ああ、暑いな。今年の夏は特に暑い気がする。
中学からずっと夏を部活に捧げ、海もプールも浴衣さえ遠い記憶になって久しい。それが寄りによって高校最後の夏、インターハイを逃してしまうなんて。ウインターカップに向けて予選もあったけど、丁度その時期は足が治りきらずベンチにいるしかなかった。キャプテンであり部長でもあるのに、託すことしか出来ない身が歯痒いばかりだったな。
そして栄明は、……ウインターカップさえ逃してしまった。私がいないせいで、なんて思いたくはなかったけど――それでも結果が全てだ。その責任を取るべく私は早めの引退を果たし、何もかも終わらせた。
だけど、でも。それは何一つ、無駄なんかじゃない。大喜くんがそう言ってくれた、そう教えてくれた。
落ち込むのはもう辞めた、これからは今まで出来なかった事をしよう。
燃える盛夏を、一歩ずつ。インターハイを終えた大喜くんと二人で、夏休みっぽい事をいっぱいするんだ。
「んー……少し違うかな」
私がしたいのは、そうじゃないかも。私は大喜くんと、恋人っぽい事をいっぱいしたい。
とどのつまり最短距離で、最後まで行ってしまおう。どうせ私は変態なんだ、花恋も言っていたし。
大喜くんが帰ってきたら、アクセル全開ギア七速で突き抜けていこう。どうせ私は真っ直ぐしか進めないのだから。
暑い暑い夏は、更にまだまだ暑くなる。二人でこの夏を暑く燃やすんだ、灰も残らないくらいに。
その為に必要なステップは、もう見えている。
インターハイで全国上位となった大喜くん、その瞳はまだ闘志の余韻を湛えていた。天に触れども天を掴めず、未だ本懐は果たせていないから。
「すいません、先輩。先輩の分まで勝つって、約束した……のに……っ」
悔しげに声を詰まらせる大喜くん、その身体を私は強く抱き締めた。あのクリスマスの時よりずっと、熱い想いで。
かけたい言葉は幾つもある、でもそれは意味がない。言葉では伝わらない、伝えられない。
肌の温もり以外、どうやっても私の心は伝わってくれない。
私の腕のなかで大喜くんは真っ赤になって、でも逃げ出そうとはしなかった。
――よし、これならイケる。傷心に漬け込むみたいであんまり世間体は良くないけど、まあ二人だけの話だ問題ない。……と言うか気にする余裕がない、私だって初めての事だ。
意を決して顔を近付け、小さく息を呑み。
「ん、……っ」
そのまま私の唇は、大喜くんの唇へと重なった。僅かにかさつく質感と共に伝わる、熱い粘膜の接触。
キス、した。キスしている、抱き合ったままキスしている。
ハグよりもずっと先、恋人同士でする事の入り口。それをこの瞬間に大喜くんと交わせる事を、心から愛しく思いながら。
一体どれくらいそうしていただろうか、さすがに息苦しさを感じだして漸く私はゆっくりと顔を離していく。名残惜しげにかかる唾液の橋が重力に負けて床へ落ちても、大喜くんは動かない。その瞳から一筋溢れた涙を舐めとり、そして小さく私は呟く。
「大喜くん。私はもっと貴方を知りたいし、私を知ってほしい」
脱力したその手を取り、そっと胸へと押し当てる。心臓の鼓動が、そして私の想いが伝わるように。
張り裂けそうな胸の奥で、大喜くんへの愛だけは確かに生きているから。
大喜くんに触れたい、私に触れてほしい。
大喜くんに全てを捧げたい、大喜くんの全てがほしい。
もう、自分を止められない。
「私はね、大喜くんが思うような子じゃないと思うよ。ずっとこうしたかった、こうしていたい」
熱に浮かされた頭のまま、私はただただ大喜くんへと触れていく。今まで出来なかった分、執拗に。
そして指は大喜くんの下着の中へと滑り込み、その中に息づくオトコノコへと達する。
んー……そうか、こういうのなのか。硬くて熱くて、張り詰めて。これが入るのかー……平気かなー……。いやまあ、なんとかなるなんとかなる。
なんて内心に少しだけ感じた動揺は、下半身から上がってくるぞわつきに上書きされ始めた。大喜くんの指が、
段々とお互いの手は粘液にまみれ、濡れた水音が部屋を満たし出した頃。私は大喜くんを押し倒すように、ベッドへと仰向けに寝かせていった。
天上を向いて
これで一つ、段階を進む。私たちの関係は、更に先へと進むのだ。後悔も迷いも、もはや私には無い。大喜くんにも恐らく無いだろう、有れば逃げるなりなんなりするさ。
上から乗っかる動きなら失敗しづらいしコントロールしやすい、と花恋が言っていた。勢いで出来るから騎乗位が
慎重に的を合わせ腰を落としていくと、先端が押し当たりくちゅりと小さく音が立つ。あと少し、そう思いながらゆるゆると高度を下げようとしたその時。
「ぅ、……ぁっ?」
どういう作用か緊張のせいか、足におかしな方向から力が入ってしまう。
その結果として私の重心はうまくいかなくなり、そのまま――。
「お……っとぉ」
気が付けばズンッと私の身体は何の躊躇いも無く、大喜くんの上へと着地を果たしていた。痛みなんか感じる暇も無く、身体の奥深くにはもう大喜くんがずっぷりと入り込んでいるのが分かる。
薄い皮膜越しでも伝わるのは熱さと拍動、そして内側を押し広げるような圧力。
……押し広げる? その感覚に違和感を抱いた刹那、大喜くんは私の下で目を背ける様にして呟いた。
「あ……の、出ちゃいま……した……」
その言葉を理解するまで、きっかり三秒。流れ的にはつまり、大喜くんはあの僅かな時間で射精したと言うことなのだろう。そうか、あれは精液でコンドームが膨れ上がる感触だったのか。
腰を浮かせて引き抜いたオトコノコ、それに纏わせたコンドームを外すと精液がだっぷりとこぼれ落ちてくる。外側に付いている赤いのは私の血の痕だろうか、一応裂けるか何かはしたんだろう。気が付かなかったけど。
うーんまあ、それはそれで構うまい。情緒はないけど、私らしいから。
「大喜くん大喜くん、もっと出来るよね? 続きしましょうね」
新しいコンドームを掴んで、私は再び大喜くんへと躍りかかる。夜は長いんだ、もっともっとしようじゃないか。
…………………………
……………………
………………
…………
……
目の前がぐるぐると回り、視界が定まらない。腰が痛いし股もヒリヒリする、オーバーワークもいいところだな。
大喜くんもベッドに転がったまま、呻くように小さく呟く。
「殺す気ですか千夏先輩……」
いやそんな気はないけれど、でも確かにやり過ぎてしまったかもしれない。いや「かもしれない」じゃない、やり過ぎた。
あれから一戦二戦では満足できないまま、気が付けばもう夜明けが近い刻限。そんな長時間、私は大喜くんを搾り続けたわけだ。切れ切れの記憶の中にも、待って待ってと哀願する大喜くんの声を無視して腰を振っていたのが焼き付いている。
うんまあ、体力には実際差がある。一対一のバドと激突上等のバスケでは、使う筋力が違うし求められるパフォーマンスも違うだろう。
とは言え大喜くんがここまで疲弊してしまうとは。なんて苦笑いしながら床に散らばる使用済みコンドームを拾い上げると、白濁した精液で溢れかえって見えた。しかもそれがかなりの数あるという事は、それだけの回数出させ続けたわけだ。……こんだけ無茶させたら、そりゃ疲れるか。うん、全面的に私が悪いわ。
「……気持ちは良かったですけど、これからは控えてくれると嬉しいです先輩……」
力無く目を閉じた大喜くん、その頬にキスをおとして私も隣に横たわる。こっちもこっちで限界が近い、幸い明日……いや今日は部活もない。ラジオ体操にいく小学生じゃあるまいし、早起きする事も無いだろう。
ああ、幸せだな。でもこれはゴールじゃない、まだまだ先は続いていく。
次は由紀子さんをどうにかしないと。
「えーとあの、千夏ちゃん。気は確か? 私の腕何本に見えてる?」
ぶんぶんと両腕を回す由紀子さんは、かなり狼狽した様子。まあそうか、そうだろうな。まさか私が「息子さんを私に下さい」とか言ってくるとは思っていないだろうから。
そもそも付き合っている事さえ――。
「そりゃあ二人が一月辺りから付き合ってるのは知ってるけど……」
う。いやあっさりバレてるのか、それも結構早い内から。
まあそうなると話は早い、押して押して押しきれ私。泣いてすがって歯茎を剥いて、それでも認めさせるんだ。由紀子さんを味方に付ければ母さんたちも折れるだろうし、私の今後も安泰安泰。と言うかここで負けると私は明日の寝床さえ保証されなくなるし。まあこのまま大喜くんの首根っこ引っ付かんで出奔するのも手ではあるけど疲れるからやだ、めどい。
「私としてはね、別に構わないっちゃ構わないのよ。個人個人の話だし、親が決めるような時代じゃないし」
では遠慮なく頂いていきます、と速攻で言いたい所をぐっと呑み込む。ここで茶々入れちゃダメだ、落ち着け私。
大喜くんの気持ちは確かめた、身も心も繋がった。あとは大人たちへの働き掛け次第、上手く纏めれば私の――私たちの勝ち。正念場だ、なんとしても決めなければ締まらない。一世一代の大勝負、一切合財賭けてでも勝たなければ。
なんて覚悟して握りしめた拳はでも、あっさりと空回りしてしまった。
「まあね、あんなので良かったら熨斗付けてあげちゃうわよ。春架と前にそんな話もしたしね、どうせどっかで押し倒すだろうからって」
いや、いやいや。いやいやいやいや、軽い軽い話が軽いです由紀子さん。うちの母さんとの間でどんなやり取りがあったか知らないし反対されるよりは良いけど、貴方自分が股を痛めて産んだ子をなんだと思ってんだ。あんなに可愛いのに。
て言うかまさか、まさか。
「あの由紀子さん、もしかしてなんですが」
「深夜に大騒ぎしてた事なら、今さら謝らなくてもいいわよ?」
被り気味で帰ってきた、その言葉にたじろぐ私。
うわ、うわうわ。バッチリ気付かれてたんだな、付き合う付き合わないどころかそっちまで。
まあそうか、朝まで暴れてれば階下に聞こえない訳がない。私の考えが甘すぎたな、うーん。
「別に怒りはしないけど、節度は持ってちょうだい。学生のまま子供作りました、とかなったら流石に叩き出すからね?」
ニッコリと微笑んで言う由紀子さん、でもその目は笑ってない。これは本気だ、下手したら大きなお腹を抱えて蹴りだされる。最後の理性で避妊していて良かった、本当に。
それから、それから。
大喜くんが高校を出たら好きにして良いけど、その場合は揃ってここを出てほしいと言い渡された。これからの選択が二人の将来に大きな影響を与えるとわかった上で、それでも考えが変わらないなら自分達の力で生きていきなさい、と。
由紀子さんはやはり優しい人だ、私たちの事を考えてくれている。安易な気持ちで選んでいい話じゃない、先にあるのは茨の道かもしれないと教えてくれているんだ。
この御時世、10代で結婚してそのまま幸せになるのは難しい。
風も日毎に暖かくなり、本格的な春が訪れた。
窓の外は桜の花弁が舞う四月の午後、私と大喜くんは寝室で見つめあう。
付き合いだして二年と少し、その間いろんな事があった。大喜くんは相変わらず可愛いからモテていて、こないだは女バドの子に『先輩、好きです』されていたっけ。もちろん保留さえせず、ちゃんと断ったけど。『卒業したら結婚するから、誰とも付き合えない』と。
私も私で大学に入ると同時に猪股家を出たし、華のキャンパスライフにはあれこれと
……いやまあとにかく長かった、この一年は。だからこそ待ち遠しかったのだ、また一緒に住める日が。
「これからも先輩後輩なんだよね、私が去年取った一般教養のノートとかいる?」
「助かります、俺だいぶ無理したんで入ってからが不安なんですよ」
ケラケラ笑いながらも、私たちは少しずつにじりよりあっていく。
これからする事なんか、一つしかないのだから。
いつしか声は止み、唇は重なりあい。
楽しい夜が、また始まる。
――と、その前に。
一応置いていたコンドームをスッと床へ落とし、私は大喜くんへと笑みを返す。
これからはもう、これはいらない。そりゃあこの先のリスクは承知している、でもそれで構わないと決めたから。
大喜くんと生涯添い遂げたい、死に水取ってあげたいし同じお墓にも入りたい。そのステップの一つとして、私は大喜くんの子供が欲しい。……いやこう言うと命をなんだと思ってるんだって話だけど、だってだってそうなんだもの。
まあ、良いさ。私たちなんだから、大丈夫だ。
たまには大喜くんから来てほしい、という事で大きく脚を拡げて私はベッドに背を預ける。普段はホント跨がってばかりだから、ちょっと緊張してしまうかも。それに向かってくるのが、何一つ遮るもののない完全ネイキッドな大喜くんだというのもあって、余計にそう思うんだろう。
ゆっくりと掻き分けるように入ってくる感触は、ゴム越しとは全然違う……気がするようなしないような。それよりも感じるのは、大喜くんを見上げるという事への非日常感。なにしろ殆ど私が上になって見下ろしているから、これはこれで新鮮だ。
粘膜の直接接触は大喜くん的にはどうなのだろう、その顔を見ているとなかなか違いを感じていそうだ。荒い息は切れ切れで、でも力強い。
そしてずにゅりとお腹の一番奥が押し上げられ、その衝撃が子宮を貫いた。直に見えはしないけど、それが脳内で鮮明に描写されていく。いつもならジワジワと込み上げてくる快感が急速に跳ね上がり、ぞわりと背筋がざわめくのが分かる。取り返しの付かない事になる、と本能が告げて――だからこそ脳が蕩けそうになってしまう。
今この瞬間にも、身体は大喜くんの子種を受け入れんとしている。それ自体がもう、気持ちよすぎる。いつしか腰はガクガクと震え、腕も下からすがるように大喜くんへと抱き付いて離さない。パチュンパチュンと吹き上がる水音はいつもより激しく、一突きされる毎に視界が白く染まっては立ち返る。
不味いなこれは、少しでも油断したら飛ぶ。必死で繋ぎ止めている意識はしかし、数分と持たず崩れ落ちてしまう。まるで子宮口を狙い撃つように、猛然と精液が膣内に迸ったのだ。
「――、ぁ……っ」
バチリとブレーカーが飛ぶような感覚に頤を跳ねあげ、全身を震わせてそれを受け止める。目の前にまで来ていた大喜くんの顔も、悦びに染まって見えた。
これは、これは……想像以上だ。そりゃ人間70億も増える訳だ、避妊しないというのがこんなにも凄まじい快楽を産み出すんだから。
でもまだまだ、私としてはもっと深く楽しみたい。その気持ちは大喜くんも同じなんだろう、即座に腰が再び動き出した。このまま繋がっていたい、そう願う気持ちもまた伝わってくる。
さて、これからどうなるかな。とりあえず夜までは続けたい、動けなくなるまでは止めたくない。その後は……どうしよう。出来たとして産まれたとして、どうしたものかは大して考えてもいない。
なんにせよこの先はずっと大喜くんと一緒だ、どんな道でも突き進んでいける。
私の、私たちの人生はアオく輝いてる。