交わすキスは外の陽射しより熱く、身体を蕩けさせていく。
何年かぶりの呑気な夏休み、私はインターハイを終えた大喜くんとダラダラして過ごしている。今日明日はもう、靴下も履かないつもりだ。エアポケットみたいな時間を満喫したい、二人だけでいたい。それもきっと許されるさ、私たちはずっと頑張ってきたんだから。
お互いを貪り合う爛れた日々はもうすぐ終わってしまう、もうじき大喜くんは新学期だ。呑気な女子大生の私だって、するべき事はしなければいけない。そうでないと、愛想を尽かされてしまうかもしれない。愛しているから、少しだけ我慢だ。
でもそれを乗り越えたら、今度こそずっと一緒。結婚したいし子供も欲しい、死に水取ってあげたいし同じお墓に入りたい。命が終わるその瞬間まで、私たちは同じ視点で同じ景色を見続ける。
愛する限り、愛される限り。
頬が焼け落ちそうに熱い、これはもう眠れるかどうか。明日も練習なのに、部長が寝不足でフラフラじゃあ示しも格好も付きやしない。
挑発したのはこっちだけど、まさかあのタイミングで……キスなんかしてくるとは。もしも唇だった日には、頭から蒸気噴いてたかも。節度は意識しないといけない間柄ではある、しかし頬へのキス一つでここまでたぎってしまうとなれば迂闊に色々する訳にもいかないな。下手をすると壊れかねない、私もそうだし大喜くんも。
まあそれはそれとして、当面の問題がある。
今私、すごいオナニーしたい。
浜のコインシャワーは水量も少ないし音も勿論小さいから、あそこでは出来なかった。宿に戻ったって、一人の時間なんかあるわけない。
あれこれと盛り上がってはハイテンションで夜更かしする部員たちが寝付いたのはついさっき、とは言え雑魚寝の中でなんかオナれない。……班毎の個室で寝起きする修学旅行や雑魚寝の合宿でも何人かは必ずいるんだけどね、皆が寝静まったと思っておっ始める子。いや生理現象だし仕方がない事、指摘したら本人が酷く傷付くからそっと気付かない振りするけどさ。
そういえば中学の夏合宿、夢佳がそうなってたな……。どういう訳か私の顔の前で始めてくれた上、枕まで嗅ぎながら。あれは生臭いやら何やら大変だったな、朝になってからすごい気まずかった。本人はバレてないつもりだったんだろうけどさ、そもそも私の寝顔なんかオカズにしないで頂きたかった。どんだけ飢えてたんだ、いやもしかしてかなり前から私の貞操って狙われてたのかな。
まあそれはまた今度追い込んでやろう、ウインターカップで
どんなに耳をすませても、室内が完全に「死んだ」かはわからない。でももう、気持ちは限界だ。幸い部屋の角にいる身、気を張るべき方向はそこまで多くない。
静穏仕様の電動歯ブラシを首に当て、その感触を肌へと染み込ませていく。ただでさえ音量を意識している上に毛質も柔らかい、筆でなぞるより更に弱い刺激だけれど、それが――心地いい。周囲に気を配りながらなのは猪股家でも同じ事だ、今やそれが興奮するのだから不思議なもの。
首から鎖骨を通り、胸元へとブラシの先を走らせる。シャワーを浴び直したとは言え火照ったままの身体は少し汗ばみ、触感は妙に粘っこい。左手に力を入れ細やかな膨らみの根本へ指を食い込ませた。心臓や肺のある辺りからは奇妙なもやつきが放たれ、喉や舌に焦げくさい何かを味わわせてくれる。
ゾワゾワと襲い来る快感に押し出されるように乳首の付け根へ先端を這わせていくと、思わず声が漏れそうになってしまう。右に左にと動かす度に乳首は硬くしこり、ボール紙程度なら突き破るくらいの硬度へと勃起していくのが分かる。人体の一部がこうなる、というのはどうも謎だな。……そう言えば大喜くんはどうしてるのかな、硬くなるといえば男の子の――オトコノコもだし。私の事を考えながら、部屋でしていたりするのかな。
なんて考えてしまったせいだろう、発情は最早治まらない。歯ブラシは突起を置き去りにして、汗が浮く腹部を降りていく。へその回りを左右に揺れながら滑り、そのままショーツを通り越して左の内腿に押し当てた。
「――……っ」
唇を噛み締めて声を堪え、足の付け根ギリギリまで来てから今度は右へ。すぐに火傷しそうなほど肌が熱くなり、その根元が思わせ振りなストレスに震えた。もう終わらせないと不味い、誰かが感付いてもおかしくない。自分を焦らすのは止めよう、それは良くない。
ショーツの底へ浮かぶ湿った縦線の上端、そこへと震える先端を押し付けていく。ごく一転への圧迫は身体を駆け上がり、口を押さえなければ喘ぎが漏れていただろう。もし布一枚を隔ていなかったら、どうなっていたか。直に触れてオナニーするのは好奇心よりも恐怖が勝る、私が私でなくなるかもしれない。
しかしいずれ私は、それを経験するのだ。何も阻むものがないままに、歯ブラシではなく大喜くん自身がここを擦りたてる。いや違うな――
とにかく今は、この状態を処理してしまおう。歯ブラシを布地にめり込ませ、前後にかきむしるような動きを与えると身体の芯が稲妻に撃たれたように痺れていく。毛穴が膨らみ視界が蕩ける、この絶頂感。数日間が空くと、これが恋しくなってしまう。まったく私と来たら、見下げ果てた先輩だな。
その先にやって来た日常では決して出逢えない肉体の弛緩、そして甘い深呼吸をむさぼりながら私は目を閉じる。朝になったら、手洗いに立つふりをしてどうにか始末をつけよう。寝具に関しては、管理側に一封包めば問題ない。
さぁ、――寝てしまおう。
幸い合宿での乱れぶりは誰にもバレる事もなく、風は秋から冬へと移り変わった。
受験生には休む時間はない、なんてのは話には聞いてたけど厄介なものだ。栄明に入るときは半分スポーツ推薦みたいなものだったし、中高と過ごしたからマトモに受験勉強なんかした事がない。そこそこ勉強はできているとは言え、足切りの共通テストと本試験の二段構えが控えてると思うと気が重い。
だからこそ、私は今大喜くんにしなだれかかっているんだ。
「ちゅーしてくれないと頑張れません。さぁ大喜くん、大喜くん」
猫なら爆音で喉を鳴らすくらいに甘えるなんて、少し前の私なら絶対に出来なかった。そんなことをして愛想を尽かされたらどうしよう、と思っていただろうから。でもそんなの、単なる杞憂なんだ。そりゃあ節度は必要だけど、でもきっと大丈夫。私たちは愛し合っているのだから。
苦笑しながらキスしてくれる大喜くんの唇は、どんなエナドリよりも強力だ。いつだってやる気が……というかヤル気が溢れてしまう。今はちゃんと我慢するけどね、うん。遊ぶのはやる事を済ませてからだ、今日のノルマはとっとと終わらせてしまおう。
二人並んでノートを開き、無言のまま過ごすこと数時間。予定していた分をこなし顔を上げ隣を見ると、どうも同じタイミングで終わったらしく大喜くんもまたちょっと照れ臭そうに私を見ていた。
なるほどなるほど、気が合う気が合う。さすがは私たち、だ。
「ん、……」
そのまま再度のキスを交わしながら、ゆっくりとベッドへと倒れていく。明日も朝練だけど、これだけは我慢しない。一度だけ、そう一度だけ。
明日への活力を貰って、満ち足りた顔で眠ろうじゃないか。
思えば最初の夜は、文化祭の後だった。去年とは違う、最後のお祭り騒ぎ。それを満喫してから、ちょっとだけ寄り道して帰ろうと言い出したのは私の方
。勿論その時点ではお茶でもして買える気だったけど、すぐに私は自分を押さえられなくなってしまった。思い出深いあの公園、二人だけのスペースで、……気が付けば大喜くんを押し倒していたのだ。
こんなこと許されない、もうすべてが終わってしまう。大喜くんと一緒にいるどころか、猪股家にいる事さえ出来なくなる。頭の一部でそんな冷静な声が立っていながら、身体が止まってくれない。一方的なキスと暴力的な接触、こんなのは単なる逆レイプじゃないか。愛するというのはもっともっと心が通じ会うロマンティックな行為のはずだ、こんなのは違う。
止まれ、止めろ、堪えろ。何度心が唱えても、本能がそれを拒絶した。強引に大喜くんへと跨がり、
「ごめ……ん、……ごめん、ねぇ……! 私、わたしぃ……!!」
そして何よりも辛いのは、気付いてたからだ。この慟哭も嗚咽も、自分のためでしかないと。大喜くんに嫌われるのが怖いから泣いているだけ、大喜くんを傷つけてしまった事なんか考えてもいない。こんなどうしようもない女に、なにができようか。
起こしたことが余りにも重い、大喜くんは私を責めるだろうしそれを回避する術はない。そう思っていた、――のに。
「……いえ、大丈夫ですよ。先輩は悪くなんかありません。それに俺は頑丈ですから、ちょっとやそっとじゃ堪えないです。そりゃ少し驚きましたけど、俺は千夏先輩が好きなんです。こうなれて、却って良かったですよ」
黒い瞳は真っ直ぐに愛を投げ掛け、その顔は微笑みを湛えていた。ああ、そうか。私は大喜くんが好きで、大喜くんは私が好きだ。なら最初から、言えば良かった。ただ素直に、伝えて良かったんだ。
「私も大喜くんが、好きです。ずっとこういう事をしたいと思ってました。だから、……これからもいっぱいしたいです」
気持ちを伝えた程度で終わってしまうなら、それで良いや。これ以上偽るのは止めよう、素直にいこう。大喜くんだってその方が良いだろう、絶対。
察しの良い大喜くんがくれたキスの熱さを感じながら、私は心のなかで頷いていたのだ。
そして現在、私たちは毎日節度をもってイチャイチャしている。由紀子さんが気づいてるかどうかは分からない、でも多分お見通しだろう。いいけどね、うん。どうせ卒業したら時間が空く、まあ大喜くんが三年生になって忙しくなるからあんまり今と変わらないか。
でも別に良いや、今は。せっかくこうして二人でいるんだから、精一杯イチャつこう。
射し込む陽射しは今もまだ強いけど、少しずつ秋が近づいている感じがする。もうじき大喜くんの夏休みは終わる、けど私はまだまだお休みが続く訳だ。とは言え遊んでる暇はそんなにない、と言うかあまりのんびりしてると休み明けが怖いな。
――と。足の間で蠢く大喜くんの舌を感じ、私は意識を切り替える。セックス中はお互いの事だけ考えよう、それが良い。そんな風に自戒しながら、眼前に晒された大喜くんのオトコノコへと口付けて呑み込んでいく。口の中に感じる牡臭さは鼻へと抜けるだけでなく、呼吸器の粘膜全体を染め上げているだろう。……大喜くんも私のを舐めながら、匂いとか感じてるんだろうか。洗ってはいても生臭さは消えない、そしてそれが興奮するのは私だけじゃない筈。そう言えば前、匂いを気にしたのか香水なんか付けてたな大喜くん。柑橘の香りだったからちょっと高めのソーセージみたいで、思わずお腹が鳴ってしまったっけ。大喜くんには『かじらないで下さいよ!?』と本気で怯えられてしまったんだ、あの時は。かじらないよ、……うん多分。
そうしている間にも大喜くんのは口内で膨れ上がり、ビクビクと痙攣し始めた。ぬう、ちょっと夢中で舐めすぎたか。最近は連発させ過ぎたせいか、回復までに時間かかるんだよね。……まさか次弾装填にクールタイムが必要だなんて知らなかったから、初めの内は結構無茶させてしまったな。反省はする、凝りはしないけど。
ちゅぽっと音を立てて口を離すと、私は体を入れ替えて大きく足を開いた。そして大喜くんによく見えるよう、私自身を割り拡げる。膣内を見せつけるのは今でもちょっと恥ずかしいけど、大喜くんはこれが好きだからなぁ。毎日限界まで頑張らせてるし、サービスしないとね。
「さ、大喜くんおいでー」
空いた手で手招きする暇もなく、大喜くんがのし掛かってくる。こっちから跨がるのも良いけど大喜くん主動もそれはそれで、と言うかどっちにしても気持ちいいから好きなんだ。何であれ相手は大喜くんだ、気持ちよくない訳がない。
ベッドを軋ませながらの挿入に、身体の奥が押し上げられ脳天まで衝撃が突き抜けていく。お腹の深い部分をゴリゴリと抉られる快感、でもこれもまた大喜くんだからこそ。ラブホでテンション上がってうっかり買っちゃったバイブを試したこともあった、だけどそれは今一つだったな。大きさ的には大喜くんより上だけど、どうも気持ちが盛り上がりきらなかったのだ。結局それは一回限りで使わなくなり、大喜くんのを
粘膜が癒着しては引き剥がされ、また吸い付いては離れる。そんな摩擦運動の繰り返しが、狂おしいほど興奮してしまう。
頭の内側が稲光で白く染まり、口から溢れるのは形を為さない獣の喘ぎだけ。
ああ、ああ――幸せだな。こんなにも愛して愛されて、私は幸福すぎる。
しかもこれはまだ、長い長い幸福な人生の入り口でしかないのだ。
楽しいね、嬉しいね。
ずっとずっと、こうしていたいね。
これからもずっと、愛しあおうね。
その想いは私一人のものじゃない、大喜くんだってそう想ってくれているだろう。子宮口へと叩き付けられる奔流は、十分すぎるほど気持ちを伝えてくれている。愛している、と。私もそれに応えようと大喜くんを抱き締め、腰を振りながらキスの雨を降らせる。
幸せな時間はきっと、終わらない。これからもずっと続くんだ、だって私たちだもの。
「先輩っていつまで夏休みなんです?」
「9月末まで。そのあとちょっと忙しいんだよ、早めに般教の単位取り終えたいし女バスサークルの件もあるから」
「……大学生ってもっと遊んでるもんだと思ってました」
「そうもいかないかな、私だって格好つけたいからね。大喜くんが自慢できるくらい、立派な先輩でいたいもん」