なのでこれ単一では短いですハイ。
荒い息を吐きながら横たわり、天井を見上げる。ずっと見てきて見飽きるくらいな筈ではあるけれど、状況が状況だからあまり落ち着きはしないかな。
でもまだだ、もっと頑張ろう。
そうでないと、千夏先輩に愛想を尽かされてしまうかもしれない。
ゆるゆると起き上がろうとする俺、だけどその動きは横から伸ばされた手に制される。
隣で俯せになっている千夏先輩はでも、俺の事はお見通しなんだろう。
「あー……、今日は、こぇくらい、で……大丈夫、だから、……ねっ」
くぐもった声は切れ切れで、余裕の無さが伺える。俺に気を遣っている声音ではなく、本心からの言い方。
紅潮した肌は燃えるように熱いまま、汗の雫はベッドに落ちて染みを拵えていく。
――俺には女子の感覚なんて判らない、どれくらいしたら満足してくれるかなんてもっと判らない。
だからいつだって、動けなくなるまでは交わり続ける。我ながらバカだとは思うけど、全力投球しなければ相手に届かない。要するに欠陥人間なんだろう、俺は。
「そろそろ、……寝ないと、朝っ練……出来なくなぅ……ぉ」
ゼーゼーと喘鳴音を立てながら言われて、俺もそうだなと納得する。部活は大事だ、俺が俺でいるために。千夏先輩に、俺を好きで居続けて貰うために。セックスし過ぎて部活が疎かになるなんて、それこそ愛想を尽かされる。
好きだからこそ、格好をつけたい。この人を好きになってよかった、と思ってほしいし思いたい。
「です、ね。じゃぁ、今日はこえ、で……」
気が付けば俺も俺で言葉が上手く出なくなっている、どんだけ無理をしたのやら。
よたよたと立ち上がる千夏先輩、その背を見送って俺は息を吐く。
人を好きになるのって疲れて大変で、でも果てしなく幸せだ。そう実感しながら。
付き合いだして三ヶ月が過ぎた春の日、俺たちの関係は大きく変わった。
その最初の一手は、やはり千夏先輩からだったのだけれど。
「――面倒見が良いんだね、
いつもの食卓で、ぽそりと呟かれた声。千夏先輩はほんの少しだけ、不機嫌そうに見えた。理由は分かっている、この所朝練にちょいちょい来るようになった新入生が原因だろう。
なつかれているというかなんというか、どうも俺は先輩オーラがないから声をかけやすいんだろう。晴人にも一年生だと思われてたし、なんか俺って舐められてんじゃないかなとも思う。良いんだけどさ、後輩の面倒見るのも部活のうちだし。
それに俺も俺で、春になって千夏先輩の取り巻きが増えたのは気になっている。ちょっと気安いのがグイグイ行ってるのを目にしたりすると、たまに殺意の一つも湧きかけてしまう。
だけどでも、それはそれだ。
誰にも言えないけど、俺たちは付き合っている。お互いがお互いを好きなのだから、そこに誰かが割って入ってくる事なんてない。理屈ではそうなんだけど、でもなあ。さすがにちょっと、俺の場合――
先輩がいつ俺を好きになったのか、それは分からない。でも先輩は雛が俺に告白したことを知っていた、もう俺たちが付き合っているとさえ誤解していた。それはどれほど苦しい事だっただろう、自分が好きな人が自分以外を好きなんだと思うなんて。そしてそれは雛に対しても同じだ、保留して希望を持たせる事はどれほど残酷だったか。
傷付けたくなくて返事を先伸ばしにしていた俺は、二人を同じように傷付けていたんだ。
だから千夏先輩としては、不安になってしまうんだろう。もしかしたら、と。
……今度ちゃんと話さないとな、落ち着ける場所で。
そんな風に考えていた呑気な俺は、すぐに自分の愚かさを思い知る事になった。
まあ一言で言えばその――襲われたのだ、千夏先輩に。
不安を吐露し泣きながら俺を押し倒す千夏先輩は、それでもとても美しかった。
そんなこんなで初めての夜を過ごした俺たちは、それでも周囲に交際がバレないよう気を遣いながら過ごしている訳なんだけど――。
「どうしようか、な……」
俺はちょっとだけ、悩んでしまっている。
なにしろ俺と来たら、ずっと翻弄されっぱなしなのだ。いくら年下とは言え、男子としてその辺ちょっと情けなくなってくる。
少しはこっちからもアクティブにいかないと、そのうち千夏先輩を苛立たせかねない。というか思い詰めて跨がってくるまで事態の深刻さに気付けなかった俺が、その辺上手くいなせるだろうか。いや無理だろ、だって俺だぞ。
――俺にできる事なんて、ただ努力する事だけだ。
いつだってそう、使う頭なんかあるものか。余計なことは考えず、ひたすらに頑張ろう。千夏先輩が
一応は母さんたちに気付かれないようにしないといけないから、千夏先輩と相談して部屋に防音マットを敷いたり色々と準備をしつつ夜を数える事幾ばくか。
初めの内は毎回俺が力尽きて、千夏先輩がからかうように笑って部屋を出るのが常だった。
でも最近はどうにか精魂尽き果てずに済むようになり、何戦か終えベッドに並んで暫くダラダラ過ごしてから「そろそろ寝ようか」と先輩が言い出してお開き、というのが流れになりつつある。
元々スタミナはある筈だし、身体の使い方が身に付いたせいか疲れきらずにいられるようになったみたいだ。先にヘバるのは申し訳ないし、それは良いんだけどそれだけじゃなぁ……。
経験数はどっちも一人、条件は同じなのに手玉にとられ続けているのはちょっと悔しい。とは言え他所に練習相手を持つわけにもいかない、殴られるくらいじゃすまないし俺が良心の呵責で死ぬ。
あれこれ思い付くままに試してみるしか無いんだろうか、やっぱり。
階下に響かれては困るしそれなりに配慮をしつつ、それでもベッドを軋ませながら夜は更けていく。
使用済みのコンドームは床頭台に放り出され、お互いに荒い息を吐きあってはいる。でも千夏先輩が今どのくらいの所まで感じてくれているかは、正直分からない。女子の性感なんて、俺が慮れるものじゃないし。
いや、そこで「分からないから仕方がない」なんてのは逃げだ。
分からないなら、もっともっと進めばいい。
ギシリと音を立てながら千夏先輩にキスをして、俺は再びその身体を掻き抱く。
萎えかけた自身を気合いで奮い起たせ、何度めかの挿入に向けてゆっくりと動いていく。
初めての時もそうだったし最近も大体は千夏先輩が跨がってくる訳だけど、そうならない時もある。今がそうだけど、千夏先輩が受け身になってくれる事がたまにあるのだ。
自分の全てを委ねてくれる、俺を信頼してくれている。それが光栄でなくて、何だろうか。
粘液にまみれた肉の裂け目を割り拡げながら入っていくと、まるで握り潰されているような激しい圧力が襲ってくる。この人の中は、何度身体を重ねあっても決して油断させてくれない。だからこそ、俺も常に全力でいかないと。
頭の奥で弾ける稲光に身を任せ、本能のまま腰を加速させていく。千夏先輩の顔を歪ませているのが快感であってほしい、そう願いながら。俺の独りよがりでありませんように、と。
俺の身体が震えるのとほとんど同時に、千夏先輩もまたドクンと大きく身体を弾ませた。
薄いゴムの皮膜を通しても伝わる蠢動を受け止めながら、全身の体液を全て撃ち込む思いで射精は続く。
目の前は一瞬暗くなるけれど、でも俺はどうにか意識を繋ぎ止めた。
もう一回、出来るだろうか。いや、千夏先輩が求めるなら何度だって俺は頑張らせて貰うさ。
たとえ力尽きたとしても、だ。
どんなに激しい夜も、必ず明けて朝が来る。
疲れを引き摺る歳でなし、目を覚ませばすぐに朝練に向かうのが日課になって久しい。
千夏先輩もいつも通りに家を出ている――と思ったのだけれど、珍しいこともあるものだ。千夏先輩は玄関先で立ち尽くしていたのだ、俺を待っていたように。
一緒に登校しよう、とでも言うんだろうか。たまにはそうしたいけど、周囲に隠れて付き合っている身だしちょっとそれは不味いかも。
でも千夏先輩が望むなら、と隣に侍った時だった。
「……大喜くん。私少し遅れていくから先行ってて、あと帰ったらお話があります」
そう言うと千夏先輩は柱にもたれかかり、そのまま黙ってしまった。
なんだろう、不安だ。とは言え先に行けと言うなら従わないと。いつもよりちょっとだけ時間が押してるし、ここでとどまってると良くないか。
じゃあ行ってきます、なんて言いながらチラリと見た千夏先輩の顔は明らかに眠たげ。でもま、心配する事もないだろう。俺よりずっと立派な人なんだから、問題はないさ。
いや問題ないと楽観視したのは、不味かっただろうか。
どういうわけか校内ではまったく会えないまま放課後になると、さすがにそう思ってしまう。
なんとなくザワつきながらも帰宅して夜も更けてからようやく、俺たちは向かい合うことが出来たのだけれど――千夏先輩はどうにも複雑そうな顔をしてる。
……どうしよう、ここで別れ話とかになったら俺は生きていけないぞ。
そう身構える俺に千夏先輩が投げ掛けてきたのは、予想外の言葉だった。
「ええと、大喜くんや。最近その、身体は……大丈夫?」
それはどういう事か、なんの因果か。千夏先輩がそんな事を聞いてくるなんて、珍しい話だ。
なにせ俺は丈夫さだけが取り柄の頑丈人間、夏風邪で倒れた以外ではここ数年ずっと健康優良。あの時には看病して貰ったっけ、なんだかもう懐かしく思える。
だけどなんで急に、と考えているのが通じたんだろうか。千夏先輩はヒラヒラと手を振って、再度口を開く。
「あーいや、そうじゃないか。遠回りしても仕方無いね、単刀直入に言います」
その瞳は俺を見据え、何かを決心したかのよう。……まさか本当に別れ話じゃないだろうな、泣くぞ。そりゃ千夏先輩の方に主導権がある関係ではあるけど、それでも俺は大音声で泣くぞ。
「えー……とですね。最近毎晩えっちしてばかりで正直疲れませんか大喜くん、私は結構疲れてます。もうちょっと加減しませんかお互いに」
千夏先輩は早口でそう言うと、顔を赤らめて黙ってしまう。俺が言葉を返すのを待つように、じっと。
――それは、それは。
「確かに、まあ……」
でも俺としては、千夏先輩のペースに合わせて頑張ってきた筈なのだけれど。千夏先輩を満足させたい、もっと愛してほしいし愛したい。そう思って突っ走ってきたのに。
もしかして俺は、またしても空回りしていたんだろうか。そう言えば一度として千夏先輩は言っていないかもしれない、物足りないとかまだまだだとかそういう――俺の未熟さを指摘するような事は。いつだって愛してると言ってくれるし、気持ちよがってくれる。それが気遣いやなにかではなく、全て真実なのであれば。
「私は大喜くんが好きだし、えっちな事も好き。でもさすがに身体が持ちそうにないんだよね、少しブレーキ踏んでくれると嬉しいかな」
俺はどこまでも、バカなんだな。こうして言われるまで、真逆の事しか考えていなかったんだから。
ちゃんと話し合うべきだった、そこから始めるべきだったんだ。これからも好きで居続ける為に、好きでいて貰う為に。
「俺も千夏先輩が、好きです。これからもずっと、一緒にいたいです」
愛しているから、くっつきすぎない。節度を持って、愛し合おう。
その思いを込めあい俺たちは、いつもより熱く長いキスを交わしていく。
ブレーキは踏もう、今日はここまでで留まろう。明日も明後日も、ずっとずっと愛し合う時間は続くのだから。
そして夜は、今日もまた更けていくのだ。
すれ違い続けた時間は勿体無かったかもしれない、でも実際面と向かって話したんだしきっと大丈夫。
あれから俺たちは、お互いを気遣いながらゆっくりと愛を育んでいる所だ。
同衾は大体週一くらい、あとの日も二人で仲良く過ごすけど一緒には寝ない。まあその分、一回一回を大切にするようになった。
体力に余裕ができた事もあって千夏先輩は絶好調、栄明のスーパースターとして今日も輝いている。
そういやこないだ夢佳さんに呼び出されて「延々とのろけ話を聞かされる身にもなれチキンタツタ野郎」と殴られたりしたな、何で千夏先輩じゃなく俺に暴力を振るうんだあの人。
まあつまりは親しい友人にのろけ話をするくらい、俺と過ごす日々に満足してくれているのだろう――
この先もっともっと激しく求めてくるかもしれない、その時に備えて鍛え続けよう。備えは大事、いつだって頑張るのが俺だ。
そもそも俺は細かい事を考えられるほど利口じゃない、ただ真っ直ぐ歩むだけ。
願わくばこの日々が、終わることなく続きますように――。