新作書け?……もう少しお待ちを……。
#1 眩しくアオい輝きを背に
シリアスの方が伸びるんだな、とは思いました。
「蝶野さんを見て。――羨ましいな、って」
それは、偽りのない、私の本心で。何処まで行っても、私はああなれない。
あんな風に、笑えない。あんな風に、話せない。
あんな風に、近付けない。
ああ、羨ましい。誰がいても、何処ででも、ああやって素直になれて。
私がもし、あんな風になれたなら。
きっと。
後悔する事なんて、無いんだろう。
大喜くんは、私の背中を押してくれた人。日本に、英明に残らせてくれた人。あの日の悔しさを、思い出させてくれた人。
だからそう。大切な人なんだ。
同じ家に住むことになって、平生を装うのは大変だった。気を抜くと、大喜くんを傷付けてしまいそうで。
大喜くんには、仲の良い幼馴染みがいる。蝶野雛さん。新体操部の一年生、中学時代全国4位だっていう有名人。明るくて、可愛くて、そして――大喜くんを大好きな子だ。大喜くんはオトコノコだから、その辺には鈍いみたいだけど。大喜くんが少しでも「友達」から踏み出そうとすれば、そこで二人は結ばれるだろう。だから、私は何もしてはいけない。自分の都合を、気持ちを、押し付けてはいけない。大喜くんに、幸せになって欲しいから。
それでも、抑え込める気持ちには限りがあって。
大喜くんと近付きすぎたり、ふと大喜くんの匂いを何処かに感じたり、そうすると――身体が、抑えきれなくなる。借り物の部屋を汚してはいけない、迷惑をかけてはいけない、と思うのに、疼いて止まらなくなる。何枚も厚く敷いたバスタオルの上で声を殺し、なるべく音を立てないようにしながら、自分を慰めなければ治まらない。
思い浮かべるのは、大喜くんの姿。私だけを見つめ、一途に愛してくれる、――都合の良いマボロシ。大喜くんが私を求め、貪り、奪い尽くそうとする姿を思うと、それだけで頭の奥が焼けていく。
そして身体が壊れそうなほどに震え、意識が僅かに遠くなる。でもその心地良い脱力感の後に来るのは、虚しさと罪悪感だけだ。ドロドロになったバスタオルを洗っていると、自分が浅ましい人間だとさえ思う。私は、何をしているのだろう。
こんな弱くて、脆くて、愚かな私を、先輩として立ててくれる大喜くん。彼の思いに、報いたい。憧れられる、完璧な私でいたい。
少なくとも、この家を去るその日までは。
大喜くんと蝶野さんは、お似合いだ。私なんかが入り込む隙はないくらいに。
だからこそ、胸が苦しい。大喜くんにとっての幸せは、蝶野さんと結ばれること。それは分かりきっている。居候として先輩として、二人を見守らなければならない。でも、それが辛い。私は大喜くんと結ばれ無い、例え結ばれても幸せになんかなれない。私も、大喜くんも、ただ苦しむだけだ。今まで過ごしてきた全てをかなぐり棄てて、それでも愛を貫けば幸せだなんて、そんなのは安いメロドラマの中にしかない御都合主義だ。
それでも。ただ、苦しい。――愛されたい。愛したい。私の奥で、澱んでいく思い。胸の中で、濁流が渦を巻いていく。何もかも押し流し、打ち砕く、凶暴な感情が、私を塗り潰していく。
ああ――嫌だ。私は、私が大嫌いだ。好きになって欲しい、なんて言えるものか。
寝苦しい。寝苦しい。肌が、焼け付くように熱い。どんなに振り払おうとしても、身体の熱が引かない。幽鬼のように蠢く、何かの影が見えた気がする。身体の全てが、狂っていく。
気が付くと、横たわっていた身体が立ち上がっていく。意識と手足が切り離されて、止まらない。ゆっくりと部屋を出た私は、すぐ隣の、……大喜くんの部屋の前で立ち止まった。
この扉を開けてしまえば、そこで――私は。私は。
頭の隅で警鐘が鳴るのが分かった。これ以上は、もうこれ以上は、ダメだ。戻らなければ、いけない。そう私が思うのを嘲笑うように、指先はいとも容易くそこを開けてしまう。
灯りの消えた大喜くんの部屋には、ただ月明かりだけが薄く光を落としていた。片付けられた部屋、ベッドに横たわる大喜くん。昼間の部活で余程疲れたんだろう、すやすやと安らかな寝息を立てている。可愛い、と素直に思った。……少なくとも、私は。私の意識は、ただそれだけを思った。
でも私の身体は、その先を求めて掛け布団を捲り上げ、大喜くんの脚を露にしていた。……私があげたミサンガも、ちゃんとそこにあって。約束は、ちゃんと結ばれたままで。――それを踏みにじろうとしている自分を止められないのが、私は苦しくて仕方がない。
布地に手をかけ、ゆっくりと引き摺り下ろしていく。蒸れたような、汗とは違う――オトコノコの匂いが鼻に届き、そして、……大喜くんの……。
「――っ」
息が、止まりそうになる。とてもじゃないが、触れたいとは思えない。私だって、知識はあった。でも、こうして目の当たりにすると、顔を背けたくなる。オトコノコは、みんなこうなんだろうか。
でも、でも。私の手は、まるで躊躇おうともしない。いつも自分でする時のように、そっと指を這わし、撫で上げ、摘まみ、愛していく。指先につたわる熱と、硬く膨れていく肉の感触。私はまるで透明な壁の向こうからそれを見ているような、異質な感覚に包まれていく。
と。大喜くんの身体が、僅かに揺れた。いや、そんな小さなものじゃない。
「先、輩……?」
大喜くんは、目を覚ましたのだ。でも瞳の焦点が合い、大喜くんが状況を理解する刹那に、私の身体は飛び出していた。
一瞬、だ。大喜くんがなにか言おうとする寸前に、その唇は私の唇が塞いでいた。初めての、キス。甘くも切なくもない、ただ口封じの為に、私の身体は唇を捧げてしまって。
離れようとする大喜くんを、それでも私の身体は逃がさない。押し倒すように体重をかけてキスし続けながら、大喜くんのそれを愛撫する手も緩めない。逃がさない。逃がさない。逃がさない。
大喜くんの口を舌で犯し、息さえ忘れるほど濃厚に唇を奪い続ける中で、大喜くんの顔が僅かに歪んだ。――手の中で感じる、激しい脈動。熱く粘付く感触が、肌の上へと広がっていく。心地良い熱を、私に刻みながら。
ゆっくりと唇を離すと、大喜くんは、――何も言わなかった。ただ粗い息を吐き、困惑した目で私を見詰めるだけで。……それは、そうだろう。こんなの間違っている。大喜くんにキスをするのは、蝶野さんだ。大喜くんを愛撫するのは、蝶野さんだ。大喜くんと愛し合うのは、――。
「いや…だ」
手の上に残された大喜くんの精液を、舌で舐めとり、呑み下す。青臭く苦い、吐き気を催すような味。
何で、私じゃないんだろう。私がもし、先に出会っていれば。蝶野さんなんか、知らなければ。二人の関係に、気付かなければ。大喜くんは、私のものだったのに。私たちは、こんな風にならなかったのに。
ああ、そうか。
これは、私が願っている事だ。身体が言うことを聞かないなんて、そんなの嘘だ。我儘で浅ましくて情けない澱みきった、見下げ果てた先輩。許されない事を平気で求める、愛される資格の無い女。それが私なんだ。だから、だから――
「今だけ。今だけは……わたしをみて。蝶野さんを好きなままで良いから、わたしをうけいれて」
一方的な、本当に都合の良い願い。最低だ。私は、本当に最低だ。答えを聞く気さえ、無いのだから。もう役割を果たせなくなったショーツで大喜くんの口を塞ぎながら、そんなことを考えた。
そのまま大喜くんを仰向けに倒し、腰を跨いで。大喜くんの上で……私も、……私のいちばん穢れた場所を、指で割り拡げる。汚ならしい粘液を垂れ流し、もの欲しげに震える浅ましい肉の裂け目。視界に入れる事さえ躊躇われる、穢れきった場所。オトコノコも、オンナノコも、等しく醜悪だ。そこに愛があるなら、それは美しく神聖な行為にもなるだろう。でも愛も何も無く、ただ醜悪なもの同士をぶつけあう野蛮な行為に、何の価値があるだろうか。
だからそう、私はこれから――大喜くんを、使うだけだ。愛する訳じゃない、愛される訳じゃない。私に、そんな資格はないから。
グチュリ、と気持ちの悪い粘液質の水音がして。ほんの僅かな抵抗と、小さな痛みを感じながら。――私は、大喜くんを、……犯した。呆然と目を見開いたまま、大喜くんは私と繋がっているところを見つめ、身動ぎもしない。私だけが、一方的に身体を揺すり、跳ねさせ、叩き付ける。私のなかを、大喜くんで満たすために。ただ、自分の為だけに。
やがて――その時はやって来た。お腹の奥で大喜くんがドクドクと震えて、私のいちばん奥まで染み透っていく。全て、犯し尽くした。大喜くんの全てを、踏みにじった。そう、確信できた。最低の満足感に包まれた私の下で大喜くんは、泣いていた。声を出せないまま、泣いていた。きっと蝶野さんを裏切らされた哀しみで、そして私に犯された哀しみで、泣いている。
私は、私は。本当に、本当に――最低だ。これが私の望んだことか。自分が最低なのだと、確認したかったのか。その為に、大切な人を蹂躙したのか。自己満足の露悪に浸って、全てをメチャクチャにしたかったのか。
「ごめんね、大喜くん……。ごめん、ねぇ…」
堰を切ったように、涙が溢れる。ベッドの上で、繋がったままで、私たちは泣き続けた。まるで、恋人同士のように。加害者と被害者は、抱き合って泣き続けた。
あのあと、大喜くんは言った。それでも俺は、先輩を愛します、と。……でもそれは、余りにも苛酷過ぎる愛で。
蝶野さんに全てを話して別れ、私だけを愛すると言ってくれた大喜くん。私には、眩しすぎて。余りにも、眩しすぎて。
……罪深い私には、その愛を受ける資格なんか無い。だから、私は大喜くんを拒絶した。私の弱さを、醜さを、全てさらけ出して。それでも受け止めてもらえるのではないか、と僅かに期待しながら。
結局私は、今も猪股家にいる。でも大喜くんは、もう私を見なくなった。大喜くんの視線は私をすり抜けていく。もう、言葉を交わす事さえ無い。大喜くんが慕ってくれた、憧れさえ抱いてくれた「私」は、どこにもいないから。
――それで、良い。もう、それで良い。これ以上、大喜くんを傷付けずに済むなら。私は、大喜くんを傷つけるだけなんだ。
砂を噛むような日々だけが、私に残った。この先には、きっと何もない。私以外誰も傷つかない平坦な地獄を、どこまでも。過ちの果てまで、真っ直ぐに進むだけ。
それが、私に相応しい。
#2 アオい渚の果てに
この頃はまだロクに出てもいなかったんですけどね。
鹿野千夏、我らが英明中学高等学校女子バスケ部のエースにして次期部長候補ナンバーワン。美人で才能あって頭よくて、でも気取ったところが一切無いというパーフェクツなオンナ。まあ、足りないのは色気くらいじゃないだろうか。……ええ、私も人のことは言えませんけどね。良いんだよバスケに色気なんかいらないし。
クラスの男子とも普通に仲良いけど、浮いた話はなぜか何一つ無い。だからこそ、彼女持ちの針生くんも特に気にせず接してられるんだろうけど。あれで彼氏欲しいオーラとか出してたら、針生くんの彼女が嫉妬で倒れそうだ。
……とは言え、だ。家の都合で学校を辞めかけたり、親戚だかの家へ住まわせてもらう事になったりと色々大変な事情も抱えている。千夏は自分からそういう話はしたがらないし、こっちも根掘り葉掘り聞きゃしないけどさ。
千夏だって、苦労してるんだ。だから籠原の連中が、成長してないだの期待外れだの言ったときは腹が立って腹が立って。私らはみんな、千夏が大好きだ。千夏には幸せになってほしい。心からそう思っている。
だから、そう。千夏にちょっかい出そうとするのがいるなら、どんな奴か確かめないといけない。
「お……、千夏?」
商店街を通りすぎる姿に、一瞬足が止まる。千夏がこの辺を歩いてるのは、別に珍しいことじゃない。最近こっちに有名な整体師さんがクリニックを開業したし、学校から近い商店街だから私も帰りがてらちょこちょこ寄り道する。珍しいのは、その隣。
――男子が、一緒に歩いている。しかも、なかなかに親しげに。千夏が話しかける度に、動揺した素振りを見せてるけど。
確か千夏に兄弟はいないはずだし、誰だろう。顔は体育館かどこかで見た気もするけど、上手く思い出せない。しかし随分近いな、偶々会った知り合いって感じではなさそう。
まさか、彼氏か? いつの間にか、彼氏なんか作ってたの?
いや、まさか。まさかまさか。あの千夏が、あんなじゃがいもみたいなのを。まさかまさかまさか。
私は踵を返し、そっと二人の後ろに付いていく。尾行なんてあまり得意でもないけど、商店街の混み方を考えれば多分バレはしないはずだ。多分。
二人は仲良く買い物をし、そして。そして。……同じ家の中へ、入っていった。御丁寧に「ただいま」付きで。
千夏がいってた通りあそこが親戚とやらの家で、あの男子が従兄弟とかそういう間柄だとしても色々おかしい。そもそも親戚同士でも、同じ年頃の男子がいる家に女子高生の娘を預ける親なんかいるだろうか。だって男の子だよ、ケモノみたいなもんだよ絶対。そうなると、親戚って話自体が嘘かもしれない。親公認で彼氏の家に住んでる、って事なんだろうか。
……そうなると、そうなると。私はどうしたものか。
「猪股? ……ああ、大喜か」
表札に書かれていた姓を針生くんに尋ねると、あっさりその男子は見つかった。
針生くん曰く、「俺ほどじゃないけど、そこそこデキる」らしい。ただ「粘り強すぎてナマイキ」とも言ってたけど。改めて見ると、そういえば部活中によく見る顔だ。地味だから忘れてた。
猪股大喜くん、男子バドミントン部の一年生。結構な頑張り屋に見えるし、イケメンではないけどそこそこ可愛い。クラスに一人はいそうな、普通の男子。
それから暫く観察したけれど、特に変わった所はない。バド部の中でも、とりたてて強くはない。確かに針生くん程ではない、でも全力で追い付こうとしている。周りからも好かれているっぽい。
うん、つまりとっても普通。正直、千夏みたいなパーフェクト超人にはとても釣り合いそうもない。
……本人同士が良いなら、別に良いんだけどさ。
釈然とはしない。するわけない。あんな地味なのが千夏の彼氏とか。気の迷いにしてもちょっと不自然だわ。
これは、試してみた方が良さそうだ。
「ちょーっと良いかな?」
休日の昼間、家から出て商店街の入り口近くまで来た所を狙って声をかけてみる。逆ナンみたいだけど、まあそれは別に良い。
一瞬明らかに警戒した顔をする大喜くんだけど、ちょっと間をおいてそれが緩んだ。
「あー……、千夏先輩のチームメイトの人、ですよね?」
おや。何で知ってるのか。千夏が写真でも見せたんだろうか。そこまで親しいってことか。
「前に籠原の事で怒ってた、確か渚さ……」
そこまで言って、大喜くんは「しまった!!」の顔で目を逸らした。
そう言えば、そんなのを試合終わって学校にもどってから、ゴール出しつつ愚痴ったような覚えがある。……聞いてたんかい。
ま、良いか。別に隠すことじゃない。
「そう、千夏のチームメイトの渚。気軽に渚先輩と呼びたまへー」
先輩オーラを出そうとしながら手を握ってみる。バド部だからか、バスケ部の針生くんたちとはまた違う肉付きだ。頑張っている手なのは同じだけど。……この手が、千夏に触れたんだろうか。触ったんだろうか。弄ったんだろうか。そう思うと、知らず知らず手に力が籠ってしまう。
「これから、時間あるかな? おねーさん、君に聞きたいことがあってねぇ……」
しっかりと手を掴んだまま、大喜くんを引き寄せてそして。耳元で、囁く。
「千夏の事とか色々、ね」
どうやら大喜くん、女子には不慣れらしい。カラオケボックスに引っ張って行ったものの、女子と二人きりなのが照れるのかずっと顔を赤くして俯いている。まあ、可愛いけど。可愛いけど、彼女がいる男子の態度ではない。どうもこの子はよく分からないな。
「あの、千夏先輩の事、って……」
おずおずと口を開いた大喜くんに、一発直球を投げ込んでみる。
「君、千夏と一緒に住んでるよね? 彼氏とかそういう関係?」
見事直球は鳩尾に入ったらしく、大喜くんは変な声を上げてそのまま横倒しになってしまった。これは……なんだろう。否定か肯定か。まぁ、何にせよ探っておかないといけない。
倒れているのを揺さぶって更に聞いてみると、激しく動揺しながらも一応は声が返ってきた。
「そ……そういうじゃ、無い……です」
「じゃあ、セフレとか? あーでも、身体はともかく生活はセフレに預けらんないかー……」
大喜くんは倒れたまま、更に真っ赤になる。面白いなぁ、この子。
一応その後、時間はかかったけど大喜くんから色々と聞くことは出来た。千夏の母親と大喜くんの母親が仲良くて、その縁で日本に残る千夏は猪股家に預けられた事。
二人の間に「そういうこと」は無い事。
でも大喜くんとしては、千夏に好意があるという事。
そして、千夏のためにも同居の件は周囲から隠さなければいけない、という事も。
……不用意にそんな話はしないし、したとしても絶対出所は言わないと約束して、それはまぁお仕舞い。千夏が私にまで隠してたってのはちょっとショックだけど、でもこればかりは仕方ないか。心配かけたくないんだろうし。
そして、話は次へ。この地味ーな大喜くんが、千夏を任せられる男子かどうか、だ。
今はともかく、この先色々無いとも限らない。早いうちに、真贋を見定めておかないと。
とりあえず、第一印象は悪くない。女子に不慣れなのも、チャラチャラしてるよりよっぽど良い。
でも、不慣れすぎて手の上で転がされるようじゃ頼りない。そこはさじ加減だけどね。
ただ、こういうタイプは押しきられて色んな女の子と蛸足配線になりやすい。男の子は基本的にチョロいからね。
本当に一途か、試しておこうかな。まぁ、簡単な事だ。
「たーいーきーくーん」
肩に手を回し、そのまま大喜くんを引き寄せて。思いっきり身体を密着させる。ビクンと大喜くんの身体が強張り、赤かった顔が更に更に赤くなる。ウブだねー可愛いねー。ここでいい気になってグイグイ来るような軽いオトコじゃ、千夏はとても預けられない。
「千夏がいつも一緒じゃさーあ、色々タマってるんじゃないのー?」
ツーっと舌先で顔をなぞりながら、指を大喜くんの肌へと走らせる。ガチガチになった身体は、でも男子にしては少々弱っちそう。もっと逞しい方がモテそうなのに。……逞しい方が、ね。
身体を降りて行った手を、腰の当たりで止める。そう、逞しい方が良いんだ、ここは。
厚い布地越しにトントンと指で叩いてあげると、中からは蠢く気配。オトコノコだねぇ、敏感だねぇ。早く外へ出たくてウズウズしてそうだ。
でも、だ。大喜くんは、少なくとも本人は、抵抗したいようだ。譫言のように、やめてくださいと呟き続けている。力尽くで抵抗しない辺りは気になるけど、まぁ及第点だろう。ちょっと弄られた程度でホイホイなびいちゃ、さすがに頼りなさ過ぎる。好きな人がいるんなら、他からの誘惑をはね除ける精神力がないとね。
さて、続きだ。
「千夏にはナイショにしてあげるからさー、おねーさんと……しない?」
手の平全部で、大喜くんのそこを擦りあげる。幸いここの店長はうちのOG、顔が利く間柄だ。ここでなら、なにやったって問題にはならない。
手の速度を速めたり、緩めたり。手に伝わる熱さは、大喜くんの興奮そのものだ。
「あ……っ、俺っは……っ」
必死の顔で耐えている大喜くん、なかなかに可愛い。こういう所が千夏好みなのかな、千夏って割とSだから。でも、どこまで耐えられるかな。
左手で根本をなで回しながら、右手を布の下へと滑り込ませる。そして、そして。
「んー……、元気元気。こっちは乗り気だよー?」
中で震えている肉の塊を、引きずり出してあげる。パンパンに張り詰め今にも破裂しそうに勃起した、顔に似合ったサイズ。なかなかどうして、悪くない。
人指し指と中指を引っ掛けるように裏筋に当てて、そのまま先から根本を往復。何度も、何度も。たまに親指も沿えてみたり、左手の爪で尿道口を僅かに引っ掻いてみたり。たちまち透明な汁が溢れ出し、私の手を汚していく。
それでも。それでも大喜くんは歯を食い縛って耐えている。操を立ててる、ってことか。こりゃまた可愛い。
ここまでされても我慢出来るって、これは結構な一途さだ。こう真っ直ぐなら、千夏を任せても良いかもしれない。
後は、そう。
味見をしておこうかな、せっかくだし。
我慢強い男の子を陥落させるのは、結構好きだからね。
指二本ではなく、右手全部で竿を握り。左手は、先端をかきむしるように動かして。私の必殺パターンだ。
大喜くんは唇を血が出そうな程噛んでどうにか耐えているけど、それは想定内。
ここから、トドメの一撃をお見舞いする。
「おねーさんじゃなくて、千夏にしてほしいのかな?」
小さく、でもハッキリ聞こえるように。大喜くんの耳へと囁きを流し込む。ビクンと身体が硬直し、そして。
「――!!」
握りしめている私の手まで震える程の、凄まじい脈動が、やって来た。
張り詰めた意識が一瞬でも他所へ向かえば、どんなに我慢強くてもすぐに決壊する。余所見をさせてから殴ってダウンさせるようなものだ。
ドクドクと精液が迸り、床に白い染みを刻んでいく。やっぱりタマっていたのだろう、その量は一回の射精とは思えない。
「あ……あぁ……」
大喜くんは、真っ青になって涙まで浮かべている。……ちょっと、やりすぎたかな。そこまで純情だとは思わなかった。きっと、こう思っているんだろう。「千夏先輩を裏切った」とかなんとか。付き合ってる訳じゃないなら、浮気でも何でもないのに。まぁ、堅いくらいが一途で良いんだけど。
手を濡らす精液を一舐めしながら、考える。この、先を。
大喜くんは良い子だ、それはわかった。でも、どうせなら。
もうちょっと、味わっておきたい。千夏の前に。
「あーあ、出しちゃったねぇ……」
罪悪感で揺れているであろう心を、更に一押し。この手合いは方向さえ決めてしまえば、勝手にへし折れてくれるから。
摘まみ食いする時は、ちゃんと一回折っておかないとね。後で面倒な事にしたくないし。
だからこうして、傷を刻んでおく。私に強く逆らえないように。
勝手知ったるヒトの家、とはよく言うけれど。私にとっては、行き付けになっているホテルがそんな感じだ。
半分放心したままの大喜くんは、まだ状況が分かっていないようだったけど。
でもさすがに、部屋の様子を見て色々と感付いたらしく再び真っ赤になってしまった。
最初は逃げようともしたけど、「千夏の為だから」の一言で大喜くんは金縛り。
そこへ、更に畳み掛ける。千夏は私と違って、そういう経験が全然無いからね。大喜くんはオトコノコなんだから、いざという時はリードしなきゃいけないんだよ、ちゃんと出来るようになっておかなきゃ。滔々と諭すと、大喜くんは真っ赤になったまま小さく頷いてくれた。普通ならこんなバカみたいな話に納得なんかしないだろうけど、今の大喜くんは手負いだ。傷口を庇うためなら、嘘だろうとなんだろうと受け入れてしまう状態。思い通りに操れる、可愛いオモチャ。
服を脱がせて、足元へ跪かせる。こうやって立場の上下をしっかり抑えておけば、こういう子は逆らえないし逆らわない。
千夏に返す前に、あれこれ仕込んでおこう。きっとその方がうまくいく。はず。不器用がサマになるようなタイプならともかく、一通り教え込んでおけば千夏も楽だろうし。うん。
私も服を脱ぎ捨て、大喜くんを見下ろす。おっぱい触って良いよ、というとおずおずと手が伸びてくる。遠慮がちに、顔を背けながら。
日頃バドでラケットを握り締めているからか、その手はやっぱり結構がさついている。力の加減が分からないんだろう、おっかなびっくりな触り方がなんとも可愛い。千夏は私よりちょっと大きいけど、まあ参考にはなるだろう。
でも、ちょっと物足りないかな。大喜くんの手を掴んで、強引に胸へ押し当てて。ちょっと強めなくらいの力で、なで回させてみる。私のおっぱいは動きに合わせて揺れて動いて、大喜くんの手がどんどん熱くなっていく。ああ、可愛いねー。キスしたくなるけど、それはさすがに我慢。ファーストキスは大事だからね。
代わりに大喜くんを引き寄せ、その顔を両胸でサンドイッチしてあげる。……まあね、そんなに大きくはないですけど。ですけれど、これがオトコノコには効くんだ。
だって、ほら。
大喜くんはさっきから落ち着きなく腰をモゾモゾさせていて、谷間に伝わる吐息も焼けるように熱い。
ナニをしたいのかは、一目瞭然。だけど、私は何も言ってあげない。そのまま身体を放し、――軽く突き飛ばす。支えを失った大喜くんの身体は大きく揺れて、そのまま。仰向けに、ナニもかも晒して――倒れた。
呆然としたまま、お腹を晒して。丸裸で。無防備で無抵抗で、服従しか出来ない姿勢。ああ、可愛いねえ。脚に着けたミサンガは、千夏があげたものだろう。確か千夏も同じのを着けてたし。大喜くんからそういう事は……出来ないだろうなぁ。
倒れて尚天井を向いている、大喜くん自身を、足の裏でなで回す。ちょっと力の加減を間違えれば、潰してしまえる。目の前の相手を支配している、という快感。
足指で挟み、爪で擦り、肉の袋を踏みつけて。大喜くんに、屈服する快楽を仕込んでいく。男の子なんて、それくらいがちょうど良いんだ。あんまり俺が俺がと来られると、千夏も大変だろうしね。力を少しずつ強めていくと、不意に大喜くんの身体が大きく痙攣し、そして――
「っと、また出ちゃったの?」
迸った精液は大喜くんのお腹へと降り注ぎ、私の足と自分自身を汚していく。元々素質があったんだろう、こういうのには弱いんだ。まあ、スポーツ男子は基本Mだけどね。だからこそ自分を痛め付けて喜んでるんだし。
このままもっとあれこれ楽しんでも良いんだけど、もう二回出させちゃったしなぁ……。あんまり数を出させてヘバっても面白くない。と言うかさすがに可哀想だ。
さてじゃあ、頂いてしまおうかな。
普段だったらこのまま跨がる所だけど、もう一押し。完全に、折っておこう。
私はベッドに腰かけて、大きく脚を拡げる。ナニもかも、大喜くんからは丸見えだ。
「大喜くん、キミがしたいようにしていいよ。勿論、何もしなくても……ね」
聞こえているのか、いないのか。大喜くんの視線は怯えていて、でも、一点に釘付けだ。
こういう子だし、ネットで無修正を見るとかそういう機会も無かっただろう。理性ではなく雄の本能が、雌を求めてしまう筈だ。相手が誰であろうと、オトコノコは必ずそうなる。どんなに一途でも我慢強くても、絶対に抗えない。
現に身を起こした大喜くんは、少しずつ私に近付いてきている。身体は身体で、素直になってしまうものだから。好き嫌いじゃなく、本能がサカろうとする。操を守ろうとしたって無駄だ。
そして強制ではなく、あくまで自分の意思で裏切らせるのが大事。一度そうなった心は、二度と癒えない。私に、二度と逆らえなくなる。
大丈夫、千夏好みになるまで、私が育ててあげるからね。
ギシリ、とベッドが軋んだ。もう、あと数センチ。大喜くんが大人になるまで、或いは千夏を裏切るまで――数センチ。
まだ堪えようとしているのか、その間はなかなか縮まらない。でも、そんなのは形だけだ。もう、止まれるわけがない。誰だって、そうだから。恋とかそういうのは、快感に勝てない。分かりきっている事だ。
「ん、あ……っ」
緩い水音と、肉が掻き分けられる感触。大喜くんが、私に入り込もうとしている。大喜くんはこの先、何度となく千夏とセックスするだろう。でもその度に、私を思い出す。顔も名前も忘れても、身体は私を忘れない。私のオモチャだから。私から千夏へと贈る、オモチャだから。
腰の振り方なんか知りもしないんだろう、ガクガクとぎこちなく震えるように動くばかり。これもちゃんと教えてあげないとね、一人前になるまで育ててあげよう。
大喜くんは目を瞑ったまま譫言のように、先輩先輩と繰り返している。……千夏先輩、なんだろうな。まぁいいけどね、そこまで深く堕としても悪いし。堕とすのは、途中まで。逆らえないくらいに折っておくだけ、完全に心を潰す必要はない。身体はちゃんと仕込んでおくけど、心の奥は千夏の事でいっぱいにしていればいい。
ぱちゅんぱちゅんと鳴る音と、大喜くんの可愛い喘ぎ声。それが部屋を満たしていく。さぁ、そろそろかな。
「大喜くーん、気持ちいいかなー?」
「あ、は、……いっ」
息も絶え絶えな大喜くんに、一言。たった一言、投げ掛ける。
「大喜くんはー、誰が好きなんだっけー?」
幸せそうでさえあった表情が、凍り付いた。熱気に浮かされていた頭を、現実に引き戻してあげる。そうすれば、思い出す。自分が、何をしでかしたかを。身体の求めるままに、してはいけないことをしている事を。でも、身体は止まらない。大喜くんが困惑している間も、腰は加速し続けていて。そして。
「あ、あっ、……ぁ……」
絶望に染まった瞳が見開かれ、大喜くんの身体がビクビクと震えた。私の中、その奥にまで染み透る熱が心地良い。大喜くんの心が、折れた証。三度目とは思えない、長い長い射精の果てに、大喜くんは糸が切れたように崩れ落ちてしまった。
これで良い。目を覚ましても、罪悪感から逃れる為私に従うだろう。恋する心は千夏にむけたまま、他の全てを支配できる。
私が、作り替えてあげるからね。千夏が喜ぶ、最高の彼氏になれるように。
それから数週間が経って、私は千夏から相談を受ける事になった。勿論、大喜くんの話だ。
私が教えた通りに告白したみたいで、付き合うことになったんだとか。
まあ、今までバスケ一筋だった千夏がそうそう大胆になれる筈もなく、キスさえまだ出来ないらしい。
……キス、か。さすがにキスは仕込めないからなぁ。そういうのは恋人同士で学びあうものだし。私は大喜くんに「その先」を仕込み続けているけど、役に立つのはいつになる事やら。でも大喜くんは呑み込みが早いし、どんどん千夏好みに仕上がっていっている。この先二人がセックスすることになっても、問題はないだろう。女の子の扱い方も、ちゃんと出来るようになってきたし。
千夏の幸せは、私の幸せ。
私は千夏が大好きだからね。
千夏がもっと幸せになれるように、これからも大喜くんを鍛えてあげないと。
#3 夜に咲くアオ
暫くこんなのばかり書いてた時期もありました。
けたたましく鳴り響く目覚ましのアラームに、意識が揺り動かされていく。
「あー……朝、か」
最近はなんだか寝起きが悪くなったみたいで、この瞬間が辛い。寝ていたい、と強く思う。
でも、だ。
隣室から聞こえる音が、俺を奮い立たせる。このまま寝てなんか、いられない。
千夏先輩はもう起きているんだ、俺も頑張ろう。大好きな人が近くにいるんだ、格好くらいつけないと。
「あ、おはよう大喜くん」
「おはようございます、先輩!」
洗面所で挨拶を交わし、並んで身支度をする。これが俺たちの日課になって久しい。
千夏先輩は今日も美人だし、元気溌剌。眠気なんか欠片も感じさせない、ツヤツヤした花丸元気JKだ。見習わないといけないな、この人のパワフルさは。毎日俺よりずっと激しい練習をこなしてる筈なのに、へこたれるって事を知らない。たとえ勝てなくとも腐ることなく突き進む、栄明のスーパーエース。
俺もこんな風になりたい、そんな気持ちで思わず見詰めてしまう程――って。
「ちょっ、先輩っ!?」
自分の身支度そっちのけで先輩に視線を向けていた俺は、その瞬間大きな声をあげてしまった。
だって。……だって。
どういうベクトルで力が加わったのか分からないけれど、千夏先輩の胸元は大きく開いてしまっていて。そこからその、…………お……胸が覗いていたのだから。
俺にも紳士の意地がある、認識した瞬間に顔を背けたのは礼儀というもの。でもほんの一瞬、確かに見てしまった。服の上から見るよりずっと大きく思える膨らみを、そして薄いピンク色をした可愛らしい先端を。
「おっと、溢れてた溢れてた。ゴメンね大喜くん」
ぐいっとお胸を仕舞って笑う先輩は、可愛いけど。
可愛いけど。
――可愛いけど、ちょっとだけ困る。目の毒過ぎる。
それにやっぱり男扱いされてないんだな、俺って。そう思うと、さすがに凹んでしまう。
結局あれが目に焼き付いてしまって、今日一日俺はヘナヘナだった。
まったく、男って嫌だなって思うよ。一瞬の光景を後生大事に脳内保存しちゃうんだから。俺は確かに千夏先輩が好きだけど、そういう対象にはしたくないのに。でも最近はどうにも緩んで来ちゃってて、ちょっと油断すると先輩で妖しい妄想をしてしまったりするんだ。そして賢者タイムに入ってから自己嫌悪に沈む、その良くないループが続いている。
ここ暫く寝起きが悪いのも、そのせいかもしれない。一回出した程度で翌朝に響くなんて、俺もしかして枯れてきてるのかな。まだ15なのに。
……明日また朝苦労するかもしれないけど、やっぱりしたいな。
そう思って頭に思い描くのは、当然のように千夏先輩。その艶かしい姿を妄想し、自身を握り締め――ようとした。
しかし何故か背筋に走った嫌な予感に、ヒートアップした性欲をどうにか頭の奥に沈めベッドに座り直す。こういう時の直感は、バカに出来ないから。
息が整った、まさにその瞬間。狙い済ましたようにコンコンとドアが鳴り、続いて静かに開いた。
「大喜くん、お風呂空いたよー」
言いながら顔を覗かせたのは、湯上がりホコホコな千夏先輩。……間一髪、だったな。
もしおっぱじめた後だったりしたら、ノックに気付いたとしても間に合わない。下手をしたら、全部見られてたかもしれない。……それはそれで興奮しなくもないけど、親族会議案件だな。千夏先輩は絶対出ていく。
大人しく諦めて、風呂行こう。そして明日のためにも、上がったら腹筋して寝よう。そうしよう。
――暗闇のなかで、なんとなく意識が浮上する。特に理由もなく、ただ目だけが覚めていく。
寝付きは良い筈の俺が、夜中に起きてしまうなんて珍しい事もあるもんだ。
腹筋が足りなかったんだろうか、それとも抜かなかったからだろうか。まあ、どっちでも良いけど。
明日も朝練だ、いつもの時間に起きられないと辛い。寝直そう、と布団を被ろうとしたその時。
「――?」
視界の端に見えたドアノブが、ゆっくりと音もなく動いた。
瞬間、ぞわりと背筋が粟立つ。
カチャリという小さな音と僅かに空気が揺れる感覚、ペタリとした――
それを裏付けるように、か細い声が耳に届いた。
「大喜くー……ん、寝てますねぇー……?」
からかうようなその声は、俺がよく知っている声。俺がこの声を、聞き間違える筈がない。千夏先輩以外に、有り得ない。
何故千夏先輩が俺の部屋に忍び込んでくるのか、見当もつかない。しかしこの状況は、絶対に良くない。
少しずつ気配は近付いてくる、嫌な予感は止まらない。
「じゃ、大喜くん。
すぐ隣からした声と共に、俺の右腕へと何かが触れる。皮膚が伝えるこの感触は、指先だとしか思えない。千夏先輩の指が俺の腕をふにふにと弄び、そして持ち上げていくのを触覚だけで感じながら。胸の鼓動は治まらない。
持ち上げられた腕がどうなっているか、知るすべはない。ただ痛みや不快感は無いから、痛めつけようという意図はないんだろう。……目を開ければ分かるんだけど、それができれば苦労はない。
内心焦りながらも寝たふりを続けていると、不意に手のひらへとおかしな感じがやって来た。
中心部になにか固いものが当たっているのに、他の箇所は暖かく柔らかい。そしてその固いものは、段々と大きくなっていくような気がする。
「ん……っ」
千夏先輩の漏らす声は熱を帯び、艶やかささえ覚えるほどだ。俺に触らせている事で千夏先輩は、――興奮しているのだろうか。
無い頭をフル回転させて、今自分の手がどうなっているかを想像する。千夏先輩の声の位置、手に伝わるのは熱と振動。まるで俺の心臓くらいに激しい、それは――。
「(……っ!?)」
それはまさしく、心臓の拍動。何故そんなものを感じるか、それはひとつだ。先輩の心臓のすぐそばに、俺の手があるということ。俺の手は先輩の、……その胸に触れている。そうとしか、思えない。
困惑する俺の手は滑らかな先輩の肌の上を何度も動かされ、その度に切なげな吐息が漏れていく。
手のひらから渡ってくる熱は身体を貫き、下半身へと溜まっていくのが分かる。
これは、危険すぎる。このままでは、気付かれる。そんな俺の気持ちなんか知らずに、千夏先輩が気持ち良さそうな声を上げているのが何処か歪に感じられて。
「んー……そろそろ、いっちゃうかなー……っと」
ふっと腕を支えていた力が消え失せ、ふわりとベッドに軟着陸するのが感じられた。千夏先輩は俺から手を離した、そう気付いたのと殆ど同時。痛いくらいに隆起していた下半身に、何かが触れた。
「あ、……良い子だね大喜くんは。寝ててもちゃーんと、私の言うこと聞くもんねぇ……」
もぞもぞとはい回る指先らしきものは器用に動き回り、布を剥ぎ取りそして。――俺を、外へと引きずり出していた。一番穢れた部分が、一番大切な人の手で暴かれた。
それは興奮しかしないほどに刺激的だけれど、想像してはいけないほどに歪でもある。
頭が混沌に包まれた、その刹那。
ぎしり、とベッドが音をたてた。
「――……っ」
何かが乗ったようなそんな音と共に、下半身に――いや俺の先端に何かが押し当てられていくのが感じられる。ぬるりと滑る、熱く固い何かが俺に被さっていく。
何が起きているのか、分からない。いや、分かりたくない。想像したそれは絶対に、あってはいけない事。
だがずんっと重みが俺の腰を押し潰したその瞬間、勢いで僅かに瞼が開いてしまって。そして見てしまった。
闇に浮かぶ、白い肌を。一糸纏わぬ、裸の背中を。その艶かしい曲線の根元、先輩のお尻は俺の上に着地しているのを。
この姿勢で、この状態で、起きていることなんて一つしか無い。
先輩は寝ている俺に跨がり、セックスをしている。俺の意思なんか考えず、ただ俺を使っている。
脳がそれを理解するも、身体は金縛りにあったように動かない。瞼も落ちて、なにも見えない。ただギシギシとベッドが揺れ動き、先輩の甘い吐息が漏れていくのを呆然と感じるだけだ。
それから数分……もしかしたらもっと短いかもしれない時間を経て、先輩が悲鳴のような小さい喘ぎを上げた時。まるで押し潰すようなすさまじい圧力で締め上げられた俺もまた、呆気なく射精していた。快感も高揚感も何処か遠く、単なる「現象」として。
「あー……やっぱり、これ良いなぁ……っ」
満足げな声に対して感じたのも、甘酸っぱい感情じゃない。ああ、朝の疲れはこのせいか、とぼんやり思っただけだ。
千夏先輩は何度も、下手をしたら毎晩、
「んふふ、今日もお疲れさまでした」
嬉しそうな声と共に千夏先輩は俺を圧迫から解き放ち、その直後にまたベッドが軋む。終わったから降りた、ということか。そうだよな、目的は済んだんだよな。そう思うとこっちの意識も、暗がりへと落ちていく。
「じゃ、大喜くん。また明日、ね」
小さく聞こえたその声に導かれるように、俺は意識を手放していた。
全て夢だったんじゃないか、そう思ってしまうほど現実離れした時間だった。目が覚めた時にはベッドに僅かな痕跡しか残ってはいなかったし、あれを受け入れられる程俺は人間が出来てはいない。
「――ん。大喜くん、おはよう」
いつものように洗面所で顔を合わせた先輩にも、変わった様子なんか無い。でも俺の身体は、覚えている。あの感触を。
あの胸に触れ、そして。そして――。
「……大喜くん、どうかした? 今日は溢してない筈だけどなあ」
先輩の笑い声で我に返っても、胸の奥にある熱は消えてくれない。あんなのは、あってはいけない。俺たちは、そうなってはいけない。なのに。……なのに。
どうして、あんなことを。
口から出ていきそうになった言葉は、すんでの所で舌に阻まれてしまう。
怪訝そうな千夏先輩が洗面所を出るのを見送って、俺はただ項垂れる。
何が起きようと、時間は止まらない。昇った陽は必ず暮れて、夜が来る。
明かりを消してベッドに横たわってみても、目は冴えるばかりだ。というか寝るわけにはいかない。
「♪ワンツーフレディがやって来る、スリーフォードアに鍵かけて……」
まあ、俺の部屋に鍵なんか無いけどさ。それでもしっかり目を開けて。決して眠りに落ちないように、その時を待つ。来ないでほしい、と思いながら。
願ったことが叶うなんて、滅多にないのに。
「大喜くーん、良い子で寝てるかなー……?」
小さく言いながら入ってきたのは、やはり千夏先輩。その身体にはやっぱり何も着けていない。あの姿は、夢ではなかったんだ。
なら、俺はどうするべきか。どうしたら良いのか。
そんなのは、決まっている。
「起きてますよ、……千夏先輩」
こんなことは、止めさせなければならない。先輩の為に。
伸ばされた手から逃げるようにベッドの上を滑り、立ち上がって明かりを付ける俺。照らされる千夏先輩は、ポケっと意外そうな顔。
「ん、ん……ん?」
小首を傾げた仕草は可愛いけれど、でも余りにも無邪気だ。場違いにも程がある。
千夏先輩がどういう意図であんなことをしたのか、そんなのは分からないしきっと分かれない。分かっているのは、これが良くない行為である事。あんな……セックスなんて、軽々しくしていい事じゃない。それに先輩は俺よりずっと、そのリスクが大きい筈だ。もっと自分を大切にしてほしい、栄明のスーパーエースが欲望に流されちゃいけない。
なんとか説得なりなんなりしようとした、その時。
ひゅっと音を立て、先輩の身体が視界から消えた。
「んー……起きてる大喜くんとは、まだしてなかったっけ。
声が届くよりコンマ数秒早く、俺の身体が一気に沈み込む。バランスを崩された、と気付いたときにはもう遅かった。
脚を払われベッドに倒れ込んだせいで背中を打ち、一瞬息が止まってしまう。その隙を逃してくれるほど、千夏先輩が甘いわけがない。
「大きな声とかはダメだよ、みんな寝てるんだから。良い子にしようね、大喜くん」
にっこりと笑って千夏先輩はベッドをとんっと蹴って跳ね上がり、――俺の顔へと、舞い降りた。
目の前は肌色に染まり、身動きが一切とれない。口を塞ぐのは粘液を溢す先輩の、――オンナノコ。
もがけばもがくほど千夏先輩は嬉しそうに腰を振って、俺を追い込んでいく。
抵抗する術すら思い付かないまま、自分が制圧されていくという得体の知れない恐怖を味わいながら、それでもなんとかしなければと思考を巡らせる。
でも分かっている、無駄だと。先輩の手が俺の下半身を弄り始めたせいで、ただでさえ回らない頭がフリーズしていくから。
「こっちの大喜くんは今日も素直な良い子だね、よしよし」
そっちの俺は優しく慈しむような手付きに翻弄され、この俺は柔らかい肉で呼吸を塞がれて。上下で俺は、先輩に支配されていく。それはとても、気持ちいい。
もう、受け入れてしまえ。このまま使われていろ。そんな声が、酸欠状態の脳内にリフレインする。
俺がなにをした、なにもしていない。悪いのは、千夏先輩だ。責任もなにも、あるものか。
下の俺はそう主張するように、ギリギリと屹立していく。もういいだろう、と。
先輩もそう思ったのだろう、俺の顔から尻を上げた。これから、また昨日のように――セックスをするつもりなんだろう。
心の奥に残った理性を燃やし、俺は最期の力を振り絞る。今なら、まだ。間に合うかもしれないから。ここで挫けるわけには、いかないから。
先輩の肌に触れ、どうにか口を開いて。言うべきことを、言うんだ。
「やめ……てぇ……先、輩……。こんな、の……は……っ」
俺は千夏先輩が好きで、何処かで先輩とこうなりたいという欲望もあったかもしれない。
でも、少なくとも。今この状態は、間違っている。
伝わってくれ、と願いながら必死で言葉を紡ぐ俺を、千夏先輩はじっと見据える。そしてそのまま、ゆっくりと腰を上げ――。
「そうだね、そうだよ。だから――
俺の腰へと、一気に自身を叩き付けた。
ずにゅり。そんな感触で俺は根元まで千夏先輩に
「私はね、したいことは全部するよ。大喜くんが可愛いから、こうして使っちゃうんだ。大喜くんが悪いんだよ」
けらけら笑って上下に跳ね回る先輩の声が、遠い。
俺のせい、なのか。俺のせいで先輩は、こうなっているのか。
絶望的な考えだけが心に沸き立ち、身体のコントロールまで失われていく。制御不能な快感だけが膨れ上がり、出口を求めて体内を激しく掻き回す。
込み上げてくる射精欲求はもう、止めようがない。
それでも俺は、抗わなければ。この人が好きだから、壊れてほしくないから。
「抜い……て、出……ちゃいま、すっ」
最悪の事態だけは回避したい、そう思っている俺に千夏先輩は。この人は、朗らかに笑って言い放つ。
「良いよ。
――バカな俺は、昨日のことさえ忘れていたのだ。昨日俺は、どこに射精した。それに千夏先輩は「今日も」と言った。それは、つまり。
「もう三ヶ月くらいかな、大喜くんは毎晩
俺たちはもう、とっくに手遅れになっていたんだ。
そう確信したのを合図に、全てが決壊した。
尿道を精液が駆け抜ける、あの暴力的な快感に張り倒されながら俺は。涙を流しながら、気を失った。
「大喜くん、帰ったら今日もしようね」
学校からの帰り道、振り返りながら笑う先輩に曖昧な笑顔を返す俺。
あれから俺たちは、何も変われていない。千夏先輩のお腹は少しだけ膨らみ、俺は少しだけ窶れたけれど。
破滅へのカウントダウンは止まっていない、もうじき俺たちは何もかも無くす。
それを知った上で、この人はヘラヘラ笑っているんだ。
一体何を考えているのか、いないのか。俺にはもう、何も分からない。
分からないまま、それでも過ごす。
悪い夢なら覚めてくれ、と思ったりもするけれど。
なんか後ろ暗い話が人気になるんだなぁ、とは思ってます。
バカ話も好きなんですが、どうしましょうかね。