※この作品はR-18です。

アオの夜R18SS   作:扇町グロシア

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揺れるアオの夜と甘い風の日々  (千夏×大喜)

 灰色の空の下、冷たい風が吹き抜けていく体育館脇を走り抜ける。もうじき季節は冬を迎え、ウインターカップもすぐそこだ。

 雪辱を果たせるか否か、まだそれは分からない。万全の体調と士気を維持していけたとしても、勝ちの目があるかどうかは微妙。勝負は水物だ、絶対など無い。それでも引き下がれない、例え命を捨てたとしてもそんな不細工はしないしさせない。ここで怯めば地獄の底まで後ずさる事になる、一切合財を賭けて挑むほかないのだ。その結果負けて破産しても、それは覚悟のうち。不退転の決意こそ、栄明女子バスケ部の根幹なのだから。

 ……なんだけど、な。今の私には正直言って、部の伝統よりも大切な事がある。大喜くん、だ。

 私のバスケ人生はこの冬で終わる、大喜くんに見てもらえる公式試合はウインターカップで最後。ならばそれを、最高の結末で締め括りたい。この人を好きになって良かった、と誇ってほしい。だから絶対に、負けられない。

 ――そういえば、そういえば。去年の今頃夢佳に啖呵切ったっけ、恋愛に逃げた訳じゃないと。大喜くんもバスケも、私を支える両輪なのだと。他に大事なものが出来て軟弱になった、なんて言われては大喜くんに申し訳ない。

 自信をもってそう言えるかどうかは、まだ微妙だけれど。

 

 ただいまを言うのもすっかり馴れて、まるで自宅のように勝手知ったる猪股家。あと何ヵ月かで離れることになるのは寂しいけど、それはまあ仕方ない。少しずつ荷物も整理しないと、とは思うけど年が明けてからで良いや。それより今は、この日々を楽しみたい。

 大喜くんを抱き締めながら、そんな事を考えたり考えなかったり。

「あの、千夏先輩……」

「んー? まだ充電してるからちょっと待っててー」

 胸の中で少し苦しそうにする大喜くん、でも私としてはもっと力を込めたいくらいだ。練習の疲れも何もかも、この一抱きで蕩けてしまう。なにしろ大喜くんは可愛いからね、うん。

 ああ、良いなぁ。こうしている時間が幸せで仕方ない、もっと早く告白してしまえば良かった。今年の年明けに長野まで来た大喜くんの告白を受け入れた

私だけど、可能であれば先に告ってしまうべきだったな。去年の夏の終わりにはもう自覚していたのに、言い出せなかったんだ。

 きっと大喜くんも、そう思ってるのではないか。そんな風に想いつつ、ゆっくりと手を這わせて服の裾を掴んでいく。少しずつ露になる大喜くんの肌はお風呂前なのに僅かに火照り、紅潮して見えた。

 可愛いなぁ、可愛いねぇ。

 舌なめずりしながら一旦身体を離し、本格的に大喜くんを剥きにかかる私。

 首筋にキスを落とし頸動脈をなめあげ鼓動を味わい、ベッドへと組み倒していく。充電は十分だ、ここから派手にいこうじゃないか。

 

 下に聞こえては不味いし時間もあまりかけられない、味気無いと言えば言え。私はそれが、幸せなのだ。

 ベッドを軋ませて大喜くんに跨がる瞬間は、いつだって胸が踊る。いやまあ踊るというには慎ましいモノではありますがハイ。

 膣口が押し広げられミシミシと肉が抉じ開けられ、身体の芯へと続く道が出来上がっていく。毎日のようにこうしているのに、毎回頭がおかしくなりそうな位に気持ちが良いから不思議だな。

 完全に腰を落としきった時には、お腹の奥が大きく押し上げられるのが感じられる。これもまた、いつもの悦びだ。

 大喜くんも大喜くんでそうなんだろう、顔を真っ赤にして快感を堪えている様子だから。スクワットの要領で動きながら表情を伺い、私は更に大喜くんを追い込んでいく。何処をどうすればどう感じるか、もう手に取るように把握できるようになっている私だ。

 10、9。力を緩めて奥まで大喜くんを呑み込む。

 8、7。そのまま締め上げて腰を上げる。

 6、5。堅く挟み込んだまま足の力を抜いて一気に落下。

 4、3。くねるように腰を動かしてゴリゴリと擦り倒す。

 2、1。キスしながら身体を揺らして思いきり攻めたてて。

 そして――0、とどめに大喜くんの乳首をカリカリと爪で弄びながら全力で胎内の大喜くんを押し潰した、その時。

 私の下で大喜くんが、大きく跳ね上がった。

 濁流がお腹の中を駆け巡り、行き場を無くした圧力は内側から私を焼いていく。

 大喜くんの精液は熱く激しい、でもそれは荒々しいものではない。私を愛してくれる、優しい暴力。

 それを味わいながら、もう一度キスを落とす。愛していると口にするのは、まだ恥ずかしいから。

 まったく、興を醒ましてくれるんだから。

 不粋な言葉を受け流すのは得意だけど、こういうのはちょっと堪えるかな。

 そりゃまあテストはあるよ、いくら栄明がスポーツ私立であっても高校なんだから。そして日々を練習に捧げる私には、勉強をする暇なんか無い。というかほら、結果さえ出せれば座学なんてどうにでも出来る筈。いつだってそうしてきた、多分今年も大丈夫さ。

「私は欲張りだからね、全部楽しむよ」

 テストはともかくインターハイは絶対楽しみだ、今度こそ日本一の栄冠を手にして見せる。蝶野元代表の娘、なんてオマケみたいな肩書きではもう呼ばせない。「赤毛の美しい新体操選手」麗しき蝶野雛の名を、全国に轟かせてやる。

 それに夏はイベントも満載だ、日焼けするわけにはいかないから選択肢は狭いけど。

 なんてにいなちゃんに期待溢れる夏の話をしていて、私はふと思い出す。

 去年の今頃の事を。

 

 大喜が県予選に敗れ、千夏先輩から「近付きすぎるのは良くない」と線を引かれた。そんな夏の始まりは、私の恋の始まりでもあったのだ。

 元々気持ちはあったんだろうけど、それを恋という言葉に当て嵌められたのは夏が来る少し前。出遅れた私は形振り構っていられず、大喜が好きなのは千夏先輩なのだと知りながらも距離を縮めていった。

 あの花火大会も、かなり勇気を出して誘ったんだけどな。「で、他に誰が来んの?」じゃないよ、バカ大喜。そこで私は感じたんだな、これは強引にでも私が女子だと意識させる他無いと。

 で、夏休みも後半戦に入った頃。私は生まれて初めて、告白というものをしたのだ。きっと大喜は不意打ちとしか思わなかっただろう、あれはバカだから。コンディションを整えた上普段しないメイクをして服装もちょっと攻めて可(・)愛(・)い(・)私(・)を作り、万全の体制だった事にはきっと今も尚気付いていない。

 正直それで関係がすぐに変わるとは思ってなかったし、だからこそ返事はいらないと言っておいた。どうせ千夏先輩は卒業したらいなくなる、時間はいくらでもあるんだ。好きだと告げて少しずつ外堀を埋めて、時間をかけて私への気持ちを育てていけば良い。……なんて勘違いをしていたんだから、私も相当だったな。

 大喜がそんなフラフラした奴だったら、そもそも好きになんかなってないのに。

 秋合宿で面と向かって拒絶され、そこから泣いて騒いで周りを振り回して。それでもまだ理解できず、引きずったままでいたな。

 今はもう、そんな事はないけれど。

 

「今となっては、自分でも驚くくらい凪よ」

 そう言えるようになっている自分に、少しだけ驚いてしまう。大喜や千夏先輩と同じ空間にいるのが辛い、と練習をフケようとしたのが遥か昔のようだ。二人が付き合いだしたと聞いたときの胸の痛みも、既に遠い記憶になった。大喜と私は友達で、千夏先輩は私にとって尊敬する先輩。それで良いじゃないか、と素直に思える。

 ……恋に恋する、ってのはああいう事なんだろうな。大喜の気持ちとかは実際関係なくて、人を好きになる事自体が楽しかったんだ。

 でもなぁ、正直暫くはしなくても良いかな。あんな精神的にブン回されてたらおかしくなる、忙しいったら。

 この先誰かを好きになれるか自体、全然分からないけどね。

 ――と。そんな事を考えたせいか、騒がしい声がやって来た。

「ご一緒しましょう! 夏の思い出作りましょう!」

 目をキラキラさせる菖蒲にたじろぐにいなちゃん、それに合わせて愛想笑いを浮かべる私。噂をすれば、って奴か。菖蒲に「誰か男の子紹介して」と頼んでから結構経つけど、そういえば音沙汰無いな。まあ実際知らない男子連れて来られても困るし、今度ちゃんと言っておいた方がいいかも。

 今は友達と遊ぶ方がいいや、私はこっちの方が性に合う。

 色恋はともかく、せっかくの夏休みだもの。インターハイ終わったら、全力で遊び倒すんだ。一度しかない高二の夏を、思いっきり楽しもう。

 …………テストの事は、とりあえず置いといて。

 体育館を吹き抜ける生温い風を感じながら、いつか古文で習った一文を口のなかで唱えてみる。

 遊びをせんとや生まれけむ、戯れんとや生まれけむ。どんな意味なのかはすっかり忘れたけれど、なんだかいい言葉な気がしている。

 この先誰かを好きになってもならなくても、人生が上手くいってもいかなくても、結局は同じ。私は楽しむために生まれたんだ、この四肢はそのためにあるんだ。

 さあ、夏が始まるよ。

 一戦を終えてお風呂に浸かり、思うのはいつもの事。一緒に入れたら良いのにな、なんて。まあ由紀子さんに一応隠れている段階な訳で、そこまでオープンには出来ないけどね。いずれはしたいけど、それは今じゃない。これから先幾らでも出来る、ほんの少し待つだけだ。春になって一人暮らしを始めたら、負担にならない範囲で大喜くんを連れ込もう。そこから一年、大喜くんも卒業しまえばもう遮るものはない。

 卒業した後の事を妄想しながら、多少のぼせてしまったのかフラつく感じを覚えての風呂上がり。ここから二回戦も良いんだけど、さすがにバレかねないか。汗も洗い流さず寝るのは嫌だし、それに大喜くんが持たないだろう。明日も朝練あるし、あんまり搾り取るのもなぁ。

 名残惜しくはあるけど「お風呂空いたよ」とだけドア越しに伝え、私は借り物の自室でベッドに横たわる。明日はどうしようかな、とかぼんにゃりと考えながら眠りに落ちていく。

 ああ、幸せだな。そう言い続けたい、続けなければ。私はすぐ考えすぎて不安になる、悪い癖があるから。

 

 

 蝶野さんと大喜くんはお似合い、私は身を引くべき。なんて形だけの納得では、とても気持ちまでは鎮まらない。

「嫌だ」

 小さく呟いて抱き締めるクッションはすっかり歪んで痛々しい。

 明け渡したくなんか無い、近付かないで欲しい。割り込んでこないで、何処かへ行って。そう言えたなら、どんなにか楽だろうか。

 たかだか一ヶ月の別れが拷問のように重い、大喜くんに会いたい。

 そりゃあお祖父ちゃんの一大事だ、心配する気持ちはもちろん有る。それにお母さんは私の事を大切に思っているからこそ、日本滞在の間は母娘水入らずの生活を望んでくれた。私を愛してくれる家族を、私もまた愛している。

 でも、だけど。

「大喜くん、大喜くん……っ」

 壁の薄いマンスリーマンションの一室、なるべく声を殺しながらもその名を呼んでしまう私。返事なんか無くても、それだけで心が熱くなる。

 そして、身体も。

 大喜くんを想いながら火照る肌をなで回し、下着の奥へ指を這わせていく。すっかり蕩けた肉の裂け目を指の腹でなぞり、瞼の裏に描くのは大喜くんの姿だ。

 もちろんそんな事された事無いし、うぶで可愛い大喜くんはそういう事には疎いだろう。だけどそれでも、想像は自由だから。

 ゾワゾワと背筋をかけ上がる甘い悪寒と、パチパチ弾ける意識の狭間。唇噛んで一気に運指を速め、力尽くで快感の尻尾を掴み爆発へと導いていく。

 粘液室の水音を立てながら頤を跳ね上げ、意識のブレーカーが飛ぶ程の勢いでかきむしる指が一瞬硬直し――ガクンと脱力して止まった。

「あー……あぁ……」

 偽物の浮遊感はわずかな時間で掻き消え、残るのは倦怠感と少しばかりの罪悪感。天井を見上げたまま動く気力が出ず、ふやけた指や鼻にまとわりつく生臭い匂いは気になるけれど、それよりもう眠気が強まってきている。

 ああ、またしてしまったな。こんなの良くないのに、やめられない。

 電車通学になって前より更に早起きする必要があると分かっていても、寝る前のオナニーは半ば日課になってしまった。大喜くんが隣にいないからこそ出来る事、だけど大喜くんから離れているのは辛い。どうしたものだろう。

 ああもう考えるのは苦手だ、手は朝洗えば良いしこのまま寝てしまえ。そうすればまた明日が来る、大喜くんに会える。それを楽しみにしてしばらく過ごそう、親に不満はないけれど。それでも指折り数えて待つのは、やっぱり帰宅の日なのだ。

 

 

 こうやって大喜くんを好きでいて、それ自体が夢みたいで。だからこそ、いつか引っくり返るんじゃないかと不安になってしまう。

 あと他に困るのは、意外なくらい大喜くんが女子に慕われているという事実だ。うんまあ蝶野さんはちゃんとフッたそうだし後輩の女バドちゃんにも睨みを効かせているけれど、それでも少しは考えてしまう。女房妬くほど亭主もてもせず、なんて言うけどさ。

 キスマークの一つも付けてやろうか、みたいに思ってしまっていけないな。

「――こんなんじゃ良くないな、とは分かってはいるんだけど」

 まだ飲み頃にはなっていない熱めのコーヒーを一啜りした私に、対面から飛んできたのは小さな溜め息。ぬう、なにさその態度は。

 せっかく人が頼ってるのに、さ。

「少しは真面目に聞いてよ夢佳、私こういうの下手なんだから」

「うっせぇ、いきなり呼ばれて長々とノロケ話聞かされる身にもなれや」

 この女は相も変わらぬガラッパチぶりを発揮しているな、全くもう。

 元々女子力とかそういうのはお母さんのお腹に置いてきたような奴だけど悪化してないか、ってまあ私も他人の事は言えないか。ガサツでガラッパチなのはお互い様だ。

 とは言え彼氏持ち期間は私より長いんだし、相談相手には出来ると踏んだのだけれども。花恋の場合、うっかりすると針生くん経由で広がりかねないから迂闊に喋れないんだよね……。

「お前バカなんだから、無駄に頭使ったって仕方ないでしょうが。バカはバカらしくバカやってろ」

 う。人をリズミカルにバカバカ言わないでほしいんだけどな、いくら本当の事とはいえど。

 そりゃあ――杞憂ってもんなんだろうけどさ、うん。

 気持ちは目に見えない、触れることも叶わない。だから例えすれ違ってしまっても、気がつくことは出来そうにない。

 だからこそ、救われる事もあるんだろうか。優しさとか思いやりとか簡単に伝わってしまったら恥ずかしくてやってられない、と他ならぬ夢佳も以前ぼやいていたし。曖昧なままで良いからとりあえず隣にいてくれれば、それで十分なんだと。多分自分がそう言われたり言ったりしまくってるんだろうな、彼氏さんと。……夢佳って口悪いしすぐ手が出るけど、彼氏さん大好きなんだよねぇ……。こないだもニーハイで踏んでやったとか、やたら熱心に頼み込んでくるから根負けしてツインテにしてやったら言い出しっぺの癖にドン退きしやがったとか、そんな話を色々聞かされたんだよね。まあそりゃこの大きさまで育った目付き悪い女が幼児みたいな髪型してたら、どう考えても地獄絵図だよ。そんなもん頼む方が悪いんだけどさ。

 しかしまあ、このとっ散らかった奴でさえどうにかなっているんだ、私もきっと平気なのかも。

「幸せなら幸せなままでいろ、揺り返しなんか来やしないよ。因果応報なんて無い、運不運があるだけなんだから」

 そう笑って豆乳抹茶ラテを一息に飲み干すと、夢佳は悠然と立ち上がる。なんだなんだ、一杯飲んだだけで帰ろうってか。もう少し付き合ってくんないかな、せっかく誘ったんだから。

 ……まあでも、言われれなくてもそうだ。今が幸せだから先が不安だなんて、それじゃ話が進まないじゃないか。

 立ちふさがる悪運なんて、この手で殴り倒せば良い。人より頑丈に生まれた私が、その程度で怯んでいられない。押して押して押し通る、押してダメならもっと押せ。いつだって最短距離、無理を通して道理を蹴り砕く。それでこその鹿野千夏、それあってこその私なのだから。

 大喜くんと過ごす日々が私は強くしてくれた、不撓不屈の心を持って突き進んでやる。

 見よ超強力のみなぎるパワー、瞬く間に最高潮。向かう所敵無しの百戦錬磨、恋する乙女は最強なのだ。

 さて、じゃあどうしようかな。とりあえずはここの払いを夢佳に押し付けて、大喜くんのところへ走っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、チキンタツタ野郎。お前の彼女なんなんだよ、何で先に立った私を追い越して、伝票握らせて帰るんだ」

「いやそれ以前にあんたの親友でしょう、そっちこそどうにかしてくださいよ」

「だからこそだジャガイモ面、ちゃんと躾とけよ彼氏だろ」

「あの魔神相手にどうしろってんです、振り回されてばかりですよ俺も」

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