そもそもが馴れ馴れしい奴が大嫌いな性分で、言いたい事を突き付けるだけの人間だった。嫌なら離れろ、追いかけたりはしない。どう言われようとも結果を出せば文句無いだろ、と肩で風を切っていた当時の自分を殴り飛ばしたい。そこまで優れていないんだと自覚してからも生き方を曲げられず、ただただ沈没するばかりだった。
よくもまあ、こんなのの隣にいる気になったもんだ。呆れるよ本当に。
まだ陽も昇らない部屋の中、ベッドに横たわったまま私は思う。まあ、良いか。自分から地獄に飛び込んできたんだ、精々道連れになって貰おう。どっちかが愛想を尽かせばお仕舞い、そこまでの縁だったという事だ。願わくばそうなりませんように、なんてね。
せっかく身体を許しあう仲になったんだ、どうせなら長い付き合いになってくれ。
親の離婚が全ての理由だとは言わない、元々私は挫折しかけていた。それを後押しされはしたけど、言い訳に使う気はない。
ミニバス時代は天才と謳われた身ではあるけど、中学に進んでからはそうもいかなくなって来た。努力はしても思ったほどには伸びず、それを補うべく必死で取り繕うばかり。僅かに残っていた才能をフル動員しても、少しずつ凡才へと堕ちていく。気が付けばバスケを楽しむ余裕も無くなり、いっそ辞めてしまおうかと何度も思った。それでもなんとか耐えてきたのは、『好きは最強の感情』という父の言葉があってこそ。今は少しだけ気持ちが萎えているだけ、すぐに私は立ち直る、そう思っていた。そんなのが嘘だと分かったのも、父のせい。好きあっていた筈の両親が不仲になっていく姿が教えてくれた、好きは冷めるものなのだと。そして一度そうなってしまえば、もう二度と心は直らない。
そもそも私はもうバスケが嫌いなんだ、皆が嫌いなんだと自覚してからは速かったな。もう栄明にいる気もしなくなって、全て投げ捨てて逃げ出した。
で、ロクに勉強もしてこなかったバスケ漬けがどうにか滑り込んだのが、この彩昌。程好くボンクラで適当な、肩肘張らない呑気な学舎だ。
とりあえずここで三年間大人しくしてよう、面倒だから友達も作らずにいよう、そう思っている……んだけどさぁ。
どうして私は今、クラスの中心っぽくなっているのか。それもこれも全部、あのメガネ野郎のせいだ。
宗介のバカが、夢佳夢佳と人を気安く呼んで来やがって。そりゃまあ、新しい苗字に馴れてないから反応が遅れるのは事実だ。だからって男子がさ、女子を呼び捨てにすんなや。無視したらしたで渾名を付けようとするし、まったくめんどくさい。そして何より、ウザいくらい頻繁に寄って来るのが問題だ。毎日毎日あれが親しげにしてくるお陰で、クラスメイトからの印象は「目付き悪いけど普通の人」になってしまった。
……まあ、良いんだけどさ。仏頂面してんのも疲れるし、自然なままでいられるならそれで構うまい。
学風に影響されたのかそんな風に思えるようになっていった、一学期の終わり頃。
あの大馬鹿三太郎は、寄りによってまだ残ってる連中も多い放課後の教室で言いやがったのだ。『好きです』――と。
私は自慢じゃないが自己評価が低い方だ、と言うか低くなった。あんな思い通りにならない日々で、天才様のお通りだなんてやってられるか。それにこんなワンパクでたくましい子に、まさか挑戦状が飛んでくるなんて思っても見なかった。
でも私を好きになんかなるな、と拒んだのは最初だけ。だって誰かに好意を向けられるって、ストレートに気分良いし。私が手荒に扱っても大丈夫みたいで、こっちも気を遣う必要がない。一応最低限の礼儀は弁えるつもりではあるけど、まあ嫌なら逃げ出すだろうしこれで良いと思ってみたり。
思い返せば小学生時代は地域の男子を従えるガキ大将だったんだ、その時みたいに振る舞えるのは実際楽しかったな。
……こんな風に自分へと言い訳してしまうのは、私の悪い癖だ。憎まれ口ばかりで過ごしてきたから、どうにも素直になれない。
ストレートに言ってしまえば、私は既に宗介を好きになっていた。告白されるよりずっと前から、お節介で空気が読めないバカメガネを好ましく思ってた。それがちゃんとした形になってくれて、すごく嬉しかったんだ。
だけど、だけど良いのかな、これで。幾らこのバカがなにも言わないからって、それで良いんだろうか。いずれうちの両親みたいに冷めていくんじゃないか、と少し怯えたりもしたりしなかったり。しかしまあ要するに、滑った転んだ屁をこいたとドタバタ平和なラブコメ空間を繰り広げている。
結局はそんなもんだ、人生ってそんなにドラマチックじゃない。少し歪で少し不格好な生き方をした私だって、言ってしまえば普通の人間なのだから。
少しずつ関係は進展し、制服以外では縁がなかったスカートなんか穿いてみたりちょっと化粧なんかもするようになって来た。……母さんに「なんで女子みたいな格好してんのよ」とかも言われたな、いやアンタの腹の中にいた頃から女子だよ私は。それに良いだろ色気付いたって、華の女子高生だぞ。似合わないのは承知してんだ、指差して笑うなグレるぞ。
それはともかく、だ。色々と大人の階段も駆け足で昇り、いつの間にやらお泊まりデートなんぞする関係になっていた。
うんまあ、最初は大変だったけど。
どうせ母はこっちにそんな興味ない、外泊する程度の口実はでっち上げられる。
それより宗介が問題だな、とか一応は考えたのだけれどそれも杞憂。向こうもあっさりとアリバイ工作を済ませ、冬も近付く週末にその……する予定を組んだのだ。
正直言えば、こういうのはサッパリ分からん。気紛れで読んだ何十年も前の流行小説で「女の子が処女を捨てるのなんて、簡単なんだよね。好きな男の子にモーションかけて、身を任せてしまえば良いんだから」なんて台詞があったけど、そんな簡単にいくものか。色々準備はいるしあれこれ不安なんだぞ、本当に。あと読みにくいにも程があった、なんだあの注釈。しかも作者が書きたかったのは最後の出生率の事だけだったとか、そりゃ『1980年度版東京観光案内』なんて小バカにされるわ。
まあそれは別に良いんだ、それは。人目に気を付けながらラブホに入り、無人のフロントにあるタッチパネルで部屋を取った辺りでもうドッと疲れているんだけど、これ大丈夫かな。予習してきたという宗介も宗介でおっかなびっくりだし、とりあえず下見って事にして帰っても良いんじゃなかろうか。
……でもここで尻尾巻くのもなんかなあ、怯んで逃げ出したみたいで格好悪い。女は度胸だ、なんとかしよう。
そんなフワフワした決意をしつつ入室、薄暗い中でなんだか気まずい沈黙が流れている。
「あー……、シャワーでも浴び……るか?」
黙ってベッドに座っているのに耐え兼ねて言った提案に、宗介は小さくうなずいた。
シャワーを浴びるなら服を脱ぐわけで、服を脱いだら裸なわけで。物心ついて以来、異性にそんなもん見せたことはないし見たこともない。女だけなら躊躇わずまっぱになるし見られようと平気だ、そりゃそういうの苦手な子もいるけどこちとら統率の取れたメスゴリラの群れだったからな。恥じらうような暇は無かった、それより部活部活の毎日だったのだ。
だから、とは言わないけれど。今私は頭から蒸気噴きそうになっている。見るのも見られるのも、こんなに照れ臭くて恥ずかしいとは思わなかった。
私バスケ辞めてからは少々緩んでるしケアも割と我流だ、見た感じは同年代の女子より悪いだろう。だってのに、それなのに。
宗介は
「何見てんだメガネ割るぞバカ野郎」
狭い浴室でそっぽを向きながらも、私の視線はその……宗介の
いや、いやいや。いやいやいやいや、あんなもん入るのか裂けるぞ。指もロクに入れてないのに、こんなの絶対キツいぞ。
でもそうしないと、セックスにはならない。ここで怖じ気付くと、世界のはてまで後ずさることになる。
意を決してそこへと手を伸ばすと、宗介が小さく声を上げた。しかしそれは聞かないふりだ、こっちのペースにしないと。私は振り回す方が性に合うんだから、押していこう。
触れた肉の塊は熱く硬い、そして先端からはてらてらと粘液が染み出ている。これが先走りってやつか、濡れるのは男も女も同じなんだな。そっと指先で
頭をなで回すとそれは更に溢れだし、みるみるうちに幹を伝って溢れていった。……濡れやすいんだな、こいつは。それにどんどん激しくあえぎ出すし、これは結構楽しいかも。
――と。
「……っ、夢佳……もうっ」
何だよと応えようとした次の瞬間、私の手へと焼けるように熱く粘っこい白濁液が吹き上がった。
これが話に聞く、射精というものか。ドクドクと噴火のように放たれる精液は生臭く、でも決して不快ではない。
そう思えるのが、好きという気持ちのなせる技なのだろう。
シャワーを浴びて尚火照る身体は熱量を増し、それを抑えきれないままに私は裸のままベッドに腰掛けた。
ここからする事はひとつだけ、ここはそういう目的の場所だ。でも、だからこそ。
言わなければならない事がある。
「私はさ、……重いぞ」
依存するだろうし殴ったり蹴ったりもする、そういう女だ。母さんがそうであったように、散々振り回した挙げ句飽きて捨てるかもしれない。
そんな思いはしたくないしさせたくない、なら立ち止まっても構わない。ここから先はもう、戻れないから。
宗介にだって選ぶ権利がある、私という湿度が高くて面倒くさい女を背負うかどうか。
流れる僅かな沈黙はでも、宗介によって破られる。
「まあそれは、知ってる。夢佳って人嫌いなのに寂しがり屋だもん、話しかけられると「ウザッ」て顔するけど側に誰もいなくなると拗ねるし。あと誉めると照れ隠しに怒るけど、少しでも否定されるとスゴい不機嫌になるよね」
う。……う。なんだこいつ、的確に抉りやがる。自覚はしてるけど、だからって面と向かって言うなよ泣くぞ。
本当の事でも言って良い事と悪い事があるんだ分かれよメガネに指紋つけるぞ、と文句も言ってやろうかと開いた口はでも――一言も放つ前に塞がってしまった。宗介の、熱い唇で。
交わすキスは何分か、それとももっと長いか。それを経て離れた宗介の口は、さっきの続きを紡ぎ出す。
「俺はそんな夢佳が、好きです。面倒くさくても重くても、それだけは変わらないから」
……照れもせず言い放つその顔に、私は思わず脱力してしまった。そうか、そうなのか。コイツはやっぱり、バカなんだな。悪態を吐く気力も失せて、私はただ宗介にキスをする。
ったく考えなしに言いやがって、言質取ったからな後悔すんなよ。
やれやれ、これは――予定外に幸福で困ってしまうじゃないか。
上から見たら、まるで潰れた蛙みたいだろうな。ベッドで仰向けになって脚を拡げた、こんな間抜けな姿を正常位とか言うのは間違っている気もする。
とは言え別に誰かが見るわけでなし、間抜けでも良いか。灯りを落とした室内だ、お互いだって良く見えない。……だって恥ずかしいもん、こんなの。宗介は宗介で拡げて中を見せてとか舐めてみたいとかバカばっか言いやがる、ふざけんなと蹴り飛ばしてもまだ懲りないし。もしかして宗介、バカな上に変態なんだろうか。早まったかな、やっぱり。
そんなわけで可能な限り暗くして、セックスに挑もうとしている所だ。薄暗がりの中で悪戦苦闘するのは宗介だけ、私は待ってるだけだ。さっきから上滑りしたり的を外したり宗介が狼狽するのを、よく見えないながらも楽しく眺めさせて貰っている。
そんなこんなで少し経って遂に、私の粘膜とゴムの被膜に包まれた宗介自身がクチュリと音を立てて触れあうのが感じられた。
「ここ、かな……。入る、よ……っ」
グッと体を押し込む感覚と共に、膣内へと異物感が上がってくる。先程手の中に感じた熱が、ゴム越しでもハッキリ分かるくらいだ。それがある程度の深度まで到達した、その数瞬後。
骨盤が軋む音とそして、何かが裂ける音が痛みを伴って脳内に響き渡った。その意味くらいは私も知っている、宗介によって私の「初めて」が奪われたという事だ。しかしそれは恐怖でも絶望でもない、ただただいとおしい。痛みとはまた別の所で沸き上がる快感も、それを加速させている。
宗介の背中へを手を回して抱きつきながら、身体の芯を揺らす注挿に身を任せていく。きっとこの痛みもすぐに消えるし、宗介だってすぐさっきみたく射精するだろう。それでこのセックスは終わりだ、だからこそこの短い時間を楽しもう――と思ったのだけれども。
その時は、なかなか訪れない。痛みは引かないし宗介も止まらない、なんだこれ。気持ちが良いからこそ、違和感が凄い。痛気持ちいいんじゃなく、どっちも強すぎて脳が疲弊しそう。
傷口を擦り続けてる訳だし痛いのはまだ分かる、でも宗介お前はなんなんだ。さっきすぐ射精したじゃないか、どうなってんだ。て言うか痛っぇなおい、怒るぞコラ。
「お……前、わたしの
切れ切れの恫喝はマトモに伝わらず、宗介は喘ぎながら腰を振るばかり。
ああ、ああ……畜生。終わったら覚えてろよ、メガネ粉々にしてやるからな。
心の中で小さく悪態を吐き、なにもかも馬鹿馬鹿しくなって私は目を閉じた。
あの時は大変だったなぁ……。起きてもまだ宗介が腰振ってたから、呆れながらもボコボコにしてやったっけ。
さすがに一度も抜かなかった訳じゃなく、射精してはゴム換えて再突入を繰り返してたらしい。いやそれは何でも良いんだよふざけんな本当に、人をダッチワイフみたいに使い続けんな。しっかしコイツ頑丈過ぎるだろ、超合金かなにかか。一晩中暴れた上に腐っても元エースアスリートのフルコンタクト連撃食らってんだぞ、なんで平然としてたんだ。
そんな頑丈な体力お化け相手にしてると、毎回大変なんだよね。おまけに変態だから、髪でしごいてくれとか口でしてとか言うし。ニーハイ穿く位なら良いけど、調子のんな変態メガネ。
只でさえセックスって疲れるのに、余計な暴れ方して更に疲れてしまうのがパターンになりつつある。
私ももう寝てしまおうかな、いやでもなぁ……寝ちゃうと明日になっちゃうんだよなぁ。夜が明けたら学校へ直行だ、さすがに教室でイチャつく気はない。このアホが派手な告白しやがったから付き合ってることは知られてるけど、だからって恥ずかしいもんは恥ずかしいわ。
叩き起こしてもっかいしようか、それとも以前の仕返しに寝たまま襲おうか。
どうしたもんだろう、人生楽し過ぎる。
「宗介さ、進路とかどうすんの」
「夢佳の所に婿入りしようかなって」
「…………お前目が本気だぞオイ」
「そりゃ本気だからね!」