太陽はあんなにも大きく、禍々しいものだったろうか。ああも黄色く輝くものだったろうか。
近頃は朝になるたびにそう思ってしまう、自分が不幸だとは感じないけど大変ではあるから。
むしろ幸せすぎて現実味がないかも、なんてひねくれた事を考えてみたりもする。考えてどうなる訳でもないんだけど。
それにそんな時間も無さそうだし。
「あー……っと。おはよう大喜く……ん?」
何故か疑問系で言いながらモゾモゾと起き上がる千夏先輩、その肌には何も纏われてはいない。昨夜と同じ、ネイキッドスタイル。
まあこれも最近は馴れてきた光景だ、というか馴れないと死んでしまう。なにしろこの人、気を抜くと脱いでるからな――って。
「ちょっと千夏先輩千夏先輩、ちゃんと起きましょうってば」
俺へとしなだれかかろうとする肢体を手で制しつつ、俺はベッドの上で僅かに距離を取った。今しがた起きたばかりなのに、どうも千夏先輩はエンジンの掛かり方が異常だ。そしてどんなときでもフルアクセルだし、ギアは一速と幻の七速しかない。いつだって全力だし、いつだって想像の斜め上を駆け抜けていく。
だからこそ、だ。言うことは言わないと。
「ほら千夏先輩、朝練があるから支度しましょうよ」
さすがの千夏先輩もそれを無視することは絶対出来ない、俺は知っている。少しだけ不満げな顔をするけれど、それが本心ではない事も。
何処まで行っても俺たちは夢を裏切れない、努力を止められない。そういう性分に産まれたのだ、そんなもんさ。
「ん。じゃ一旦部屋戻るからさ、……ちゅーしてください」
はにかみながら口づけを交わし、千夏先輩は満足げに部屋を出ていく。その背を見送り一人になってから、俺は天井を見上げてしみじみと思う。
俺、このままだと幸せすぎて死ぬ。絶対そのうち枯れ果てて死ぬ。
どうしよう、どうしたもんか。
千夏先輩と付き合いはじめて、もう半年になる。インターハイも間近に控え、闘志燃える夏が来ようとしている。……んだけど、なあ。
いつの間にやら夜更けにベッドへ押し倒され、搾り取られて気絶するように眠るのが日常になりつつある。
とは言え練習に手を抜く訳にもいかない、それにどういう訳かこの生活は部活にもプラスになっているようだ。体力の都合か身体から余計な力が抜けているらしく、その辺を顧問に誉められたりしているから。俺は何事にも力を入れすぎる悪癖があるけど、それが是正されたのは良いことだ。
んで千夏先輩も千夏先輩で、目に見えてパフォーマンスが向上している。あの人的にも、毎晩のように俺に跨がるのはプラスらしい。うんまあ、良いんだけどさ。良いんだけど、どういう原理なんだろう。
そんな事を
みんな知らないうちに、それぞれの恋愛してるんだな。自分は自分でどうにかするしかない、頑張らないと。
飲み終えたポカリの缶をゴミ箱へと放り、俺は立ち上がった。
「――そういえば」
千夏先輩がインターハイ予選で彩昌に競り勝ったあの日も、こんな綺麗な空だったな。思えばあれ以来、何もかも変わってしまったんだ。
まあ、別に嘆きはしないけどさ。
まだ三回戦、インターハイ出場が確定した訳じゃない。そもそもが出て終わりじゃない、目指す先は全国制覇。
そうは言っても千夏先輩は帰宅後も興奮冷めやらぬ感じで、んふーんふーと鼻息も荒くアクセルが緩まないままでいた。「居候三杯目にはもっと出せ」
でお馴染み千夏先輩だけど、今夜の食べっぷりはまさしくワンパク。そのまま母さん相手に全力で成果報告する様は、まるで小さな子供のようにも見えて可愛いったら無い。
先輩が大きな大会のあとにこうなるのは前にもあったし、ましてや目標でもあった夢佳さんとの最後の試合。これでテンションが天限突破したって、誰が責められようか。
……うん、そうだ。それに付き合って語り明かしたりするのも、俺の役目だとは思っていた。
でもなあ、うん。まさか風呂上がりにベッドに組敷かれるなんて、想像もしてなかったし出来るわけがない。
「良いよね!? 私頑張ったもん、大喜くん好きにして良いよね!?」
目を血走らせて迫ってくる千夏先輩は、それでも美しいから困る。強引に振りほどくのも躊躇われる、あんまり強く拒むとまた変に意識して線を引きかねないし。
でも、だけど。
これはさすがに、不味すぎる。
「いやあの、落ち着きましょう、ね?」
もし母さんたちに気付かれたら、揃って追い出されてしまう。俺の苗字が無くなってしまう。
それにこのまま
何よりもこういう事をしていい年齢じゃない、大人になるまで待つべきだ。
とにかく思い止まらせなければ、そう思った時。俺の頬に、熱い何かが落ちてきたのが分かった。
ハッと見上げたその先にあったのは、息がかかるほどに近づいていた千夏先輩の――泣き顔。
「……どうして、嫌がるの……。私は、大喜くんが好きなのに、なのに……!」
溢れる涙は止まる事を知らず、後から後から落ち続ける。声は嗚咽となり、俺を押さえ付けていた手も力無く滑り降りる。
普段は見せることの無い本心をさらけ出す千夏先輩の姿に、俺は気付かされた。自分がどれほど頑なだったかを。告白だってそうだ、あれこれ理屈を付けて先のばしにしてきた。付き合いはじめてからでさえ、先輩を案じるふりをして
俺だって人並みに欲求はあるのに、隠し続けた。見せてはいけない部分だと心に蓋をして、うわべだけ取り繕って。
もう止めようって誓ったのに。
起きてもない事に怯えるな、もしもそれで先輩に嫌われるなら――それまでの縁だったというだけだ。
俺たちはもっと、心の底をぶつけあうべきなんだ。
泣き崩れそうな千夏先輩を下から掻き抱き、俺はその唇にキスをする。今必要なのは言葉じゃないから。
お互いを貪るようにベッドの上で抱き締めあい、窒息しそうなくらいに熱く口づけを深めていく。
思いはきっと、それで伝わってくれた。
やがて離れた千夏先輩の顔は、もう泣き顔では無い。
弾けるような笑顔になってそのまま、そのまま……俺の上へと落ちてきた。
ぎこちなくも絡み合う手と手、足と足。
紅潮した肌が触れ、焼けるような熱さが伝播していく。
頭の芯が痺れて壊れそう、それでも身体は止まらない。
やがてお互いの指は、
「うわ、あ。あー……そっか、こんな感じなんだね。……スゴいビクンビクンしてるけど、痛かったりしてない?」
「えぁその、は……い」
他人に触られる事なんか有り得ない場所を、大好きな人にまさぐられている。これで興奮せずにいられるわけがない。多分向こうもそうなんだろう、合わさった肉の谷間を探る俺の指に熱い粘液がまとわりついてくる。
濡れる、ってこういうことなのか。
でも指さえ上手く入らない狭さだけど、ここに――果たして入るんだろうか。
少し悩みながらも、それさえ思考の奥へと蕩けてしまう。
ベッドに背中を預けて大きく足を開いた千夏先輩、そこへと俺は自身をあてがいそのまま……。
「ん、あ……れ?」
そのまま入ろうとした筈が、ズルリと滑って上端を掠めるだけで空振りしてしまった。
ならばと角度を調整して再突入を計るも、……しかし。
「あ、……っと」
今度もまた先がめり込みはしたけど、進めないまま抜けてしまう。
えー……なんだこれ、難しいぞ。しかも入ってから腰を振ったりする必要があるらしい、文字通りまだ入り口なんだ。ここで躓いててどうする、て言うかどうすんだよ俺。
――と。
業を煮やしたのか千夏先輩は立ち上がって俺を跨ぎだし、そして。
「この辺か……なっ」
一息でしゃがみこみ、俺の腰へと思いきり着地したのだ。その勢いでにゅるりと俺は千夏先輩の中へ、根本まで全て呑み込まれてしまった。
……なんてことするんだ、この人は。少しでも失敗したら、俺が折れてしまいかねない。怖い怖い、人の愚息をなんだとおもってんだ。
こっちが冷や冷やしてるのを知ってか知らずか、千夏先輩はなんだか不思議そうな顔で俺を見下ろしている。
「んにゃー……、なんか結構深いとこまで来てるなあ……。思ったより串刺し感あるかも」
いやそんな事を言われてもリアクションに困るんですが、もうちょっと恥じらうとかしましょうよ。とか言おうとしたものの、それは叶わなかった。
なにしろ先輩と来たら、スクワットのように腰を動かし始めたのだ。
「んー……、もっとこう……そっち……? いやもっと奥まで……」
どうやら良い位置へと俺を当てたいんだろうけど、その動きで翻弄されるこっちは堪ったもんじゃない。軟らかく熱い肉に押し潰され上下にしごかれ、こんな事をされて堪えられるものか。
それでもどうにか歯を食い縛って抑え込めたのは、ほんの数秒。
意識よりも強い衝動が脊髄を駆け下り、煮えたぎる奔流は尿道を押し広げて出口へと殺到していく。
それはもう、止めようがなかった。
「お? ぉお……なんか出てる? そっか、これが射精かぁ……」
何処か他人事っぽく、でも嬉しそうに千夏先輩がそれを受け入れてくれた。まるで都合の良い夢のなかにいるような、でも身体はこれが現実だと知っている。だって夢のなかなら、こんな意識が飛びそうな脱力感に襲われたりはしないだろうから。
このまま死んでも良いと思えるくらいの多幸感を味わい、俺は目を閉じようとした……のだけれども。
「大喜くん大喜くん、あとどれくらい出来る? 私朝までしたいんだけど、どうでしょうか」
いや、いやいや。いやいやいやいや、それはそれは。
さすがに辛いと言いたいけど、俺がなにか言うよりも早く千夏先輩は再び腰をふりたくる。
これはもう止まらないな、体力が続く限り付き合うしかなさそうだ。
幸せは、重くて気持ちいい。
あんな勢い任せでメチャクチャな夜を過ごしてから、これで一ヶ月くらい。体調もあるから来ない期間もあるにはあるけど、
それはそれとして、まあ今晩も来るんだろう。練習で疲れてる筈だけど、それを押してでも。
愛されるのは光栄だし俺としても歓迎は歓迎、でも先輩はホント大丈夫なのかな。
とかあれこれ思案しながらも夜を迎えると、そんな心配は掻き消えてしまった。て言うかそんな余裕がなくなった。
千夏先輩が『たまには受け身でしたい』とか言い出したから久し振りに上になってみたけれど、やっぱりこれは緊張する。
抱き合うようにキスをしながら、薄く口をあけて俺を待つ肉の裂け目へと俺自身を埋めていく。どうにかこうにか形にはなっているけれど、なんだか落ち着かないのが不思議だ。俺って跨がられる方が性に合うんだろうか、それって男の子としてどうなのかなあ。
しかし千夏先輩の内側は別の生き物の如くうねっては締め上げてくるから、そんな事を考えてもいられない。
襞に促されて射精し、それでも腰を止めず俺は突貫を繰り返す。愛してるの思いを込めて。
そんなこんなで何時間が経っただろう、すっかり出し尽くして倒れ込む俺。それに寄り添う千夏先輩は、どういう風の吹き回しか神妙な顔をしていた。……まあ全裸だけど。お互い。
「大喜くん大喜くん、お願いがあるのですが」
若干嫌な予感はするけどシュールな絵面を前に、俺は内心の笑みを堪えて千夏先輩と向き合う。
この人は俺以上に突撃バカだし底が抜けている。でも絶対にふざけたりはしない、真摯な生き方をしてるのだ。
欲望に対して純粋な人、とも言えるけど。
「あのね、この先の事なんですが。ほら私、もうじき誕生日じゃないですか」
それはもしかして多分、去年みたいに何処かへ行きたいという話だろうか。あれはアクシデントではあったけど、今思えばスゴい体験だったな。付き合ってからの外泊となるとまた趣が違ってくるかも。
そうなると今度はちゃんと予約して民宿に泊まろうか、母さんたちにはどう言い訳しようか。
回りの悪い頭で予定を組もうとしたその時、ようやく思い出した。いつだって千夏先輩は予想外の角度から、訳が分からない事をしでかす人なんだと。
「……結婚しませんか」
フルスイングされた暴力的な程パワフルかつストレートな言葉に、俺の脳は今度こそ停止する。
それは……それは、それは。
どうしよう、どう答えたら良いんだろう。次に口から出る言葉が、きっと俺の人生を決めるだろう。
さあ正念場だ、どうにかしないと。