「一編で良いからさ、もう勘弁ってくらい激しくエロい目に逢いたいよな。青少年の夢だよ」
練習の合間にする僅かな休憩時間、出来れば完全に休みたい。けど先輩方とダベるのも、後輩の勤めではある。
しかしまあ眼をキラキラさせてそんな事を言う西田新部長には、俺としても距離を置きつつ事務的に頷くばかり。
この人同性間でもセクハラは成立するって知らないんだろうか、あと結構人の多い体育館で猥談なんかしないでほしい。そんなだから女子に退かれるんだよ。……まあ夢佳さん曰く「バカな男子って一言ですべてを言い表せるバカ」だそうだし、中学からずっと一貫してこうみたいだなこの人は。
バカ話してないでとっとと練習戻れやバカ二人、と針生先輩があきれた顔をしつつこっちへと蔑みの眼を向けてきて漸く、のろのろと西田新部長は立ち上がる。彼女持ちのお前に俺たちの気持ちがわかるかよ、と悪態なんか吐きながら。いや、そんなだからさあ……。
しかしそれを合図に俺も練習に戻るべく、言葉を呑み込んで歩き出した。
言わない方がいい、言うべきじゃない。
俺にはもう彼女がいること、そして――毎晩「もう勘弁」って思いをしていることは。
あの雪の中交わした告白は、きっと生涯忘れはしない。例え俺たちの関係が、どこかで終わってしまったとしても。
幸せに浮かれずにいよう、と誓って毎日を精進に捧げる。大切な人の為に、誰にも負けられない。好きになってくれて良かった、好きになって良かった、と思ってほしいから。
その想いは千夏先輩も同じだろう、部活への没入度は更に深まっている。最後の夏に向けての覚悟は多分、俺がインターハイを目指す気持ちよりも重い筈だ。
だからそう、余所見なんかしてられない。してられない、んだけど――。
どういうわけか俺は、毎晩毎晩千夏先輩に押し倒されている。お互い練習練習の日々を過ごしてるのに、夜更けになると全力で俺を襲いに来るのはどうなってんですか千夏先輩。体力無限なんですか貴女は。バグで減らないとかそういう事ですか。
思えば初めての時も、先輩に組み敷かれて無理矢理だった。いやまあ別に嫌な訳じゃない、驚きはしたけど。強い感情に振り回される千夏先輩を少しでも助けられるなら、と俺も覚悟を決めた。……うん本音を言えば願ったりかなったりだったんだけどさ。そういう関係になりたい、という欲望も少なからずあったわけだし。
でも、まさか。ここまで力尽くで来るとは思わなかった。そしてその勢いがずっと続くとも、やっぱり思ってもみなかった。
息も荒く俺の顔を舐め回しながら下半身を愛撫し、まるで自分の所有物であるかのように俺を使おうとする千夏先輩。
思ってることはあっても、身体は身体で素直になる。まあそもそも好きなんだから、反応しないわけがないんだけど。
軟らかな肉の合間に呑み込まれていくその姿は、肉食獣の捕食行為にも似て一方的で強引。だけどそれを拒めないのはやっぱり――好きだから、なんだろうな。
千夏先輩が俺を求めるなら応えたい、惚れた弱みとでも言うんだろうかこういうのも。
そして満足するまで暴れまわってから後始末をしあって、そして。
「じゃあ大喜くん、おやすみ。また明日ね」
俺にキスをした千夏先輩は、いつものように部屋へと戻っていく。あれだけ動いた俺たちだけど、明日も朝練する為早起きするのだ。
幸せで気持ちよくて、でも若干大変な
――さすがにちょっとそれは、辛いかもしれない。
「まあ、そんな訳なんですけど」
「お前にはセクハラって概念がないのかチキンタツタ野郎」
どういう理由か呆れ顔の夢佳さんに違和感を抱きつつ、俺は運ばれてきたコーヒーを一啜り。
こういう相談が出来る相手はそうそういない、と言うか身近には一人もいない。雛相手にするのは気まずいし匡もダメ、針生先輩は一番ダメ。なにされるか分かったもんじゃない。花恋さんは事情を知ってるし千夏先輩の人となりも理解してるけど、いかんせん距離が近すぎる。下手をすると相談内容が筒抜けになりかねない。
今は学校が違うしつい最近まで絶縁状態だった夢佳さんなら、こっち経由で話が漏れはしない筈だ。
そう思ってわざわざファミレスにまで呼んだのに、こう来るとは。
この人ガワはいいけど性格悪いんだよなあ、あの彼氏さんも苦労してそう。
「あんたらの下半身事情に私を巻き込むんじゃねぇ、目ぇ突くぞ」
うーん、とりつく島もない。どうしよう、俺としても一人で抱えるの重いんだけど。あと目はやめてください、大惨事になる。
どうにも千夏先輩は暴走中過ぎて大変だ、なんとか常識的な範囲に押さえてほしい。定期的にする分には良いんだけど、毎晩はやっぱり難しい。千夏先輩だって腰壊すぞ、あの勢いだと。
その辺アドバイスなんか貰えたら、と思ったけどこれは難しいかもしれないな。
のろけなんか聞いてられるか、なんて言いながらもキャラメルマキアートを一息に飲み干す夢佳さん。そして早くも次のオーダーをタブレットに打ち込んでいる、いや奢るとは言ったけどさ。
「……まあ、ね。あれは一回ハマると他が見えなくなんのよ。バスケだって、始めたばっかの頃はずーっとボール弄ってたし。要するにサルなのよサル、あんたも覚えたての時期はオナ猿だったでしょうがよ」
セクハラ発言をぶつける夢佳さんに苦笑しながらも、そう言えばと俺は思う。千夏先輩は大体いつも、前しか見えてない。壁があればブチ抜くし、山があればやっばりブチ抜く。それにギアが一速と七速しかない人だ、加減なんか出来るもんか。一言で言えば、ポンコツなんだから。
「それとね、あのバカに空気を読むとか察するとかそういう高度な機能は実装されてないわ。言わないことは一切分かんないから、そのつもりで付き合いなさい」
それは――それは確かに、その通りだ。俺は一度だって、今日はちょっととか拒んだ事はない。そんなことしたら千夏先輩を傷つけてしまうんじゃないか、と怯えるだけで。
ああ、そうか。俺はまたしても、壁打ちに戻っていたんだ。起きてもいないことを考えて立ち止まるのは、もう止めると誓ったはずなのに。
言うべき事は、ちゃんと言おう。その程度で崩れる程、俺たちの絆はヤワじゃない。
いつも通りと言うか毎度毎度予想外の角度から襲いかかってくる千夏先輩、勢い任せのパワー系フィジカル全振りアスリートをどうにかなだめ向かい合う。
鼻息も荒く今にも飛び掛かってきそうだった先輩も、俺がちゃんと話そうとしている姿勢が伝わったのだろう大人しくベッドに腰かけてくれた。うん、言えば聞くんだよこの人。
俺は決して、嫌だとか飽きたとか言うわけじゃない。ただ節度は必要だし、何より千夏先輩にも自分を大切にしてほしい。
言葉にすれば簡単で、でも言わなければ伝わらない事。俺たちの間には、そんな事が多すぎる。
「んー……そうだねぇ、私としても最近ちょっと寝不足だし」
ちょっとで済んでるのかこの人は、俺なんか授業中結構な頻度で寝落ちしてるのに。
「じゃあ、さ。今日はどうしようか。……私はしたいけど、大喜くんは?」
少しだけ照れたような顔をする千夏先輩は、やっぱり綺麗だ。こんな顔をされて、まさか引き下がれるだろうか。
体力は大分心許ないけど、だけど無理ではない。それにこうして来てくれてる訳だし、これで散会というのも不粋だろう。
どうせ明日は土曜、練習も昼からだ。ここで疲れはてても、朝までには回復するさ。
なにより俺には、してみたい事が出来たから。
「あの、その。……いつもと逆に、俺からするってのはダメでしょうかね」
そう、いつだって俺たちの夜は千夏先輩のターンだった。それを逆転してみたら、どうなるんだろうか。
うまくいかないかもしれないし、ギクシャクもするかもしれない。でも俺としては、いつもいつも千夏先輩に頼りっぱなしなのもなんだかモヤモヤしてしまう。
二人の事なんだから、お互い色々試していきたい。ワガママと言えばそうなんだろうけど、俺だって男の子なんです。
ベッドへ仰向けになり、脚を大きく広げた千夏先輩。その中心では、汁気を吸い付くして役割を果たせなくなったショーツが湯気を立てている。
こうやってまじまじとその肢体を見詰めるのは初めてだけれど、その肌は絹のように滑らかに見えた。
心臓は早鐘を打ち、視線が熱に蕩けてしまうのが分かる。それでもショーツの紐を解いていく指先は、まるで自分の意思から切り離されたかのように確かな手付きを崩さない。
これ以上許可を求める必要はない、それでも僅かに躊躇いながら――俺は意を決して布を取り除いた。
「……ぁっ」
普段はいつも襲われる側、だった。だから俺はまだ、見たことがなかったかもしれない。千夏先輩の、一番奥へと続く場所を。
薄く色付いている肉の裂け目はテラテラと濡れて光沢を帯び、僅かに開いて見える。卑猥とかグロテスクとか言われたらまあそうかもしれないけど、それよりも美しさが遥かに勝っている気がする。白く泡立つ汁はお尻までこぼれ落ち、ベッドを汚していく。
――と。
ペチリ、と額に小さな痛みを感じて俺はようやく気が付いた。鼻先が埋まりそうなほど、そこへと顔を近づけていた事に。
「えーとですね、大喜くんや。さすがに恥ずかしいので、凝視はしないでくださいな」
頬を染める千夏先輩は、でも笑顔で。その仕草は可愛らしくて愛しくて――。
考えるよりも先に俺は、千夏先輩の胸に飛び込んでいた。倒れ混むように抱き締めて、そのまま身体を押し当てていく。
……けれど。
先端が当たった途端、ぬるりとした感触で千夏先輩のもう一つの唇に俺は押し返されてしまった。
再度突き出した腰も、挿入を果たせないまま上滑り。
……あれ、もしかしてこれ、難しくないか?
いつもは上から覆い被さってくるから分からないけれど、開かれているわけではない狭い箇所に押し込むって、意外なくらいに大変なのではないか。
内心狼狽する俺に、千夏先輩は優しく微笑んだ。
「待っててね、こうしたら入れやすいと思うか……らっ」
悪戯っぽい声を奏でながらその手が秘唇を割り拡げ、内側の粘膜が露になっていく。この真ん中、襞が合わさる場所へと導かれて俺は無我夢中で腰を進めていった。
熱く狭い隘路を、抉じ開ける感覚。普段とはまた違う、でもいつもの千夏先輩の中身に包まれていく。何度しても痛いほど締め付けてくるのは、やはりSだからなんだろうか。一瞬も休まず複雑にうねり、俺を攻め立てる。結局俺はこの人に、勝てないんだろうな。
まあ、それでも構わない。俺は今、幸せだから。それに千夏先輩も、そう思っているようだし。ゆっくりとでもどうにか腰を前後させていると、それを示すかのように千夏先輩の口からは甘い吐息が漏れていく。そしてその潤んだ瞳、濡れた唇。更に激しい収縮と一瞬の弛緩を繰り返す、脈打つ膣内が何より雄弁に教えてくれている。
でもまだ、もっとしたい。もっともっと深く、最後の最後まで達したい。
その思いだけで強く強く密着していった、その時だった。
「……ぁ、……?」
先端の当たる感触が、僅かに変わった気がした。いや、それは気のせいじゃない。突き上げる度、ほんの少しずつ深度が変わっていくのだ。何度めかの突貫を敢行した瞬間、俺は確かに――輪のようなものを貫いたと確信した。
「ぅぁ、あ……、そこ、入っちゃ……だめ……っ」
快感に蕩けながら譫言みたいに漏れる声は幽かだけど、
千夏先輩の最深部、子宮の奥まで俺は到達したのだ。これ以上先はない、この人のすべてを知った。何もかも、知り尽くしたということ。
ゾワリと背筋を駆け抜けた何かを感じた一瞬の後、千夏先輩の身体が今までにない程激しく打ち震える。その衝撃でこっちの意識も真っ赤に染まり、稲妻のような快感が全身を引き裂かんばかりに叩き付けられた。
ただでさえいっぱいいっぱいだった俺が、それに抗えるわけがない。全身が甘い蜜に浸かったような凄まじい快感を認識する頃にはもう、箍が外れたかと思うほどの激しい射精が始まってしまっていた。
危うく気絶しそうになるのを堪えながら、掠れ行く瞳を引き留めながら交わすキス。それは甘くて優しくて、愛しくて。
この上ない幸せに包まれて、俺は今度こそ意識を手放――せなかった。
「ね、……大喜くん。もっと、もっと……しよう、よぉ……っ」
抵抗を許さない囁きと共に、クルリと上下が入れ替わる。器用な事するなぁ、と何処か呑気に思ったときにはもう遅い。虚ろな目のまま壊れたオーディオのように愛してると繰り返しながら、千夏先輩は俺の上で跳ね回り始めた。
ああ、そうだよな。この人はいつだって、俺の想像なんか軽々と越えてしまうんだ。
控えるのは明日から、で良いじゃないか。誰が咎めるわけでなし。
夜が明けるまで、身体が続く限りは愛し合おう。
まああれこれと予想外の事はあれど想いは伝わり、とりあえず毎晩の襲撃は無くなった。
お互いに話し合って合意を形成して、そこからベッドへと行くのが週に一回ほど。回数は減ったけどその分焦らされるからか千夏先輩はどんどん情熱的になり、下手したら今の方が疲れるかも。まあ、良いんだけどさ。
無理せずゆっくり、二人のペースで。それがきっと、最善だから。
そんなこんなで日を開けて、ちょっとぶりの逢瀬に耽った後。ベッドの上で二人ならんで、とりとめもなくただどうでもいい話を交わす時間。これがなかなか幸福だ、と近頃は思うようになってきた。
一周したと言うか、結局一緒にいられればそれだけで幸せなんだろうな俺は。安上がりと言うかなんというか。「あ、そうだ。大喜くんって、さ。卒業した後の事とか考えたりする?」
不意に来た質問に、少しだけ俺は狼狽えてしまう。そりゃ考えないといけない事ではあるけど、あるけれども。
スポーツ推薦を勝ち取って進学、というのも所詮その場しのぎにしかならないだろう。なんせバドには日本人のプロほとんどいないし、実業団だって大した数じゃない。そのなかに入れるような凄腕になれるか、と聞かれると怪しい。
そりゃあ……負ける気で戦ったりはしないけど、さ。
でも俺の頭で果たして、真っ当な社会人は難しい。
うわ、どうすんだ俺は。
「あー……そうですねえ、まだ……です」
我ながら卑怯ではあるけれども、話を濁すしかない。正直難しすぎる、これは手に余る。
そのモヤモヤした気持ちは千夏先輩にも伝わったのだろう、少しむくれて顔を寄せてきた。俺が煮えきらない事言ったりすると、千夏先輩ってわりかし怒ったりするんだよなぁ……。
これはまたお説教かな、なんて思った俺は再び思い知らされる。この人はいつも想像の斜め上を行く、という事を。
「そこで『卒業したら結婚しましょう』とか言えない辺りが、――
……う。あぁ、そうかそういう話をしたかったのか。進路じゃなくて将来の事、だったんだ。
そうだよな、考えてみればそうだ。こういう関係になって、これから二人ずっと一緒に過ごしていくなら今のままじゃいられない。
ただ好きでいるだけじゃない、お互いの人生を背負いあったり預けあったりする必要があるんだ。
卒業したら、と言うか俺が18を越えたら。それを機に結婚というのも、手ではあるな。千夏先輩と結婚したい、と匡に話したことも確かあったし。
でもそうなると、それこそ俺の進路どうしよう。学生のまま結婚する人たちもいるだろうけど、そんなの両家の親達が許さないかも知れない。だけど今の御時世、高卒で働くのは大変だろうしなぁ……。うーん。
なんて逡巡していると、千夏先輩が小さく溜め息を吐いた。うう、呆れられてる。
でも千夏先輩だって進路なんか真っ白の筈なのに、俺だけバカみたいに扱われるのはちょっと心外だ。そりゃ俺はバカだけどさ、それでもさぁ――。
とりあえず反論だけでもしておくか、口で勝てるとは思えないけど負けたままで諦めるのも癪だから。
そう思って口を開こうとした時。
「――ほんと、しょうがないパパで困りまちゅねー」
いや、いやいや。いやいやいやいや、まさかまさか。
……あーいや、まさかじゃない。心当たりは死ぬほどある、それはもう確実に。
でもそれは、それは。……それはさすがに、手に余るぞ。高校生同士でこれは、ちょっと不味くないか。ちょっとじゃねぇ、結構不味い。
「ま、ゆっくり考えなよ。結果は同じだろうけどさ、〽️こうしてこうすりゃこうなるものを、知りつつこうしてこうなった、ってねー」
ケラケラ笑いながら立ち上がり、軽やかに部屋を出ていく千夏先輩。
なにも言えないままそれを見送った俺は、ドアが閉まると同時にベッドへ仰向けに転がってしまう。
……どうなるんだろうな、俺の人生。これからもずっと、千夏先輩に振り回されていくんだろうか。
ああ、まったく。そんなの、幸せすぎて怖いじゃないか。本当に、さ。