精神的にブン回される日々でして、ご寛恕あれ。
千夏の章
「過ぎ行く夏を三人で」
夏の終わりを感じる八月末とはいえ、煌めく陽射しはまだまだ強い。
その中を並んで歩く私たちは、どんな風に映るのだろうか。初めて訪れたのが去年の今日、アレ以来来てなかったから丸一年ぶりだ。思えば結構経ったけど、この景色は変わっていないように見える。でも私たちはそうじゃない、あの頃とは良くも悪くも変わっただろう。自覚の有無も含めて、あれこれと。
私にとっては、全てが理想通りではないかもしれない。だけど、それでも。起きた事を受け入れて、真っ直ぐに歩んできたから「今」がある。
この先に起こる事柄も、私は否定せず受け止めて行こう。
――と。そんな風に浸っていたせいか、気付かない内に足が止まっていたらしい。
同行者に軽くわき腹をつつかれて、私はふと我に帰る。
「っと、ごめんごめん。もうじきあの民宿だよ、あとちょっとだから」
今日はあの日と同じように、あそこへ泊まる予定だ。とは言えあの時は偶然に偶然が重なったアクシデントの産物だったから、こうやって目指して行くのは初めて。民宿の予約っていうのも初めてしたな、ビジホとかみたくサイトの予約フォームからってわけにはいかなくてちょっと戸惑った。その辺が面倒なんだよね、実際。まあ良いけど。
「にしてもこっちがあれこれ悩んでる時に、
ジト目で見てくる蝶野さんと、苦笑する大喜くん。呑気ではなかったけどね、あの頃は。私も私であれこれ背負うものが増えて、大喜くんも追い込まれてて。でもま、どうにかなるもんだ。こうやって想い出になってしまえば、悪くなかったと思えるし。
私たち三人は、笑いあいながらまた歩き出す。
穏やかに過ぎていく、名残の夏を楽しみながら。
蝶野さんが大喜くんにフラれた、と菖蒲ちゃんに聞いたのはつい数日前。ウインターカップも終わり夢佳との仲も取り戻して、和やかに年の瀬を過ごそうと思っていたらこれだ。告白したのは知ってたけど、まさかあれから何ヵ月も経ってようやく返事したのか大喜くん。
そして菖蒲ちゃんが言うには、大喜くんには――好きな人がいるそうだ。だから蝶野さんを好きになれない、ということらしい。
大喜くんが誰を好きなのか、それは私には分からない。分かったところでどうしようもない、誰であろうと同じだ。それが私ではないのは確定しているし、それを理由に変えられるほど私の気持ちは柔じゃないから。
大喜くんが好き、それは動かせない。蝶野さんだってそうだろう、そうそう引き下がれるとは思えない。あの子は頑丈で強いから。
つまり私たちは、
苦手なんだよなぁ、そういうの。部活以外で人と争いたくない。
とりあえずここは大喜くんのスタンスが見えるまでは様子見しとくか、……なんて思っていたのに。
「千夏ちゃん、試合明けで疲れてる所悪いんだけど大喜の世話頼んで良い?」
由紀子さんがそう言ってきたのが今朝の事。年末年始には「本家」へ行かないといけないから、松が明けて帰ってくる二人だけでどうにかしてて欲しい、と持ちかけられたのだ。
いや、いやいや。いやいやいやいや、あの。私はそもそも居候だし、自分で言うのもアレですが御年頃の女子高生ですよ。それを男子高校生と二人きりで十日近く過ごせと。まあこんなワンパクでたくましい子相手に不埒なこと考えやしないだろうけど、その辺どうお考えですか由紀子さん。あと貴女私を自分の娘だと普通に思ってますよね、大喜くんと私は姉弟じゃないんですけど。
……なんて居候の私が言えるわけもなく、愛想笑いのまま淡々と話しは進んで現在。一夜飾りは縁起が悪いからと正月飾りを終えた師走の三十日、私は気まずい思いでリビングになんとなく居残っている。部屋に上がってしまえば良いんだけど、それはそれで――勿体無い。
さぁて、どうしようか。チャンスではあるんだけど、ここで手を付けたら蝶野さんに悪いし大喜くんも嫌がるだろう。私なんかじゃ、そりゃあね。
そうは思えど、気持ちはなかなか止まってくれない。良くないけれども、けれども私だって大喜くんが好きなんだ。それにそもそもの段階で、こんな可愛い生き物と一緒にいてヘンなことを考えない人がいるだろうか。
やっぱり由紀子さんには、色々ちゃんと考えて欲しかった。私だって木の股から産まれたわけじゃないんだから、色々と思うところはあるんだ。
とは言えもう遅い、既に私は――大喜くんにのし掛かろうとしているのだから。
「ぇあ、の。千夏先輩、あの……えー……」
驚きすぎて騒ぐ気も起きないのか、それとも私に力じゃ勝てないと分かってるのか。なんにせよ大喜くんは、私の下で固まっている。その小動物みたいな顔に唇を寄せ、そっとキスをしてみるとビクンと身体が跳ね上がった。まあ、その程度で振り落とせる程私は軽くないけど。
頬を舐めながら唇を滑らせ、今度は完全に唇を塞いでしまう。そして舌で歯列を抉じ開け、その奥へと侵食を深めていく私。生まれて初めてのキスにしては、身体が勝手に動いてくれるのが不思議。
きっとこれが、本能というものなんだろう。大喜くんが抵抗せず受け入れてくれているのも、そして。その身体の一部が見せている「反応」もきっと、本能が為せる業。下半身に向けて伸ばした手で、そこをそっと撫でてみる。
布越しにも感じる熱気と、堅く逞しい感触。大喜くんの……オトコノコは、ガチガチに張り詰めているようだ。私も経験はないとは言え一応知識はあるから、これがどういう状態なのかは分かる。それが大喜くんにとって恥じ入るべき事だという事も、そしてそうだからこそ付け入る隙になるという事も。
「……ごめん。大喜くんが誰を好きであっても、私は――大喜くんが好き」
我ながら卑怯だな、とは思う。身体だけ関係を持たせて、そこから切り崩すつもりなのだから。でももう、止まれない。
返事を待たないまま、私は大喜くんのオトコノコへ直に触れ引きずり出していく。直接触るとその熱さは格別で、皮に隠れた中からは染み出すように粘液が溢れていた。本当ならこれは、大喜くんの好きな人がするべきこと。私がしていい事じゃない、だからこそ大喜くんは罪悪感を抱く、私を意識せざるを得なくなる。
ああ、全く。私と来たら、本当に卑劣だ。
そんな事を考えながらも、いつぞや渚たちが言っていたようにオトコノコをしごいてあげる。こうすると男の子は気持ちいいらしいけど、力加減が出来ない私の手じゃどうだろうな。いやまあ大喜くんはハァハァと荒い息を吐いているし、気持ちいいは気持ちいいんだろう多分。
そうやって手を動かし続けると、不意に大喜くんの身体が大きく震えた。その直後に手の中で感じたのは、熱い迸り。粘りけの強い液体が、ドクドクと溢れ出てきたのだ。
顔まで昇ってくる牡臭さから本能が察する、これが精液なのだと。大喜くんが今、私に包まれ射精したのだと。
それでもオトコノコの硬度は変わらず、自己主張を緩めない。もっともっと、と期待するように。
ならば、それに応えよう。……なんて、勝手すぎる理屈だな。大喜くんの気持ちなんか、ひとつも考えちゃいない。
こういう所なんだろうな、私は。
「ん、ぅぁ……っ」
精液にまみれた手でかきむしるように、見せ付けながら私は
好きだから、愛しているから。
覚悟と共に、私は腰を降り下ろした。
「ぅ……っ」
指が入り込む時よりもずっと強く、ずにゅりと私の内側へ大喜くんが入ってくる。話に聞くような痛みはなく、異物感も殆ど感じられない。ただただ、熱い。大喜くんの熱が私を充たしていく、そんな快感が頭を焼いていく。
パチパチと瞼の裏に火花を飛ばしながらも、身体を更に沈めると快感の質が変わり出すのが分かった。お腹の深い部分が押し上げられ、奥の奥が突かれて悲鳴のような嬌声と共に意識しないまま僅かに腰が上がり、そして重力にしたがってまた落ちて。その度一瞬呼吸が止まって、沸き上がる鼓動がそれを呼び戻す。気が付けば呻くように喘ぎながら、私は大喜くんの上を跳ね回っていた。
やがて慣れてくると、繋がっている箇所の様子が粘膜を通して脳に伝わり出す。私の中は大喜くんのオトコノコにぴったりと吸い付いて離れようとしない、その形を自身に刻み込もうとしている。
大喜くんもきっとそうなんだろう、囈のように私の名前を呼びながら腰を突き上げてくるから。
ああ、幸せだな。このまま大喜くんを私のモノにしてしまえたら、どんなに良いだろう。でも、そうはならない。今は気持ちいいから
少しだけ悔しさを覚えた、その瞬間。お腹の一番奥で、何かが瞬いた。
「ぁ、あー……、なんか、出てる……?」
さっき感じた射精の拍動を再び、それも膣内で味わいながら。私は幸福感に包まれて目を閉じる。先の事なんか考えたくない、このまま浸っていたい。そう願いながら。
……やってしまった、なあ。勢い任せで私は、なんてことを。
「あー……ごめん、大喜くんに好きな人がいるのは知ってるけど……さ」
一頻り感じ倒して戻ってきた理性に苛まれながらも、私は折れそうになる心を必死で立て直す。これで軽蔑されようがどうなろうが、私は悔やんではいけない。そんな逃げ道、有るわけがない。
私たちの間に気まずい沈黙が流れて暫し、ようやく口を開いたのは大喜くんの方だった。
「俺が、好きなのは……千夏先輩、です。ずっと、先輩だけ……なんです」
小さく、でも力強く。確かにそう、大喜くんは呟いたのだ。
………………それは、まさか。さっきの余韻でトチ狂ったのか、とも思えるけど大喜くんの眼差しは真剣そのもの。つまりこれは、本心だと言うことか。まさか大喜くんが私を、……好きだなんて思わなかった。私はそんな大層なものじゃないんだけどね、よくもまあこんなガラッパチな子を。
でもそれはそれで、大変だ。私はこれからどんな顔して蝶野さんに会えば良いんだろう、こんな抜け駆けみたいな形になってしまって。いやこれは完全に抜け駆けじゃないかな、私。
私は大喜くんが好き、大喜くんも私が好き。だけどそれは、蝶野さんを泣かせて良い理由にはならない。蝶野さんが大喜くんを好きな気持ちは、そこにあるのだから。大喜くんだって蝶野さんが嫌いな訳じゃない筈、それは傍から見ていても分かるじゃないか。
なら後は、私の立ち回り一つだ。上手く行ったら御慰み、とね。
無い頭を振り絞って考えるのは、明るい明日。皆が笑って過ごせる未来像、それだけだ。
その為にはまず、越えないといけないハードルがある。……とんでもなく高いけど、どうにかしなければ。
でもまあ、今は。今だけはとりあえず、二人きりの時間を楽しもう。全てはその後、だ。
「で。千夏先輩はわざわざ勝ち誇りに来たわけですか、ずいぶん悪趣味なんですね」
蝶野さんの不機嫌そうな瞳に、思わず挫けそうになってしまう。いやいや、早い早い。
そうじゃないよ、と私は蝶野さんに向き直る。別に勝利宣言が目的なわけじゃない、むしろそれは最悪だ。勝ちも負けも、私が目指す所じゃない。
「私は大喜くんが好き、だけど――蝶野さんとも
それが私の偽らざる本音、青臭い理想論かもしれないけど私はそうしたい。だからこうして、蝶野さんの家まで押し掛けてきたんだ。
人を好きになったら周りと対立しないといけないなんて、そんなのは認めない。私は好きを諦めないけど、だからって人を押し退けるつもりなんか無いんだ。大喜くんを抱いてから私は、本格的にそう思い始めた。
好きになるのは幸福で、それを失うのはきっと不幸だ。大事な後輩を不幸にしたら、先輩の名折れだろう。
その思いを込めて、絶句する蝶野さんににじりよって。私は――キス、していた。
呆然と私の唇を受け止めたまま、蝶野さんは大きく目を見開いたまま動かない。
そのまま、どれだけ時間が経っただろうか。ついっと離した唇に、唾液の橋がかかって落ちるのがスローモーションのように視界の端で見切れている。
「私は大喜くんも蝶野さんも、同じように好きだよ。だから、大喜くんにしたこと全部……蝶野さんにもしてあげられる」
貪欲で自分勝手な話を聞かせながら、もう一度キスをする。長く深く熱いキスを交わしながら、大喜くんよりも少しだけ小柄な身体をベッドに押し倒していく。大喜くん相手でもぶっつけ本番でどうにかなったんだ、きっと出来るさ。そんなどこか楽観的な思いと共に。
あれから季節は流れて、現在。私たち三人での関係は、あれこれと波乱はあれど恙無く回っている。不思議な事に。まあだからこそ、こうやって三人でお出掛け出来るんだけどね。もし何処かで誰かが独り占めを望んでいたら、誰かが一人しか愛せないと思ってしまっていたら、こうはなれなかった。きっと何処かギスギスした、居心地の悪い関係にあっていただろう。
そうはならなかったんだから、それで良いんだけど。起きてもいない事を心配したって仕方ない、楽しまなきゃ。
どうせだし誕生日を三人で過ごしたいからと、インターハイを終えガタガタになった身体を押して決行したこの強行軍。
陽射しを浴びて輝く海は記憶と変わらず美しいけど、ちょっとだけ疲れたな。まぁ、民宿に着いてから
今夜は眠れないかもね、うん。寝かせないと言った方が正しいか。そういや去年は夜通しパーティゲーム三昧で、電池が切れるように眠ってしまったんだっけか。あの頃の私たちはピュアピュアだったなぁ、本当に。
ああ、でも。せっかく18歳の最初の朝なんだから、大喜くんと蝶野さんを抱き締めながら迎えられたら良いな。
そんな事をぼんやり思いながら、私は二人の手を取って足を早めた。
雛の章
「思い返すのは少し前」
一体何が起きたら、こんな事になるんだろう。真っ直ぐな瞳で真正面からフラれたり、かと思えば色々と翻ったり入れ替わったり。短期間にあれこれとありすぎて、余りにも現実感が無さすぎる。いっそ夢でも見てるんじゃないか、とさえ思ってしまう。
でもまあ、夢であれ何であれ幸せではあるから良いかもしれない。少し前の私ならきっと、そうは思えなかったけど。
同情も施しも願い下げ、誰が相手だろうと引くことなく立ち向かう。そうやって突っ張りながら生きてきた日々が、いっそ懐かしい。
大喜を独り占めする事は出来ないし、大喜の一番にもなれないだろう。でも、それは些細な事だと気が付いた。好きな気持ちは、曲がるものじゃないし張り合うものでもない。胸に抱いていれば、それで良いんだ。伝えあって、受け止めあって。それで良い。
あの冬の日に、千夏先輩がそれを教えてくれたから。……素直に感謝する気には、あんまりなれないけどね。
耳を疑う、とはこの事か。正月休みに突然押し掛けて来た千夏先輩の口から出たのは、まさにそんな感じだった。
要約すれば、一言。大喜と結ばれた、という所謂ノロケ話。
以前私は千夏先輩に一方的に「大喜に告白しました」と宣言した事はあった、そう言っておけばきっと遠慮してくれるだろうと。先手を取った時点でこっちの勝ちなんだから、引き下がってくださいと。しかしまあその後見事にフラれ、でもまだ希望を残したいから千夏先輩には顛末を伝えていなかったけど――。まさかその隙に、そう来るとは。
「……で、千夏先輩はわざわざ勝ち誇りに来たわけですか。ずいぶん悪趣味なんですね」
崩れそうな膝を根性で維持し、それでも私は平生を装う。私にだって意地がある、負けたからって負けたままでいられない。
引き下がるな、折れるな。
初めて好きになった人だから。
私が闘う覚悟を決めた、その時。千夏先輩はまるでそれを見越したかのように、涼やかな声で言い放った。
「私は大喜くんが好き、だけど――蝶野さんとも
その言葉は明らかに場違いで、メチャクチャで。まるで子供のワガママとしか思えない、勝手なもの。
何を言ってるんだ、この人は。そんなの有り得ない、と言うか無理だ。大喜は千夏先輩しか見ていない、私なんか見てくれない。だから私たちは、対立するしかない。それ以外に、何がある。
でも、だけど。
そう思って僅かに警戒が緩んだ刹那、視界にあった千夏先輩が一瞬――揺れた。
何かが起きる、と身構える暇すら与えられないまま。インステップでこちらに急接近した千夏先輩は、何を思ったのか。
その唇で、私の唇を塞いでしまったのだ。
柔らかく暖かい感触がまず伝わり、そして漸く脳が理解する。キスされた、と。硬直する身体を抱き締められ、深く深く。
抵抗しようにも手足が頭に従わない、瞳さえ自由にならない。全身が千夏先輩を受け入れようとしているのを、腹が立つほど止められない。
気が付けばしゅるしゅると脱がされ、私は千夏先輩に組み倒されていた。
まさか、こんな事になるなんて。そうは思えど、胸の高鳴りが強まっていく。今ここで千夏先輩に抱かれたら、私はどうなるんだろう。その期待で。
千夏先輩の舌が私の臍を掠めて降りていく、その光景。肌を合わせて伝わってくるものより、胸の奥から沸き上がる熱はずっとずっと強い。
蕩けた頭は完全に思考を放棄してされるがまま、どんどん高度を下げていく先輩の頭を見送るだけ。
そうしている間に先輩の手は私の太股にかかり、そっと脚を拡げさせ。そのまま――顔を埋めてしまった。
「蝶野さんって、さ。自分でも――したりする?」
息を
そりゃあ私だって高校生だし好きな人もいるし、人並みになら
でもそんな事、言えるわけがないじゃないか。
どう答えたら良いか分からずモジモジしていると、不意に何かが
ゾワリと一瞬背筋が粟立つも、それを上書きするような正体不明の感覚がやって来る。自分が触れたこともない内壁を、他人の舌が押し広げていく。きっと千夏先輩の口のなかには、私の味が広がっている。羞恥と背徳感、そして得体の知れない快感がない交ぜになって止まらない。
たちまち視界が白く染まり、身体が震え意識が飛びかける。普段はここまですることは滅多にない、大体は抱き枕に身体を擦り付けて感じながら、ある程度まで来たら後は余韻に浸るだけ。気持ちよくなりすぎるのは、怖いから。
なのに千夏先輩は、舌の動きを緩めてはくれない。もう止めてと言おうにも、口から溢れるのは喘ぎだけだ。
余りにも激しい快感が押し寄せてそこから降りられない、降ろしてくれない。蠢く舌の感触に加えて更に押し込まれて来るのは、多分――指だ。千夏先輩の指は舌よりも深く私を抉り、まるで先に目が付いているかのようにピンポイントで感じる場所を次々と探り当てていく。いや、触れられた所から熱が注ぎ込まれ、新しい快感を植え付けられてるのかもしれない。
「う"ぁ、ぎっ……、うあ"ぁー……」
獣のような吠え声を上げながらも、暴力的な快感は収まることを知らない。
やがて脳が過負荷に耐え兼ねて停止するまで、止まる事を知らない快感の暴風が吹き荒れ続けた――。
どれくらい経っただろうか、意識が戻ったときには窓の外はすっかり暗くなっていた。私も千夏先輩も、一糸纏わぬ姿のまま。全身は汗やら何やらでドロドロになり、息も絶え絶えではあるけれど。千夏先輩は私が気絶してからも、一人でし続けたんだろうか。よくもまあひとんちで。
しかししてしまった、最後まで。誰ともしたことがない事を、一通り。
恋人同士ですることを、全部。
……良いんだろうか、これは。千夏先輩はこんな関係を受け入れていられるんだろうか、どうなってんだこの人。
「私はさ、別に大喜くんを独り占めする気はないよ。蝶野さんにも大喜くんにも、そうなってほしい」
能天気な理想論をブチ上げるその顔は、朗らかで幸福感に満ちていて。……余りにも、アホな感じだ。そもそも千夏先輩は、それで良いのか。独り占めしたくないったって、自分が好きな人を――別の人とも付き合わせるとか正気の沙汰じゃない。
「それに大喜くんは皆のもので、だからこそ譲り合って大事にしないといけないんだよ」
いや、そんな公園のベンチみたいな事言わないでほしいんだけど。
あー……そうか、そうだった。この人基本、バカなんだ。そうでなかったら、こんな事考えるもんか。
にしたって、どうやって大喜を納得させる気なんだ。先輩への気持ちを貫くために私をフッたのに、それを覆せるんだろうか。その辺は曲がらなそうなんだけどな、大喜はとにかく不器用な上に迸る程バカだ。あのバカを心変わりさせるなんて出来そうもないけど。
「大喜くんは
まあ、そうでしょうね。信じて預かった友達の娘が、自分の子供押し倒した上二股を強要しようってんだから。由紀子おばさんに追い出されるんじゃないかな、千夏先輩。そうなったらそうなったで、……いやまあ困るか。そんな状態で大喜とどう過ごせば良いんだか、見当も付かないし。
やれやれ、だ。もう私が協力するしか無さそうだな、これじゃ。
そこから泣いてすがって歯茎を剥いて、必死に由紀子おばさんを説き伏せて。私たちは強引に、この歪な関係を認めさせてしまった。そしてそうなった以上、大喜も折れざるを得ない。私は大喜の一番になれないし、千夏先輩も大喜一人を愛せない。私は私で、負けた上に情けをかけられるという屈辱を味わって。三人がそれぞれ損をし、それでどうにか形が付いた。強引ではちゃめちゃで、不道徳きわまりないけど。
まあ、そんなこんなで。私たち三人は、今日も揃ってベッドの上にいる。……一緒に住んではいないけど、ね。それはさすがに怒られたから、卒業してからのお楽しみ。千夏先輩も千夏先輩で由紀子おばさんに釘を刺されてるから、私がいないときに大喜を独占するような事はしてない……筈。多分。メイビー。先は越されたものの、私も大喜と結ばれたわけだし文句は言わないけど。
そんなおかしなトライアングルを描きながら季節は過ぎて、今年も燃えるような夏がやって来た。千夏先輩は今回のインターハイで引退、つまりは大事な時期ではあるのだけれど。あるのだけれど、どうも普段通りにふにゃふにゃしているのが不思議だな。まあ勝っても負けても悔いはないんだろう、自分の実力を出し切った結果ならば。まあ私も私で頑張らないといけないけどね、今度こそ一位だ。三位のままで終わってたら格好がつかない。
「ね、大喜くん。去年行ったあの民宿にさ、三人で行こうよ。同じ日に、ね」
一戦終えてへたばっていた大喜にキスしながら、千夏先輩が聞き捨てなら無い事を言う。待て待て、なんのお話ですかあんたら。
去年の夏って言ったら、私が告白した時期じゃないか。そんな時にコソコソなにしてたんだか、この人は。
そもそも大喜を押し倒したり私を襲ったり、どうもやり方が不穏なんだよね千夏先輩。一体何者なんだか。
まあでも、その辺を問い詰めるのは今度で良いか。三人で何処かに出掛ける予定なら、それはそれで楽しそうだ。そっちの話をさせてもらおう。
「千夏先輩千夏先輩、詳しく聞かせてくださいよー」
「うん、あのね――……」
大喜の章
「まだまだ続く、夢の中」
結局、考えすぎていただけなんだろうか。俺が思うよりずっと、話は簡単だった。好きだから、で済んでしまう。長々と悩み尽くしたのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに、答えは目の前に有ったんだ。
全てが全て、理想通りではないけれど。それでも今の状況は、決して悪いわけではない。そう考えてしまう自分が少し嫌になるな、浮わつきすぎ。
千夏先輩と雛、二人に弄ばれながらもそんな風に思ってみる。すっかり二人のオモチャというか、共同所有になりつつある俺だ。
どうしてこうなった、というか俺は何処までも流されているばかりな気もする。でもこうならなかったら、ギスギスしたままでいたんだろう。それはそれでちょっと辛いけど、でもどうしたもんか。この三人であの民宿に泊まろう、とか言い出すんだもんなぁ千夏先輩は。
やれやれ困ったもんだ、色々と大変だよ。
千夏先輩と初めての夜を過ごした、……というか襲われた。そんな事態があっても変わらずに朝は来る、二人きりの朝が。
大人たちが帰ってくるのは松が明ける来月七日過ぎ、それまで猪股家は俺たちに託されている。だってのに、なあ。大晦日の朝を、こんなテンションで迎える事になろうとは。
ただ襲われただけじゃない、俺たちはお互いの気持ちを確認しあった。好きです、と言ってしまった。千夏先輩は驚いてたけど、あれは何の驚きだったんだろう。まさか俺が雛と付き合ってるとか思ってたんだろうか、でもそれならなんで跨がってきたんだか。あの人は分からない、分かるわけがない。
……とは言えそういう間柄になったのは確かだし、それは喜ぶべき事なんじゃないかな。もう少し風情ってもんが必要だと思うけど。
そして当の千夏先輩はと言うと、意外な程に平常運転を保っている。まああの人は存在自体が規格外だから、こっちの理解なんか及ぶ訳無い。
まあそれはまた後で考えよう、とりあえず大掃除を終わらせてしまわないといけない。母さんたちもなんでなにもしないまま行くかな、本当にさ。千夏先輩がいるから大丈夫だと思ったんだろうけど、せめて大方は終わらせてほしかった。
そのままバタバタと時間は過ぎて、再び夜が来て。もしかしたらまた今夜も、なんて思ったりもしたけど。……したけれど。
「まだちょっと異物感あってさ、暫くは……ゴメンね」
とのことでお預けとなった、うんまあそれはそうですよねあれだけ繰り返したら。俺は実感として分かりにくいけど、そりゃまあ異物は異物だろうし。
その方が平和で良いけどね、あのペースで跨がられ続けたら死んでしまう。こんなド年末にそんな死に方したら、後世まで名前が残りかねないわ。
少しだけ寂しい気もするけど、穏やかな正月になってくれた方が有り難い。
穏やかな正月なんてのは幻想にすぎない、そう痛感したのは年明けて三日の事。
朝から突然フラッと何処かへ出掛けた先輩は、昼過ぎに戻ってきた――とんでもない土産つきで。
「……おじゃま、します。えっと久しぶり、大喜」
何を思ったか、それとも何も考えていないのか。千夏先輩はよりによって、雛を連れてきやがったのだ。
待て、待て待て。俺は確か、雛をフッた事も含めて全部話したはずだ。それなのにどうしてそんな事をするのか、もしかして俺なんか怒らせる様なことしたのかな。だとしたら謝るけど、それ以上に気まずい。気まずすぎて死にそうだ。
あれから数ヵ月が過ぎたし、多少ならば会話もした。島崎さんが言ったように、雛は気にしていないように見える。問題なのは俺だ、俺が引きずりすぎているだけだ。……まさか千夏先輩はそれがわかった上で、仲直りでもさせる気なんだろうか。夢佳さんとの一件のように。
あれは明らかに俺の勇み足ではあったし、彼氏面してしゃしゃり出ておいてあの体たらくは無い。でも結果として二人は和解した、……らしい。俺と雛にもそうなって欲しいというのは、分からないでもない。この人表現技法が天衣無縫なだけで、根は好い人なんだし。
俺としたって、雛相手にずっとぎこちないままでいるのは辛い。何か切っ掛けがあれば、とは思っていた。その口実を作ってくれた事には、感謝するべきなんだろうか。いやでも少しは物を考えて欲しいな、少しで良いからさ。やることなすこと想像を越えすぎだよ、でもだからこそ俺はこの人を――。
「あのね大喜くん、実はさ。
………………やっぱり理解できないかもしれない。
いや、いやいや。いやいやいやいや。待て、本当に待って。
それはいくらなんでも無い、有り得ないどころじゃないしどうするんだこれは。どうやったって丸く収まりなんかしない、メチャクチャじゃないか。
余りの出来事に頭がショートし硬直した俺に千夏先輩は、更なる追撃を叩き込んでくる。
「でねでね大喜くん、蝶野さんともしてくれないかな。三人で仲良くなりたいから、さ」
――一体この人は、なんなんだろう。呆然としながら崩れ落ちる最中、俺はそんな事を考えていた。
俺は千夏先輩が好きで、だからこそ雛にはああ言うしかなかった。そりゃあ――傷つけたくはなかったけど、曖昧なままではいられない。何より雛が可哀想だ。ここでちゃんと結論を出して、それぞれの道を進むのが筋だろう。
そう思って歯を食い縛ったのに、まさかまさか。千夏先輩がそれを引っくり返しに来るとは思わなかった、本気で。そんなふしだらで適当な関係が許されるか、とは思えど
どうして俺の周りの女子は、揃いも揃って恐ろしいやつばかりなんだろう。そう思いながらも目の前で絡み合う二人は余りにも扇情的で、目が離せなくなってしまう。きっとそれは向こうにも筒抜けだろう、見ればすぐに分かるんだから。こんな光景を前にして無心でいられたら、俺は悟りを開いてる。
薄く笑いながら千夏先輩は雛の中をかき回し、グチュグチュと粘っこい水音が止まらない。雛の喘ぎも益々高まり、もう悲鳴に近い。
「ん、これだけ解せば良いかな。じゃあ大喜くん、
ぐちゃりと音を立てて拡げられた雛の内側は、肉色の花のよう。千夏先輩より小振りな気はするけど、そんな思いはすぐに溶けて消えた。ただ本能に導かれるままに、俺は雛へとにじりよっていく。
ぬめる肉の谷間は熱く狭い、上手く入れず少しだけたじろいでから。俺は漸く、雛の中へと分け行っていった。
上から被さってきた千夏先輩と違って横向きに進んでいく、そのせいか感触は僅かに違うようなそうでもないような。個体差はあるんだろうけど、どう表現して良いものか。とにかくただ気持ちいい、どっちかどうとかなんて考えたくもない。
と言うかそんな余裕が有るわけない、こっちはただ必死だ。なのに千夏先輩と来たら、目を離した隙に俺の後ろへ回って悪戯し始めるんだから手に負えない。背中にお胸を押し付けながら乳首を弄んだり耳許であれこれ囁いたり、なんだこの人。本当にもう、なんなんだ。
二人に押し潰される格好になりながら、それでもどうにか腰を動かしていく。雛の中が軟らかな鑢のように俺を責め立て、後ろからは千夏先輩の甘い責めが止まらない。地獄のような極楽気分と言うか、意識が引き裂かれる致命的な快楽の渦に呑まれていく。
俺の肩越しに二人がキスし始めた、ちょうどその時。最後の枷が、勢いよく弾けとんだ。
「う……っぁ。あ、あー……ぅぁ……」
後ろから前から抱き締められながら、元栓が壊れたかのように射精が終わらない。頭の中が全て出ていくような、圧倒的かつ暴力的なその奔流に身を任せ、俺の視界は白く染まっていった――。
そんなこんなで歪で不自然な関係になった俺たちは、季節が変わってもずっと現状を維持している。母さんを二人がかりで説得したらしいけど、どうやったんだか。それに母さん、俺たちが三人で「清いお付き合い」をしてると思ってるようだし。三人でっていうのは少し不健全だけど、仲良くするのは良いことだから――みたいに言っていたもの。ちゃんと釘刺した、とも言ってたし。
まあでも千夏先輩は「三人でするのが一番平和だよね」と言って、家で二人きりの時は俺に何もしてこないから、そう思っても不思議じゃないか。それに雛も雛で、先輩がいない時に俺に迫ったりはしてこない。この関係が正しいかどうかはともかく、それぞれが受け入れている事には変わりがないわけだ。
それにこうなった事は少なからず俺たちに良い影響も与え、この夏雛は高校新体操界の頂点を手にし、俺もどうにか遊佐くんに勝ってインターハイ出場を果たせた。まあ千夏先輩としては全国制覇にあと一歩届かなかったのが悔しかったようだけど、去年の成果から考えたら結構な成長だと思う。いや本人にしたら納得いかないだろう、目指す先はもっと上だったのだから。それでも帰ってきた千夏先輩は、俺たちを抱き締めて少しだけ涙を流して。だけどすぐに振り切って、晴れやかに笑ってくれた。
「これで暫くは、のんびりできそうだね」
なんて、平和そうな顔をして。
まあそれは良いんだけどさ、うん。去年みたいに泊まりに行こうよとか言い出すから、俺は雛に小突かれる羽目になったんですが。そのせいで三人分の荷物を背負わされたんだし。……あと雛は事あるごとにそれをチクチク言うのを勘弁して欲しい、あれはアクシデントなんだから。告白された直後だったのは確かにタイミング悪すぎたけどさ、うん。
そうは言っても、だ。一年ぶりに見るあの景色は、変わらず美しい。もし俺たちの関係がモヤモヤしたままだったら、こうは見られなかったんだろう。
てなわけでちょっと訝しげな顔はされたものの三人でチェックインし、荷物を置いてケーキ片手に浜辺へ出て。去年のように千夏先輩の誕生日を祝い、三人で
なんて思った数時間後、部屋に戻ってから俺は自分の短慮を後悔する事になったのだけれど。
「たーいきくーん、そろそろ日も落ちましたねぇ~」
赤い顔で酒臭い息を吐きつつ、千夏先輩は俺にしなだれかかってくる。浴衣は既に着崩れて肌も露、その癖やけに強い力で俺を捉えて放さない。
これは、これは。千夏先輩のめんどくさいモードが発動している、それも全力で。
助けを求めようにも、雛も同じく顔真っ赤で千夏先輩に荷担している。お前がそうなったら誰が千夏先輩を止めるんだよ、いやそもそも止まらないかこの人は。
「先輩先輩、今日は誕生日なんだしお先どうぞ」
「んー、ありがとねーえへへー」
ニヘニヘと幸せそうな千夏先輩にゆっくり押し倒され、何か言おうにも唇はキスで塞がれてしまう。ああ、まったくもう。民宿ってこういうことして良いのかな、絶対怒られそうなんだけど。チェックアウトの時、多めにチップ置いてったら許してくれるだろうか。……なんて考えていられたのは、ほんの数秒。口内を犯されていく快感に、どんどんと頭が染め上げられていくのが分かる。
窒素しそうな程に唇を吸いあっていると、意識はだんだんあやふやになってしまうのだ。それでも尚確かなのは、下半身へと触れてくる指の感触。千夏先輩の手がそこを這い回り刺激していく、その感覚。まるで脳のスイッチを握られているような的確さで、俺を追い込んでくる。
――と。その動きが、いつもとは少し違う事に気が付いた。動き方というか、ストレートに言うと「多い」。指の数が明らかに違う。
ぼやける視界でそっと下を見ると、そこでは千夏先輩だけでなく雛の手まで蠢いていた。更に雛の顔は千夏先輩のお尻の向こうで、湿った水音を立てている。……今日はずいぶんサービス過剰だな、千夏先輩に一体どんな仕込まれ方してるんだろう。約束通り俺と二人きりではしないけど、この二人は普通にちょくちょくしてるっぽいんだよな。聞かないし言わないけど。仲良き事は美しきかな、だ。
「ほら、千夏先輩早く早く。次は私がするんですから」
あ、別にサービスでもないのか。と言うか俺の意思は何一つ聞かないよね、あんたら。良いけどさ。
雛の言葉に応えるように身体を起こして俺を跨ぎ、正面から抱き締めるように千夏先輩が俺の上へと舞い降りてきた。
ずにゅりと軟らかい肉に包まれていく、心地良い重圧感。千夏先輩の焼け落ちそうに熱い内壁が、万力のような力で締め上げてくる。
この瞬間はいつだって、言葉にならない。そしてもっと激しく意識を揺さぶるのは、全てが飲み込まれた時だ。
完全に身体が落ちきった千夏先輩の中で、コツンと先端がぶつかるイメージ。先輩の一番奥に到達した、その事実が脊髄をかけ上がって脳に到達した、その刹那。理性は決壊し、俺は獣のようにただ喘ぐばかりになる。
千夏先輩もきっとそうなんだろう、全力で腰を振りたくり切れ切れの嬌声を響かせているから。
そんな状態で、何分も持つ訳はない。
たちまち頭の底が沸騰し、煮えたぎるマグマが尿道をかけ降りていく。それは止めようがなく、ただただ凄まじい勢いで迸って溢れ出す。
抱き締めあうそのお腹の奥に、拍動を感じ取れる。そんな長く激しい射精は、どれくらい続いただろう。
「いつまでラブコメみたいな事してんですかっ、次私ですよってば」
雛に脇から腕を差し込まれて先輩の身体が持ち上げられ、俺が引き抜かれていく。ずるりと抜け落ちた後はまだ弛緩しているのか口を開けたまま、白濁液を垂れ流しては布団を汚していく――クリーニング代とか請求されたらどうしよう。
そんな心配なんかきっと伝わらないんだろう、千夏先輩を脇に寝かせて雛もまたこっちへと歩み寄ってくる。
だけど……うん。
「あによー何で縮んでんのよー」
いや、それは申し訳ないけど仕方無いのよ。昼間こきつかわれて、その上ケーキ食べた以外にはロクに食事してないんだから。お前らと違ってそんなに呑んでないし。このコンディションで連射は正直辛い、と言うか無理だ。せめて休ませてくれ。
でも俺は知っている、んな事言っても雛は退かないと。まあ千夏先輩だって同じだけどな、二人揃って搾り取るんだから。
「ったく、こんな事なら先にしとけば良かったかな」
ぶつくさ言いながらも雛は俺へと舌を這わせ、先輩のと混ざりあった精液の残滓を舐め取り始める。こういうのも千夏先輩が教えてるらしいけど、程々にして欲しい。こっちが持たないし、雛にも申し訳ないし。
まあ、抗えないくらいには気持ちいいんだけどさ。
「っぷぁ、んー……こんなもんかな。んじゃさ、来てよ」
すっかり復活した俺から口を放し、雛は白いお尻を向けてきた。どうも後ろからの方が性にあう…顔を見られながらだと恥ずかしいとかなんとか…だそうで、最近はこっちが多いかも。俺としては四つん這いになった所へのし掛かるのはなんだかケダモノっぽく感じちゃうけど、それもそれで嫌いではないな。
千夏先輩に乗られっぱなしだし、たまにはね。
トロトロと蕩けきった裂け目へと先端を押し当てて、ゆっくりと入っていく。押し返してくる入口の硬さと、奥へと誘い込もうとする内壁。雛の意思でしているのかは分からないけど、その襞の蠢きが俺を包み込んでしまう。
雛の中は千夏先輩より少しだけ深いみたいで、根本まで押し込んでもまだ先の空間を感じる。その感じは雛だけの感覚、千夏先輩と決定的に違う。何度も何度も夜を重ねて、最近漸くそれが分かりだしてきた。……ベクトルが違うから、比較とかは出来ないけど。二人交互に抜き差ししたら、その辺詳しく分かるんだろうか。絶対しないけどさ、そんなの二人に悪いわ。
段々と高まってくる射精欲求を感じつつも雛に腰を打ち付けていた俺は、わずかな間ではあるけれど忘れていた――千夏先輩の事を。
「あ、へえー……入ってる時って
鈴の音みたいなその声は、俺たちの下から。そこでやっと気が付いた、千夏先輩が雛の足の間へ顔を突っ込んで結合部を見つめている事に。いやホントなにしてんだこの人、て言うかいつの間に。
そしてそんな風に気を散らしたのは、更なる悪手。意識とは別の方向で快感が暴発してしまう、そう危惧した時にはもう遅すぎた。
「幹がピクピクしてるねぇ――……そろそろ出るのかなー……?」
スッと伸ばされた指に裏筋をなぞられ、促されるように射精が始まっていく。
千夏先輩に見つめられながら雛の中を精液で染め上げていく、この世のモノとは思えない妖しい体験。これが一晩中続くのかと思うと、さすがに死にそうだ。多分途中で倒れるな、俺は。
勢いで抜けても尚止まらない精液を顔に浴びながら雛へと吸い付き、中に残された分まで吸い上げようとする千夏先輩。長く尾を引く短い嬌声を切れ切れに上げながら、全身を震わせて快感に溺れる雛。この二人を相手にして死ぬなら、いっそ本望だ。
夜はまだまだ、終わらない。
盛大に汚しきった部屋をどうするか、なんて考えていないんだろうな。雛と千夏先輩は幸せそうな顔ですやすやと眠っている、まるで仲の良い姉妹のようだ。まったく、いい気なもんだよ。こっちはもう体力も精力も使いきって、寝るに寝れないのにさ。眠るって意外と体力いるんだよな、疲れ果ててると逆に寝付けないもんだ。
「にしても、あと半年くらい……か」
来年の春には千夏先輩は猪股家を出なければならない、そうなればこんな関係は続けられないだろう。今でもだいぶ無茶なんだし、これをこの先も維持できるとは思えない。卒業した後の進路もあるから、その辺で独り暮らしして今まで通りに会おうってわけにもいかない――筈だ。
でもなあ、千夏先輩だし。想像の斜め上を行くこの人が、常識でどうにかなるもんか。絶対ややこしくて面倒な事をしでかすに決まってる。
雛だって今は納得してくれてても、この先どうなるかわからない。「どっちが好きなの」とか言い出して修羅場ったりする事態にはなりたくないけど、どうしたものか。
しかしまあ、一番心配なのは俺自身なんだけどさ。あの日まで先輩しか見えないくらいに視野狭窄だった俺が、今や雛と先輩を同じくらい好きになっている。この先もしかしたら、また気持ちが動いてしまう可能性もあるんだ。俺は弱くて流されやすい、凡人だから。
そうならないように、頑張らないといけないかな。
窓の外にはもう、うっすらと日が昇りつつある。いつもの朝が、また始まる。チェックアウトの時間まで一休みして、そして猪股家へ帰ろう。後のことは後で考えれば良い、いつだって今を全力で駆け抜けるだけ。
その先にきっと、答えがあるから。