闇落ちした話とかもありますけどね。
友達のままでいられたら、どんなに良かっただろう。今の心地いい距離でいられたなら、それが幸福だった。
でも私は知っている、そんなのは有り得ないのだと。
私たちが子供でいられる時間はもう残り少ない、願っても祈っても月日は止められない。
心も身体も大人になる、そうなればこんな曖昧な関係ではいられない。「特別な一人」になれなければ、思い出の果てに消えてしまう。
だから、だから――。
「好き」
あの夏の午後、私は大喜にそう告げた。告げてしまった。大喜には好きな人がいて、私なんか見てくれないと知った上で。大喜に選ばれる資格なんか無い、と分かっていながら。
私は浅ましくて弱くて、卑怯だ。大喜が
それでも私は、大喜が好きなんだ。
文化祭が近付き、秋の風が寒さを運んでくるようになった今。私は大喜の部屋で芝居の台本を読んでいる。大喜も大喜で、予算だなんだとあれこれさせられているからノートとにらめっこ。バカの癖に頭使わされて、あれも大変だろう。
学校にいるとお互いパシられるし、どうせ部活も落ち着いたからって理由で最近はこうやってお互いの部屋で過ごす事が増えてきた。
私たちはまるで、仲の良い友人同士のような関係を保てている。一応、今は。
ここから踏み込みたい、でも
目が滑って台本の文字が上手く読めなくなってきた、そろそろ何か喋らないと間が持たない。
そう思った、まさにその時。狙い済ましたように、ドアがノックされ明るい声が飛んでくる。
「二人とも、お疲れさま。お茶とお菓子どうぞー」
喫茶店で出すやつだけど試食お願いね、と可愛い仕草で千夏先輩がお盆を持って入ってきたのを合図にしたように、私たちは揃って息を吐く。……なんでこうも変なときだけシンクロするんだろう、私たちは。
千夏先輩は私が告白したことを知っているし、応援してくれている。ただ根が賑やかしなのか単にゴシップ好きなのか知らないけど、しょっちゅうからかいに来るのがちょっとだけ困るかな。
……と言うか同居中断してるのに、どういう訳か嗅ぎ付けては遠慮なくちょっかい出しに来る。お陰で殆ど三人で過ごしているようなものだ。せっかく今日は由紀子おばさんたちもいないのに、なんだかなぁ。
――なんて思っていると、先輩の胸ポケットでスマホが軽快に鳴り出した。これは……『21世紀の精神異常者』? なんでそんなのを設定したんだろうこの人。よりによってキングクリムゾンだなんて、そう言えば前にピンク・フロイドも聞いてたな、ホントに高校生なんだろうか。
「あ。あー……忘れてた。ごめん、行かないと」
何があったかは知らないけど、足早に部屋を去る千夏先輩。なんなんだこの人は……。
そのままパタパタと猪股家を出ていく背中を窓から見送って、そして顔を見合わせる私たち。
「……弱ったねぇ」
「あの人はなぁ……」
色々と微妙な距離感だというのに、こんな御膳立てされたみたいな状況に置かれて。しかもそれをやらかしたのは、事態を引っ掻き回している千夏先輩自身。全くあの人は、どうなっているのやら。こういう思わせ振りな事ばかりして、なのに本心は何も見せやしない。困った人だ、本当に。
とは言え、二人きり。私たちは、二人きり。そう思うと、不意に恥ずかしさが帰ってくる。
言いたいことはある、
言うならば、今しかない。
「大喜……こないだの、撤回させて」
拳を固く握り、真正面から見据える。大好きな人に、向かい合う。
「返事しなくて良いとか、先輩を好きなままで良いとか、全部嘘なの。私を好きって言って欲しい、先輩より私を好きになって欲しい。私は大喜が、好きだから!」
身勝手で幼稚で、恥知らず。大喜の都合なんか考えもしない、一方的な押し付け。
でも、それでいい。私の本当の気持ちを、知って欲しい。その結果が、どうなっても構わない。
目の前は涙で歪み、心臓がはち切れそうな程に早鐘を打ち続ける。膝もガクガクと震え、今にも崩れ落ちそう。それを力尽くで押さえ込み、尚も立ち続ける。
今ここで壊れるなら、こんな身体はいらない。大喜が返事をくれるまで持てば、そこで死んでも良い。――どうせ死ぬなら、大喜の心に殺されたい。
そう覚悟を決めた私を大喜は、大喜は。
「――ありがとう、雛」
涙を浮かべ、抱き締めた。それは強く熱く、そして優しい抱擁。まるで恋人に向けるような、その仕草は。私の心を決壊させるのに、十分すぎる。
せめて格好くらいつけたいのに、溢れる涙が止まらない。口からは言葉にならない嗚咽だけが垂れ流され、力を失った身体は大喜に支えられなければ倒れてしまいそう。
「そんなにも、俺を好きになってくれて。俺を大切に思ってくれて、本当に嬉しい」
私はきっと、生きている限り忘れない。不器用に言葉を選んだその声を、抱き締められた温もりを。
その先に、何があろうとも。
大喜は千夏先輩が好き、それは知っている。大喜自身がそう言っていた事だ。
だから私を受け入れたりはしない、筈だった。
「……私に気を遣って、とかだったら殴るからね」
大喜の腕の中で、照れ隠し半分に毒づいてみる。それは絶対にあってほしくない、でも一番有り得る話だから。
もしそうなら、それこそ死にたい。千夏先輩を好きなまま、形だけ私を好きなフリをさせるなんて。
でもそんな私に、大喜は笑って話始める。
「そうじゃない。ずっと考えてたんだよ、「好き」って意味を。千夏先輩と雛と、どっちを選ぶとかじゃないんだ」
少しだけ力が強まり、顔の距離も近付く。この近さなら、嘘もなにも無い。こんなに近付いて嘘が吐けるほど、大喜は頭が良くはないから。
「千夏先輩は、好きだ。でも雛に告白されて分かったんだ、これは――恋じゃないって。尊敬して、憧れて、そういう存在なんだって」
それは私が求めていて、でも決して辿り着かない筈の結論。
もしかして私は、夢でも見ているんだろうか。頬をつねって確かめたいくらいだけど、そんな事が出来ないくらいに私たちは密着している。
「俺は雛を、――そういう風に好きなんだ」
そう言った大喜の唇が、私の震える唇と重なっていく。
私たちは、私たちは。
熱く優しい、はじめてのキスを交わしあった。
ファーストキスがレモン味だとか、そんなのを信じる程子供じゃない。私だって高校生だ、周りにはキスどころかもっと先まで経験済みの友達もいる。だから夢なんか見ない、見られない。
そう思っていたけれど。
息と一緒に入ってくる、大喜の熱は甘く激しい。胸の中がいっぱいになって、身体中が熱くなってしまう。特にお腹の下が、焼けるよう。
キスは、美味しい。大喜は、美味しい。
大喜がどう思っているかは、分からないけど。
「? ――!?」
いや、そうでもないか。
重なりあう身体の、下の方から。
「あの、大喜。えーと、その。…………当たってるんだけど。なんか、なんていうか……硬いのが」
堅いと言うか逞しいと言うか、そういう何かが私に当たっているのがハッキリ分かってしまう。
これがなんなのか、私は知っている。一応言葉としては。
でも、だ。こんな雰囲気でそういう生々しい事になられると、その、ちょっと困るかも。
「ぇあ、……っ、……ゴメン。でも、俺もその……男だからさ……」
真っ赤になって恥じる大喜は可愛いけど、折角のムードが台無しだ。
……まあ、そんなもんか。だって私たちだ、キレイになんかいくもんか。
人の決めたルールなんか、知ったことじゃない。したいことして、バカやって、それでこその私たちなんだ。
「良いよ、大喜。――しようよ」
どういう感じにすれば良いのかなんて、さっぱり分からない。だけど触れたい、触れて欲しい。そんな思いで、お互いに肌を合わせあう。
少しずつ少しずつ、服が身体から滑り落ちて。身体の芯は熔けそうなくらいに熱くなり、何処までも高まっていく。
「んー……」
大喜の指は腰を滑り降り、その下へと向かっている。私の熱の、中心へ。
自分でも触るのが少し怖い、身体の中で一番穢い場所。そこに大好きな人の指が、遠慮がちに小さく触れたその瞬間。
全身に、痺れが走った。
「ぁ……うぁっ」
触れられた、ただそれだけ。それだけなのに、気持ちいい。
まるで中を確かめるようにおっかなびっくり動く指が、果てしない快感を連れてくる。
これは、これは――
「ちょっ大喜、一旦止め……っ」
このままだと、私が持たない。そう思ったのが更に不味かった、大喜の指が一瞬ビクンと硬直し、そして。
「あ"、う"ぁ……あぁ!!?」
敏感な粘膜を思いっきり擦りながら、中へと入ってきたのだ。普段は絶対弄らない、奥まった所まで。
瞬間、目の前に盛大に火花が散った。
頭の奥から何かが叩き落とされ、弾けるような電熱が爪先まで駆け抜ける。
甘い衝動の後にゆっくりとやって来るのは、ふわふわとした脱力感。
……ほんの僅か、指先を受け入れただけ。それだけで、私は達してしまった。こんなにも早く、激しく。
大好きな人と繋がるというのは、こんなにも気持ちが良いのか。少しだけ怖いけれど、でも。もっと先へと、進みたくなってしまう。
「え、雛さんっ、大丈……夫? ですか?」
いきなり私がへなへなと崩れ落ちて驚いたのか、オロオロしている大喜。それでも、私は大喜を離さない。
もっと知りたい、もっともっと。
そう思いながら、私も大喜の腰の下へ手を伸ばして――軽く退いた。
いや、なんだこれ。このなんていうか、なんていうか……硬くて熱いのは。さっきその存在に気付いた時に、一応イメージはしたけれど。でも話に聞いていたよりずっと、
人間の一部には見えない、ビクビクと震える肉色の槍。お世辞にも可愛いとは思えないし、なんなら怖い。こんなのが、入るんだろうか。……ちょっと勢いに乗って先走ったかな。
でも、だ。私が指で触れる毎に大喜が気持ち良さそうな声を漏らすのは、結構面白いかもしれない。
人差し指一本から中指も添えて触れていき、そこから気が付けば私は大喜のオトコノコを握り締めて上下に手を動かしていた。なんだったかでこういう
「ぁっ、……雛、止まっ……てっ」
小さく訴える声を、私は軽く無視してやる。私だってそう言ったのに止めなかったんだから、お返しだ。
そこから僅かな合間を経て大喜の身体がガクンと揺れ動き、握っている手が激しい脈動を感じた。
「……っ」
驚いて手を離してしまった瞬間、大喜のオトコノコから白い噴水が吹き上がった。それがなんなのか、保健体育の知識が脳内にフラッシュバックする。
射精、だ。大喜が私の手で、絶頂に達したんだ。手を汚す精液は生臭く、正直不快である。でもそれ以上に、大喜に快感を与えたことが誇らしい。でもこれで終わりじゃない、ここからもっと気持ちよくしてあげるんだ。大喜もそうしてくれる、と分かっているから。
ベッドに仰向けになって、膝を抱えるように脚を拡げる。オムツを代えてもらう赤ちゃんみたいに。正面にいる大喜からは、何もかも丸見えになっている筈だ。顔から火が出るくらい恥ずかしいけど、それがどういうわけか気持ちいい。
大喜のオトコノコは天井を見ているのかと思うほど反り返り、てらてらと粘液を垂れ流す。私と同じように。
これから、セックスするんだ。大喜と一つになるんだ。胸が高鳴りすぎて破裂しそうになるのをどうにか食い止め、その瞬間を待つ私。そして大喜が、私に覆い被さって――。
「んー……、っ!?」
ゴリ、と肉を抉る感触が伝わってきた。オトコノコは指よりずっと太いんだから、多少は痛いんだろうなと想像はしていたけれど。内臓を掻き分けられるような、感じたことの無いタイプの痛みがやって来る。
悲鳴をあげたい、やめろと殴りたい。でもそうしないのは、大喜も耐えているのが分かるから。あっちもあっちで、潰されているようなものだろう。顔を真っ赤にして目を固く閉じ、ゆっくりゆっくりと探るようにしか進んでこないから。もっとロマンティックな行為だと思ってたんだけどなぁ、恋人同士がするんだから。
閉じている箇所が少しずつ抉じ開けられる奇妙な違和感、そして突き進んでくる圧迫感。これはなかなか、厳しいかも。
それでもなんとか耐える事、……どれくらいだろう。数分か、もっと長いのか。大喜の腰が、私に隙間なく密着した。お腹の一番奥が突き上げられ、オトコノコの存在を先端から根本まですべて感じ取れる。
「あ、……入って、る……。全部、私の……なか……」
痛みより不快感より、強く激しい感情が沸き上がる。愛しい、という事。こうして全てを受け入れ、繋がった事に悦びが沸騰してしまう。
お互い抱き締めあい、全力でキスしあったその時。
お腹の中で、拍動が瞬いた。
何が起こっているかはすぐわかったし、それがどういう結果を呼ぶことになるかも見当はつく。大喜の精液が私の中を駆け上がり、奥の奥まで満たそうとしているんだ。でもそれより、キスの方がずっと大事。大喜もそう思っているんだろう、少しも顔を離そうとはしない。
ドクドクと私の中で渦を巻く奔流を感じつつ、私たちは繋がったまま動かない。ずっとこうしていたい、とバカな事を考えてしまうくらいに。
「あー……そこ、もっとぉ……」
自分の口から出ているとは思えない甘ったるい声で、私は大喜におねだりをしている。もっと動いて、と。
何度目かの射精を受け止め終えた頃には、痛みもすっかり消え失せて。大喜が身体を動かす度にオトコノコが私の中をゴリゴリと引っ掻くのが、気持ちよすぎて仕方がなくなっている。
大喜も大喜で、どんどん大胆に腰を振るようになっていった。その方が気持ちいいんだろう、すっかり蕩けた顔をしている。まったく可愛いったら無い、やっぱり好きだ。大好きだ。
「雛、また……出る……っ」
言い終えるより先にオトコノコはまた射精を始め、私の中はまた新しい精液で洗われてしまう。すっかりお腹の中はいっぱい、
大喜を抱き締めて満足感に浸っていた私は、ふとベッドサイドに置かれていた時計に目を引かれた。
――あ"。
いつの間にやら、刻限はもう夕方近い。このまま由紀子おばさん達が帰ってきてしまうと、非常に不味い。だって二人とも、ドロッドロなんだから。早くシャワーでも浴びて、とにかく急いで帰り支度しないと。
「ね、大喜。そろそろ……」
「あ、うん。ごめん……夢中になりすぎた」
大喜が身体を起こすとオトコノコがズルリと引き抜かれ、私の中から二人のカクテルがゴボゴボ溢れていく。どんだけ出したんだか、まったく。て言うか閉じなくなりそうなんだけど、どうしてくれるのよ。
まあ、良いか。
「あと歩くのちょっとキツいからさ、家までおんぶしてね」
「勘弁してくれよ……」
なんだとこの雛さまが重いってか、とペシペシ顔を叩いてやると大喜も笑って応戦してくれた。ああ、良いな。こうやってバカをしあえる相手に、巡り会えたって事は。
さてお風呂を借りて今日はこの辺にしよう、明日も明後日も私たちにはあるんだから。
しみじみそう思いながらバスルームへ向かおうとした、まさにその時だった。
「お疲れさま、お風呂沸かしといたよ」
――場違いなくらい元気一杯な千夏先輩に微笑まれ、私たちは揃って驚愕に固まってしまった。
「まあ、二人はお似合いだってずっと思ってたからさ。後輩二人が幸せそうにしてるのは、先輩としても気分良いし」
「は……あ」
笑顔の千夏先輩に背負われて、家路に着く私。蝶野さんは私が送ってくから大喜くんは寝てなさい、と突然お風呂上がりに千夏先輩が言い出したのだ。その理由はどうにも分からないけど、少なくとも悪気はなさそう。大喜がバテてたのも事実だし、送ってくれるならそれに越したことはない。
とは言え私は千夏先輩が応援してくれるようになって尚、ライバルだと思っていたんだけど。この人底無しに好い人なのか、それとも底無しのバカなのか。まあ、後者だろうな。あの後さっさか引き返してきて、ずっと見守ってたと言うんだから。
「で蝶野さん、大喜くんはどうだった? スゴい声で喘いでたし、聞くまでもないかな」
……少しは恥じらってください千夏先輩、ガサツとかいうレベルじゃないです。もう羞恥心とかないんじゃないかこの人。
天下の往来でする話題じゃないし、できればあまり言いたくない。
「今度私も借りようかなー、なんてね」
洒落にならない事を言う千夏先輩の背中で、私は小さく息を吐く。言うべき事を言う、その為に。
「ダメです、大喜は私のですから。千夏先輩には、渡しません」
最初から、こう言っていれば良かったんだ。好きだと気付いた時、宣言してしまうべきだった。
大喜の気持ちが大事だから、千夏先輩にも立場があるから、そう勝手に思い込んで気持ちに蓋をして。散々拗れさせて、手を焼かせてしまった。
考えるのは、ひとつで良い。大好きな人を、大好きだと言うだけで良い。私に足りなかったのは、それだから。好きで居続ければきっと気持ちを汲んでくれる、なんて甘えも良いところだ。大喜も千夏先輩も、そして私もバカなんだから。バカは黙って突っ込むだけで良いんだ、無い頭なんか使わずに。
「そっか。……そうだね。二人がずっと幸せでいられるように、私もお手伝いするよ」
私を背負ったまま軽やかに歩く千夏先輩の声は、本当に楽しそう。
この人は、やっぱり分からないな。結局私と千夏先輩は、同じルールでは生きていないんだろう。
でも、それで良い。きっと私たちはこのまま、三人仲良くやっていけるだろうから。
秋の陽はもう落ちかけて、夕焼けに照らされながら。
私はライバルだと思っていた人の背中で、幸せな気持ちに浸りながら目を閉じた。
「どうせなら私、大喜くんと蝶野さんの子供を狙おうかな」
「……いつまで独り身でいる気ですか千夏先輩」
「あ、二人の子供に「私が本当のママだよ」って言うのも良いな」
「言っときますけど、それ実行したら本気で殴りますからね!」