世の中訳分かんない趣味はあれこれあるものだ、それは別に構いやしない。人間生きてりゃそんなもんだ、理解できない事の百や二百は普通にある。わかってもらえない事は更に多いだろう。
ただそういうのを周りにも求めるもんじゃぁ無い、面倒だから。
……本当にさぁ、そりゃ愛があるからやってはみるけどな。ちょっとくらいは遠慮しやがれ。とは言えあんまり及び腰で来られても腹立つんだよ、節度を持ちつつ甘えてくれ。
結構わがままな言い分なのは承知してるけど、それはまあ良いんだ。
お前がどうしても見たいって言うからこんな格好してやったんだぞ、見なかったふりするな。ちゃんと誉めろや、泣くぞ。
この大きさまでスクスク育った花の女子高生がする格好じゃねぇよ、こんな亜流のフレンチメイドみたいな。
「しっかし……これの何処が良いんだ」
幼稚園児じゃねえんだから、もうこんなのイタイわ。
鏡に映る私の髪は、正直こっ恥ずかしくなる高めの二つ結び……ツインテールというやつになっている。もっと低くしたらまあ有りっちゃ有りだろうけど、耳より上で結んでほしいとのリクエストなのだ。まあ地毛ではないから頭皮が痛くなる事はないけど、どうも重たい。長さはこの前までと殆ど変わらないのに。毛質のせいなのかな、安物買いやがったのかあいつは。
今度バスケ復帰するし髪切った、と事後報告したら宗介のやつがエラい嘆きくさってくれたのだ。短くする前に一度で良いからツインテールにして欲しかったのに、なんてほざきやがるから、こんな慣れない事をする羽目になってしまった。そもそも普段は伸ばしっぱなしのザンバラ頭だぞ、縛ったり纏めたり面倒臭い。
「それになんだよ、この服。何処で買ってきたんだ」
私が今着ているのは、宗介がヅラと一緒に用意してきたフリル一杯夢一杯な可愛い服。私をなんだと思ってんだ、女子力なんか母親の腹の中に棄ててきたような女だぞ。クラスじゃイケメン呼ばわりされてる身で、何で態々フリフリのを着なきゃならん。この寒い時期にミニスカなんて冷えて厄介だし、あれこれ飾りが多くて落ち着かない。フランス人形かなにかの仮装なのか、いやでもこれ全体的に黒いし違うな。
そもそもなんで私のサイズを熟知した上でこんなもんを速攻で用意出来るんだ宗介、あいつもしかしたら変態なのか。いや変態だな、うん。
さっきうっかり母さんに見られたしなー……、ツインテ被る前だったからまだ良かったけど。
て言うか『そんな女の子みたいな服着てるの初めて見た』じゃねぇよ、嬉しそうにしてたのがなんか腹立つ。あんたが女子っぽい服買って来ないから、女子女子した格好してないだけなのに。バイト代も半分家に入れてるから、自分じゃなかなか服とか買えないんだぞ。まあシンプルに似合わないのもあるけどね、宗介が頼んでこなきゃ制服以外でスカート履かないし。背は高いし目付き悪いし、バスケでは有利だから構わないっちゃ構わないか。
とりあえずまあ試すだけ試したし、汚さんうちに脱いでしまおう。一銭も出してないとは言え服を傷めるというのは忍びない、髪も戻そう、蒸れる。
しかし明日、この格好でデートか。あのバカ何を言うやらなあ、まったくさ。
「楽しみにしてたりすんのかな、あれも。こないだのニーハイも相当期待してたし」
そうそう、ニーハイも穿かないと。……寒いだろうなぁ、太股剥き出しだぞ。
――まあ、良いや。他ならぬ
なんてそこそこ浮かれてたのにさ、なんだその態度。
「あー……じゃあ行こうか」
顔を背けて歩き出そうとする宗介の首根っこをふん掴み、無理矢理こっちを向かせてやる。待てコラお前のせいだろ、この惨状をどうにかしろ。
待ち合わせの時点でどんだけ恥ずかしい思いしたと思ってるんだ、こんなコンセプトカフェの店員みたいな服着て頭ツインテールなんだぞ私は。ここでお前が投げ出したらどうなるんだ、せめて収拾つけろバカ野郎。
「えー……だって、まさか本当にゴスロリ着てくれるなんて思わなくて……」
そんな博打みたいな考えで服まで買うなよ、と一発蹴りを入れてやる。良いんだけどさ、私の金じゃあるまいし。
それに、――それに。何だかんだで結構な付き合いだ、本気で引いてる訳じゃないのは分かってる。目を合わせない理由も、そりゃあ分かりきってるさ。
「おい耳が赤いぞ、変態メガネ」
耳どころの騒ぎじゃない自覚があるんだろう、言ってやった途端にあわあわと狼狽える宗介は何やら可愛く見えるから不思議不思議。よっぽど壺にはまったけれど、それを認めるのが恥ずかしいんだな。……だからって無かった事にしようとするな、私がバカみたいじゃないか。
まったく、私らは変に似てて困る。素直になるのが苦手で、どうも損ばかりだ。
「そんなにこういうの好きなのかよ、ったく」
「いや俺が好きなのはそういう格好じゃなくて、夢佳自体だよ……」
ああ、知ってるよ。だからこそこんなのと一緒にいるんだもの、な。
こんなコスプレみたいな姿で長々歩かせる気かよ、と悪態なんか吐いたり吐かなかったりしながら、陽も落ちきった年末の街を二人で進んでいく。
何処へ行こうと言うのか、そんなのは一つしかない。そこへ到るまでの寄り道をしているだけの時間は、それでも結構楽しい。気忙しい歳末の光景を横目に、私たちはいつも通りだな。
たかだか一年と少し、大した長さではないとも思う。でもこんな野良犬みたいなガラッパチと一緒じゃあ、気が休まらなくて宗介は大変だったかも。心を開くとか開かないとか、そんな御大層な事をしたりはしない。ただめんどくさくなって、気を遣うのを止めただけ。
それはつまり、私は宗介を
握り返す手の温もりを感じながら、足はいつもの場所へと向いていく。こうして出掛ける時の目的地――ラブホテルへと。
思えば初めて肌を合わせてから、もう半年になる。何見てんだ何処触ってんだ痛ぇ抜け殺すぞ、と賑やかな夜を過ごしたものだ。全力で蹴り入れたし殴りまくったから、宗介はヘトヘトになってたっけ。まあ私だって痛い思いはしたんだから、責められる謂れなんか無い。無いったら無い。
まあそれはそれとして、うん。
ベッドに座った宗介、その股座にあるそれを胸で挟みながら私は思う。こいつ変態だ、と。
別に触れるのを嫌だとは言わないけど、でもなんでこんな。私のサイズじゃ両側から押さえないとスカスカになるんだぞ、見てわかるだろうに。……最初は「髪巻き付けてしごいてみて」とかろくでもない事言ってたから、ひっぱたいて止めさせたんだよね。別に宗介が買ってきたヅラがどうなろうと構わないけど、特殊なプレイをしたという実績を残すのは癪だ。まあこの胸でするのだって、特殊っちゃ特殊なんだけど。
それになんやかや言っても、だ。こうして蕩けきった顔の宗介を見るのは、嫌いじゃない。自販機で買ったローションを垂らした乳間で宗介自身をしごきながら、そんな事を思っていると――ふと私はある事に気がついた。
宗介の鈴口は場所の都合上、私の顔を向いている訳だ。つまりはこのまま射精した場合、ちょっと不味い事になりかねないか。
一回中断させようと、口を開いたその瞬間。宗介の身体が、ビクンと跳ねるように震えそして。
「ぁ、……出、っ」
……猛烈な勢いの白濁液が、私の口元目掛けて吹き上がった。熱く生臭い精液は半開きの口にも花にも殺到し、顔を白く染めていく。なにしやがる、と言いたいけどそれも儘ならないくらいに激しい射精。
漸くそれが収まってから入ってきた精液の残滓を嚥下し、そのまま私は宗介のほっぺたをぎゅいーっとつねりあげる。
「あにふんだコラお前、人様の顔にマーキングすんじゃねえ」
幸せそうな顔しくさってからに、この変態め。
良いけどさ、良いけどね。
良いんだけどさ、うん。
別に怒りゃしないけど、少しは遠慮しやがれ。
愛してるから許してやるけどね、そうでなかったら殴ってるぞ。
ベッドに身体を預けて私を待つ宗介に跨がり、ゆっくりと腰を落としていく。とりあえず手綱は握っておかないとまだちょっと不安と言うか、宗介に任せるのが少しだけ怖いから。まさか宗介が豹変するような事は無いだろうけど、他人に自分を託すのはどうも苦手だ。だから一人が良い、一人で良い。なんて思ってきた私も、少しずつ変わりつつあるかもしれない。
ゴムの皮膜を纏った肉の塊を押し潰すように高度を下げていくと、ほどなく圧力に負けぐにゅりと宗介が私の内側へと分け入って来たのが分かった。
ぞわりと脊柱をかけ上がる甘い悪寒、それはどんどん強まっていく。みしりと骨盤を軋ませて宗介へと着地したときには、意識を刈り取る程にさえなっていた。
油断すると視界が歪んでいく、口は緩んでヨダレを垂れ流している。ああ、まったく見苦しいだろうな。こんなのを彼女にした身の不幸を呪うが良いさ、まったく本当に。しかしこの感覚はやっぱり、宗介相手だからなんだろうな。指とか道具とか、他の男のだったらこうはなり得ない……筈だ。色々と考える事はあっても、結局答えは一つしかない。
愛してる、という事だ。シンプルで結構な話だ、人間複雑にすりゃ良いってもんじゃない。汗にまみれて身体を上下させるこの瞬間を楽しめれば、それで良いんだ。
――と。その思いがもしかしたら、伝わったのかもしれない。お腹の深い部分で、激しい拍動が巻き起こるのを感じた。膣内に風船を入れて膨らませたように、中が押し広げられていく。薄いゴム越しに、宗介が射精したのだ。もちろん安心の日本製コンドームは一滴もそれを漏らしはしてないだろうけど、でもほんの僅か
とは言え今の私らが背負える訳がない、そんなのはもっと大人になってからだ。
「なんだよー……もう出してんじゃねぇって」
煽るように囁いて、私はそっと宗介へとキスを落とす。ああ、良いなぁ。こういうの、良いなぁ。
私は宗介といれば、何処までも強くなれる。本能がそれを教えている、愛さえあればどうにでもなると。
あれからまたもう一戦終えて、シャワーも浴びて。手を繋いだままベッドの上に転がる私たち。
帰りはまたあんな格好か、と思うと起き上がるのが億劫だ。いやまあそんなのは只の照れ隠し、本当は宗介ともっと一緒にいたいだけ。
バスケに復帰する大きな理由はナツだけど、でも宗介の前でカッコつけたいのもまた事実。二年の終わりから入部したって活躍できるとは思えない、とは言え私もかつては天才と謳われた身。その辺を平らげて目指せインターハイ、夏までに徹底的に鍛え上げてやるさ。
遠回りをしたナツとの決着は、そこで必ず付ける。勝っても負けてもうらみっこなし、今までのすべてを賭けてぶつかろう。そこで漸く、貸し借りが無くなる。また昔みたいな関係に戻れる、……かも。
まあ首尾よく栄明に勝てたなら、あとはもうノンストップ。どんな強豪も古豪もブチ抜いて、奪い取るべきは只一つ。日本一の栄冠を手にし、華々しく凱旋してやろう。そんなとんでもないカノジョがいる、なんて宗介にしてみれば末代までの自慢になるだろうな。遠慮なく周りにひけらかせ、私が許す。
その後は、どうしようかな。そういや夢は可愛いお嫁さん、なんて言ってた時代もあったりしたような気もする。……その手も無くはない、かな。宗介がどんな未来を描いてるか分からないし、そうそう上手くはいかないだろうけどさ。
さてしかし、今考えるべきは帰り道をどうするかだ。いっそ宗介に買ってこさせて暫く休んでるかな、サイズは知ってるんだし。いやでもそうすると、また訳分かんないやつ買ってきかねないかも。一緒にいかないと不安だ、果てしなく不安だ。冬も押し迫ったとは言え時間には余裕がある、と言うか門限なんて洒落たものがあるようなブルジョア階級じゃない。
それに母さんも新しい彼氏と一緒の時間が長い方が良いだろう、これから服買いつつ改めてデートするかな。暴れ倒してお腹も空いた、行きたい場所もまだまだある。ワガママ言って言われて、賑やかに行こうじゃないか。
好きは最強の感情だ、お互いを好き同士なら更に強い。
控えめに言って私たちは絶対無敵、負ける気がしなさ過ぎて怖いくらいだ。
「宗介ー」
「なに?」
「愛してるぜー」
「はいはい、俺もだよ」
………途中までは地毛扱いで髪コキとか書いてましたが、そういえばウインターカップ観た翌日にはもう髪切ってたと思い出して大幅修正しました。
時間かかるったら……。