのが分かる。ここからするのは、只一つ。
最初のキスを交わしてから半年以上、その先へと進むためこうして外泊してまで二人きりになったのだ。――セックスを、する為に。
何度部屋に連れ込んで押し倒しかけたか、その度にけじめがつかないと自分を抑えてきた。でも、だからこそ。もうこのまま我慢するのは難しい、正直破裂しそうだ。大喜くんだってそうなんじゃないだろうか、だから今回断ろうとしなかった。
愛したい、愛されたい。その気持ちは、もう隠しようがない。
ベッドに腰かけキスしながら、私たちの身体はゆっくりと傾いていく。服を緩めあい肌を重ねあい、その瞬間へと向けて。
「あ。……そうだ」
ベッドサイドのスイッチを操作して灯りの光量を落とし、もう一度改めてキス、キス、キス。
薄暗い部屋のなかでも浮き上がるほど熱い肌を露にして、それでも。キスを繰り返しながら、気持ちは高まっていく。
さぁ――ここからだ。
お互い初めてとは言え多少なりとも知識はある、どうすれば良いかは分かっているつもりではある。……まあ、つもりだけなんだけど。
大喜くんがコンドームを装着する間に私の方は、少しでも解しておこうとオナニー中。人前でするもんじゃないなあ、本当に。
しかしグチュリと溢れる愛液でシーツを汚す私の痴態は、大喜くんを興奮させて余り有るようではある。それは視覚的に確かめているから、間違ってはいないだろう。
「ん、……んー。もう良いか、な」
脚を拡げてベッドに背中を預けると、意を決した大喜くんがのし掛かってきて――私の中へと入り込んでくる。
聞いていたような痛みや異物感は無い、伝わってくるのはただただ激しい灼熱感。
身体が燃え上がるほど熱くなり、それでも尚止まらない。それは大喜くんも同じなのだろう、僅かに見えた怯えるような気配はすぐに立ち消えて。まるで試合中であるかのように真っ直ぐな視線で、その腰が動き出す。
ギシギシと骨盤が軋み膣内が掻きむしられる感覚は、でも決して不快ではない。肌を通じてやってくる大喜くんの想いは、ただただ一つだから。
愛している、それだけが分かれば良い。それだけを分かってくれれば良い。
――と。不意に大喜くんの突貫が加速し、その表情に少しずつ焦りが見え始める。荒い息を吐きなにかを堪えるように歯を食い縛り、それでもトップスピードを維持していく。これがどういう意味なのかは、考えるより先に感覚で掴める。
だからこそ私はただ一言、小さく呟いた。
「良いよ。……私に遠慮しないで、ね」
そう紡ぎ出して数瞬、ガクンと大喜くんの腰が痙攣しそして。
「ぁ……っ」
ブワリとお腹の奥底で、何かが弾けるように膨れ上がった。これが射精、というものなのだろう。
粘液質の熱い快感にまみれて抱き締めあう身体と身体、永遠のような数分間が流れて――大喜くんは申し訳なさそうに口を開いた。
「すいま、せん……。俺ばっかり、気持ちよくなって……一人で……っ」
ああ、そうか。大喜くんは、そんな風に思ってしまうのか。
一人でじゃないよ。私も私で、満たされたよ。大喜くんと繋がれて、幸せだよ。
言葉では表せない万感の想いも込めて、唇を重ねあって。
楽しい夜は、終わらない。
カーテン越しの朝陽が目に眩しく感じ、私は夜の終わりに気付く。激しくお互いを求め合うまま、電池が切れるように眠ってしまったようだ。
ベッドサイドには役割を終えたコンドームが幾つも並び、箱はもう空っぽ。大喜くんと何回したかは覚えていないけど、使いきるとは思わなかった。
ふと膣内をまさぐって見たけれど、精液の残滓らしきものは無い。コンドームがなくなったから着けなくて良いか、なんて事を考えるほど大喜くんは不真面目な子ではない、という事か。まあそうあってくれて良かったよ、まだまだ子作りには早い。
しかしまあ、それは置いといて。
「あー……疲れたなぁ」
寝て起きても体力が戻らないというのは相当だ、一晩で回復し終えないくらいに疲労するのはいつ以来か。バスケで心も身体も振り絞ってきたけれど、それでも寝ればどうにかなった。普段使わない筋肉を酷使するとこうなるんだな、負荷をかけすぎた。
もしかしたら大喜くんも、目が覚めたらそんな風に思うんだろうか。まあ今は天使みたいな可愛い顔で寝てるんですけどね、ああもう可愛い可愛い。
まだ今日も明日もこうしていられるんだ、のんびりしてても構うまい。
……よく寝てるなあ、本当に。お顔をふにふにしても全然起きる気配がない。これはイタズラし放題かな、もしかして。
もぞもぞと大喜くんの手を持ち上げ、自分の胸へと滑らせる。脱力しきった指先はでも不意に動き、まるで起きているかのように私を刺激して止まない。
寝てるよね?ね?
いやまあ起きてたらそのまま続きしてのも良いんだけど、こうやってる時に目を開けられたら気まずいな。
「ふぅー……ぁー……っ」
一度放した大喜くんの指先、それを口に含んで濡らしながら。私は次なるステップ目指して、身体を火照らせていく。
唾液にまみれふやけ始めた指が口腔から抜け出す頃にはもう脚の間に粘ついた水音が立ち、すっかりそこはほとびれきってた。
昨夜というかさっきというか、まあ少し前に大喜くん自身が入ってきた肉の裂け目へと、今度は指を挿入していく。
太く長ければ気持ちいい、という話は大分誇張したものなのだろうな。だって指でもほら、十二分に気持ちいい。
ゴリゴリと膣肉を抉る間食に腰をくねらせると、思っても見ない箇所が擦られて再び快感の波が沸き上がる。どうしようかな、私こっちの方が好きかもしれない。今度起きてる大喜くんにもしてもらおうかな、それもまた良さそうだ。
瞼の裏に火花が飛び、頭の芯が稲光に焼かれていく。これは、来そうだ。意識を刈り取る快楽の暴風、その予兆を察し私は更に激しく大喜くんの指を締め上げる。
呻き声と共に溢れるのは失禁に近い量の潮と、鮮やかな快感のビジョン。
疲れきった身体が硬直し、やがて弛緩し出すまで。私はただただ、幸せの水面を漂っていた――。
いやぁ……やっちゃったなぁ。
正気に戻って考えたのは、やっぱりそんなこと。部屋を汚したのはまあ、うんまあ良いだろう。チェックアウトの時に気づかれなければそれで済む。だけど大喜くんには悪いことしたなぁ。すやすや眠る大喜くんの指を拭きながら、今更な後悔が沸き上がる。
でも本気で起きないな、どうなってんだこの可愛い子は。今なら跨がっても気付かないんじゃないか、なんて又してもよくないことを思ったりするのはやはり疲労のせいだ。さすがにそれをやったら死ぬ、私が良心の呵責で。
コロンと大喜くんの隣に転がり、込み上げてきた睡魔に身を任せて目を閉じる。
夏休みは今日も明日も続く、終わるまでまだ百万年はある。やりたいこと全部やろう、楽しもう。