理想が叶っていない、とは言わない。完全ではないにせよ、全くの的はずれでも無いから。
とは言えその辺もう少しどうにかならなかったかな、とも思わなくはない。
いやまあ、あんまりあれこれ突っ込んでせっかく安定した所を掻き乱されても困るか。
とりあえず現状維持しつつ、少しずつ改善していこう。
遅くはない、生きてるかぎりいつだって遅くはない。
――そうとでも思わないと、やっていられなくなってしまう。
どうしたもんだろうな、この厄介な性分は。全くもって、やれやれだよ。
花恋には余計な心配をかけたもんだな、と思う。気になるけどまだ好きかどうか分からない、とか聞かされたって困っただろう絶対。いやそれくらいならまだ良いんだけど――うん、そこで止まらなかったもんなぁ。
多分私以上に頭を抱え続けているんだろう、我が親友は。
「……あのさ、それは正気で言ってる? 妄言の類いではないんだよね?」
そりゃまぁ、余りにも強引な話への回答なんだしこうなるのが普通なんだろう。
我ながら考えなしだな、と自覚はしている。反省はしないけど。
「んー、うん。我慢できなくなって、さ。こないだ……大喜くん、押し倒しちゃったんだよね」
考えるのはそもそも苦手で、一度走り出したら止まれない。そんな私が、いつまでも理性を保てる訳がなかった。
毎晩毎晩疲れた身体に鞭打ってオナニーに励み、それでも治まりはしない。体力を使い果たして意識が途切れ、夜明と共にゆるゆると眼を醒まして後始末をしてから部屋を出るのが日課になって久しい。
この有り様でも不思議なくらいに体調は良くて、全身に力がみなぎっているのが不思議だ。むしろこうやって消耗と回復を繰り返すおかげで、どんどん私は強化されつつあるのかもしれない。
それに、それに。
大喜くんがいるから、私は何処までだって限界知らずに突き進める。いつか別れるときが来るとしても、今の私はそれだけで不死身でいられる。この人を好きになって良かった、そう思って欲しい。大喜くんが誇りに思える、隣で笑い会えるパートナーで居続けたい。
煎じ詰めれば要するに、愛の力ってやつだ。
……だからこそ、あんまり生臭い感情は向けたくないんだけどなあ……。
花恋にも以前言ったけど、どうしたって私は大喜くんに触れたくて仕方ない。触れるだけじゃない、色々したい。ガッツリあれこれ、いっぱいしたい。
大喜くんを大事にしたい、でも我慢し続けるのは難しい。
考えに考えた末に私は今、大喜くんをベッドに組倒してしまっている。
仕方がないんだ、私は不器用なんだから。自分で自分に言い訳しながら、狼狽する大喜くんの手を押さえ付けたまま顔を寄せ、そして――。
「ん……っ」
強引に自分の都合だけを胸に、気が付けば唇を合わせていた。
初めてのキスは軟らかく甘く、そして熱い。粘膜が燃え上がる程の熱量に、脳が蕩けていくのがわかる。
どれほどそうしていただろう、瞬きさえ忘れたまま過ぎていく時間。
息苦しさを感じてようやく離れた唇同士を繋ぐのは、混ざりあった唾液の橋。
それがたわんでシーツの上に落ちたのを合図にするように、私の舌は言葉を紡ぎ出す。
「大喜くんが、好き。大喜くんの全部が、欲しい」
ああ、回りくどい。どうして私はこうも口が重いんだろう、望むのは一つなのに。
キスよりも先の事がしたい、大喜くんと――ひとつになりたい。セックスを、したい。
言葉には出来ないまま、それでも大喜くんを抱き締める。肌を通して、想いが伝わるように。
呆然としたまま動かない大喜くん、それでも身体は敏感に反応してくれる。そう、敏感に。
「ぁ、うぁー……。こんな、なんだね……」
私が指先を這わせただけで、大喜くんのオトコノコが硬く隆起していくのが分かる。一応知識としては知っているけど、まさか実際に見たり触れたりした事はない。それでも迷いなく動く手はきっと、本能に突き動かされているのだろう。それを示すようにもう片方の手は、自分の股座をまさぐっている。熱に浮かされてオナニーしながら大喜くんを愛撫する、なんともはしたない姿。
そうは思えど、どちらの手も止まらない。どちらの手も粘液にまみれていく、それが興奮を煽って仕方がない。
もっともっと、と手を加速させたその時。
いやそう勘違いしてしまうほど強く激しく、大喜くんのオトコノコが脈動し一気に白い濁流を噴き上げたのだ。
溶岩を放つ火山のようにそれは止めどなく、手どころかベッドまで汚してしまう。
これが射精、男の子の絶頂なのか。前に一度ローターを限界まで押し付け続けて潮を噴いてしまった事があったけど、それに近いかもしれない。あの時は普段とは違う――
男の子というのはもしかして、毎回……いやさ毎日あんなのを食らってるのか。よく身体がもつもんだ、凄いな大喜くんは。
そしてもう一つ凄いのは、これほどの噴出を経てもオトコノコが威容を保っている事。その辺も
だけど今の大喜くんはこうやってギンギンなわけで、それはつまりもう一度或いはもっと何度も――
難しく考える必要などない、お互い身体の準備はこうして整った。私たちは今までよりもっと先へと進める、これ以上ないくらいに強い絆を築ける。
このそそりたつオトコノコの上に、私が跨がれば良い。それだけで、特別な関係になれる。セックスをする、というのはそういう行為だ。軽々しくしてはいけない、本当に大切な人とでなければ決して許されない。
だからつまり今の私たちには――、その資格が十二分にある。
ゆるゆると四肢を動かして私は大喜くんにのし掛かり、そのまま下半身を近付けていく。粘膜同士の距離はどんどん縮まり、熱気さえ感じられる程だ。
「……こ、う……かな……?」
クチュリと粘液質の水音を立て、お互いの性器が密着する。それでも力を込めて腰を落としていくと、域値を越えて距離がマイナスになり始めた。私の内側へと、大喜くんが入ってきているのだ。
異物感はあれど痛みはない、それよりもとにかくお腹が熱い。気を抜くと頭まで焔に包まれそう、まるで焼けた鉄の塊を挿入されているかのよう。
完全に大喜くんへと着地し終える頃にはもう、身体中が汗だくになっていた。しかし、それで止まれる程私は器用でも頭が良くもない。
本能が命ずるままに身体をゆすり、いつのまにかスクワットの要領で腰を振り始める私。
ゴリゴリと膣肉を削られたちまち脳内が電流に犯されるも、そうなって尚止まれない。
――と。
バクンと大喜くんの腰が大きく跳ね上がり、振り落とされそうになった瞬間。これまでになく激しい熱波が、私の身体を貫いた。
「あ、あー……あぁ……っ」
お腹の奥の奥で拍動が響き、灼熱の奔流が子宮を焼いていくのがハッキリと感じられる。さっき見た凄まじい射精が、私の中で巻き起こったのだ。それを察したその一瞬で、私の意識も限界を越えて弾け飛ぶ。
いつぞやの尖りきった快感すら凌ぐ絶対的な快楽の圧は、しかしいつものオナニーと同じくゆっくりとしか落ちていかない。頭が白く飛び目の前が揺らいでもまだまだ波が引いてくれない、気持ちよすぎて狂いそうだ。
バチバチと火花を散らし、視界が黒く染まっていく。気を失う寸前にどうにか絞り出したのは、小さく短い『愛してる』の言葉だった――。
結局あのあとは気絶したまま朝を迎え、二人でどうしようどうしようとオロオロしたんだっけ。朝練どころか危うく遅刻するかも知れなかったなぁ。
たかが二ヶ月前なのに、ずいぶん前みたいに思えてしまう。
まあこうやって振り返れば笑い話に――。
「あんたさぁ、バカなの?」
……なってくれなかったみたいだな。
いやでも言い方ってもんがあるでしょコラ。ホントの事だし否定はしないけど、面と向かって言われるとちょっと困る。
こっちは親友と見込んで話してるのに、この言い草か。
そう言えば渚にも言われたな、なんだろう私の周りってロクな女がいないのか。
よくこんな連中と付き合えてるな、立派だぞ私。
「終わってから考えちゃったんだよ、これで良かったのかなって。もっとこう、ムード的なものを考慮するべきだったかもしれない」
「いや、そうじゃねぇから。そうじゃないし、迷うならまず押し倒さないであげて」
うーん、どういう了見だこの女は。そこを否定したら話ができないじゃないか。
押してダメなら更に押すのが私の生き方、曲がれないし折れやしない。
「私だって健吾とそういう関係な訳だし、別に悪く言う気はないけどさ。あんた大喜くんの家の居候でしょ、大丈夫なの? イチャついてて追い出されました、じゃ洒落にならないわよ」
「んーまあ、それはまだ大丈夫だと思うんだ……」
そう、それに関しては多分。紆余曲折あって、既に交際自体はバレてはいるけれども。ちゃんと由紀子さんには「息子さんを私にください」したし、節度をわきまえてくれればそれで構わないと言質も取ってある。スマホって便利。
部活も頑張ってるし、むしろ応援してもらっている。
これで尚蹴り出されるとなったら相当だ、そんなのそうそう起こりはしない筈。
そりゃあまあ、ちょっと危ない事はちょいちょいあるけど。
猪股家の風呂場は結構広い、湯船も大人二人が余裕で収まるサイズだ。
入れるなら纏めて入った方がガス代や水道代の節約になる、それはたしかな事。養家の為にも気を使わねば。
そんなこんなで私と大喜くんは今、一緒のお風呂タイムを迎えている。
まあそりゃ由紀子さんにバレたら怒られるけど、でもどうせだし。別に毎日じゃない、たまにだから問題ないだろう。きっと、うん。
私はもう入った事にし、大喜くんにお風呂空いたよと言いに行くフリをして足音を殺しつつ一階へ。そのまま気配を消して、大喜くんと歩調を合わせて入室した。気分はどこぞの潜入捜査官、そんな感じ。実は帰り道の方が厄介なのだけれど、それは後で考える。親公認の関係も良いけど、二人だけの秘密も捨てがたいのだ。
脱衣籠に服を放り込み、下着片手に浴室へ。大喜くんは全部洗濯に出しちゃうけど、私はそうもいかない。……さすがに、…………ねえ。実の親でもあんまり良い気しないのに、赤の他人に下着洗わせたり干させたりはしたくない。例え由紀子さんが彼氏の母親で、いずれは義理の母になるかも知れなくても、だ。
「じゃこれ洗っちゃうから、ちょっと待っててね」
なにしろ音が響く場所だから、声は小さく。でもちゃんと伝えるために、肌が触れるほど顔を近付けて耳打ちしてあげる。ああ、良いなぁこういうの。相変わらず顔を真っ赤にする大喜くんは、やっぱり可愛いし。
お湯に浸かって向かい合う姿は、公園の東屋で
ぱちゃぱちゃと音を立てながら小声で交わす言葉は、少しずつ艶を帯びてくる。まあ、そうだよね。
大喜くんがどんな思いでいるかは
そっと水面下で足を動かし、水圧の中でも逞しく首をもたげているオトコノコをなぞってみる。足裏に伝わる体温はお湯よりもずっと熱く、でも心地良い。両足で挟み込んで擦っていくと、その硬度は更に上がり大喜くんの口からも甘い喘ぎが漏れ始める。
まったく可愛いな、この子は。
あーでも、あんまり声を出されると困るか。
「大喜くん、シー……だよ。響くんだから、さ」
唇に指を押し当てて声を制しながら、私は足を加速させる。たちまち粘り気の強い、お湯ではない何かの感触が足に伝わってきて、そして。
湯の中に、白い軌跡が描かれた。まるで一本の紐のようにも見える、精液の塊。
やがて浮かび上がって水面に顔を出したそれに触れてみると、まるでゼリーのように固まっていた。熱せられたせいなのか、それとも成分が濃いからなのか、もしかしたら両方かも。
荒い息を吐きながらもまだまだ元気そうな大喜くんを抱き締め、そのままキスを交わしあう。
このまま最後までしたい、でもさすがにこれ以上は不味いかな。ここから更に湯船を汚すのは忍びないし、何よりのぼせてしまいそうだ。
それにまあ、こうしてキスするだけでも身体の芯は熱く燃えていく。挿入させて腰を振るだけがセックスじゃない、抱き合って愛を確かめあうのも気持ちいいんだ。脳の奥が痺れるこの感じ、オナニーし続けて意識が朦朧としていく感覚に近い。
大喜くんが満足してくれているかは分からないけれど、私はこれで良い。これが良い。
「少ししたら、私も上がるからね」
お互いを貪りあう濃厚なキスハグタイムを終えて、大喜くんを先にいかせ私は一人湯船の中。まさか同時に出るわけにいかない、一応親に隠れてこんなことしてるんだから。
残された私はお湯に浮かぶ精液を弄びつつ、天井を見上げる。
……さて、これからどうしようか。毎度の事ながら、これが困るんだ。
由紀子さんは意外と宵っ張りだし、風呂場の中から様子を伺うのは難しい。勘付かれないよう上手く二階へ上がれるか、お風呂でイチャイチャする度に考えないといけないのだ。うんまあ、そこを考慮して我慢するとかは出来ない。私はそんな良い子じゃないから。
この間はそれに加えて、旦那さんと夜の営みを始めてくれたお陰で気まずかった気まずかった。そっちに集中してくれたお陰で難無く部屋に戻れたのは幸いだったけど、正直知った顔のそういうのはかなり厳しい。と言うか「義父」「一人息子」「その彼女」がいる家でよくもまあ、ああも激しく交われるもんだよ。これで大喜くんに弟妹が出来たら、それもまた気まずいな。
そういや我が両親は、娘不在の現状をどうやって過ごしているんだろう。知らないうちに弟なり妹なりが増えてたりする可能性も無くはない、まあ正直キツいけどさ。下手したら親子だぞ、17とか18歳差って。さすがにそうなったら怒っても良いよね、良い歳して何やってんだって。
有り得ないと思いたいけど、私の親だからなぁ……。何をやらかすか分かったもんじゃない。
「あー……っと」
急に込み上げてきた、心地良い脱力感。……いやこれ、かなりダメなやつだ。炬燵でウトウトしてきた時のような、身体の中心から肌へと熱が伝播するやつだ。
今目を閉じたら、きっと朝まで起きられない。こんな所で寝てしまったら本当に不味い、いくらバカな私でも風邪を引く。どうにかしてここを出なければ、部屋まで這ってでも戻らなければ。
ああ、でも。そう思えば思うほど手足は重く、意識は泥のように鈍っていく。
なんとかお湯から上がりはすれど、そこがもう限界。
どうにでもなれ、と捨て鉢な気持ちで私は意識を手放していた――。
……実際大変だったよ、あの翌朝は。
あられもない格好で脱衣場に転がり爆睡する私を、由紀子さんはどんな目で見ていたのやら。もしかしたら、今の花恋の表情に近いかも。
さっきよりもずっと呆れ果てたような顔で、花恋は私を見据えている。信じられないバカを見る顔、にも近いかも。
とは言えそんな顔は、長くは続かなかった。
「あんたはさあ、年に五分で良いから頭を使いなさい。あとね、のろけ話を延々と聞かされる身にもなって欲しいわ、ホントにさ」
半笑いでグラスを煽るその声は、でも決して不快げではない。私の話を聞いてくれる時の、いつもの花恋がそこにいる。
私はきっと、人よりずっと幸福なのだろう。素敵な恋人がいて、理解ある親友がいて。
時々自分に疑いを抱きそうになるのは、贅沢な現代病なのかもしれない。不満がないのが不満、みたいな。
しかしのろけとは言ってくれるものだ、こっちはそこそこ真剣なんだぞ。手探り過ぎて分からないことだらけなんだから。
まあ、大喜くんと二人ならどうにかなるだろう。それこそ私たちは、無敵で最強なんだから。
「あ、そうだ。私今度、映画の撮影予定が来てさ。年内はバタバタしてて会えなさそうなんだよね、心配だけどこればっかりは仕事だしね」
おお、さすがは芸能人。どんどん進んでいくなあ、この親友は。花恋も夢佳も、やっぱり凄い連中なんだ。でも私だって、負けてられないな。
それに心配だけど、ってのはさすがに過保護すぎやしないかな。私だって四捨五入どころか、五捨六入したって大人なのに。
――そうだ、次会うときはもっとデカイ話を持ってこよう。結婚とか妊娠とか、そういう報告したらどんな顔して喜ぶかな。
いやはや、楽しみ楽しみ。やはり私の人生は、毛筋ほども間違ってはいない。うん、多分。