「――ぁ」
二人並んで歩く放課後の校舎、ふと大喜が立ち止まる。
その視線の先にいたのは――やっぱり千夏先輩だ。まあ別に咎めやしない、大喜はそういう奴なんだから。
だからこそ、私も私で軽い気持ちでいられるんだし。
それに大喜でなくとも、千夏先輩には思わず目を奪われてしまうだろう。
「千夏先輩ってさ、なんか最近綺麗になったよね」
嫉妬もなにもなく純粋に、口をついてそう言ってしまうくらいにあの人は美人なのだ。バスケを引退して険が取れたと言うか、余計な力が抜けて更に美しくなった。
私も見習うべきなのかな、なんてこっちが思ってるのを知ってか知らずか大喜と来たら。
「何言ってんだよ、千夏先輩は前から綺麗だろ」
……等と世迷い言をほざきやがるから困ってしまう。
いや、そうじゃなくてさ。それはそうだけど、少しは風情を解しろよってのに。
それに、……それに。
「あのさー、
空気を読めない
大喜はずっと千夏先輩が好きだった、でもそれはもう終わってしまった話。それがハッキリしているからこそ、安心していられる。そうでなかったら私は今頃、ずっと同じ屋根の下で二人が過ごしているという事実に押し潰されてしまってた。
じゃれあいながら渡り廊下で見上げるのは、澄みきった秋の空。去年は文化祭の準備でバタバタしていた日々も、今年はゆっくりと流れていく。
ああ、幸せだな。勇気を振り絞って、良かったな。
千夏先輩が試合をしているであろう時間を選んで告白したのは、万が一にも邪魔をさせない為。先輩の気持ちは分からないけど、大喜にとって先輩が特別な人なのは確かだ。
それが分かっていても尚、私は止まれなくなっていた。全国三位に甘んじたのは大喜のせい、心血を注ぎ続けた新体操にさえ集中出来ないくらいに私の心は乱れきっていた。大喜を思えば身体は火照り、冷静さは悉く失われる。勝つために大喜を諦めるなんて選択は、既に消えていて。
告白を決めたあの夜も、燃えるような灼熱感で一睡も出来なかったのを覚えている。抱き枕にすがりつき、浅ましく身体をくねらせる私がいたのだ。
大喜に触れたい、触れてほしい。三年前の夏に花火の前で感じた純粋な恋心は、どんどん生臭く歪になっていく。そしてそれが、狂いそうな程気持ちいい。早く眠らなければという思いも澱んでいき、気が付けば腰を擦り付ける音は水気を帯びていく。
そうだ、休まなければいけない。
ショーツの中へと指を這わせ、ドロドロになった肉の裂け目を指の腹で前後に擦りながら少しずつ押し込んでいく。ほとびた肉を掻き分け、快感を求めて更なる奥を目指して掘り進む。
息も荒くベッドの中に身を深く沈め、歯を食い縛って喘ぎをこらえながらオナニーに耽る姿は、誰にも見せられやしない。いやまあもし誰かに見られてたら首吊るけどさ、うん。
そうやって気絶するように意識を失った翌朝、インターハイの疲労も手伝ってフラフラなまま私は、……大喜に告白をした。
大喜が優しくて人を傷付ける事が出来ないとわかった上で、私を嫌いならそう言ってと迫ったのだ。好きか嫌いか、はっきり答えを知りたいと。
狼狽する大喜から半ば強引に引き出した「好き」の一言を言質に、私はそのまま突っ走った。嫌いじゃないならそれで良い、フラれてないならそこから食い下がって勝つ。どうすれば良いかなんて、決まっている。
ああ、全く。私と来たら本当に手段を選ばない女だ、よくもまあ――千夏先輩に鞘当てなんかしたものだ。
「私大喜に告白したんです。好きって、言ってくれました」
都合の良い部分だけ切り取った不格好な勝利宣言を、千夏先輩はどう聞いたんだろう。
なんにせよ少しだけ動揺の色が瞳に映ったのを、私は見なかったふりをしたのだけれど。
それからは文化祭の劇でキスしかけた事を上手く使って私たちの関係を
菖蒲が余計な気遣いをしてくれやがったお陰で二人きりになった私達は、とうとう……結ばれたのでした。
お互いそういうのと縁が無かったからあれこれと大変だったし、そもそも秋合宿の最中だったんだよね。そりゃあもう後始末やら何やら、忙しい初体験でしたわ。そんなのを経てもう一年近く、今ではもうすっかり慣れて学校でさえ盛ってしまっている始末だ。
つい今しがたも、体育館の裏で致してきたのだし。
「見付かったらどうする気なんだよ……」
呆れたように顔を逸らす大喜、その頬にキスしながら物陰へと座らせていく。口はともかく身体は何一つ抵抗しない辺り、コイツもコイツで嫌がってはいない筈。大喜の服の中に感じる熱い塊は、それを物語るように硬く反り返っているし。
指先でゆっくりと
我慢ももう限界だ、大喜と向かい合ったまま私は腰を沈めていく。対面座位とか言ったかな、このやり方は。
最初のうちは発情した顔を見られたくなかったけど、今はこうやって目と目を合わせてするのが好きだ。大喜の先端が当たって僅かに視界が揺れる、私の中に呑み込まれていき大喜の顔が蕩ける、完全に繋がりきって同時に喘ぎが上がる。そのすべてを見せたいし見ておきたい、だって私たちは愛し合っているのだから。
「うはぁー……。やっぱ好きだわ、これぇ……」
内側から押し広げられ内臓が圧迫される、それが堪らない。きっと大喜以外の誰が相手でも、こうはなれない。大喜もたぶんそうなんだろう、……いやどうかな。
ま、良いけどさ。スクワットするように腰を振っていると、細かいことなんかどうでも良くなってしまう。
ゴリゴリと内壁を笠が掻き崩し、奥を突き上げ、大喜は精一杯私を気持ちよくしてくれる。それに報いようと意識を集中して、お腹の中にいる大喜を締め付け押し潰していく私。
それがどれくらい続いたか、でも不意に終わりの瞬間は訪れた。
「ぅ……、出……っ」
呻くような声に合わせガクガクと大喜の腰が震え、凄まじい迸りに膣内が焼かれていく。拡がる熱波は下半身から脊柱を通って脳まで駆け上がり、私もまた絶頂感にくぐもった嬌声を漏らしかけてしまう。
学校なんだから、と最後の理性でそれだけは堪えるも快感は収まろうとしてくれない。
仕方ないじゃないか、襞の一筋にまで精液が染み込んでいくのは例えようもなく気持ちいいのだから。
押し寄せる濁流を子宮口に感じながら、ただ快感に酔うばかり。長い長い射精を終えた大喜がキスをしてくれるまで、私はその余韻を味わっていた。
やー……良かったなぁ今日も。バレないようにするのもスリルあるし。
疲れはするけど気持ちいい、これは止められないね。部活もあるし体力は有限なんだけど、それでもまあ仕方がない。人間どうしたって、これには勝てないさ。
しかし千夏先輩、相変わらず色恋沙汰の気配はまるで無いのがなんか気になる。まあ大喜が
菖蒲のお姉さんが千夏先輩の親友らしいし、その流れで御相手をでっち上げた方がいいかな。理想を言えば他所に行ってくれると万々歳なのにな、とは言えそれは難しいか。あの人にだって人生設計はあるんだし。
まあどうせ次の春には卒業して引っ越していく、そしたら懸念事項が一つ片付くわけだ。そうなったら先輩の部屋が空くし、いっそ私が押し掛け女房しても良いな。
それくらい近い距離なら、今よりずっと濃密に――。
「……っと」
お腹の下がきゅっと締まる感触、それが連れてきた快感に私の足は止まってしまう。
ついさっきあんなにしたのに、ちょっと妄想しただけでこれか。ああ、すっかり色気付いてしまったな私も。小学生の頃から彼氏を切らしたこと無い、それどころか常時蛸足配線の菖蒲を笑えない。あそこまでえっちではないと思いたいけど、なぁ……うん。
まあそれはそれとして、だ。
「ね、大喜。……まだ帰るには早いし、
人も通わない体育用具室、そこに大喜を組伏せて下を脱がせていく。さすがに恥ずかしいのか足に力を入れて抵抗しようとはするけれど、でもそんなのはただ形だけ。するりと脱がせて股を開かせてあげると、大喜のオトコノコは期待しているように天井を向いて――……あれ?
「なによー、元気ないじゃんよー」
「ついさっき出したのに、そんな急に立たないっての……」
弱々しく言う声と同じく、中途半端な角度のままになっているそれへ、私はそっと口付けた。
舌や口で愛撫する、というのはこの間菖蒲に教わったやり方だ。聞いたときはなんだか変態っぽいと思ったけど、大喜が喜んでくれるし納得して受け入れた。それに、それに。溢れてくる大喜の味を舌の上で味わうのもなかなか乙なモノで、今ではすっかり馴れている。口の中で膨れ上がってくのは面白いし、射精の瞬間を喉で感じるのも楽しい。
――と。
「雛、さ……。俺が千夏先輩にフラれたの、もしかしてとっくに知って……た?」
切なげな吐息に混ざって放たれた真剣な声、それに気圧されるようにして私の口は離れてしまう。
知ってるさ。そんなの、知ってるに決まってる。そうなるように、私が仕向けたから。
秋に身体は結ばれて、でもまだ不安で仕方なくて。ウインターカップ直後の千夏先輩を捕まえて、「協力」を頼んだのだ。先輩は一瞬
大喜はなにも言わなかったけど、でも目に見えて私への態度は変わっていった。正式に付き合いだしたのも、その後だ。もし千夏先輩が手を貸してくれなかったら、かなり拗れた事になっていたんだろうな。
大喜の気持ちを踏みにじってしまった、でも仕方なかったんだ。そうでもしないと、大喜は私を見なかったから。
「……そんなの、どうでも良いじゃない。お陰で今、こんなに可愛いカノジョが出来たんだからさ。それとも私の事、嫌い?」
全く卑怯だな私と来たら、大喜を何だと思ってるんだろう。
こう言われたらもう、強くなんか出られないと知っているのに。
大喜は一瞬躊躇うように目を伏せたけれど、でもすぐ『自分で言うかそういうの、てか可愛いってガラかよ』とかおどけるように呟いた。なんだとこんにゃろう、そんな事を言うヤツには――
もう一度顔を下ろして大喜の先端を舌先でなぶりつつ、幹を激しく上下に擦りまくる。これやると大喜はいつも一分だって持たない、いつだって盛大にブチまけてしまうのだ。
「ぅ、あ……ぉおぁ……っ」
呻き声と共に噴き上がる精液の奔流、快感に翻弄され痙攣する身体。そして蕩けきったその顔も、私以外誰も知ることがない。
大喜は私のもの、私だけのもの。
放精が終わってもまだ余韻に浸ってるのか動かない大喜、その身体を引き起こして抱き締める。強く、強く。
「別に、千夏先輩から聞いたとかそういうじゃないよ。……なんか様子が変わったから気がついてた、ってだけ」
おためごかしも良いところだ、なんて自己嫌悪に陥りながらも私はそれを顔には出さない。お砂糖とスパイスに素敵なもの一杯、最後に毒を一滴垂らして女の子は作られる。だから私達は嘘が上手なのだ、少なくとも男子よりはずっと。
そうやって紡がれる甘い毒は、心なんか簡単に溶かしてしまう。
「まあ、……もう半年以上前だしな。もう良いや、謝るような事じゃないしさ」
ほら、この通り。大喜はもう、私を疑わない。でもだけど、もう一押ししておこう。そもそも私が限界だし、ね。
後ろに手をついて脚を拡げ、大喜に向けて私は下半身をさらけ出す。
「じゃさ、早く早く」
腰をゆすって粘液を垂れ流す、卑猥な姿。思えば浅ましいにも程があるけど、こればかりは仕方がない。だって私、女の子ですもの。
そして大喜はこの状況であれこれ考えられるタイプじゃない、そこまでストイックではない。拗れそうになったら勢いでしてしまう、そうすれば全部うやむやにしてしまえる。
そんなもんだ、私達は。
「……言っとくけど俺、これでもう打ち止めだからな。まだ足りない、とか言うなよ」
すっかりさっきの話は何処かへ置き捨て、大喜は私の脚の間へと自分自身を向けてくる。程無くくちゅりと粘膜が音をたててそして――、一気に私の中が割り拡げられた。
姿勢が変わったせいか入りかたはさっきより浅いけれど、お腹側の気持ち良い場所がゴリゴリ擦られていくのが分かる。それに膣内に残っていた精液の残滓も息を吹き返したかのように蠢き、ねばつく抽送音を更に加速させていく。
なにもかも融け合う、ただ快楽だけの瞬間。これがこの先もずっと続いたら、どれほど幸福だろう。そうなって欲しい、そうあって欲しい。
いつしか抑えていた筈の声は互いにどんどん高まり、
5 ひくつく粘膜の奥、疼く子宮が降り始める。
4 必死の顔で私を突き上げる大喜、その動きが加速する。
3 バチバチと瞼の裏に稲妻が瞬き、視界が歪んでいく。
2 大喜のオトコノコは硬度と熱量を更に増し、私を抉っていく。
1 背骨の中を快感が駆け抜け、身体の全てが快感を貪る為だけに燃え上がる。
そして――ゼロを数えた瞬間、私の一番奥に達した状態で大喜が一際大きく震えるのを感じ、私は頤を跳ね上げ絶頂の叫びを放っていた。
子宮どころか脳まで溢れる程大量の精液に充たされ、ぷつんと意識が落ちたその刹那。口にしたのは、大喜への確かな愛。
ああ、幸せだな――。
あの短時間で三回はちょっと頑張らせ過ぎたかな、その辺は反省しないとな。
大分疲労困憊した感じでヨタヨタと帰路に付いた大喜、その背中を見送って私は一つ息を吐く。
目を醒まして二人で後始末をしつつ摘まんだ雑談、それが胸に引っ掛かってしまったから。
今でも千夏先輩を好きなの、なんて不躾な事を訊ねる私に大喜は笑って答えた。『だったら雛とこんなことしない』、と。微妙に話を逸らしている気もしたけど、まあ気のせいだろう。大喜はバカで不器用だ、そんな事は出来やしない。
でも出来れば言って欲しかったな、もう好きじゃないって。そうすれば私はもう悩まなくて良いのに。
私は、か。そればかりだな、大喜の気持ちも千夏先輩の気持ちも考えやしない。こんな酷い女に、誰かを好きになる資格なんか無いかもしれない。でも、それでも気持ちは止まらない。どんな手を使おうとも、勝ちたいと願う。
それは罪なのだろうか、いや違う筈だ。
繋いだ想いは決して離さない、永遠の絆。貴方と巡り会えた事を誇りに思う、大切な人。
この絆を守る為なら、手を汚すこともいとわない。
いつかすべてを知られたとしても、大喜を離す訳にはいかないから。
さあ、頑張ろう。嘘も搦め手も使い果たして、一切合財費やしてでも私は勝ち続けるんだ。
もう秋の星が輝く空の下、私は歩き出す。この先が、幸福に繋がると信じて。