今まで自覚していなかったのが信じられないくらい、私の心は大喜くん一色に染まっていた。
考えてみれば日本に残ろうとした理由さえ、その大部分は彼の事があったから。あの時に引退した後の悔しさを思い出させてくれなかったら、きっと今ごろは遠い異国の地にいただろう。それに疑問も抱かず、家族のために。
まだ恋心というものを知らなかった時分から、私はそうだったんだ。
バスケに邁進するのも大喜くんを想うのも、私にとっては同じことなんだ。欲しいと思うからこそ、手を伸ばす。何があろうとあきらめない、私は貪欲だから。
夢佳と話して私は自分の気持ちを知れた、それに関しては感謝しかない。近所にいると分かったんだし、今後は仲良くしていきたい。……ああも盛大に啖呵を切った手前、そう上手くいくかどうかは分からないけど。しかし私ってそんな風に見えていたのか。
それはまあ、それとして。私は今、そのお陰で困っているのだ。
誰よりも好きな人が一つ屋根の下にいる、と意識してしまうようになったから。
感情を爆発させた余韻も醒めないまま、借り物の部屋で私は悶えている。この壁一枚向こうに大喜くんがいる、身支度の音さえ聞こえる状態で。
これは――これは、結構スゴい事ではあるまいか。
私がここにいるのは、一重に自身のワガママからだ。一方的でメチャクチャな子供の理屈を受け入れ、この雑把放題な女を住まわせてくれている由紀子さんたちには頭が上がらない。下手をしなくても実家より快適かもしれない、
それに蝶野さんが大喜くんに告白した、というのは知っている。蝶野さんが私にわざわざ言いに来た理由は知らないけど、同居している私には話しておきたいとかそういう義理立てだろうか。
二人は当然のようにお似合いで、きっとすぐにでも
部活以外で人を押し退けるのは好きじゃないけど、何処かで蝶野さんと張り合わないといけないんだろうか。
日本が多夫多妻の国だったら話は早いんだけど、そうもいかない。政界に打って出て変えてやろうにも、まだ20年くらいかかるな。
しかしまあ、どうしたものか。
その辺はとりあえず置いておくとして、直近の問題がある。気持ちに火が付いてしまったせいで疼き出したこの身体をどうするか、という非常に大きな難題が。
部屋を汚すのも忍びないから回数は控えてるんだけど、それでも週に一回はしてしまう。加えてこの興奮だ、弄らないと治まらない。とは言えもしも、もしも。大喜くんに聞かれてしまったら、どうしよう。
やっぱり嫌な顔するよなあ、絶対。修学旅行とか合宿でも我慢できなくてコッソリしてる子が必ずいるけど、他人のそういうのって正直ちょっと引いちゃうし。……はて、でもそう言えば異性だと違うもんなんだろうかな。そもそも嫌がるかどうかは人にも依るかもしれない、その辺は大喜くんの感性次第か。でもまあ好きな人のならまだしも、そうじゃない相手のは抵抗ありそう。
しかしそうなると、やっぱり嫌だろうなぁ私だと。やれやれ、バレないようにコッソリするしかなさそうだ。何がやれやれなんだか知らないけど、さ。
「ん、……ぅ……ぁっ」
目を瞑って指先に意識を集中し、肌の上をゆっくりと滑らせていく。勝手知ったる自分の身体、勘所は分かっている。分かっているからこそ、そこをほんの僅かずつ外しながら触り続けるのが大好き。焦らされて熱くなっていく身体、その熱は吐息となって漏れていくのだ。
――と。身を捩った所で、クチュリと小さく水音が鳴った。どうやらさっきから大喜くんの事ばかり考えているせいだろう、結構な速度で濡れ始めている。全く困ったもんだ、あんまり汚したくないのに。それにあまり汁気が多くなると音が立って、
その瞬間、肌に電流のような快感が駆け抜け危うく声を出しそうになってしまう。
私のこんな面は知って欲しくない、知られたくない。だからこそ、興奮してしまう。厄介だな、この性格は。
そう思いながらも指はショーツの中へと滑り込み、肉の裂け目をグチュグチュと掻き回していく。人差し指だけでは足りず、薬指も添えて。オナニーを覚えたばかりの頃は擦り付けるだけでも満足していたのに、今では指を根本まで挿入してしまっている。爪の先で内壁を抉り、指を激しく動かすのが気持ちよくて堪らない。そして私が思ってしまう、これが大喜くんの指だったらと。
自分以外誰も触れてはいけない場所に、大喜くんを受け入れる。想像しただけで心臓は早鐘を打ち、溢れる愛液は止まらない。
このショーツはもう棄ててしまおう、シーツ類もこっそり全取っ替えだ。盛大に汚してしまえ、その方が気持ちいい。由紀子さんには悪いけど、こちとら御年頃なんだから。
指二本では満足できず、中指まで総動員して私は激しく自分を攻め立てる。もっと、もっと。どうせ大喜くんはもう寝ているだろう、
ドクン、と一際強く脈打つ胸。その拍動は身体の芯を通じて全身を震わせ、視界が歪む程の絶頂が脳を貫いていく。それでもどうにか口だけは固く閉じ、私は壁に向けて倒れ込みながらその強すぎる悦楽に堕ちていった――。
「ああ、……ねぬい。ねむ……ぅ」
昨日遅い時間から始めてしまった上、終わったあと冷静になってから罪悪感に沈んでしまったせいで今日の朝練はさすがにちょっとだけ普段より眠かった。とは言えペースを乱すと大喜くんに気を遣わせてしまうし、何とか平生を装ってはいたけれど結構辛い。こんな日に限って移動教室のある授業が続き、普段通りの現国から日本史へと繋がる熟睡コンボは成立してくれない。ああ、ねむあじがエグい。
部活までには一眠りしたいな、と思いながらもそんな時間は開かないまま気が付けば時刻は夕方。ああもう帰ったら早めに寝てしまおう、なんて考えながらもウインターカップに備えて練習は休めない。裕奈も渚も頑張ってるんだ、眠いくらいで止まっていられない。
気合い一閃、頬を叩いて睡魔を振り払うと私はコートへと舞い戻る。大喜くんも練習中だ、無様な姿なんか見られたくない。
頑張れ私、負けるな私。
そう発破を掛けながら放課後の数時間を部活に費やし、帰宅してご飯を頂きお風呂も済ませて後は寝るだけという刻限になって。私はようやく、思い出したのだ。考えてみたら、昨日考えた
大喜くんを思えばやっぱり身体は疼くし、そうなるとやっぱり色々と気になる。何にも考えないまま一日過ごしてどうする私、本当に。
今朝の様子からすると、昨夜のオナニーは勘付かれなかった。と言うか多分今までも気付かなかった……んじゃないかなぁ。きっと、メイビー。気付かないふりが出来るほど大喜くんは賢くない、なんてのは失礼かな。私だって相当だし、人の事は言えないか。そんなもんだよね実際。
寝不足の頭でそんな事を考えていると、どうも身体が火照ってしまう。また今夜もしようかな、と手を伸ばしかけた時。
閃かなくても良いようなアイデアが、回りの悪い頭の奥で瞬いた。
死ぬほど頭の悪い思い付きはでも、蠱惑的に過ぎる。
悪いことはいつだって、楽しいのだ。
小さな袋一つ片手にそっと部屋を這い出て、目指す先はすぐそこ。と言うか、隣だ。音もなくドアを開け、ゆっくりと忍び込む。
夜目の効く身に産まれて良かったと思うのは、こういう事をするときだな。薄いカーテンから射し込む月明かりだけで、部屋の様子が見てとれる。
身を屈めて近づくのは勿論、この部屋の主――大喜くんのベッド。掛け布団をそっと持ち上げて、更に私は大喜くんの腰に手をかけて。
「ん、……っ」
パジャマを下着ごと、引きずり下ろした。その瞬間鼻に感じたのは、青臭い生臭さ。本能が知っている、
物心ついて以来初めて見るオトコノコは、だらりと垂れ下がってまるで蛇のよう。醜いと言えばそうだろう、でも私はそうも思えない。大喜くんの、だから。
もうこの時点で大分、取り返しがつかない事態だ。ここで引き下がるのが、真っ当な人間だろう。
だけど今の私は最早、真っ当じゃない。寝不足と発情でおかしくなっている、どうしようもない女だ。
ならばもう、仕方がないじゃないか。
おっかなびっくり、そこに触れてみる。……と。
「わ。……ぁ?」
一瞬ビクンとオトコノコが震え、そしてどういうわけかムクムクと大きくなり始める。えーと確か勃起、だっけか。一応保健体育の知識くらいはある、とは言え。
まさか、起きてしまったんだろうか。そう思い身を離して視界に入れた大喜くんの顔は、さっきまでと同じく天使のような寝顔のまま。もしかして、寝ていても反応するものなんだろうか。というか、触っただけでこんなになるとは。うーん、男の子って分かんない。
まあ、良いか。分かんないなりに、楽しめば良い。
再び下半身へと身体を戻し、次は大胆にも舌を這わせていく。口に広がるのは、オナニー後の指と同じしょっぱく生臭い味だ。美味しくはないけど、花恋が言っていた通り興奮してしまう感じがする。もっと味わおうと舐め続けても、先端からはてらてらと止めどなく汁が溢れて止まらない。
口の中を大喜くんの味に染めながら、私の手は自分の脚の間をもぞもぞと弄っていく。昨日よりも更に激しく、熱く濡れているそこがまるで私に訴えるように蠢いているのが感じられる。もっと先へ進んで、と。
その声無き声に従うようにして、私はショーツを脱ぎ捨てていた。この先、それはもう一つしかない。
セックス、だ。性器同士の結合、恋人同士にしか許されない行為。それをこんな、同意さえ得ない一方的な夜這いでして良いわけがない。そんなのは考えるまでもない、でも。悪いことだからこそ、胸が張り裂けそうなくらいに期待してしまう。
剥き出しになって天井を指すオトコノコ、そこへと覆い被さるように腰を落とそうとして――ふと思い出す。忘れていた、するべき事を。
ベッドの横に放り出していた袋から取り出すのは、所謂コンドーム。「万が一があるから、ちゃんと持っときなさい。男なんて隙有れば生でしたがるんだから、有無を言わさず着けるのよ」、そう花恋に教わって以来一応は持ち歩いてるものだ。他は後始末用の濡れティッシュとかも入ってるけど、それは終わってからで良い。
ガチガチに張り積めたオトコノコに装着するのは、想像よりかは簡単。最初の時みたいにダレていたままだったら、こうもいかないんだろうけど。
ゴムの皮膜を纏ったその姿を跨ぎ、粘液を垂れ流しながら「照準」を合わせていく。入るかな、どうかな。もし入ったとたんに大喜くんが起きたらどうしよう、そうなったら言い訳の仕様もない。
しないけどさ、言い訳なんて。それで破綻するなら、それでも良い。私は今が楽しければ構わない、後の事は後で考えよう。
そんな想いで私は、大喜くんへと
「、……っ!?」
その瞬間に感じたのは、痛みよりも圧迫感。お腹の中を拡げていくのはオナニーと変わらない、でもその深さと幅が違いすぎる。指三本どころではない太さと長さ、それが私の中へ一気に打ち込まれていく。
更に凄まじいのは、動く度に内壁がゴリゴリと削られていく事。指よりもずっと無遠慮で力強い、オトコノコならではの掘削力。
先端の感触を最深部に感じながらも、私はまだ大喜くんに着地していない。私が浅いのかそれとも大喜くんのが長いのかは分からないけど、やろうと思えばもっと深くまで届くのではないか。それを求め腰を浮かせては体重をかけて落とす、その繰り返しで更なる深みを目指す私。
そして何回目か、それとも何十回目か。
落とした腰の奥で、何かが起きていく分かった。開いてはいけない部分が開き、大喜くんを引きずり込もうとしている。
メリメリと音を立てて強引に抉じ開けられていくのはきっと、
理性が大音声で警鐘を鳴らして尚、私の胸は悦びで震えるばかり。壊れようが死のうが、それでも構わない。
そしてついに私の身体は大喜くんへと軟着陸を果たし、その奥で大喜くんは私の最奥にキスをしてくれた。子宮の一番奥に、オトコノコの先端が達したのだ。
有り得ない行為の果て、有り得ない状況が作り出した謀外の快楽。それは私の頭を焼くだけでは済まなかった、そう察したのは次の瞬間。
子宮の中が爆発した、そうとしか思えない程の勢いで何かが膨れ上がったのを感じた。それが何なのか、私は即座に気付いた。
射精、だ。大喜くんが眠ったまま、射精した。コンドームに阻まれて接触こそしていない、しかしその膨張感が教えてくれる。盛大な勢いで迸る精液がコンドームを内側から膨らませている、という事を。
その事実を理解して、私の理性の箍は今度こそ弾け跳ぶ。
「ぅ"ぁ……あぁー……」
頤を跳ね上げ呻くように嬌声を吐きながら、一秒毎に押し寄せる絶頂に身を任せ。私はただ、ベッドの上で跳ね続けた。
過ぎた興奮の残滓が焼き付いたのか、部屋に帰っても身体は焼けるように熱い。
あそこまでやっても目を覚まさない大喜くんが悪い、途中で起きてくれたら引き下がったのに。そんな理不尽な事を思いつつ、持ってきた使用済みのコンドームを見やる。あのまま何度も射精してくれたんだろう、パンパンに膨れ上がって限界まで薄くなっている。引き抜くのも結構大変だったな、破れたらどうしようかと思いながらズルリと引きずり出したけど。
にしてもどうしようかな、これ。ただ捨てるのも勿体無いけど、使い道は何かあるかな。
――そうだ、こうしてみようか。
ひょいと持ち上げながら口を開け、舌をつき出し。垂れ落ちてくるその中身を、自らの口内へと注ぎ込む私。
酷い臭いと味を舌に絡み付かせ、重力を借りて喉の奥へと流れてくる精液が、どういう訳か不快に感じない。それどころか、それどころか。
もしこれが、膣内で起きたなら。それは絶対に許されない、私どころか大喜くんの人生もメチャクチャになる。蝶野さんも泣くだろうし由紀子さんにも顔向けできない、つまりは
考えただけでゾワゾワと背筋が粟立つ、背徳感が止まらない。
このままオナニーしようか、と手を伸ばしかけて私はちょっと思い止まる。いやいや、ここは我慢だろう。大喜くんを襲うのも、暫くは我慢。
目指すは次の排卵予定日、一番の危険日だ。そこを狙って、今度は直に大喜くんとしよう。もっともっと、深く快感に溺れるために。
ああ、楽しみだな。