暑すぎて体調が戻らんのよ……。
考えてはいけない、そう思えば思うほど、心の中で映像は鮮やかになっていく。
千夏先輩の、身体が。千夏先輩の、色気が。千夏先輩の、全てが。目にすることなど有り得ない、それなのに。まるで現実のように、ありありと思い描けてしまう。
どんなに腹筋に励もうと、その想いは振り払えない。
千夏先輩が、俺を愛してくれる。俺を抱いてくれる。都合の良い妄想は、罪悪感を呼び寄せて。でも罪深いから、気持ちいい。
先輩の姿を思い浮かべながら、目を閉じて。夢中で自分を扱き続ける。千夏先輩にしてもらっている、千夏先輩がみてくれている、そう自分をだましながら。
それだけで快感はどんどん高まり、手はニチニチと粘液混じりの音を立てていく。
千夏先輩、千夏先輩、千夏先輩……!
声に出したなら、もっと気持ちいいだろう。でもそれは絶対に出来ない。壁の向こうには、千夏先輩がいるのだから。
もし見つかったなら、俺はもう二度と先輩の顔を見られない。いや先輩はすぐにでも猪股家を出ていくだろうし、俺も親族会議にかけられて追放される。分かっているけど、いつか我慢できなくなる日が来る。それはもう、明日かもしれない。
「……、ぁ……っ」
血が出るほど唇を噛み締め、背骨を駆け降りる衝動に身を任せる。激しい脈動と共に快感が吹き上がり、全身が弛緩していくのが分かった。
荒い息の中で目を開けると、そこにはもちろん先輩なんかいない。ただ飛び散った精液が、床に染みを作っているだけだ。
急速に引いていく熱と、沸き上がる罪悪感。でも気だるさがそれよりずっと強く身体を支配していって、気がつけば俺はそのままベッドに倒れ込んでいた。
ああ、またしてしまった。でも仕方ない、だって仕方ないんだから。
誰かを好きになるなんて、生まれてはじめてだったんだ。理由もなにも分からない、気がつけば俺は千夏先輩を好きになっていた。あの日に見た悔し涙も、朝練ですれ違う凛々しさも、何もかも。あの人と、恋をしたい。そう思えるようになっていた。そんな中で、突然始まった同居生活。家にいる限りいつだって、すぐそばに大好きな人がいる生活。それはとても幸福で、でも。でも少しだけ――困る。
千夏先輩は、俺たち猪股家のみんなを家族のように信頼してくれている。だからふとした拍子に、無防備な姿を見せてくれたりする。寝起きのもにょもにょ顔、風呂上がりのホコホコした姿、油断した部屋着。その全てが、俺を悩ませる。だって俺も、男だから。
千夏先輩にとっては俺なんて、男扱いする程のもんじゃない。目の前にいても平気で着替えようとするし。信頼されている、安全な存在だと思われてる、それは良いことかもしれない。それなのに俺は、俺は……先輩を異性として見てしまう。好きだから仕方ないんだけど、でも信頼を裏切っているようで辛いんだ。
先輩をそういう対象にするなんて、許されない。分かっているけど、止められない。いつか先輩とそういう関係になりたい、そう思ってしまう自分が嫌だ。欲望に振り回されて、大好きな人を汚すなんて。
やっぱり俺は、格好悪い。最低だ。
悩みは頭を重くするばかりで、何にもならない。
風呂に浸かってリラックスしながら、どうしたもんかと無い頭を回しても、やっぱり無駄でしかない。
もし千夏先輩が、俺を好きだったなら。それで全部終わるんだけどな、だって両想いで恋人同士になってしまえば、そういう事をしたって自然なんだし。そうなれたらどんなに良いか。
ま、有り得ないけど。千夏先輩が好きになるような男って、絶対俺みたいなじゃがいも野郎じゃないし。
暖まったせいか思考もだんだん明るくなっていく、やっぱり俺は単純だ。それでいい、悩んでも仕方ない。してしまうのはもう生理現象だから、それでいい。とりあえずバレないようにしよう。
そんな、結論にもならない結論を見出だしつつ、お湯のなかでボケッとしている俺。その視界の端に、なにか見慣れないものが映った気がした。
「ん、なんか挟まってる?」
先輩が実家から持ってきているシャンプーやボディソープの棚の辺り。水色をした布のようなものが、置かれているのが見える。まあ、先輩のスペースにあるものを一々気にしたりはするべきじゃないんだけど。そうは思えど、無性に気になって仕方ない。まさか、という変な期待がその興味を後押ししてしまう。
そっと手を伸ばし、掴んでみる。触れたことの無い、独特な布地の感触がそこにある。丸められたそれは、なぜか興奮を誘ってくる。
これは、これはまさか。――もしかしたら。
膨れ上がる期待と共にそれを広げると、その形はやはり思った通り。薄い水色でレース素材の、それは。
「先輩の、……ぱんつ……だ」
何でこんな所にと思うけど、もしかしたら下着だけは自分で洗ってるんだろうか。そういうのが普通なのかどうかは分からない、女子はそうするのかもしれないけど俺にはサッパリだ。でも実際、ここにはそれが置かれていた。部屋に干す筈がうっかり忘れたまま上がったんだろうか、それ以外に理由なんか無さそうだけど。
興奮に浮かされるまま、布地に鼻を近づけてしまう。洗ってあるんだろうから洗剤の匂いがするのは当然として、でもほんの僅かに嗅ぎ覚えがない匂いもする。クロッチと言うんだっけ、真ん中の辺りにどこか形容しがたい匂いの気配が残っている……ような。位置を考えたら、それこそ先輩の、……そこを覆っている場所だ。きっとこれが、先輩の匂い。オンナノコの、匂い。
胸が高鳴る以上に、股座が痛いくらいに猛っている。先輩の秘密の場所を嗅いでいる、その事実がどうしようもなく興奮してしまう。衝動に任せたまま、その布地を勃起へと被せたまま扱き始めてしまう俺。とんでもない事をしているのはわかっている、でも手は止まらない。柔らかい感触に、先輩の姿を重ね合わせる。先輩の中にいる、先輩とセックスしている。そんな妄想が頭を痺れさせ、快感を際限無く高めていく。
そんな状態で、保つわけがない。
ほんの数分、それだけで俺は限界を迎え。布に包まれたまま、射精していた。
「あー……、あぁ……」
脳裏に思い描いたのは、もちろん千夏先輩。千夏先輩の中で、欲望をブチまける姿。
でも気絶しそうな快感はすぐに引いて、残るのはやっぱり罪悪感。と言うか、うん。実際に罪悪が残っている。
どうしよう、これを。先輩が気付いて取りに来るかもしれないのに、ぱんつは精液まみれになっている。まさかこのままには出来ないし、でも捨てるわけにもいかないし。
とりあえず、洗おう。洗ってもとの場所に置こう。それで見なかった事にしよう。
精液の痕跡が残らないよう念入りに擦り、一応絞ってさっきまでのように丸めて。記憶にある通りに置き直し、一息吐く暇もないまま風呂場から逃げる。
着替えて二階へ上がろうとした、丁度その時だった。
「あ、大喜くん。お風呂上がったんだ」
階段の前で、先輩と会ってしまった。顔向け出来ないとはまさにこの事だけど、でもどうにか平生を装わなければ。気付かれたら、俺が終わってしまう。
「ええ、ちょっと長風呂しちゃいました。……先輩、どうかしました?」
「ん。喉乾いて、さ。水取りに行くとこ」
そう言うと先輩は俺の横を通りすぎていく。
声のトーンおかしくなかっただろうか、変な感じにならなかっただろうか。とりあえず今のうちに、部屋に戻ってしまおう。大丈夫、そう思うしかない。それしか、出来ることはない。
ベッドに腰かけたまま、動けない。さっきの刺激が頭を灼き続けて、何も手につかない。それにこんな目が冴えた状態で、眠れる筈がない。余韻に耽りながらもう一回、とも思うけど、それはそれで抵抗がある。あれは異常な状況だ、二度と起きないしそもそも起きてはいけない。エスカレートさせてしまったら、俺は先輩の部屋から下着を盗み出してしまうかもしれない。そんなことにならない為にも、気を鎮めて忘れなければ。
大丈夫、大丈夫。きっと大丈夫、と呪文のように唱えながら、心の歪みを沈めようと意識を集中させていると。
コンコン、とドアをノックする音が小さく響いた。
「大喜くん、起きてる? 入って良いかな」
心臓が破裂しそうになる、その声は。間違いなく、千夏先輩だ。――まさか。まさ、か。
「今週のジャンプ、貸してくれないかな」
「え、あ……はいっ」
そう言えば今週はまだ貸してなかった、と思い出しながら胸を撫で下ろす。どうやら危惧した事ではなさそうだ。
ドアを開けてジャンプを渡すと、先輩はいつも通りに嬉しそうな顔。……自分では買わないんだよな、この人。まあいいか、この笑顔の為なら俺はパシられたって構わないから。
「ありがとね。……ああそうだ、大喜くん」
笑顔のまま、先輩はズイッと距離を詰めてきて。なんだろうかと訝しむ隙すらないまま、先輩は。
「
そう、言い放った。
瞬間、今度こそ心臓が弾け飛んだと思うほどに拍動が強まる。
「あ、……はぃっ」
反射的に肯定してしまう。でも謝ること、そんなの有るに決まっている。
あんなことを、してしまった。謝るどころの騒ぎじゃない、許されることじゃない。
口は乾ききり、息さえ吐けない俺を見据えたまま、先輩は笑顔で言葉を紡いでいく。
「知ってるかな、レース地って見た目はいいけど、色々不便もあるんだよ。手荒に扱うと、すぐ傷むんだよね」
「あ、……ぅ」
「普段と違う洗い方したり、さ。そういうの、持ち主には分かるんだよ」
貼り付いたような笑顔、その視線は刃のように俺を貫いて刻んでしまう。
「――まあ、良いや。
ゾワリと背筋に走る悪寒。全て気づかれている、という事実。そしてそれ以上に強い、罪悪感。先輩に嘘を吐いている、という事自体が罪深くて恐ろしい。このまま話を終えてしまったなら、俺はもう二度とこの人に近づけなくなる。同じ空間にいる資格すら失う。最低の更に底まで、俺は堕ちてしまう。
怖い、怖い、怖い――!
「ごめ…な、さ、ぃ……」
絞り出した声は脅えに歪み、切れ切れにしかならない。脚はガクガク震え、視界は涙で滲んでいく。
「んー……? どうして謝るの? 大喜くんは、いったい何をしたのかな?」
子供をあやすような優しい口調で、でも俺には恐ろしさしか感じ取れない。先輩は、怒っている。本気で怒っている、俺が悪いことをしたからじゃない。それを取り繕おうとしたから。
「……千夏先輩、の、下着……を、使い、ました……」
心の底から恐怖しながら、ただ懺悔する。
膝が力を失い、意識しないまま床にくずおれていた。
「そう。どうして、隠そうとしたの? すぐわかるのに」
そんなの、一つしかない。
「怒られるの……が、先輩に嫌わ、れるのが、怖い……からっで……す……」
涙はボロボロとこぼれ落ち、床に染みを作っていく。それは俺の本心で、何よりも醜い場所。大切な人を汚して、それを隠して。怖くて仕方ないから、逃げ出したいから、それだけしか無い。
「そう。でも大喜くんは、平気で嘘を吐くような子じゃないよね? 怖かったから、言えなかっただけなんだよね?」
頭におかれた柔らかい感触は、きっと千夏先輩の手のひら。殴るのではなく、ただそれを頭の上に押し当てて。そっと、撫でていく。
「私はね、嘘吐きは嫌いだよ。でもちゃんと謝れたし、許してあげるね。今は、――嫌いにならないであげる」
その言葉は優しくて、優しくて。優しくて、恐ろしい。
次はない、と本能が感じている。もし今度嘘を吐いたなら、きっと俺は完全に終わる。何もかも終わる、これは死刑までの執行猶予でしかない。千夏先輩の言葉の裏には、そういう毒が犇めいている。
顔を上げられない俺に合わせるように先輩が膝をつき、その手で俺の頬を撫で下ろす。
「じゃあ、大喜くん。あっちでお話しようね」
小さな子供にするように微笑むその姿は、般若のように美しくて。美しいから、恐ろしい。
先輩が使うようになってから、隣室に入ったことはない。その前は単に物置だった筈だ。
手を引かれて入った俺は、空気の違いにまず驚いた。体臭とかそういうのではなく、どこか空間そのものが猪股家ではないようにさえ思える。ここは既に、千夏先輩の縄張り。そう確信させられる。
こうやって入った以上、逃げ出す事は出来ない。蜘蛛の巣にかかった小虫と同じだ。
何を言われるのか、されるのか。
怯える俺を慈しむような笑顔で、先輩はなにかを放って寄越す。水色をした、丸められた――これは。ついさっき、見たもの。先輩の、ぱんつ。
「大喜くんは、どういう事をしたのかな。ここで私に、見せてくれる?」
その穏やかな声に、絶句する。ここで、見せる。先輩の目の前で。
それは、そんな。そんなのは、そんな。
余りにも異様な命令に、身体が硬直する。命令には従うしかない、でも。でも。
「んー……こっちの方が良いかな?」
固まっている理由を勘違いしたのか先輩は、事も無げに下を脱いで。今穿いているぱんつを、俺の前に放り投げてしまった。
「さっきした通りに、して見せて。……出来るよね?」
おずおずと新しい方を手に取ると、そこにはまだ肌の温もりが残っている。当然か、つい今までこの布は先輩の肌に密着していたんだから。持ち主の前で、押し潰されそうな重圧を感じながら、それでも。その温もりが、俺を興奮させていく。
言われた通り風呂場でしたように、目を閉じてそこへと顔を埋めていく。穿いていた時間はそう長くない筈なのに、さっきより濃く感じるその匂い。先輩の匂い、噎せ返るようなオンナノコの匂い。鼻が犯されていく、という感覚。身体が逆らえない、俺を服従させる匂い。
「ふーん、そんなことしてたんだ」
呆れるような声が、どこか遠い。先輩はきっと軽蔑している、これ以上無い程俺を蔑んでいる。でも、それでも止められない。この匂いに狂わされていく。
「嗅いだだけじゃないよね? 続き、してみせて」
甘く心を狂わせる、その声に蕩かされて。気が付けば俺は、小さく頷いていた。
他人の、それも女性の前で下半身を露出する。あってはいけない行為を、大切な人の眼前で行っている。でもそれを食い止める筈の理性は、先輩の命令に屈している。命令されたから、どんな事であろうと従わなければならない。そうでなければ俺は、破裂する。
先輩のぱんつで自分を包むように、上下に扱きだす。自分の下着がそんな風に扱われるのを、本人はじっと眺めているという、一種異様な光景。そして恐ろしく、興奮を誘う光景。
「あー……、そんな感じなんだ。そうやって汚しておいて、形だけ整えて私に穿かせようとしたんだ。ひどいねー、大喜くんは」
からかうような口調の奥には、冷たく見下す気配が香ってくる。当然だ、俺は最低なんだから。先輩が一つ気紛れを起こせば、俺の人生そのものが終わる。そうなりたくないなら、どんなに無様でも恥ずかしくても、言われた通りにするしかないんだ。
俺が望んでいるわけではない。そう、そうなんだ。
それなのに。こんなにも俺は、悦んでしまっている。
だから――。
「うぁ、あっ、あ……」
ドクン、と激しく脈打ちながら。先輩のぱんつの中で、精液が迸っていく。見られながら、射精している。
背徳感と快感がない交ぜになって、気絶しそうな程に心が揺さぶられていくのが分かった。
でもその余韻が去ってやって来るのは、単なる罪悪感。
「……もう穿けないね、洗っても無駄そう。で、大喜くん。
押し寄せた罪悪感が、その言葉の重圧で更に質量を増していく。先輩は、言っていない。何も言っていない。俺がただ、気持ちよくなりたがっただけだ。言うことを聞かなかったんだ。
「あ、ぅぁ……、ぃ……っ」
次は無い、そう先輩の目は告げていたのに。言葉の影で、伝えてくれたのに。なのに俺は、俺は。
「まあ、それは良いや。それより大喜くん、射精しながら何を想像したのかな?」
……運が良かったのか、それとも神のお恵みか。先輩は俺の罪を裁かなかった。別のところから責めてきただけで。
千夏先輩は踞る俺の前に立ち、そして脚を広げ。――目の前に、自身を晒した。本当ならばぱんつの奥に隠されていなければならない、その場所を。
濃く繁った陰毛と、布に残ったよりもずっと強いオンナノコの匂い。肉の襞が合わさったそこは、勿論一度たりとも目にした事なんか無い。
「この中で射精する想像、したのかな。私の中を、こんな穢いので汚そうとしたのかな。ね、大喜くん――答えなさい」
鈴の音みたいなその声が、俺を追い込んでいく。逃げ場が埋め立てられ、引きずり出されてしまう。
「は、……い。想像、しまし……た……。千夏、先輩と、……するのを……」
言いかけて詰まった俺の顎を、先輩が掴み上げる。視線を合わせ、目を細めてそして。
「ちゃんと言葉にしてくれるかな、大喜くん。何を、するのを想像したのかな?」
とどめを刺そうと、最後の一押しを撃ち込んできた。
息が止まる瞬間、それでも喉から強引に言葉を絞り出す。
「セックス、するのを……想像、しました……っ」
妄想の根源、一番醜い妄想。口にしてはならない、おぞましい欲望。それを提示する、という恐ろしい行為。
蔑まれる程度では済まない、命さえ奪われる。最悪の未来だけが、目の前に広がっていく。
でも。
先輩は俺の顎から手を離して。
「そっか。そっかー……そうなのかー……」
さも愉快そうに、全身で笑い始めた。呆気に取られる俺を放置し、腹を抱えて。今までの重い空気を掻き消すように。
何が起きているのか、何一つ分からない。分からないけど、先輩は笑っている。
一頻り笑い続け、やがて先輩は満足げな顔で再び俺の前に立った。
「そんなにしたいなら、させてあげようか。――大喜くんの人生と、引き換えにね」
一糸纏わぬ姿で薄く笑う千夏先輩と向き合う、そう言うとまるで恋人同士のようにも思える。でもそれは、全くあり得ない事で。俺たちは主従関係でしかない。
人生を差し出せ、そう千夏先輩は言った。俺の人生は千夏先輩の物になり、終生の忠誠を誓う奴隷になる。それがこの人からの、命令だ。
「じゃ、大喜くん。――そこに寝て」
手招きに導かれ、言われた通りにベッドへと横たわる。俺はこれから、先輩に使われるんだ。そういうこと、愛される訳じゃない。
のし掛かろうとする先輩の目に宿るのは、肉食獣の眼光。
ギシリとベッドを軋ませて、俺の上へと先輩が舞い降りた。
「ぅあ、あ……っ」
俺が先輩に、上から呑み込まれていく。硬く熱い肉のプレスに、痛みさえ感じる。セックスがこんなに、――こんなに大変なものだなんて。もっとロマンチックな行為を想像してたのに。いや、これが当然か。これは肉食獣の、補食行為だ。
歯を食い縛る僅かな間に、俺は根本まで全て飲み込まれて。完全に千夏先輩に、支配されていた。
先輩の内側は、想像を遥かに越えている。布に包まれ手で加圧したところで、これには遠く及ばない。これと引き換えならば、先輩に隷属しても悔いはない。そう思ってしまうほど、気持ちいい。立場を忘れてしまう程に。
「大喜くん、気持ち良さそうだね。――うん、可愛いよ」
まるで恋人に言うように、先輩は笑う。俺を支配して、楽しそうに笑っている。
「大喜くんは、私の物。他の誰にも、渡さないよ。ずっと、私が手放さないからね」
俺に乗ったまま跳ね回る肢体は艶かしくて、ゾッとするほど美しい。この人の所有物になることが、光栄にさえ思える。きっとそれが、顔に出たんだろう。俺の頬を撫でながら、先輩は小さく呟く。
「良いよ、大喜くん。出しても、ね」
その言葉が胸に楔を撃ち込み、感情を決壊へと導き出す。一度入ったヒビは止まること無く、身体を貫いていく。
このまま射精したらどうなるか、なんて分かりきっている。その先にあるものも。俺の全ては先輩への贖罪に捧げられ、一生をこの人の為だけに過ごすことになる。それは、それは。
――幸福、ではないのか。全てを捧げきり、全てを委ねる。支配される、それが俺にとっての幸福なのかもしれない。
その想いを伝えるように、精液が止まらない。俺の生命そのものが先輩の子宮に吸い付くされていくようで、目の前が暗く染まっていく。
「あぁ大喜くん、おねむかな? ……起きたらまた、使ってあげるね」
額に柔らかい何かを感じながら、俺の意識は暗がりに消えていった。
そして。それから。俺はそのまま、先輩の物で居続けている。捨てられる事も飽きられる事もなく、ずっと。
傍から見たら、愛されているようにも見えるのだろうか。でも俺はずっと、怯えている。いつか先輩があの笑顔で「もういらないよ、バイバイ」と言うのではないか、と。
だから俺は、先輩に忠節を尽くし続ける。愛しているかのように、深く。愛しているかのように、強く。ずっと、ずっと。捨てられるのは、怖いから。あの人は、怖いから。