息も絶え絶えでベッドに転がり、天井を見上げる。まったく、元気なものだ。
私としてはもう少し落ち着いても良いんじゃないかな、とも思うんだけどな。私から始めた話ではあるけれど、正直最近はちょっと酷しい。
さすがにこれ以上は、と思っている最中。大喜くんがゆっくりと起き上がろうとするのが見えて、私は反射的に手を伸ばしてそれを制していた。
こっちがそろそろ限界なのに、ほんとにまあこの子と来たら。お盛んすぎるぞ、大喜くんや。
「あー……、今日はこぇくらいで……」
完全にガス欠の身体では声も掠れてしまう、それでもどうにか意思の疎通を図るべく私は努力する。
これ以上すると明日に堪えるよ、という旨を告げると大喜くんはあっさりと引き下がってはくれたけれど、これもいつまで続くことやら。……いやまぁ私が引退するまでは通じるだろう、でもその後で過労死するかも。いや腹上死かな、この場合は。
なんにせよもう身が持たない、お開きにしないと。
とりあえずお休みを言ってヨタヨタ立ち上がり、大喜くんの部屋を出て数歩。自室に入るなり、私は糸が切れたようにへたれこんでいた。
全身汗やら何やらでドロドロ、シャワーは浴びれないにしてもウェットティッシュで拭くなりなんなりはしたい。でもその気力が無い、疲れはてた。
それでも夜が明ければ、部活へいかないと。
大喜くんにずっと好きでいてもらいたいから、もっと好きになってもらいたいから。えっちだけしていれば良い訳じゃない、部活も恋も勉強もひとつも手抜きは出来ない。
大丈夫、私は鹿野千夏だ。何があろうと、乗り越えて見せるさ。
「――ノロケなんかいらん。て言うか仮にもインターハイ競ってる学校の人間呼びつけて、アホな話すんな底無しアホ」
……夢佳はこっちを睨みながらそう吐き捨て、キャラメルフラペチーノを啜っている。うう、こいつはホントに口が悪いな。奢ってやってんのに。
たかがスタバ、されどスタバだぞ。たまの休日を潰して会いに来たのに、なんだよその言い草は。それでも親友か。
溜め息を吐きつつ、私は天井を見上げる。あの何て言うかプロペラみたいなのは今日も回ってるけど、あれ意味あるかな。換気なんかエアコンで良いと思うけど。
まあ、それは良いか。
確かに、栄明と彩昌はライバル同士。いや以前その地位には籠原がいたのだけど、夢佳がバスケ部に入って以来怒濤の快進撃でインターハイ出場有力候補へと浮かび上がってきたのだ。逆に籠原は最近振るわないんだよね、人を「大したことない」とか言うから去年全力でフルボッコにしてやったせいかも。良い気味良い気味。
……夢佳本人は「鈍りきってるしリハビリのつもりでやってるだけ」とは言うけど、明らかにチーム自体がレベルアップしてんだけどさあ。そりゃかつて目標にした相手が立ち直ったのは嬉しいけどさあー、もう少し段階踏んでほしい。いきなりそんな来られると、ちょっと退く。手加減しろとは言わないけど、少しは空気くらい読もうよ。
それはそれとして、だ。
栄明の面々には交際を隠している都合上相談出来ないし、花恋も花恋でちょっと危ないんだよね。まさか直に口外はしないだろうけど、針生くんや菖蒲ちゃんがあれこれ気付きかねない。そうなると夢佳くらいしか話せる相手はいないのだ。
にしてもクリスマス以降の話を少ししただけでこれだ、まだ告白が終わってバレンタインにもなってないのにギブアップされては困ってしまう。そりゃノロケではあるかもしれないけど、まだまだ触りの部分なのに。
むしろもっと早く相談するべきだったかな、と今更ながら思う。
思い詰めて大喜くんを襲ってしまう前に、対処法がほしかった。まあ、後悔はしていないけどさ。
「――面倒見が良いんだね、
言ってから少しだけ胸が痛んだけれど、でも出てしまった言葉は返らない。嫌みを言いたい訳じゃないのに、どうしてこうも。
ほんのわずかに辛そうな表情は、私のせい。大喜くんは悪くない、ただ後輩に慕われているだけ。私にも後輩は増えたし、なかにはグイグイ来るのもいる。それをあしらうのも、先輩としての勤めだ。
だけど私は、それが何処かで悔しい。付き合っても尚、私は気にしてしまう。蝶野さんのように、大喜くんへと想いを向けるかもしれない
それは決して責めるべきことじゃない、そもそも私だって――後から割り込んだ身だ。あの二人はお似合いだと感じ身を引く気でいた癖に、浅ましくすがり付いた。祝福するべきだと思いながらも、気持ちが整理できないまま時間だけが過ぎて。削られていく残り時間に焦って大喜くんに勝手な気持ちを押し付け、ただ突き進んだ。
その結果として現状があるわけだけど、同じような事をやらかすのがいてもおかしくない。人を気遣える優しい大喜くんは、その時に耐えられるだろうか。絶対に無いとは言えない、そしてこんな事を考えてしまう自分が嫌だ。
ああ、らしくないな。
こんなのは、私がする事じゃないだろうに。
夜の時間を一人過ごしながら、血が出そうな程に拳を握り締める。いつまでも何を恐れているんだ、私は。邪魔をするすべてを蹴り飛ばし、自分の道をただ進んできた女だろう。家族を捨て食客としてまで日本に残り、養家の迷惑省みずバスケに邁進する体たらくだ。
変わらずワガママでいろ、それだけで良い。それがウリだ、それしかできないんだから。
窓の外に煌めく月明かりに突き動かされるように、ゆっくりと立ち上がる。
ほんの数歩の距離を、死刑台に向かうような心持ちで進み、音もなく開けた扉の先。
座り込んで雑誌を片付けている大喜くんの背中へと目掛け、私は――そのまま飛び込んでいた。
「えぁ、あ……のっ!?」
抱き締めたその身体は見た目以上に逞しく、でもそれがいとおしい。
あのクリスマスの夜とはまた違う激しい感情に、いつしか涙が溢れて止まらない。
大喜くんが好き、大喜くんの一番でいたい。誰とも違う、特別な関係になりたい。驚きの声と共に振り返った大喜くんにキスしながら、偽らざる本心は涙よりも熱くそして激しく迸っていく。
会わせあう粘膜もまた燃え上がるように熱を帯び、全身が火の玉のようだ。
「好き。大喜くんが、好き。だから――」
もう二度と、怯えない為に。私の全てを捧げるから、大喜くんの全てが欲しい。
恋人同士ですること、キスよりも先のこと。
取り返しのつかない、そんなことを。
「私は大喜くんと、……したい、です」
震える手を気合いで捩じ伏せて、もう一度私は大喜くんへとキスを降らせていた。返事を聞く暇もないままに。
思い詰めて突貫し、衝動に任せ服を脱ぎ捨てて。
肌をさらしあう段になり、もう後戻りできない状況で。
私は今更ながら、自分の無思慮っぷりを内心で少しだけ後悔していた。
いや、いやいや。いやいやいやいや、思った以上に恥ずかしいぞこれは。相手が大喜くんでなかったら、鼻っ柱に一撃入れて逃げ出している所だ。
それに、それに。…………それに、だ。
――どうしよう、
こんなの、入るんだろうか。指もロクに入れた事無いしタンポンも使ったこと無い、この私に。
大分前に習った知識を総動員してゴムは被せられたけれど、触れた感じは相当に熱く硬い。壊されそうで怖いんだけど、まさか今ここで中断する訳にもいかない。大喜くんも半ば仰向けに倒れたまま不安そうな顔をしているし、どうにか続けないと。
「大丈夫、だから……ね」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、大喜くんを跨ぐ姿勢で私は自らを解していく。溢れる粘液が屹立するオトコノコへと滴り落ち、それを喜ぶようにビクビク震えるのがなんだか不思議だな。
ええい、不思議がっててどうする。ここまで来たんだ、躊躇っても仕方ない。女は度胸、なんとかなるさ。
小さく息を吸い、決意を込めて腰を落としていく。もともと大した距離があるわけもなし、すぐに大喜くんの先端が私にあたってクチュリと音を立てた。
伝わる異物感、でもそれを凌ぐ熱量が心地良い。入り口だけでこれなら、もっと深くまで呑み込んだらどうなるのだろう。
沸き上がる好奇心に導かれ、私はどんどん高度を落としていく。
「……っ」
僅かに疼きを感じたその時にはもう、二人は完全に密着しきっていた。大喜くんの全てが、根本まで私の中に埋まっている――のだと思う。位置の都合で見えはしないけど、私が大喜くんの上へ着地しているというのは、そういう事なのだ。
痛みらしい痛みはなく、ただ甘い熱波だけが私を満たしていく。……最初は痛いって聞くけどそうでもないな、やっぱり処女膜とか都市伝説なんだろうか。まぁ良いか、痛くないならそれで良いや。
さて、ここからどうしよう。お腹の奥では、いつもなら時間をかけてゆっくりと押し寄せてくる快感の潮が急速に満ち始めている。オナニーとは全然違うタイプの、でもこれはこれで嫌いじゃない。このまま動かなくても気持ちいいままでいられるだろうけど、大喜くんはどうなんだろう。
そんなことを考えたのが伝わったのか、瞬間大喜くんの身体が跳ね上がり――。
「っ、ぁ、……ぅん?」
身体の一番深い部分を震わせる、激しい拍動が叩き込まれた。それを合図に、内側から膣壁が押し広げられていく。
もしかしてこれは、あの……射精というものかな。ゴムの被膜があっても尚、それを突き破りそうな程にハッキリと奔流が感じられる。
大喜くんの吐息は全力疾走でもしたかのように荒く、その行為が重大な事なのを教えてくれる。私が大喜くんを、最後まで到達させた。この顔はきっと、私以外他の誰も知ることがない顔だ。
大喜くんは私のもの、もう迷うことはない。
……問題があるとしたら、ひとつだけだ。
「大喜くん、大喜くん。……まだ終わりじゃないよ? 私もね、気持ちよくなりたいなぁ」
誰にも見せたことのない、快感に狂う私の顔も見て欲しい。
私がどれくらい大喜くんを愛しているか、全身で知って欲しい。
だからそう、まだまだ終わるには早すぎる。もっともっと、えっちがしたい。
舌舐めずりをしながら、本能に任せて身体は動き出す。まるでスクワットするように腰を振り、全身全霊で愛を奏で出す。
腰を上げていくとゴリゴリ内側が掻き削られ、下ろせば一気に子宮が押し上げられ、かといって止まればむず痒さで死にそうになってしまいそうだ。なにも考えられなくなり、ただただ上下運動が続いてしまう。
すぐに結合部はブシュブシュと音を立て始め、矢継ぎ早にドクドクと蠢動が押し寄せた。大喜くんの射精もまた、止まらないようだ。
ゴムって何回分くらい収まるんだろう、そう言えば。このまま出させ続けたら、圧力に負けて破れかねないかも。そう危惧はしても、全く止まる気にはなれない。
あと一回、次に射精を感じたらゴムを代えよう。それでまた続き続き、まだまだ夜は長いんだ。
もっともっと、楽しもう。
愛する人との逢瀬語りに夢中になり注意が散漫になっていたらしく、額にゴリッと握り拳が押し当てられて漸く私は話を中断した。
目の前にいる夢佳は明らかに怒っているけど、どうしたんだろう。て言うか痛いぞコラ。
「お前は……。白昼堂々スタバで生々しい事言うんじゃない、なんでこんなとこで下の話なんぞされにゃならんのだ」
ノロケはまだしも猥談なんかすんじゃねぇ殴るぞ、と更に拳がグリグリと抉ってくる。だから痛いって。
確かにまあうん、こんな所でするべきではなかったな。微に入り細に入り、大喜くんとのえっちを詳細に語るとか、確かに何やってんだって話だな。でも私だって真剣なんだぞ、どうして良いか分からなくなってきているんだから。
あの初めての夜から暫く、イニシアチブは私に有った。大喜くんがヘトヘトになったのを察してから、「じゃあ今日はこの辺にしておいてあげるね」と笑って部屋へ戻るのがパターンになってったし。
でもそこから少しすると、大喜くんはヘバりにくくなった。さすがに何度も射精したら息を荒げるけれど、それでもどうにかこうにか「次」をしようとしてくれる。それはまあ良いんだけど、でももうちょっと加減してくれないだろうか。
正直このままだと、こっちが先にガス欠になって倒れそう。
大喜くんがどうしてこうも頑張ってくれているのか、その理由は分かっている。そりゃ気持ちが良いから、に決まっている。あんな大量に「好き」を溢れさせてくれてるんだから。下手をしたらゴム越しでも妊娠しそうだ、それはさすがに
私だってえっちは好きになったし、したいとは思うけど体力差ってあるからなぁ……。
「夢佳の彼氏くんはさ、そういうところってどうなの?」
この性格悪い女に付き合えているんだし尽くす系かも、いやもしかしたら夜は立場が逆転したりとかかな。
そんなことを思いながらの質問はでも、あっさりと撃ち落とされる。
「…そういう話をするなと言ってんだ、聞かれても答えるかバカ」
う。そこでそう来るか、こいつは。
でも本当に、どうしよう。
大喜くんがこの先、私よりずっと
その内性欲を持て余し私一人じゃ満足できなくなって、そして――。
……そう、か。私があの時怖がっていた根本は、これか。
割り込んでくるのがいるだけなら私が蹴っ飛ばせば良い、でも大喜くんの気持ちが変わってしまったら。もっと自分を満足させてくれる、新しい相手を欲したなら。
私はもう、どうにもならない。過ぎた過去として、忘れられていくだけの身になる。
そんなのは死んでも嫌だけど、でもあり得なくはない。
悪い想像ばかりが頭のなかで膨れ上がっていく、その刹那。
ペシリと頬を軽く叩かれ、私はふと我に返った。
「――あのチキンタツタ野郎に言いたいことがあんなら、ちゃんと言ってやんなさい。黙ってたって気持ちは伝わる、なんて無いからね。これ以上は無理だとかそういうのは特に、面と向かって言わないとダメなもんだから」
そういわれて、やっと私は気が付いた。
ああ――、そうだ。
私は一度だって、言っていない。男の子はえっちが好きで単純な生き物、体力が続く限りしたがるって渚たちに聞いていた。だから、そうなんだとずっと思っていたんだ。大喜くんだって、無理をしているかもしれないのに。
男の子は快感が
そこまで無理を強いながら、私は何をしてきただろう。自分に付き合わせるだけ付き合わせて、なのに勝手な理屈で怯えていた。
そうじゃない、それじゃない。
向かい合うべきだったんだ、あの日のように。
遅くはない、いつだって遅くなんか無い。
すぐにでも言いたかったし言うべきだったろう、でも覚悟が決まらないまま何日かが過ぎていく。
告白もそうだけど、私はどうも口が重いんだな。考える頭なんかない癖に、やたらと悩んでしまう。悪い癖だ、それこそどうにかしないと。
あれこれ悩みつつ、それでも昨夜もがっつりとえっちしてしまったんだよね。ちょっと身体が辛いから、大喜くんが攻めになって。
ちょこちょこそうやって向こうから来てもらうようになったけど、これはこれで気持ちいいから好きだな。……あんまり動かなくても格好がつくから、多少は楽だし。
それに必死で腰を振る頑張り屋さんな感じも、やっぱり可愛い。うん、大喜くんが可愛いから悪いんだよ。いやまあ、目の前が暗くなるくらいにヤり倒した私が一番悪いのはわかってますハイ。
そんなこんなで痛む腰を擦りながら朝を迎え、その痛みのなかで覚悟を決めた。
今夜、だ。明日は土曜で練習もない、多少メンタルにダメージが通っても大丈夫。でも帰ったら話があるから、と告げただけで結構疲れたんだよなぁ……。ホントに大丈夫かな私。
これでフラれでもしたら、発狂の一つもしかねない。無いだろうけどさ、うん。
授業も上の空、部活にも今一つ身が入らないまま時間だけは過ぎていく。
放課後に昇降口へと出て、何の気なしに目に入ったのは菖蒲ちゃんの姿。笠原くんと並んで歩くその様は、とても幸せそうだ。
二人が付き合ってるのは今や、公然の秘密というやつになって久しい。本人たちも自分から言わないだけで、敢えて隠してもいないし。恋多き菖蒲ちゃんも、一つ処に落ち着いたわけだ。
傍から見たら私たちも、ああ見えるのかな。二人の間には、そりゃ私が知ることの無いあれこれが色々あるんだろうけれど。
あーいや、それ以前に私たちは公言できない身なんだよね。親同士の事とかあれこれ問題がありすぎる、羨むのはそこをなんとかしてからだ。
その為にも、ちゃんと話し合おう。
節度を持って愛し合い、二人で仲良く歩んでいきたい。これからも隣にいたいし隣にいて欲しい、結婚したいし子供も欲しい。死に水とってあげたいし同じお墓に入りたい。自動的に鹿野家は両親の代で墓仕舞いだけど、そこは御寛恕願おう。今をいきる私たちの方が大事だ、その辺はご先祖様もわかってくれるさ。
その一歩を踏み出そうじゃないか。
大丈夫、私たちなんだから。