#1 アオく続く幸福
校舎に差し込む柔らかな陽光と、春風の匂い。今年もまた、この季節が来た。
去年の今頃はこんなに穏やかな気持ちではいられなかったな、と思いながら大喜と二人で並んで歩く。この幸せな時間を少しでも長く味わいたい、なんてちょっと拗らせぎみかな。でもまあ、良い気持ちだ。
せっかくだもの、楽しまなきゃ。
――と。
角を曲がった途端、私たちは何かにぶつかってしまった。
「お、……っと。ああ大喜くん達か、ごめんごめん。私ちょっと急ぎで、さ」
んじゃねーと軽く手を振って走り去ったのは、誰あろう千夏先輩。まったく三年生になっても忙しい人だ。
変わり無いと言うか、なんと言うか。
とは言え、だ。千夏先輩って――。
「あの人、最近綺麗になったよね」
「何言ってんだ、先輩は前から綺麗だろ」
事も無げに言う大喜に、ちょっとだけたじろぐ私。そうか、大喜は知らないんだ。……まあ知らないなら、そのままにしておいてもいいか。
千夏先輩が綺麗になってきたのは、恋をしているから。正確には、新しい恋をしているせいだ。同じ家に居ても知らないと言うことは、千夏先輩が隠しているということだろう。
だから誤魔化すように、私は大喜の頭を軽く小突いてやる。
「あのさー、
「いやお前が言い出したんじゃないかよっ」
それに質はともかくちゃんと一式フルセットで入ってるわい、とむくれるバカなカレシに腕を絡めて思う。
今私は、幸せだと。
思えば大分長くかかってしまった気がする。告白してから付き合い出すまで、実に半年以上。事故じゃないキスをしたのだって、ついこの間だ。
先へ進むのは、少しだけ怖いから。いや、怖いと言うのは違うか。私には伝えなければならない事がある、でもそれを果たせていない。それが心苦しくて、大喜の懐に踏み込めないんだ。
大喜がそれを気にするか、それは分からない。でも私にとっては余りにも重い、口に出すのを躊躇うどころか考えたくもないくらいに。
だけど、このままではいられない。
私は大喜を愛したい、大喜に愛されたい。その為には、避けて通れないんだ。
ああ、なのに。
結局まだ言えないまま、私たちは並んでベッドに腰かけている。シャワーを浴び終えて二人ともほこほこ、申し訳程度の布地以外に肌を隠すものはない。
これから、何をするか。そんなのは、一つしかない。大喜と私は、恋人同士だから。
セックスを、するんだ。お互いを愛している、と確認しあうんだ。
このまますべてを委ねてしまいたい、それが出来ればどれほど幸福だろうか。
――そんな事が、許されるなら。
「んっ、……」
大喜と交わす、柔らかなキス。この上なく気持ちいい、素直にそう思える。なのに一瞬だけ背筋に走る怯え、それが私を居すくませてしまう。こんなことをしていい訳がない、と頭の奥で声がする。
私なんかが、彼を穢していい筈がない。こんなにも無垢で可愛い大喜を、傷付けてしまうから。
何度そう思っただろうか、そしてその度に
それこそが大喜を傷付けるんだと、分かっているのに。
「あ、……ごめんな。やっぱ、今日も……?」
私の様子を察して気を使ってくれる、優しい大喜。でも、そうじゃないんだ。
私は、したくないんじゃない。大喜と心から、したいと願っている。
問題は、私にその――資格があるかどうか。
狼狽えている大喜にキスをして、私は覚悟を決める。
「私、さ。……初めてじゃ、無いんだよね」
拳を握り、ようやく絞り出せたのはその短い言葉だけ。
まだ大喜と会う前。それどころか、まだ自分が天才だと本気で思っていた小さな頃。英才教育として付けられたコーチの一人が、
私にはまだ、その意味なんかわかりもしなかった。苦しいのも痛いのも平気だった無敵の私は、それをワルいことだとさえ思わなかった。
家族以外の前ではだかになるのも、その格好であれこれ色んな事をするのも、平気。コーチの言うことを聞いて頑張れば、みんなが褒めてくれるから。
あの頃の私は、本気で信じていた。疑いさえ抱かない程、ひたすら一途に。「好き」というのはこういう気持ちなんだろう、なんてふざけた事まで思いながら。
でも唐突にそれは終わった、コーチの解雇という形で。きっと周囲の大人たちは、感付いたのだろう。私と
バカで子供な私は本気で泣いて、どうして辞めさせたのと父に食って掛かったっけ。その時にようやく、私は自分が何をされていたか知ったのだ。
本当ならば心から愛し合った大切な人としかしてはいけない事、それをそうと知らないままに経験させられていた。
ただただ、私は弄ばれていたのだ。
初恋なんか、どこにも無かった。でも身体はすっかり穢されて、傷だらけ。ああ、なんて愚かだったんだろう。
こんな私が、どの面下げて愛だの何だの言えるものか。
だからそう、私は大喜を受け入れる資格がない。
そう思っていたのに。
このバカと来たら、私が喋り出す暇もないままにアッサリと。
「じゃあ俺は初めてだからさ、色々教えてくれると助かるかな」
そう言って――笑った。そしていつものように私を抱き締め、キスをする。
いや。いやいや。いやいやいやいや。待て待て待て。
想定外の事にどうして良いか分からない私、そして能天気な顔の大喜。
そりゃぁ責められたいとか思いはしないけど、でもだからって話も聞かないのかこのバカは。少しは悩んだふりくらいしろよ、悩んでた私がバカみたいじゃないか。
例えばこれが逆だったなら、もし大喜が誰とそういう経験があるとか言ったなら、私は平静を装ったりは出来ないだろう。
――でも、だ。それで「私を愛する資格が無い」とは思わないだろうし、思いたくもない。
結局私は、片想いしていた時から変われていないんだな。千夏先輩と大喜の関係を勝手に邪推して、自分の想像に押し潰されていた頃と。だけど私は、大喜に救われた。このバカが、私を支えてくれていた。
私は大喜が好き、その事実だけがあれば良い。古傷なんて、忘れてしまえ。あんなやつに縛られるのは、もう止めよう。
「そっか、そかそか。ならおねーさんが、教えてあげようねぇ」
大喜を抱き返しながら、イタズラっぽく囁いてみる。ああ、なんだろうな。私今、幸せだ。
深く深くキスをしながら、お互いをまさぐりあう。無器用な手は徐々に腰を滑り降り、その奥へと迫ってくる。自分以外が触れるのはそれこそあの時以来かもしれないけど、不快感は無い。……でもなあ、このバカ本当にバカだからなぁ……。変に力とか入れられたらどうしよう、痛いかも。まあ普段から自分では多少激しめに弄るし、痛かったら蹴るなりなんなりしてやればいいか。
だから落ち着こう、きっと大丈夫。
「ん、そこ……ね。指、そのまま……」
「あー……うん。なんか挟まれてるっていうか、噛まれてる感じなんだけど……」
う。自分でも指入れた時、なんかイメージより強く締め上げられるなーとは思ったけどさ。そういうことはあんまり言ってほしくないな、と大喜のオトコノコをわざとギュッと握ってやる。でもこれまたイメージとは違って、上がったのは悲鳴じゃなくて甘い吐息。
気持ちいいんだ、こんな風に力入れると。
熱く張り積めたそこは、ガチガチに硬い。前に触らされた時よりも私自身大きくなっている筈なのに、大喜のは
やっぱりちょっとだけ、罪悪感は残ってしまうな。初めては、大喜が良かった。何もかも、大喜で知りたかった。
――やめやめ。いつまで柄でもない事考えてるんだ。
迷いを振り払うように、握り締めたオトコノコを上下にしごいていく。手の中で震えるオトコノコの感じは、大喜の昂りそのものなんだろう。
このまま続けていたいけど、でも私の中は酷く疼いて急かしてくる。早くしろ、と。
身体は身体で素直になる、私はまだ引きずってるのにさ。まったく、うちの
すっと離した手で、大喜の指を引き抜いて。私は――。
「ね、大喜。……来てよ」
セックスがしたい、と直接は言えずそうやって曖昧に微笑んだ。
「もうちょっと下、そこ……さっき触った所……。押し込んで、良いから……ね」
大きく脚を拡げ、何もかもさらけ出してオトコノコを求める。傍から見たら、浅ましいことだろうな。まあそもそも見せないけどさ、私のこんな姿を見られるのは
私の入り口が大喜の先端でグッと押し拡げられ、中へと熱い塊が通っていくのが分かる。お腹の奥が焼けていくような、不思議な熱が身体に染み通る感覚。こんな風に感じたことは、今まで一度も無かった。
そうか、これが私の――初めてだ。自分で選んで自分で愛した、初めての人。大喜にとっても私は、そうなれたんだ。
嬉しくて、心地よくて、泣いてしまいそう。だけど堪えないと、大喜を心配させてしまう。
それに泣いてる暇なんか、あるわけがない。
目の前にいる大切な人の顔を、目に焼き付けなければ。
そう思って視線を合わせた、まさにその瞬間。
「あ……ごめっ、出……ぅ」
お腹の中で、何かが弾けた。私の身体はこれを知っている、かつて同じ体験をしたから。当時はそれがなんなのか、どういう意味があるのかなんて分からなかったけど。今の私はあの日の私とは違う、ちゃんと知識としても知っている。
大喜が射精した、私の膣内に精液を放った。健康な高校生である私にとっては重大なことだけれど、構わない。愛しているから、愛されているから。
トクトクと注ぎ込まれていく精液は、もちろん見えはしない。でもハッキリと感じる、その熱い愛を。私のお腹が大喜の精液で、愛で充たされていく。
どうしようもないくらい、幸福感が止まらない。
「良いよ、大喜。もっともっと、しようよ」
溢れる幸せな涙を拭うこともせず、私は大喜を抱き締める。強く、強く。そしてそれに応えるように、大喜のオトコノコは私の中で再び猛っていく。
ああ、ああ。こんな幸福な事、生まれて初めてだ。何もかも、初めてだ。
大喜と愛し合って、私はこんなにも幸せになれた。
今この瞬間に死にたいくらい、幸せだ。
一緒にバカを言い合いながら商店街を通り抜け、二人で入ったのは蝶野邸――私の家。どうせ両親は遅くまで帰ってこないから、最近は大喜をうちまで連れてくる事も多くなってきた。
そのまま荷物を部屋の角に放り、シャワーも浴びないままベッドへと雪崩れ込む。これも最近は恒例になりつつある。
ただ、あんまり長い時間は引き留めておけないのがちょっと寂しい。うちはまだしも、大喜の家の事もあるからね。だから大体一回だけ、あとは少しの間イチャつくくらいだ。私も千夏先輩みたいに大喜の家に住めれば良いんだけど、なかなかそうもいかない。せめて卒業してから、かな。
まあ、良いか。
ふわりと漂う汗の匂いは、直ぐに別の匂いで上書きされていく。発情した私たちの、オトコノコとオンナノコの匂いで。
ベッドに仰向けになった大喜を跨いで、その直下たつオトコノコに私のオンナノコを覆い被せるようにして腰を落としていく。色々したけど、これが私は一際好き。とても深い場所まで大喜を感じられるし、動きやすいから。
体重をかけて一旦身体を落としきり、そこから一気に高度を上げるとオトコノコのカサが私の中をゴリゴリと引っ掻いていく。そして抜けるか抜けないかの所で膝の力を抜いて急降下、この繰り返し。
大喜の喘ぐ顔を見ながらも腰を振りつつ、
頭の奥で膨れ上がっていく快感の蕾が一気に開いたら、大喜にキスしよう。キスしながら、一緒にイこう。そしたら一緒にシャワー浴びて、由紀子ママからメッセが来るまでイチャイチャしていよう。
本当に、幸せだ。こんな日々がずっとずっと、続いてほしいな。
「あー……じゃあ俺、帰るわ」
「んじゃまた明日、ね」
すっかり蕩けた私たちは、玄関口で別れの挨拶を交わす。言いたいこともしたいこともまだまだあるけど、自分達で決めたこと。一応けじめは必要だ。
本当は、帰したくない。いつまでも一緒に居たい。
だけど一方で、私は信じている。時間が空こうが距離が離れようが、大喜と私の絆は永遠だ。大喜は私が初めて愛した人、そして最後まで愛するただ一人の人。大喜にとっても私は、最初で最後の人。
いつか私は、あの頃の事を大喜に話すことになるだろう。でもそれさえ、二人の結び付きを強める為の舞台装置にしかならない。私たちの関係は、そこまでやわじゃないから。
それにしてもこの世には、言葉が足りなすぎる。この思いを「愛している」という、使い古された言い回しでしか表現できないなんて。
だから敢えて、それは言わない。
「帰れば先輩がいるからって、浮気すんじゃないわよー?」
「しねぇよ、失礼だなー」
私の軽口に笑顔で返し、手を振って出ていくその姿を見送って。私は改めて、自分の中に萌えている思いを反芻する。
今私は幸せで、明日はもっと幸せだろう。未来永劫、大喜といる限り。
だから、だから。
神様、私からなにも奪わないでください。私を幸せでいさせてください。
――私はいつまでも、大喜の
#2 流れるアオい幸いに
物事には順序というものがある、それは分かっている。分かっていても、抑えは効かないのが世の常。後悔は先に立たない、事が起こらなければ何も始まらないのだ。私だけじゃない、みんな同じこと。
だからって、さすがにこれは無いだろう。ここまで強引な連中しか周りにいないなんて、全く世も末だ。いやまあ、類友と言われてしまえばそれまでだけど。
振り回される側は気の毒だ、と散々振り回している側が言うのもおかしいな。
でも私なんて優しい方だろう、一応気は遣ってあげてるつもりだし。
何て言うか、全ては大喜のせい。大喜が可愛すぎるから、揃いも揃って理性を無くしちゃうんだ。そう、私は何も悪くない。……その筈だけど、うん。少しだけ罪悪感はあるかな、少しだけ。
まあ今さらって感じではあるし、もう考えても仕方ないじゃないか。ここから切り換えていこう、そうしよう。
窓の外には名残りの雪が舞う、三月中旬。もうじき新しい生活が始まる頃合いだけど、私は過ぎ去った騒がしくも愛しい日々を思い返してみる。
あの秋合宿から色々あったけど、全てが輝く想い出だ。……その筈だけど、うん。うーん………………どうかな……。
紆余曲折はあっても、最後はうまくいくと思っていた。私の人生だ、主役はこの私。ぶつかって傷付いて、それでも私が負ける事はない。ヒロインは、私なんだから。
それが単なる思い上がり、取るに足らない錯覚に過ぎないと突きつけられて尚、私は退くことが出来ない。
付き合えないと言われて込み上げて来たのは、暴力的な衝動。こんな事は有り得ない、有ってはいけない。これじゃ私はただの――端役じゃないか。窓の外から射し込むキャンプファイアーの焔光は、まるで私を煽るかのよう。
……ふざけるな。こんな終わり方があってたまるか。
今はまだ私を好きにならなくて良い、それで構わない。なんなら暫く千夏先輩と付き合ったって良いんだ、最終的に私を選びさえすれば。必ずそうなると思っているから、このまま心地良い停滞に微睡んでいたいのに。
背を向けて歩き去ろうとする大喜に、私は全力で飛び掛かっていた。
暗がりの中で取っ組み合い、吼えるように想いを叩き込んで。気が付けば大喜に跨がり、マウントポジションになっている。ひきつった顔で私を見上げる大喜は、なぜかやたらと――可愛く見えた。
ああ、そうか。私は大喜を、こうしたかったんだ。制圧し従えたかったんだ。そう自覚すると臍の奥辺りが熱くなり、それが身体を染め上げていく。狂暴な雌の部分が目覚める、そんな激しい衝動が噴き上がるのが分かった。
どうしてもっと早く、こうしなかったんだろう。力尽くで組み倒して、モノにすれば良かったんだ。千夏先輩に遠慮なんかしないで、襲ってしまえば済んだんだ。
――襲う。その発想が現れた直後、ショーツの中に湿り気が涌く。胸の先がチクチクと痛痒く疼き、全身が興奮に包まれて体温は急上昇。
そうだ、してしまえ。このまま大喜と、最後まで。恋人同士ですることを、してしまえ。そうすれば大喜は、私だけのモノだ。
「――っ」
モゾモゾと服の下をまさぐり、大喜のそれ――オトコノコを手に掴む。勿論生まれてはじめて触れる、男の子の生殖器。硬く張り詰めた、肉の槍。
これを、私の中に受け入れる。それでもう、話は終わるんだ。責任をとれ、と被害者ぶって大喜を完全に支配してしまえ。私の身体はもう、それ以外考えられない昂っている。
跨がったまま僅かに腰を浮かせ、粘液に汚れたショーツを脱ぎ捨て息を呑む私。あとはもう腰を落とすだけで、大喜と私は特別な関係になる。
それで良いのかと囀ずる理性を脳の深くに封じ、これで良いんだと私は腰をゆっくりと沈めていく。どのみちもう、私たちは友達になんか戻れない。赤の他人になるか、それとも力尽くで関係を強要するか。もう私には、その選択肢しかない。
グチリと押し当たった粘膜同士が僅かに抵抗を示すも、重力を借りた縦ベクトルの移動力には意味をなさないまま。
「あ"、入……った、あぁ……」
身体の中を押し広げられる、今までにない感覚。小さな痛みはすぐに溶けて消え、やって来るのは焼けるような快感と満足感。大喜と繋がった、その事実がもう狂おしい程に気持ちいい。
ゾワゾワと背筋を昇ってくる甘い悦楽に身を任せ、意識するより先にズンズンと腰を動かしてしまう。その一瞬一瞬毎に瞼の裏へ電流が流れ、意識を刈り取られそうになる。こんなに気持ちいいのか、セックスって。オナニーはよくするけど、こうも違うものなのか。
いや、そうじゃない。大喜だから、だ。大喜としているから、こんなにも凄まじいんだ。
「ぅぁ、あぅ、やめ……出……っ」
暴れる気力さえ無くしたのかされるがままだった大喜、その口から絞り出された抵抗の言葉。
それは私にとって、むしろ興奮を煽るスパイスでしかない。
もっともっと追い詰めたい、もっともっと
頬を伝う涙を指先で弄んで、そう思った時だった。
ドクンと一際強い拍動が身体の芯へと向けて弾ぜ、大喜の身体からはフッと力が抜け落ちる。
それがなんなのか、私はそれを思考ではなく本能で理解する。射精した、ということ。大喜を最後まで、堕としきった。
心地良い充足感に浸ろうとした私はでも、次の瞬間に固まってしまうことになる。大喜が口にした、その言葉で。
「どうして、……こんな事するんだよぉ……っ。先輩も守屋マネも、みんな……みんな何で……俺にこんな事……っ」
いや、いやいや。いやいやいやいや、待て。なんだと、おい。
先輩、は千夏先輩だし守屋マネは菖蒲だわな。あいつらが「こんな事」……つまりは今の私みたいに跨がった、とでも言うんだろうか。
千夏先輩と大喜は同じ家にいるんだし、やろうと思えば不可能じゃないだろう。菖蒲は百戦錬磨のビッチギャル(死語)だから、そりゃあまあ慣れてるかもしれない。でも、だ。だからってまさか先越されてるなんて。
それになんだ、「みんな」って。他にもいるのか、大喜を押し倒した女子。……いや男子もいるかもしれない、なにしろ大喜可愛いから。バド部の針生って先輩さんとか、大喜とやたら距離近いし。あとは匡も匡で大喜大好きだからなぁ……うん。
どうしよう、容疑者が多すぎる。て言うか大喜の言い分が正しいなら、何度も何度もあちこちから襲われていることになるんだけど。大喜は公衆トイレじゃないんだけどなあ。しかし菖蒲ってば、どの面下げて応援するとか言ってたんだあんにゃろう。あとで締め上げてやる。
とりあえず、だ。
「……ゴメン。ホントにゴメン、でも今は泣き止もう? ね?」
涙を脱ぐってあげたり着衣を整えたり、私は事後処理に尽力する事となった。
色々と問題が山積みだけど、今はこれ以上踏み込めそうも無い。合宿先というのは込み入った話が出来る環境では無さすぎる、動くとしても明後日以降帰ってからだ。
大喜をなだめながらも、私の気持ちは安らがない。ああ、果たすべきタスクが多すぎる。
「可愛いからつい襲った、反省はしてない」
こうも簡潔に堂々と言い切る千夏先輩を前にすると、なんだか自分が間違っている気がしてくる。いや絶対千夏先輩がおかしいんだけどさ、具体的には千夏先輩の頭が。そんなカジュアルに人の好きな相手を襲わないでほしい、て言うかそもそも襲うな。なんなんだ、この人は。
そして更に頭が痛いのが千夏先輩以外にも、私たちの周囲には頭おかしい連中が揃っているという事実。菖蒲を詰問したら大喜が言った通りだったし、他も千夏先輩の友達とかそういう人たちに「摘まみ食い」されてるのは事実っぽい。なんだこの学校、アバズレしかいないのか。まあ私だって思い詰めて跨がったけどさ、これはほら純愛だし。私悪くないし。
とは言えどうしたもんだろう。
「えー……つまり千夏先輩も……いや千夏先輩
どうしたもこうしたも、私はそれをハッキリさせるしかない。傷口を自ら抉るに等しい行為だけど、曖昧にしてはおけない。真っ直ぐに正面から戦う為に、これ以上事態を拗れさせない為に。この人が単なる性欲任せで動くとは思えない、強い感情がある筈だ。私のように。他はともかくこの人をライバルとして扱うのは厳しいけど、こうなれば腹を括って戦うしかない。
そう覚悟を決めて見据えた千夏先輩は、でも。
まるで何でもない事かのように、いつも通りぽややんとした顔を崩さない。
その口から出る言葉もしかり、まるで緊迫する感じがないままぽややんとしていた。
「んー……
いや待て、待て待て待てコラ。喉まで出かかったその声を強引に押し込め、私は唖然としたままテーブルに突っ伏した。
なんだこれ、なんだこれは。この人なんなんだ、何をほざいているんだ。まさか、まさか。そうなのか、もしかしてそうなのか。
呻き声を漏らしながら思考をフル回転させ、ようやく絞り出した答えは――。
「ああ……千夏先輩、バカでしょ……」
確信した、この人壮絶なバカなんだ。器が大きいんじゃなくて底が抜けてる、モノを考えない人。張り合うだけ損だ、こういう手合いは。
私バカじゃないよーと私の頭をぽふぽふと叩いてくる千夏先輩の手を払い、考えを巡らせながら対峙する。
とりあえず必要なのは、勝つことじゃない。理解することでもない、受け止めることだ。
「じゃあ、……じゃあ。私と大喜が
「うん、持っていかれちゃうのは嫌だけどね。でも大喜くんも蝶野さんも良い子だし、みんな仲良しなのが一番平和だよね」
きっと千夏先輩はこっちの気持ちなんか分かっていないんだろうな、と思えど言質を取れたのは大きな進展だ。
私が大喜を独占しようとしない限り、千夏先輩は強く出ない。こっちもこっちで強く出られないけど、それでも血を見る必要はなくなった。
後は菖蒲か、でもあの子はそもそもの時点でお尻が水素より軽い蛸足配線女だからなぁ。本当にただなんとなく襲っただけで、別に大喜を好きとかは無いかもしれない。昆虫採集気分で男子引っ掛けてるらしいからね、あれは。バド部男子コンプリート、とか狙ってそう。
私がどうにか大喜を護らないといけないなあ、本当に。
全く変な使命感なんか出すもんじゃない。あれから何度、そう思ったことか。
可愛い可愛いと大喜に手を出そうとする連中をどうにか退けたり譲歩したり、由紀子おばさんと丁々発止でやりあったり。何で私がこんなに苦労しないといけないんだろ、とか考えたりもしたけれど。
でも、まあ。今こうして二人でいられるのは、日々頑張ってるお陰だろう。大喜の気持ちも段々と私へ向くようになり、どうにか告白も受け入れさせたし。
そして今日は大喜と二人きり、邪魔は入らないし入れさせない。卒業後もちょっかい出しに来る千夏先輩たちも、そして菖蒲たちも今日は来ない筈。そういう約束だ、約束はまもり合わないとね。
すいっと顔を寄せてキスを一つ、そしてそのまま大喜を抱き締めながら身体を背中側へと倒していく。たまには受け身になるのも良いからね、それに――あんまり激しく動きたくない理由もあるから。
普段いつもいつも乗られてるからだろう、少しだけ大喜は戸惑い顔。ああ、可愛いなあ。
交わすキスは熱く優しい、いつだって大喜はそうだ。気遣いばかりで、自分からはなかなか動けない。これはこれで気持ちいいけどね、うん。
だけどやっぱり、それだけじゃ満足は出来ない。
私との間で押し潰されている大喜のオトコノコを指でなぞり、その感触を確かめながら。私は自分自身にも指を這わせる。大喜以外の誰も知らない、その場所に。……大喜はいろんな子のを知っているわけなんだよね、私としては少し不本意な話ではあるけど。まあ、誰がどう気持ちいいとかそんなのは一度も口にしていない。気を遣っているのか、それとも個体差なんてそんなに強いもんじゃないのか。
別に良いんだけど、さ。
力を抜いて身体を委ねる、されるがままになる。これが意外と難しいんだな、余計なことばかり考えてしまう。集中集中、ってそれも変か。
密着する箇所は少しずつ動き、やがてようやく
僅かな硬直を経て、大喜が私の中へずにゅりと音を立てて入って来た。のし掛かるのとはベクトルが逆だからか、内側を抉る感覚はいつもとは大きく違っている。でも悪くない、というか結構好きかもしれないな。優しくゆっくりと私の中を染めていく、じんわりとした快楽。もし最初にこれを知っていたら、とも思ったり。あんなドタバタしなかったろうし、大喜も泣かせずに済んだのにな。
まあ文字通り、済んだことだけど。
「大喜、動ける? あんま無理しなくても良いけどさ、好きなようにして良いからね」
「ぇあ、……うん。頑張る」
ホントに可愛いな、なにこの小動物。必死で腰を振る姿もまた可愛い、いつもみたく上からするのも好きだけどこっちも良いな。
おっかなびっくりの動きはやがて、ゴリゴリと内壁を削るようなピストンへと移り変わっていく。調子が出てきたようで、何よりだ。
お腹の奥で何かが迸って尚、腰のグラインドは止まらない。射精しながらもまだ大喜は私を悦ばせようと頑張ってくれている、それが堪らない。
きっと私の粘膜は、大喜の色に染まっている事だろう。
ああ、ああ――幸せだな。
何度も何度も精液を放ち続けたせいだろう、いつの間にか大喜は崩れるように眠ってしまった。
こっちも一眠りしようかとベッドに転がって、目を閉じかけた所で私は思い出す。言うべき事を言っていない、と。
「あー……忘れてた」
サイドボードに置きっぱなしなバッグから手探りで取りい出したりまするは、先日交付された小さな手帳。それもただの手帳じゃない、所謂母子手帳と呼ばれるものだ。ちゃんとした名前は母子健康手帳なんだけど、長いからね。
まあ、あれだ。こんだけ高頻度でガンガンやりまくってれば、こうなるのは当然だろう。千夏先輩たちももしかしたら当たっているかもしれないけど、私が知る限り大喜にそういう話をした人はいない。私が先を越した形だし、これを盾にしてどうにか法的にくっついてしまおう。
そうすれば大喜は正式に私の配偶者になる、これで一応の勝者は決まるわけだ。まあでも、あの連中が大人しく諦めるとも思えない。これからも大喜を巡って、どったんばったん大騒ぎする日々が続くかも。そもそも大喜がどう出るかだな、ホントにこの小動物は可愛いだけで打たれ弱い子なんだもの。
どうなろうとそれはそれで、楽しいだろうけどさ。
賑やかで無作法で、支離滅裂で。そんな私たちの毎日は終わらない、きっとずっと。
#3 アオく吹き荒れる風に乗り
どうしたものか、と天井を仰ぎ私は溜め息を吐く。いや、まあどうしようも無いんだけど。
なにしろ今の私は部外者で、かかわり合う義理さえ無いんだから。とは言え、だ。袖擦り合うも多生の縁、まして――好きになった相手だ。一度はフラれたけれど、好きだった事実は消えやしないし諦めてはいない。
バカ大喜は千夏先輩が好き、それはどうやっても変えようがない。
ならばここでごねるより、今は二人を支援するのが正しい「友達」としての姿だろう。
恋人にはしてもらえないけど、せめて女友達としての立ち位置は維持したい。いつかそこからジャイアントキリングを決めるために。
しかしまったく浅ましいな、私と来たら。天下御免の美しき赤毛の女、無敵の蝶野雛は何処へ行ったんだか。
まあでも、とりあえずは明日だ。明日の朝、大喜と話そう。さっき起きた、とんでもない事を。
私の目には、まだありありと焼き付いている。千夏先輩以外見えていないあのバカが、
ここ数日空模様は安定し、時期の割には気温も高めな夜の町。私はコンビニの袋片手に、日課となりつつあるお散歩中。中身は買い物じゃない、単に――カモフラージュだ。本当の理由を、気付かれない為の。
最近大喜は虫歯気味だそうで、部活が終わって一旦帰宅してから歯医者に行く。匡と大喜の立ち話をこっそり聞いてそれを知って以来、私は毎日こうしている。偶然を装ってでも、大喜に会いたいから。
我ながら未練がましいと思うけど、でも辛いのだ。いっそ好きになってくれなくても良いから、せめて昔みたいにバカを言い合って笑いあいたい。それくらいの気軽な関係に、戻りたい。ここまで自分が弱っているなんて、思いたくもないけど。
――と。
歯医者のある通りから出てきた大喜の姿を見付けた私は、でも咄嗟に隠れてしまう。大喜は一人じゃない、誰かが側にいたのだ。
それは千夏先輩ではなく、メガネをかけた知らない女性。高校生かどうかも分からない、ただ大喜は彼女と口論になっているように見える。
どうしよう、出ていって止めるべきか。それを口実にすれば仲直りできてもおかしくない、だけど。
なんだろう、あの雰囲気。抜き身の真剣のような、触れれば斬れそうな程の
それは大喜も分かっているんだろう、でも退かない辺りが大喜らしい。
「――生意気なんだよ、ナツの彼氏くん」
その瞬間、私は見た。彼女が触れた途端柔道の技を受けたみたいな勢いで、大喜の身体がガクリと崩れるのを。そしてふらついた隙を突かれ、路地の裏へと引き摺り落とされるまでを。
堪らず駆け寄ろうとした、でも私の足はその場所へと辿り着く手前で止まってしまう。まるで、二人の様子を覗いているような格好で。
「あぁ、別に痛い目にあわせようってんじゃないから。ただね、ちょっとだけ――
組倒した大喜を見下ろしながら彼女は抵抗しようとする大喜の顔へと、……自分の顔を振り下ろした。
ここからは見えないけど、でも
私とキスしかけた、あの時。囃し立てようとするクラスメイトに大喜は、「そういう事を言わないで欲しい」と言った。それは自分が千夏先輩に誤解されたくないからじゃない、私を護るためでもあったんだ。
キスはとても大事な事、気安くしてはならない事。
それをこんな、暴力的に奪われた。
「随分
その声は場違いなほどに明るく、そしてそれ故に恐ろしい。
この人、おかしい。完璧に頭が壊れてる、異常だ。
そしてその異常さが際立ったのは、大喜の服の隙間から蛇のように入り込む手の動き。その手は下半身へと及んで、そのまま――。
「ん、……っと。あぁ、顔に似合わず立派じゃない。ナツなら怖じ気づくかな」
大喜の、その……オトコノコを引きずり出してしまったのだ。
寸足らずの蛇のようなそれに、彼女は躊躇いもせず顔を押し付けていくのが見えた。
私だって、経験はないけどそれなりに知識はある。オトコノコを舌や口で
それなのに、あんなにもあっさりと。あんなにも激しく、強引に。抵抗しようとする手を事も無げに払いのけ、大喜を支配していくなんて。
私がまるで別世界の出来事のようにそれを見詰める事、どれくらいか。不意に大喜の身体が跳ね上がるように痙攣し、そして手足がぐったりと投げ出された。
何が起きたのか、私は数瞬の後にそれを知ることになった。大喜の腰から離れた顔、そして外気に触れ湯気さえ立てているようにも見えたオトコノコには、粘性の強そうな白い塊がへばりついていたから。
あれはきっと、精液だ。大喜を射精させた、屈服させたんだ。
助けなければ。そう思えど、手足に力が入らない。
そんな私が見ているなど、気づきもしないように。或いは気付いた上で、意に介していないかのように。
あの女は大喜の身体を跨ぎ、そしてさっきまでオトコノコが屹立していたはずの場所へと――
悲鳴のような呻きと、グチャリという肉の合わさる音がユニゾンし、空気を震わせる。
私の目の前で大喜は、私が知らない女に犯された。その事実だけが、ここにある。
スクワットのように女の身体は上下に動き、それに合わせて粘液質の濡れた音が響く。
余りにも非現実的な光景に、認識が着いていけずオーバーフローを起こしている。何が起きているのかさえ、もう分からない。
ただそのまま私は、隠れながら見続ける事しか出来なかった――。
あちこち汚れた格好のまま帰ったせいで親には怒られたけど、そんなのはさっぱり頭に入ってくれない。あれから何時間も経つけど、私はあの場面を反芻しては溜め息を吐いている。
まさかあんな事態を、この目で見てしまうとは。そして何も出来ないまま、至近距離で
なのに身体が動くようになって即、脇目も振らずに逃げ出すなんて。
大丈夫だったかな、大喜。いや大丈夫じゃないだろう、ああいう事をされたんだから。
それにしてもあのメガネ女、何者だろう。ナツと言うのはもしかしたら千夏先輩の事だろうか、だとしたら知り合いかもしれない。しかし「ナツの彼氏くん」と認識した上で、あんな凶行に及んだのならそれこそ狂っている。味見なんて話じゃない、頭おかしい。
――どうしよう、どうすれば良い。私に何ができる、何をするべきか。
悶々としながら、それでも意識は睡魔に飲まれていく。
意識を手放す刹那に過ったのは、あの夏の日に見た大喜の笑顔。
翌朝教室で見掛けた大喜は、県大会で負けた時と同じくらいに痛々しく思えた。空元気でどうにか自分を保っている、そんな姿。クラスの誰もその理由を知らない、知るわけがない。私以外の、誰も。
「あ、……おはよう大喜」
「雛、あー……おはよう」
久し振りに交わした挨拶も、どこか上滑りしていく。こんな状態で、昨日の事なんか話せるものか。例え話せても、ただ気まずいままで終わってしまう。それじゃ
大喜はいつだって悩んでいた、自分が千夏先輩を好きでいて良いのかと。追い付くことさえ出来ないのに、憧れるなんて烏滸がましいと。
それでも最近は、……悔しいけれどその想いは緩みつつある。私を振ったのも、そのせいだ。好きになる気持ちに、正直になったから。
だけど、それは踏みにじられた。強引に一方的に、身体を汚された。そんな状況で、千夏先輩を好きでいてはいけない。
――ここでこの傷口に付け込んで完全に諦めさせれば、こっちを向かせられる。救うふりをして、そのまま絡め取れる。だけど、でも。
そんなのは、私じゃない。いつだって正々堂々、どんな相手にも真正面から真っ向勝負。それが蝶野雛、誇り高い赤毛の美しい女の在り方なのだから。この髪が赤い限り、私は私であり続けなければならない。
きっと大喜の傷は癒える事がない、でも痛みを取り去るくらい出来るかもしれない。そしてそれを果たせるのは、私じゃない。
焦燥感にかられながらも昼休みを迎え、私は教室を飛び出した。
スカートを翻して廊下を駆け抜け、一気に階段を跳ね上がる。目指す先は、ただ一つ。大喜を救える、唯一の人の所。
千夏先輩のいる、2-Bだ。
「……そう、か。それで元気無かったんだ……。ユメカも何考えてるんだか……」
苛立ちを隠そうともせず、千夏先輩はガリガリと頭を掻きむしる。全て聞いて尚大きく取り乱さない辺り、この人の胆力も相当だ。いや、でも完全に平生という訳ではないのは分かる。そもそも本当に冷静なら、こんなのまず信じやしない。あり得るか、こんな事。
それにこの人だって、万能な訳じゃない。出来ることがあるとしたら、恐らくは――。
辛い記憶を覆い隠すこと、やり直させること。
「大喜は、……千夏先輩が好きなんです。だから先輩なら、大喜を助けられる」
あの女に無理矢理されたことを、千夏先輩が上書きする。
それはもちろん、良いことではない。安いAVじゃあるまいし、これで全部うまく行くなんて世の中はそこまで甘くないだろう。
それでもきっと、今よりは救われる。少なくとも、今よりは。
そしてそれは、千夏先輩にも伝わってくれたようだ。
細かいことは言わなくても、通じたと分かる。同じ人を好きになった間柄だから。私たちはこれからもずっとライバルだけど、だからこそ通じるテレパシーがある。……多分気のせいなんだろうけどさ、こんなの。
「――そう、だね。私なんかで忘れてくれるかは分かんないけど、可愛い大喜くんの為だし
そう言って笑うその顔は、悔しいけれどとても綺麗で。ああ、こりゃ強敵だわ、と私は思ってしまう。
夜もとっぷり更けた頃、ベッドの中で私は火照る身体を持てましていた。頭の奥に火が付いたようで、眠るに眠れない。
きっと今ごろもう千夏先輩は、大喜と――してるんだろう。そう考えるだけで、身体の芯が疼いていくのが分かる。
生まれてはじめて見たセックス、その記憶に千夏先輩が重なっていく。
大喜は千夏先輩とのキスを、受け入れる。「嫌そうな顔」なんかしない、幸福感を抱いてキスをする。
先輩に触れられて大喜のオトコノコは悦び勇んで、そして優しく千夏先輩の中に包まれる。
ああ、ああ――まったくもう。
うまくすれば、それを私の役目にできたのに。しないけど、さ。それでもやっぱり、何処か悔しい。
その思いを込めて肌の上を滑る指、快感を呼び込むその動きに大喜のイメージを重ねてみる。
ぎこちなく私に触れ、おっかなびっくり愛撫する大喜。想像するとちょっとおかしくて、でも楽しくて――。
なんて考えたせいか、私の身体には想定外の変化が起きていた。
「ん、え"。あ……れ?」
足の間に感じた違和感は、直ぐに確信へと変わる。まるでお漏らしでもしたかのように、ショーツの中はドロドロになっていたのだ。
普段はこんなに濡れないのに、大喜の事を思ったせいか。これはまた、恥ずかしいったら。
まあ、うん。こうなったらなったで、別に良いか。オナニーして傷付くのは、自尊心だけだ。どうでも良い話じゃないか。
蕩けきったそこへ触れると、殆ど抵抗もなく肉の合わせ目がクチュリと音を立てて口を開いた。もっと触ってと訴えるようで、持ち主としてはやっぱり恥ずかしい。それでも快感の蕾はどんどんほとびていく、それが止まらない。
これがもし、大喜だったら。大喜のオトコノコが、私を割り拡げているのだとしたら。
指だってあんまり深くは入れたことがないから想像も付かない、それに昨夜のあれも表情は伺えなかった。だけどなんとなくのイメージが、更に興奮を煽り快感を連れてくる。
ああ、未練がましい。だったら千夏先輩に任せるな、私。
でも仕方ない、よね。私はずっと大喜を「好き」だったわけじゃない、千夏先輩を好きになって頑張る大喜を「好き」になったんだ。大喜と千夏先輩がうまくいけば、それはそれで私にとっても幸せなんだから。
そんな思いにかられたまま、気がつけば私は激しく自分の中を掻き回してた。揃えられた人差し指と中指は根本まで埋まり、一掻き毎に稲妻にも似た快楽の波が脳に叩き付けられていく。グチュグチュという淫らな水音に獣じみた喘ぎが重なり、なんだか自分の身体から出ているとは思えない卑猥なセッションを奏でつつ意識が焼かれていく。
「う"、あぁ……っ」
限界を超えた最後の一撃で、私の理性は遂に消し飛んだ。緩んだ下半身が汚液を垂れ流してベッドを汚していくのが、他人事のように止められない。
脊髄を貫き身体を劈いていく甘い電流、そしてそれが通りすぎて残るのは強い倦怠感。
このまま寝たら朝が大変だ、とは思えど全身が鉛のように重くなって動くのがもう億劫。
良いやもう、寝てしまう事にしよう。
明日になったら、それとなく大喜に先輩との顛末を聞いておこうかな。
うまく行くと良いけど、な。でもあの人、意外と行動が読めないんだよね。
まあ――良いかな。きっと大丈夫、きっと。私が好きになった人は、そんなに柔じゃないんだし。
……だけども。だけども私は考えていなかった、世の中はいつだって想像以上なのだ。
「昨夜、千夏先輩が突然……夜中に跨がってきて……」
空元気を張るどころか誤魔化す気力さえ無くなったらしく、大喜は教室で死にそうな顔をしている。まさかその原因の一つが私だとは、言えないな。
というかそもそもの時点で、千夏先輩が色々とおかしすぎる。ユメカとか言ってたあのメガネ女と、大して変わらないんじゃないかってくらいに。
ええい、こうなると分かってたら私が慰めてあげてたのに。ここからまた一発、となるとそれこそトラウマになって匡辺りと結ばれかねない。それはそれでキュンキュンする胸踊る展開なんだけどさ、いやナマモノはキツいかな。
違う違う、そうじゃないそうじゃない。
「ま、あね。千夏先輩だってさ、大喜が好きだからそんなことしたんだってば。よかったじゃん結ばれてさ、うん」
とりあえずフォローだ、大喜はバカなんだから考えさせない方がいい。
愛で始まる関係もあればカラダで始まる愛もある、っていうし。ここでなし崩しに一度くっついてしまえば、余計なこと考える暇も無くなって心の傷を意識しなくなるだろう。
私としては色々と複雑ではあるけれど、だけど大喜が幸せでいられればそれが一番いい。大好きな人の幸せを願うのは、当然だからね。
なにせ私は赤毛の美しい女なんだ、いつだって前を向いて突き進む。
それにまだまだ、私は負けた訳じゃない。人生は始まったばかり、ここからの大逆転だって十二分に有り得る。恋は一度と決めてました、なんて昭和の名曲じゃないんだから。その内喧嘩もするだろう、そこから二人の関係が自然消滅する事もあるだろう。大喜には傷ついてほしくないけど、人間生きていれば色々あるもの。
さぁ、面白くなってきたじゃないか。
自慢の赤毛を揺らして吹き抜けるアオい風を感じながら、私は心の中でそう呟く。
吹き荒れろ、何処までも何時までも。私の髪が赤い限り、この命が続く限り青春は終わらない。
「俺の知り合う女子、みんなろくでもないんだけど」
「待てコラバカ大喜、私までそこに入れんな」
「いや、雛だって十分アレじゃん……。突然告白するし、返事要らないって逃げてたじゃん」
「本当の事でも言って良いことと悪いことがあるんだよ、これだからバカ大喜はさぁ……」